皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1971件 |
No.1771 | 4点 | 将棋殺人事件- 竹本健治 | 2024/08/15 13:00 |
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色々アイデアは詰め込んでいるけれど、使い方が拙い。一つ一つ駒を並べて、しかしそれを動かさないまま、最後に登場人物が作者の意図を代弁してまとめてしまった感じ。
作中に掲載されている詰将棋 “無双第九十四番”、盤に駒を並べて実演してみた。するとびっくり:盤面全体に駒を配置しているくせに、詰める手順では右半分しか使っていない。これはつまり、本作には謎解きに使われない余計なネタも沢山含まれていますよ、と言う密かな宣言なのである。 |
No.1770 | 7点 | ファイナル・オペラ- 山田正紀 | 2024/08/09 11:49 |
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山田正紀は神だけでなく仏も狩るのか。
物語の核がなかなか定まらないのは大問題。ようやく見えてきたのは堅固な構築物ではなく川面に揺らぐ影のようだった。多重解決をあそこまで繰り返してしまうと、残る真相はもうアレしかない、と言う形で先が読めてしまうのには困ったな。 過剰な表現も強引な暗合も呑み込んで作者が突き刺したかった一つの祈り。つまり狂気とは狂った世界に対する正常な反応である。儚き者よ、物狂え。 |
No.1769 | 7点 | シュロック・ホームズの冒険- ロバート・L・フィッシュ | 2024/08/09 11:48 |
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私はシャーロック・ホームズが大好きと言う程ではない。それを考慮に入れると、本作の方が原典より好きかも。
翻訳で判りにくくなっている洒落や拾い損ねているネタはあるだろう。何しろ訳者が “この表現はこういうネタだ” と気付かないとそれを意識した上手い訳にはならないのだから大変だ。 しかしそれを差し引いても、物語の構造がユーモアを内包しているので充分に楽しめる。見当違いの推理なのに総合的には事件の平仄が合ってしまい関係者が何となく納得してしまう作りが巧み。“ホームズのパロディ” と言う看板が無くてもちゃんと成立しそう。 これが更にナンセンス度を増すと、中川いさみのギャグ漫画になると思う。って、もっと知名度のある例を挙げないと伝わらないかな~。 アーサー卿の或る種のイイカゲンさが数多の二次創作を許容している面もあるわけで、結果的に無二の豊饒さを誇るホームズ世界に敬礼。 |
No.1768 | 5点 | あなたに聞いて貰いたい七つの殺人- 信国遥 | 2024/08/09 11:48 |
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好きなタイプではあるけれど、それだけに同系統の作品を沢山読んだので、第一章の設定だけで色々見当が付いてしまう。と言う皮肉な状況が私の中で既に出来上がっていて参ったね。
計画は不自然、推理は恣意的、と感じられた。冤罪を上手く着せるには、あの人も殺しちゃうべきでは。本格ミステリと言うよりもサイコ・サスペンス的なキャラクター小説? 不自然さを帳消しに出来る程の突破力は無かった。 |
No.1767 | 5点 | 謎のクィン氏- アガサ・クリスティー | 2024/08/09 11:47 |
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シリーズものとしての枠組みのヴァリエーションを工夫しているところが良いし(降霊術で呼び出すくだりが最高)、その中に収めた個々の事件も再確認してみると決して悪くないけれど、読み物としては淡々としているせいか結局クィン氏の印象しか残らず、しかしそれだけで良しと出来る程に素晴らしいキャラクターではないのである。 |
No.1766 | 4点 | 怪物率- 森晶麿 | 2024/08/09 11:46 |
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拠り所とする世界観をふにゃふにゃに留めたまま進行する怪物狩り、と言うコンセプトはまぁ良いとして、何を血迷ったかベタベタなラノベのマナーは、そっちの基準でも好センスとは言えないのではないか。その奥に隠されているやもしれない深遠なる企みも私には見抜けなかった。 |
No.1765 | 8点 | 切断島の殺戮理論- 森晶麿 | 2024/08/01 13:35 |
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おっと麻耶雄嵩かと思ったら白井智之だった、と思ったら実は小林泰三かも。何処までも逸脱した無謀な飛躍を、私はポカンと見上げるしかない。この発想は大好きだ。
“欠落” を抱えた島民達があまりに記号的なのは如何なものか。様々な不便さがあったり、それを補う慣習が生まれたり、と言った生活感が皆無。ポリコレ的に身体障害者を描きづらい、みたいな事情だったらつまらない。しかし題名通り “理論” の物語ならば、必要なのはまさに “記号” なのだろうか? ところで “鷹丘裂季” の発音が “高岡早紀” なのはわざと? イヤ、法月綸太郎じゃあるまいし……。 |
