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HORNETさん
平均点: 6.32点 書評数: 1148件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.888 7点 十字架のカルテ- 知念実希人 2022/03/06 20:24
 弓削凜は、高校時代に親友を殺害された。その犯人は、精神障害により不起訴。「精神に病があれば、罪は裁けないのか?」―その解を得るべく、凜は自らが精神鑑定医になる道を選び、その道の権威・影山司に師事する。無差別通り魔殺人の犯人、我が子を殺した母親、姉を刺した弟…さまざまな犯罪の犯行者の精神鑑定を通して、凜がたどり着いた答えは―?

 凶悪犯罪を犯した者に、責任能力はあるのか?昨今の実際の事件でも持ち上がる話題に切り込んだ作品であり、その判断を下す鑑定医の立場から描かれているのがまた興味深い。鑑定医の役割は、精神疾患であるかどうかの診断を下すこと。それもこうした領域に関しては、物理的なデータによる診断ではなく、監察医の「診察」によるため、当該の人物との面接がすべて。そうした厳しい条件の中、対象者の言動をつぶさに観察しながら診断を下す過程はまさに「推理」と呼べるもので、なるほどミステリだなと思った。
 扱うケースごとに1話になっている連作短編で、ラストは凜の親友を殺害した犯人と対峙する。うまくまとまっているし、それぞれに仕掛けが施されていて、満足のいく一作だった。

No.887 7点 ただし、無音に限り- 織守きょうや 2022/03/06 20:09
 探偵・天野春近には、霊が見え、その霊の視覚記憶を読み取るという特殊能力がある。普段はその能力を生かすこともなく、浮気調査などに追われる日々だが、友人の弁護士・朽木の紹介で、時には人の死が関わる、探偵らしい依頼も。とはいえ依頼された時点では事件性のない案件なのだが、天野の特殊能力が、見えなかった真相を明らかにしていく―

 事故や行方不明で片付けられていた事案も、「霊の記憶を読み取れる」天野には、そうではない真実が見えてしまう。とはいえその記憶に音声はなく、死んだ者の視点から見た映像だけなので、そこから推理と捜査が必要になる。自然死ではなく、あるいは行方不明ではなく殺人だった、という結論だけが先に見え、しかし犯人やその様態は分からない。そんな構成により「謎」がずっと持続され、興味が尽きることなく読み進められる。現実的に解決するために真相の解明は確かな捜査、証拠がなくてはならず、その謎解きはしっかりと行われて解に至る。
 これはなかなか面白かった。

No.886 5点 朝と夕の犯罪- 降田天 2022/02/27 17:09
 アサヒとユウヒの兄弟は、幼い頃、父親と三人でオンボロ車での放浪生活をしていた。賽銭泥棒や万引きで糊口をしのぎながらの生活だが、それでも家族3人の絆があった。やがて時は経ち、アサヒとユウヒは離れてそれぞれの生活へ。大学生となったアサヒはある日、10年ぶりに弟のユウヒに再会する。久闊を叙する間もなくユウヒがもちかけてきたのは、「狂言誘拐」への協力だった―

 狂言誘拐から8年後、あるマンスリーマンションで起きた幼児遺棄事件で第2部となる本編が始まる。この遺棄事件の捜査を進めるうちに、8年前に起きた狂言誘拐事件とのつながりが見えてくるという構成。遺棄事件の加害母が、狂言誘拐で被害者役をした女ということまではまぁ予想通りなのだが、そのあとの展開がなかなかよく仕組まれていて、「ユウヒは今どこに?」の解はそれなりに意表を突かれた。
 児童虐待や貧困、親子や兄弟の絆という面でのテーマ性も感じられて、面白く読むことができた。

No.885 6点 彼女が最後に見たものは- まさきとしか 2022/02/26 20:41
 クリスマスイブの夜、新宿区の空きビルの一階で女性の遺体が発見された。捜査一課の三ツ矢&戸塚署の田所は再びコンビを組み、捜査に当たる。シリーズ第2弾。

 相変わらず飄々として謎めいた三ツ矢と、その三ツ矢に振り回される田所。読者としては必然的に田所目線となるのだが、今回は三ツ矢の不可思議さ、というか一足飛びの推理についていけない感がさらに加速。仕組みもちょっと複雑で、よく仕組まれていると思う反面、煩雑さも否めなかった。
 自分の幸せを自分で測れず、「他にどう見られているか」でしか評価できない、承認欲求とSNSという現代的なテーマで読めるところは面白かった。

