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虫暮部さん
平均点: 6.20点 書評数: 2075件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.715 8点 巴里マカロンの謎 - 米澤穂信 2020/05/29 11:56
 このシリーズって春夏秋冬の4部作になるのが暗黙の了解だったんじゃないの~? と誰もが突っ込んだことでしょう。恥じることはない私もだ。
 公約を剥がすだけの意義はあった。「伯林あげぱんの謎」は不可解な状況の作り方が巧みだし(シリーズ中ベストではないか)、「花府シュークリームの謎」は謎そのものよりも打開の為の心意気がナイス。ラスト・シーンでは異様に感動した。
 しかし、こうやって続けてしまったことで、“二人の青春の蹉跌に何らかの決着を付けて完結”と言った感じのバランス良くまとまったシリーズへの道は失われたわけで、ちょっと惜しい。完結させられるシリーズは完結させたほうがいいと思うのだ。

No.714 7点 エスパイ- 小松左京 2020/05/28 11:11
 小松左京のイメージからすると意外な程に通俗的かつ痛快なアクションSFで、その通俗性も含め総体として一つの文明批評に思える。世界各地を股にかける旅程は博覧強記の氏の面目躍如だが少々わざとらしい(語り手がそこまで理知的なキャラクターでもないので、薀蓄を語る部分は作者本人の視線になっているような……)。“エスパイ”と言う造語はかなりダサいと感じる。発表当時はアリだったのか?

No.713 7点 りぽぐら!- 西尾維新 2020/05/28 11:09
 この手の言葉遊び、作者は書くほどにレヴェルアップして楽しめるが、読者はなかなかその楽しみを共有しづらい。思うに本書の場合、禁断ワードがランダムなのが一因で、例えば“ア行禁止”とか“濁音禁止”のようにシンプルならばもう少し親しみ易かったのでは。甘いかな?
 純粋に小説として読めば、「妹は人殺し!」が大好き。

No.712 10点 宝石泥棒- 山田正紀 2020/05/28 11:07
 山田正紀作品は概ね目を通しているが、最高傑作と推したいのは本書。イマジネーション豊かな異界、運命に抗う旅、奇妙な仲間達、友情努力勝利敗北。贅沢に全部載せてしかも隅々までこぼすことなく味わえる。
 『神々の埋葬』のように、まだ広げられる余地を残したままの完結でなく、『ミステリ・オペラ』など大長編の胃もたれ必至の物量戦でもなく。
 やや長めの『宝石泥棒』は、物語が内包するスケール感と具体的なページ数がピッタリ一致して、食い足りなさも読み疲れも感じない。諸々のエピソードがバランスよく盛られ、いや違う、バランスの悪さも滑らかな模様に見える高い視点に読者を導き、不器用な作家であちこちぶつけながら領域を広げてきた山田正紀としては驚くほど綺麗な球体を描いているのである。瑕瑾……はあるのかもしれないが、あまりに鮮やかな作品世界の中に居ては気付く余地が無かった。
 チャクラが小丑から料理で一本取る場面が大好き。

No.711 6点 カブト虫殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2020/05/28 11:06
 読了後、冒頭部分を読み返してみると、ファイロ・ヴァンスは事件を伝えられた時点であまりにも鋭い洞察を示していて、単なる勘にしても異常なのである。事件関係者がもともとヴァンスの知人である点も併せて鑑みると、裏で糸を引いていたのは彼自身ではないか、実行犯を巧みに唆して罪を犯さしめたマッチポンプではないか、と思わずにはいられない。ラストがアレだしね……。

No.710 7点 崑崙遊撃隊- 山田正紀 2020/05/27 11:41
 ロスト・ワールドの冒険小説としては快作なのだが、結末で述べられる、崑崙に関するSF要素はどうなんだろう。作者は根っこがSF者だからそうなってしまうんだよ、と考えるのはSFファンとして嬉しい。しかしこれは時代背景と登場人物の思想・言動が密接に絡み合った物語である。現代的視点のSF的解釈を付け加えたのは、浪漫を損なう蛇足であるようにも思える。痛し痒し。

