皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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kanamoriさん |
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平均点: 5.89点 | 書評数: 2426件 |
No.1506 | 5点 | 金色のでかい夢- チェスター・ハイムズ | 2011/04/25 12:59 |
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ハーレムの黒人刑事コンビ、棺桶エド&墓堀りジョーンズのシリーズ4作目。
黒人料理女がナンバーズ賭博で得た大金を巡って、元亭主、情夫、ユダヤ人故買屋らが争奪戦を繰り拡げるというストーリーで、以前読んだ「ロールスロイスに銀の銃」に似たプロットでした(本書のほうが先行作品ですが)。 警察小説ではなくクライム・ストーリーなのはいいですが、墓堀り&棺桶の出番がつけたしなのは物足りないですね。 |
No.1505 | 6点 | 縛り首の塔の館- 加賀美雅之 | 2011/04/24 20:37 |
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パリの予審判事ベルトランものの連作短編集で、不可能トリックが5連発。
中編なみの表題作が不可能興味抜群の力作で一番出来がいい。心霊術師の霊体による予告殺人の欺瞞を暴くという設定なので、奇術的トリックに不自然さを感じさせない。 2話目の「人狼の影」までは楽しめたが、徐々にトリックの必然性のなさと強引さが気になってきた。たしかに、なんでこんな面倒くさいことを...と思ったら、このタイプの探偵小説を楽しめないのでしょうが。 |
No.1504 | 4点 | 殺人にいたる病- アーナス・ボーデルセン | 2011/04/20 18:20 |
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名前から想像がつく通り、著者はデンマークの作家。作者の「轢き逃げ人生」という作品はどこかで聞いたような気もしますが、どういう作家かよく判りません。本書はタイトルに惹かれて読んでみました。
内容はちょっと難解。小説家である主人公が日記形式で、「デンマーク推理文壇№2の作家が殺人を犯す」という小説を執筆しているという入れ子構造のクライム小説ですが、作中作の場面と執筆中の現実の場面の境界線があやふやな描写がつづき、今どっちの小説家の話なのか、虚と実が分からなくなってくる。 解説にある”合わせ鏡の世界”という表現がピッタリな前衛的ミステリですが、最後まで読んでも、はたして真相を正しく理解できたのか判断がつかないのが困る。 |
No.1503 | 6点 | 放課後はミステリーとともに- 東川篤哉 | 2011/04/19 17:58 |
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ベストセラー作家どころか、いきおいで本屋大賞にまで登りつめてしまった東川センセーの最新作。先日たまたまテレビのインタビューで拝顔させてもらいましたが、戸惑い感まるだしで面白かった。
それはさておき、本書の高校生・霧ヶ峰涼君の事件簿は、2003年から昨年まで、比較的長いスパンで雑誌掲載されたもので、微妙に作風が変化しているように思える。第1話の広島カープ・ネタなどマニアックな(=一般受けしない)ギャグが、後半の作品になるほど抑えめになっているのはちょっと残念。 ミステリ的にも初期作品ほど出来がいい。とくに、第2話「霧ヶ峰涼の逆襲」は、物語の構図が次々と変転した末の真相が鮮やかで、編中のベストといえる傑作パズラー。 第1話の「~の屈辱」もパズルとして悪くはないが、あの叙述がフェアと読めるか微妙だと思う。「ミステリの仕掛けを堪能するために第1話からお読みください」という編集部の注記がヒントといえるかもしれないが。 |
No.1502 | 6点 | ウォリス家の殺人- D・M・ディヴァイン | 2011/04/18 21:01 |
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ひとつ前に邦訳された「悪魔はすぐそこに」が非常によかっただけに、本作は個人的にはそれよりちょっと落ちる標準作かなと思います。
人物造形を丁寧に描きながら、相反するようにそれを逆手に取ったミスリードを得意とする著者の特徴は本作も出ています。ただ、館ミステリ風で多くの登場人物を最初からいやな感じに描いているのがディヴァインらしくないような気がします(これは好みの問題でしょうが)。真犯人を特定するクライマックス場面もあっさりしすぎで、盛り上がりに欠ける印象。 |
No.1501 | 6点 | 連続殺人鬼 カエル男- 中山七里 | 2011/04/17 17:49 |
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巷溢れるシリアル・キラーもので、既読感のある趣向が複数使われているうえに、表面的なプロットの骨格も某古典名作そのままですが、プラス・アルファの部分で面白いアイデアが取り入れられていて、ドンデンの連続のあとのラストの処理が秀逸でした。
難点は、精神治療の効果がいかにもご都合主義的なところで、肝となる”二重の意外な構図”に直接関係してくるだけにちょっと気になりました。 表紙絵とタイトル(応募時のタイトルのほうがマシ)でだいぶ損をしている気がする。 |
