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HORNETさん
平均点: 6.32点 書評数: 1121件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.861 7点 邪魅の雫- 京極夏彦 2021/11/30 20:17
 江戸川川べりで毒殺された会社員の男。大磯で発見された若い女性の毒殺死体。偽名で住宅を借りていた女性の毒殺死体。離れた場で起こる毒殺事件を、警察はなぜか「連続殺人事件」と断定。諸所で目にする公安の姿。事件の裏にはいったい何があるのか?
 一方、元刑事の探偵見習い益田は、事務所の主・榎木津礼二郎の縁談が悉く破談となった裏を探るよう、榎木津の親族に依頼される。すると、連続毒殺事件の被害者と、見合い相手とのつながりが明らかになっていく―
 その間も次々と起こる毒殺事件。警察も関係者もお手上げの中、ついに中禅寺が立ちあがる。

 本サイトや各レビューでも、百鬼夜行シリーズの中では評価の低い傾向にある作品。その要因は「憑き物落とし」の色が薄かったり、榎木津の出番が少ないうえ、傲岸不遜ないつものキャラクターから外れた一面を見せていたりと、「らしくない」という感じを受けるからかもしれない。が、それは「ミステリ色が強い」という受け取り方もできるような気がして、結論から言えば私はかなり面白かった。
 ちょっと仕掛けが複雑すぎて、誰が誰やら混乱してくるきらいはあったが、丁寧に読んでいけば見事に筋道立ててあることが分かり、読みごたえは十分にあった。仕組みが複雑で、時が経つと忘れてしまいそうではあるが、読んでいる最中はかなりのめり込んで読むことができた。

No.860 6点 毒島刑事最後の事件- 中山七里 2021/11/23 20:14
 題名から、毒島シリーズこれで終わりか?と思ってしまいそうだが(そうかどうかはわからないが)、少なくとも本作は前作「作家刑事毒島」の前日譚、一度刑事として退職するまでの話。そういう意味での「毒島刑事最後」。
 毒島が小説家になる前の、純粋な刑事時代の話なので、前作のように出版関係に限った事件集ではない。唯一それに近いのが二編目の「伏流鳳雛」で、これは近いというより「作家刑事毒島」の焼き増しのような雰囲気(事件の様相は違うが)。といっても、前作が好きだった私はむしろそれが面白かった。
 本作は連作短編で、全編を通して犯人を操っている「教授」の正体を最後に暴くことになる。これは中山作品によくある構図なのだが、主犯が属犯を洗脳して意のままに操るということが、ちょっと現実離れしすぎていて素直に頷けなかった。どんでん返しを意図しすぎてちょっと無理がある話になっていないかなぁ。
 本シリーズが今後も続くのなら、出版関係を舞台にしたフーダニットで、毒島の毒舌が炸裂するという、普通の短編のほうがいいかな。

No.859 5点 ディレクターズ・カット- 歌野晶午 2021/11/23 20:00
 最近ミステリでよく見られるようになった、SNSを題材とした作品(といっても評者の書評が2021年、本作品の発表年次はその4年前なので、これはあくまで評者の感覚)。
 1章では、当時かなり問題になったYouTubeで問題動画を挙げる若者の話としか見えなかったのだが、2章でそれが急展開し、意外な方向へ物語が進んでいく。最新の話題を取り上げながらもその仕掛け方はさすがだな、と思いながら、非常に面白く読み進められた。
 ただ、最後まで読み通すと「今風でそれなりに面白かった」という思いと、「新本格の旗手の一人だった作者も、こういう作風になってきたか…」という思いとがないまぜになる感じがした。「密室殺人ゲーム…」シリーズも、当時の最新ネット事情を踏まえた作品だったが、そのうえで本格ミステリの面白さを絶妙に発露していたと感じたが、本作は昨今の流行に同調した感じがした。
 普通にこの作品から歌野晶午を読む読者にとってはこんなこと思わず楽しめると思う。

No.858 5点 夜葬- 最東対地 2021/11/23 19:47
 限界集落“鈍振村(どんぶりむら)”では、死者の顔をくりぬき、くりぬかれた顔面に白米を盛り、親族で食べわけるという葬送の風習があった。顔を抜かれた死者は“どんぶりさん”と呼ばれるという。そんな異常な因習が紹介されたコンビニ本“最怖スポットナビ”。それを手にした者のスマホに意味不明のメッセージが届く。メッセージが届けば、もう逃れられない。自分を目的地としたナビが勝手に起動し、自分の顔をくりぬきにやってくる―。第23回日本ホラー小説大賞・読者賞受賞作。

