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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1953件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.473 6点 三重露出- 都筑道夫 2018/06/15 09:58
 これは、忍法帖のパロディを書くエクスキューズとして作中作設定を採用する一方、“人生の居候みたいな存在”達のうらぶれたムードをパロディで中和してもいるわけで、利害の一致によりふたつの中編を合体させたものに見えるが、ミステリ的に捻りの効いた絡み方ではない点が期待外れ。それぞれ悪くはないんだけど、“複数の短編を最終章でひとつにまとめる連作集”のような凝った構成に慣れた身としては、ふたつの話を平行して読んだという以上のプラス・アルファは特に感じなかった。と言う意味では時代に押し流されてしまった(元)傑作、なのかも。

No.472 6点 巨人たちの星- ジェイムズ・P・ホーガン 2018/06/15 09:56
 スパイ・スリラー風味が加わり、登場人物個々のキャラクターにスポットが当たった結果、壮大な展開も各人のせこせこした営みの蓄積なのだなぁとの感慨を覚える。
 後半はどう読んでも“関係者数名の後先考えない暴走のせいで宇宙戦争勃発”という内容で、根回しもせずにそんなに追い詰めちゃ駄目だよ!と思いつつ読んだが、その点に関して作中には突っ込みやフォローが一切見当たらないのが不思議だ。

No.471 5点 ミステリークロック- 貴志祐介 2018/06/07 10:19
 「鏡の国の殺人」「ミステリークロック」。視覚的要素の強いトリックで、じっくりと、考え読めば面白い、かもしれないが読みながら、即イメージが出て来ない。話との組み合わせ方、もう少し、考える余地あったかも。
 「ゆるやかな自殺」「コロッサスの鉤爪」。明瞭な一発ネタだが、驚きと言うより苦笑を誘われる。なんじゃそりゃあと、つい叫ぶ。
 何かしら、噛みあっていない印象が、どの話にも見受けられ、総じて言えば、もう一歩。帯に短し襷に長し?

No.470 7点 ドロシイ殺し- 小林泰三 2018/06/04 10:48
 ドロシイと言ってもセイヤーズではない。虹の彼方の惨事。犯人の隠し方が面白い。
 ところで女王陛下、わたしたちは何語で会話しているのでしょうか?
 ――何でも構わない気がします。
 しかし言葉を用いたトリックであれば言語の選択は重要ではないでしょうか?例えば英語で“身内”は……。
 ――揚げ足を取るものではありません。さあ、この泉の水をお飲みなさい。炭酸水なので、非常に美味なのです。

No.469 5点 首の鎖- 宮西真冬 2018/06/04 10:46
 第一章、近年社会問題化している題材を手堅く描いているが、それは良し悪しでちょっとありがちな感じもする。第二章、えっ、ここで事件が?あの人があの人を?結構予想外。で、第三章以降あれこれあって、登場人物がみなとても短絡的だがリーダビリティはあって、まぁそれなりの作品。
 同居人がいなくなったのに何もせず(言い逃れの内容すら考えず)“このまま逃げ切れるんじゃないかという気になってしまう”のは説得力が無い。そして、単行本カヴァーの粗筋紹介で第二章の内容に触れているのはバラし過ぎである。

No.468 6点 血か、死か、無か?- 森博嗣 2018/06/01 11:05
 このシリーズはひとつの物語をゆったり書いているようなもので、勿論なにがしかの出来事は起こるのだけれど、巻による印象の差が乏しい。ストーリーがどうと言うより、それによって提示される世界観を味わっている側面が強い。西尾維新なんかだとそれを思い切ってぶつけてくるけれど、Wシリーズはじわじわと染みて来る感じ。ただ意地悪く言うなら、既にほぼ焼き上がっている肉塊を少しずつ切り売りしているようにも思える。

No.467 5点 オーパーツ 死を招く至宝- 蒼井碧 2018/06/01 11:02
 イロモノだってことは作者読者出版社みな承知の上なんだから、オーパーツ等のイラストを(ミステリ的必然性は低くても)もっとバンバン挿入してくれたら更に楽しめたと思う。特に恐竜談義のところ。

