皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
kanamoriさん |
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平均点: 5.89点 | 書評数: 2426件 |
No.48 | 6点 | ハイチムニー荘の醜聞- ジョン・ディクスン・カー | 2016/07/25 18:35 |
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妹2人を早く結婚させるよう父を説得してほしい-----友人のヴィクターからの奇妙な依頼を受けて、ハイチムニー荘を訪れた作家のクライヴは、ヴィクターの父親から、子供たちの中に昔自ら死刑に追い込んだ殺人犯の遺児がいるという、驚くべき話を聞かされる。クライヴがその名を尋ねたその時、書斎に銃声が響き---------。
ヴィクトリア朝の英国を舞台にした本格ミステリ。 ディクスン・カーの歴史ものは、時代背景やロマンス、風俗描写に重点が置かれた冒険スリラー色が強い作品も多いのですが、本書は(男女のロマンスはミスディレクションの道具になっていて)、フーダニットを主軸にした比較的謎解き要素が強い作品です。 メイントリック自体は、それほど新味を感じさせるものではありませんし、読み終えれば真相も意外と単純なものだったと分かるのですが、語り(騙り)のテクニックで容易に真相を見抜けなくなっています。読む人によっては、真犯人の隠蔽の方法がアンフェアとは言えないまでも、あざとすぎると感じるかもしれませんが、各章の終りで興味をつなぐ”引き”のテクニックをはじめとして、作者のストーリーテラー巧者ぶりを再認識させられる仕上がりだと思います。 なお、文庫版巻末の”好事家のための注記”のなかで、ウィルキー・コリンズ「月長石」の完全ネタバレがあるので、未読の人は注意が必要です。(ただし、クリスティの有名某作と比較したカーの「月長石」評は非常に示唆に富む分析だと思います)。 |
No.47 | 6点 | 火よ燃えろ!- ジョン・ディクスン・カー | 2013/07/10 13:28 |
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昨年作家デビューしたディクスン・カーの孫娘シェリ・ディクスン・カーの『Ripped』は、現代娘がヴィクトリア朝時代のロンドンにタイムスリップし切り裂きジャックと対決する歴史ミステリのようで、Amazonのレビューを見る限り評判は上々らしい。
タイムスリップを扱った歴史ミステリといえば祖父の十八番で、本書もそのタイプの一冊。 主人公チェビアト警視が19世紀初めにタイムスリップし、創設間もないロンドン警視庁の一員として活躍するといった内容で、ロマンス&冒険活劇ものの秀作だと思います。チェビアトが乗っていたタクシーが二輪馬車に変わる冒頭のタイムスリップ・シーンなど巧いです。 衆人環視下の謎の銃撃という不可能状況の殺人を扱っているのはカーの歴史モノでは珍しいですが、重要な役割のアイテムに関しての作者のあとがき解説は、やや言い訳じみているように感じた。 タイムスリップという特殊設定を活かした仕掛けと言う点では「ビロードの悪魔」に一歩譲るかな。 |
No.46 | 6点 | 九つの答- ジョン・ディクスン・カー | 2013/01/29 23:07 |
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偶然出会った大富豪の甥との契約で、彼になりすまし英国の”伯父”のもとに赴いた青年ビルが、命まで狙われる陰謀劇に巻き込まれるといった冒険活劇スリラー。ですが、作者の稚気溢れる趣向と、(たぶん当時の感覚でもアンフェア認定と思われる)かなり大胆で強引なトリックを施したゲーム性の強い本格ミステリでもあります。
原題の”Nine Wrong Answers”(9つの誤った答)が示す通り、物語の途中で作者が何度も顔を出して、「〇〇〇と考えるだろうが、それは誤りである」といったチャチャ入れがなんとも微笑ましい。 ただ、ポケミスで400ページを超えるボリュームはもう少しコンパクトにできるだろうし、途中の錯綜した活劇スリラー部分がやや冗長かなと思います。 |
No.45 | 6点 | エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件- ジョン・ディクスン・カー | 2012/09/15 17:51 |
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チャールズⅡ世統治下の17世紀ロンドンを時代背景にしたカーの歴史ミステリ第1作。
実際の歴史的事件である治安判事の殺害事件を膨大な研究資料をもとに再現し、ミステリ作家の視点で真相を導き出すという構成なので、後に多く書かれた”チャンバラとロマンス”の歴史ミステリ群と随分テイストが違います。(「時の娘」やデ・ラ・トーレの「消えたエリザベス」などの先駆となる作品と言われているようです)。 そのため、政治的また宗教的対立関係を中心に当時の英国事情がこと細かく描かれており、馴染みのない日本の読者には敷居が高い感じもあるのですが、現在の感覚ではありえない裁判の実態などが興味深く読めました。 |
No.44 | 5点 | 仮面劇場の殺人- ジョン・ディクスン・カー | 2012/01/18 23:07 |
