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kanamoriさん
平均点: 5.88点 書評数: 2474件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2014 7点 ミステリ・ベスト201- 事典・ガイド 2013/11/30 18:38
多くの出版社が翻訳ミステリ市場に参入し、毎年大量の海外作品が書店の棚に並びはじめた’80年代から90年代の初め。本書は、そんな時代の読者のために、古典名作ではなく、80年以降翻訳されたものの中で「94年のいま、なにが面白いのか」に的を絞った海外ミステリのガイドブックです。

瀬戸川猛資氏の責任編集で、同氏を含め7名の精鋭書評家による選定と中身の濃い作品紹介が本書の魅力です。すでに初出から20年近く経って若干古臭くなりましたが、現在でも充分参考になるのではと思います。
個人的にも、これを参考に多くの名作に巡り合った記憶があります。ただし、勢いで購入していまだに積んどく状態のものも少なからずありますがw (レン・デイトン「SS-GB」、ジョゼ・ジョバンニ「犬橇」などが気になる)
”「東西ミステリーベスト100」は保守的でスタンダード過ぎて面白くない”、または”「このミス」発刊のちょっと前はどんな傑作があるのだろう”と思われるツワモノ読者は図書館などで探して眺めてみては?

No.2013 7点 祈りの幕が下りる時- 東野圭吾 2013/11/28 21:28
警視庁捜査一課の松宮は、担当している小菅アパートの女性殺害事件が、小岩井の河川敷で見つかった焼死体と関連する可能性に気付く。聞き込み捜査のなか、事件関係者の女性演出家が松宮の従兄で日本橋署の刑事である加賀と知り合いと判り、また加賀の亡き母親と焼死体の人物との繋がりも浮かんできた--------。

相変わらず物語の進め方が巧い。あえて内容紹介などで加賀恭一郎シリーズの一冊ということを強調しないで、序盤の登場シーンで軽くインパクトを与え、あとはグイグイと読者を引き込んでゆくような構成になっている。加賀が事件に関わることになるのが偶然ではなく必然だったという仕組みも巧く練られていると思います。
東野圭吾版「砂の器」という評もありますが、半倒叙の形で語られる彼らの過去は「白夜行」の雰囲気、「赤い指」の父親のエピソードや「新参者」であえて日本橋署に異動した理由に加え、「容疑者X」を連想させる部分もあり、良くも悪くも東野"人間ドラマ”ミステリの集大成という感を持ちました。

No.2012 7点 ガラスの鍵- ダシール・ハメット 2013/11/26 18:04
賭博師のネッド・ボーモントは、路地端で地元上院議員ヘンリーの息子の死体に出くわす。次の市政選挙が控えるなか怪文書が関係者たちに届き、やがて彼の友人で市政の黒幕でもあるマドヴィッグに殺人の容疑がかけられる事態になる。ボーモントは親友の窮地を救うため、事件の解明に乗り出すが-------。

「海外ミステリーマストリード100」からのセレクト。早川版で読んでいましたが、今回は光文社古典新訳文庫で再読しました。
実は「マルタの鷹」も「赤い(血の)収穫」も評価されるほどの面白さが分からず(訳が古いせいだったかもしれませんが)、歴史的意義以上のものを感じることができませんでしたが、本書は古さを感じずノワールなストーリーも面白く納得のいく名作です。
事件の真犯人という謎解きとともに、三人称一視点による登場人物の内面描写を排した徹底した客観描写のため、主人公ネッド・ボーモントの心情も推し測って読む必要があり、本物のハードボイルドを読む面白さを堪能できました。
なお、主人公の名前は早川版(小鷹信光訳)では”ネド・ボーモン”ですが、本書は従来の”ボーモント”になっていました。

No.2011 7点 オーブランの少女- 深緑野分 2013/11/25 18:43
ミステリーズ!新人賞佳作の表題作をはじめ5編の中短編を収めたデビュー作品集。さまざまな国や時代を背景にしていて、作風も個々の作品で異なりますが、いずれも”少女”に纏わる謎を描くという点で共通しています。

なんといっても表題作の「オーブランの少女」が印象に残る。外界から隔離された美しい庭園がある施設を舞台にしたゴシック小説風の物語のなかの、秘められた真相はかなり衝撃的。
中世ヨーロッパをイメージさせる架空の厳寒の王国を舞台にした中編「氷の皇国」も物語性豊かで、非情な裁判劇がスリリング。長編で読みたいと思わせる濃密さがあった。
他の作品は、ヴィクトリア朝の英国、昭和初期の日本の女学校を背景にしたもの、場末の安食堂を舞台にした小品な一幕劇と、バラエティ豊かでいずれも新人とは思えない筆力を感じた。(今後の期待値込みで+1点)

