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kanamoriさん
平均点: 5.88点 書評数: 2489件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2069 6点 無伴奏ソナタ- オースン・スコット・カード 2014/03/26 18:45
最初期のSF作品集。ハードSFっぽいものからホラー系、ファンタジー、寓話的なものまで、作風は意外と幅広いですが、レイ・ブラッドベリと同系統のダーク・ファンタジー的な作品が作者の本質のような気がします。また、いくつかの作品で身体の部分切断という残酷なシーンが出てくるが、不思議とラストは後味が悪いという感じは受けなかった。
印象に残ったのは次の3編。
「エンダーのゲーム」は、映画化もされた長編の原型となる作者のデビュー短編。異星人からの攻撃にそなえ、バトルスクールで摸擬戦闘ゲームを繰返す天才少年指揮官エンダーの成長を描く。編中で唯一ミステリ的なアプローチも可能で、ちょっとした驚きの真相が待っている。
「王の食肉」は、人肉を好む征服者の異星人の走狗となって、食肉を調達する”羊飼い”の運命を描く。結末はかなりエグい。
「無伴奏ソナタ」は、人里はなれ森に隔離された天才音楽家が、あるルールを破ったことで音楽を禁止され過酷な人生を辿る。監視社会という設定は「1984」「華氏451度」などの反ユートピア小説を思わせるが、なかなかの感動的なラストが印象に残る、これは名作と言っていいでしょう。

No.2068 7点 小さな異邦人- 連城三紀彦 2014/03/24 18:42
雑誌「オール讀物」に2000年~09年に発表され短編8編からなる単行本未収録作品集。いままで雑誌掲載のままだったのが不思議に思えるような凄い作品がいくつかありました。

子供8人を抱える母子家庭宛てに「子供を預かった」と身代金を要求する電話が入るも、家には家族全員揃っていた、という不可解な謎を提示した表題作「小さな異邦人」が、アクロバティックな技巧が冴えた誘拐ミステリの傑作。巧妙な伏線とタイトルの真意も絶妙で、これが個人的ベスト。
交換殺人という使い古されたフォーマットを逆手に取った「蘭が枯れるまで」の意表を突くトリックにも感心させられた。
「無人駅」は、田舎町の駅前を舞台に、時効寸前の強盗殺人犯の情報を知る女と刑事が展開する心理戦が非常にスリリング。
”花葬”シリーズを思わせるタッチの「白雨」における、終盤の構図の反転はかなり無茶ですが、ある意味もっとも連城らしい作品かもしれません。
そのほかの、男女のねじれた関係を描く恋愛小説風の物語にしても、ミステリ的な仕掛けが施されており、作者の”最後の贈り物”の名にふさわしい作品集でした。

No.2067 7点 静かなる炎- フィリップ・カー 2014/03/22 11:43
祖国ドイツを追われてアルゼンチンに辿り着いたベルニー・グンターは、ペロン大統領直属の秘密警察の大佐から、相次ぐ少女惨殺事件の捜査を依頼される。その殺害手口は、18年前のベルリン警察時代にグンターが担当し未解決に終わった殺人事件に酷似していた--------。

元ベルリン警察の刑事、元ナチス親衛隊員、元私立探偵のベルンハルト(ベルニー)・グンターを主人公とするシリーズ5作目。
グンターの流浪の人生には常にナチスの亡霊と陰謀がつきまとう。南米アルゼンチンの首都ブエノス・アイレスを舞台にした私立探偵小説風の物語と、18年前の戦前ナチス抬頭直前のベルリンを舞台にした警察小説風の物語が交互に並行して描かれるが、いずれも背景にはナチスの影が見え隠れする。ペロン大統領や伝説の大統領夫人エビータ、亡命したナチス戦犯のアイヒマン、メンゲル医師、もと親衛隊大将カムラーなど実在の人物が大きく関与してくる歴史謀略ものの面白さがあった。
窮地になっても減らず口をたたく皮肉屋のベルニーの造形も相変わらず魅力的。続く第6作はCWA賞のヒストリカル・ダガー受賞、第7作がMWAエドガー賞の最終候補と評価が高いようで、続編の早期邦訳を期待したい。

No.2066 6点 股旅探偵 上州呪い村- 幡大介 2014/03/18 18:52
「手前が村に帰らないと....三人の姉妹が殺されてしまう.....」--------中山道の宿で不吉な言葉を残して病死した若者を看取った渡世人の三次郎。彼がその火嘗村を訪れたことを契機に、村に様々な怪異が出現することに-------。

時代小説と本格ミステリの合体に加え、そのメタ・ミステリ趣向で話題になった「猫間地獄のわらべ歌」につづく第2弾。
「あっしには関わりのないことで...」と言いながら事件に関わっていく探偵役の渡世人は笹沢左保の”木枯し紋次郎”もどきで、プロットは「獄門島」「八つ墓村」などの横溝ミステリのパロディで彩られている。
前作同様、探偵役が密室講義を始めようとしたり、ミステリのお約束や”あるあるネタ”でメタ・レベルに突入したかと思うと、逆に「無駄にページ数が増える」とメタレベルでメタ展開を阻止しようとするさまが可笑しい。
作中に出てくるトリックの面白さは前作ほどではないが、幕末という時代や上州という土地が意外な真相につながっているのは巧妙だと思う。

