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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1953件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.733 7点 キングを探せ- 法月綸太郎 2020/06/11 12:20
 トランプのランク(番号)と被害者の名前の共通性に、犯人も捜査陣もこだわっているのが可笑しかった。しかもそのおかげで被害者の絞り込みに成功しちゃうし。そもそも件のトランプを後生大事に保存していたことと言い、犯人が捜査陣に対してフェア・プレイを心掛けています、みたいな感じで妙。

No.732 7点 オリエント急行の殺人- アガサ・クリスティー 2020/06/04 11:52
 メインのネタはどうしたって忘れようがないけれど、詳細についての記憶は曖昧、と言う状況で読み返すと、本作は一幕の舞台劇の如し。いやむしろTVのドッキリ企画か。役者による芸風の違いも(それなりに)書き分けていて見事。肩に力が入ってつい失言しちゃう人。素のままで通したようなハマリ役。そして別人格を演じ切った名優……。

No.731 6点 エッジウェア卿の死- アガサ・クリスティー 2020/06/04 11:51
 殺人発生以前からポアロが巻き込まれている設定だが、巻き込んだ人物の考え方は“作者の都合”のようで不自然に感じた。
 
 ところで、7章の冒頭。
 ポアロ「尋問はしたのでしょうな?」
 ジャップ警部「しましたとも、そして、あの十四人が一人残らず云々~」

 これは次作についての大胆な伏線か、それとも自分が何気なく書いた台詞に触発されてアレを思い付いたのか。

No.730 6点 津軽路に死の雪が舞う- 青柳友子 2020/06/04 11:50
 情炎ミステリー、と謳われている。ボクシング、性風俗産業、イタコ、の三題噺と言った趣で、更に旅情あり男たちの三角関係ありとなかなか読ませる。ミヤちゃんのキャラクターは美味しいね。
 ところが後半は雲行きが怪しい。徐々に明らかになる、主人公の人生の裏側で起きていた諸々は色々強引で、腑に落ちるとは言えなかった。
 総じて古いタイプの劇画(池上遼一とか)みたいな印象。前半は良い意味で、後半は悪い意味で。因みに、題名は内容に全然合っていない。

No.729 5点 新 顎十郎捕物帳- 都筑道夫 2020/06/04 11:48
 揃いも揃って下手人達は無駄に芝居っ気が過ぎるものだから、何故そこまでやるの? と言う話ばかり。そんな中で、「えげれす伊呂波」は地味ながら筋がすっきり通っていて良し。「きつね姫」の理屈も面白い。「浅草寺消失」でEQ「神の灯」に挑戦するも、これは都筑の完敗だ。

No.728 3点 イナイ×イナイ- 森博嗣 2020/06/04 11:47
 犯人が事件を、誰に対して、何の目的で、どのように見せかけたかったのか、まるで判らない。私の理解力の問題ではなく、辻褄が合っていないからだと思うのだが。
 エピローグでの小川令子の“もっとうまく(商売として)立ち回る方法はなかっただろうか”と言う発想は、ミステリっぽくなくて面白い。

No.727 8点 山椒魚戦争- カレル・チャペック 2020/06/02 12:11
 昔の風刺SFだが、古さを理由に手加減して読む必要は感じなかったし、発表当時の世界情勢など特に意識しなくとも作品自体が純粋に面白い。グロテスクなイメージの山椒魚が愛らしく感じられ始めた、かと思うと当初とは別のニュアンスでグロテスクに変わり、それはつまり人間の鏡像である。と、ざっくり言ってしまえばありがちなアイロニーだが書き方が巧みなので読まされてしまう。

No.726 6点 砂時計- 泡坂妻夫 2020/06/02 12:09
 職人モノの一編になかなか鮮やかなミステリ的仕掛けが施されていて、そうすると他の作品にも同系統のものを期待してしまうのが人情ではないか。しかし他の職人モノはあくまで職人モノであり肩透かしを食らった。ならば問題の一編を職人モノの末尾に配しミステリ短編との橋渡しにすべきで、途中に割り込む形の芸能モノ2編は最初に置こう(最後に置くと、ミステリ要素の無さがやはり肩透かしだから)。
 と言う感じに収録順にも配慮してくれると印象がまた違うと思う。ミステリも職人モノも泡坂妻夫作品として同じ扱いで読んで欲しい、みたいな編集意図を感じるがなかなかそうもいかないのよ。

