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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1266 5点 砂漠の悪魔- 近藤史恵 2010/11/14 22:02
ちょっとした悪意から友人を自殺に追い込んでしまった日本人大学生の流浪の旅。中国の西の果て・ウイグル自治区へ行きつくまでのロード・ノベルであるとともに、主人公・広太の心の旅でもある。
海外の僻地を舞台にした少数民族が絡む小説といえば、胡桃沢耕史や船戸与一の冒険小説が思い浮かびますが、前者のような冒険ロマンの味わいはなく、後者ほど過激なノワールが前面に出てこない。主人公の心情の変転を丁寧に描写する作者らしい作品ですが、広太たちが終盤に遭遇する”タクラマカン砂漠の悪魔”の扱いについては賛否が分かれそう。

No.1265 7点 イマベルへの愛- チェスター・ハイムズ 2010/11/13 17:26
ハーレム(黒人街)の黒人刑事コンビ、墓掘りジョーンズ&棺桶エドが登場するシリーズ第1弾。
主人公は葬儀屋に務めるお人好しで真面目なクリスチャンの黒人青年ジャクソン。詐欺師3人組に騙され、内妻イマベルの裏切りに気付かず、愚直にイマベルへの愛のためハーレム中を霊柩車で暴走する。猥雑な黒人街のリアルな日常描写とともに、修道女に変装し小銭を稼ぐジャクソンの双子の兄、罪を告解するジャクソンに対し警察へ行けと逃げる牧師などの脇役キャラも立っています。とくに、死体が増えて商売繁盛だとジャクソンの復職を許す葬儀屋の主人が最高(笑)。かえって、本作では墓掘り&棺桶があまり目立たないのですが。
ハイムズは、当初フランスで評価されベストセラーとなった作家ですが、確かにフランス人好みのノワールとシュールな雰囲気が横溢する作品で大いに楽しめました。

No.1264 5点 北陸トンネル殺人事件- 斎藤栄 2010/11/12 18:21
量産作家というレッテルとベタなタイトルで手を出すのを躊躇させますが、構成に趣向を凝らせたまずまずの意欲作だと思います。
脱獄犯2名の逃亡潜入、スーパー食料品売場で見つかった瓶詰めの指、子供の誘拐事件など、南洋台ニュータウン団地近くの駐在所巡査・西原のまわりで次々と事件が発生しますが、この小説の中心の謎が不明のまま、終盤まで引っ張る展開がスリリングです。惜しいのは、タイトル名で動機の推測が容易になっていることと、テーマの割に文章が叙情性に欠けることでしょうか。

No.1263 6点 エアーズ家の没落- サラ・ウォーターズ 2010/11/11 18:45
18世紀以来の村の名家で、戦後も古びれた領主館に住み続けるエアーズ家に続発する災厄を描いたゴシック・ロマン風の物語。
子供の頃から領主館に憧れを持つ冴えない村医者・ファラデーの視点で語られる一家の斜陽の現実と、かつてのお嬢様で不器量な容姿のキャロラインとの恋愛など、読者を物語に引き込む牽引力はさすがですが、”ミステリ=謎解き小説”という定義であれば本書はミステリとはいえないと思った。
ネタバレになるが、唯一の謎である館で発生する怪異現象の真相は、結局読者にゆだねられている。
作者にしてみれば、原題”The Little Stranger”に全てを込めているのかもしれないが、解釈に迷う終り方でどうもすっきりしない読後感でした。

No.1262 5点 毛皮コートの死体-ストリッパー探偵物語- 梶龍雄 2010/11/10 22:26
浅草のストリッパー・チエカが探偵役を務める連作短編集。
同じお色気探偵ものでいえば、都筑道夫の泡姫シルビアとだいたい同時期の作品ですが、こちらはB級感というか通俗風味が漂っています。
といっても、表題作や「アパッシュの女」はミステリ趣向としては一定水準以上の出来だと思います。ただ後半になるほど、哀切感のある人情物語になっていきますが。

No.1261 6点 レイチェル・ウォレスを捜せ- ロバート・B・パーカー 2010/11/09 22:21
スペンサーシリーズの6作目。
瀬戸川猛資責任編集で、80年から90年代初めの傑作翻訳ミステリを紹介したベスト本「ミステリ・ベスト201」には、代表作といわれる「初秋」ではなく本書が選ばれている。書評担当は温水ゆかり氏だが、”本書にかすかな不快感”とか”レイチェルという女性が全く描けていない”など、ベスト本の書評としては異例の辛口だった。
読んで納得。確かに、男根主義とも言われかねないような内容で、スペンサーの男らしさを際立たせるために、女性が道具になっているような感じを受けますね。一部の女性読者には受け入れがたいプロットかもしれません。

