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HORNETさん
平均点: 6.32点 書評数: 1121件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.941 7点 或るアメリカ銃の謎- 柄刀一 2022/09/11 18:24
 カメラマン南美希風と法医学者エリザベス・キッドリッジは、愛知県のアメリカ領事私邸で起きた射殺事件に出くわす。庭で発見された射殺死体の犯人が分からぬまま、皆の面前で第二の射殺事件起きる(「或るアメリカ銃の謎」)
 琵琶湖にある大学教授の別荘に招かれた2人。ふいに起きた電磁波障害でクローズドサークル状態となった中、二ヶ所同時の殺人事件が発生。一つの現場に残された地の文字が指し示す意味は…?(「或るシャム双子の謎」)

 2作ともオーソドックスな本格の様式で、腰を落ち着けて本格ミステリを堪能できる。「アメリカ銃」のほうは、二つの事件の解決は完全に別々で、特に後に起きたほうの真相はちょっと…な感じだった。
 タイトル作より「シャム双子」のほうが私は好みで、クイーンの本家作に近づける雰囲気だけでなく、クローズドサークルでの2か所同時殺人という魅力的な不可解状況にダイイングメッセージまでつけられ、そうした状況が複雑ながらも非常に論理的に解明されていて、よかった。

No.940 6点 #真相をお話しします- 結城真一郎 2022/09/11 18:08
 アルバイトで家庭教師の派遣サービスに従事する大学生が営業先で感じた家族の異変(「惨者面談」)。精子提供がもたらした15年後の真実に驚愕(「パンドラ」)。学生時代の親友とのリモート飲み会中、その一人が「今からあいつを殺しに行く」と席を立つ(「三角奸計」)。子供が4人しかいない離島で、スマートフォンに初めて触れた子どもたち(「#拡散希望」)。

 「惨者面談」「ヤリモク」「三角奸計」は、おおよその仕掛けが読めるし、予想通り。読む分には面白い、普通作。
 着想が面白く、秀逸だったのは「パンドラ」。その動機には唸らされたし、ラストの締め方も絶妙。
 「#拡散希望」は既読だったが、本作品集の中ではやはり光る。

No.939 5点 緋文字- エラリイ・クイーン 2022/09/11 17:56
 エラリイと秘書のニッキー・ポーターが懇意にしているローレンス夫妻は、誰もが認める“おしどり夫婦”だったはずなのに、最近夫のダーク・ローレンスが妻マーサの挙動に神経質になり、異様に嫉妬深くなってしまった。ダークの行き過ぎた杞憂をとりなすはずだったエラリイ達だったが、ニッキーが、マーサが本当に不貞を働いていると見られる事実を見つけてしまう。「本当なのか?」エラリイは不貞が事実なのか、調べるはめに。日に日に疑いが濃くなっていくマーサ、「こんなことがダークに知れたら…」心配が募る中、ついに事件は起こる。

 かのエラリイ・クイーンが、浮気調査をする市井の探偵になったような前半。それはそれでなかなか面白いが、まぁ厚みはない展開。それより、「靴に棲む老婆」で登場したニッキー・ポーターが別人のよう。ラジオドラマにでていたニッキーともキャラが違って、出る作品ごとにキャラが変わる面白さがある。
 長編ではあるが、要はダイイング・メッセージに仕掛けられた謎1本勝負といった感が強い。上に書いた前半部分もそれなりに楽しかったので不満はないが、ミステリとしては普通作。

No.938 6点 第八の日- エラリイ・クイーン 2022/08/29 22:58
 かなり特異な設定だが、私はそれがかえって面白く興味深かった。
 「誰か」と勘違いして、村の救世主のように迎え入れられていることに、何の抵抗もせず身を任せているエラリイの良識はちょっと…と思ったが、まぁ本作の設定のためと目をつむれば、それ以降はなかなかに面白い。
 クイーンの長編にしては短めで、それが「シンプルな一発もの」という分かりやすさとしてよくはたらいている気がする。
 後半初めにみる一応の解決がダミーなのは誰の目にも明らか。そしてそう悟ったときに、真犯人もほぼ明らか。そういう意味では犯人あての「謎解き」としては浅いのだろう。だが、その動機や、そこにいたる村人たちの心理がまたミステリであり、魅力的な物語として持続し続けた。
 唯一、エピローグがちょっと飛躍しすぎていて、あまりしっくりこなかった…