No.725 6点 時空旅行者の砂時計- 方丈貴恵 2020/06/02 12:09
 SF設定を組み込んだミステリと言うのはもはや珍しくもないので、その点だけ取り上げて変に騒ぐことはないし、普通のミステリと同列に並べて正当に評価することが出来る。本作は本格ミステリとしては結構王道で、手を抜かずに色々組み立てていると思うが、優等生的であるがゆえの物足りなさ、パターンをこなしている感じ、も否めなかった。内容ではなく書き方の問題が大きいかと。
 あのSF系トリックには、そんな手があったかと感心した。一方、Tさんの死因が日記と異なるのにはどういう意味があるのか。タイム・パラドックスは苦手だ。
 第四章の筆談はもっと筆談っぽい文体にしたほうが演出上良いと思う。

No.724 7点 修羅の家- 我孫子武丸 2020/06/02 12:07
 ああ気持悪い(褒め言葉)。ふーん、実録小説みたいなものを狙ってるんだな、でも最初の章でネタが読めちゃうよ……と舐めていたら予想外のところへ飛んで、成程やっぱりミステリの人だなぁと感心しつつ、やはり気持悪い。最後は雰囲気モノにせずもう少しきちんと締めたほうがいいと思う。

No.723 7点 濱地健三郎の幽たる事件簿- 有栖川有栖 2020/06/02 12:05
 作中の台詞にあるように“幽霊の法則がはっきりしないね”。それは良し悪しであって、話のヴァリエーションの源になっていると同時に、まぁ説明はどうとでも付くものだと言うことでもある。最も推理小説っぽい「姉は何処」が結局一番印象的だった、との感想は、作品の限界なのか読者としての私の限界なのか。

No.722 6点 剥製の島- 山田正紀 2020/05/29 12:06
 一貫してうらぶれた雰囲気のキャラクターばかり登場するが、各編それなりに差別化されていて楽しめる短編集。出来不出来はあって、「湘南戦争」がダントツで面白い。喜劇にせずあくまでハードボイルド的に書き切って潔し。「剥製の島」ストーリーはなんてことないが、描かれた情景のインパクトで勝ち。暗号モノの「閃光」は駄作。「マリーセレスト・2」は設定を作り込み過ぎでは。

No.721 7点 パーマー・エルドリッチの三つの聖痕- フィリップ・K・ディック 2020/05/29 12:03
 ちりばめられた雑多なSF的ガジェットのせいで取り散らかした印象だが、落ち着いて省みればそれなりにフォルムの整った作品。前半は企業サスペンスみたいで面白いし、幻覚の描き方もスリリング。
 ただ、私にはドラッグを試してみたいとの興味は微塵も無いので(酒も飲まない)、登場人物に対する共感の無さは否めず、それがなにがしかの壁になっているかも。植民地の場面は“やれやれ、しょうがない奴等だ”と上から目線で読んでいたな。

No.720 5点 荒野の絞首人- ルース・レンデル 2020/05/29 12:01
 舞台となる“原野”について具体的にイメージしづらい。物理的要素だけでなく、住民の生活との心理的な距離感とか。日本に於ける山林とは違う位置付けだよね?
 良く判らない点が幾つか。第三の犠牲者について、加害者は死体遺棄と髪切りを何故まとめてせずに徒歩で引き返す二度手間をかけたのか(13章)。その行動について警察は何を根拠にそこまで細かく推測出来たのか(17章)。18章の刑事の訪問は何が目的なのか。証拠隠滅を促したとしか思えないのだが。

