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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1848件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.608 7点 獄門島- 横溝正史 2019/10/09 16:00
 「大変です、在日米軍が街の中で演習しています!」「基地外じゃが仕方がない」

No.607 5点 継ぐのは誰か?- 小松左京 2019/10/04 11:04
 語り手が現代の読者に向かって未来社会を紹介しているような妙な読み味に苦笑することしきり。
 小松左京を“スーパーコンピューター搭載のブルドーザー”と評したのは誰だったか。本作はコンピューターが五月蠅く指示を出し過ぎ、ブルドーザーの勢いを殺いでいる。尻切れ蜻蛉の幕切れだが、当初イメージしていた程にはストーリーを上手く展開させられなかった末の、苦渋の選択だったんじゃないかな~?

No.606 5点 法月綸太郎の消息- 法月綸太郎 2019/10/04 11:03
 「白面のたてがみ」「カーテンコール」――北村薫の『六の宮の姫君』他の“小説の体裁をとった文学談義”に対する返答じゃないかと思う。“北村先生、ミステリ・ファンに芥川だ太宰だと言っても馴染みが薄い、コレをやるなら題材はこうでしょう!”。問題は、論議の過程で不可避なネタバレが、純文学ならさほど問題にならないけれどミステリでは致命的だと言うこと。名前等もっとぼかしても内容は通じるだろうに。
 「あべこべの遺書」――関係者が、知らない筈の事情を知っているように行動している。色々不自然な失敗作、修正し切れてないよ。
 「殺さぬ先の自首」――旧作「ABCD包囲網」の雪辱戦? “「わざわざ警察に目をつけられるようなことをして、その先どうするつもりだったんだろうか」”に関する心理的な裏打ちを設定していて、これならまぁ許容出来るかな。

No.605 6点 誰も死なないミステリーを君に2- 井上悠宇 2019/10/02 11:19
 前作よりも“悪意”を重視した為ミステリっぽさは増したが、何らかの言動によって関係者の気持が連鎖反応的に変化して“死線”が左右される設定は、つまり現実を繰り返し改変し続けるようなものなので、ロジックが入り組んじゃって大変だ。提示の仕方を工夫出来るともっと良くなるのでは。
 神隠しの真相は淡白で物足りない。遺産相続の遺留分に関する説明が間違っていると思う。
 あと思い出した、北山猛邦の“猫柳十一弦”がコレと似た発想だ。

No.604 6点 ダイヤル7をまわす時- 泡坂妻夫 2019/09/30 10:48
 ミステリ要素のアイデアより小説としての語り口の巧みさで読ませる作品集。こういうものはファンこそ高く評価しなくちゃならないのだろうが、地味な短編ばかり集めたんだなぁと言う読後感。構図の逆転が一番鮮やかに見える「青泉さん」が良かった。
 「芍薬に孔雀」のカムフラージュは(どのカードが重要かは明白なのだから)無意味。と言うより、そのまま放置すれば〝意味不明だが殺人とは無関係”と判断される可能性もあったのに、カムフラージュすることで〝あのカードは犯人がわざわざカムフラージュするほど重要だ”とメッセージを送ってしまっている。

No.603 5点 悪魔の報酬- エラリイ・クイーン 2019/09/30 10:46
 結末で明かされる真相、特に僅かなタイミングの差で擦れ違い修復不能になっていくさまは面白かったが、トータルな物語としてはいまひとつ。特にヴァレリー:上流階級のお嬢さんが没落して、料理も自分でしなきゃならない働かなきゃいけない嗚呼庶民生活は悲しいわ、って感じで全然気の毒ではないのが致命的。

 この話が何故この題? と思い辞書を引いたら、the devil to pay で“何かの結果としてのトラブル”といった意味。慣用表現としてのニュアンスを考慮せずに訳しちゃったか?