No.937 7点 アリスが語らないことは- ピーター・スワンソン 2022/08/29 22:46
 大学生のハリーのもとに、離れて暮らす父が崖から転落死したとの知らせが。警察の話では、父の死体には殴打の痕があったという。ハリーは父の後妻であり継母である、美しい容姿のアリスにかすかな疑念を抱く。父の真実を探っていく中、背後にある驚愕の人間関係が明らかになる―
 過去と現在が入り交じった2部構成が巧みに編まれ、ハリーの父の裏の顔と、継母アリスの経歴が開陳されていく展開は絶妙。それぞれに過ちを犯している登場人物たちなのだが、誰が主体的な「悪意」をもっている本当の「悪」なのか、分からない(という思いがますますページを繰らせる)。

 結末まで読むと結局アリスは悪女だったのか、そうではないのか、判断が下しがたい。物語の前半に、いち「黒歴史」のように描かれていた事柄がラストの締めにもってこられるなんて。いろんな意味で絶妙なラストと感じた。
 大がかりではないが、意外性のある仕掛けも施されており、ミステリとしても味わいがある。相変わらずのリーダビリティと考えられた構成で「かなり楽しめた」。

No.936 7点 8月の母- 早見和真 2022/08/29 22:23
 愛媛県伊予市。越智エリカは海に面したこの街から「いつか必ず出ていきたい」と願っていた。しかしスナックを経営する母・美智子がいつも目の前に立ち塞がった。いつしかエリカも最愛の娘を授かり母となるが、「母性」の連鎖は悲劇を生んでいった──。実際にあった事件をモデルに描かれた、母子の強烈な愛憎の物語。

 著者自身「イノセント・デイズ」を超える一作と述べる渾身の一作。「男に翻弄される母親の母子家庭」とは昨今よく見る題材だが、伊予市を鬱屈とした閉鎖的な空間として描き、狭い世界でもがく少女の様を巧み描いており、リーダビリティは抜群。
 後半に行くにつれ、やや乱暴な展開に感じるところはあったが、歪んだ「母性」をテーマに人の小ささや力強さを描いた物語には力があった。

No.935 7点 会社の裏に同僚埋めてくるけど何か質問ある?- 夕鷺かのう 2022/08/14 20:10
 区役所に勤める公務員の志帆は、50過ぎの同僚に苦しめられていた。仕事はサボる、病気がちという名目で週の半分は休む、いい加減な仕事により区民の苦情が来たときにはいつも雲隠れ―。その尻ぬぐいのため日付が変わるまでの残業を毎日強いられる志帆。我慢の限界に来ていた志帆の耳に届いたのは、「縁切り神社」の噂だった―…全4編を収録した、シリーズ第3弾。

 相変わらず、読んでいるとこちらまで殺意が湧いてきそうな、まぁクソみたいな同僚のオンパレード。表題作と2編目「あたしの幸せな生活」が中編程度で、残り2編はショートな短編。個人的には2編目がよかった。
 人の意地汚さや過剰な被害意識、承認欲求などといった暗部を露悪的に描きつつ、それなりの謎をはらんで面白く展開していく。
 3作中、一番良かったかも。

No.934 7点 靴に棲む老婆- エラリイ・クイーン 2022/08/14 19:53
 ライツヴィル・シリーズの合間に書かれた本作。得てして「国名シリーズ」「レーン四部作」が人気の中心となる中、ちょっと異色の作風とされる本作だが、なかなかどうして面白かった。
 マザーグースの童謡になぞらえたかのように事件が連鎖していくのだが、そのことはそれほど印象深くない。イカれた一家のキャラクターも物語を盛り上げるものの、意外とフーダニットの本線は堅持されており、自分はクイーンらしいロジカルなミステリと感じた。特に後半に行くにつれて。
 ただ、第一の事件に関して、空砲の茶番劇で終わらせるおぜん立てをした張本人であるエラリイが、意に反して人を死なせてしまったことに対して、何の呵責も感じていないような振る舞いはなんか納得いかなかった。
 また、終盤でエラリイが仕掛けた「罠」は、犯人であるのなら置かれた拳銃が「空砲」であることは知っているはずなのに、わざわざそれを奪って撃つという行為の意味がまったく分からなかった。
 さらに、一旦解決に至る際の推理でも、「空砲を撃たせて終わらせよう」という相談の前に、2つのペアを含んだ14挺をすでに買ってきているのは理屈に合わないのに、それに言及せずに推理が進められているのもおかしさを感じた。
 などなど、やや論理に瑕疵がみられる点もあったが、ラストの真相に至るくだりなどはエラリイらしい理詰めの展開が楽しめた。

