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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1848件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.688 7点 アリス・ザ・ワンダーキラー- 早坂吝 2020/03/02 10:30
 面白かった。
 イチャモンを付けるなら、アリスの二次創作は食傷気味、と言うこと。原典を有機的に謎に結び付ける手腕は認めるに吝かでないが、あと一歩だけ乗り切れない気分が残った。しかし、このパズル世界をすんなり許容出来たのは元ネタを作者と読者が共有しているおかげであって、そこは良し悪しだと考えるべきか。

No.687 7点 ゲームの王国- 小川哲 2020/02/29 11:25
 アジアを舞台にしたこういう感じの話はあまり読んだことがないので新鮮だった。どの程度虚実が入り混じっているのか知識が無いので判断出来ず。
 媚びていないのに読み易い文章で、神経衰弱のようにばら撒かれたそれぞれのパーツがまず面白い。更に、大きな物語としてどっちに向かっているのか、どこまで読んでもさっぱり摑めないところが素晴らしい。登場人物の関係性がごちゃごちゃしていてそれなりの障壁だけど、頑張る甲斐はあった。

No.686 7点 ロシア紅茶の謎- 有栖川有栖 2020/02/25 10:55
 藤木稟も麒麟。

 “エラリー・クイーンのひそみに倣った国名シリーズ”と紹介されるが、可笑しなダイイング・メッセージが繰り返し登場する点にこそ“EQの後継者だなぁ”と私は頬が緩む。「屋根裏の散歩者」のラストには良い意味で唖然。しかし江戸川乱歩作品の概要をあんなに明かす必要は無かろうに。

 ところで、ロシア紅茶ってジャムと砂糖、両方入れる?

No.685 5点 シタフォードの秘密- アガサ・クリスティー 2020/02/25 10:54
 冒頭の降霊会は魅力的な謎だが、作中では殆どフィーチュアされていないので、もしやシレッと“本物の心霊現象”として片付けるのか、と心配(期待?)してしまった。
 まぁ冷静に見れば犯人が最も怪しい行動を取っている。しかし心情の描写に少々アンフェアな記述があるような。だから見破れなかったのだ、と強弁はしないけど。
 トリックは良いし、動機の設定も上手い。高評価出来ないのは、中盤の地道な調査行が退屈だから。それにその成果のうち犯人究明に直接役立った手掛かりって最後のアレだけ……?

No.684 5点 大江戸ミッション・インポッシブル 幽霊船を奪え- 山田正紀 2020/02/25 10:53
 前巻の順当な続きであって、それ以上の物凄いものでは、まぁない。どくろ大名のキャラクターはナイス。時代物ならではのトリックには苦笑。少し端折って1冊にまとめた方がスピード感も出て良かったのでは。ビジネスのことは言うな!

No.683 6点 カナリヤ殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2020/02/20 13:45
 なにしろ有名な“アンフェアな手掛かり”のネタバレ作品であるからして、答え合わせ程度のつもりで読み始めたが、それだけでは解釈しきれない矛盾が色々あるし、警察は無能だし、かなりやきもきさせられ予想以上に楽しめた。
 ところで、当時は四階建て程度の規模のアパートメントで専属の“電話交換手”と言う職業が成立したんだ? いつの世もテクノロジーは職を奪うね……。

No.682 7点 流氷民族- 山田正紀 2020/02/20 13:43
 SFサスペンス、なんだけど思い返してみるとSF要素つまり亜人類に関する魅力的な設定は殆どが又聞き情報。美少女が写真と同一人物だときっちり確認されたわけではないし、眠る人々もスケールの大きなカルト集団に見えなくもない。あり得ない場面が読者の前に直接提示されることはなかったので、全てが壮大な勘違いとの解釈もアリ?
 それはそうと、終盤の船上の場面はカタルシスに満ちていた。峰くん見直したぜ。その後のミステリ的解説が結構ぐだぐだなのには参ったけどね。

No.681 5点 二度のお別れ- 黒川博行 2020/02/15 12:19
 あまり好みのタイプではない。が、その割に面白く読めた。が、真相は“やっぱりそうか”である。
 逃げ切った犯人がしかし全然幸せになっていない、と言う部分をサラッと流していて勿体無い。そこはもっとじっくり読みたかった。構成上難しいか。

No.680 7点 悪魔の手毬唄- 横溝正史 2020/02/15 12:18
 文章が良い。美文名文ではないが、読者を作品に踏み込んで行く気持にさせる力がある。刀自が手毬唄を聴かせる場面はゾクゾクした。歌詞自体はプロローグで既に提示されているのに改めてそんな気分になるのは凄いことだ。
 真相解明によって全てがピタリと嵌った感じは正直あまり無いが、本作に於いてはさほどマイナス要素ではない。
 登場人物が多くて混乱するので、フルネームでの表記をもっと多くして欲しかった。

No.679 5点 エラリー・クイーンの冒険- エラリイ・クイーン 2020/02/15 12:17
 読みながら思ったこと(順不同)――

・こういうプロットは他にも読んだことがある(クイーンの作品の方が元ネタなのかもしれないが)。
・文化に基づく習慣を根拠に性別を推測するのは強引。
・誰一人引っ掛からない偽の手掛かり、って単なるページ稼ぎでは。
・詐欺行為のカムフラージュに窃盗/強盗/不法侵入を行うのは、捕まるリスクを増やすだけでは。
・七匹も買われる前に何か変だと思わないものか。店員が“買ったものをどうしようと御客様の自由ですから”と言うキャラクターならともかく。
・殺人現場を調査中のエラリーは、何故“偶然、ドアノブを拭いて指紋を全部拭きとった”のか。下手すると証拠隠滅。