No.709 5点 蚊取湖殺人事件- 泡坂妻夫 2020/05/27 11:38
 実現可能性の低そうなトリックや極端な偶然について、巧みな話術で読者を丸め込んでまぁアリかな~と言う気分にさせる、とはこの作者がよくやる手。しかし本書、ミステリの短編は4作とも、ネタとしては悪くないのだがその話術の効果が弱くて、結果としてなんだかぼやけた話になってしまった。
 奇術・職人モノはオマケってことでまぁいいや。

No.708 8点 復活の日- 小松左京 2020/05/27 11:35
 半世紀前のパンデミックSF。
 “スピードアップされた国際交通を通じて、ほとんど全世界に、種を植えつけていた”
 “たかがかぜぐらいで、非常事態宣言は大げさすぎると思うだろうが”
 “アメリカはじまって以来の、バカげた大統領”
 等々、ニヤリとさせられるエピソードが並ぶ。
 諸々の知見を総動員した説得力に富む展開、であるだけに、プロローグ(→感染拡大後の地球の姿を予め示している)は不要だったと強く感じる。本編が答え合わせみたいになっちゃうんだよね。

No.707 6点 人類最強の sweetheart- 西尾維新 2020/05/27 11:33
 請負人・哀川潤を主人公にした短編集。①音楽×暗号ネタはいまひとつ、だがオチは効いている。②昆虫食には興味があるので楽しかった。③京都府警のミステリ掌編はそれなりに面白い。しかしアレとアレは痕跡が違うのでは。その場での思い付きの偽装工作だからそこまで考えていない、と言うことでいいけれど、作中で一言フォローが欲しかった。
 他の数編は物足りない。とは言え西尾維新の文は齧るだけで楽しいわけで、潤さんの敵でないならすべからく読むべし。誤用じゃないよ。

No.706 7点 僧正の積木唄- 山田正紀 2020/04/07 10:09
 刊行直後に読んだ時はあまり楽しめなかった。原因は明白なので此度再読するにあたっては万全の準備を心掛けた。ヴァン・ダイン『ベンスン殺人事件』から『僧正殺人事件』まで順に読み、平行して横溝正史も何冊かチェックして金田一耕助のキャラクターを再確認しておく。満を持しての本書である。
 トリビュートとは言え徒におもねった物ではない。例えば文体は概ねいつもの山田正紀そのまま。原典の文章が持つ旧時代ゆえの靄に鉋をかけて1930年代のニューヨークをくっきりと甦らせている。ファイロ・ヴァンス等の扱い方も、愛情ゆえに厳しくならざるを得ないと言った感じだ(一方で金田一耕助については愛情だだ漏れ)。
 続けて読むと、『僧正殺人事件』の動機の背後に暗示される広がりは、まさに山田正紀の守備範囲。ヴァン・ダインを補完しているように見せて、それに留まらず自分の場に持って行くあたり強かだ(その割に、明かされる真相はしょぼくて残念)。
 ネタバレ防止で幾らか曖昧な表現のところはあるが、さほど気にならなかった。但しこちらを先に読むと『僧正殺人事件』の犯人も見当が付いてしまうと思う。従ってやはりあちらを読んだ上で臨むほうが良い。問題は、『僧正殺人事件』が“ミステリ読みの基礎教養”の座をもはやキープ出来ないだろう、と言うこと。

No.705 6点 僧正殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2020/04/07 10:08
 動機については、形而上的だが非常にリアルだと感じた。これで小説的展開がもっと上手ければなぁ……『グリーン家殺人事件』もそうだが、連続殺人なのに現在進行形ゆえのサスペンスがあまり無い。この作風及びファイロ・ヴァンスのキャラクターは連続殺人に向いていないのでは。
 そして、解決編には曖昧に片付けられている部分があり、山田正紀『僧正の積木唄』へと続く。