No.933 6点 女ともだち- ルース・レンデル 2022/08/13 17:45
 人の心の暗部や恥部を掬い上げ、サスペンスに仕立てることを得意とした作者の短編集。
 秘かに女装を趣味としている男、何十年も前に離婚した元妻に無性に会いたくなった七十男、殺人が起きた家として格安な物件に住むことにした夫婦、狼のコスプレを秘かな愉しみにしている四十のマザコン男……。舞台は日常的で、一見普通の生活を営んでいるような中で、奥底に渦巻いている偏執的な心理をさまざまに描いている。物語は各20~30pほどで、端的にまとめられた話の中で「仕掛け」を楽しむことができる。(前評でTetchyさんが書かれているように、最後、「真実がどうであったか」が明記されず、読者の読みに委ねられる書き方のものもいくつかある。)
 「ダーク・ブルーの香り」「四十年後」「フェン・ホール」「父の日」の終わり方が、ゾッとしてよかった。「ポッター亭の晩餐」は、オチのつけ方がうまいと思った。

No.932 6点 死を誘う暗号- ルース・レンデル 2022/08/13 17:05
 園芸店に勤めるジョンは、妻が昔婚約していた男と出て行ってしまい、暗澹たる気持ちで毎日を過ごしていた。妻をあきらめることができず、男と同棲している家を見にいっては悶々としていたジョンだったが、あるときその途上で偶然、陸橋の柱に貼られた「暗号文」を見つける。することがない毎日の慰みに、暗号文解読を試みるジョンだったが、いったい誰が、どんな組織がやっていることなのかさっぱりわからない。実はそれは、パブリックスクールに通う生徒たちが「スパイ活動」と称して愉しんでいる「ごっこ遊び」だったのだが―

 まったく関係のなさそうな、妻に逃げられた男の話と、少年たちのスパイ遊びの話。かなり長くそれぞれが並行して進行していくのだが、それぞれに面白い展開である。もうとうの昔に相手の心は離れてしまっているのに、いつまでも食い下がろうとする男の未練たらしさの描き方は、とてもレンデルらしい。
 二つの話がどのようにスパークするのか、かなりじらされるが、まずまずのオチではある。ただ、ちょっと題名がラストを暗示しすぎかとは思うが。

No.931 6点 虚栄は死なず- ルース・レンデル 2022/08/09 20:40
 特別な誰かでなくとも、誰にもありそうで、人には言えない、女性の疑心暗鬼な心を描いたところはいかにも作者らしくて〇。ノンシリーズ2作目ということで、(それを聞くと)まだまだ粗削りな印象にはなるものの、読むうえで苦にはならない。
 サスペンスに分類されてはいるが、主人公アリスが気にかけていた女性・ネスタ失踪の真相を追うという体から見れば、本格推理ともいえると思う。38歳という年齢で、9歳年下の男性と結婚した裕福なアリスが(現在の感覚に照らせばさほど異質なことでもないが)、次第に自分の世評に気付き、不安にさいなまれていく様相は作者の才の片鱗を感じさせる。
 「いかにも…」な路線でラストに到達し「なんだ、予想通りだな」と思わせておいてからのひっくり返し方はなかなか見事で、J.ディーヴァーばりのどんでん返し感を自分は味わうことができた。
 ただ自分の場合、レンデルのノンシリースに期待するのは病的な心の闇(?)というところがあるので(「わが目の悪魔」のような)、本作のような平和的解決(結局何も犯罪は起きていない)の読後感は満足と不完全燃焼が入り混じった感じだった。

No.930 5点 悪意の糸- マーガレット・ミラー 2022/08/05 17:01
 女医・シャーロットのもとに中絶を希望する若い女・ヴァイオレットがやってきた。シャーロットは申し出を断るが、その後、その女は死体となって発見される。やむにやまれぬ気持になったシャーロットのもとに今度は、事件を捜査する刑事・イースターがやってくる。いけすかないイースターより先に真相を探ろうと独自で動き出すシャーロット。

 まぁ…普通の出来では。手がかりなどをもとに推理が進められる展開ではないのでサスペンスに分類されてはいるが、一応フーダニットの体になっている。後半になって、二人の男が殺害されたところから一気に物語が展開する。女性心理の暗黒を描いている点では、作者らしいといえば作者らしい。

