皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1953件 |
No.453 | 8点 | 小人の巣- 白河三兎 | 2018/04/04 11:37 |
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自殺幇助サイトを軸に据えた連作集。こういうテーマは回を重ねる程にハードルが高くなるのであって、死にたい理由は二話目が一番面白いというのは構成上の不備だなぁ~、などと思いつつ読み進んだら最終話で見事に泣かされた。この作者は“これが言いたい”という熱い思いと、そのために必要な段取りをきっちり組む冷徹さを良いバランスで併せ持っていると思う。 |
No.452 | 6点 | さよなら、わるい夢たち- 森晶麿 | 2018/04/04 11:33 |
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視点人物を始めとして登場人物が非常にステロタイプで、ストーリーの8割までは退屈なのであるが、残り2割が鮮やかな逆転劇。さほど長くもないし、投げ出さず読み切るだけの価値はある。しかし、構成上の必然なのは判るが、前半ももう少し何とかならなかったのだろうか。他の作品で駆使していた技巧的な文体を封印しているのも不満だ。 |
No.451 | 7点 | 超動く家にて- 宮内悠介 | 2018/03/29 12:51 |
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ポストヒューマン系SFの旗手としてデビュー後、着々とフィールドを広げてきた著者が満を持して放つ“くだらない作品”集。実はミス研出身だそうで、ミステリ・ファン向けの与太話も幾つか含む。「エラリー・クイーン数」? |
No.450 | 6点 | プロローグ- 円城塔 | 2018/03/29 12:49 |
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登場人物への感情移入の延長として自分が猫や神や異星人である気分になる本はたまにあるが、“プログラムになる”という疑似体験は初。表と裏がめまぐるしく入れ替わり、無計画な増築のようにいつのまにか話が重なり合い、しかし“わからないことをなんでもメタって呼ぶのはよくない”と釘を刺される。漢字に関する諸々は特に面白かった。 |
No.449 | 7点 | 頼子のために- 法月綸太郎 | 2018/03/22 14:13 |
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そういえば四半世紀前、私は本書を読んでジョイ・ディヴィジョン『クローサー』のCDを買ったのだ。ホコ天場面の“ボーイズ・ビー・シド・ヴィシャス”とは田口トモロヲがやっていた“ばちかぶり”の「未青年」のフレーズ。
結末を朧げに覚えている状態で読み返すと、綸太郎は論理と言うよりかなり飛躍した直感で真相に辿り着いたような唐突な印象を受けた。 |
No.448 | 6点 | 写楽百面相- 泡坂妻夫 | 2018/03/22 14:12 |
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必ずしも写楽がストーリーの主軸と言うわけではないので、このタイトルは如何なものか。正体の謎に対してもっとがっぷり四つに取り組んだものを期待してしまったので若干の肩透かし感あり。
そのせいもあってか、物語の本流よりも、細々としたディテールのほうが楽しかった。時代風俗に関する注釈をあまりせずにすいすい進む筆致は心地良い(が、それを全てストレートに理解するにはいかんせん私の知識が足りない)。 |
No.447 | 6点 | エピローグ- 円城塔 | 2018/03/19 09:35 |
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またぞろ韜晦と嘲弄に満ちた脱力的舌先三寸で何だか良く判らんという失望と共に読了する期待の下に手に取った本書は豈図らんや意外な程に“物語”している。殺人事件が先か探偵小説が先か。あなたたちの創造性は、出典を忘れる能力です。もはや、人類に理解される必要を見いだせない。神林長平『戦闘妖精・雪風』を彷彿とさせる、という比較は文庫版解説で書かれちゃったが、筒井康隆の物語破壊を経由して夢野久作『ドグラ・マグラ』につながる気もする物語の物語。まぁやっぱり“判る”とは言いがたいんだけど。 |
No.446 | 5点 | ディレイ・エフェクト- 宮内悠介 | 2018/03/04 11:28 |
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SFともミステリとも謳ってはいないが、それっぽい短編が3編。「阿呆神社」は筒井康隆のようなペーソスを感じさせるドタバタで面白かった。残りふたつは、悪い意味で純文学的な、カタルシスを排除した書き方で勿体無い。これはこれで“キャッチーに盛り上げればいいってもんじゃないだろ!”という実験かもしれないが、結果として私には物足りなかった。 |
No.445 | 7点 | ガニメデの優しい巨人- ジェイムズ・P・ホーガン | 2018/02/27 08:49 |
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『星を継ぐもの』の続編。前作で残された謎の解明と言う側面もあるが、なによりも生身で現れる巨人達の愛すべきキャラクターが良い。 |
No.444 | 8点 | 他に好きな人がいるから- 白河三兎 | 2018/02/26 10:18 |
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鬱屈した高校生と不可解な出来事が交錯して世界の残酷さを学びつつ微妙な成長譚を織り成す青春ミステリ、と説明してしまうと、あぁそのパターンね、で片付けがちだけれど本書は素直に読めた。ベタなテーマを巧みに作品化出来るひとが結局は生き残る、と言う意見もあるし。峰さんなんか冷静に見ればあざとい設定だけど読んでいる時はときめけた。後半ちょっと人物の気持ちの流れがよく判らない部分は私の読み方が下手なのか?
