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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.506 7点 ビロードの悪魔- ジョン・ディクスン・カー 2010/06/20 15:57
ディクスン・カーの歴史ものはあまり楽しめないけれど、本書の趣向には感心しました。
悪魔との契約によって魂だけが17世紀にタイムスリップし貴族に乗り移るという特殊な設定自体が、意外な真相に直結するとは思いませんでした。
非常によく考えられたフーダニットです。

No.505 6点 髑髏島の惨劇- マイケル・スレイド 2010/06/20 15:23
カナダ騎馬警察”スペシャルX”シリーズの第4弾。
警察小説+スプラッタ・ホラーに、今回は孤島での推理ゲームがらみの館ミステリの要素が加わった怒涛の展開になっています。
密室講義や殺人機械などの本格ミステリ趣向はチープ感漂い、真犯人もバレバレなのでフーダニットとしてはイマイチですが、ごった煮のB級サイコミステリとして面白く読めました。

No.504 6点 ベヴァリー・クラブ- ピーター・アントニイ 2010/06/19 18:26
双子の兄弟による合作ミステリ、「衣装戸棚の女」に続く素人探偵ヴェリティものの第2作。
設定は、館ものの古典本格ミステリそのものですが、文章が意外と新しく読んでいてまったく退屈しません。最後のオチは後の「探偵スルース」に通じるブラック・ユーモアが光っています。

No.503 4点 死への落下- ヘンリー・ウエイド 2010/06/19 16:43
ミステリ・ボックス(現代教養文庫)から地味に出たウェイドの最後期の作品。
年上の富豪女と結婚した男の視点で、その妻の不審な転落死の捜査が描かれていますが、初期作にも増して地味なミステリとなっています。英国の田舎の雰囲気など悪くはないですが、著者の本邦初紹介がこの作品というのはちょっと不幸な気がします。

No.502 6点 死の鉄路- F・W・クロフツ 2010/06/19 16:14
クロフツが専業作家になってすぐの作品で、題材も鉄道関係者が絡む列車礫殺事件ということで、相当気合の入った重厚なフーダニットになっています。
作者の前職が鉄道技師なので専門的な用語が頻繁に出てきたり、フレンチの捜査が相変わらず地味ですが、後半のプロットが起伏に富み退屈感はありませんでした。まずまずの力作だと思います。

No.501 5点 死の周辺- ヒラリー・ウォー 2010/06/19 14:33
フェローズ署長シリーズの第6作。
これは異色作でした。脱獄囚二人が、匿ったある女によって凶悪な犯罪に手を染めていく過程を描いていて、捜査状況はほとんど見られません。シリーズ作でありながら警察小説とは言えず、一種のクライム小説になっています。
つまらなくはないですが、作者の持ち味が出ていないので、ちょっと期待はずれの感じです。

No.500 7点 摩天楼の身代金- リチャード・ジェサップ 2010/06/19 14:08
今思うと、80年代前半に続々と出た文春文庫の翻訳ミステリは充実していました。
「超音速漂流」「サンドラー迷路」「フィッシャーを殺せ」「復讐法廷」など、その後復刊された本もありますが、埋もれた傑作のひとつが本書です。
超高層豪華マンションの爆破脅迫もので、この手のクライムサスペンスでは「シャドー81」に比肩する徹夜本でした。
ベトナム戦争が絡む点も似ていますが、特筆すべきは前代未聞の身代金奪取方法で、これだけでも読む価値ありです。主人公の犯行動機がナイーブな人物造形と併せて共感を呼ぶ設定も巧いと思います。

No.499 5点 割れたひづめ- ヘレン・マクロイ 2010/06/18 21:24
ベイジル・ウィリング博士シリーズの第12作目。
吹雪で道に迷ったウィリング博士夫婦が辿りついた屋敷での怪奇趣向の殺人事件を描いています。
サスペンス小説に軸足を移していた作者が久々に書いた本格編ですが、「人を殺す部屋」テーマとしては、少年少女の造形がサスペンスに水を差し緊迫感に欠ける展開で、真相も意外なものとは言えませんでした。

No.498 8点 皇帝のかぎ煙草入れ- ジョン・ディクスン・カー 2010/06/18 21:01
作者の代名詞である怪奇趣味がまったくないスマートな本格編です。
有名な心理トリックについてはある程度途中で察することができましたが、トリックを隠蔽するための小道具の使い方や叙述の巧妙さなど、カーのテクニックを存分に味わう事ができました。
小道具の煙草入れについてはトリック成立に寄与すると同時に、その形状によりトリックを暴露するための小道具でもある訳で、そこに一番感心しました。

No.497 3点 ルインズ-廃墟の奥へ- スコット・B・スミス 2010/06/18 20:43
メキシコのマヤ文明遺跡近郊を舞台にしたホラー小説で、4名の男女にある物が襲いかかる恐怖体験を描いていますが、あまりのテンポの悪い進行と凡庸なプロットで読み終えるのが苦痛でした。
あのサスペンスの傑作「シンプル・プラン」の作者による作品とは信じられない出来です。
解説によると、作者はデヴュー作のあまりの成功により長らくスランプに陥っていて、書き上げた作品がことごとくボツにされていたとのこと。ようやく出版にこぎつけた第2作が本書なわけで、なんとなく納得いきました。

No.496 7点 国会議事堂の死体- スタンリー・ハイランド 2010/06/18 20:23
国会議事堂のビック・ベンの壁から発見された古い死体の謎を巡る本格ミステリ。
探偵役の若い国会議員を含めた調査委員会による歴史ミステリ的展開の前半部分は少々リーダビリティに欠けますが、ある事実が判明して、これまで積み重ねた推論が根底から崩れるシーンはなかなか衝撃的です。
後半のロジックの展開と意外な結末は予想以上に満足いくもので、個人的には国書刊行会の叢書ではベスト3に入る作品です。

