皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
HORNETさん |
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平均点: 6.32点 | 書評数: 1148件 |
No.908 | 6点 | 大義- 今野敏 | 2022/05/08 21:33 |
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横浜みなとみらい署・暴対係係長の諸橋夏男、通称「ハマの用心棒」のシリーズ短編集。
今回は、班員である巡査部長の倉持忠や、巡査長の八雲立夫、監察官の笹本康平らを主人公にした、スピンオフ的な短編集となっていて面白かった。(1話目の「タマ取り」はダジャレネタみたいで失笑だったが。) シリーズを読んでいなくても、今野氏はいつも初読の読者を見据えた描き方をしているのでまったく問題なく楽しめる。むしろ本シリーズの入り口にもなり得る一冊だと思う。 改行の多い作風ということもあって、2時間程度で読了できる。といっても、十分に楽しめる内容。 |
No.907 | 4点 | 人面島- 中山七里 | 2022/05/08 21:13 |
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相続鑑定士の三津木六兵の肩に寄生する人面瘡は、毒舌ながら頭脳明晰で有能な探偵。六兵は「ジンさん」と呼び、頼れる友人としている。
そんな六兵がある日派遣されたのは、長崎にある島、通称「人面島」。村長の鴇川行平が死亡したため財産の鑑定を行うという名目で派遣された六兵だったが、ありがちな話、鴇川家には相続の利権をめぐる複雑な事情が。そんななか、相続人の一人である、行平の息子・匠太郎が何者かに殺害される。時代から取り残された閉鎖的な孤島の村で、横溝正史ばりの陰惨な連続殺人事件が幕を開ける――。 う――ん…なぜだろう…中山氏の作品では自分としては珍しく、入り込んで読み進めることができなかった…。相続を取り巻く家族関係の確執が紋切型に感じたのか、秘密の鍾乳洞とか抜け道とかいう設定が陳腐に感じたのか…自分でもイマイチわからない。限られた登場人物の中で、真犯人も割と予想通りなうえ、不可能犯罪と思われた第一の殺人のトリックもふたを開けて見ればトリックというほどでもない。 登場人物が豊かな語彙で論理的かつ軽妙にやりとりする、氏の作品の特徴は、現代的な舞台の方がしっくりするのかもしれない。 |
No.906 | 7点 | 探花- 今野敏 | 2022/05/04 21:55 |
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横須賀・ヴェルニー公園で刺殺体が発見された。目撃者によると、刃物を持った白人男性が現場近くにいたのを見たという。米軍がらみの案件か?と神奈川県警が眉を寄せる中、県警警務部長に竜崎の同期のキャリア・八島圭介という男が赴任する。八島は同庁入庁の中でトップの成績、ハンモック・ナンバーが一番の男だという。その八島が、米軍との交渉には竜崎が出向くべき、と主張する。八島の目論見は何なのか?
本の宣伝文句には、「竜崎のライバル出現か?」と謳われているが、結果としてはライバルになんかなり得ない俗物だった。本作品はむしろ、現場たたき上げでキャリアへの反感を持つ板橋刑事課長と竜崎署長の、表層には表れない信頼関係の方が見もの。信頼を寄せながらもぶっきらぼうな態度を崩さない板橋課長、そんなことは何も気にしない竜崎署長、これが名コンビ。 事件の裏を暴いていく過程以上に、信念の男・竜崎と、「キャリアは頭でっかち」という先入観を持っている所轄の署員とが次第に距離を縮めていく様が本シリーズの真骨頂だと思う。 今回もそれを、十分に楽しめた。 |
No.905 | 6点 | 能面検事の奮迅- 中山七里 | 2022/05/04 21:33 |
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大阪地検のエース検事・不破俊太郎。組織に渦巻くパワーゲームや人脈、上席への忖度などに全く関心を見せず、無表情で流儀を貫く。そんな不破が今回あたることになったのは、小学校を作ろうとする学校法人への、国有地の不当な安価売却。しかも捜査に入ったとたん、特捜部の文書改ざん疑惑が発覚する―