 いわくつきのモノに接した人間が、次々に恐怖の対象になるという、日本ホラーのテンプレートのような展開だが、”どんぶりさん”というおぞ気をそそるエピソードや、疾走感のある展開など、ホラーとしてエンタメ的にはよくできている。
 ただ、さまざまなレビューで評価が低いのは一重に、妙に描写達者を気取ったような、鼻につく修辞のせいかも。既に何作品も出している作家なのに、書評しようと思ったら「作家登録」もされていたなかったことから、本サイトでの評価も低いのかも。
 確かに、文達者気取りの安っぽさを感じる描写は多々あるが、雰囲気を感じることを主としたホラーとして気にせず読めば悪くない。少なくとも私は「#拡散忌望」は読んでみようかなーと思っている。

No.857 5点 陰摩羅鬼の瑕- 京極夏彦 2021/11/23 19:20
 作者の長々とした薀蓄、長口上は嫌いじゃないが(というかむしろそれが真骨頂?なのだが)、この仕掛だけでこの長さはちょっとやり過ぎかな。殺人が起こるまでに500ページ(ノベルスで読んだけど、文庫だったらもっと?)。
 しかも正直、この仕掛けは後半にかかったころから分かってしまっていた。
 儒学と仏教に関する薀蓄はそれなりに面白かったので、たのしい読書体験ではあったが、ミステリとしての驚きややられた感は弱い。
 ただ、嫌にはならない。やっぱり次も読みたいと思ってしまう。うーん。

No.856 6点 スワン- 呉勝浩 2021/11/20 15:42
 劇場型の犯罪シーンによる派手な幕開けにより、導入から入り込んで読める。物語は、大量殺人をした末に犯人が自害した事件で、生き残った片岡いずみを主人公にして、いずみだけが知っている事件の真相を追う展開。
 冒頭に事件の舞台となったショッピングモールの見取り図が掲載されているが、事件時のそれぞれの人物の行動を検証する際には逐次見返しながら読み進めないと、なかなか全容が理解しづらかった。
 物語の中盤は、不審な死に方をしていた老女・吉村菊乃の死の真相解明に充てられているが、正直、その真相はが物語的にあまり魅力がなく、細かな検証にページを割いた意義はあまり感じられなかった。
 一番の謎・いずみのバレエのライヴァルである古館小梢が撃たれた真相については、魅力的な謎ではあったがラストが近づくにつれて概ね看破できた。
 疾走感のある展開で、止まることなく読み進めてしまう魅力はある作品だった。

No.855 6点 ブレイクニュース- 薬丸岳 2021/11/20 15:28
 ユーチューブで人気のチャンネル「野依美鈴のブレイクニュース」。社会的な問題を独自に取材し配信。事件の当事者に直撃する取材は、訴えられてもおかしくない過激なものも。それでも美鈴の美貌も手伝って、視聴回数が1千万回を超えることも少なくない人気チャンネルに。週刊誌記者の真柄は、プロのメディアとしてそんな美鈴に反発を感じながら、美鈴の正体を探ろうとする。すると美鈴には意外な過去が……。
 いかにも旬な、現代的題材なので諸所に共感しながら非常に読み易く進められる。美鈴が追う事件ごとに章立てされた連作短編で、最後に美鈴の正体が明かされる。後半の章での展開から、その正体はうすうす分かって来てドンピシャだったので、ミステリとして大きな驚きがあるわけではないが、最近にありがちな事件像を取り上げて作られた各話は興味深く、楽しんで読むことができた。

No.854 5点 同姓同名- 下村敦史 2021/11/03 23:26
 取り上げた素材は面白い。現代にマッチしたものでもあると思う。が、とにかく「大山正紀」がたくさん出てきて、どれがどの大山正紀なのか、こんがらがってしまう…(まぁそれが作者の仕掛けなのだが)。そのやり口に早々に気が付いて、「これはきっとあの大山正紀なんだな」なんて推理も交えて読んでいくのだが…
 おまけに各章の時制もかなり入り組んでいて(これもあとから分かる)、うまく伏線を仕組んでいるとは思うのだが、ラストで答え合わせをするのもなかなか難儀だった(笑)。
 よく仕組まれているとは思うが、ちょっとそれに走りすぎかな?