No.1764 | 7点 | マヂック・オペラ- 山田正紀 | 2024/08/01 13:34 |
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歴史には疎いので……勉強になりました。それはつまり、“定説を引っくり返した妄想” に驚くだけの素養が足りないと言うことであって、架空の国の戦争系ファンタジーでも読んでいるような気分だった。 |
No.1763 | 7点 | ぼくらは回収しない- 真門浩平 | 2024/08/01 13:34 |
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総じて良く出来ているし、読ませる引力がある。で、私は殺人を扱った話が好きなので、やはりそちらに目が行ってしまうのだ。特にこうして混在する短編集の場合、ミステリ的な良し悪しより題材で評価しちゃう傾向が強いなぁと改めて気付いた。
密室の物理トリックは初めて読むパターンで感服した。それでいて真相がアレってのは、“大駒を捨てて、と金で王手” みたいな大胆な戦略じゃないか。 |
No.1762 | 6点 | 蔭桔梗- 泡坂妻夫 | 2024/08/01 13:33 |
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泡坂妻夫の職人もの/恋愛小説はどれも、構造と言うかストーリーのリズム感のようなものがワン・パターンだと感じる。ミステリならそもそもパターンに則った文芸形式であるから気にならない部分なのに、ミステリ度が薄まるにつれて鼻に付くようになってしまうのかも。そのへんに関して、こちらから一歩、意識的に作品世界に歩み寄らねば読めなかった。
とはいえ、直木賞受賞作にしては意外に楽しめた。 |
No.1761 | 5点 | ランボー・クラブ- 岸田るり子 | 2024/08/01 13:33 |
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悪くはないが、こういう話は諸々の作家で何冊も読んだ。“曖昧な記憶” と言う題材は使い勝手が良いのだろうか。
“回りくどい” と作中人物も言っているが、その真相の説明が最後にドバーッと来て疲れてしまうのは、やはり書き方が拙いのだと思う。二件の殺人事件が “記憶の謎” のついでみたいに感じられてしまい被害者が気の毒だな~。 |
No.1760 | 8点 | 私雨邸の殺人に関する各人の視点- 渡辺優 | 2024/07/26 12:26 |
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クローズド・サークルに細かい工夫をアレコレ施した、派手ではないが意義のある果実。私はホワイダニットに注目。あの心理が成立する状況は調っていたと思う。
途中、某がAC作品を引き合いに出して “子供だからといって侮ることはできない” と思考している。しかし、フィクションを根拠にして現実の一般論を語っても無意味だ。もっとも、その人の浮かれたキャラクターは、確かにそんな風に考えそうでもある。私はこの部分をアイロニーとして受け取ったけれど、それにしてはさりげなく書き過ぎではないか。 それとも、私の気付かぬところにそういう棘がもっと埋まっているのだろうか。人は見たくないものは見ない生き物だからね。 |
No.1759 | 7点 | ミステリ・オペラ- 山田正紀 | 2024/07/26 12:25 |
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え、これSFじゃないの? ミステリである以上投げっ放しには出来ないのであって、必ずプロローグに立ち戻らねばならない宿命がこの長さと相容れるのか。“ミステリ” と掲げられたタイトルだけを命綱に谷底へいざ降下。
確かに神の扱いは神シリーズ(SF)よりも『神曲法廷』(ミステリ)に近いだろうか。不穏な戦時下の空気感は呪師霊太郎シリーズや『機神兵団』。平行世界説は『花面祭』『螺旋』。個人的には、目立たない作品だが『宿命の女』を想起した。更にヴァン・ダイン『僧正殺人事件』へのこだわり(笑)。 山田正紀マナーの集大成みたいな感じで、それ故に既視感も強い。面白くしたいなら得意技を全部投入すりゃいいんだろ! と良くも悪くも開き直ったか。濃度の割に読み易く、しかし読んでも読んでも終わらないので胃もたれ必至。このバランス感覚の欠如こそ山田正紀、ではある。 “これ” はそもそも何なのか? と言う謎に埋もれて殺人事件が単なる徒花みたいに見える。と言う事実こそがコンセプトの勝利を物語る。 ただ――ごちゃまぜのスープが黄金の一滴に “化ける” 瞬間が、ついに訪れなかった。これだけやられても、私は “理解” を手放して飛び降りることは出来なかったのである。 |
No.1758 | 6点 | 国歌を作った男- 宮内悠介 | 2024/07/26 12:24 |
