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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1843件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1503 5点 回廊亭の殺人- 東野圭吾 2023/07/27 12:13
 主人公の計画の根本、“遺書を奪わねばならない人間とは、心中事件の犯人だ”――このロジックは弱い。心中事件の犯人 “だけ” とは限らない。と言うか実際そうだったわけで、途中で方針変更しても良かったんじゃない?

 心中事件に共犯者がいる、と推測した経緯も根拠が弱く良く判らない。そもそも心中を演出するなら、何故ガラス戸だけでなくドアにも鍵をかけなかったのか。

 回廊亭見取図と照らし合わせると、人の動きにおかしなところがある。回廊には壁と天井があって庭から直接は入れないんだよね?
 主人公がガラス戸から庭に出て川を飛び越える場面。いつの間にか回廊を透過している。
 心中事件の犯人が近道をする場面。現場から直接庭に出て逃げちゃ駄目なの?

 と言った辻褄を合わせてくれれば、プロットとしてはとても面白いんだけどな~。

No.1502 8点 ウェルテルタウンでやすらかに- 西尾維新 2023/07/27 12:12
 2011年、『少女不十分』発表――“この本を書くのに、10年かかった”。
 それに倣い “この本を書くのに、更に10年(+α)かかった” とでも謳いたいのが本書。
 自分が小説家を続けることに関する、言い訳、正当化、マイルストーン、矜持。かと言って決してありきたりな作家小説ではなく、全然別のエンタテインメントとして引っ張っておいて突如メタ化した叙述トリックの如く小説礼賛を滑り込ませるあたりは効果抜群、流石転んでもロハでは起きない売れっ子だ。

 「死なずに待っててあげるから」

 ちょっと恥ずかしくなるくらいの結末を二度も書くのだから、この人は自分が書き過ぎだと言うことについて愛憎半ばする自意識が絶ち難くあるんだろうな~と邪推する私である。と邪推させることを狙って書いているのかな~と言う気もちょっとする。

No.1501 4点 最上階ペンタグラム- 南園律 2023/07/27 12:10
 表題作、ミステリとしては失敗。
 何故、そうまでして凶器を隠す必要があったのか?
 犯人につながるような物証ではない。
 凶器がソレだと仮定して検証しても、それだけでは犯人を確定出来なかった。
 そもそも、引出しの中に凶器を仕込む手法では、発動のタイミングを微調整出来ない。犯人不在時に事件が起きて凶器は丸判り、と言う可能性も小さくなかった筈だ。隠滅が必要な凶器なら、手法と矛盾する。
 “凶器の始末という一大事が、犯人の計画からはきれいに抜け落ちていたんだ” なんて言っているがそうではない。“凶器が見付かっても問題は無いと犯人は気付かなかったんだ” である。
 ――てな感じの台詞を最後に付け足して、犯人が間抜けだったとするしかない。

 他の話も、あまりロジカルとは言えず、ワン・アイデア的なストーリーをキャラクターとユーモアで包んでどうにか形を整えた、と言う程度。もう少し頑張りましょう。

No.1500 7点 覆面作家は二人いる- 北村薫 2023/07/27 12:09
 “あなたの好きな名探偵は?” と問われると、“好き” の定義について考えてしまう。
 名探偵はその設定上必然的に事件に対応している姿を描かれがちである。役不足な事件だと活躍し切れないから、名探偵の評価は名事件の存在と表裏一体だと言えるかも知れない。しかし両者を抱き合わせで捉えるのは、名探偵に対する純粋な “好き” ではなく、作品に対する総合的な評価なのではないか。
 従って一つの解釈として、冒頭の問いを “ミステリ要素の無い番外編があったら読みたい名探偵は?” と換言することも可能ではないだろうか。
 はい、だったら私はまず一番に、新妻千秋。