No.884 5点 真夜中のマリオネット- 知念実希人 2022/02/23 23:47
 半年前に婚約者を殺された救急救命医、小松秋穂。彼を殺したのは、世間を騒がせる連続殺人鬼「真夜中の解体魔」だった。失意から前を向こうと勤務に復帰した秋穂のもとに、ある晩救急搬送で少年が運ばれてきた。必死の治療で少年の一命をとりとめる秋穂。ところが少年は、警察が追っている「真夜中の解体魔」の容疑者だった―。秋穂に冤罪を訴える少年。やがて秋穂は少年の無実を信じ、真相解明に乗り出す―

 よく言えば読み進めやすく、悪く言えばややチープな印象。真犯人なのか、冤罪なのか?定かではない状況でありながら、次第に美少年に籠絡されていく主人公の様はあまり気持ちよくはなかった。
 J.ディーヴァーばりに2度のどんでん返しがあるが、どちらも予想の範疇で、「まぁ、やっぱりそうか」が素直な感想。決して悪くはないが、氏の作品の中では埋没しそう。

No.883 8点 あの日、君は何をした- まさきとしか 2022/02/23 13:36
 広告代理店に勤める24歳女性がアパートで殺害された。彼女と不倫関係にあった男が同日から行方不明になっており、捜査にあたった捜査一課の三ツ矢と田所は当然その行方を追う。ところが捜査を進める先々で、15年前に起きた、中3男子の事故死事件が持ち上がってくる。二つの事件に関わりはあるのか?母親を殺された過去を持つ、一風変わった刑事・三ツ矢と田所が、地道な聞き取りで事件の真相を探り出す。

 「1部」で描かれる15年前の物語と、「2部」からの本編が、後半に行くにつれ次第につながっていく。よくある手法ではあるのだが、それぞれの様相からはなかなかつながりが見えなくて、「いったいこれがどう関係してくるのか?」という興味が最後まで尽きない。事故で亡くなった中3の男子が「なぜ、死ななければならなかったのか」という謎がずっと持続され、女性殺害事件の捜査の進捗と上手に歩調を合わせて明らかになっていく手際も見事だった。奇を衒った仕掛けがあるわけでもない、ある意味オーソドックスなミステリなのだが、母子(娘)関係の問題も絡めながら非常に魅力的なストーリー展開がなされていた。
 最後の1章がまた、とても効果的だった。

No.882 6点 あなたの後ろにいるだれか 眠れぬ夜の八つの物語- アンソロジー(出版社編) 2022/02/23 13:18
 雨の停留所で出会った男が語りだす、幼き日の恐怖体験(「長い雨宿り」彩藤アザミ)。「怖かった」という噂だけが流れ、どこにも所在が確認されないホラー短編(「涸れ井戸の声」澤村伊智)。「ここで殺人が行われた」と霊視する霊能者の欺瞞を暴こうとするジャーナリスト(「例の支店」長江俊和)。活躍中の人気作家たちによる、快作ぞろいのホラーアンソロジー。

 どの話もなかなか凝った仕掛けになっていて、粒ぞろいの良質アンソロジーだった。どれもホラーを冠するにふさわしい内容だが、どんでん返しなどのミステリ要素も諸所に見られ、非常に楽しく読み通せる。澤村伊智、あさのあつこ、長江俊和の作が印象に残った。

No.881 7点 同志少女よ、敵を撃て- 逢坂冬馬 2022/02/23 13:02
 時は世界大戦のころ。独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマは、急襲したドイツ軍によって、母親や村人を殺された。射殺直前、赤軍の女性兵士イリーナに救われたセラフィマは、「戦いたいか、死にたいか」――問われ、イリーナの訓練学校で狙撃兵になることを決意する。
 訓練後、従軍するセラフィマは、各戦地で同志に出会い、ともに時を過ごし、死によって別れていく。激動の時代に命がけで生き抜いた狙撃手少女の、悲しくも凛々しい生き様。

 戦争映画を観ているような臨場感のなか、極限状況をたくましく生き抜く少女たちの同志としての絆が心を打つ。誰が本当の同志で、誰が裏切り者なのか―。悲しく疑念に満ちた世界の中でも、確かな信頼関係を育んでいく少女たちの姿は、胸を打たれるものがあった。
 何年も続く戦況と、地上戦の様子が延々と描かれる中盤はやや冗長で、少し長すぎる感もあったが、ラストでは読破してよかったと思える結末があり、受賞作の名に恥じない快作だった。