No.1260 5点 泡姫シルビアの華麗な推理- 都筑道夫 2010/11/08 21:33
吉原のソープランド「仮面舞踏会」の泡姫シルビアが安楽椅子探偵を務める連作短編集の第1弾。
旧タイトルは「トルコ嬢シルビア~」だが、さすがにこれは今ではマズイので改題となったのでしょう。
文字どうり個室でのベット・ディテクティヴ(マット・ディテクティヴか?)で、密室の謎、ダイイング・メッセージ、隠し場所トリックなどに挑んでいます。初登場の「仮面をぬぐシルビア」と「密室をひらくシルビア」がよかった。

No.1259 7点 名門- ディック・フランシス 2010/11/07 20:28
曾祖父の設立した銀行の融資部で働く主人公が、融資した競走馬生産牧場での奇形馬出産に絡む殺人事件に巻き込まれるというストーリー。
原題は、Banker(銀行員)とそっけないが、物語も終盤近くまでは地味で、いかにも英国スリラーという感じです。
サブストーリーのプラトニックな恋愛と、苦難の数々による主人公の成長の物語によって、ラストに深い感銘を与えるいつものフランシス節が堪能できました。

No.1258 5点 セカンド・ラブ- 乾くるみ 2010/11/07 20:06
どうしても姉妹編の「イニ・ラブ」を意識したものになりますが、全てのエピソードが伏線になっていた前作とちがって完成度はちょっと落ちますね。
そもそも女性主人公の行為が納得いきませんし、町田工場のある人物のエピソードは物語上全く意味がありません。終盤近くの男女の会話は、読者のための解説になってしまっています。

No.1257 7点 聖なる酒場の挽歌- ローレンス・ブロック 2010/11/06 20:46
無免許の私立探偵マット・スカダーシリーズの6作目。
酒場で常連たちとバーボンを飲んでいるスカダー。前作の結末からすれば、アレ?という発端ですが、本書は10年前の事件をスカダーが回想するという構成です。
酒場店主に対する脅迫事件と、飲み仲間の妻が殺害された事件を同時に依頼されます。従来作と比べてプロットが重視されていて、真相にミステリ趣向が工夫されていました。
全編を覆うノスタルジーと、最終章で語られる其々の登場人物たちの10年後の行く末、そしてスカダーの「今は一滴も飲んでいない」のひと言で余韻の残る作品でした。

No.1256 7点 新 顎十郎捕物帳- 都筑道夫 2010/11/06 20:13
久生十蘭の傑作捕物帖シリーズのパスティーシュ連作短編集。
もともと、発端の不可解な謎の提示など、氏の「なめくじ長屋」は本家「顎十郎」の影響を受けていると思うので、雰囲気創りは手慣れた感じです。脇役キャラのライバル藤波友衛とか全く違和感を感じません。
ロジカルさに関しては本家を上回っていて、「からくり土左衛門」や「幽霊旗本」などが作者らしい佳品。

No.1255 5点 パニック・パーティ- アントニイ・バークリー 2010/11/05 22:45
迷探偵シェリンガム、シリーズ最後の長編。
無人島に置き去りにされた15人の多彩な人々と、いきなり発生する殺人ということで、本書の数年後に出版された「そして誰も...」を連想しますが、まったく目指す方向がちがう異色作でした。
殺人犯と共に孤島でテント生活を余儀なくされたことによって、登場人物達が少しづつ壊れていき本性が露わになる様を描くのが作者の狙いでしょう。フーダニット志向は弱く、シェリンガムもほとんど調査に乗り出さないので、本格ミステリとはいえません。
シェリンガムがいやに常識人になっていて推理の暴走がないのも物足りない。

No.1254 6点 凶鳥の如き忌むもの - 三津田信三 2010/11/05 22:45
怪奇小説作家・刀城言哉シリーズの2作目。
冒頭の、瀬戸内海の島に渡る探偵のシーンは「獄門島」を髣髴とさせ期待を持たせたのですが、今作の真相はわりと判りやすいものでした。島の宗教儀式の”鳥人の儀”や”大鳥様”という名称がミスディレクションかと思っていたらそのままでした。
密室状況からの人間消失に関して、あらゆる観点から可能性を検討していく過程は非常に面白かったのですが。