 因みに円紫師匠は特に読みたくはない。ベッキーさんならそれなりに。他作家では亜愛一郎と掟上今日子さん。火村英生はアリスも登場すると言う条件付きで。

 ところで、本書。
 読み返してみたら、ぼんやり記憶していた程にパーフェクトと言うわけではなかった。エピソードに色々とムラがある。素直に頷けない部分もある。
 しかしそこはそれ、まさしく名事件は無くとも楽しめる名探偵の作品集として楽しめた。

No.1499 6点 幽鬼の塔- 江戸川乱歩 2023/07/20 12:44
 札束を燃やす場面が良かった。“予言に真実性を与えることが義務” と言うのも説得力がまぁ認められるが、美しき霊感少女についてはもっと突っ込んで書いて欲しかった。血に餓えたあの娘は如何にも中途半端。
 しかし、書いていない部分に関する想像を大々的に誘発する力がある。絶妙な氷山の一角を読者に対して見せている感じ。
 そういえば、題は忘れたが良く似た内容の海外作品を読んだ記憶がある。

No.1498 8点 超・博物誌- 山田正紀 2023/07/20 12:43
 山田正紀には珍しい宇宙SF。ハードSFと言う程ではないが、もっともらしい科学的解説を含みつつ、牧歌的とも言える筆致で架空の生態系を生き生きと描き出す、文系と理系の美しき融合(笑)。中でも焼死必至の皮肉なジャンプを繰り返す “RUN” があまりにも哀しく可笑しい。

 曲解&拡大解釈をすると、本作は最初期の〈神シリーズ〉の到達目標地点に反対方向からアプローチしたもの、のように思える。
 説明出来ないものを説明する為には、世界の領域を広げればいいじゃないか。但し正規の手続きを取るのは大変なので、ほわほわ~としたファジィなもので境界線を曖昧にしよう、と言うわけだ。勿論その核にあるヴィジョンがクオリティを伴っているからこそ可能な業である。

No.1497 8点 恋する殺人者- 倉知淳 2023/07/20 12:42
 ネタバレするけれども、これはなかなかの快作。ぎりぎり長編扱いの短さでサクッとまとめたのが大正解。謎はシンプルだが効果抜群。表紙は大胆。

 ただ、推理場面で、助手のKを犯人ではないと判断した根拠が示されていない。
 “翼の性別に関して誤認する立場にないから”、それはその通りだが、もう一つ可能性がある。
 “犯行日に、熊渡家のドアから出て来た人物について、外見が女性的なので女性だと誤認した” である(この部分、叙述トリックで曖昧な書き方故に、作者の意図とは違うトリックとしての解釈も出来てしまうのだ)。
 その可能性は “被害者の外見がそういうものではない” ならば否定される。従って、高文がニュースで被害者の写真を見る等の描写を一行挿んでおくべきだった。

 もう一点。ページは戻るが、真帆子殺害の場面。飛び出して出会い頭に突き落とそうとしたら、真帆子が最上段で立ち止まった。何故それで作戦変更するのか、判らない。状況は特に変わらないのでは?

 あと一つ。突っ込みに関する意見。
 その人を殺してしまうと、肝心な相手との接点が失われる、と言う問題があると思います。

No.1496 7点 火祭りの巫女- 月原渉 2023/07/20 12:41
 作者としても色々模索する時期だったのか。これはどうしても三津田信三の名が浮かんでしまうな。
 決して安易な亜流ではなく、カロリー高めな三津田作品にセンス良くダウンサイジングを施しており、疲れる前に読了出来るところが良い。岡目八目と言うか、このくらいの塩梅でまとめればいいんですよ三津田さん、と実作によるアドヴァイスなのである。

