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HORNETさん
平均点: 6.30点 書評数: 1074件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.894 7点 深い疵- ネレ・ノイハウス 2022/03/31 21:57
 ミステリを嗜好していると自然に耳に入ってくる人気作家。手に取らないわけにはいかない、ということで日本で初刊の作品から読みに入った。
 ホロコースト、ナチという歴史的な色合いの強い作品という点は意外。しかしながら、詳しくなければ理解できないというわけではないので安心してよい。殺害現場に残される謎の数字、なんていう舞台描写は本格ミステリの嗜好性にぴったり合う。
 各作品それなりに厚みがあるようだが、没頭できる面白さ。順に読んでいきたいという気にさせる一作。

No.893 6点 いちばん悲しい- まさきとしか 2022/03/31 21:44
 大雨の夜、刺殺された中年男・戸沼暁男。警察が、戸沼が所持していた携帯電話で頻繁に連絡がとられている女性に連絡したところ、「そんな名前の男は知らない」という。つきつめると、戸沼は偽名を騙って不倫をしていたのだった。しかし不倫相手の真由奈は知人間では有名な妄想女で、「自分といた彼こそ本当の彼」として譲らず、戸沼の残された妻・杏子と子供たちに怒りの矛先を向ける。女刑事・薫子は、そんな女たちの心の奥底にうずまく毒感情を次第に暴いていく―
 被害者戸沼の不倫相手・真由奈、妻の杏子、そしてその娘。それぞれの視点から、ある日突然事件に巻き込まれ心を乱していく様相が描かれていてなかなか楽しい。一方事件の真犯人はいっこうに見えてこず、そういう意味ではミステリとしてもしっかりなりたっている。
 「あの日、君は何をした」からちょっと興味がわいて作品に手を伸ばしているが、十分期待に応える出来栄えだと思う。

No.892 7点 ダブルバインド- 城山真一 2022/03/31 21:30
 数年前に妻を亡くし、一人娘と父子家庭の刑事課長・比留公介。実は娘は、精子提供によって生まれた、実子ではない娘で、その娘が不登校になり途方に暮れていた。一方仕事では強盗犯を取り逃がして左遷が確定。八方ふさがりの比留だったが、管内で起きた駐在所員撲殺事件から「デビル」の異名を持つ比留の本領が発揮されていく―
 疾走感のある展開と骨太な警察機構の描写で非常に面白く読み進められた。家庭の問題と事件とがつながっていく過程はちょっとできすぎ(やりすぎ)ではあるし、組織の隠蔽体質と戦う気骨ある刑事という構図も超ありがちだが、それでも楽しんでしまうんだから結局そういうのが好きなこちらの負け(笑)。
 シリーズ化されないかな。

No.891 7点 法廷遊戯- 五十嵐律人 2022/03/19 23:24
 法曹資格を持っている作者が、その見識を生かしながらエンタメ的に非常に上手く仕上げたミステリと感じた。
 終末の、法廷でのどんでん返しはどう考えも現実的には禁じ手だと思うのだが、何やら難しい法廷ルールで正当化されていた。資格者である作者が書くのだからきっと理屈では通るのだろう。
 事件の真相や真犯人の意外さ自体は十分に面白い。その仕掛け方に法律の仕組みが介在しているのだが、その理論・理屈を理解するのがちょっと面倒。ただ本気で理解しようとしなくても、話自体は十分に楽しめると思う。

No.890 7点 屑の結晶- まさきとしか 2022/03/19 23:08
 小野宮楠生(くすお)は、二人の女性を殺害した容疑で逮捕・起訴された。逮捕時に笑顔でピースサインをするさまや「誰を殺そうと俺の自由」というふざけた言動で、一気に世の注目を集め、世間からは「クズ男」と呼ばれる。しかし担当弁護士の宮原貴子は、そんな楠生の言動に何かしらの「腑に落ちない」感覚を覚え、小野宮が幼少期を過ごした宮城県M町へ赴く。すると、今の楠生には似つかわしくない当時の様子が明らかになり……