No.495 6点 雨の午後の降霊会- マーク・マクシェーン 2010/06/18 18:56
ちょっと変わった雰囲気の誘拐サスペンスでした。
生活に貧した霊媒師夫婦が自身の予言能力の評判を上げるため少女を誘拐するというストーリーですが、計画の杜撰さなどを見ても、作者は通常の誘拐サスペンスを目指したものではないようです。
白黒映画を見るような、暗いトーンで描かれる夫婦の日常描写などは、なかなかよかったのですが、ラストの処置に関しては読者によって相当評価が分かれるところではないかと思います。

No.494 6点 死の競歩- ピーター・ラヴゼイ 2010/06/18 18:35
ヴィクトリア朝ミステリ・クリッブ巡査部長シリーズの第1作。著者のデヴュー作でもあります。
このシリーズは19世紀の英国の珍しい風習などを小道具に使ったものが多くて、本作の”ウォッブル”という競技は「競歩」と訳されていますが、時間を競うのではなく限られた日数で距離を競うスポーツです。
競技中の殺人を競技中に解決するプロットがユニークで、容疑者や証人も競技者だから、クリッブも彼らと並走しながら尋問というのが笑える。
本格ミステリとしては意外性が少ない、こじんまりとまとまった作品でした。

No.493 7点 悪魔を呼び起こせ- デレック・スミス 2010/06/17 21:53
”密室ミステリファンが書いた密室ミステリファンのための密室ミステリ”という惹句がぴったりの本格編。
鍵のかかった部屋、衆人環視状況、足跡のない現場と不可能興味がてんこもりで、「人を殺す部屋」テーマの似非カー・ミステリを堪能できます。
一発ネタのトリックではないので、仕掛けは少々複雑ですが、アマチュアの作品にしては及第点です。

No.492 6点 虎の首- ポール・アルテ 2010/06/17 21:07
バラバラ殺人事件と村の盗難事件に続く密室殺人がカットバック手法で描かれていくプロットは、読者を幻惑させるより謎の核心を散漫にさせ、成功しているか微妙です。
ツイスト博士のトランクに死体の一部が入っていたエピソードや二つの事件の関係がある意味「三つの棺」と類似していたりで、ディクスン・カーの影響が覗えますが、真相の隠蔽という点では邦訳作品内で上位の佳作といえると思います。

No.491 6点 チャーリー退場- アレックス・アトキンスン 2010/06/17 20:33
植草甚一が作品の選定&解説を務めた幻の叢書”クライム・クラブ”のなかの一冊。当叢書はあまりの玄人好みの選定で、読者を選ぶ作品が多いのですが、本書は比較的オーソドックスな劇場ミステリです。
主演男優の楽屋の殺人を描いていますが、多くの劇団関係者が登場し派手さのない展開は英国ミステリの典型です。本職のミステリ作家の作品に引けを取らない端正な本格編でした。

No.490 5点 サイモン・アークの事件簿〈Ⅰ〉- エドワード・D・ホック 2010/06/17 20:11
オカルト探偵サイモン・アークの第1短編集。
シリーズ作品は60作以上書かれていますが、発表順の全集ではなく、各年代からチョイスされているのはちょっと残念。
著者の短編デヴュー作の「死者の村」が探偵の特質を活かしたオカルト色の強い設定で編中のベストですが、年次を重ねる毎にアークが普通のキャラになっているように思います。
不可能犯罪の趣向が光る「狼男を撃った男」が準ベスト作品です。
他の作品集で読める作品が多く含まれているため編集方針に▲1点。

No.489 7点 女占い師はなぜ死んでゆく- サラ・コードウェル 2010/06/17 18:57
ヒラリー・テイマー教授を探偵役とするシリーズ第4弾。
大学教授と教え子が安楽椅子形式で殺人事件の真相を解いていくというのがシリーズの常道で、本作も女占い師の謎の死を、主に関係者からの手紙で事件を描写しながら推理していきます。
若干地味な印象もありますが、複数人物による推論を二転三転させる手際は巧みで、本格ミステリのツボを押さえています。作者急逝により本書が遺作になり、テイマー教授の人物像(性別も不明)も謎のままとなりましたが、もっと読みたかったシリーズです。

No.488 8点 真夜中の死線- アンドリュー・クラヴァン 2010/06/17 18:38
タイムリミットものサスペンスの傑作。
死刑囚の無実を確信した新聞記者が、残されたわずかの時間内に冤罪を晴らすべく孤軍奮闘するというプロット。同類のサスペンスはいくつか読んできましたが、定番の展開と思いながらも物語に引き込まれました。
要因は構成の巧さと達者な筆力で、一人称部分の新聞記者エヴェレットのダメ男ぶりな人物造形と、三人称部分の死刑囚の緊迫した心情が対比して描写されて物語が進展していくところ。
仕事と家庭両面でのダメ男が最終局面でどう変わっていくか、サスペンスとともに人間ドラマとしてよく書けています。

No.487 6点 騙し絵- マルセル・F・ラントーム 2010/06/16 21:21
厳重監視下の室内からの宝石の盗難がメイントリックの不可能犯罪もの本格?ミステリ。
いかにもフランス本格らしい大らかで豪快なトリックは無茶だけど面白い。多国籍警察官という発想もすばらしい。細かいことを言わずに笑って楽しむ作品。
後半の冒険サスペンス風の展開も、アルセーヌ・ルパンを輩出させたお国のミステリらしくてなかなかいいですね。

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