No.880 7点 捜査線上の夕映え- 有栖川有栖 2022/02/06 19:55
 大阪の場末のマンションの一室で、男が鈍器で殴り殺された。男の遺体はトランクに詰められ、クローゼットの中に。金銭の貸し借りや交友関係上から、容疑者が浮上するも、それぞれに決め手に欠け、単純と思われた事件の捜査は一向に進展しない。コロナ禍で蟄居を決め込んでいた火村に、久しぶりに要請がかかるが、一筋縄にはいかない事件の様相に、火村は「俺が名探偵の役目を果たせるかどうか、今回は怪しい」と漏らす――。

 久しぶりの火村シリーズの長編、それだけで心が躍る。取り立てて奇抜な仕組みや設定があるということのない、正道の本格ミステリで、それが何よりよい。現場となったマンションには監視カメラがあり、出入りは全て記録されている中、その記録によれば容疑者たちは全て圏外になる。どの容疑者も等しく疑わしい状況の中、正攻法の捜査過程がずっと描かれていくのだが、それがよい。結末も、特に色めいた異彩さがあるようなものではないが、正道の本格ミステリを十分に堪能できた。
 大雪の家籠り(2/6)を、大いに楽しめた!

No.879 5点 作家の人たち- 倉知淳 2022/02/06 19:42
 同じ幻冬舎から出ている、中山七里の「作家刑事毒島」とかぶるなぁ~…
 出版業界、作家志望者を取り巻く諸事情を面白おかしく、毒をもって描いている連作短編集。「作家刑事…」は一応ミステリだったが、こちらはそうとも言い切れない。
 倉知淳らしいユーモラスな筆致でまぁ楽しめた。

No.878 7点 まだ人を殺していません- 小林由香 2022/01/23 22:56
 葉月翔子の亡くなった姉の夫・勝矢が、自宅に人の遺体を隠していたことで逮捕された。逮捕された勝矢には10歳になる息子・良世がおり、翔子が引き取って預かることに。世間は「殺人者の息子」と良世を糾弾する。娘を亡くし、子育てに失敗したと自責の念を抱いている翔子に、罪を犯した男の息子を育てられるのか、守っていけるのか。恐れと悩みを抱きながらも、良世と向き合おうとする翔子―

 犯罪加害者の息子を預かることになった翔子の不安。感情を表に出そうとしない良世への接し方に戸惑い、悩む。「悪魔の子」との世評に負けまいとしながらも、奇異な行動をとる良世を信じてよいかどうか悩み、葛藤する。異常な環境で育ち、心を閉ざした少年と、その少年の前で苦悩する女性の様相を非常に興味深く描いている。
 勝矢は本当に殺人を犯したのか、良世は何かを隠しているのではないか?そうしたミステリ要素も盛り込みつつ、複雑なヒューマンドラマが力強く描かれており、非常に好感の持てる作品だった。

No.877 7点 廃遊園地の殺人- 斜線堂有紀 2022/01/23 22:39
 廃墟マニアの眞上永太郎は、廃遊園地「イリュジオンランド」の特別開放に招待された。イリュジオンランドは20年前、プレオープンの日に園内で銃乱射事件が起き、4人の死亡者を出してオープンすることなく廃園になった幻の遊園地だった。呼ばれた面々は園の所有者から、園内での「宝探し」を指示される。ところがその中で、次々と参加者が殺されていく…

 絵に描いたような設定のクローズドサークルもの。廃遊園地という設定といい、申し分ない。20年前の遊園地設立の裏にある、地元住民と開発企業との確執を下敷きにして、参加者の裏事情が次第に明らかになっていく展開もベタではあるが目が離せない。
 非常に良く仕組まれた展開ではあるのだが、それゆえに思わせぶりな記述で投げかけられる伏線がちょっと多くて、全体像がだんだん分からなくなりがちだった。廃遊園地という舞台設定とそれを生かした道具立てで、文句なく王道の本格ミステリとしてかなり楽しむことはできた。

No.876 5点 騒がしい楽園- 中山七里 2022/01/23 22:19
 幼稚園教諭の神尾舞子は、世田谷にある若葉幼稚園へ転任してきた。転任早々、園児の声に対する騒音苦情や待機児童問題など様々な問題に直面することとなったが、そんな中、幼稚園で飼っている動物たちが次々に殺されるという不穏な事件が起こる。大事になることを心配していたその矢先、舞子が担任していた女児が殺害される事件が起きた―