No.1495 7点 サン・フォリアン寺院の首吊人- ジョルジュ・シムノン 2023/07/20 12:41
 主人公はメグレなる警察官。大金を普通小包で送る男を自殺に追い込む。その不可解さに金のニオイを嗅ぎ付けたか、上司に報告もせず非正規な捜査を進める。と案の定、近寄って来る謎の男達。
 そこで部下には手紙を送る。脅迫者の常套手段、こっちの身に万一のことがあれば然るべきスジに……と言う奴だね。
 秘密に迫るメグレに対して “五万フラン、十万、二十万でどうだ!” と交渉を試みる男。こういう物言いは悪手であって、もっとふんだくれると踏んだメグレは相手にしない。
 ところがいよいよ事の次第が語られるに当たって力関係は一変。あと一ヶ月で時効成立とあってはネタも期限切れ、しかも多勢に無勢。相手方は告白にかこつけて “きみには人を殺す勇気があるのか?” “あるにきまってるだろう” とメグレに脅しをかける。こうなっては、せいぜい友好的な顔で撤退するしかない。
 骨折り損のメグレ。最後のページで痛飲したのもむべなるかな。秘められた内心をわざわざ想像するのは野暮だが、“あの二十万で手を打っときゃ良かった” であろう。

 てな感じで、悪徳警官ものの佳作。
 読者に対してもメグレの真意が巧みに隠蔽されている為、漫然と読むと彼が使命感や好奇心で行動しているようにも思えてしまうところが面白い。
 自殺誘発の件は結局最後まで御咎め無しで腹立たしい。“鞄のすり替え” って、単なる窃盗じゃないか。

No.1494 8点 顔のない神々- 山田正紀 2023/07/14 13:15
 “SF幻代史” と謳っていて、確かに架空の歴史なんだけれど、特殊能力者が多少登場する他は明確に “これはSFだ!” と言うガジェットは見当たらない。以前読んだ時はそれが物足りなかったのだが、読み返してみるとポイントはそこじゃないんだな。
 これは時代のうねりを骨太に描いた物語、1970年代の “闘争の季節” の総括である。それを新興宗教の側から見ることで絶妙な胡散臭さが加味されて、単純な敵味方の二元論を中和している。子供達を巻き込むのは辛いよなぁ。尻切れ蜻蛉な終わり方だって、良くも悪くも革命が起きない日本への評価と考えるなら相応しいのかも。

 千二百枚を費やしただけあって皆キャラクターが立っていて群像劇としての読み応えも充分。
 埴生建二が(特に前半)倉知淳の猫丸先輩を彷彿させて可笑しかった。後半は随分グレちゃって……。

No.1493 6点 治験島- 岡田秀文 2023/07/14 13:13
 パズルのピースの散らし方が巧みで面白くはあるが、小粒な印象。
 諸々の書き方がさりげなさ過ぎ。もっと、これが謎、ドン! これが真相、ドン! と際立たせても良いのでは。特に人物誤認については(読み返しても)驚くポイントが埋もれてしまっている。

 混入毒物は、目的を考慮すると普通の吐剤とかで良いのであって、わざわざ入手困難な種類を選ぶのは、手掛かりになりかねないから不自然ではないか(しかも犯人はまさに “比較的入手が容易な立場” なのである)。

No.1492 6点 料理長が多すぎる- レックス・スタウト 2023/07/14 13:12
 料理長が多すぎる!!

No.1491 5点 鏡の奥の他人- 愛川晶 2023/07/14 13:11
 どこかで読んだようなパターンを上手く使い回す為に、小ネタは工夫したんだなと言う感じ。だからといってそうそう斬新に化身するわけもなく、寧ろ謎を入り組ませることに注力するあまり、物語の面白さがなおざりになっている。
 記憶や夢を一定のルールに則ったもののように捉えて推論を進めるのには違和感(“夢の映像がリアルだから実体験を映し出しているものだろう” とか)。
 イエス/ノー・ゲームでの田所は人が変わったみたいで、妙に小賢しくて違和感。

No.1490 5点 催眠- 松岡圭祐 2023/07/14 13:10
 通俗的で深みが無い。群像劇の構成もあまり上手いとは思えず。と言うかシリーズの続きを読まなきゃ意味が判らないのかな? ベストセラーだったと説明されてもピンと来ない。
 実相寺の視点で描かれるインチキ商売のパートはなかなか楽しめた。