 しかし、突っ込みどころの無い作品が優れていると言うわけでもなく、一番面白かったのは、手掛かりがわざとらしい「ガラスの丸天井付き時計の冒険」。巡らした策が却って首を絞めている、余計なことしなきゃよかったのに、と普通なら言うところだが、ここでは犯人のミスに説得力が認められていいね。

No.678 5点 グレイメン- 石川智健 2020/02/08 10:52
 文章は、まぁ褒められたものではない。どうにも硬くて、直線だけで描いた絵、みたいだ。ただ、兎にも角にも絵になってはいる。小説の文章はこうあるべし、と言うのは狭量な先入観なのかもしれない。米韓でも出版されたとのことで、翻訳に於いてはこういう侘び寂びの無い文体が有利に働くかも。
 色々突っ込みどころはあるが、作者の意図はどうあれ、楽しめる与太話。とりあえずそれで充分。

No.677 7点 5まで数える- 松崎有理 2020/02/08 10:51
 可笑しな味わいの、しかしなかなかの佳作揃いだと思う。もとより決してリアルな設定の話ではないが、語り口の醸し出す絶妙な嘘っぽさが本書を特別なポジションに引っ張り上げている。

No.676 4点 ラミア虐殺- 飛鳥部勝則 2020/02/08 10:49
 なんじゃこりゃあ。ゲテモノは嫌いじゃないが、やはりそれだけじゃ駄目なんだな。百歩譲って大まかなプロットとしてはまぁアリかもしれないが、その具体化が全然上手く出来ていない。誰かリライトしたら?

No.675 7点 人面屋敷の惨劇- 石持浅海 2020/02/08 10:48
 状況設定は面白い。しかしこの殺し方はリスキー。被害者が絶命する前に誰かがひょいと現場を覗いたら、一命を取り留めることもあり得る。下手人は被害者に顔を見せているわけで、苦痛を与えることよりも確実な絶命を優先すべきでは。

 “女性らしいふくらみのほとんどない肢体”だから色仕掛けは難しいだろう、と言う意見について、個人的には否定的である。

No.674 5点 宇宙細胞- 黒葉雅人 2020/02/03 13:27
 ぶっちゃけ、『ΑΩ』(小林泰三)みたいだ。“片手”と言う設定から『寄生獣』(岩明均)も想起させられる。『鉄腕バーディー』(ゆうきまさみ)にはバチルスなんてのが登場するし、遡れば『ソラリスの陽のもとに』(スタニスワフ・レム)、新しいところでは『粘菌人間ヒトモジ』(間瀬元朗)等。不定形の生命体とぐにぐにぷよぷよと言うのは一部の人類に普遍的な憧憬なのかもしれない。
 出発点を考えると割と順当な展開で、物凄い驚きは無い。ラストの部分も、もっとグイグイ読ませる文章力があればねぇ……偏執的な文体は意図的なものだと思うが、私とは微妙にセンスが合わなかった。全体的に、もう一つ何か欲しい感じだ。

No.673 5点 キリオン・スレイの生活と推理- 都筑道夫 2020/02/03 13:23
 “こういう奇妙な事件にしたい、その為には犯人がこういう風に動けばいいはずだ”と言う作者の思惑だけで登場人物が駒のように行動して不自然。犯人やその関係者の作為が妙に回りくどかったり、心情的に何故そこでそう動くのか納得しづらかったり。物語としての枝葉末節をもっと整えるべきだった。

No.672 7点 ユートロニカのこちら側- 小川哲 2020/02/03 13:22
 情報技術による“ありそうな未来”、と言うことで大枠のパターンには既視感がある。しかし物語る手管の上手さ、脇役の説得力、あちこちに埋め込まれた小ネタなど、メイン・テーマ以外の要素が良く出来ていてそういう部分で勝ちだ。個人情報の監視によって発見される予備犯罪者への対処、なんて問題も俎上に乗せられている。

No.671 7点 終末曲面- 山田正紀 2020/02/03 13:19
短編と言う枠の中に押し込められた物語の軋みが聞こえる。背景としてもっと大きな世界が感じられ、いわば設定としては長編的、結末は短編的、故に文字で表現された以上のエッセンスが行き場を失くしてえも言われぬ焦燥感を生み出した。特に「薫煙肉のなかの鉄」の世界にはもっと浸りたかった。
 「銀の弾丸」は、日本人作家による史上二作目のクトゥルフもの作品だとか(一作目は高木彬光「邪教の神」)。

No.670 5点 イシャーの武器店- A・E・ヴァン・ヴォークト 2020/01/30 12:37
 二大組織の対立を背景に、スパイ・スリラーや経済事件やロマンス等々の小ネタを混ぜ、面白い部分もあるのだが総体としていまひとつ噛み合っていない。原因は、“武器店”なる存在に説得力が足りない(単なる反政府組織と何が違うの?)にもかかわらず存在感は大きいので、物語の基本設定があやふやになっていることか。過大評価は避けたい。

No.669 6点 牧師館の殺人- アガサ・クリスティー 2020/01/30 12:32
 随分と俗っぽい牧師さんだ。GOOD!
 ところどころにさりげなく埋め込まれたユーモアも冴えている。

 「夜中の十二時にスーツケースを持って、森の中で何をするつもりだったんでしょう?」
 「ひょっとすると――古墳の中で眠るつもりだったのかもしれませんよ」

 とか。これに何も突っ込まずにシレッと続くところが GOOD!

 “最初はまさかアクロイドではと疑った”←私も!

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1848件
採点の多い作家(TOP10)
山田正紀(99)
西尾維新(72)
アガサ・クリスティー(68)
有栖川有栖(51)
森博嗣(49)
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