森友学園事件をモチーフにしたのは明らかだが、ミステリとしての仕掛けは全く別物。信頼できる検事の文書改ざん疑惑、「何かあるはず」と読者を惹きつける手際はさすがで、その裏に隠れた真相もよく仕組まれていて面白い。 それにしてもシリーズを読んでいると、事務官・惣領美晴の、俗物的・大衆的な正義感と、いつまでも学習しない不破とのやりとりにだんだんイライラしてくる。「思わず口にしてしまう」「不破に一蹴される」「自己嫌悪に陥る」というくだりを何回も何回も繰り返していて、いい加減煩わしい。 今回は岬次席検事も登場し、「中山七里ワールド」の一端も楽しめる。多作で、シリーズの多い作家だが、是非本シリーズも精力的に続けて欲しい。 |
No.904 | 3点 | 変な家- 雨穴 | 2022/05/04 21:16 |
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家の間取りから隠れた謎を暴き出す…という冒頭はかなり興味深かったのだが、次第に呪いやら掟やらでありがちなB級ホラーに帰結してしまった印象。
出典はインターネット連載?なのかな? 2時間もかからず読めてしまう。 どんどんぶっとんだ話になって行くに従い、人物関係も伯父叔母やらいとこやらで複雑になっていき、その両面で興趣は右肩下がりだった。 |
No.903 | 5点 | 6月31日の同窓会- 真梨幸子 | 2022/05/04 21:08 |
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地元ではブランドとされる私立高校・蘭聖学園。そこには、「6月31日の同窓会案内状」が届いた女子には「お仕置き」が為されるという怪伝説があった。卒業してずいぶん経つ、89期生に次々と届く招待状。蘭聖学園OBであり、現在は弁護士を務める松川凛子のもとには、その恐怖におののく89期生たちが次々に訪れる。が、その後続けてそれらのOBが怪死していく。いったい、招待状は誰が送っているのか、怪伝説は本当なのか―
ここ最近(?)の真梨氏の作品によくあるのだが、とにかく登場する女子が多いうえに関係が複雑(あるいは、伏線として前半分かりにくく描写しているためそう感じるのか)で、誰が誰でどの子だったのか、こんがらがってくる。リーダビリティが高く、読むスピードが速くなるためなおさら、短時間にいろんな女子が入れ代わり立ち代わり登場してくる感じになってしまう。 分かりやすいし、ある意味典型的な真梨幸子らしい作品ではあると思う。 |
No.902 | 5点 | 残酷依存症- 櫛木理宇 | 2022/05/04 20:55 |
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大学生・乾渉太は、ツレの航平、匠とともに宅飲みの最中、買い物帰りに何者かに襲われた。気が付けば宅飲みをしていた隠れ家の浴室で、両足の親指と小指を切断されて監禁状態。何が起こったのかさっぱり分からないながらも、こんな目に遭う原因には心あたりがないこともない…
「殺人依存症」から続けて読んだが、相変わらず遠慮のない残酷描写。冒頭の渉太は当初被害者でありながら、次第にその悪行と人間性が暴かれ、ろくでもない大学生であることが分かってくる。が、冒頭の描写からだいたい予測できる雰囲気ではあった。 何年か前の「スーパーフリー事件」を題材として得られた着想により描かれた作品で、一般的に受けやすいとも言え、良くも悪くも素人目線といえる。サクサク読めてストレスはないのだが、特筆すべき秀逸さもないかな。 「殺人依存症」よりはこっちのほうがよかった。 |
No.901 | 5点 | 殺人依存症- 櫛木理宇 | 2022/04/30 11:27 |
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息子を六年前に亡くした捜査一課の浦杉は、その現実から逃れるように刑事の仕事にのめり込む。そんな折、連続殺人事件が勃発。捜査線上に、実行犯の男達を陰で操る一人の女の存在が浮かび上がる。彼女は一体何者なのか―。息をするように罪を重ねる女と、最愛の家族を失い死んだように生きる刑事。二人が対峙した時、衝撃の真実が明らかになる。(「BOOK」データベースより)