No.853 7点 奪取- 真保裕一 2021/11/03 23:20
 クライムノベルのお手本みたいな名作。かなりの厚みだが、疾走感のある展開で全く苦にならず読み通せてしまう。
 印刷関連の詳細な説明は難解で正直ほとんど読み飛ばしたが、リアリティを感じさせる雰囲気は堪能した。それでも物語を楽しむことに影響は全くないので大丈夫。
 エピローグがまた粋でいいね。まさか登場人物の名前にそんな仕込みがあったとは…。綿密な構想のもと書き上げられた作品だということが十分に伝わってきた!

No.852 6点 おれたちの歌をうたえ- 呉勝浩 2021/10/30 18:13
 元刑事の河辺のもとにある日、同郷の友人サトシが死んだとの電話がかかってきた。河辺とサトシ、コーショー、キンタ、フーカの5人は「栄光の5人組」として幼い頃いつも一緒の仲間だった。が、フーカの姉が殺され、フーカの父が犯人と目される男の家族に報復するという事件が起き、その後は散り散りになってそれぞれ大人になっていた。
 サトシは死に際して河辺に暗号を残していった。そこには40年前の事件の真相が隠されているのか。フーカの姉が死んだ日、本当は何があったのか。失ったものを取り戻すべく、河辺は動き出す。

 物語設定は面白く、興味をもってページを繰っていけるのだが、暗号とか符丁とかがちょっと入り組み過ぎているうえに、解読が多分に恣意的で、ちょっとついていけないところがあった。世に倦んだ元刑事やそれを取り巻く登場人物の描写も、カッコよさをねらって仰々しいのが少し鼻につく。
 後半は急展開に次ぐ急展開で、ついていくのがやっとだったが、言い方を変えれば最後まで物語が動的で面白かったとも言える。

No.851 8点 ミカエルの鼓動- 柚月裕子 2021/10/30 17:43
 北中大病院の心臓外科医・西條は、手術支援ロボット「ミカエル」を使った外科手術の第一人者として脚光を浴び、院の中枢になる医師と目されていた。ところがそこへ、ドイツ帰りの天才医師・真木が現れ、西條の目の前で「ミカエル」を用いない従来の手術を、とてつもない速さで完遂する。
 あるとき、一人の難病の少年の治療方針をめぐって、二人は対立。ミカエルを用いた最先端医療か、従来の術式による開胸手術か―。そんな中、西條はある筋から、ミカエルの不具合が疑われるという情報を耳にする。自分が推進しようとしている医療は本当に間違いないのか。天才心臓外科医の正義と葛藤を描く。

 自身の病院での立場、出世に不可欠な医療用ロボットに疑念が生じた医師が、医療理念に基づいて正しく行動できるか。葛藤・苦悩する主人公・西條だが、その人間性には好感がもて、常に応援する気持ちで読める。ライバルである真木はこうした対立構造で定番的なキャラクター造形ではあるが、だからこそ面白さが安定している。
 人死にがあるミステリではないが、真木の過去や病院長の思惑など、「謎」の部分は諸所にあり、要素は十分にある。
 面白かった。

 

No.850 7点 奈落で踊れ- 月村了衛 2021/10/30 17:24
 1996冬、接待汚職「ノーパンすき焼きスキャンダル」が発覚した大蔵省は大揺れに揺れていた。接待を受けていた88年入省組は処分を逃れるために、同期で『大蔵省始まって以来の変人』の異名を取る文書課課長補佐の香良洲圭一に協力を要請する。
 香良洲は元妻で与党・社倫党政治家秘書の花輪理代子から、政財官界の顧客リストの存在を告げられる。リストを探すために、香良洲はフリーライターの神庭絵里に調査を依頼、絵里は暴力団・征心会若頭の薄田に接近するが……。

 実際の「大蔵省ノーパンしゃぶしゃぶスキャンダル」をモデルに、官僚たちの生き残り競争、政界闘争、組織化での暗躍が描かれる。突き抜けた香良洲のキャラクターは小気味よく、暴力団組織も絡んだ裏のかきあいも面白い。
 取り上げた題材、目のつけどころがよかった。