No.466 5点 緑衣の美少年- 西尾維新 2018/05/31 12:21
 先生、実験は失敗です。と今回は言わざるを得ないか。作中作はそれ自体ちゃんと面白い内容にしないと。ただここでそれをもっともらしいイイ話にまとめず無理にでも逆張りでとっ散らかった解を提示するところが西尾維新の存在意義なのであって、内容は希薄でもキャラクター小説としては楽しい、とファンとしては擁護しておく。ああっ、でもこのシリーズはそういう巻が多過ぎだ……。

No.465 6点 Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件- 矢樹純 2018/05/29 10:51
 前半はスリリングでとても面白かった。後半、謎が交錯し過ぎて混乱したので、もう少し上手く整理してくれたらもっと驚けたかも。
 殺人事件に対して登場人物が皆やけに冷静だな~、しかし紋切り型にヒステリーを起こしたり怖がったりするだけがリアルな対応ではなく、これはこれでアリかな~、とも思った。

No.464 8点 未必のマクベス- 早瀬耕 2018/05/29 10:50
 '92年にデビューした作者が、'14年に発表した長編第2作。
 まず文章が素晴らしい。強い個性を感じさせるタイプではないが、何故か不思議なほど滑らかで心にそっとまとわり付いて来る。口当たりの良さに対してアルコール度数が高いので呑み過ぎ注意なカクテル、と言ったところか。
 そんなにこやかな語り口で綴られるのは、切った張ったのビジネスの裏側と、無粋な振りして純度の高い恋。殺人の場面もとても静謐で平穏。凄く“書ける人”だと思う。やや長めの話だが、それすらも、それだけ長い間作品世界に浸っていられるという喜びだった。
 何度か意味ありげに言及される数学問題の答がたいして面白くない、と言うのが難点。幾人かのキャラクターに関しては、書き分けが甘い気もする。

No.463 6点 迷蝶の島- 泡坂妻夫 2018/05/22 10:55
 恋愛話は爽やかなもののほうが好きなので、私にとって本書などはカロリーが高過ぎる。しかし“痴情のもつれ”を動機にするにはこのくらい濃い恋でないと説得力が足りないか。
 島での死までの描写で、現実と幻覚が恣意的に混ざっているのはちょっとずるいと思う(一応、黒い蝶を見てその人物のイメージが導かれた、という流れが設定されているようだけど)。

No.462 5点 マニアックス- 山口雅也 2018/05/21 10:21
 どれも良く出来た“奇妙な味の短編”。しかしそのせいで却って微妙な既視感を覚える部分も多かった。星新一のディープなタイプのショート・ショートを短編に引き伸ばしたような印象。悪くはないが“コレだ!”という感じでもない。

No.461 5点 エジプト十字架の秘密- エラリイ・クイーン 2018/05/16 09:26
 地名と同じ苗字なんて珍しくもないのであって(単に縮尺の問題と言う気もするし)、5章で地図帳を手にエラリーが披露した推理は冗談を聞かされているような気分になった。その場にいた捜査陣が誰一人ツッコミを入れないので、“下手なミステリのワン・シーンを皆で演じている”みたいだ。
 ところで、裸体主義者の共同体が登場するのに、うっふ~んな描写があるわけでもない。それじゃ意味ないだろって。サーヴィスが足りないよ君ィ。

No.460 7点 がらくた少女と人喰い煙突- 矢樹純 2018/05/07 10:08
 骨格は古典的なクローズド・サークルであり、それにしては動機重視の解決編はあまりロジカルではないが、色々と味付けが巧みで、作者は良い意味で読ませ方を心得ていると思う。
 実は私は、拾ったジャズのCDを愛聴したり、拾った週刊スピリッツをきっかけに星里もちるにハマったり、拾った独和辞典を使いもしないのに積読していたり、拾ったヴァイオリンをいつか使う日も来るだろうと保管していたりして、陶子の気持が判らなくもないので気を付けたい。あ、でも坂口安吾の文庫本は拾って読んだが好みではないのでちゃんと処分した。よし大丈夫。
 よく判らないところがあった。恵三郎が陶子に対して“仁菜に似てきて気味が悪い”と発言したが、それは自身の妻とも共通する特徴である筈だ。どういう気持なのか?そう言えばその妻(=仁菜の母)の現況が語られていないね(私の見落とし?)。