 はじめは、年増の女たらしの楠生に宮原もたらし込まれて苦悩する展開になるのかと思ったが、そうではなくて安心した。宮原の調査により、楠生がただの「クズ男」ではないことは察せられるのだが、各ピースがどのような真相に辿り着くのかは良い意味でなかなか見通せず、リーダビリティを維持していた。事件関係者である女性が視点人物になる章の挿入の仕方も上手かった。
 ラストはちょっと切ないなぁ。楠生はバカじゃないんだから、葬儀の日のパトカーに乗るシーンも連行じゃないことぐらい分かるのでは?とも思ったが。

No.889 7点 叶うならば殺してほしい ハイイロノツバサ- 古野まほろ 2022/03/19 22:49
 真夜中の吉祥寺で火事が発生。現場からは、10代と思しき少年少女4人の遺体が発見され、しかも唯一の少女の遺体は手錠でつながれていた。遺体の状況から、少年たちが少女を監禁し虐待していた様相が浮かび上がる。そんな中で唯一、その家に独り暮らししていたはずの17歳の少年が無傷で生き残る。真実を知る少年が完全黙秘を貫く中、26歳キャリアながらゴスロリファッションで現場を闊歩する異色の女性管理官・箱崎ひかりが捜査にあたる。

 600pを超える厚みのある一作だが、停滞しない展開が持続され、キャラクタリスティックな主要人物の味もあって非常に面白く読めた。はじめは監禁・性的虐待という、鬼畜少年たちによる凶悪事件といった、ある意味オーソドックスな様相を呈していた事案が、次第に複雑な背景を醸し出していく。まぁそりゃそうでなきゃ面白くないんだが、派手な舞台とキャラクター設定の一方で、捜査・推理はきちんと組み立てられていて、ミステリとしても精度の高い一作だと感じた。

No.888 7点 十字架のカルテ- 知念実希人 2022/03/06 20:24
 弓削凜は、高校時代に親友を殺害された。その犯人は、精神障害により不起訴。「精神に病があれば、罪は裁けないのか?」―その解を得るべく、凜は自らが精神鑑定医になる道を選び、その道の権威・影山司に師事する。無差別通り魔殺人の犯人、我が子を殺した母親、姉を刺した弟…さまざまな犯罪の犯行者の精神鑑定を通して、凜がたどり着いた答えは―?

 凶悪犯罪を犯した者に、責任能力はあるのか?昨今の実際の事件でも持ち上がる話題に切り込んだ作品であり、その判断を下す鑑定医の立場から描かれているのがまた興味深い。鑑定医の役割は、精神疾患であるかどうかの診断を下すこと。それもこうした領域に関しては、物理的なデータによる診断ではなく、監察医の「診察」によるため、当該の人物との面接がすべて。そうした厳しい条件の中、対象者の言動をつぶさに観察しながら診断を下す過程はまさに「推理」と呼べるもので、なるほどミステリだなと思った。
 扱うケースごとに1話になっている連作短編で、ラストは凜の親友を殺害した犯人と対峙する。うまくまとまっているし、それぞれに仕掛けが施されていて、満足のいく一作だった。

No.887 7点 ただし、無音に限り- 織守きょうや 2022/03/06 20:09
 探偵・天野春近には、霊が見え、その霊の視覚記憶を読み取るという特殊能力がある。普段はその能力を生かすこともなく、浮気調査などに追われる日々だが、友人の弁護士・朽木の紹介で、時には人の死が関わる、探偵らしい依頼も。とはいえ依頼された時点では事件性のない案件なのだが、天野の特殊能力が、見えなかった真相を明らかにしていく―

 事故や行方不明で片付けられていた事案も、「霊の記憶を読み取れる」天野には、そうではない真実が見えてしまう。とはいえその記憶に音声はなく、死んだ者の視点から見た映像だけなので、そこから推理と捜査が必要になる。自然死ではなく、あるいは行方不明ではなく殺人だった、という結論だけが先に見え、しかし犯人やその様態は分からない。そんな構成により「謎」がずっと持続され、興味が尽きることなく読み進められる。現実的に解決するために真相の解明は確かな捜査、証拠がなくてはならず、その謎解きはしっかりと行われて解に至る。
 これはなかなか面白かった。

No.886 5点 朝と夕の犯罪- 降田天 2022/02/27 17:09
 アサヒとユウヒの兄弟は、幼い頃、父親と三人でオンボロ車での放浪生活をしていた。賽銭泥棒や万引きで糊口をしのぎながらの生活だが、それでも家族3人の絆があった。やがて時は経ち、アサヒとユウヒは離れてそれぞれの生活へ。大学生となったアサヒはある日、10年ぶりに弟のユウヒに再会する。久闊を叙する間もなくユウヒがもちかけてきたのは、「狂言誘拐」への協力だった―