No.849 5点 お孵り- 滝川さり 2021/10/21 19:58
 橘佑二は、婚約者・乙瑠の結婚のあいさつのため、乙瑠の故郷である「冨茄子村」に行く。乙瑠の親族に挨拶をし、結婚を認めて貰えた佑二だったが、同時にその村の異様な風習、氏神信仰を知り戦慄する。それは、「太歳様」と呼ばれる氏神が村の新生児に宿り、村人たちの「生まれ変わり」を司るという狂信的なものだった。

 良くも悪くも、この類のホラーのテンプレートのような標準的出来栄え。だからそれなりに楽しいが、読み慣れている者にとっては意外性も弱い(太歳様の正体や、乙瑠の正体なども…最も「それらしい」オチ)。「リング」のような、ちょっと前の映像作品のようなイメージ。
 まぁ楽しめた。

No.848 6点 The Best Mysteries 2019- アンソロジー(出版社編) 2021/10/21 19:42
「学校は死の匂い」澤村伊智…比嘉姉妹シリーズ短編。一時期問題になった、学校の組み立て体操を題材にしたホラーミステリ。
「埋め合わせ」芦沢央…「汚れた手をそこで拭かない」に収録。その中で一番面白かった印象。
「ホームに佇む」有栖川有栖…心霊探偵・濱地健三郎シリーズの短編。そこそこ。
「イミテーション・ガールズ」逸木裕…森田みどりシリーズの過去話。標準的出来栄え。
「クレイジーキルト」宇佐美まこと…奥田英朗や桐野夏生、貫井徳郎もかな?の作品のようなイメージ。面白い。
「東京駅発6時00分 のぞみ1号博多行き」大倉崇裕…殺人犯が、犯行後の新幹線で刑事と隣席に。古畑任三郎みたい。
「くぎ」佐藤究…前半の話と後半の急展開があまりつながってないような。
「母の務め」曽根圭介…仕掛けは面白かった。が、結局「姉」はどこにいるのかという疑問が残ってやや消化不良。
「緋色の残響」長岡弘樹…同名の短編集に収録。シリーズとして通して読むのがオススメ。

No.847 4点 不可逆少年- 五十嵐律人 2021/10/20 19:15
 ある少女が動画チャンネルで、4人の人間を順に殺害する様子を生放送。そんな衝撃的な事件が人々を震撼させる世の中で、主人公は家庭裁判所調査官として過ちを犯した少年たちの処分判定に携わっている。原則的に、教育的手段によって更生を促すことを旨とする職。しかしながら、ある女性上司は「生物学的要因によって非行に走る人間」がおり、その子たちには更生教育ではなく生物学的治療が必要だという。教育でやり直すことができないそれらの少年を、「不可逆少年」と彼女は呼んだ。

 魅力的な冒頭から始まり、「フォックス事件」に関わった少年たちの物語も興味深く、中盤まではかなり楽しんで読めた。ただ、この作者の特徴なのか、物語の核心に迫るあたりになってくるとだんだん情緒的な(不確定要素の)論理が入り込んできて、「こういう言動をしたから…こうなった」という帰結が素直にうなずけない。その因果関係もさながら、それを推理する側も、さも当然の帰結のように推理しているのがしっくりこない。辿っている道すじが、ほとんど「未必の故意」のような偶然に頼ったものというか…
 ひっくり返すことを狙いすぎると、糸のような頼りない道筋が「当然起こり得たこと」のように描かれることになっちゃうのかな。

No.846 7点 護られなかった者たちへ- 中山七里 2021/10/20 15:32
 生活保護の受給、それを取り扱う福祉保険事務所と行政をテーマにした社会派ミステリ。
 全身をガムテープで拘束されたまま、放置されて餓死させられるという事件が連続して発生。手口は同一犯を思わせる共通したものだが、被害者のつながりが見出せない。しかし、被害者の過去を洗っていくうちについに、ある福祉保険事務所で同時期に勤務していたという共通項が見つかる。犯行は、生活保護対象者の逆恨みなのか―?

