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虫暮部さん
平均点: 6.20点 書評数: 2075件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.575 7点 46番目の密室- 有栖川有栖 2019/07/30 11:55
 揚げ足取り。
 煙突の中の暗号は、出鱈目を書いておいても(いや、何も書かなくとも)犯行に於いて問題は無い。それなのにわざわざちゃんとした暗号を作って使っている。作中で突っ込んで“ミステリ好きの矜持です”とか言わせればいいのに。
 火村が小さな声で歌ったザ・ローリング・ストーンズ「Paint It, Black」。実は作中の表記に該当する適切なフレーズは存在しない。

No.574 5点 もういちどベートーヴェン- 中山七里 2019/07/30 11:54
 シリーズ読者なら先刻承知な岬洋介の情報を殊更秘密めかして書く意義はあるのか。刑事事件についても表層的だし、推理の根拠は乏しいし、秘匿したい事情を持つものが日常的にサインを示すのは矛盾している。なんだか色々中途半端だ。寧ろ新聞記事にあった死体遺棄事件が興味深い。

No.573 8点 Ank: a mirroring ape- 佐藤究 2019/07/26 11:37
 前半・何が起きているのか?:9割方見えている正解に向かって、残り1割の疑問だけを餌に読み進め、と言う感じで少々苛々。情報開示の手順にもっとやりようがあったのでは。
 後半・どう収束するのか?:期待したほど主題が広がらず。話の3分の2を過ぎてから偶然、有力な人物が絡んでくるのも御都合主義的だ。ところで、障害のある人は暴徒化しないように思うが、その点については殆ど触れていないね。
 総体としてのネタ/ストーリー/キャラクターは充分面白いが、それらをベストの形で展開し切れてはいないと思う。藤田和日郎の某漫画を髣髴させるのはまぁ偶然かな。

No.572 7点 刑事のはらわた- 首藤瓜於 2019/07/26 11:33
 警察小説の皮をかぶった新本格? 登場人物の気持の推移が緻密な描写ではなく、どんよりした一時期を経ていつの間にか変な方を向いている、と言うのが却ってリアル。サンドイッチのエピソードもその空気感を効果的に表現している。『刑事の墓場』と同系統だと誤認されそうなタイトルはそれ自体がミスディレクション? 変なものを書こうと言う志を買いたい。

No.571 6点 星空の16進数- 逸木裕 2019/07/23 11:21
 作中の“色彩”に関する繊細な美意識は、与太話とまでは言わないが、文学表現によるデフォルメがあってこそ成立する或る種架空のものであって、興味深いものの限界が見える。一方、共感出来ない登場人物の一人称で描き切った力技には、読んでいて居心地の悪さを感じたが、それはそれでアリだと評価したい。最終的に明かされる諸々にはスッキリしない部分もあり、“2010年代の探偵業事情”みたいな要素が一番面白かった。

No.570 8点 DEATH NOTE アナザーノート ロサンゼルスBB連続殺人事件- 西尾維新 2019/07/23 11:20
 『DEATH NOTE』は熟読したので、名前を見ればキャラクターの顔が浮かぶ。そんなファンの性質を逆手に取って一本取られた。
 原典には“2年前にLの下で働いたことがある”と言う南空ナオミの台詞があるので、それがつまりコレなのだろう。人がポコポコ死ぬ『DEATH NOTE』の中でも、南空ナオミの死は理不尽かつ無念の最たるもので、多大な傷痕を読者(私)に残したものだが、その彼女に再登板の機会を用意するとは粋な真似をしてくれる。

No.569 7点 指名手配作家- 藤崎翔 2019/07/16 16:09
 のっけからあからさまなB級臭に、それならそのつもりで行こうと思ったら、確かに安っぽいのだが存外にその要素は有効に働いていた。禍福は糾える縄の如しと言うが、善悪とか清濁とかをごっちゃにした展開には、なんじゃそりゃと突っ込みつつ楽しく読めた。設定上必然的に主人公には好感を持てないけれど、不覚にも幾度か涙したちょろい私。

No.568 7点 大幽霊烏賊 名探偵 面鏡真澄- 首藤瓜於 2019/07/16 16:08
 最初の数章を読んだ時点で否応無しに想起させられるのは『ドグラ・マグラ』。衒学趣味は嫌いじゃないし、伏線回収など期待してはいなかったが、あっけなく不時着して四散したのは残念。作者は物分かりが良過ぎだ。ここまで飛び上がったのだから、狂人の論理を駆使して、もう少し踏ん張って欲しかった。

No.567 8点 殺人犯 対 殺人鬼- 早坂吝 2019/07/16 16:07
 ネタを重ね合わせてレッド・ヘリングにする今回のトリックはかなり好み。みごとに騙され歓喜の白旗を掲げた。ただ、軽い文章なりにもう少しプラス・アルファが欲しいかも。もっと多くの子供達が現地にいる筈だが、その雰囲気が感じられない。いちいちモブに名前を付けて必要以上に読者を混乱させない親心、ってことでいいのかね。

No.566 8点 ヒト夜の永い夢- 柴田勝家 2019/07/09 10:49
 『ドグラ・マグラ』を筆頭に先行する同系統(?)類似(?)作品は幾つも思い付くが、全然負けていない。内容が似ていると言う意味にあらず。博覧強記で広げる風呂敷は縦横無尽。さりとてきちんと着地を目指すでもなく、夢と現の間で右往左往するは奇天烈なエログロナンセンス。脱線した部分の方が楽しそうな筆致であることもこの手の奇書の共通点だ。