 狂言誘拐から8年後、あるマンスリーマンションで起きた幼児遺棄事件で第2部となる本編が始まる。この遺棄事件の捜査を進めるうちに、8年前に起きた狂言誘拐事件とのつながりが見えてくるという構成。遺棄事件の加害母が、狂言誘拐で被害者役をした女ということまではまぁ予想通りなのだが、そのあとの展開がなかなかよく仕組まれていて、「ユウヒは今どこに?」の解はそれなりに意表を突かれた。
 児童虐待や貧困、親子や兄弟の絆という面でのテーマ性も感じられて、面白く読むことができた。

No.885 6点 彼女が最後に見たものは- まさきとしか 2022/02/26 20:41
 クリスマスイブの夜、新宿区の空きビルの一階で女性の遺体が発見された。捜査一課の三ツ矢&戸塚署の田所は再びコンビを組み、捜査に当たる。シリーズ第2弾。

 相変わらず飄々として謎めいた三ツ矢と、その三ツ矢に振り回される田所。読者としては必然的に田所目線となるのだが、今回は三ツ矢の不可思議さ、というか一足飛びの推理についていけない感がさらに加速。仕組みもちょっと複雑で、よく仕組まれていると思う反面、煩雑さも否めなかった。
 自分の幸せを自分で測れず、「他にどう見られているか」でしか評価できない、承認欲求とSNSという現代的なテーマで読めるところは面白かった。

No.884 5点 真夜中のマリオネット- 知念実希人 2022/02/23 23:47
 半年前に婚約者を殺された救急救命医、小松秋穂。彼を殺したのは、世間を騒がせる連続殺人鬼「真夜中の解体魔」だった。失意から前を向こうと勤務に復帰した秋穂のもとに、ある晩救急搬送で少年が運ばれてきた。必死の治療で少年の一命をとりとめる秋穂。ところが少年は、警察が追っている「真夜中の解体魔」の容疑者だった―。秋穂に冤罪を訴える少年。やがて秋穂は少年の無実を信じ、真相解明に乗り出す―

 よく言えば読み進めやすく、悪く言えばややチープな印象。真犯人なのか、冤罪なのか?定かではない状況でありながら、次第に美少年に籠絡されていく主人公の様はあまり気持ちよくはなかった。
 J.ディーヴァーばりに2度のどんでん返しがあるが、どちらも予想の範疇で、「まぁ、やっぱりそうか」が素直な感想。決して悪くはないが、氏の作品の中では埋没しそう。

No.883 8点 あの日、君は何をした- まさきとしか 2022/02/23 13:36
 広告代理店に勤める24歳女性がアパートで殺害された。彼女と不倫関係にあった男が同日から行方不明になっており、捜査にあたった捜査一課の三ツ矢と田所は当然その行方を追う。ところが捜査を進める先々で、15年前に起きた、中3男子の事故死事件が持ち上がってくる。二つの事件に関わりはあるのか?母親を殺された過去を持つ、一風変わった刑事・三ツ矢と田所が、地道な聞き取りで事件の真相を探り出す。

 「1部」で描かれる15年前の物語と、「2部」からの本編が、後半に行くにつれ次第につながっていく。よくある手法ではあるのだが、それぞれの様相からはなかなかつながりが見えなくて、「いったいこれがどう関係してくるのか?」という興味が最後まで尽きない。事故で亡くなった中3の男子が「なぜ、死ななければならなかったのか」という謎がずっと持続され、女性殺害事件の捜査の進捗と上手に歩調を合わせて明らかになっていく手際も見事だった。奇を衒った仕掛けがあるわけでもない、ある意味オーソドックスなミステリなのだが、母子(娘)関係の問題も絡めながら非常に魅力的なストーリー展開がなされていた。
 最後の1章がまた、とても効果的だった。