No.1253 5点 殺しはアブラカダブラ- ピーター・ラヴゼイ 2010/11/04 18:00
クリッブ巡査部長シリーズの3作目。
今回の英国ヴィクトリア朝時代の風俗はミュージック・ホール。芸人が次々と失踪する事件に犯行予告状を受け取ったクリップ&サッカレイ巡査のコンビが張り込みを始めると....というストーリー。
例によってミステリとしては薄味で面白味に欠けますね。どちらかというとドタバタ劇を楽しむ作品かもしれませんが、そちらの方もあまり機能していない感じがします。

No.1252 7点 ジークフリートの剣- 深水黎一郎 2010/11/03 20:49
芸術探偵シリーズの4作目ですが、初めに不可解な事件が発生し探偵が推理していくというようなオーソドックスな本格ミステリではなく、今回は終盤まで犯罪が隠されている変化球。
オペラ「ニーベルングの指環」の大役を得た日本人テノール歌手の視点で物語が展開していく中、ドイツオペラの蘊蓄・新解釈と死んだ婚約者の”無償の愛”がリンクしていく構成や、占い師の老婆の「もう一つの予言」を主人公が体現するラストが秀逸です。

No.1251 6点 聖者ニューヨークに現わる- レスリイ・チャータリス 2010/11/02 20:33
頭のまわりに後光をもった人間の線画を残して犯行現場を去っていく、セイント(聖者)ことサイモン・テンプラーシリーズの異色作。
本書は、息子を殺された富豪の依頼でニューヨークの暗黒街のギャング達を抹殺していくというハードボイルド・タッチの物語で、義賊&怪盗ものとは趣を異にしています。結末に構図をひっくり返す本格ミステリ顔負けの仕掛けもあり、予想以上に楽しめた。
ジュヴナイル版もありますが、この殺戮の物語をどのように子供向けに仕上げているのか、ちょっと興味がわきます。

No.1250 6点 消える総生島- はやみねかおる 2010/11/01 22:31
夢水清志郎事件ノートの第3弾。
映画ロケで孤島に招待された三姉妹と清志郎が遭遇するのは、人、館、島までも消失するという不思議な事件。謎の突飛さ派手さではシリーズ随一で、ジュヴナイル・ミステリとしてはかなりの本格編です(真相はこれしかないというものですが)。
子供向けの青い鳥文庫から一般文庫化されたのも肯けます。小学生だけに読ませるのはもったいない(笑)。

No.1249 7点 愛おしい骨- キャロル・オコンネル 2010/10/31 16:32
戯画化されたような奇人変人住民が多数出て来るうえに、主人公を始め登場人物だれもが秘密を抱えていて、物語の視点がそれらの人物で頻繁に入れ替り、意味深なエピソードをばらまいていく。
本筋である20年前の少年の失踪事件を追いかけながら、複雑な人間関係と凝った言い回しの文章を一行一行噛み砕いて読み進めなければならず、正直一気読みとはいかなかった。
ミステリとしては「クリスマスに少女は還る」ほどの結末のカタルシスは得られなかったが、一筋縄ではいかない人物造形の巧みさは健在。とくに家政婦のハンナがいい。

No.1248 6点 新本格もどき- 霧舎巧 2010/10/30 21:38
都筑道夫の「名探偵もどき」もどきという全体の構成に、新本格第一世代を中心とした7作家の作品のパロデイを入れ込むという二重構造のパスティーシュ連作短編集の第1弾。
パロデイとしても面白いが、キッド・ピストルズものの「十三人目の看護師」などミステリの仕掛けも光っていました。記憶喪失の吉田さんの正体に関するオチは、7つの元ネタ作品ほどメジャーでないのが玉に瑕。

No.1247 6点 武器と女たち- レジナルド・ヒル 2010/10/29 21:54
ダルジール警視シリーズの第16作は、パスコー主任警部の妻エリーが主役を張る陰謀スリラー&冒険アクション風の物語。
ここ数冊ダルジールは脇役に回り、周辺のキャラにスポット・ライトを当てるような構成が続いていますが、本書はエリーを始めノヴェロ刑事など女性陣が大活躍します。シリーズ通読者でないと判りずらい回想が挿入され、謎解きミステリの妙味もあまりないので、これ単独で読むのはキツイかもしれません。

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