No.2010 6点 極楽の鬼 マイ・ミステリ採点表- 事典・ガイド 2013/11/24 18:52
評論家・石川喬司氏による'60年代の海外ミステリ新刊書評集。『ハヤカワ・ミステリ・マガジン』に連載された時のタイトルは「極楽の鬼」(1964〜65年)「地獄の仏」(66〜69年)と変遷しているが、構成に大きな違いはなく、エッセイ風の軽妙な語り口で、毎月新刊数冊を怒涛のように紹介しています。

巻末索引の作品一覧でざっと数えてみると500冊以上の作品が取り上げられていて、60年代の翻訳もののジャンル傾向が俯瞰できる。本格モノは少なく、主流はスパイ冒険小説やハードボイルド、それもB級、軽めのものが目立つ。あとは、警察小説、仏産サスペンス小説も多い印象。当時は海外ミステリの出版社も限られており、ほとんどが早川書房か東京創元社、特に当時のポケミスの新刊は全て取り上げられている感じです。当然ながら大半は絶版となっているが、他では知ることのできない作品の寸評が読めるのは個人的に嬉しい。
ロバート・L・フィッシュ「亡命者」、ユベール・モンテイエ「帰らざる肉体」、ヘンリイ・セシル「あの手この手」、C・P・スノウ「ヨット船上の殺人」、ハワード・ブラウン「夜に消える」、デビッド・マクダニエル「人類抹殺計画」などがちょっと気になる。

No.2009 6点 貴族探偵対女探偵- 麻耶雄嵩 2013/11/23 18:38
推理と真相の開陳を使用人に任せ、自分は女性と楽しむという貴族探偵シリーズの2作目。今回から登場の女探偵が事件を推理し、貴族探偵(の使用人たち)がそれをひっくり返すという二段構えのプロットが連作の基本的パターンです。

第1話から第3話までは、消去法によって犯人を特定するロジックで読ませるオーソドックスな内容で特筆するような出来ではないように思うが、第4話が作者らしい仕掛けに満ちた”二度読み”必至の怪作。
二つのトリックを併せることで、虚偽の(アンフェアな)描写を回避するという狙いもあるのだろうか。
これまでのパターンを外さざるを得ないと思えた、貴族探偵の使用人が一人もいない孤島での殺人を扱った最終話の皮肉なオチも面白い。女探偵がちょっとかわいそうな感がありますが。

No.2008 7点 読み出したら止まらない! 海外ミステリー マストリード100 - 事典・ガイド 2013/11/22 22:39
書評家・杉江松恋氏選定による”今読める”をコンセプトにした必読海外ミステリの読書ガイド。
「読書は好きだけど翻訳ミステリはあまり読んでいない」という初心者や、「本格だけでなく色々なジャンルのミステリを読んでみたい」人に適した作品選定のガイドブックになっているように思う。

100選には絶版・品切れ作品を除いているが、作品ごとに「さらに興味を持った読者へ」として、同じサブジャンルの作品や類似テーマの作品などの紹介があり、結果として多数の作品名が挙げられている。いわば100選はとっかかりで、自然と読書の幅が広がる仕組みになっているのがいい。
さらに個人的に嬉しかったのは、第2部の後半部で「読めなくなった名作たち」と題して、絶版で忘れられた名作が少ないページ数に怒涛のごとく紹介されていること。できればこのパートを大きく膨らませ、第2弾として絶版本名作ガイド「海外ミステリー・フラッシュバック」なるものを出してもらいたいものだ。

No.2007 5点 シュークリーム・パニック Wクリーム- 倉知淳 2013/11/21 18:26
「シュークリーム・パニック 生チョコレート」の姉妹編。本書も中短編3作収録されていて、一応いずれも謎解きモノになっています。(かなりヌルい謎ですが.....)

