皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1843件 |
No.1583 | 9点 | 終りなき夜に生れつく- アガサ・クリスティー | 2023/11/18 12:31 |
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半ば過ぎまで普通の、と言うかミステリにならないロマンスを、自分が中だるみせずに読めたことがまず驚き。
全身全霊こめて作った女神像を自ら落として粉々に砕く、みたいで、そこまでやるか。でも先が見えててもやるしかないんだろうなぁ。そこに嘘は無いんだよね。もうほぼ悲しみと安堵が綯い交ぜになった自殺者の心情なんじゃないかと思った。 |
No.1582 | 6点 | ちぎれた鎖と光の切れ端- 荒木あかね | 2023/11/18 12:30 |
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第一部は見事で、これだけで充分だったんじゃないかなぁ。
粗探しをするなら、受話器のコードを切っただけなら素人でも応急処置は出来るんじゃないか、と言うことくらい。受話器、捨てときなよ。 一方、第二部は、眼の付け所は良いが、内容がやや不自然。 “第一発見者が狙われる” とのルールに対して、警察の対処があまりにも速い。第二被害者は第一被害者の親類なわけで、それに由来する共通の動機だと考えるのが自然。第三被害者が出て即座にルールに気付くなんて、犯人が警察関係者で誘導したのかと思った。 第一の事件の三日後に第二、その三日後に第三。真相を踏まえると、このペースも速過ぎ。ほとぼりが冷めるまで待つのがアレのセオリーでしょ。それに、犯人は彼女の仕事のスケジュールをこの短期間で把握したのか? あと、その “動機” なら、彼女に対する殺害予告の方が確実。どのみち一度の失敗で奴が諦める保証は無いから、その場凌ぎにしかなっていない。殺人を辞さないなら、対象は無関係な人じゃなくて元を断たないと。 |
No.1581 | 6点 | 美しい蠍たち- 山田正紀 | 2023/11/18 12:30 |
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“思い切り人工的なミステリーをめざした” とは作者の弁。でも骨組みを剥き出し過ぎだと思う。色々な説明が台詞だけで済まされているけど、信頼出来る発言者などいないじゃないか。もうちょっと肉付けして欲しかった。それを排した点こそ “人工的” たる所以か?
最初と最後でのヒロインの変化と、出番は少ないながらメイドの存在が効いている。戸籍上の続柄や相続に関する説明には疑問点アリ。 |
No.1580 | 5点 | 那智伝説殺人事件- 醍醐麻沙夫 | 2023/11/18 12:30 |
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鐘撞きを支えるくだりは、のっけから名場面。旅情は彩り程度だが、私にはこのくらいでちょうどいい。
UFO信者や降霊がシレッと混ざったりして、微妙にスピリチュアル的要素強めの世界。伝奇ミステリと言う程ではない。あくまで微妙に。“なぜ霊に犯人の名を言わせなかったのだ?” と刑事が発言したりする。 もう少し上手く書ければ、和歌の暗誦なども絶妙な言霊となって独自のロジックを作れたかも知れない。 殺人のトリックも、窒息のイメージを逆手に取って、良く考えると意外な方法だと思うが、平坦な書き方で損をしている。 |
No.1579 | 5点 | 鏡館の殺人- 月原渉 | 2023/11/18 12:29 |
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館は館でもあっちの館か……冷静に考えると、登場人物を一人浮かせる有効な手法ではある。こっちを先に読んでいればもっと高評価出来ただろう。
総体的に “館の中の小さな世界だから成立した事件” と言う感が強い。しかし崖崩れは偶然であり、本来なら即座に警察沙汰だからね。そのへんの箱庭っぽさの為の設定をもう少ししっかりすべきでは。犯人が無知だから却って大胆になれた? |
No.1578 | 7点 | あの魔女を殺せ- 市川哲也 | 2023/11/10 15:57 |
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特殊設定の本格かと思いきや、そこからも逸脱した怪作。その要素を前提にしても、真相がフェアプレイだとは認めがたい。実行犯が伏線無しで想定外過ぎ。
でも好き。ラストで結ばれるこの二人、肉体的にはアレだね。ひぇ~。 |
No.1577 | 7点 | 十戒- 夕木春央 | 2023/11/10 15:56 |
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キャラクターが一人一人きちんと別の人になっていて、この立場でこれを知っている人ならそういう風に動くよな~、と言った部分がしっかり押さえてある。読み返すとまた面白かった。
