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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1848件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.488 5点 タイトルはそこにある- 堀内公太郎 2018/08/01 12:00
 まさかの東京創元社ミステリ・フロンティアということでつい手に取った一冊。軽妙さと軽薄さを混同したような作風は健在で苦笑。第一話のトリックは限り無くユメオチに近く褒められたものではないと私は考える。第四話、第五話は比較的軽さが上手く生きている内容か。
 レーベル買いという観点で見ればミスマッチ。四六判で仰々しく刊行したせいで、私のように“期待し過ぎて落差が大きく結果的に必要以上に低評価”という事態が生じる。良くも悪くもB級作家、という事実にもっと開き直るべきでは。
 あとがきの「編集者註」に、他作家に関する緩やかなネタバレ(作家名を挙げて、○○氏の作品にはこういう趣向のものがありますよ、と)が含まれるのは如何なものかと思う。特に重要なことが書かれているわけではないので、あとがきは読まなくてもいいかも。

No.487 5点 スタイルズ荘の怪事件- アガサ・クリスティー 2018/07/31 14:06
 最後に出て来る手紙はあまりにもわざとらしく、処分に困るなら食ってしまえと思った。

No.486 4点 ずっとあなたが好きでした- 歌野晶午 2018/07/30 10:37
 どれもこれも中途半端なところでぶった切ったような結末なのはどういうことか。“大きなパズルのピース”としての役割に傾注し過ぎで、個々の短編としての純粋な満足度がいまひとつ。その割に分厚いので読み進めるのがちょっときつかった。
 私の場合は、「匿名で恋をして」“ロレッタ”の由来が推測出来たので、次の「舞姫」を読んだところで全体の仕掛けがなんとなく見えた。収録順に一考の余地あり?

No.485 6点 遠きに目ありて- 天藤真 2018/07/24 12:12
 非常に魅力的なキャラクターを擁する連作なので、心情的にはもっと高く評価したいのだが、ミステリとしては第一話(手掛かりが面白く、またそういう状況が生じてしまった流れに説得力がある)が頂点で、以降は少々ギクシャクしてしまったのが残念。各犯人がそういうトリックを弄した犯行方法を選ぶ理由が乏しい気がする。もっと外連味のあるストーリーならトリックも生きるが、それだとキャラクターに合わない。難しいものだ。

No.484 7点 火刑列島- 森晶麿 2018/07/23 10:26
 いやーびっくりした。途中で山田正紀の本とすり替えられたかと思った。少し頭のおかしい三人組が自分のことは棚に上げて傍若無人に火災を追いかける珍道中、ではあるが後半ぐんぐん箍が外れる様がスリリングでギリギリの着地点に拍手。導入部はちょっとチャラい新本格第3世代あたりのパターンか、と感じてしまうが敬遠せずに読むべし。私は好きだ。ただ、文体は普通にしちゃったんだなぁ、このひと。

No.483 6点 シャム双子の秘密- エラリイ・クイーン 2018/07/20 09:31
 シャム双生児の刑罰に関する法律談義が面白い。

 さて、国名シリーズ9作を読み返して思ったこと。タイトルとストーリーの関わりが乏しく、国名を掲げる為にこじつけているようなケースが少なくない。で、あれば。内容の共通性があるわけでもないこれらの作品群を、さほど意味のないタイトルを基準にひとくくりにして、シリーズ内シリーズとして別枠扱いする正当な必然性はあまり無いんじゃないの?

No.482 7点 豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件- 倉知淳 2018/07/17 12:19
 倉知淳の、特に短編の文章はまぁ普通である。軽妙なユーモアを交えてはいるもののほんの味付け程度で、可笑しくて笑いが止まらなくなったりはしない。逸脱があっても適度な範囲内に留まり、コレだ!と言う存在感を主張しない文体。邪推するなら、文体(ハード)の過度の主張はミステリ要素(ソフト)の妨げになると考えているフシがある。それはそれでひとつの見識だろう。
 殊更にそんなことを思ったのは「夜を見る猫」のせい。この話の文章だけ明らかに熱量が多い。猫ちゃんの愛らしさを読者に伝える為に一字一句でも多く奉仕させるべく脳細胞を総動員した跡が窺われる。そしてそれが、妨げどころか、謎と詩情と田舎の風景の融合を果たした濃厚猫萌えミステリとして見事に成立しているのである。この路線で行けば天下取れるかも?