どこがどう違うと上手く説明出来ないが、私は辻村深月あたりよりこの作者の方が好き。冷たい水にそっと手を入れるような気持で読む。 |
No.443 | 6点 | 分かったで済むなら、名探偵はいらない- 林泰広 | 2018/02/20 10:14 |
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通例なら“先行作品をこんなに引用するのは如何なものか”と苦言を呈するところだが、本書でことあるごとに俎上に乗せられる元ネタはシェイクスピアの、知名度は高いが実際にきちんと読むひとは意外に少なそうな代表作であって、流石にこのレヴェルのタイトルに対してネタバレ云々は野暮だろうか。
西澤保彦(の方向性のひとつ)や蒼井上鷹あたりを私は連想したけれど、基本のアイデアもそのアイデアを具現化するためのアイデアも面白いし、連作集として一冊分の数を揃えるのは大変だったろうと思うが、説明的(安楽椅子探偵だから)でライトな文章と相俟っていまひとつインパクトに欠ける。でもまぁ、軽く読めちゃうのは必ずしも悪いことではないしね。 表題は内容と合っていないと思う。謎を解いた後に事態を鎮静させるための名探偵の外連味の有効性、みたいな話ではない。 |
No.442 | 5点 | 天帝のみはるかす桜火 - 古野まほろ | 2018/02/19 09:48 |
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こんなにあっさり読める『天帝』なんて意義があるのだろうか。エネルギーを削られつつ、“なんじゃそりゃ”と失笑と突っ込みを限り無く繰り返しつつ、息も絶え絶えに終幕へ辿り着く諦念と歓喜の倒錯した合わせ技こそが『天帝』の醍醐味ではないのか。反語的にあの分厚いシリーズ本編への思慕を再確認させられた箸休め作品集。
「修野子爵令嬢襲撃事件」、まりが最後の瞬間まで『木馬』を把握出来なかったのは、能力の設定と矛盾するのでは。出来たはずのことをうっかり見落としたという意味で“ケアレスミス”と言うことだろうか。 |
No.441 | 8点 | 迷路館の殺人- 綾辻行人 | 2018/02/16 10:36 |
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鼻血の確認の為に自らの鼻腔を覗かせる医師、の場面があまりにも印象的。というか、四半世紀ぶりに再読したところ、このワン・シーン以外は何も覚えていなかった私である。 |
No.440 | 6点 | 皇帝と拳銃と- 倉知淳 | 2018/02/13 09:45 |
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最後の話には見事に騙された。
しかし、ネタバレしつつ書くが、他に関しては本当に言い逃れ出来ないのだろうか。考えてみた。 「皇帝と拳銃と」――実は私は最近、射撃を始めたのですよ。それでつい、この執務室が防音なのをいいことに、こっそり運んで来たあの本を的にして発砲してしまったのです。スリルを求めて、他愛ない悪戯のつもりでした。どうぞ私を銃刀法違反で逮捕して下さい。但し、発砲したからといってそれが威嚇射撃だったとは限らないし、威嚇射撃をしたからといってそれが転落死の原因になったとも限りませんよね。 「恋人たちの汀」――実は、真の第一発見者は俺なんです。あの日、呼び出されてこの部屋に来ると死体がありました。そこで俺はこれ幸いと、自分の借金の借用証を盗んだんです。通報したら窃盗はともかく殺人の疑いまでかけられると思って、黙って逃げました。机の上のチラシはその時に念の為処分したんです。偽のアリバイ工作についてもその時に念の為指示したんです。偽証罪と窃盗罪、でも確か親族間の窃盗は親告罪ですよね。 「運命の銀輪」――5桁の数字なら、10万分の1の確率で偶然に一致しますよね。 |
