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虫暮部さん
平均点: 6.21点 書評数: 2040件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.360 6点 朱色の研究- 有栖川有栖 2017/04/18 13:31
 大野夕雨子殺しの動機は共感出来る。本作の優れたポイント。
 だが、作中でアリスも述べているが、崖の上から石をぶつけてひとを殺す、というのは確実性に乏しい気がする。共犯者に依頼する際に指定するような手段か疑問。加害者と被害者に距離がある殺し方じゃないと、実は既に死んでいた、とはならない。そうならないとの後の殺人の動機につながらない、という作者の都合?それはずるい。
 また、マンションでの山内陽平殺しで犯人が講じた工作については、そんな賭けのような行動に出る心理的な裏打ちの説明が強引だと思う。余計なことしなければ容疑者圏外だったのでは。

No.359 6点 オーブランの少女- 深緑野分 2017/04/14 10:19
 物語の骨格は古典的だが諸々の味付けが非常に巧み。と言う褒め言葉はそのまま批判でもある。この作者にとって、ミステリは目的ではなく手段なのだろう。その前提で読めばなかなか高水準の短編集だが、私はもう少しミステリ的な捻りの効いたものが好きなので……「片想い」のキャラクターは良かった。

No.358 9点 十角館の殺人- 綾辻行人 2017/04/03 14:19
 孤島もので時々見られる“このひとたち、どうしておとなしく殺されるまでグダグダしているの?”という感じが無いのは立派。
 気になった点。犯人が“各人の部屋を調べようと云いだした時には、少しばかり焦った~まさか身体検査までは行うまい”と述懐しているが、これは見込みが甘くないか?自分の命が懸かっているのだから私だったら検査を強行するけどなぁ。
 既に死者が出ている状況で、ミステリ研の人間が、コーヒーカップを洗わずに使う、というのは少々都合の良過ぎる不注意だと言えなくもない。

No.357 6点 - 麻耶雄嵩 2017/03/30 10:16
 イチャモンをつけるなら、これはあまり"螢”って感じじゃないな~。人物、館や楽団の名として繰り返し登場する語だが、作品世界を貫いて象徴するにはイメージがなんか違う。もっとぴったりはまったキーワードがあれば作品に凄みが出たのでは。

No.356 7点 D坂の美少年- 西尾維新 2017/03/28 10:12
 もはやミステリ要素はどうでも良くなっちゃったけど、“応援演説”が凄い。いろんな意味で。まぁこのシリーズはこれでいいや。

No.355 6点 鳴風荘事件- 綾辻行人 2017/03/27 09:36
 青柳先生殺害時の(不完全)密室トリックについて。“裏の裏をかいた”という論理が出て来るが、それがアリなら“裏の裏の裏をかく”という考えも成立するわけで、結局どうでも良くなってしまう。この部分は好きじゃないな。
 ところで、加害者と被害者を引き合わせたのは、つまり事件の遠因となってしまったのは深雪である。それを踏まえると、この後はライトなキャラクターを維持出来ない。シリーズの続きが書かれない理由のひとつはその点ではないかと邪推する私です。

No.354 6点 殺人方程式- 綾辻行人 2017/03/18 11:08
 共犯者に随分ハードルの高い行為を課している気がする。主犯と共通の目的意識を持つ者ならともかく、脅迫して動かしているだけの相手に首無し死体を扱わせるのは、私だったら不安。自分が同じことをした場合、びびって腰を抜かさない自信は無いな~。他にも、関係者が想定外の動きをしたら破綻しそうな箇所がチラホラあって、結構綱渡りな殺人計画である。

No.353 6点 富豪刑事- 筒井康隆 2017/03/06 09:43
 作者はもともと本職のミステリ作家ではないことを逆手にとってミステリの持つ形式主義に対する批評を行っている。これを読むと、所謂バカミスにはもっと批評的な作品があっても良い気がするが、私が知らないだけだろうか。
 ところで「密室の富豪刑事」。部屋を炎上させるトリックはあるものの、被害者をその場に束縛する手立てが講じられていないのはおかしい。

No.352 9点 アルファルファ作戦- 筒井康隆 2017/02/28 08:57
 「人口九千九百億」が一番好きです。
 近年になって編集されたテーマ別アンソロジーよりも、こういうオリジナル短編集のほうが面白い。

No.351 3点 ひとごろしのうた- 松浦千恵美 2017/02/24 10:29
 あまり共感出来なかった。リアリティは重視せずに、音楽シーンを良く知らない読者に向けて、そういう読者が“いかにもありそう”だとイメージしそうな(だけど実は現実的でない)業界エピソードを、優先的に並べたよう。違和感のある描写多数。

No.350 9点 女王国の城- 有栖川有栖 2017/02/20 10:06
 江神の台詞にもあるように、〈ペリハ〉にはあまり効き目がない。“捜査を混乱させるためのフェイクの手掛かり”をあまり自由に解禁すると、犯人は(というか作者は)ホワイダニットをぶっちぎって幾らでも奇天烈な事件現場を無意味に作り出してしまうではないか。蛇足だと言う気もするが、しょーもないダイイング・メッセージを持ち出してしまうのはそれこそクイーンの血を継ぐ悪癖か。
 読書の楽しさにじっくり浸れるこの長さはありがたい。やはりこのひとは文章がさりげなく上手い。 