 表題作で語られていない情報をひとつ。凍らせた豆腐を解凍すると水分が分離して、ボソボソした中途半端な高野豆腐の如き物体になるので、見た目や感触で区別出来るようになる。従って、否定するのにあんなロジックは不要。

No.481 5点 深夜の法廷- 土屋隆夫 2018/07/13 11:00
 キャラクターに面白味が無いし、証拠品をさっさと始末しない等のアラが所々見受けられる。特に、他人の眠りの状態を計画に組み込むのはコントロールが難しくリスキー。併録の「半分になった男」の妄想部分は楽しめた。

No.480 8点 私の頭が正常であったなら- 山白朝子 2018/07/12 04:34
 私の気が確かなら、山白朝子というのはそれなりの知名度を持つ作家の別名義なのだが、さて一体それが誰であったか、とんと思い出せないのだ……。
 おっ、いちページ目からそそる展開だ。語り手が!妻と!!暮らしているマンションに!!!
 おー、ついちからが入り過ぎていらぬネタバレをするところであった。妻の無駄に論理的なキャラクターが可笑しい「世界で一番、みじかい小説」、結末で示される因果関係についての可能性が色々示唆的な「酩酊SF」、悲惨なホラーになるかと思いきや感動的な「子どもを沈める」等々々、まことに付け難きは甲乙、一編たりとも流し読み出来ない充実の作品集。

No.479 5点 われはロボット- アイザック・アシモフ 2018/07/06 09:38
 ミステリも物するSF作家の筆頭アシモフ。“このロボットは何故そんな行動をとるのか?”というミステリ的な短編も幾つか含む本書は、ロボット工学の三原則が初登場した記念碑的連作集。ではあるけれど、今読んで物凄く面白いわけではない。“ロボット”“知性”“感情”と言った物事の捉えかたが変化しているせいもあるし、小説としてのマナーがちょっと古い気もするし、要は“昔のSF”と言う感じ。中では「証拠」が良かった。

No.478 6点 εに誓って- 森博嗣 2018/07/03 15:32
 とばっちりで殺されたバスの運転手が気の毒。最初から団体でバスを借り切っておけば済んだ話じゃないか。

No.477 8点 少女不十分- 西尾維新 2018/07/02 09:12
 最近報道された事件を連想させるような場面もあって胸が痛む。変なタイミングで読み返しちゃったなぁ。
 シリーズ化しようがない内容なので雑念の入る余地が無かったせいか、非常に純度が高く、西尾維新の諸々のシリーズの隙間を埋めるパテとして十二分に機能している。10年前の出来事を文章化しているという設定ゆえ、現在の自分による突っ込みが時々うるさいがまぁ許容範囲内。作者本人による作家論、と考えるなら筒井康隆に於ける『脱走と追跡のサンバ』に該当する作品である(適当)。

No.476 6点 アメリカ銃の秘密- エラリイ・クイーン 2018/06/25 10:13
 そもそもロデオ・ショーがそんな大規模な興行として成立することがイメージしづらく、文化や時代の隔たりを感じたものだが、“クラブでキャブ・キャロウェイの新曲が演奏されていた”というくだりでなんとなくひとつにつながった。
 第8章、弾道学の場面は基本の再確認という感じで楽しかった。
 あと、これ書いたらネタバレ?犯人がサーカス芸人くずれで銃をすばやく分解して飲み込んだ、と推理したんだけど……。