No.1489 7点 よもつひらさか- 今邑彩 2023/07/07 12:23
 どの作品も紛れも無く今邑彩の作風で、尚且つヴァリエーション豊か。短編集なら、玉石混交であっても、こういうまとめ方がいいな。

 「家に着くまで」。雰囲気モノかと思っていたら丁々発止の推理談義に。ミステリ度の高さがホラーを読んだ後には一段と効く。アレレッ?
 「遠い窓」。この絵のトリックはコロンブスの卵で驚いた。
 「生まれ変わり」。問題は主人公より叔母だ。もう十二歳にもなった甥にあんなことを言う叔母は気持悪くていいね。

 そして何故「茉莉花」だけは『盗まれて』からシレッと再収録されているのか?

No.1488 6点 大蛇伝説殺人事件- 今邑彩 2023/07/07 12:23
 この作者はネタの使い回しをするので、読む順番によってはアレレッ? と言うことになる。

 神話に関しては端から添え物っぽい印象で、犯人ではなく捜査側が率先して “大蛇伝説の絡んだ殺人事件” を作り出してないか?
 そして、真相を踏まえて顧みると、現地にそんな伝説が有ったから犯人は八ヶ所も巡る羽目になった。真の目的からすれば二~三ヶ所でいいんじゃない? 御苦労なことだ。

No.1487 7点 「死霊」殺人事件- 今邑彩 2023/07/07 12:23
 “驚かせたかったから”――そんな理由、アリか? いやまぁアリだが、本格ミステリの核に据えるとは大胆な。読了後時が経つ程に笑えて来る(良い意味)。密室なのに見取図の無いことが読者に対するヒント。
 “まだ終わっていない” 展開は、上手くまとまった話に小さなコブをくっつけた感じで、邪魔とは言わないが無くても良かった。

No.1486 7点 ラメルノエリキサ- 渡辺優 2023/07/07 12:22
 あの娘は出来の良い人形を見ているよう(肯定的な意味で)だが、腰を抜かしたりして生身とのハイブリッドだったので安心した。
 うーむ、復讐ってこういうパキッとしたものかなぁ? 考え方は色々あって、私は “リアリティの無さが却ってリアル” みたいな捉え方しか出来ない。すっきりしたのは確かだけれども。

No.1485 6点 ローズマリーのあまき香り- 島田荘司 2023/07/07 12:21
 ネタバレしつつ文句を色々:
 プリマドンナの唯一性について、“誰も代わりにはなりえない” と神格化せんばかりに前半で述べておいて、結局あの真相。二重基準ではないか。私の心情的には限りなくアンフェアに近い。
 トリックの目的はアリバイ工作だけれど、死亡時刻(=犯行時刻)を誤魔化せていないのだから意図通りに機能はしていないよね。あのまま放置して逃げても、密室状況は成立し、セキュリティの彼が疑われる成り行きは変わらない。単に、“死後も踊った” 伝説を図らずも作っただけだ。
 摩天楼のこういう感じの仕掛け、タイトルは忘れたけど以前にも読んだ気がする。
 休憩時間と言っても出演者にしてみれば本番の一部であって、そのタイミングであんな話を携えて訪れるなんて、犯人側はそもそも舞台表現を全然尊重していないんだな~。それはそれでリアルか。
 ところでキヨシ、事実が告白の通りなら、罪状はマンスローターに該当するのでは。

 でも面白かった。と言うか面白さとつまらなさが幾重にも重なり合ったミルフィーユ。そしてそれこそまさに島田荘司の作風である。

No.1484 7点 猫ノ眼時計- 津原泰水 2023/06/30 15:00
 この巻ではミステリ度が急上昇。しかもチェスタトン的な逆説である。猿渡の不安定さが物語の成立を支えている “砂上の楼閣” 感にも拍車がかかり、結局何なの? と言う読後感は奇妙な甘みを帯びている。ところで山羊料理が下手物っぽく書かれれば書かれる程、美味そうに思えるのは何故だろう。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1843件
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