皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1953件 |
No.1353 | 7点 | 紅蓮館の殺人- 阿津川辰海 | 2022/12/22 16:27 |
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高校生二人の憧れの作家が松本清張フォロワーとの設定は意外。EQ系じゃないんだ。
吊り天井の部屋と隠し部屋。事故防止を考えるなら、後者から前者の中を見られるきちんとした窓があって然るべきでは。と言うか、吊り天井に関する安全装置が皆無で、それこそ “殺人の為の部屋” って感じ。 “塔の中のエレベーター” が、ミステリ的ガジェットとしては全然生かされていない。 たいした根拠もなく “金庫=50キロ以上” と推定して、そのまま推理を進めている。極論、ハリボテかもしれないのに。 推理に没頭する葛城は鼻に付いた。いっそ “謎は解けたが、それに時間を浪費したせいで炎に巻かれて全員死亡” なんて結末はどうだろう? 実はエピローグは死に際に見た幻覚であった……。 ※吊り天井の前例としては、江戸川乱歩『白髪鬼』、更にそれをネタとして借用した米澤穂信『インシテミル』がありますね。 |
No.1352 | 6点 | 九マイルは遠すぎる- ハリイ・ケメルマン | 2022/12/22 16:26 |
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作者が序文で自作を “古典的推理小説” 及び “もっぱら読者に喜びを与えることに専心する現代的な表現様式” と称したのは全く以て正当な自己評価だと思う。頭皮マッサージを受けているような心地良い読み味。そのぶん地味だが止むを得まい。
でも「ありふれた事件」の犯人をもっと緻密に活写したら結構不気味かも。 「時計を二つ持つ男」は何か変だ。 犯人はあんなトリックで誤魔化せると本気で考えたのか。しかし実際に通用してしまった。関係者が超自然現象を信じ易い背景が欲しいところだ。宗教団体の内部で起きた、とかさ。 人々がそれを信じる場でないとカムフラージュにならないが、信じるが故に “現世の法では裁けないが、彼が死んだのはアイツのせいだ” と断罪される。信じない場なら、トリックは判らなくても行動があまりに怪しく、事件に関わっていると自白しているようなものだ。どっちにせよ後ろ指を差されるではないか。 そこはまぁ起訴されなければ良し、と開き直っていたのかもしれない。しかしそもそも、この件は “超自然現象” の演出など無くても、事故に見せかけた遠隔殺人が可能なのである。 犯人がしたこと:①時計をずらす。②絨毯に仕掛け。③夜中に発砲。④超自然現象の演技。 ここで③の代わりに、⑤夜中に何かの音を発する仕掛けを施す。 すると①②⑤があれば、翌朝には階段から転落した死体が見付かる、と言う寸法だ。 更に言えば、トリックを推測出来たからといって、それが超自然現象を否定する根拠にはならないと思う。 「梯子の上の男」、そんな写真を部外者にポロッと見せるのは如何なものか。 |
No.1351 | 5点 | 世界の望む静謐- 倉知淳 | 2022/12/22 16:24 |
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犯人のキャラクター小説として面白い。“最初から疑われていたポイント” も上手い点を突いている。しかし、どこでミスをしたのか、と言う興趣は今一つ。犯行そのものではなく、その後の不用意な行動で露見するパターンもあまり好きではない。
「一等星かく輝けり」の作中歌の♪スターダスト~ は “スターの屑” と言う洒落? |
No.1350 | 7点 | 冬の雅歌- 皆川博子 | 2022/12/15 15:33 |
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本作中の某の過去を深掘りしたような長編が後に書かれており、各々単独で読めば傑作なのだが、2冊並べると “中途半端にリメイクしたんだな” と言う印象に変わってしまう。作者はこっちで自分役を死なせていることになる。
精神病院、アングラ劇団、学生運動、新興宗教(的な精神修養)。私好みの要素がバラバラのピースのようにちりばめられ……バラバラなまま幕切れ。このエンディングは、しかし割とストンと腑に落ちたな。 |
No.1349 | 7点 | 卍の殺人- 今邑彩 | 2022/12/15 15:31 |
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取り入れるべき要素が予め或る程度定められていて、それらを如何に確実にこなしたか、がジャッジの対象になる、いわばフィギュア・スケートのような作風か。
5回転ジャンプ! みたいな奇跡は無い。先鋭的なオリジナリティがあるわけでもない。寧ろ先の流れが読めて変な安心感があったりする。しかし各々の技が綺麗に決まって上手に着地出来れば、やはり拍手も沸き上がると言うものだ。 思わせぶりなプロローグ。仮にあの睦言が叙述トリック的なミスディレクションだったら、と考えた。そしたらそれに相応しい二人がいるじゃないか。 ってことで、実は義務教育の少年少女の早熟な濡れ場でした、と言う仕掛けを期待したんだけどね。 |
No.1348 | 7点 | ガラスの街- ポール・オースター | 2022/12/15 15:30 |
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“謎は解かれるべし” と言う思い込みを逆手に取った “謎を作る為の” ミステリ。安部公房の『燃えつきた地図』あたりを都会的(なのかな?)なセンスで書き直したみたい。でも作者と同名なあたりは伝統に忠実である。