『方舟』と似てるな~と、つい余計なことを考えてしまう。しかも、タイトルに共通性を持たせたせいで、実際以上に類似性が強調されてない? 最後の最後に出て来るサプライズ、実は他の方の書評を読むまで全然気付かなかった。でも “あー成程ね~” と言った、オマケ程度の印象しかない。 現時点では、せっかくの良作につまらない悪戯を加えている、と言う気もする。いずれ壮大なサーガになるんだろうか? あと細かいことだが、“犯人が、足跡から特定されるのを防ぐ為に、大股で歩く”。 厳密に言えば、小股なら誰でも出来るが大股は人によって限界が異なる。“自分はこんなに大股では歩けない” と言う者がいたら(言っちゃまずいけど)容疑者から除外されてしまう。 |
No.1576 | 7点 | 茶色の服の男- アガサ・クリスティー | 2023/11/10 15:55 |
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作者がノって書いている雰囲気に好感が持てる。でも気分のままに引き伸ばし過ぎ。気が付いたら一ヶ月経過していた、とは随分長い。何かのトリックかと思った。 |
No.1575 | 6点 | ヴァンプドッグは叫ばない- 市川憂人 | 2023/11/10 15:54 |
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最初からパラレル・ワールド設定とはいえ、大胆な世界改変だ。
面白いんだけど楽しみ切れなかった。ウイルスの謎云々は、題材について考え抜いた作者には下地があったのだろう。が、殺人事件を追ってきた私にしてみれば、ベクトルが明後日の方へ振られたようで頭が切り換わらないよ。“アウトサイド” の連続殺人は動機が弱いし、“本格” の看板を掲げるよりもノン・シリーズの医療系SFスリラーとして書いた方が良かったのでは。 シリーズの世界が今後どのように変貌するか、期待が半分、整合性を失くしてグダグダになってしまわないか心配が半分。 初版にミスあり(知らない筈の名前を呼んでいる)。版元に報告したが、首尾良く修正されるかな? |
No.1574 | 5点 | 諏訪龍神伝説- 紀和鏡 | 2023/11/10 15:54 |
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宇宙線と隕石、古代国家から連なる系譜、と言った月刊ムー的素材にロマンスをトッピング。きちんと混ざり合わずに凸凹が残る不恰好なプロットで、そっちに気を取られたせいで殺人事件のことをすっかり忘れていて意外な犯人は意外だった。
但し一番問題なのは、この話を自然に読ませるには文章力が足りないことではないか。胡散臭さがメタ的ギャグになっちゃうのは本意ではないよね。 |
No.1573 | 7点 | 幸せの国殺人事件- 矢樹純 | 2023/11/04 13:55 |
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手堅くピースを積み上げて、軋轢や暴走や和解を描いていると思う。登場人物がみんなコミュニケーション不足で自分勝手だな~。
青臭い純粋さと欲が交錯する真相、遠い所へ行ったあの人の気持は、ちょっと回りくどい気がして充分納得出来たとは言えない。謎解きの勢いに押されて、詳細の説明が曖昧な部分もある気がする。 太市の “じゃね?” は鼻に付く。そういえば無断拝借したゲームソフトは返したのか? |
No.1572 | 5点 | 知床岬殺人事件- 皆川博子 | 2023/11/04 13:53 |
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前半と後半が別のプロットみたい。二重人格と事件の絡みが希薄。当人が何も言わないのに、人格の状態や程度を他者が推察出来ると言うのは納得しづらい。
とは言え、筆力があるので読まされてしまう。犯人のキャラクターをもっと深く掘り下げると魅力的だったのではないか。 映画監督の鬱屈する様は、作者も “書きたいものと売れるものとの乖離” で苦闘したようだから、それが反映された憂さ晴らしなのだろうか。 |
No.1571 | 5点 | 弓弦城殺人事件- カーター・ディクスン | 2023/11/04 13:52 |
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心理戦は面白かった。ピストルを外套のポケットに隠すくだりなど、“偽の手掛かり” だと考えれば後期クイーン問題みたいである。1933年と言えばEQは国名シリーズの頃。
“どうせ使えない無記名式債券” についても、単純ながら盲点を突かれた思い。ところがこっちは、使えるのは一人だけ → その人に疑いをかける為に、使えない債権をわざと盗んだ = 偽の手掛かり、かと思いきや本物だ。二重基準(笑)? もしやこの作者については “不可能犯罪の巨匠” 的なイメージを捨てた方が楽しめるのだろうか。 |