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フェル博士の探偵譚では最後から2番目の作品。
序盤で英国からアメリカに向かう客船上での狙撃事件はあるものの、メインの殺人が起こるまでが長い。その間の人間関係の説明がモタモタしていて、意味深な会話が佳境に入りそうなタイミングで横やりが入って話題をそらすという(晩年の作品に共通する)テクニックに”イラッ!”とさせられます。 劇場2階のボックス席という準密室状況の殺人トリック(というより、アリバイ・トリック?)はこの時期の作品ですからこんなものでしょう。劇場ミステリが好みなので、まあ楽しめました。 |
No.43 | 3点 | 月明かりの闇- ジョン・ディクスン・カー | 2011/07/09 20:21 |
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百年前の事件と同様の”足跡のない殺人”の再現という、因縁話に絡めた展開はカーらしくていいのだけれど、いかんせん肝心のトリックがパッとしません。事件が起こるまでも冗長で、筆力の衰えが如実に現れていて残念な出来でした。
原書房版の副題には”フェル博士最後の事件”となっていますが、「フェル博士が登場する最後の作品」というぐらいの意味なので、これはちょっとどうなんだろうか。アレコレと変な期待をしてしまう。 |
No.42 | 6点 | 幻を追う男- ジョン・ディクスン・カー | 2011/06/22 18:06 |
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ラジオ・ドラマのシナリオ作品集。
表題作の中編「幻を追う男」は、19世紀初頭の英国を舞台にした歴史ミステリ。”幻の女性”に関するトリックは無理があるけれど、展開がスリリングで物語性豊かなところは良です。 ベストはフェル博士ものの「誰がマシュー・コービンを殺したか?」で、オーソドックスな屋敷もののフーダニットかと思っていたら、意外なところから犯人が出てきて驚いた。ラジオ・ドラマならではのミステリ趣向が効いている。 |
No.41 | 4点 | 引き潮の魔女- ジョン・ディクスン・カー | 2011/02/12 14:34 |
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首都警察シリーズ三部作の3作目。最初の「火よ燃えろ!」はスコットランド・ヤード創設まもないヴィクトリア朝時代が舞台背景でしたが、本書は20世紀初頭で、あまり歴史ミステリという感じを受けなかった。
カーの歴史ミステリの定番である活劇&ロマンスの要素はなく、海水浴場の砂浜に囲まれた脱衣場内の死体という”足跡のない殺人”を扱った不可能トリックもので、フェル博士登場でも違和感がないが、トリックは残念レベルです、探偵役のトウィッグ警部は個性に乏しく、これは平凡な作品と言わざるを得ません。 |
No.40 | 6点 | 喉切り隊長- ジョン・ディクスン・カー | 2011/02/05 18:49 |
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ナポレオン統治下のフランス軍に捕えられた英国人スパイ・アランの諜報&探偵活動を描いた歴史ミステリ。
次々と兵士の首を切裂く謎の暗殺者の正体は(黒幕を含めて)ある程度予測がつくので、フーダニット・ミステリとしての魅力に欠けますが、実在の悪魔的人物である警務大臣ジョセフ・フーシェの造形が興味深い。 フーシェとナポレオン皇帝との関係、主人公アランとの駆け引き等、スパイ謀略ものの歴史ミステリとして楽しめた。 |
No.39 | 6点 | シャーロック・ホームズの功績- ジョン・ディクスン・カー | 2011/01/31 17:21 |
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コナン・ドイルの子息エードリアンとディクスン・カーの共著による贋作シャーロック・ホームズ譚。パロディではなく原典に忠実なパスティーシュになっています。
全12作いずれも、原典のなかで名前のみ触れられている、”語られざる事件”を新たに再現した構成で、有名どころでは「ソア橋事件」の中で言及された、”傘をとりに自宅に戻ったまま消えてしまったフィリモア氏の事件”を再現した人間消失もの「ハイゲイトの奇蹟事件」が、いちばん興味深く読めた。 ディクスン・カーが関与したのは前半の6編だけですが、蝋人形館の人形がもつトランプのカードの種類が変化する謎や、「密閉された部屋の事件」など、怪奇趣向や不可能トリックを扱った作品あたりに、カーの持ち味が出ているように思う。 |
No.38 | 5点 | グラン・ギニョール- ジョン・ディクスン・カー | 2011/01/29 13:49 |
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ディクスン・カーの幻の初期作品を収めた中短編集。
目玉作品は、デビュー長編「夜歩く」の原型である表題作の中編「グラン・ギニョール」で、メインの密室トリックは同じですが、余分なエピソードがないぶんスッキリしています。終盤バンコランの謎解きで犯人を追いつめるシーンがスリリング。 その他の、怪奇譚、歴史ものなどの短編はいまいちでしたが、カーのミステリ論エッセイの完全版「地上最高のゲーム」は、マニアには嬉しいかも。 |