No.459 4点 刺青殺人事件- 高木彬光 2018/05/07 10:07
 刺青と言う題材が雰囲気作りに上手く生かされているとは思う。

 以下、気になったことをネタバレしつつ記す。
 まず細かいこと。中盤で逮捕されたU氏の、犯行現場に侵入した際の証言。“浴室に電灯が点いていたのは知っていたが、水の流れる音だけで、誰もはいっている様子はないので、外からスイッチをひねって消した”。空巣の最中に何故そんな中途半端な(浴室内を確認するでなく、かと言って手を触れずに放置するでなく)行動を? そもそも何故“水音がする・電灯が点いている”家に空き巣に入るのか。その時点で退散しとけって。

 そして重大なこと。入れ替わりは必然性が希薄。主犯にとって、共犯がいざとなれば殺してもいい程度の相手なら、始めから共犯を殺しても同様の効果が望めるのでは?アリバイ工作等で役立ってはいるものの、共犯の存在自体がリスクなわけで、費用対効果としてどうなのか。共犯の方が主導的立場だったならまだ判るが、読み返してもそのあたりは藪の中。と言うか、そりゃないぜ主犯、共に生き延びるための入れ替わりじゃないのかよ!?

No.458 7点 怪盗不思議紳士- 我孫子武丸 2018/05/01 08:34
 古式ゆかしい少年探偵小説。結構正統的でお約束を堂々と展開させる筆致は、言い換えると既視感が強いけれど、意外に好感度高し。まぁ、ノスタルジックな雰囲気に呑まれて評価の仕方が甘くなっているのは認める。
 劇団ヘロヘロQカムパニーの舞台の小説化、という経緯もあってか、本格ミステリ的なロジック云々ではなくキャラクターの絡みや成長譚を軸に据えていて、びっくりさせられる類の話ではないが、そういう点の物足りなさはさほど感じなかった。あとはカール(犬)の出番がもう少しあれば……そこは物足りないかな。

No.457 3点 友達以上探偵未満- 麻耶雄嵩 2018/04/24 11:46
 この作者が“問題作”を期待されるのはもはや宿命なのである。“登場人物がごちゃごちゃしてミステリ的な軸になるアイデアがあまり生きていない”とか言う以前に、“何かフツーだな~”と感じる時点で麻耶雄嵩作品としては物足りないのである。今まで出来不出来の波はあれどその志がブレたことはなかった筈。どうしちゃったのか。“相生初唯”というネーミングが本書一番のヒット、だなんて言いたくないよ!

No.456 7点 誰も死なないミステリーを君に- 井上悠宇 2018/04/20 10:20
 これは拾い物。深読みするなら、特定の人物にしか認識出来ない事項を基盤にしてミステリを書く実験。伏線がしゅるしゅると小気味良く回収される様は爽快だった。(元)文芸部員の4人が意外に好感度高し。
 ところで佐藤くんのフルネームって作中に出て来たっけ。もしや読者に対するクイズ?

No.455 2点 神津恭介の復活- 高木彬光 2018/04/17 11:48
出来がひどくて色々がっかり。八百人の前で人を殺して、そのまま逃げ切れる前提で計画を立てたのだろうか?

No.454 8点 ギリシャ棺の秘密- エラリイ・クイーン 2018/04/11 10:46
 面白い。少々長過ぎる嫌いはあるが、無理に努力して読み進めている気分に陥ることは無かった。3作目までは未だ習作、エラリー・クイーンが初めて物した傑作がこれ、と私は評価する。
 ところで、粗筋を見ずに本編を読むと、死体発見のくだりは充分驚ける展開である。粗筋コーナーはバラし過ぎ。明かすのはせいぜい“手提げ金庫が消えた(中身は秘密)”まででいいのではないか。或る程度の粗筋を踏まえてそれをなぞるように本編を読む、と言う行為にいつの間にか我々は慣れてしまっているが、それは結構な損だと近年実感している。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
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