No.439 | 8点 | 亜愛一郎の逃亡- 泡坂妻夫 | 2018/02/13 09:44 |
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「赤島砂上」で某メフィスト賞受賞作を思い出したり、「球形の楽園」で赤川次郎の某長編を思い出したり。
「火事酒屋」だけは納得出来ないなぁ。犯人はあんなトリックを弄さずに犯行後さっさと逃げれば良いじゃないか。救助者が2人来る保証もないし。 |
No.438 | 9点 | 亜愛一郎の転倒- 泡坂妻夫 | 2018/02/05 10:29 |
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論理の飛躍が楽しい名短編揃い。「砂蛾家の消失」が一番好き。
「藁の猫」で不満なのは、“開かない扉”“重力を無視する水”等の創意工夫された間違いと比べて、“藁の猫”がよそから持ち込んだだけの単なる異物だ、と言う点。‟藁の猫”である必然性が無い。キャラクターの一貫性を損なっている気がする。ああいう人は凝り性だと思うんだよね。題名にしちゃったものだから尚更それが目立つ。 |
No.437 | 9点 | 亜愛一郎の狼狽- 泡坂妻夫 | 2018/02/01 11:15 |
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亜愛一郎シリーズの瑕疵は、まさにその“シリーズである”点だと思うのだ。作者が如何に手を変え品を変え亜の抜け作っぷりや怪しげな行動を描写しても、読者は“このひとが探偵役”という先入観からついつい別枠扱いしてしまう。まっさらな状態で読めたらギャップが更に映えてどんなに面白いことか。
しかし一方、シリーズゆえにこの愛すべきキャラクターがじっくり育まれたのもまた確かなわけで、痛し痒しなのである。 |
No.436 | 7点 | 漆黒の象- 海野碧 | 2018/01/30 12:06 |
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複数の案件を重ね合わせた構成はあまり効果的ではない。ばらして3つの中編にしたほうが良かったと思う。
プロバビリティの殺人について。自分も標的になりかねないからリスクが大きい、と思う反面、そういう賭けに出るメンタリティもアリかと思わなくもない。掘り下げ不足で得心するにはちょっと足りない。 この作者の武器は一に文体(細かく言えば文体とストーリーの絶妙な齟齬)、二に人物造形。デビュー作からここまで6冊、厳しく言えばストーリーはどれも同じなのである。私はとにかく文体がツボに嵌ったのでそれも大目に見るけれど、そろそろ次の一手を考える頃合では。 |
No.435 | 8点 | 掟上今日子の色見本- 西尾維新 | 2018/01/30 12:04 |
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これはシリーズ近作中では出色の出来か。どこがどうと言うより単純に面白かった。忘却探偵のキャラクターを発揮するには進行形の事件のほうが有利?今日子さんが誘拐されます!欲を言えば、動機に関してもう一捻りを期待していたんだけど。 |
No.434 | 8点 | 破滅の王- 上田早夕里 | 2018/01/26 10:31 |
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1930~40年代、戦火に翻弄される科学者達の物語。SFというフィールドを離れても(架空の細菌は登場するが)、群像劇を通じて社会の変遷を描く手腕は磐石。それほどぶっ飛んだ話ではないし、こういった戦時下の諸々を虚実織り交ぜて描く作品はもしかすると珍しくはないのかもしれないが、その中でも存在感のある一冊になるのではないか。主人公が地味、と言う気はするが決定的な難点ではない。
それにしても中国が舞台の作品は地名人名の読みが面倒臭い。 |