浦杉の娘と、面倒を見ている少女が後半にどうなるのかかがあまりに予想通り。さらに、どうにもやりきれないバッドエンド。 「慟哭のラスト」との謳い文句通り、あまりにも悲惨な終わり方。そんなにハッピーエンドにこだわる私ではないが… 不愉快で受け付けない人も多そう。 |
No.900 | 7点 | 白雪姫には死んでもらう- ネレ・ノイハウス | 2022/04/30 11:12 |
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トビアス・ザルトリウスは、10代の少女2人を殺害したかどで10年間の服役を終え、生まれ故郷のアルテンハイン村に戻ってきた。事件当時トビアスは泥酔していて記憶がなく、本当に自分が犯した罪なのか未だに分からない。しかし殺人者の烙印を押されたトビアスとその家族に当然村人の目は厳しく、嫌がらせを受ける毎日が続く。そんな折、トビアスの母親が駅の歩道橋から何者かに突き落とされる事件が起きた。殺人未遂事件として捜査にあたったのはオリヴァー&ピアのコンビ。捜査はやがて、10年前の少女殺害事件に隠された真相に迫っていく。
550ページを超える厚みだが、停滞することのない展開で楽しみ続けることができる。事件捜査とは別に、妻コージマとの間に起きた問題に悩むオリヴァーの話も展開し、物語りに幅を持たせている(にしてもオリヴァーも節操がないな…) それにしても人は本当に、犯した罪に口をつぐんで、しかも知人にその咎を負わせたままで生きていけるのだろうか。ずっと心に重石を載せ、心から笑える日などない人生になってしまうと思うのだが・・・ 物語当初から怪しさを感じる人物がやっぱりそうだったので、それほど意外性はない。だが、複雑に入り組んだ事件の様相を一つずつ解きほぐす過程は見ごたえがあり、世間でおおむね好評価なのもうなずけた。 |
No.899 | 3点 | 無邪気な神々の無慈悲なたわむれ- 七尾与史 | 2022/04/25 21:28 |
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子供を神と崇める信仰が根付く児宝島。事故で両親を失った瑠偉を養子に迎えた一年の記念にこの島を訪れることにした辻村京子、正樹夫妻は、多くの子供が居ながらも、大人が一人もいない児宝島に次第に違和感を感じる。夫妻は島を調べ始めるが、その隙に瑠偉が攫われてしまう。攫ったのは、この島でもっとも神様らしい存在だった――。
プロローグを読んだ時点ではその後の展開に期待をしたのだが、結局そのプロローグで本編の答えを明かしているようなものなので、本編序盤の島の不可解さも、読者としては答えが見えている感じで「長い」という感想になってしまう。 推理らしい推理の場面もなく、ただただ悲劇を追っていくような展開で、ミステリというよりはホラー。ラストもただただ悲劇の終焉という感じで、読み易くはあるものの深みはなかった。 |
No.898 | 7点 | 指切りパズル- 鳥飼否宇 | 2022/04/25 21:13 |
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綾鹿市動物園で、”動物アイドルユニット”を冠する地下アイドル「チタクロリン」のコンサートが行われた。チーフ警備員の古林新男は混乱による事故が起きないよう、職務に力を入れる。ところがそんな最中、ユニットメンバーの飯岡十羽が撫でようとしたレッサーパンダに指をかみ切られる大事故が。不運な事故と思われたが、その後関係者が次々に指を切断される事件が続いていく。
指切断事件が次々と起きていくという猟奇的な展開の中で、それぞれの事件で微妙に不可解な点が累積されていき、ラストにすべてが解決される、きれいな本格ミステリと言える。各事件で違う指が切断されている点にもきちんと理由があり、なかなか作りこまれた作品だと感じた。 |
No.897 | 7点 | マザー・マーダー- 矢樹純 | 2022/04/17 20:37 |
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「息子の恭介は、自宅でコンピューター関係の仕事をしている」と息子自慢をする梶原美里。しかし、その恭介の姿は近隣住民は誰も見たことがない、いわゆる「引きこもり」。普段は愛想よく住民に挨拶もする梶原美里だが、息子のことになると何かが憑いたかのように豹変する。梶原家が抱える秘密は何なのか?本当に恭介はいるのか?現代社会の病理とも言える、引きこもりとその親をめぐる数奇な物語。