No.704 5点 迫りくる自分- 似鳥鶏 2020/04/07 10:06
 サラッと気軽に読めるのは悪いことではないが、強引かつ御都合主義的な展開を“これはそんな緻密な話じゃないから”との言い訳で押し通した感も強い。何よりもラスト、主人公があのままやっちゃえば5割増で評価したのに。
 佐伯については微妙なところで、もっと読んでいたいキャラクターであることは確かだが、“どん底に賢人”と言うのはありがちな発想だとも思う。

No.703 4点 エラリー・クイーンの新冒険- エラリイ・クイーン 2020/04/02 11:51
 「神の灯」はホワイダニットのミステリだと思う。何故犯人はそんな現象を演出したのか? その点に於いて不出来だ。“家の消失” って、そこから人を遠ざけるのに有効かなぁ? 更に言えば、そもそも人を遠ざける工作が必要な状況か? 彼女を送り届ければ弁護士の役割は完了だから、丁重に御帰り願えばいい。犯人が “彼女を殺すことも辞さず” とのスタンスなら、あとはどうにでも出来るだろう。
 ハウに関しても、事件の様相を鑑みると、実は真っ先に思い付くトリックなのでは。ただ “そんなもの作る奴がいるか?” との常識的判断が障壁になっているのであり、作者は “いるのだ!” で押し切っているだけである。
 「宝捜しの冒険」でエラリーが仕組んだ罠と、「人間が犬をかむ」の皮肉な真相は、まぁ面白いと思った。

No.702 4点 死仮面- 横溝正史 2020/04/02 11:51
 冒頭の“告白書”は迫力がある。しかしそれ以外は色々苦しいし、それを帳消しに出来るような雰囲気や言葉の力も足りない。
 併録の「上海氏の蒐集品」は奇妙な味の因縁話、に成り損なったような短編。物語としての出来とは別に、ちょっといい何かは感じられた。

No.701 5点 屋根裏の散歩者- 江戸川乱歩 2020/04/02 11:50
 光文社文庫版は乱歩最初期作品集。大乱歩のネームヴァリューも相俟って、粗筋やイメージが独り歩きしてしまい、実際に読むとちょっとがっかり、な作品が散見される。
 しかし、作者本人は評価していないようだが「恐ろしき錯誤」の“誤解させることによる復讐”と言うコンセプトは面白いと思った。
 そして「疑惑」はクリスティのアレの変奏じゃないか。しかも発表が同じ年!

No.700 5点 邪悪の家- アガサ・クリスティー 2020/03/30 12:23
 ネタバレするけれど、ラストの部分が良く判らない。
 ポアロが犯人に仕掛けた罠は“然るべき状況を整えれば、犯人はFに濡れ衣を着せるべく行動するだろうから、そこに見張りを付けておく”と言うこと?
 弁護士は口が堅く、ポアロは遺言状の内容を教えて貰えなかった。従って偽遺言状の騒ぎはポアロにとって想定外。“偽造者をとっちめましょう”と言ってNを芝居に引っ張り出したのではない。じゃあどう説明したのだろう?
 “降霊会であなたが登場すれば犯人は驚いてボロを出すでしょう”とか? 名目はどうであれ自分にとって好都合な状況だから話に乗るかな?
 20章がまるごと意味不明。Jは自殺もしくはうっかり自分を撃ったということ?
 ポアロが電報で確かめたかった二点とは何か? “本名”と“手術の日程”?
 斯様に、きちんと作中に書いておいて欲しかった事柄が色々ある。