No.882 6点 あなたの後ろにいるだれか 眠れぬ夜の八つの物語- アンソロジー(出版社編) 2022/02/23 13:18
 雨の停留所で出会った男が語りだす、幼き日の恐怖体験(「長い雨宿り」彩藤アザミ)。「怖かった」という噂だけが流れ、どこにも所在が確認されないホラー短編(「涸れ井戸の声」澤村伊智)。「ここで殺人が行われた」と霊視する霊能者の欺瞞を暴こうとするジャーナリスト(「例の支店」長江俊和)。活躍中の人気作家たちによる、快作ぞろいのホラーアンソロジー。

 どの話もなかなか凝った仕掛けになっていて、粒ぞろいの良質アンソロジーだった。どれもホラーを冠するにふさわしい内容だが、どんでん返しなどのミステリ要素も諸所に見られ、非常に楽しく読み通せる。澤村伊智、あさのあつこ、長江俊和の作が印象に残った。

No.881 7点 同志少女よ、敵を撃て- 逢坂冬馬 2022/02/23 13:02
 時は世界大戦のころ。独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマは、急襲したドイツ軍によって、母親や村人を殺された。射殺直前、赤軍の女性兵士イリーナに救われたセラフィマは、「戦いたいか、死にたいか」――問われ、イリーナの訓練学校で狙撃兵になることを決意する。
 訓練後、従軍するセラフィマは、各戦地で同志に出会い、ともに時を過ごし、死によって別れていく。激動の時代に命がけで生き抜いた狙撃手少女の、悲しくも凛々しい生き様。

 戦争映画を観ているような臨場感のなか、極限状況をたくましく生き抜く少女たちの同志としての絆が心を打つ。誰が本当の同志で、誰が裏切り者なのか―。悲しく疑念に満ちた世界の中でも、確かな信頼関係を育んでいく少女たちの姿は、胸を打たれるものがあった。
 何年も続く戦況と、地上戦の様子が延々と描かれる中盤はやや冗長で、少し長すぎる感もあったが、ラストでは読破してよかったと思える結末があり、受賞作の名に恥じない快作だった。

No.880 7点 捜査線上の夕映え- 有栖川有栖 2022/02/06 19:55
 大阪の場末のマンションの一室で、男が鈍器で殴り殺された。男の遺体はトランクに詰められ、クローゼットの中に。金銭の貸し借りや交友関係上から、容疑者が浮上するも、それぞれに決め手に欠け、単純と思われた事件の捜査は一向に進展しない。コロナ禍で蟄居を決め込んでいた火村に、久しぶりに要請がかかるが、一筋縄にはいかない事件の様相に、火村は「俺が名探偵の役目を果たせるかどうか、今回は怪しい」と漏らす――。

 久しぶりの火村シリーズの長編、それだけで心が躍る。取り立てて奇抜な仕組みや設定があるということのない、正道の本格ミステリで、それが何よりよい。現場となったマンションには監視カメラがあり、出入りは全て記録されている中、その記録によれば容疑者たちは全て圏外になる。どの容疑者も等しく疑わしい状況の中、正攻法の捜査過程がずっと描かれていくのだが、それがよい。結末も、特に色めいた異彩さがあるようなものではないが、正道の本格ミステリを十分に堪能できた。
 大雪の家籠り(2/6)を、大いに楽しめた!

No.879 5点 作家の人たち- 倉知淳 2022/02/06 19:42
 同じ幻冬舎から出ている、中山七里の「作家刑事毒島」とかぶるなぁ~…
 出版業界、作家志望者を取り巻く諸事情を面白おかしく、毒をもって描いている連作短編集。「作家刑事…」は一応ミステリだったが、こちらはそうとも言い切れない。
 倉知淳らしいユーモラスな筆致でまぁ楽しめた。

No.878 7点 まだ人を殺していません- 小林由香 2022/01/23 22:56
 葉月翔子の亡くなった姉の夫・勝矢が、自宅に人の遺体を隠していたことで逮捕された。逮捕された勝矢には10歳になる息子・良世がおり、翔子が引き取って預かることに。世間は「殺人者の息子」と良世を糾弾する。娘を亡くし、子育てに失敗したと自責の念を抱いている翔子に、罪を犯した男の息子を育てられるのか、守っていけるのか。恐れと悩みを抱きながらも、良世と向き合おうとする翔子―