いわゆる「毒親」を題材とした連作短編集。一作目などは独立した短編の様相だが、その後の主要登場人物が現れ、次編以降へとつながっていく。全編の中心は梶原美里とその息子・恭介なのだが、さまざまな物語の編み方で違う角度からそれぞれ描かれており、面白い。唯一、初編の事件は闇に葬られたままなのが気になったが… |
No.896 | 5点 | 完璧な母親- まさきとしか | 2022/04/17 20:27 |
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最愛の息子・波琉を事故で失った知可子は、息子を産み直すことを思いつく。同じ誕生日に産んだ妹を「波琉子」と名付け、誕生日にはケーキに兄の歳の数の蝋燭を立て祝うう。そんな知可子の狂気にやがて波琉子は、「お兄ちゃんもうれしいって言ってるよ」と答えるように。それを喜び、知可子は歪な“完璧な母親”を目指し続ける。そんな中「あなたの子供は幸せでしょうか」と書かれた手紙が―。
知加子の「毒親」ぶりが目を引く序盤だが、第二章から物語は違う展開を見せる。池でおぼれた波琉の生まれ変わりだという中年女性とその弟が出てくることで、異なる様相が見えてくる。意外な展開に最初はちょっとついていけないが、ラストで示される真相はなかなかのもの。 そこそこ面白かった。 |
No.895 | 8点 | 星降り山荘の殺人- 倉知淳 | 2022/04/03 20:45 |
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面白かった!
作者の中では一番有名な作品なので、各章の冒頭にある注意書き(?)のようなものにも騙しがあるのかと思って読んでいたが、それは素直に受け止めてよいものだった(笑) <以下ネタバレ> 真犯人が、自身の潔白を自ら証明するために謎のほとんどを論理的に解明し、最後に真の探偵役が一部をひっくり返すという構成はなかなか味があった。 真相解明は(ちょっと行き過ぎているほど)ロジカルで、その部分だけを取り上げれば往年のクイーンのよう。 どちらかといえば昨今は脱力的な(?)作風が印象的な作者だが、真骨頂を見せられた気がして唸らせられた。 |
No.894 | 7点 | 深い疵- ネレ・ノイハウス | 2022/03/31 21:57 |
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ミステリを嗜好していると自然に耳に入ってくる人気作家。手に取らないわけにはいかない、ということで日本で初刊の作品から読みに入った。
ホロコースト、ナチという歴史的な色合いの強い作品という点は意外。しかしながら、詳しくなければ理解できないというわけではないので安心してよい。殺害現場に残される謎の数字、なんていう舞台描写は本格ミステリの嗜好性にぴったり合う。 各作品それなりに厚みがあるようだが、没頭できる面白さ。順に読んでいきたいという気にさせる一作。 |
No.893 | 6点 | いちばん悲しい- まさきとしか | 2022/03/31 21:44 |
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大雨の夜、刺殺された中年男・戸沼暁男。警察が、戸沼が所持していた携帯電話で頻繁に連絡がとられている女性に連絡したところ、「そんな名前の男は知らない」という。つきつめると、戸沼は偽名を騙って不倫をしていたのだった。しかし不倫相手の真由奈は知人間では有名な妄想女で、「自分といた彼こそ本当の彼」として譲らず、戸沼の残された妻・杏子と子供たちに怒りの矛先を向ける。女刑事・薫子は、そんな女たちの心の奥底にうずまく毒感情を次第に暴いていく―
被害者戸沼の不倫相手・真由奈、妻の杏子、そしてその娘。それぞれの視点から、ある日突然事件に巻き込まれ心を乱していく様相が描かれていてなかなか楽しい。一方事件の真犯人はいっこうに見えてこず、そういう意味ではミステリとしてもしっかりなりたっている。 「あの日、君は何をした」からちょっと興味がわいて作品に手を伸ばしているが、十分期待に応える出来栄えだと思う。 |