「限定販売特性濃厚プレミアムシュークリーム事件」は、断食セミナーの合宿に参加した中年男性4人が、シュークリームを盗んで食べた犯人を捜す話。消去法による犯人特定ロジックがまずまずですが、タイトルも長いが話も無駄に長く、真相にも脱力。
「通い猫ぐるぐる」は、猫好きだけが楽しめる凡作。
「名探偵南郷九条の失策」は、かなり既視感のあるトリックながら、一番作者らしい仕掛けがある作品。”アンフェアだろうが何だろうが、知ったこっちゃねえ”と開き直られても、という気がするが。

No.2006 6点 お熱い殺人- ロバート・L・フィッシュ 2013/11/19 20:30
前回の事件で思いがけない大金が転がり込んだ老作家三人組は、念願の豪華客船での遊覧に旅立つ。ところが、詐欺師夫婦とのいかさまカード・ゲームの揉め事から、メンバーの一人は強姦未遂で、もう一人は殺人容疑で拘禁されるはめに-----。

”殺人同盟”シリーズの2作目は全編船上ミステリになっている。
2作目ということもあって、老ミステリ作家三人それぞれの個性も明確になっていると思う。三人組と因縁浅からぬパーシヴァル弁護士も相変わらずのくせ者ぶりを発揮していて、機知とユーモアも快調、前作以上に楽しめる。とくに終盤の、仮設法廷の審問の場面で、即席の速記役を割り振りされた女性の振る舞いは爆笑もの。
ミステリ的には、容疑者候補が少ないこともあって謎解きの部分はやや弱い感じがする。

No.2005 5点 シュークリーム・パニック  生チョコレート- 倉知淳 2013/11/18 18:48
中短編3作を収録した作品集。それぞれテイストが異なりバラエティに富んでいて楽しめましたが、いずれも結末にもう少しインパクトがあればと思わなくもありません。

「現金強奪作戦!(但し現地集合)」は、借金苦の”僕”が競馬場で知り合った男から銀行強盗の計画に誘われる話。泡坂妻夫の”亜流”のようなロジックと、タイトルにある”現地集合”にニヤリ。
「強運の男」は、バーで隣り合わせた男から賭けゲームを持ちかけられ、段々それがエスカレートする話。よくある設定ながら、結末までの展開がなかなかスリリング。
中編の「夏の終わりと僕らの影と」は、高校生男女5人が夏休みに自主映画を製作中にヒロイン役が消失する話。人物消失のトリックは真相がミエミエでアレですが、どのキャラクターも活き活きと描かれており青春ミステリとしては秀逸。これが個人的ベスト。

No.2004 6点 薔薇の環- ジョン・ブラックバーン 2013/11/16 21:24
東ドイツを通過中の夜行列車からイギリス陸軍少佐の息子が消えた。英国の機密情報を得んがための東側の拉致工作だと疑ったイギリス情報局のカーク将軍は、ソ連内務省のペトロフ部長に接触を図るが------。

幕開けは東西冷戦を背景としたスパイ小説の様相ですが、そこはブラックバーンのこと、ナチスの遺物やオカルト風民間伝承、バイオホラーなど色々な要素を絡めながら、事態はどんどん意外な方向に進展していきます。
今回カーク将軍は脇役で(緊急事態時なのにソ連の部長とチェスを指してますw)、以降のシリーズでタッグを組むことになる細菌学者レヴィン卿が主役ですが、”国家規模の脅威”に対するためソ連側と手を組む設定などがいかにもB級で面白いです。ただ、他の作品を読んでいると、脅威の正体や後半の展開がどれも似ておりマンネリ感も否めませんが。
なお、タイトルは少年の体に浮き出たバラ模様の発疹を表しているようです。

No.2003 6点 星籠の海- 島田荘司 2013/11/14 18:50
四国松山沖の島湾に複数の死体が流れ着く謎めいた事件の依頼を受けた御手洗と石岡は、古来からの瀬戸内海航路の要衝である福山・鞆の浦に事件の核心があることを突き止める--------。

”時計仕掛けの海”こと瀬戸内海を舞台にした、歴史ロマンと冒険スリラーを併せたような大作です。全盛期の完成度には遠く及ばないですが、謎の水死体から始まり、信長の鉄板船や黒船対策にも関係したとみられる村上水軍の秘密兵器「星籠」の謎、新興宗教団体の暗躍、赤子誘拐事件など、ネタが次々繰り出される島荘節が楽しめた。ただ、地元青年を巡る男女のサブストーリー的な物語が長々と語られることでリーダビリティを損なう構成上のバランスの悪さが気になりました。
御手洗シリーズ国内編の最終章ということもあってか、主舞台が作者の出身地福山に近い港町・鞆に設定されていますが、個人的にも思い出のある地なので、風景描写に懐かしさを覚え読後感は良好。(よって+1点加算しましたw)