 犯罪加害者の息子を預かることになった翔子の不安。感情を表に出そうとしない良世への接し方に戸惑い、悩む。「悪魔の子」との世評に負けまいとしながらも、奇異な行動をとる良世を信じてよいかどうか悩み、葛藤する。異常な環境で育ち、心を閉ざした少年と、その少年の前で苦悩する女性の様相を非常に興味深く描いている。
 勝矢は本当に殺人を犯したのか、良世は何かを隠しているのではないか?そうしたミステリ要素も盛り込みつつ、複雑なヒューマンドラマが力強く描かれており、非常に好感の持てる作品だった。

No.877 7点 廃遊園地の殺人- 斜線堂有紀 2022/01/23 22:39
 廃墟マニアの眞上永太郎は、廃遊園地「イリュジオンランド」の特別開放に招待された。イリュジオンランドは20年前、プレオープンの日に園内で銃乱射事件が起き、4人の死亡者を出してオープンすることなく廃園になった幻の遊園地だった。呼ばれた面々は園の所有者から、園内での「宝探し」を指示される。ところがその中で、次々と参加者が殺されていく…

 絵に描いたような設定のクローズドサークルもの。廃遊園地という設定といい、申し分ない。20年前の遊園地設立の裏にある、地元住民と開発企業との確執を下敷きにして、参加者の裏事情が次第に明らかになっていく展開もベタではあるが目が離せない。
 非常に良く仕組まれた展開ではあるのだが、それゆえに思わせぶりな記述で投げかけられる伏線がちょっと多くて、全体像がだんだん分からなくなりがちだった。廃遊園地という舞台設定とそれを生かした道具立てで、文句なく王道の本格ミステリとしてかなり楽しむことはできた。

No.876 5点 騒がしい楽園- 中山七里 2022/01/23 22:19
 幼稚園教諭の神尾舞子は、世田谷にある若葉幼稚園へ転任してきた。転任早々、園児の声に対する騒音苦情や待機児童問題など様々な問題に直面することとなったが、そんな中、幼稚園で飼っている動物たちが次々に殺されるという不穏な事件が起こる。大事になることを心配していたその矢先、舞子が担任していた女児が殺害される事件が起きた―

 保育に関わる昨今の世相を映し出しながら、今の幼稚園教諭を取り巻く厳しい環境を描き出す。保護者やマスコミの愚かさをズームアップした描きかたは読んでいてかなりストレスがたまる。ただ、この事件に関しては実際に起こっても、「園」の責任はこんなふうに糾弾されるだろうか…?とも思った。(夜中に園児が殺された事件なので)
 わりと上に書いたような社会様相を描くことがメインになっている印象で、ミステリとしては、手がかりをもとに推理を組み立てていく線は薄い。いちおう真犯人が最後に明かされるフーダニットではあるが。

No.875 8点 ブラックサマーの殺人- M・W・クレイヴン 2022/01/16 19:27
 6年前、三ツ星レストランのカリスマシェフとして名声を誇るジャレド・キートンの娘殺しの罪を暴き、投獄に追い込んだポー部長刑事。ところが殺されたはずの娘が生きて帰ってきた。冤罪を生んだ刑事として、一気に批判の的となったポー。しかしポーは自身の捜査に絶対の自信を持っていた。追われる身となったポーだが、ポーを助けるべく、親友のブラッドショーとフリン警視が立ち上がる。巧妙に仕組まれた、警察を出し抜くキートンの手口とは―?

 600ページを超える力作だが、止まることなく進展する展開にどんどん読み進めてしまう。息つく間もなく繰り出される新情報から、「それによってどうなるのか?」という興味が尽きない。上手い。
 捜査過程で何気なく出てきたワードが偶然アンテナに引っ掛かり、そこから一足飛びに前進する、という展開は、多少映画的なご都合主義を感じるところもあるが、逆に不要なミスディレクションがないとも言え、長さの割に無駄を感じない。最大の謎である、「生還したキートンの娘が、血液のDNA検査によって間違いなく本人と確かめられた」ことに対するトリックは一般人には推理しようがないレベルではあったが、事件を覆う様相を解き明かしていく過程には無理な飛びはなく、丁寧に描かれている。
 本シリーズは今後もチェックしていきたい。

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ひとこと
好きな作家
有栖川有栖,中山七里,今野敏,エラリイ・クイーン
採点傾向
平均点: 6.30点   採点数: 1074件
採点の多い作家(TOP10)
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東野圭吾(34)
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