ピーターの長台詞はカフカか。スティルマン父との対話はチェスタトン。11章、クインも町を徘徊して何か書いたのかと思ったが……? まぁ曲解は読者の権利である。 |
No.1347 | 6点 | 黄昏の罠- 愛川晶 | 2022/12/15 15:29 |
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このトリック自体には完敗。事件の裏で実は何が起きていたのか、と言う意外性も良し。しかしプロットが甘いのではないか。
エピローグで指摘される疑問点(一つ目)は非常にもっともで、示される答には合理性が無い。しまった、これでは完全犯罪が成立してしまう、と気付いた作者による敢えてのミスか。成立させちゃっても良かったんじゃない? “身元の鑑定が間違いだと認めろ” と警察に怒鳴り込む小暮の言動もおかしい。彼の目論見は 1.妻の隠れ家を突き止め手形を奪回。2.妻の生命保険金の受け取り。であるから、利害は対立しない。“早く真相を明らかにしろ” と望む筈。 この後、手形は小暮の手に戻るのだろうか? 正当な所有権は誰に属するのか? 経済ネタは判らん。つまり、警察が事件を解決することで、結果的に彼のシノギを手助けする形になっちゃう? |
No.1346 | 5点 | 盲目の理髪師- ジョン・ディクスン・カー | 2022/12/15 15:28 |
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衝撃的とまでは言いがたいファルス。盛り上がる場面はあっても、それらを繰り出すテンポが良いとはあまり思えない。その上で真相がアレじゃあなぁ。作者の意図に無理があるような気がする。
4章。“ネス湖の怪物と同じくらいにしか信じていない”――今読むと味わい深い比喩。JDCは真実を見抜いていた!? |
No.1345 | 8点 | 方舟- 夕木春央 | 2022/12/08 13:08 |
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確かに絶妙な設定だし、ロジックは上手く出来ているし、スリリングでリーダビリティも高い。でも近年の若手本格勢に良くある空気感だし、学習能力の高さでそつ無く組み立てた既製品て感じだし、何故そこまで高評価なのかは判らんな~、と思っていた。読了寸前までは。こんな反転があるか。これは見事。
前2作に比べ文体が随分スリムに変化していて、これが内容に合わせてコントロールしたものなら立派。文体で世界観を盛って行くようなああいう書き方は一般受けしないから方向転換しよう、と言うことなら、フツーに近付いちゃってちょっと淋しい。 |
No.1344 | 7点 | 化物語- 西尾維新 | 2022/12/08 13:07 |
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改めてシリーズ初作を読み返してみると、怪異への対処法、いわば解決編が、そこまでぴったり平仄が上手く合っているわけではないな~とアラが見えて来た。やはりこういう話ならば、“捻りの効いたグッドなアイデアである” と言うことについて読者に対する説得力のあるもの、を期待してしまう。あれは駄目、これも駄目、あっ、その手があったか! みたいな。本作では “作品世界のルールではそうなってるんですね” と、説明されて納得することしか出来なかった。
でもキャラクター小説としては大好きよ。 |
No.1343 | 7点 | 金雀枝荘の殺人- 今邑彩 | 2022/12/08 13:06 |
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館モノの典型で、その作り物っぽい部分も含めて好き。生き残りが少ないので犯人に意外性は全く無かったが止む無し。第六章の6で語られる秘密が単なる付け足しみたいなのは残念(言葉だけで、証拠は示されていないし)。
ところで、ネタバレするが、序章に登場する夫妻が巻末で暗示された通りの二人だとしたら。 登場人物の系図を完成させてみよう。彼が某の息子と言うことは、夫は妻の母の従弟に当たる。従兄妹より遠い5親等だから無問題だけど、代が違う親族同士のカップルって妖しい感じがしない? 読了後に気付いてドキドキしちゃったよ。 「それじゃ、ぼくの――」「ひいひいおばあさんかな」 この “かな” が、断定していないところが、絶妙な伏線? |
No.1342 | 7点 | 動く指- アガサ・クリスティー | 2022/12/08 13:06 |
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静かな田舎の村、にしては情緒不安定な人が沢山住んでいるな(妹だって随分だ)。台詞の端々に危うさが感じられるのだが、語り手はシレッと流し、それがまた可笑しみを増幅する。事件の謎よりも、その語り口で大いに楽しめた。メタ・ユーモア・ミステリ? まぁ曲解は読者の権利である。ラストは冒険し過ぎで、ジェリーの憤りも当然だろう。 |
No.1341 | 6点 | 地図と拳- 小川哲 | 2022/12/08 13:04 |
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長い。
しかもこれ、物語の核がどこにあるのか、一向に摑めない。何がどうなれば大団円と言うわけでもなく、例えば第五章から読み始めても第十三章で読み終えても平気そう。過去から未来へ歴史が流れていく中で、ここからここまでを切り取って一つの作品です、とする根拠が見当たらない。全然読み終えた気がしない。 それ故に(逆に?)、どこからどこまでも続く時間の長さが物語の背後に見えて来る。人がポコポコ死ぬのも、戦争が終わらないのも、まぁそういうもんだ、仕方ない、と思えてしまった。大山鳴動して結論はただ無常。怖い本だ。 全然ミステリだとは感じなかったんだけど、このミス2023で第9位だから登録してもいいかな? |