No.2002 6点 消しゴム- アラン・ロブ=グリエ 2013/11/12 18:05
特別捜査局のヴァラスは、殺人事件の報せを受け運河と跳ね橋のある街にやってきた。しかし犯人も被害者の遺体も見当たらず、関係者たちの曖昧な証言に迷宮のような街を右往左往するのみ-----。

戦後フランスにおきた文学革命”ヌーヴォー・ロマン”の旗手、アラン・ロブ=グリエの処女作です。解説を読んでもボンクラ頭にはそれまでの文学とどう違うのかいまいち分かりません。捜査の合間にヴァラス刑事が文房具屋で消しゴムを買い求める場面が何度か挿入されるなど意味不明で、こういった何を象徴する描写なのか読者に委ねる試みは前衛的なのかもしれません。ただ、実験的・前衛的といっても、文章自体は平明で、新訳ということもあって非常に読みやすいです。
本書はミステリ(のパロディ)のある趣向を取り入れた文学となっていて、解説では「黄色い部屋」や「アクロイド」を引き合いに出していますが、この仕掛けで一番に連想したのはピーター・アントニイの「衣裳戸棚の女」でした。

No.2001 5点 連続殺人枯木灘- 梶龍雄 2013/11/10 18:39
和歌山県に新種の虫を採取に来た昆虫マニアが何者かに狙撃され死亡する。友人の宇月は犯行に使用された特殊な銃弾に不審を抱き、事件の背後関係を捜査するが、事態は思わぬ方向に発展していく-------。

序盤は連続殺人を主題とした本格ミステリの様相で物語が進みますが、終戦直前の憲兵将校による新型銃器強奪計画という陰謀話が出てきたり、多数の少年たちを人質に謎の武装グループが南紀・枯木灘に浮かぶ島を乗っ取る事件が発生するなど、かなり大風呂敷を広げた展開で、まるで伴野朗の冒険小説を読むような謀略モノに変調する異色作です。その割にサスペンス性はそれほどありませんがw
そんな動機で?と思わなくはないものの、本格ミステリ作家らしく、最後は意外な犯人の正体で締めています。

No.2000 6点 セイレーンは死の歌をうたう- サラ・コードウェル 2013/11/08 20:31
テイマー教授は、チャネル諸島のジャージー島に出張中の教え子カントリップからのテレックスを読んで驚く。巨額の信託財産を巡る管財人会議にアドバイザーとして出席していたカントリップだが、またひとり管財人が不審死したという内容だった-------。

オックスフォード大学の法学教授(性別不明の)ヒラリー・テイマー教授が探偵役を務めるシリーズの第3作。
テイマー教授や、教え子で若手弁護士の面々の会話が醸し出す英国式知的ユーモアが本書の魅力です。能天気なカントリップと同僚の粗忽娘ジュリアとのやり取りに加え、今作ではカントリップの叔父のドタバタ騒動が抱腹ものです。
ミステリ的には、大掛かりなミスディレクションがあざとい(あれだけ筆を費やしておいて...)ながらも、伏線・手掛かりもちゃんとしており、端正な犯人当てパズラーに仕上がっていると思います。再読ながら完全に真相を忘れており、前回も同じところ(モナコ公国のホテルでのある場面)で欺されたことを読後に思い出しました。

No.1999 4点 名探偵の証明- 市川哲也 2013/11/06 22:57
そのめざましい活躍から80年代には”新本格ブーム”まで巻き起こした「おれ」こと名探偵・屋敷啓次郎。時は過ぎ、老いて引退を考える名探偵のもとにかつての相棒が訪ねてくる-------。

今年の鮎川哲也賞受賞作品。(先日の授賞式でのスピーチ冒頭が「こんな名前ですみません」だったが”市川哲也”は本名)。で、タイトルのとおり名探偵の存在意義と再生の物語ですが、率直に言うとやや期待外れでした。
紹介文には受賞作品の枕詞の如く”選考委員絶賛の〜”とありますが、巻末の選評を読んでも各氏条件付きの推挙で、とても絶賛とは受け取れないです。
プロローグの事件と謎解きが新本格第一世代の某2大名作を合体したようなパロディ風なのが面白く、続く本編に期待を抱かせるものでしたが、読み進めて明らかになる作品のテーマは新味に欠け、密室などのトリックも工夫がないように思いました。真犯人の動機の点でも説得力に欠けるように思います。