No.699 6点 密室殺人ゲーム・マニアックス- 歌野晶午 2020/03/30 12:22
 多分これは意図的に問題のある問題を出し、それに対する読者の批判と作者の反論をシミュレートして、解答者対出題者のチャットの形で提示している。
 もっともらしく言えば、ミステリ読者に対する批評。つまりは、読者に対して作家として言いたい、けど言うのは如何なものか、である本音をやっぱり言ってやる! と言う鬱憤晴らしに書いたんじゃないかなぁ。読者は簡単にこういう文句を言うよねぇ、ということである。
 特にQ1とQ2に対するストレートな批判は、まさに作者が読者に言わせたかったことであって、作者の思う壺だと思う。 

No.698 7点 密室殺人ゲーム2.0- 歌野晶午 2020/03/27 14:08
 前作と比較するとそこまで素晴らしいトリックは見当たらない。「相当な悪魔」の “一番重要な部分” はグッと来た。

 「三つの閂」の箱は “凸凹があると接着がうまくいかない、作っては壊し、完成までに十一回の失敗” 云々とある。この箱、矛盾を孕んだ存在だと思う。つまり、うまく接着出来るかどうかは試してみないと判らないし、試してみて接着出来ちゃったものは本番ではもう再使用不可なんじゃないの?

No.697 3点 生首に聞いてみろ- 法月綸太郎 2020/03/27 14:07
 何か変だ。
 上手に要約出来ないので色々ネタバレします。
 過去の事件について。
 計画には、“Rを妊娠させた相手は誰か、I が誤解すること” が不可欠。“YがI にそう思い込むよう仕向けた” と説明しているが、そんなに上手く他者をコントロール出来るだろうか、また、出来る前提で殺人計画など立てていいのだろうか。だってひとこと実名を告げれば解消される誤解である。
 誤解が解ければI とJは協力どころか敵対関係だから計画は御釈迦だが、だったら中止すればいいと言うわけには行かない。その時点で妊娠させてしまっているのだから。
 産科医がRを初産だと誤認することも必須だが、プロにそれを期待していいのか。

 Jは計画立案に際して物事が期待通りに動くと楽観的に前提にし過ぎているし、事態もその通りに不自然なまでに都合良く動き過ぎだ。

 特に、“RがAとの不義密通の末妊娠した” とI が誤解すれば、I はRを殺す計画に協力する筈、と言う前提だが、“妻への怒り” と “殺す” はまた別だろう。

 後戻り出来ない行動(=Rへの暴行)をしたあとで、不可欠な協力者を説得する、と言う泥縄式でとてもリスキーな計画だ。

 そしてその協力関係だが。I は “不貞な妻を罰する” と言う、正義は我に在りと言うか、或る意味 “純粋な怒り” を抱かされたわけで、それが思い切り私利私欲な保険金詐取目的のJに唆されて手を組むものだろうか?

No.696 7点 靴に棲む老婆- エラリイ・クイーン 2020/03/27 14:05
 キ印ファミリーのキャラクターが悉くツボ。
 ところで、第一の殺人で一番怪しいのはエラリーではないかいな。
 エラリーは一人で拳銃を取りに長兄の部屋へ行った。部屋を出てから決闘場所に面々が揃うまで、場面が少し飛んでいる。その道すがらは描写されていないので、そこですり替えを行うことが可能である。
 拳銃を渡す前に念の為の確認をしていない点、また“状況的に自分にも可能だ”と自身で指摘していない点も気になる。
 動機は、次章冒頭で語られている如く、“殺人の現場に立ち会う特典に浴して”みたかったのだろう。

 7章。“小さなコルトは(略)そのままそっくりあった”――原理的に、1度手に取った銃を“そのままそっくり”の状態に戻すことは不可能である。三人称でコレ大丈夫なの? と思ったら、この記述は正しいのだ。なんというフェアプレイ!

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.20点   採点数: 2075件
採点の多い作家(TOP10)
山田正紀(112)
アガサ・クリスティー(80)
西尾維新(73)
有栖川有栖(52)
エラリイ・クイーン(51)
森博嗣(50)
泡坂妻夫(43)
歌野晶午(30)
小林泰三(29)
皆川博子(27)