No.37 | 4点 | 雷鳴の中でも- ジョン・ディクスン・カー | 2011/01/14 17:43 |
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ジュネーブ近郊の山荘を舞台にしたゴシック・ロマン風の設定のミステリ。
作者定番の雷鳴を背景音にするとか、ナチス・ヒトラーの挿話をいれるなど、雰囲気つくりは悪くないと思います。 ただ、肝心の物語が退屈。犯行のトリックもあまり面白いものではありませんでした。 |
No.36 | 4点 | 死者のノック- ジョン・ディクスン・カー | 2011/01/13 17:48 |
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舞台が米国の大学周辺という、フェル博士登場のミステリとしては、現代的でちょっと毛色の変わった作品。
ウィルキー・コリンズの手紙が重要な役割をし、手紙の内容を模したような密室殺人が起こりますが、この密室トリックの解明部分が読んでいてよく理解できない。男女の愛憎問題が絡むのもまたかと思わせますし、フェル博士も別人かと思うほど精彩を欠いているように感じました。 |
No.35 | 4点 | 疑惑の影- ジョン・ディクスン・カー | 2011/01/12 18:11 |
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またもや、ある女性の毒殺疑惑をテーマにしたサスペンス風味の作品ですが、あまり面白いとは思えない。
探偵役の弁護士パトリック・バトラーという人物に魅力的がないうえ、フェル博士が脇役というか、悪魔崇拝などの怪奇趣向を持ち出し、ただプロットを混乱させる役割でしかない。 弁護士が主役であれば、「ユダの窓」のごとく本格的な法廷ミステリにしてほしかった。 |
No.34 | 5点 | 眠れるスフィンクス- ジョン・ディクスン・カー | 2011/01/11 18:07 |
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往年のカーのようなケレン味が見られない地味な作品。
いちおう、密室状況の納骨堂内での棺の移動という不可能興味を提示していますが、本筋の謎ではありません。メインは過去の女性不審死に関する謎で、登場人物の造形をミスリードしたり、新たに事件が発生しない構成は、アガサ・クリスティや後期クイーンの作風に近いように思います。 |
No.33 | 5点 | 死が二人をわかつまで- ジョン・ディクスン・カー | 2011/01/10 18:34 |
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物語の前半部は、短編「ヴァンパイアの塔」のプロットを借用したような、主人公の婚約者である女性の毒殺魔疑惑を中心にサスペンスを盛り上げ、例によってメインは密室殺人になっています。この密室を構築するトリックそのものは陳腐ですが、ある心理的トリックを併せることで、なかなか巧妙なものになっていると思います。
しかし、本書のタイトルはどうなんでしょう。まだ旧題の「毒殺魔」のほうが内容をイメージしやすい感じがします。 |
No.32 | 7点 | 火刑法廷- ジョン・ディクスン・カー | 2010/07/02 00:25 |
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怪奇趣向が最大限に発揮されたノンシリーズの問題作。
カーの代表作の一つに挙げられることが多い傑作には間違いありませんが、「三つの棺」同様に最初に読むべきカー作品とは言えないでしょう。(その理由は「三つの棺」と全く別ですが) ある程度カーを読んだ人でも、評価が別れる問題作であるといえます。 |
No.31 | 4点 | 猫と鼠の殺人- ジョン・ディクスン・カー | 2010/07/02 00:11 |
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ポケミスの「嘲るものの座」で読みました。
この密室トリックは、いつかはカーの作品にも出てくるだろうなあという感がありました。 しかし、この作品の肝はおそらくそのトリックではなく、真犯人に降りかかる皮肉な状況ではないでしょうか。 |
No.30 | 6点 | 連続殺人事件- ジョン・ディクスン・カー | 2010/07/01 23:54 |
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フェル博士ものの第13作目。
古城からの転落死という設定から、バンコランもののある作品を彷彿とさせますが、怪奇趣向はそれなりにあるものの、同時にドタバタ劇を挿入したりしています。 メイン・トリックの実現性に関し何かで読んで、トリックは知っていましたが、それなりに面白く読めました。 |
No.29 | 4点 | テニスコートの謎- ジョン・ディクスン・カー | 2010/07/01 23:31 |
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フェル博士ものの第11作目。
足跡のない殺人がテーマですが、物語がとりとめないものになっていてリーダビリテイがない上に、トリック自体が平凡で面白味に欠けます。 |