No.349 8点 十二人の死にたい子どもたち- 冲方丁 2017/02/06 10:46
 面白い。基本設定が判ったあたりで“こうだったらつまらないな~”と危惧していた通りの展開ではあったのだが、相応の説得力があり納得出来る結末だった。ただ、登場人物の移動に関する議論はチマチマし過ぎ。

No.348 8点 結物語- 西尾維新 2017/02/01 11:56
 〈物語〉シリーズ自体は、ジャンルでいうなら青春オカルト・ファンタジーといったものに該当するのだろうが、本書の第一~三話はミステリ要素を含んでいる。特に第二話はファンタジー要素無しでも成立しそうな話。いずれもミステリ的には小品だが、主要キャラクターを総ざらいしつつ新キャラを巧みに絡ませて上手く膨らませている。いや逆か? キャラクターの将来の話に味付けとしてミステリを絡ませてる? 際限なく広がって行くこのシリーズは水増しと言えば水増しなのだろうが、その水こそがとても美味で私は好き。

No.347 5点 遠い唇- 北村薫 2017/01/24 09:11
 「しりとり」の鮮やかな解は印象的。
 しかし短編集全体としては期待したほどではない。北村薫の場合、心の機微を繊細に描く類のものは、文章が巧みなだけに綺麗になり過ぎで却ってフックに欠ける。犯罪絡みのミステリのほうが好き。
 「パトラッシュ」で、ミドを平たく発音するというのは不自然。“ミ↑ド↓”だから寧ろカッコウに近いでしょう。
 「付記」の“うっかり犯人が当たってしまったらつまらない、驚かせてほしい”には大いに共感。私も推理はしない派。

No.346 6点 深泥丘奇談・続々- 綾辻行人 2017/01/16 10:46
 作者の頭がちょっと特殊な状態で、世界がこういう風に見えるようになっていて、本人はあくまで実話のつもりでコレを書いている……んだったら、にゃあ、面白い。

 「減らない謎」に出て来る“肥満に悩んでいる人よりも、飢餓で苦しんでいる人のほうが遥かに多い”というのは、言葉の定義にもよるだろうけど、実際は逆なようです。

No.345 5点 θは遊んでくれたよ- 森博嗣 2017/01/11 14:22
 こんな時間、こんな場所に、二人だけで立ったとき、相手が自分を殺そうとしてるか、それとも、そんな気持ちはこれっぽっちもないか、それくらい、わかるんじゃないか?
 というラヴちゃんの意見は、あまり論理的ではないが、非常に説得力を感じた。しかし(あくまで仮説とはいえ)事件の真相でほぼその通りのことが行われているんだよなぁ。なにそれ。
 思わせ振りなだけで回収する気のない伏線の存在感が大き過ぎて、相対的に事件の核がしょぼく見える。

No.344 4点 Φは壊れたね- 森博嗣 2017/01/04 11:04
 この密室トリックは意味が無い。室内にもうひとりいるなら、そいつが刺せば良かったじゃないか。犯人は何がしたかったのか、この行為が何故それをしたことになるのか。作者は“人間の内面は読めない”という言い訳に頼り過ぎである。

No.343 6点 月と太陽の盤- 宮内悠介 2017/01/03 11:16
 『盤上の夜』応用編のような、但しSF要素は皆無の連作。表題作で殺人事件を扱ってミステリ度が上がったのにそのあと人情話みたいな2編で幕、と煮え切らない。というか作者のミステリに対するこだわりはあまり感じられず、囲碁の周囲の人の営みを描くのにミステリの枠組みを利用した感じ(悪いことではない)。文章は巧みだし味わいはあるが、同じ作者のSF作品ほど凄くはない。

No.342 7点 潮騒のアニマ- 川瀬七緒 2016/12/27 09:18
 保険契約についての説明に疑問が残る。
 トシゾーのキャラがナイス。やはり動物には勝てないか。
 果歩が自殺者の最後の一人なら、犯人は遺体をそのまま海に捨てればいいのでは?馬鹿正直に洞窟に運ぶ必然的な理由が欲しかった。
 あとラストがバタバタッと進み過ぎで、死者達が惹かれていたカルトなイメージが掘り下げられていないのが残念。

No.341 7点 四季- 森博嗣 2016/12/09 16:01
 厳密を期すなら、原理的に作家は自らより賢い登場人物を創造することは出来ないはずである。しかしだからといって天才キャラは不可、としてしまってはつまらないわけで、真賀田四季の天才っぷりもそういう“設定”ということでまぁ良い。
 ただあまりに突き抜けた設定にし過ぎたせいで、四季を記述する言葉が的確である担保が失われてしまった感がある。例えばイエスと言った場合にそれが同時にノーも意味しておりしかもそれがどちらであっても特に変わりはない、みたいな(作中にも“天才の思考に存在する一般化されていない概念には対応する言葉がないかもしれない”といった台詞がある)。小説を読んでいてこういう感覚になることはなかなか無いことで、それは確かにこのトゥー・マッチなキャラクターの価値として充分なものだと思う。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.21点   採点数: 2040件
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