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こういう雑多な短編集は好きな筈なんだけど、本書はあまりその点が生きていない気がする。短編のサイズ感と内容のスケールがズレているものや、雰囲気モノに留まってしまったものが混在。中では「三つの月」「十九路の地図」が良いと思った。どこまで本気か読めない「料理魔事件」はミステリ? |
No.1757 | 6点 | 天の声- スタニスワフ・レム | 2024/07/26 12:23 |
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読みながら思い出した一節がある。
【しかし、なぜ締切りまで構想が浮かばなかったかについての物語ばかりになりかねない。いいわけ小説という新分野もしばらくはいいだろうが(後略)】 星新一「いいわけ幸兵衛」 それがコレだよ。また(孫引きだが)レム自身のコメントから引くと、 【たとえ最新の科学の装置や知識で身を固めたとしても、そういった現象が偶然なのか、意図的なのか、ということさえ解決できない。】 と言うことで、“認識の限界” を数々のはぐらかしによって語った本作は、後期クイーン問題についての実践的解説書である。まぁこんなに長々と説かれても扱いに困るんだけどね……。 |
No.1756 | 4点 | 紙鑑定士の事件ファイル 紙とクイズと密室と- 歌田年 | 2024/07/26 12:23 |
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紙ネタに限定することでクリエイティヴィティを励起させようとする戦略は悪くない。しかし今作には作者のその意図に登場人物の言動が縛られているようなぎこちなさが漂っている。特に心中の経緯を説明的に説明されても何じゃそりゃとしか思えない。 |
No.1755 | 7点 | ときときチャンネル 宇宙飲んでみた- 宮澤伊織 | 2024/07/18 11:43 |
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『裏世界ピクニック』の副産物みたいな作品? あっちでは恐怖心と言うソフトウェアを経由しているところ、こっちでは多田羅さんが無造作に実物をぬっと引き寄せてしまう。理解と混乱をシームレスに記述して読者が一歩遅れてビクッと来る流れは癖になるな。
私は動画配信って見たことがなくて、それを扱った小説や漫画で “フムフム、今はこういうメディアがあるのか” と間接的な知識として知っているだけなのだが、全般的に変なチキン・レースみたいな話ばかりで何が面白いのか判らない。面白そうだと思った配信ネタの小説は本作がほぼ初。サイエンスの小ネタも意想外の切り口で良し。 |
No.1754 | 7点 | 何故エリーズは語らなかったのか?- 森博嗣 | 2024/07/18 11:43 |
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このシリーズにしては結構ミステリ的な “謎とその解明過程とその真相” な感じ。シリーズの予備知識が無くても単独で読めそう。そこが良かった。
“エリーズ・ギャロワ博士がグアトに会いたがっている” との噂の真相は何だったのか? 博士は自分が消えた後、“究極の恵み” をどうする心算だったのか?“恵み” は同時に “Vで他者を消す方法” でもある。扱いに困って、不確定要素(グアト)を巻き込むことで不測の事態を起こそうとした、天命に委ねようとした、と言うのが最も有力な私の読みであるが……? |
No.1753 | 7点 | 壁-旅芝居殺人事件- 皆川博子 | 2024/07/18 11:41 |
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語り手が無味無臭で、重要な立場の割に部外者っぽい気分(名前が最後まで覚えられなかった)。そのせいで単なる好奇心からフラフラと探偵役じみた行動をしている、と思ったらラストの反転が効いた。
登場人物の気持を非常に技巧的に扱っているなぁ、心理劇系かぁ、と読み進めると、存外に謎解き的な真相。しかし “ちょっとレコードのところにお行き” の台詞が後出しなのは如何なものか。 |
No.1752 | 6点 | トラウマ文学館- アンソロジー(国内編集者) | 2024/07/18 11:40 |
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ひどすぎるけど無視できない12の物語――そんな読み方もある、と新しい評価軸を提案するアンソロジー?
ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』から一エピソードが抜粋されていてこれは面白かった。いや、語り手が実際に襲われていたらもっと良かったかも。 深沢七郎の描く無差別殺人犯など “なんじゃそりゃ” なんだけど、こういう並びで読むと単なる脱力では片付けられない深みを覗き込んだような気になる。 “セレクトのセンスによる付加価値” と言うのは有効なのだろうか。口の上手いセールスマンにまんまとセット商品を売り付けられたような感もあるが。単純に “ひどい話” と言うより、“どういう物語がトラウマになるか” の定義を問うている。 人は皆、自分だけのトラウマ文学館を持っていて、それを他者に押し付けたい性質があるのかもしれない。いっひっひ。 |