 相変わらず読ませる文章で、ノンストップで読破してしまうリーダビリティ。前半部で犯人も明らかにされ、両者のせめぎ合いが並行的に描かれていく倒叙形式かと思いきや…まぁ、ある意味想像の通り。
 ミステリとしては、登場の仕方や描き方で、真犯人もほぼ透けて見えるものだったが、生活保護問題というテーマ小説としての面白さがあるので、全体的には〇。

No.845 6点 The Best Mysteries 2021- アンソロジー(出版社編) 2021/10/20 15:22
 活躍中の新人~中堅どころ作家たちの短編集。「2021」という年号を関するにふさわしく、SNSやコロナ禍などの世相を反映したものが揃っている。

結城真一郎「#拡散希望」…YouTubeを題材にしたいかにも旬のネタ。そのことを上手く使った仕掛けも◎
青崎有吾「風ヶ丘合唱祭事件」…裏染天馬シリーズの学園短編。日常の謎。
芦沢央「九月某日の誓い」…超常的な力を題材にした特殊設定ミステリ。筆者の作にしてはいまひとつ。
一穂ミチ「ピクニック」…ワンオペ育児を題材にしたちょっとダークな話。
乾くるみ「夫の余命」…いかにもこの作者らしい仕掛け。
北山猛邦「すべての別れを終えた人」…コロナ禍が生んだ排他的な世相を映し出した良作。
櫻田智也「彼方の甲虫」…魞沢泉シリーズ。「蝉かえる」に収録。
降田天「顔」…学生が巻き込まれた電車での事件。結末の収斂ぶりはなかなか。

No.844 7点 ヨルガオ殺人事件- アンソニー・ホロヴィッツ 2021/10/16 12:11
 「カササギ殺人事件」から2年、編集者の職を辞したスーザン・ライランドは、クレタ島に移住して彼氏とホテルを共同経営していた。そんなスーザンのもとに、英国から夫妻が訪ねてくる。夫妻が言うには、経営するホテルで8年前に起きた殺人事件の真相を知ったらしい娘が行方不明になった。娘はある小説を読んで、真相に気付いたという。その小説こそ、かつてスーザンが編集に携わった故・アラン・コンウェイのミステリ「愚行の代償」だった。
 報酬を払うので、謎を解き、娘の行方探しに手を貸してほしいという夫妻。スーザンは再び英国に戻り、独自で調査を始める。

 前作同様、今回も「作中作」が挿入される二重構造で、上下巻合わせて800ページ以上の厚み。これも前回同様、作中作の「愚行の代償」は小説がまるまる一本入っていて(!)、氏の創作力には舌を巻くばかりだ。
 謎の中心はもちろん、コンウェイの「愚行の代償」に、真犯人を明らかにする何が隠されているか。当小説は英国夫妻が経営するホテルをモデルにして書かれたものということで、その作中作の登場人物と、実際の現実の人物の照応を考えながら読み進めることになり、外国人の名前を覚えるのが苦手な人はやや苦労するかも。
 とはいえラストには、そうした照応にはあまり意味はなかったことに気づかされるのだが―(笑)仕掛けは全く別のところにあり、そのことに気が付いても真相看破はなかなかできない仕組みだった。
 しかし、読みがいがある作品だった。

No.843 4点 ぬばたまの黒女- 阿泉来堂 2021/10/16 11:12
 懐かしい同窓生たちに会うため、12年ぶりに故郷・皆方村に里帰りした井邑陽介。思い出話に花を咲かせる面々だったが、その中で陽介が村を出た後に皆の憧れの少女・三門霧絵が火事で亡くなっていたことを知らされる。さらに村では最近、全身の骨を砕かれるという異常な殺人事件が起こっていた。故郷の村で何が起こっているのか。疑心にかられる陽介たちの前に現れたのは、怪異譚を集めて回っているという変り者のホラー作家・那々木悠志郎だった。

 雰囲気はあって読み進めるのはそれなりに楽しかったのだが…村の怪異を解き明かす論理(?)がなんだが無理筋な気がして、なんとなくすっきりはしなかった。
 前作の方がよかったな。

No.842 6点 嗤う淑女二人- 中山七里 2021/10/16 10:53
 「嗤う淑女」の蒲生美智留と、「連続殺人鬼カエル男」の有働さゆり、希代の悪女二人が夢の(?)共演。
 ホテルでの同窓会で起きた大量毒殺。ツアーバスの爆発事故。深夜の中学校での放火殺人。何の脈絡もないいくつもの事件だが、それらをつなぐのは被害者が身に付けていた「番号札」。
 2人の目的は何なのか。なぜ、タッグを組んでいるのか。
 別々の作品をまたいで登場する人物により展開される「中山七里ワールド」を楽しめる。

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有栖川有栖,中山七里,今野敏,エラリイ・クイーン
採点傾向
平均点: 6.32点   採点数: 1121件
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今野敏(50)
有栖川有栖(45)
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エラリイ・クイーン(37)
東野圭吾(34)
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