 保育に関わる昨今の世相を映し出しながら、今の幼稚園教諭を取り巻く厳しい環境を描き出す。保護者やマスコミの愚かさをズームアップした描きかたは読んでいてかなりストレスがたまる。ただ、この事件に関しては実際に起こっても、「園」の責任はこんなふうに糾弾されるだろうか…?とも思った。(夜中に園児が殺された事件なので)
 わりと上に書いたような社会様相を描くことがメインになっている印象で、ミステリとしては、手がかりをもとに推理を組み立てていく線は薄い。いちおう真犯人が最後に明かされるフーダニットではあるが。

No.875 8点 ブラックサマーの殺人- M・W・クレイヴン 2022/01/16 19:27
 6年前、三ツ星レストランのカリスマシェフとして名声を誇るジャレド・キートンの娘殺しの罪を暴き、投獄に追い込んだポー部長刑事。ところが殺されたはずの娘が生きて帰ってきた。冤罪を生んだ刑事として、一気に批判の的となったポー。しかしポーは自身の捜査に絶対の自信を持っていた。追われる身となったポーだが、ポーを助けるべく、親友のブラッドショーとフリン警視が立ち上がる。巧妙に仕組まれた、警察を出し抜くキートンの手口とは―?

 600ページを超える力作だが、止まることなく進展する展開にどんどん読み進めてしまう。息つく間もなく繰り出される新情報から、「それによってどうなるのか?」という興味が尽きない。上手い。
 捜査過程で何気なく出てきたワードが偶然アンテナに引っ掛かり、そこから一足飛びに前進する、という展開は、多少映画的なご都合主義を感じるところもあるが、逆に不要なミスディレクションがないとも言え、長さの割に無駄を感じない。最大の謎である、「生還したキートンの娘が、血液のDNA検査によって間違いなく本人と確かめられた」ことに対するトリックは一般人には推理しようがないレベルではあったが、事件を覆う様相を解き明かしていく過程には無理な飛びはなく、丁寧に描かれている。
 本シリーズは今後もチェックしていきたい。

No.874 6点 アフター・サイレンス- 本多孝好 2022/01/16 19:00
 事件被害者やその家族のケアをする警察専門のカウンセラー・唯子。夫を殺された被害者なのに、自身を罰しようとする妻。誘拐犯をかばい嘘の証言をする少女。姉を殺された復讐を企図する少年……しかし実は唯子自身が、父が殺人を犯して刑務所に服役している「加害者家族」だった。

 犯罪被害者やその家族のカウンセラーという特異な職業を題材とした連作短編。対象者の妙な反応から事件の真相や内情が明らかになるという仕組みは、目新しいものではないがよく練られていて面白い。後半は、唯子が人知れず抱えている、父親が殺人犯という事情に迫っていく内容に少しずつシフトしていくのだが、そこでの唯子の態度はやや頑なに過ぎる感があり、あまり好感はもてなかった。ただ本当の加害者家族の内実は知る由もないので、簡単なことは言えないが…。

No.873 7点 ガラスの村- エラリイ・クイーン 2022/01/04 16:43
 数少ない、シリーズ(クイーン親子)外の作品。
 時代の変遷についていけず、寂れつつある閉鎖的な地域で、村の誇りとも言える有名な老婦人画家が殺害された。すると、直前に婦人画家の家を訪れていた、怪しいよそ者の男が居たことが分かり、住民たちでとらえられた。地元の判事・ルイス・シンは、すぐにも州警察に知らせ、公正な裁判に掛けるよう申し出るが、住民たちは「自分たちで裁く。この男は町から出さない」と非常識な態度をとる。男が犯人だと決めてかかり、自分たちで死刑を下そうとする住民たちを前に、シン判事は、あえて無効になる裁判を自分たちで行い、そのまま州警察へ引き渡そうと画策する—

 巻末の訳者のあとがきによると、当時のクイーンが、マッカーシズムに対する義憤を込めて描いた作品であるらしい。そうした政治事情は分からないが、田舎町の歪んだ団結意識と偏見に凝り固まった住民たちと対峙する理性、という構図の物語はなかなか面白かった。
 手作りの法廷で行われる裁判は、終始アリバイ確認の様相で、それが長く続くのは少し退屈ではあったが、被害者が最後に描いていた絵画から真相へと向かっていくくだりはクイーンらしいロジカルな展開で、物語ラストの住民たちの意外な態度も気持ちよく、読後感もよかった。