No.929 7点 悪しき狼- ネレ・ノイハウス 2022/08/04 20:05
 中心となるオリヴァー&ピアの事件捜査と並行して、いくつものストーリーが同時進行し、それが一つの結末に収斂していく手際は相変わらず見事。そのせいで登場人物が多く、少し読書の間を置くとそれらを思い出すのに手間取るところはあるが…
 これまでのシリーズで、いけ好かない悪役として描かれていたフランク・ベーンケが、一転して悲劇の人となる(そうだったことがわかる)ところなどは、シリーズを通して蒔かれていた伏線だったのだとしたらスゴい。
 しかし作品を重ねるごとに、主人公(?)のオリヴァーの存在感(探偵役としての活躍ぶり)を、ピア・キルヒホフのそれが上回っていく感がある。登場頻度自体、他の警察官たち(例えばクレーガーなど)と差異がない気がする。
 今回対するは前作に負けず劣らず、警察自体も巻き込んだ巨悪な組織。シリーズ常連の人物たちが、惜しげもなく悪となり、シリーズ舞台を降りていくという思い切りのすごさも、読者を裏切る著者の技巧となっているのではないか。

No.928 8点 死せる案山子の冒険- エラリイ・クイーン 2022/07/31 17:28
 1巻目「ナポレオンの剃刀の冒険」に続く、ラジオドラマのシナリオ・コレクション。「エラリー・クイーンの冒険」ばりに、出来の良いクイーンのパズラーを短編レベルで楽しめる。
 解説でも述べられているが、今回収録されている編は1巻目よりも登場人物が少なく、シンプルな謎解きとしての色が強い感があった。そのためか、表題作である「死せる案山子の冒険」、出色の出来とされる「姿を消した少女の冒険」は、いずれも完全に真相を看破できた。それはそれで嬉しかった(笑)
 アメリカの風俗事情や英語を理解していないと分からないものもあったが、自分としては「黒衣の女の冒険」と「忘れられた男たちの冒険」が、謎解きとして非常に魅力がありかつ納得のロジックだった。
 巻末の法月綸太郎による解説も非常に興味深かった。
 内容を忘れてしまった頃に再読して楽しみたいなぁ。

No.927 8点 ナポレオンの剃刀の冒険- エラリイ・クイーン 2022/07/30 23:32
 1940年代に放送されていたラジオドラマの脚本ということだが、クイーンの上質なロジカルミステリを定期的に堪能できたなんて…ワクワクしただろうなぁ。
 書籍以外のメディアにも積極的だったというクイーンらしく、媒体を変えても手を抜くことなく上質の謎を提供していると感じる。さらに、オリジナルにはない登場人物・秘書のニッキイ・ポーターや、ちょっとキャラの違うヴェリー刑事部長など、違った楽しみもある(大衆向けの改変だったのかもしれないが)。
 いずれにせよ、「エラリー・クイーンの冒険」に勝るとも劣らぬ粒ぞろいの謎解き短編(?)集に仕上がっている感じで、クイーンファンとしては十分に楽しめた。
 個人的には「悪を呼ぶ少年の冒険」「ブラック・シークレットの冒険」が秀逸。「呪われた洞窟の冒険」は、なかなか原始的な真相で懐かしい。「〈暗雲〉号の冒険」は、面白かったんだけど、録音した音声(蝋管って何?(笑))を聞いた時点で、そこにいる登場人物たちは気づかないの?とは思ったけど。

No.926 7点 ビブリア古書堂の事件手帖III ~扉子と虚ろな夢~- 三上延 2022/07/30 23:15
 離婚した前夫の死により息子に相続されるはずの約千冊の蔵書を、古書店主である前夫の父親が古本市で売ろうとしている。それを阻止してもらえないか―。篠川栞子のもとに舞い込んだ新たな依頼。だが、その「古書店主」は、栞子も世話になっている、信頼できる同業者だった。何か事情があるのでは―ビブリア古書堂も出店する3日間の古本市でそれを探る役割は、夫の大輔と娘・扉子に託された――。

 シリーズ開始から10年。年1冊という緩い刊行ペースだが、その分一作一作が丁寧に作りこまれている好印象。今回は「ドグラ・マグラ」が題材となるなど、ミステリ愛好家にとっても興趣をそそる内容。
 古書を題材とした「日常の謎」で、これだけ仕掛けを考え続けられ、しかもその質が落ちないのはスゴイと素直に思う。大きく三つの事件が描かれた一冊だが、「父親と祖父の思惑は?」という謎が持続的に貫かれており、その仕組み方も非常に技巧を感じる。10作目にしても色あせない、好シリーズである。
 今回、事件に絡んで樋口恭一郎という高校生が登場するが、これが今後扉子の相手役になっていくのか?大輔&栞子のパターンの焼き増し感は多少あるが…

No.925 7点 イノセンス- 小林由香 2022/07/28 22:10
 音海星吾は中学生時代、不良に絡まれた彼を助けようとした青年を見捨てて逃げてしまった。青年はその後死亡、以来星吾はネット上で誹謗中傷を浴び続け、いつしか人と関わりを避けて生きるようになってしまった。
 大学生になっても人と関わらず生きる星吾だったが、そんな星吾を狙うように花瓶が落とされたり、車道に突き飛ばされたりと、不審な事件が続く。バイト仲間の吉田光輝、サークルの顧問・宇佐美ら、数少ない星吾を思う周囲の人達は星吾を心配し、事の真相を探ろうとするが――