No.602 8点 神曲法廷- 山田正紀 2019/09/27 12:02
 本来もっと影響力と言うかカリスマ性と言うかその手の強さを持っている筈の登場人物(複数)が、“空っぽ”と評される被告人と同様いやにのっぺりと描かれている。極論全員人形みたいだ。
 ちっぽけな人形を指ではじいたら、互いにぶつかり合ってあっちで壊れこっちで壊れ。それを天空の高みから見下ろしている気分だった。ぼんやり霧がかかったようなイメージが頻出することもあり、人間ドラマという感じではない。そしてそれこそ作者の意図のように思える。

 ところで、彼女の登場場面で、プライヴェートを地の文で説明しているのはアンフェアでしょう。

No.601 4点 高い城の男- フィリップ・K・ディック 2019/09/27 12:01
 架空の歴史とはいえなんだか普通な世界設定なので、ディックを読んでいる気がしない。鬼面人を驚かす奇天烈な設定で攻めて来ないディックにディックである必然性があるのか? でも本当に問題なのは、ストーリーがあまり面白くないこと。

No.600 8点 先をゆくもの達- 神林長平 2019/09/27 11:59
 どこで何が起きているのか、良く判る話だと思った。
 神林長平作品に於いては、それが充分大きな特徴なのである。しかも一話ごとに場面も物語も転換する連作短編集的な構成で、徒にダラダラ続かずテンポ良く読み進める。諸々の関係性は明瞭で全体像もしっかり見えて、一方で作者独特のディベートの妙味も失わず。これは神林長平の入門編に格好の読み易さではないか。今になってそんな話を書くとは……。
 と思っていたら最後にドカンと来てイメージの刷新を余儀なくされ、ここはどこ、わたしはだれ? 状態。叙述トリックSFなのだった。

No.599 6点 電気じかけのクジラは歌う- 逸木裕 2019/09/13 12:14
 AIが発達しても音楽界がこういう状況になるとは思わないが、そこはまぁパラレルワールドってことでいいや。登場人物の心情の動きを近視眼的に追う分には面白かった。しかしこの世界設定で何故こう行動するのか腑に落ちないところもある。
 
 “新しい音楽”を流通させるには、“Jing”を調整して生成楽曲にその要素を混ぜて単純接触効果を狙う方が確実だと思う。
 “壁にカイバを貼り付ける”いうのは、わざわざ特定の場所に出向かないとその曲を聴けない(しかも行ってみるまでどういう曲か判らない)わけで、リスナーがそうやって未知のものに対する行動力を失わない状況は、“Jing”で好みの作品だけ聴く時代とは矛盾している。
 あと、即興演奏のユニット(昔から多々存在する)が物凄く特殊な発想みたいに描かれているのが不思議。

No.598 6点 二の悲劇- 法月綸太郎 2019/09/10 16:09
 竜胆直巳の作品タイトル『グレーの雨傘』は高橋由佳利の漫画『プラスティック・ドール』(『ふたたび赤い悪夢』の参考文献に挙げられている)に出て来る曲名からの借用。
 ならばこっちも偶然ではないだろう→“清原奈津美”なる、少女漫画家の名前をもじったようなネーミング。しかしこんな役回りの登場人物にそういう由来の命名をするか? 物語とは無関係にずっと気になった。と言うことはこの名付けは失敗なのである。

No.597 6点 ふたたび赤い悪夢- 法月綸太郎 2019/09/10 16:08
 作者は、森山塔(=山本直樹)のエロ漫画を愛読していますがそれが何か? と主張したいのだろう。気持は判る。森博嗣も作中で支持表明していたなぁ。
 綸太郎が有里奈襲撃事件のトリックに気付くのは遅過ぎない? これは木偶の坊と呼ばれてもしょうがない。

 文庫版解説はエラリー・クイーン作品『十日間の不思議』『九尾の猫』の犯人名をサラッと明かしていて非道。そういう名前やキーワードが意味を持つのは既読の人相手であって、しかし既読だからこそ適当に伏字にしても言いたいことは通じるわけで、結局そのうち読もうと思っている人(私)をがっかりさせるだけなのである。忘れ方を教えて。