No.892 | 7点 | ダブルバインド- 城山真一 | 2022/03/31 21:30 |
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数年前に妻を亡くし、一人娘と父子家庭の刑事課長・比留公介。実は娘は、精子提供によって生まれた、実子ではない娘で、その娘が不登校になり途方に暮れていた。一方仕事では強盗犯を取り逃がして左遷が確定。八方ふさがりの比留だったが、管内で起きた駐在所員撲殺事件から「デビル」の異名を持つ比留の本領が発揮されていく―
疾走感のある展開と骨太な警察機構の描写で非常に面白く読み進められた。家庭の問題と事件とがつながっていく過程はちょっとできすぎ(やりすぎ)ではあるし、組織の隠蔽体質と戦う気骨ある刑事という構図も超ありがちだが、それでも楽しんでしまうんだから結局そういうのが好きなこちらの負け(笑)。 シリーズ化されないかな。 |
No.891 | 7点 | 法廷遊戯- 五十嵐律人 | 2022/03/19 23:24 |
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法曹資格を持っている作者が、その見識を生かしながらエンタメ的に非常に上手く仕上げたミステリと感じた。
終末の、法廷でのどんでん返しはどう考えも現実的には禁じ手だと思うのだが、何やら難しい法廷ルールで正当化されていた。資格者である作者が書くのだからきっと理屈では通るのだろう。 事件の真相や真犯人の意外さ自体は十分に面白い。その仕掛け方に法律の仕組みが介在しているのだが、その理論・理屈を理解するのがちょっと面倒。ただ本気で理解しようとしなくても、話自体は十分に楽しめると思う。 |
No.890 | 7点 | 屑の結晶- まさきとしか | 2022/03/19 23:08 |
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小野宮楠生(くすお)は、二人の女性を殺害した容疑で逮捕・起訴された。逮捕時に笑顔でピースサインをするさまや「誰を殺そうと俺の自由」というふざけた言動で、一気に世の注目を集め、世間からは「クズ男」と呼ばれる。しかし担当弁護士の宮原貴子は、そんな楠生の言動に何かしらの「腑に落ちない」感覚を覚え、小野宮が幼少期を過ごした宮城県M町へ赴く。すると、今の楠生には似つかわしくない当時の様子が明らかになり……
はじめは、年増の女たらしの楠生に宮原もたらし込まれて苦悩する展開になるのかと思ったが、そうではなくて安心した。宮原の調査により、楠生がただの「クズ男」ではないことは察せられるのだが、各ピースがどのような真相に辿り着くのかは良い意味でなかなか見通せず、リーダビリティを維持していた。事件関係者である女性が視点人物になる章の挿入の仕方も上手かった。 ラストはちょっと切ないなぁ。楠生はバカじゃないんだから、葬儀の日のパトカーに乗るシーンも連行じゃないことぐらい分かるのでは?とも思ったが。 |
No.889 | 7点 | 叶うならば殺してほしい ハイイロノツバサ- 古野まほろ | 2022/03/19 22:49 |
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真夜中の吉祥寺で火事が発生。現場からは、10代と思しき少年少女4人の遺体が発見され、しかも唯一の少女の遺体は手錠でつながれていた。遺体の状況から、少年たちが少女を監禁し虐待していた様相が浮かび上がる。そんな中で唯一、その家に独り暮らししていたはずの17歳の少年が無傷で生き残る。真実を知る少年が完全黙秘を貫く中、26歳キャリアながらゴスロリファッションで現場を闊歩する異色の女性管理官・箱崎ひかりが捜査にあたる。
600pを超える厚みのある一作だが、停滞しない展開が持続され、キャラクタリスティックな主要人物の味もあって非常に面白く読めた。はじめは監禁・性的虐待という、鬼畜少年たちによる凶悪事件といった、ある意味オーソドックスな様相を呈していた事案が、次第に複雑な背景を醸し出していく。まぁそりゃそうでなきゃ面白くないんだが、派手な舞台とキャラクター設定の一方で、捜査・推理はきちんと組み立てられていて、ミステリとしても精度の高い一作だと感じた。 |