No.872 5点 帝王死す- エラリイ・クイーン 2022/01/04 16:23
 世界的大富豪である軍事企業の主、キング・ベンディゴに殺害予告が寄せられる。内容を細切れにして送られてくる脅迫状は、最終的に殺害日時を明確に指定したもの。捜査を依頼され呼ばれたクイーン親子だったが、脅迫状の出所を突き止めるのはいかにも簡単で、脅迫者はキングの弟であるジュダと判明。本人もあっさりそれを認め、しかも予告通り殺害を決行するという。そして衆人環視の中起きたのは、壁を隔てた別室で撃った拳銃によって、向かいの部屋のキングが撃たれるという不可能犯罪。犯人は明白(?)、しかし犯行方法は不可能。そんな状況の中、キング兄弟の出身がエラリイに縁深いあの場所だと分かり―

 あまりにも奇妙な犯行様態だが、常識的に考えればそれしか方法はないだろう、というのがそのまま真相ではある。犯罪が仕組まれた背景と真の犯人像も、まぁ思い描いていた通りと言える。真相を看破する手がかりは確かに面白かったが、長編に耐えうる仕掛けとは言い難い。
 現在の、「起こった犯罪」に対する推理よりも、その背景を読み解くことに多くが割かれるタイプの作品で、しかもそれが大戦時という歴史的背景も重なるため、読む意欲を維持するのがなかなか難しい作品だった。

No.871 5点 罪の余白- 芦沢央 2021/12/31 15:38
 安藤の娘、加奈が学校で転落死した。自死であることを示すようなものや事実は特になかったことから、事故として一応の帰結を見る。が、実は加奈は、同級生の咲たちから陰湿な嫌がらせを受けており、その「罰ゲーム」の際に誤って転落したのだった。虚脱状態から少しずつ抜け出した安藤は、加奈の「日記」に何か残っているのではないかとその在りかを探し出そうとする。一方、咲たちは真実が明るみに出はしないかと危惧し、彼女らは彼女らで探りに出ようとするのだった―

 読み易く、一気に読み進められるのだが、昨今ありがちな設定・内容で新味はなく、肩透かしを食ったよう。この作者のことだから、何か大きな展開やひっくり返しがあるのかと思いきや、いたってフツーの「このテの話」だった。
 唯一、安藤の力になる大学の女性助教授のキャラクターと、その変容の物語が伏線として面白かったが。

No.870 6点 蝶々殺人事件- 横溝正史 2021/12/31 15:24
 表題作は、殺害現場をくらますための手の込んだトリックに加え、「意外な犯人」を演出する描き方もなされており、作者の脂の乗った時期に書かれた力作であることが十分に感じられた。
 コントラバスケースという道具立てを生かした、トリック重視の本格であり、動機などはかなり抽象的。だが作中の「殺人事件の場合、いつもその動機を具体的な事実に求めようとすることは、間違っていると思う」という由利麟太郎の言葉が、そのまま正史のスタンスを表しているのではないかと思うし、確かにそんなものかもしれないな、とも思えてくる。
 他2編は、怪奇趣味を前面に出した小粒の短編。総じて、隆盛期の横溝正史の魅力が堪能できる一冊だと思われる。

No.869 6点 怪物の木こり- 倉井眉介 2021/12/25 22:47
 被害者が斧で頭を割られ、脳を持ち去られているという猟奇的殺人事件で、舞台設定の魅力は抜群。サイコパスを題材にしたストーリー展開、「脳チップ」というSF要素も上手くまとめられ、よく練られた一作だった。
 真犯人もなかなか意外なうえ、その動機が物語のテーマ(?)と上手く絡められていた。素直に面白かった。
 後続作を耳にしないが、ストーリーテーリングの上手い作者だと思った。

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HORNETさん
ひとこと
好きな作家
有栖川有栖,中山七里,今野敏,エラリイ・クイーン
採点傾向
平均点: 6.32点   採点数: 1148件
採点の多い作家(TOP10)
今野敏(50)
有栖川有栖(45)
中山七里(41)
エラリイ・クイーン(37)
東野圭吾(35)
横溝正史(21)
米澤穂信(21)
アンソロジー(出版社編)(19)
佐々木譲(18)
島田荘司(18)