No.2065 5点 不完全な死体- ラリー・ニーヴン 2014/03/16 16:46
人類のノウンスペース(既知空域)が太陽系の小惑星帯まで拡がった近未来を時代背景としたSFミステリ集。”想像の腕”という超能力をもつ国連警察のギル・ハミルトン捜査官シリーズの3つの中編を収録。

先日読んだ長編の「パッチワーク・ガール」がまずまずの面白さだったが、本書のミステリの趣向部分は微妙な出来というしかない。
延命のための臓器移植が発達し、そのため死体が価値を持ち、臓器密売人組織が蔓延るという社会背景が重要な要素になっているのが3作品に共通していて、なかでは「不完全な死体」がその状況をトリックに巧く生かしているようにも思えるが、普通のミステリ読みなら簡単に真相を察してしまうかもしれません。
アシモフ編のSFミステリ・アンソロジーで既読だった「腕(アーム)」は、高層マンションの密室殺人を扱っていて本格ミステリ要素が強い作品。ただ、時間圧縮装置の理論が文系読者の身ではいまいち分かりずらいのが難点。

No.2064 6点 読み出したら止まらない!国内ミステリーマストリード100- 事典・ガイド 2014/03/14 20:22
書評家・千街晶之氏の選定による国内ミステリーの必読作品100選。
品切れ・絶版ではない”今読める”をコンセプトにしているのは、昨年出た姉妹編の「海外ミステリーマストリード」と同じだが、さらに「東西ミステリーベスト100」の50位以内のものと、「このミス」や週刊文春年末ランキングの上位ランクイン作品を対象から外す(ただし例外もある)という縛りを設定しているのが特徴です。
品切れ・絶版であっても古本をネットで注文できる時代に、対象を現役本に限るのは(海外編同様)あまり意味がないようにも思えますが、出版社サイドの意向があるのかもしれません。
選定作品は本格に偏ることなくホラー、幻想、冒険小説、ハードボイルド、社会派、警察小説など多岐にわたり、読書の幅を広げてくれる。ジャンルミックスや、SFなど他ジャンルとの境界線上の作品も目立つように思う。個人的にはノーマークだった野阿梓「兇天使」が気になる。また高城高「X橋付近」や稲見一良「猟犬探偵」など再読したくなる作品が多かったのも嬉しい。
ただ、国内ミステリーの場合は、未読であっても作家や作品に関する情報が豊富に入ってくるので、明らかに好みに合わないものは最初から食指が動かない。そういった未読作品も結構あった。

No.2063 6点 海と月の迷路- 大沢在昌 2014/03/12 18:47
警察学校の校長職で定年を迎えた荒巻は、昭和34年に新米巡査として赴任した炭鉱の島での事件を回想し、送別会の席で後輩たちにその顛末を語りはじめる。それは、荒巻にとって苦い思い出だった------。

長崎市の沖合に浮かぶ炭鉱の島、通称「軍艦島」の派出所勤務となった新米巡査の荒巻が、島のルールという抵抗にあいながら、ある少女の変死事件を発端に連続殺人鬼の正体を追うというストーリー。
まず特殊な舞台設定が本書の読みどころ。狭い半人工島に暮らす5千人以上の島民ほとんどが炭鉱関係者で、密集した高層の集合住宅に職種毎に別れて暮らし、一種のヒエラルキーが出来ている。財閥系の炭鉱会社が島の治安業務を引き受け、警察が出る幕が限られている状況の中、荒巻巡査の苦難の”捜査”が行われる。
タイプとしては佐々木譲の警察小説に近い味わいがある。この島の構成や人間関係が丁寧に描かれている一方で、グイグイと読者を引っ張っていく作者らしい派手な展開がさほどないのが寂しい。”満月”の連続殺人鬼の正体にしても、伏線の妙味は多少あるものの、とってつけたような唐突さを感じた。でも力作には違いない。

No.2062 5点 街を黒く塗りつぶせ- デイヴィッド・アリグザンダー 2014/03/10 22:14
競馬の借金返済のため、旧友のマイクから輸入業者を紹介され目出度く返済の目途が立ったハーディンだったが、自宅マンションに帰ってみるとマイクの虐殺死体が待っていた--------。

ブロードウェイの芸能新聞社の編集者で、賭け事とアイリッシュ・ウイスキーを愛する伊達男バート・ハーディンが、ある輸入業者の取扱った南米産の骨董品壺を巡る殺人事件に巻き込まれる、シリーズの第2作。
ギャングのボス、酒場のバーテン、ショー・ビジネスの人々など、ブロードウェイに生きる登場人物たちが、どこかデイモン・ラニアンの短編小説の人々を髣髴とさせ、魅力的に描かれているのは前作同様です。ただ、今回は謎解きの要素は希薄で、どちらかというとハードボイルドが入ったクライム・ノヴェルに近い。亡き親友マイクの妻ドロシーとハーディンとのラストのやり取りなどは、名作ハードボイルドに匹敵するような印象に残るシーンですが、現在の視点でみるとプロットが凡庸で途中で真相が割れてしまっているのが残念なところです。