No.1998 7点 シャドウ・ストーカー- ジェフリー・ディーヴァー 2013/11/04 17:58
人気女性歌手ケイリーは男性ファンのストーカー行為に悩まされていた。故郷の街でのコンサートの準備を進めるなか、スタッフの一人が惨殺され、さらにケイリーのヒット曲の歌詞をなぞるように第2の殺人が発生する-------。

カリフォルニア州捜査局の”人間嘘発見器”キャサリン・ダンスを主人公とするシリーズの第3弾。地元モンテレーを離れ、休暇中に、友人ケイリーのために捜査に協力するという設定。
次々と事件が起こるものの、正直なところ、中盤過ぎまではやや緊張感に欠け、それほどリーダビリティが高いとは言えない。
どうせ怪しげなストーカー男が実は....というような展開だろうと予想もつく。しかしながら、リンカーン・ライムとアメリアが”友情出演”で登場するあたりから、予想を裏切る展開の連続でぐいぐい読まされる。何度もひっくり返る犯人像が楽しめたし、ラストもなかなか感動的ないいシーンだった。

No.1997 5点 名探偵乱歩氏- 黒木曜之助 2013/11/01 20:32
休筆宣言をして日本各地を放浪していた江戸川乱歩は、ひょんなことから前の年の昭和6年に千駄ヶ谷で発生した”高利貸し殺し”事件に首を突っ込むことになる。元新聞記者の青年を助手に調査を進めるが、この市井の事件が国際的な陰謀を孕む意外な様相を見せ始め、関係者が次々と殺されていく--------。

黒木曜之助は乱歩賞の候補になったこともある推理作家ですが、「津山三十人殺し」など別名義のノンフィクション・ライターとして有名です。本書も昭和6年に実際に起きた事件を端緒に、乱歩のエッセイ風半自叙伝「探偵小説四十年」に書かれたエピソードを巧く挿入しながら語られるので、実録小説を思わせるところがありました。
ところが読み進めるにつれて、共産党の暗躍やロシア・ロマノフ朝の金塊が絡む陰謀など、とんでもない方向に話が進展していきます。登場人物間のつながりや犯人の工作が、偶然に頼ったご都合主義的な側面がかなり目立ち、謎解きミステリとしての出来でいえば不満点が多い作品です。ただ、乱歩の友人で探偵作家&弁護士の浜尾四郎や海野十三、阿部定など、登場する実在人物も多彩で物語自体はそれほど退屈ではなかった。プロローグの黄金仮面をかぶった二人の女性によるレスビアンショーなど、煽情的シーンが多いのは乱歩作品へのオマージュだろうか。

No.1996 6点 イン・ザ・ブラッド- ジャック・カーリイ 2013/10/29 20:15
「僕」こと、カーソンと相棒のハリーは偶然に漂流するボートの中に赤ん坊を発見し救出するが、その収容先の病院が怪しい男に襲撃される。一方、極右主義者で有名なキリスト教系説教師が倒錯プレイの最中に変死する事件が発生、刑事コンビは両方の事件の背景を捜査することになるが--------。

”百番目の男”カーソン・ライダー刑事シリーズの第5弾。前作で兄ジェレミーの問題に一区切りつけたこともあってか、今回は原点回帰したような、カーソンと黒人刑事ハリーのバディもの警察小説風の趣がありました。
2つの並列する事件を同時に捜査する展開のため、プロットがややごちゃごちゃしている感があるものの、最後は複数の伏線を回収し巧くまとめ上げていると思います。ただ、ジャック・カーリイの得意技である関係者の”裏の顔”によるサプライズ演出が、今回はちょっと過剰かなと思わなくもありません。

No.1995 7点 アリス殺し- 小林泰三 2013/10/27 21:30
女子大学院生の栗栖川亜理は、不思議の国に迷い込んだアリスの夢を続けて見る。その幻想世界で、ハンプティ・ダンプティの墜落死を発端に住民たちの不審死が続発するが、現実世界の大学においてもリンクするように同様の事件が起きていることに気が付く--------。
グロテスクなホラーやSFも書く作者の持ち味がうまく盛り込まれた本格ミステリという印象。
帽子屋や三月兎など”不思議の国”という異世界の住民たちのかみ合わない会話のやり取りや、グロテスクな殺人手段の再現描写など、ちょっと勘弁してと思うところもありましたが、異世界と現実世界をリンクさせるルールが明らかになった後の、途方もない構図の反転には驚いた。〇〇トリックの複数活用や名前によるミスディレクションもうまく効いていると思います。
ある人物に対する最後の処遇については、かなりブラックで残虐でありながらも、笑えてしまう自分が恐ろしいw

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