No.719 5点 言語都市- チャイナ・ミエヴィル 2020/05/29 11:58
 判りにくい作品だ。自分がどこまで的確にこの物語を享受出来たか、自信が無い。アリエカ人をヴィジュアルでイメージしづらい、と言う点が大きな壁だった気がする。まぁその判らなさも面白さのうちではあった。馬鹿馬鹿しくシュールな場面を大真面目に淡々と描くメタ的な可笑しみ、を強く感じたがそれは果たして作者の意図だったのか? エドでーす。ガーでーす。二人合わせてエドガーでーす。そのまんまやないけー! ごめんなさいそこまでふざけた話じゃありません。

No.718 8点 巴里マカロンの謎 - 米澤穂信 2020/05/29 11:56
 このシリーズって春夏秋冬の4部作になるのが暗黙の了解だったんじゃないの~? と誰もが突っ込んだことでしょう。恥じることはない私もだ。
 公約を剥がすだけの意義はあった。「伯林あげぱんの謎」は不可解な状況の作り方が巧みだし(シリーズ中ベストではないか)、「花府シュークリームの謎」は謎そのものよりも打開の為の心意気がナイス。ラスト・シーンでは異様に感動した。
 しかし、こうやって続けてしまったことで、“二人の青春の蹉跌に何らかの決着を付けて完結”と言った感じのバランス良くまとまったシリーズへの道は失われたわけで、ちょっと惜しい。完結させられるシリーズは完結させたほうがいいと思うのだ。

No.717 7点 エスパイ- 小松左京 2020/05/28 11:11
 小松左京のイメージからすると意外な程に通俗的かつ痛快なアクションSFで、その通俗性も含め総体として一つの文明批評に思える。世界各地を股にかける旅程は博覧強記の氏の面目躍如だが少々わざとらしい(語り手がそこまで理知的なキャラクターでもないので、薀蓄を語る部分は作者本人の視線になっているような……)。“エスパイ”と言う造語はかなりダサいと感じる。発表当時はアリだったのか?

No.716 7点 りぽぐら!- 西尾維新 2020/05/28 11:09
 この手の言葉遊び、作者は書くほどにレヴェルアップして楽しめるが、読者はなかなかその楽しみを共有しづらい。思うに本書の場合、禁断ワードがランダムなのが一因で、例えば“ア行禁止”とか“濁音禁止”のようにシンプルならばもう少し親しみ易かったのでは。甘いかな?
 純粋に小説として読めば、「妹は人殺し!」が大好き。

No.715 10点 宝石泥棒- 山田正紀 2020/05/28 11:07
 山田正紀作品は概ね目を通しているが、最高傑作と推したいのは本書。イマジネーション豊かな異界、運命に抗う旅、奇妙な仲間達、友情努力勝利敗北。贅沢に全部載せてしかも隅々までこぼすことなく味わえる。
 『神々の埋葬』のように、まだ広げられる余地を残したままの完結でなく、『ミステリ・オペラ』など大長編の胃もたれ必至の物量戦でもなく。
 やや長めの『宝石泥棒』は、物語が内包するスケール感と具体的なページ数がピッタリ一致して、食い足りなさも読み疲れも感じない。諸々のエピソードがバランスよく盛られ、いや違う、バランスの悪さも滑らかな模様に見える高い視点に読者を導き、不器用な作家であちこちぶつけながら領域を広げてきた山田正紀としては驚くほど綺麗な球体を描いているのである。瑕瑾……はあるのかもしれないが、あまりに鮮やかな作品世界の中に居ては気付く余地が無かった。
 チャクラが小丑から料理で一本取る場面が大好き。

No.714 6点 カブト虫殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2020/05/28 11:06
 読了後、冒頭部分を読み返してみると、ファイロ・ヴァンスは事件を伝えられた時点であまりにも鋭い洞察を示していて、単なる勘にしても異常なのである。事件関係者がもともとヴァンスの知人である点も併せて鑑みると、裏で糸を引いていたのは彼自身ではないか、実行犯を巧みに唆して罪を犯さしめたマッチポンプではないか、と思わずにはいられない。ラストがアレだしね……。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1953件
採点の多い作家(TOP10)
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アガサ・クリスティー(72)
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