No.1570 | 7点 | 陰陽師- 夢枕獏 | 2023/11/04 13:51 |
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これやこの名にし負う夢枕、寝屋処まで文を繰る手止むに能はず、ぬばたまの小夜更けにけり。殊に、主の命かしこみ身を鬼に啖わせる女、女陰より出でる蛇鬼など、いと怪し。我、あなやとぞ言いけるも、寝てか醒めてか思ほえず。 |
No.1569 | 7点 | 血と夜の饗宴- 山田正紀 | 2023/11/04 13:50 |
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“電脳ゴシックホラー” だそうです。
主人公ポジションの人がバタバタ逝く流れは “犠牲の上に成り立つ戦争” っぽくて、妙に強い一般人が登場するより説得力がある。個々のエピソード(と言うか “死に方”)は短くも鋭くまとまっていて飽きさせない。パターンの繰り返しがジワジワ来る。でも前哨戦で終わっちゃうのね。此処からが本当の戦いだ……! |
No.1568 | 7点 | トッカン the 3rd おばけなんてないさ- 高殿円 | 2023/10/28 13:55 |
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巻を追うごとに事例がグレードアップして、それこそ徴税イメージアップキャンペーン教則本みたいになっていて可笑しい。守秘義務おそるべし。
グルメ小説じゃないけど読後三日連続餃子を食べてしまった。栃木の人って、××食べるんですか……。 |
No.1567 | 7点 | 超新星紀元- 劉慈欣 | 2023/10/28 13:54 |
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序盤は、こういうテーマを中国の作家が自国の上層部を舞台に描く、と言うのはなかなか興味深いな~、と余裕があったのだが、途中からどんどん悪夢のような方向へ傾き、その容赦の無さについて行くだけで精一杯に。『バトル・ロワイヤル』か『蠅の王』か?
そしてミステリ的と言えなくもない着地。え~、たった30年で? あれがもっと気の利いたオチであれば。いや、そもそもエンディングに捻りが求められるタイプの話じゃないのだから、蛇足に思える。 厳井くんが一貫して “メガネ” 呼ばわりされるのには苦笑。眼鏡男子のイメージって万国共通なんだろうか? |
No.1566 | 7点 | 七人の証人- 西村京太郎 | 2023/10/28 13:54 |
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証言が崩れて行く様がなかなか面白い。テーマがこれでも、重厚な社会派作品にならないところも良い。直線的な文章なのに(典型的な人物設定とはいえ)各キャラクターが上手く表現されていると思う。
ところで、立場的に最も怪しまれず動き回れるのは十津川ではないか。冤罪つまり警察の不祥事を隠蔽する為に、彼が証言を翻した者を消した可能性は? 最後の場面の後で残りも全員始末されたかも(だからあんなぶった切ったようなラストなのかも)。 |
No.1565 | 5点 | ジュークボックス- 山田正紀 | 2023/10/28 13:52 |
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ランガーそして意味不明な戦争。基本のアイデアは魅力的なのだが、五人の死について順番に描く構成がやや単調。ジャンクな雰囲気は当然意図的なものだろうが、エピソード自体に全力で楽しむのを引き戻すような変な抗力があって乗り切れず。生成AIを先取りしたような最終章の種明かしの先に、もう一波乱欲しかった。 |
No.1564 | 3点 | 複数の時計- アガサ・クリスティー | 2023/10/28 13:52 |
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これはバーナビー・ロスのパロディ(盲人も登場するし)?
わざわざ死体を運び指定の時間に発見させるメリットが判らないが、それも原本に書かれていたのだろうか。主犯は “発見者の知人” と言う立場なのだから、そんなことしなければそもそも捜査陣の視界に入らなかったのに。 犯人と被害者をつなぐ糸はごく細い。自動車を使えるなら、遠くに捨てて来れば “余所の事件” として無関係でいられたのではないか。 身許を偽装しても、そのごく細い糸を辿られる僅かなリスクは変わらない。偽装で共犯者を増やすデメリットの方が大きそう。 もっと上手に書ければ “不可解な小道具が残された犯行現場” そして “余計なことをして自滅する犯人” パターンに対する批評になったかもしれないが……。 |