No.1340 | 8点 | 11 eleven - 津原泰水 | 2022/12/01 12:23 |
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四谷シモンの人形の写真をカヴァーにあしらっているのが絶妙な食前酒。人に似ているけれど人ではなく、それゆえの美しさを具えつつぱっと見怖い。まさにそんな作品集で、多少の波はあるがいずれも強い吸引力が感じられた。「手」はまとまり過ぎかな。一推しは私も「五色の舟」。 |
No.1339 | 6点 | 妖かし蔵殺人事件- 皆川博子 | 2022/12/01 12:22 |
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手持ちのネタで手堅く書いた感じ。不可解な現象に比べてトリックはしょぼいが、それはそれで歌舞伎をリアルな商売として描いた作品世界と合致しているかも。
興行の本番中はみんな視野狭窄に陥りがちだから、そこを狙うのは賢い。しかし公演を中断させることも辞さない、同業界人のくせに血も涙も無い計画だな……。入れ換わりが上手くいく保証は無いので、そこは賭けだね。 特に後半、人間関係が込み入って来るので、もっと意識しながら読むべきだった。犯人のキャラクターが今一つ摑めず、真相を知っても “ふーん” と思うしかなく残念。 |
No.1338 | 5点 | 不知火判事の比類なき被告人質問- 矢樹純 | 2022/12/01 12:21 |
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期待したより小粒だった。各話の伏線の張り方が似通っていて、2話目以降は山勘でなんとなく判ってしまう。
一方で、漫画原作者としてのキャリアで得たノウハウが、今までの小説作品の中では最も上手く生かされている気がして(読者の勝手なイメージだけど)、それだよ! と言う嬉しさもあった。次作への期待が募る足踏み? 「二人分の殺意」のネタについては、現実性に懐疑的な見解もあるようだが、私は有り得る事象だと思っている。 |
No.1337 | 5点 | 魔物が書いた理屈っぽいラヴレター- 林泰広 | 2022/12/01 12:20 |
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類型に嵌まらないような工夫はあるし、内容のエッセンスも悪くないが、どうしても安物感が拭えない。とは言え、軽く読み流せる娯楽作品が悪いわけでは全く無いしね。文章に深みが無いのは “理屈っぽい手紙” との設定に合わせたのだろう、と好意的に(意地悪く?)考えておこうか。
※表紙イラストが見取り図? |
No.1336 | 4点 | 帽子収集狂事件- ジョン・ディクスン・カー | 2022/12/01 12:19 |
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真相にはちょっとびっくりしたが、そこに辿り着くまでの事件の成り行きには物語の躍動感があまり感じられず、もっと何かあるだろと期待は募るものの叶えられないままいつの間にか解決編へ突入してしまい、そこで最も判らないのは最後に捜査陣が何故あんな票決に至ったかであって、捜査の過程で新たな人死にが出た件に関する責任を頬かむりしているように見えるのだがそのへんどうなんだフェル博士? |
No.1335 | 8点 | 巫女の棲む家- 皆川博子 | 2022/11/24 12:27 |
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“霊媒” の一語で始まるが、その交霊術はホンモノではない。しかしそれが人の心の中で蠢き、悪意ではなく心霊現象的事象が生まれ、ホンモノの定義が揺らぎ、信仰が成立するさまが、非常な説得力で描かれている。複数の語り手の思想の違いが、そして彼等がその道に踏み出す気持が、伝わって来た。心の弱い人がそうなるんだろうなんて安易な理解は斬って捨てられるのだ。
四割くらい作者の経験談だそうで納得。この面白さは危険だなぁ。私は、カルトに嵌まる下地を本書で調えられてしまったかも……? ところが結末で急転直下、乱暴な着地を遂げてしまう。この雰囲気には覚えがあるぞ。風呂敷を広げ過ぎた連載漫画が、期待したほど人気が出ず、あと3回で完結させて下さい、ってことで急いでまとめにかかるあの感じ。ページ数の制限があったのだろうか。作者の望んだエンディングとは思えない。 |
No.1334 | 7点 | 名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件- 白井智之 | 2022/11/24 12:25 |
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これが大虐殺の真相だ。えっ、マサカー!? なんちて。
全体の構造に関しては類似作が色々思い浮かんでしまうが、それでも演出が良ければ面白くなると言う好例。 しかし文句もある。遺体の胴体を切断。更に中身がでろんと零れ落ちないように運搬。さぞかし実行は大変だろう。 “余所者は壇上で二つに分割されるべし” とか予言があったわけでなし。あんなことする理由があった? あれに意義があるとした推理はダミーでしょ。 あともう一点、犯人の認識と行動に於ける矛盾……は既に指摘された方がいるのでお任せします。 |