No.596 7点 神のふたつの貌- 貫井徳郎 2019/09/10 16:07
 静謐な筆致で描かれた、反語的な宗教批判の物語。次は誰を殺すんだろう? とワクワクしながら読んだ。結末には私の中でも賛否両論あって、不思議なカタルシスを感じた反面、変わらぬ営みをしれっと続けて欲しかった気持もある。

No.595 4点 山名耕作の不思議な生活(角川文庫版)- 横溝正史 2019/09/10 16:06
 28編収録の単行本『恐ろしき四月馬鹿』を分冊して文庫化した片割れ。昭和2~6年の短編。デビューから数年のキャリアを経て、流石に多少は読めるものになってきた。ドタバタ風刺劇「二人の未亡人」が面白い。
 江戸川乱歩名義で発表された代作も含む。名義が違うのをいいことに、正史はちゃっかり自作短編のネタを一部使い回している。しかし何もそれを同じ短編集にまとめなくても。

No.594 5点 田嶋春にはなりたくない- 白河三兎 2019/09/02 11:50
 小説の書き方として巧みで、田嶋春のキャラクターはいいんだけど、語り手達のありきたりな“本音と建前”には閉口した――それが、話のネタにかかわらず全5章で一貫した感想なので、これはもう作品のコンセプトが私に合っていないと言うことだろうか。

No.593 2点 恐ろしき四月馬鹿- 横溝正史 2019/09/02 11:49
 角川文庫版に収められた14編について。遅咲きの作家だと言う認識はあったので、初期短編集である本書が玉石混交なのは覚悟しつつ、多少は拾い物もあるだろうと期待していたが、石ばかりである。辛うじて「画室の犯罪」と「赤屋敷の記録」に、これはと言う場面が見られた程度。

No.592 7点 アクロイド殺し- アガサ・クリスティー 2019/08/30 10:06
 “アクロイド”って何だろう? セルロイドやアルカロイドからの連想で普通名詞だと考えたのだ。“~殺し”と言うからには、被害者の何らかの属性を示す語に違いない。モンゴロイドのように人種を表すのか。悪のアンドロイドって意味ではまさかあるまい。えっ、単なる被害者の名前? なーんだ。
 そんなことを思った小学校時代、幸いネタバレ無しで読めたので結末で驚愕、海外のミステリを読む大きなきっかけになった。
 さてそれを今読み返したところ、意外な程に面白い。物語序盤にそんな兆しは欠片もないのに何故あの人があの人を殺すのか? また、言動の不可解な人物が幾人も見受けられる。
 つまり、メインのネタはどうしたって忘れようがないけれど、詳細についての記憶は曖昧――そんな状況が、本書を優れた倒叙ミステリに変貌させたのだった。

No.591 8点 月光ゲーム- 有栖川有栖 2019/08/30 10:04
 物語に停滞がなく常に進行し続けるので、読み易く面白かった。本格ミステリに対する志の高さが感じられる。

 解決編のダイイング・メッセージ解説で江神が言及した“テントに貼りだされた表札”――そんな記述あった? “十七人か、テントに表札つけなきゃね”という台詞はあり、理代たちのテントの表札は事件の小道具として登場するから、全てのテントに表札があると推測は可能だが……私の見落とし?

No.590 7点 魔偶の如き齎すもの- 三津田信三 2019/08/30 10:02
 “巫死”の教義(?)や六人の女性の詳細はもっと知りたかった。“獣家”の像が結局は虚仮威しなのもがっかり。このシリーズ、長編は冗長になるのに、短編だと結末が急ぎ足だなぁ。

No.589 5点 今だけのあの子- 芦沢央 2019/08/30 10:00
 こういう作風の人が同系統の作品を求められるのはしかたないが、収録短編のムードがどれも似通っていると感じた。個々の短編としては面白いのに、こうして一冊にまとめると良さが相殺されているような。
 ところで、各編が緩くリンクしているけど、これって何か裏設定みたいなものの伏線になっていた? 全然判らない。

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虫暮部さん
ひとこと
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泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
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