No.1500 | 4点 | カーテンの陰の死- ポール・アルテ | 2011/04/16 17:10 |
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ツイスト博士シリーズの3作目。
本書は3名のミステリ作家に献辞されていますが、その一人、S・A・ステーマンの「殺人者は21番地に住む」の本歌取りのような、いわゆる”下宿もの”ミステリが趣向のようです。 作中の密室トリックを目当てに読むと、その真相に脱力すること必至で、不可能トリックよりもプロット重視の、終盤の暗転狙いといったところでしょうか。 いままで邦訳された作品のなかでは、一段出来が落ちるように思います。 |
No.1499 | 4点 | 終の希み- 佐野洋 | 2011/04/15 17:00 |
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文庫オリジナルの最新短編集。
作者紹介欄に1928年生まれとあるので、80歳前後に書いた作品をまとめたものということになる。意気盛んでなによりです。 連作の共通するテーマも「新しい老人たち」で、定年を迎えて悠々自適の生活をおくる老人を主人公にした日常の謎。頑固で理屈っぽい老人たちが何人か登場するのは、自然と作者自身を投影しているように思える。 ミステリ的には、軽いオチで終わるものが多いが、非常に薄味でちょっと物足りない内容でした。 |
No.1498 | 6点 | 目撃者を捜せ!- パット・マガー | 2011/04/14 16:42 |
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貨客船からの転落死が、状況からある人物による殺人とみなされるが、いるはずの目撃者がなぜか名乗り出ない。
次々と捻った設定の作品を書いたマガーの第4作は、船上というクローズド・サークル内の”目撃者捜し”。小品ながら、タイトルを始めとしてミスディレクションが効いた佳作でした。 |
No.1497 | 6点 | ぼくの好色天使たち- 梶龍雄 | 2011/04/13 20:16 |
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戦争前後の学生を主人公にした初期青春ミステリ、「透明な季節」「海を見ないで陸を見よう」につづく三部作の3作目です。
娼婦連続殺人事件がメイン・プロットではあるものの、池袋の闇市など戦後間もない当時の風俗を描くことに力点が置かれ、ほろ苦い青春もので文芸色が強いのは前2作同様です。 ミステリ的には、動機やトリックにちょっと無理がある様に思いますが、適度にまかれた伏線の回収は相変わらず巧いと思います。 |
No.1496 | 7点 | シブミ- トレヴェニアン | 2011/04/12 18:18 |
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バスク地方の屋敷に隠棲する元凄腕の暗殺者・ニコライ・ヘルのもとにユダヤ人グループの生残り女性が訪ねてきて、本格的に本筋の物語が動き出すのは下巻もだいぶ過ぎてからだから、謀略冒険小説としてはかなりの変化球です。
第一部「フセキ」にて、戦中戦後の日本を舞台にニコライが日本の思想”シブミ”と囲碁の精神を会得する過程に作者の力点が置かれていて、この日本文化に関する作者の造詣の深さには驚かされます。ただ、性交テクニックを囲碁用語で表わす場面(「カケツギ」「フリカワリ」ってどんな体位?)では、どこが”シブミ”なんだと思ってしまいましたが。 終盤の地下洞での冒険活劇がスリリングで、ケイヴァーの相棒でバスク独立運動の元闘士ル・カゴの造形がよかった。彼が最優秀助演男優賞でしょう。 なお、ニコライの殺し屋としての初仕事、中国でのソ連要人暗殺について物語の中で少し触れられていますが、その詳細について書かれているのが、ウィンズロウの「サトリ」らしい。 |
No.1495 | 6点 | 人喰いの時代- 山田正紀 | 2011/04/11 20:44 |
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日中戦争の翳が見え隠れする昭和初期を時代背景にした連作ミステリ。設定された時代やメタフィクションを取り入れた最後の真相など、後の大作「ミステリ・オペラ」に通じるものを感じます。
作者のミステリ小説の第1作らしいのですが、本格ミステリを意識しすぎたきらいがあって、不可能トリックがチープで無理もあるように思います。この時代の世相を反映したホワイ・ダニットものの歴史ミステリとして充分面白いので、トリックに拘る必要はなかった。 各編のタイトルに付いた「人喰い」とは、この時代の国家そのものを表わしているのだろうか。 |
No.1494 | 5点 | シカゴ・ブルース- フレドリック・ブラウン | 2011/04/10 17:31 |
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私立探偵エド・ハンター、シリーズの1作目。
本書のエドは18歳の見習印刷工という設定で、伯父のアンブローズの手を借り、シカゴの街を舞台に、父親の殺害犯を追うというストーリー。 当時はある程度評価されていた作品なのか、早川書房からも「わが街、シカゴ」のタイトルで邦訳が出ているようです。 謎解きミステリとしては平凡な内容という印象ですが、後にエドと共に探偵事務所を開くアム伯父と街の人々との交情や、エドの成長物語として読むのが正解かな。シリーズを通して読まないとよさが分からないのかもしれない。 |
No.1493 | 3点 | 不確定性原理殺人事件- 相村英輔 | 2011/04/09 18:13 |