 中学生なりの葛藤中で犯してしまった過ちに、ずっと縛られ続ける主人公の姿には考えさせられるものがある。そうした社会的ドラマを幹にしつつ、「誰が何を企んでいるのか?」という謎も持続され、ミステリ的にも魅力ある展開。
 デジタルタトゥで刻印を押された若き男子の苦悩と、疑心暗鬼になる彼の視点から描かれるフーダニット。何よりも結末がよく、読後感も非常に良い一作だった。

No.924 6点 穢れた風- ネレ・ノイハウス 2022/07/28 21:47
 風力発電施設建設会社のビルの中で、夜警の死体が見つかった。同時に、なぜか社長室の机の上になぜかハムスターの死骸が。一体何を意味しているのか?捜査を進めると、背景には風力発電、再生可能エネルギーに関わる利権や私怨がうごめく。人々の欲望と巨大な陰謀を目の当たりにする刑事オリヴァーとピア、事件の全体像はいったい―

 オリヴァー、ピアを取り巻く常連陣のプライベートな内容もかなり織り込まれているのは本シリーズの「売り」でもあるが、ややもするとミステリ以上にそちらに興味がいってしまうのはよいのか悪いのか。
 風力発電、さらには地球温暖化に関する疑獄という大きな枠組みの中で、極めて狭小な人の欲が揺れ動く様はなかなか面白かった。
 そうした物語としての面白さが勝つからか、「ミステリ」としての驚きや感動は印象にない。総じて、読み進めるのは楽しかったが、内容はあまり記憶に残らないだろう。

No.923 7点 密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック- 鴨崎暖炉 2022/07/28 21:33
 「密室の不解証明は、アリバイ証明と同等の価値がある」と法廷で認められ、解けない密室である以上無罪が保証されることになった日本。そのことにより世は、密室殺人が乱発する事態となった。そんな世情の中、高校生の葛城香澄は密室推理作家として名をはせた故・雪城白夜の残した館「雪白館」に泊まりに行くことに。すると、絵に描いたようなクローズド・サークル内で、衛に描いたような密室殺人が次々に起こる―

 タイトルが「密室黄金時代」とあるが、まさに「本格黄金時代」を懐かしく感じさせるような、物理的な密室トリックのオンパレード(もちろんトリックは現代並みだが)。昨今の多様化したミステリに慣れ、そうした新たな「仕掛け」で騙されることが好きな読者にはまぁ合わないかも。
 私は好み。ここまで物理的な密室トリックで貫く感じは、最近では貴志祐介の「防犯探偵シリーズ」以来か。
 ラストにはストーリー自体の仕掛けも用意されていて、ただただ愚直な昔ながらのモノで終わるわけでもない。ユーモラスな筆致も心地よく、十分に楽しんで読めた。

No.922 4点 少年は死になさい…美しく- 新堂冬樹 2022/07/11 20:20
 恭介のもとに、1枚のDVDが送られてきた。その中身は、妻と娘、そして妻のお腹の中の胎児が弄ばれたうえ惨殺される、極悪非道な少年たちの犯罪シーンだった。愛する家族の凌辱・惨殺に半狂乱になる恭介…となるかと思いきや、恭介の口から出た言葉は「こんな殺し方は…美しくない」。恭介は、犯罪少年たちを超えるレベルのサイコパスだった―

 人の心を持たぬのかと思えるほど極悪非道な少年たちの残虐行為―ところが、その被害者家族であるはずの男は、それを凌駕するほどの異常者だった。と、つかみはなかなかに興味深く、その先の展開が期待されたのだが、その後のストーリーはある意味「その通り」の展開で、ただただ残虐シーンが続く。恭介の目論見が何らかの形で崩れたり邪魔されたりするほうが面白かったと思うのだが。
 それなりによい結末を期待する読者であれば、ただただ胸糞悪い、救いようないストーリーと感じる一作。

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ひとこと
好きな作家
有栖川有栖,中山七里,今野敏,エラリイ・クイーン
採点傾向
平均点: 6.32点   採点数: 1121件
採点の多い作家(TOP10)
今野敏(50)
有栖川有栖(45)
中山七里(40)
エラリイ・クイーン(37)
東野圭吾(34)
米澤穂信(21)
アンソロジー(出版社編)(19)
横溝正史(19)
島田荘司(18)
佐々木譲(18)