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虫暮部さん
平均点: 6.20点 書評数: 2075件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.595 6点 電気じかけのクジラは歌う- 逸木裕 2019/09/13 12:14
 AIが発達しても音楽界がこういう状況になるとは思わないが、そこはまぁパラレルワールドってことでいいや。登場人物の心情の動きを近視眼的に追う分には面白かった。しかしこの世界設定で何故こう行動するのか腑に落ちないところもある。
 
 “新しい音楽”を流通させるには、“Jing”を調整して生成楽曲にその要素を混ぜて単純接触効果を狙う方が確実だと思う。
 “壁にカイバを貼り付ける”いうのは、わざわざ特定の場所に出向かないとその曲を聴けない(しかも行ってみるまでどういう曲か判らない)わけで、リスナーがそうやって未知のものに対する行動力を失わない状況は、“Jing”で好みの作品だけ聴く時代とは矛盾している。
 あと、即興演奏のユニット(昔から多々存在する)が物凄く特殊な発想みたいに描かれているのが不思議。

No.594 6点 二の悲劇- 法月綸太郎 2019/09/10 16:09
 竜胆直巳の作品タイトル『グレーの雨傘』は高橋由佳利の漫画『プラスティック・ドール』(『ふたたび赤い悪夢』の参考文献に挙げられている)に出て来る曲名からの借用。
 ならばこっちも偶然ではないだろう→“清原奈津美”なる、少女漫画家の名前をもじったようなネーミング。しかしこんな役回りの登場人物にそういう由来の命名をするか? 物語とは無関係にずっと気になった。と言うことはこの名付けは失敗なのである。

No.593 6点 ふたたび赤い悪夢- 法月綸太郎 2019/09/10 16:08
 作者は、森山塔(=山本直樹)のエロ漫画を愛読していますがそれが何か? と主張したいのだろう。気持は判る。森博嗣も作中で支持表明していたなぁ。
 綸太郎が有里奈襲撃事件のトリックに気付くのは遅過ぎない? これは木偶の坊と呼ばれてもしょうがない。

 文庫版解説はエラリー・クイーン作品『十日間の不思議』『九尾の猫』の犯人名をサラッと明かしていて非道。そういう名前やキーワードが意味を持つのは既読の人相手であって、しかし既読だからこそ適当に伏字にしても言いたいことは通じるわけで、結局そのうち読もうと思っている人(私)をがっかりさせるだけなのである。忘れ方を教えて。

No.592 7点 神のふたつの貌- 貫井徳郎 2019/09/10 16:07
 静謐な筆致で描かれた、反語的な宗教批判の物語。次は誰を殺すんだろう? とワクワクしながら読んだ。結末には私の中でも賛否両論あって、不思議なカタルシスを感じた反面、変わらぬ営みをしれっと続けて欲しかった気持もある。

No.591 4点 山名耕作の不思議な生活(角川文庫版)- 横溝正史 2019/09/10 16:06
 28編収録の単行本『恐ろしき四月馬鹿』を分冊して文庫化した片割れ。昭和2~6年の短編。デビューから数年のキャリアを経て、流石に多少は読めるものになってきた。ドタバタ風刺劇「二人の未亡人」が面白い。
 江戸川乱歩名義で発表された代作も含む。名義が違うのをいいことに、正史はちゃっかり自作短編のネタを一部使い回している。しかし何もそれを同じ短編集にまとめなくても。

No.590 5点 田嶋春にはなりたくない- 白河三兎 2019/09/02 11:50
 小説の書き方として巧みで、田嶋春のキャラクターはいいんだけど、語り手達のありきたりな“本音と建前”には閉口した――それが、話のネタにかかわらず全5章で一貫した感想なので、これはもう作品のコンセプトが私に合っていないと言うことだろうか。

No.589 2点 恐ろしき四月馬鹿- 横溝正史 2019/09/02 11:49
 角川文庫版に収められた14編について。遅咲きの作家だと言う認識はあったので、初期短編集である本書が玉石混交なのは覚悟しつつ、多少は拾い物もあるだろうと期待していたが、石ばかりである。辛うじて「画室の犯罪」と「赤屋敷の記録」に、これはと言う場面が見られた程度。

No.588 7点 アクロイド殺し- アガサ・クリスティー 2019/08/30 10:06
 “アクロイド”って何だろう? セルロイドやアルカロイドからの連想で普通名詞だと考えたのだ。“~殺し”と言うからには、被害者の何らかの属性を示す語に違いない。モンゴロイドのように人種を表すのか。悪のアンドロイドって意味ではまさかあるまい。えっ、単なる被害者の名前? なーんだ。
 そんなことを思った小学校時代、幸いネタバレ無しで読めたので結末で驚愕、海外のミステリを読む大きなきっかけになった。
 さてそれを今読み返したところ、意外な程に面白い。物語序盤にそんな兆しは欠片もないのに何故あの人があの人を殺すのか? また、言動の不可解な人物が幾人も見受けられる。
 つまり、メインのネタはどうしたって忘れようがないけれど、詳細についての記憶は曖昧――そんな状況が、本書を優れた倒叙ミステリに変貌させたのだった。

No.587 8点 月光ゲーム- 有栖川有栖 2019/08/30 10:04
 物語に停滞がなく常に進行し続けるので、読み易く面白かった。本格ミステリに対する志の高さが感じられる。

 解決編のダイイング・メッセージ解説で江神が言及した“テントに貼りだされた表札”――そんな記述あった? “十七人か、テントに表札つけなきゃね”という台詞はあり、理代たちのテントの表札は事件の小道具として登場するから、全てのテントに表札があると推測は可能だが……私の見落とし?