No.475 8点 宵物語- 西尾維新 2018/06/19 10:54
 大学生になった阿良々木暦が女児誘拐事件の噂に噛む、ミステリ怪異譚。ここだけの話だけれど、結末の神様の台詞には感動してしまいましたでした。単なるキレイゴトになりそうな台詞をこれだけ肯定的に響かせるマジックは西尾維新の面目躍如。

No.474 6点 三重露出- 都筑道夫 2018/06/15 09:58
 これは、忍法帖のパロディを書くエクスキューズとして作中作設定を採用する一方、“人生の居候みたいな存在”達のうらぶれたムードをパロディで中和してもいるわけで、利害の一致によりふたつの中編を合体させたものに見えるが、ミステリ的に捻りの効いた絡み方ではない点が期待外れ。それぞれ悪くはないんだけど、“複数の短編を最終章でひとつにまとめる連作集”のような凝った構成に慣れた身としては、ふたつの話を平行して読んだという以上のプラス・アルファは特に感じなかった。と言う意味では時代に押し流されてしまった(元)傑作、なのかも。

No.473 6点 巨人たちの星- ジェイムズ・P・ホーガン 2018/06/15 09:56
 スパイ・スリラー風味が加わり、登場人物個々のキャラクターにスポットが当たった結果、壮大な展開も各人のせこせこした営みの蓄積なのだなぁとの感慨を覚える。
 後半はどう読んでも“関係者数名の後先考えない暴走のせいで宇宙戦争勃発”という内容で、根回しもせずにそんなに追い詰めちゃ駄目だよ!と思いつつ読んだが、その点に関して作中には突っ込みやフォローが一切見当たらないのが不思議だ。

No.472 5点 ミステリークロック- 貴志祐介 2018/06/07 10:19
 「鏡の国の殺人」「ミステリークロック」。視覚的要素の強いトリックで、じっくりと、考え読めば面白い、かもしれないが読みながら、即イメージが出て来ない。話との組み合わせ方、もう少し、考える余地あったかも。
 「ゆるやかな自殺」「コロッサスの鉤爪」。明瞭な一発ネタだが、驚きと言うより苦笑を誘われる。なんじゃそりゃあと、つい叫ぶ。
 何かしら、噛みあっていない印象が、どの話にも見受けられ、総じて言えば、もう一歩。帯に短し襷に長し?

No.471 7点 ドロシイ殺し- 小林泰三 2018/06/04 10:48
 ドロシイと言ってもセイヤーズではない。虹の彼方の惨事。犯人の隠し方が面白い。
 ところで女王陛下、わたしたちは何語で会話しているのでしょうか?
 ――何でも構わない気がします。
 しかし言葉を用いたトリックであれば言語の選択は重要ではないでしょうか?例えば英語で“身内”は……。
 ――揚げ足を取るものではありません。さあ、この泉の水をお飲みなさい。炭酸水なので、非常に美味なのです。

No.470 5点 首の鎖- 宮西真冬 2018/06/04 10:46
 第一章、近年社会問題化している題材を手堅く描いているが、それは良し悪しでちょっとありがちな感じもする。第二章、えっ、ここで事件が?あの人があの人を?結構予想外。で、第三章以降あれこれあって、登場人物がみなとても短絡的だがリーダビリティはあって、まぁそれなりの作品。
 同居人がいなくなったのに何もせず(言い逃れの内容すら考えず)“このまま逃げ切れるんじゃないかという気になってしまう”のは説得力が無い。そして、単行本カヴァーの粗筋紹介で第二章の内容に触れているのはバラし過ぎである。

No.469 6点 血か、死か、無か?- 森博嗣 2018/06/01 11:05
 このシリーズはひとつの物語をゆったり書いているようなもので、勿論なにがしかの出来事は起こるのだけれど、巻による印象の差が乏しい。ストーリーがどうと言うより、それによって提示される世界観を味わっている側面が強い。西尾維新なんかだとそれを思い切ってぶつけてくるけれど、Wシリーズはじわじわと染みて来る感じ。ただ意地悪く言うなら、既にほぼ焼き上がっている肉塊を少しずつ切り売りしているようにも思える。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1848件
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