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昭和40年代を時代背景にしたミステリとはいえ、文章までもいやに古臭く昭和テイストが充満しておりました。
密室トリックを扱うなら人里離れたお屋敷とか、もう少し華のある設定にすればいいのに、場末のアパートでは読む気が失せてしまう。おまけに、何かの教科書から持ってきてとってつけたような哲学問答の蘊蓄は勘弁してほしい。 解法にロジカルなところもあるけれど、それ以前に小説として読ませる魅力に欠けるように思う。 |
No.1492 | 5点 | スネーク・ダンサー- ジェイムズ・マクルーア | 2011/04/08 17:56 |
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強盗殺人事件が連続して発生する中、ニシキヘビを使うステージ・ダンサーの変死体が発見され、クレイマー警部補は両方の事件を掛け持ちすることになるが、というのがあらすじです。
南アを舞台にした警察小説・クレイマー警部補シリーズを読むのも本書で3冊目ですが、これはちょっと出来が落ちる印象。 ひとつには、各場面の状況描写が分かりずらいこと。翻訳の問題というより、原文がそのように書かれているのだと思う。 さらに、これまでの作品では、南ア独特の社会体制を事件の背景やミスディレクションにするなど、なんらかの形で活かされていたが、本書はそういう趣向がみられなかった。 連続強盗の動機にヒネリがあるものの、これもある程度予想できるでしょう。 |
No.1491 | 6点 | みんなのふこう- 若竹七海 | 2011/04/07 18:50 |
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コージー・ミステリでお馴染みの湘南・葉崎を舞台にしたスラップスティック小説で、これは面白かった。小説を読みながら声に出して笑ったのは久しぶりの様な気がする。
不幸を絵にかいたような天然少女「ココロちゃん」が引き起こす数々の騒動。悲惨なエピソードの連続は笑っちゃいけないのだろうけど、これが笑える。笑いの中にホロリとさせる場面もあって匙加減もいいと思う。 ミステリ要素が薄く、持ち味の毒気も抜けた若竹七海ながら、こういうのも息抜きにいいのでは。 |
No.1490 | 5点 | 3、1、2とノックせよ- フレドリック・ブラウン | 2011/04/06 18:38 |
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SFもミステリも手掛けたフレドリック・ブラウンですが、どちらかというと短編を得意としていたようで、長編ミステリはあまり楽しめた覚えがない。
本書は、主人公のダメ男が金策に奔走し徐々に追いこまられていく過程の描写が延々と続き、読んでいて萎えて来る。クライマックスの連続強姦魔との絡みは、あらすじ紹介であらかた分かっているだけに、前半部が少々退屈だった。 軽妙なオチは悪くないが、短編でも充分書ける内容だと思う。 |
No.1489 | 5点 | 深泥丘奇談・続- 綾辻行人 | 2011/04/05 18:29 |
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京都の架空の街を舞台背景に、ミステリ作家の「私」が体現する幻想怪奇譚、シリーズ連作短編集の2作目。
深泥丘病院の医師や看護師が絡む前作同様のまったりした不思議な物語もありますが、今回は、本格ミステリ的なガシェット(ダイイング・メッセージ、見立て殺人、ミッシング・リンクなど)を使ったナンセンス小説の趣が強い作品が目立った。 なかでも、バカミスとホラーのハイブリッドのような「ソウ」が、脱力系怪奇小説としてイチオシです。 |
No.1488 | 8点 | ウォッチャーズ- ディーン・クーンツ | 2011/04/04 18:08 |
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これは一般受けする方のクーンツ。
正体不明の邪悪なものに追われる主人公たち、という作者の作品でよく見受けられる構図ですが、知性を持つ犬ゴールデン・レトリバー・”アインシュタイン”が実に魅力的で、犬好きならずとも物語に引き込まれる。 対照的な存在である”アウトサイダー”の悲哀も印象的でした。 謎解きサスペンスにロマンス、そして犬と人間との交情など、エンタメ性抜群のクーンツの代表作といっていい作品。 |
No.1487 | 6点 | 放課後探偵団- アンソロジー(出版社編) | 2011/04/03 18:34 |
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東京創元社のお抱え新進作家5人による学園ミステリ・アンソロジー。
評判の梓崎優を目当てに読んでみましたが、他の作家さんも予想以上に頑張っていて、これは拾いものの作品集でした。 似鳥鶏「お届け先には不思議を添えて」は、葉山君と伊神先輩シリーズ。発送した宅配箱の中身が入れ替った謎の不可能性が強烈で真相も鮮やか。この作家は出す毎にクオリティが上がっている気がする。 相沢沙呼もシリーズ探偵の女子高生マジシャンもの。バレンタイン・チョコ大量盗難事件のホワイがユニークです。 初めて接する鵜林信也、市井豊両氏の作品を含め、4作品に共通するのは、事件自体は日常の謎系の軽めなのに対して、解法が緻密で非常にロジカルなところでしょうか。 最後の、梓崎優「スプリング・ハズ・カム」は、いかにも作者らしい大仕掛けが炸裂していて編中の個人的ベスト作品ですが、昨年読んだ乾くるみの某作とネタが被り気味なのがちょっと気になった。 |