No.586 7点 魔偶の如き齎すもの- 三津田信三 2019/08/30 10:02
 “巫死”の教義(?)や六人の女性の詳細はもっと知りたかった。“獣家”の像が結局は虚仮威しなのもがっかり。このシリーズ、長編は冗長になるのに、短編だと結末が急ぎ足だなぁ。

No.585 5点 今だけのあの子- 芦沢央 2019/08/30 10:00
 こういう作風の人が同系統の作品を求められるのはしかたないが、収録短編のムードがどれも似通っていると感じた。個々の短編としては面白いのに、こうして一冊にまとめると良さが相殺されているような。
 ところで、各編が緩くリンクしているけど、これって何か裏設定みたいなものの伏線になっていた? 全然判らない。

No.584 5点 ηなのに夢のよう- 森博嗣 2019/08/30 09:57
 やろうと思えばなにがしかの方法で実行可能なのだから、実際にどうやったのかは問題ではない、と言わんばかりの態度だが、だったらこんな“高い死に場所”なんてギミックを付加する必要は無い。シチュエイションの無駄遣いだ。
 その点を除けば悪くない(除いていいのか?)。

No.583 5点 チムニーズ館の秘密- アガサ・クリスティー 2019/08/26 10:20
 奇妙な偶然の一致や、なんでそうなるのか不思議な言動が満載。ミステリの国と言うスラップスティックな架空世界の物語、と割り切っても、物凄く面白いとまでは思えなかった。其処此処に見受けられる妙なユーモア感覚は評価出来る。

No.582 5点 猫丸先輩の空論 超絶仮想事件簿- 倉知淳 2019/08/19 11:04
 再読だが、以前とは随分違った印象。なにより猫丸先輩の台詞回しが“そういう人物を演じている”感じの不自然さで、いっそ丸ごと本人が意識的に作り込んでいる嘘キャラなんじゃないかと言う気分になって来る。各話の謎解きについてもあまり腑に落ちなかった(「夜の猫丸」は解決してないよね……)。

No.581 7点 ヴェールドマン仮説- 西尾維新 2019/08/14 12:56
 “コンプレックスが一切ない彼を書いてみたかった”とは作者の謂。しかしこの屈託の無い仲良し家族が、西尾維新の世界の中に置かれると怖いのなんの。物語を貫く違和感が探偵する視点の無邪気な邪気を炙り出す。“世界シリーズ”から当事者意識を除去したような味わい。
 尚、“著作100冊目”とのことだが、リストを見ると結構恣意的に省かれているものがあるので、さほど意味のある謳い文句ではない。

No.580 5点 君待秋ラは透きとおる- 詠坂雄二 2019/08/14 12:54
 SF。特殊能力者を束ねる組織があれやこれや。
 超常現象の理屈付け方とか、細かなガジェットは悪くないが、全体としては凡作。前半ののほほんとしたムードと緊迫する後半とどちらも中途半端だし、何よりキャラが立っていない。秋ラと言う命名は徒に読みづらい。
 この作者には、もっと読者に対して挑戦的なものを書いて欲しいなぁ。

No.579 7点 誘拐作戦- 都筑道夫 2019/08/14 12:51
 九歩目まではトリッキーな展開と文体を楽しめたのだが、最後の一歩で明かされる真相がどうもいけない。
 以下ネタバレ気味:犯人Xの目的の為には多少の人手が必要だが、犯人Yの目的についてはそうでもない。手を組んでこんな芝居じみた計画を企む必然性が、犯人Yにとっては乏しいように思う。せいぜい“相手方が計画に気を取られて油断する”と言ったファジィで心理的なメリットしか見当たらない。それならそれでいいので、作中でそういうことを明言して欲しい。

No.578 6点 日本庭園の秘密- エラリイ・クイーン 2019/08/14 12:49
 作者は何故わざわざ婚約者の名前をリチャードにしたのか。おかげで警視は一度もフルネームで呼ばれていない。ありふれた名だから偶然重複するのもリアリティだとか考えたのだろうか。いや待て、そもそもEQシリーズ全体の設定として、リチャード・クイーンと言うのは仮名だっけ?

No.577 5点 不老虫- 石持浅海 2019/07/31 11:46
 せっかくのアイデアを上手く広げられなかった感じで勿体無い。“不老虫”という特質がストーリーにあまり絡んで来ない。日本に密輸されたのが単なる危険生物でも概ね同じような話になりそう。

No.576 8点 宿借りの星- 酉島伝法 2019/07/31 11:44
 日本語を1度融解して固め直しましたという趣の文体はなかなか読みにくく牛の歩みの如き読み方を余儀なくされたが、それが逆に功を奏して拒絶反応を抑えつつゆっくり茹で上げられる蛙よろしく頭が作品世界に侵食される羽目になり、最終的に四つの眼や尻尾を持つずぶずぶぴぎゃくぱぁといった感じの生き物に感情移入して落涙するに至った経験は怪挙と呼んで差し支えないだろう。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.20点   採点数: 2075件
採点の多い作家(TOP10)
山田正紀(112)
アガサ・クリスティー(80)
西尾維新(73)
有栖川有栖(52)
エラリイ・クイーン(51)
森博嗣(50)
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