No.565 6点 リラと戦禍の風- 上田早夕里 2019/07/09 10:47
 文章の力強さで読まされてしまうが、戦争を題材にすると或る程度はこうなるという定番みたいな部分もあって、ファンタジーを混ぜた割には地に足の着いた話に終始しており、力作であるがゆえの息苦しさが少々感じられた。後半で時間が2年飛んじゃうのは如何なものか。

No.564 8点 夫の骨- 矢樹純 2019/07/09 10:44
 短編集としての欠点は、作風が一貫し過ぎていること。“家族”が主題。事件を探偵が解くのではなく、情報を制限し“読者に対して”謎を演出する形式。手堅く普遍的な文体や人物設定(“嫌な感じ”の匙加減が絶妙)……ゆえに非一気読み推奨、一話ずつばらして賞味するが吉。
 収録作品はどれもレヴェルが高くて正直びっくりした。一編選ぶなら「柔らかな背」(人殺しの場面が愉快)。
 因みにかなり毛色は違うが漫画原作者としての仕事もなかなか面白い。

No.563 5点 中野のお父さんは謎を解くか- 北村薫 2019/06/24 11:01
 三択クイズの出来があまり良くない事が、凄く気になった。
 “『広辞苑』に載っている” は定義が曖昧。“夢野久作” の項を見ると『ドグラ・マグラ』に言及しているので、広義で “載っている” と言えなくもないのでは。厳密に “見出し語として採用されている” とすべき。
 “存在しないものはどれでしょう” は悪魔の証明であって、存在を自分が知らない、探しても見付からない、からと言って “存在しない” とは限らない。海賊版があるかもしれないし。翻訳の存在を確実に否定出来る立場の人っているのだろうか?

No.562 6点 こうして誰もいなくなった- 有栖川有栖 2019/06/24 10:58
 文章が良いので読まされてしまうが、それほど決定的な短編は見当たらない。
 結局、表題作が最も面白いが、作者がこういう形の本歌取りを試みた意図はいまひとつ判らなかった。それと犯人が何か変な行動をしているが、少々アンフェアでは。何故そこで被害者を制止する? 何故せっかくの好機にさっさと殺さずお喋りしている?

No.561 5点 事故係 生稲昇太の多感- 首藤瓜於 2019/06/24 10:56
 なにせ『脳男』の作者だからどんな大技を見せてくれるかと期待したら、そういうドカ~ンとした部分の全然無い地味な警察小説。何より主人公に殆ど共感出来なかったのは痛い。
 第四章に挿み込まれたレッカー業者のエピソードは良かった。

No.560 6点 怪物の木こり- 倉井眉介 2019/06/17 12:19
 第17回このミス大賞受賞作。
 漫画ならもっと楽しめたかも。ストーリーは面白いが文章がスカスカ。と感じるのは“小説は深みのある文章で書かれるべき”との固定観念に縛られているせいか。“あくまでも虚構性の強い世界だからこそ成立する物語”との選評には同意するが、それがネガティヴな要素だとは思わない。それはそうと、乾が名刑事には全然見えないのは大問題だ。

No.559 4点 不見の月- 菅浩江 2019/06/17 12:17
新人警備員が右往左往する連作集。どの話も“謎とその解明”が軸で、SFミステリという形態をかなり明確に意図しているようだ。しかし、アートにまつわる諸々の心情がやけに説明的に説明されており、どうにも硬い。菅浩江の作品はひととおり読んでいるが、もう少し繊細な筆致じゃなかったかなぁと首を傾げざるを得なかった。

No.558 5点 本と鍵の季節- 米澤穂信 2019/05/28 11:25
 高校生が推理合戦に興じる状況設定に苦心している印象で、素直に読めたのは最後の“宝探し”くらい。また、私の読み方が浅いのか、二人の資質の差異があまり感じられなかった。
 “人気がない図書室”の読み方はどっちだ? (とわざわざ書くのも大人気ないが……)

No.557 6点 霧越邸殺人事件- 綾辻行人 2019/05/28 11:23
 綾辻行人の一連の館ものは、どれも割と(叙述)トリックのコンセプトが明確でしかもそれらが上手く分散している為、個々の存在感が際立ったシリーズになっていると思う。
 それに対して本書の要素“ホラー”は物足りない。構成上の必然は判るし、本格との絡め方もこれはこれで上手い。しかし意地悪く言えば“暗号クイズがオマケとして付いている”に過ぎない。単独で読むならともかく、綾辻行人作品リスト中の一冊として見ると“良作だが地味”との印象。

 西條八十の自鳴琴は“読者には知り得ない手掛かり”と言うことでS.S.V.D. へのオマージュと言うかジョーク?
 “ウォークマン”と言う語を解説無しで使っているがいつまで通じるだろうか?

No.556 5点 刀と傘 明治京洛推理帖- 伊吹亜門 2019/05/22 11:33
 第19回本格ミステリ大賞受賞作。
 舞台は明治維新前後の激動期。人々の行動原理も命の軽重も現代とは異なる時代設定を上手く謎に絡めている。ネタの見せ方を心得ている人だと思う。手堅い文章力で歴史小説としての読み応えも、多分あるのだろう。
 しかしそこが却って、ぶっ飛んだ部分の無さ、と言うことで私の嗜好とは食い違う原因にもなってしまった。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.20点   採点数: 2075件
採点の多い作家(TOP10)
山田正紀(112)
アガサ・クリスティー(80)
西尾維新(73)
有栖川有栖(52)
エラリイ・クイーン(51)
森博嗣(50)
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