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[ 本格 ] 骨董屋探偵の事件簿 夢見る探偵モリス・クロウ |
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サックス・ローマー | 出版月: 2013年05月 | 平均: 6.50点 | 書評数: 2件 |
東京創元社 2013年05月 |
No.2 | 6点 | kanamori | 2013/07/28 20:41 |
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事件現場で眠れば被害者や犯人の残留思念が読み取れるという特殊技能を使ったユニークな探偵、老骨董屋モリス・クロウの探偵譚10編を収録。原題は”The Dream-Detective”で、本書も「クイーンの定員」に入っている短編集です。
古代エジプトのミイラの首が連続して切断される事件や、幽霊屋敷で鳴り渡る哄笑の謎など、オカルト趣向が前面にでている作品が多いが、最終話を除いて合理的に解決される。また、密室状況からの美術品の消失などの不可能犯罪を扱ったものも多く、作風は思考機械シリーズに似ているように思う。 ただトリックは時代性ゆえに無茶なものが目につき、とくに等身大の彫像を密室から消失させた「象牙の彫像」のトリックなど、バカヤロー・レベルだけど思わず笑ってしまった。 枕がわりのクッションを携帯してクロウに同行する娘のイシスや、骨董店に飼われている悪態をつくオウムなど、脇役のキャラクターも印象的で、連作ものとしてはなかなか面白かった。 |
No.1 | 7点 | mini | 2013/07/05 09:54 |
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ホームズのライヴァルの1人で創元文庫版
サックス・ローマーと言えばたとえ読んだことは無くても、”あぁ、東洋の怪人フー・マンチューの作者ね”、くらいは知ってる方も居られると思う たしかに怪人フー・マンチューは作者の代名詞みたいなキャラだが、しかし作者ローマーは意外といくつかの複数のキャラを創造していて、中でも目利きの評論家の間で最も評価の高いシリーズが”夢見る探偵モリス・クロウ”だ 解説にも有るが、かのセイヤーズがその評論の中で並居るホームズのライヴァルたちと並べてモリス・クロウの名を挙げている、ちゃっかりウィムジー卿も挙げてるけど(笑) セイヤーズもカーも評論活動をしているけど、私は評論家としての目利き度に於いてはセイヤーズに軍配を挙げる なぜならカーが推す「四十面相クリーク」はつまらなかったからだ、たしかに冒険ロマンをこよなく愛したカー好みだったのは分かる、しかし今読むと「四十面相クリーク」は冒険ロマンという視点で見ても面白とは思えない 一方セイヤーズは長編の作風からは創造し難いが意外と短編ではオカルト色の強い作もあって、セイヤーズがモリス・クロウを好きなのも理解出来る モリス・クロウの探偵法はユニークだ、犯罪現場にクッションを持ち込み寝てしまう、すると霊感が波動を感じるかの如く被害者の心象風景が夢の中に投影され、娘イシスの力を借りて写真の現像のように定着させるのだという という事は探偵が論理によって解明するわけではない、夢によってサジェストされるんだから こう書くと、”なんだ推理で謎が解かれるんじゃねえのか、つまんね”、などという先入観しか持てなかった方、それは視野が狭いですぞ 探偵は夢で解決するが、ちゃんと読者に対しては謎解きになっているんだな、例えば集中の「象牙の彫像」などは探偵の夢を待つまでも無く、彫像が消えたトリックのからくりは見破れるだろう 特異な探偵法と並んでの特色は不可能興味と濃厚なオカルティズムである トリック自体は平凡だが、それを装飾する怪奇色溢れるプレゼンテーションが上手いという点では、他のライヴァルたちの中では思考機械を思わせるものがあり、思考機械にもっとオカルト色で濃厚に脚色したらこんな感じになるんじゃないかな 他のライヴァルだと従来はジェレット・バージェスの神秘探偵アストロに似ていると言われたらしい しかし解説にも言及されている通り、私も神秘探偵アストロはアンソロジーで1篇だけ読んだが、探偵の紹介時に煽るだけで実際の事件と解明は怪奇色も無く普通だから、”神秘探偵”という肩書きは看板倒れな感が有った 怪奇小説の領域に半分踏み出してしまったW・H・ホジスンの「幽霊狩人カーナッキ」は別格例外とすると、モリス・クロウは私が知る限り最もオカルト色の濃厚なホームズのライヴァルの1人だ 今年は海外古典の翻訳出版の当たり年な感が有るが、その中でも今年上半期に刊行されたものの中では一番の掘出し物かも知れぬ 最後は骨董屋の店内で飼われるオウムちゃんの台詞で締め括ろう ”モリス・クロウ! モリス・クロウ! 悪魔ガアナタヲ迎エニ来タヨ!” |