No.2061 6点 幽鬼伝- 都筑道夫 2014/03/08 18:01
捕物帳スタイルの連作伝奇時代小説。岡っ引き、もと同心の隠居老人、霊感をもつ盲目の少女という主人公格の3人が、天草四郎の末裔と名乗る妖術師が仕掛ける様々な怪異事件と対峙する-------。

各編とも、当時の江戸風俗・情景と季節感にあふれ、江戸情緒に浸れる描写は「なめくじ長屋捕物さわぎ」同様で、このあたりは作者の真骨頂といえます。
首にかけた鉄製の数珠を武器とする岡っ引き”念仏の弥八”が事件を隠居所に持ち込み、もと同心の稲生外記と同居の妾・涙(るい)が、頭脳と霊感予知力で手助けをするのがフォーマットで、地蔵の頭の代わりの生首や、密室状況の風呂場の惨殺死体などの発端の怪異や不可能現象も「なめくじ長屋」シリーズを思わせる部分があるのですが、なにせ本書は”伝奇小説”、合理的な解釈は期待できませんw 最終話では、死体を操る妖術が乱舞するモンスター・ホラーの様相を呈します。
謎解きの面白さはないですが、伝奇時代小説の異色作として楽しめました。

No.2060 6点 機械探偵クリク・ロボット- カミ 2014/03/06 20:54
古代ギリシャの天才発明家の直系子孫であるアルキメデス博士と、彼が発明した機械仕掛けのアナログ・ロボット”クリク”とのコンビによる推理・冒険譚の中編2編収録。文庫版には特別付録としてショートコントが2題付加されています。
フランス風のとぼけたギャグと、数ページ毎に出てくる素朴な挿絵で、思わず口元が緩むユーモア・ミステリ。クリクが口から出す暗号文の推理回答や数々のダジャレが、日本語でも意味が通じるように意訳・改変された内容になっており、この翻訳者の仕事ぶりがお見事です。

「五つの館の謎」は、フーダニット&ハウダニットを問う謎解きモノの本格ミステリ風で、連続盗難事件、銃声、凶器のナイフという3つの伏線をつなげた真相が鮮やか。
「パンテオンの誘拐事件」は、フランスの偉人が眠る霊廟を舞台にした冒険スリラー風。地下墓地(カタコンベ)の細部描写も堂に入っており、ドタバタ劇で使用するのはもったいないぐらいwの魅力的な設定がいい。
ともに、ハチャメチャな展開のように見えて、最後はキッチリ収束させており、お笑いだけのミステリでないことに感心しました。

No.2059 6点 本棚探偵の冒険- 評論・エッセイ 2014/03/04 21:16
漫画家にして古本蒐集家で知られる喜国雅彦氏による、古本を巡るディープで笑えるエピソードを綴った騒動記。「読むための購入」から「蒐集のための購入」に、いつのまにか手段が目的に変わってしまった、ある古本マニアの悲しくも滑稽な物語w

ミステリ本蒐集にハマるきっかけとなった乱歩邸訪問では同行の京極夏彦、山口雅也両氏、当初の古本蒐集の先生である二階堂黎人氏、喜国さんに書庫の整理を依頼する我孫子武丸氏など、ミステリ作家たちとの交際でのやり取りが、それぞれ人柄が現れていて楽しい。
奇行エピソードでは、古書店を回って一日でポケミスを何冊見つけられるかという「ポケミス・マラソン」の一部始終が笑える。
ミステリ本の内容そのものにはあまり触れておらず、しかも対象が乱歩、横溝など国内古典寄りの話題が多く海外ミステリが少ないのは残念ですが、それでも本編や巻末のマニア座談会で出てきた、輪堂寺耀「十二人の抹殺者」、大阪圭吉「死の快走船」、大河内常平「九十九本の妖刀」などの稀覯本が続々と復刊されようとしている現状は喜ばしい限りです。(マニアは逆に困るのか?)
本書が好事家に好評だったためか、続編で「本棚探偵の回想」「~の帰還」が出ており、来月には「~最後の挨拶」も出る予定とのこと。そのうち読んでみたい。

No.2058 5点 サイモン・アークの事件簿〈Ⅴ〉- エドワード・D・ホック 2014/03/04 18:38
悪魔と超常現象の探求者、オカルト探偵サイモン・アークものの第5短編集。前巻につづいて翻訳者・木村二郎氏によるセレクト集になっています。

怪奇趣向を前面に出したパズラーというのが本シリーズの特徴ながら、そういった要素が弱まっているものが散見され(なかにはアークが探偵事務所を開いているものまであり)、探偵のミステリアスさ・独自性が失われている作品が多かったのは残念なところ。他の探偵キャラクターでも違和感のない事件が多かった気がする。また、当シリーズは、サム医師ものと違って、シリーズとしての連続性が配慮されていないのも不満なところです。
個々の収録作の中で印象に残ったのは、施錠された礼拝堂内の殺人を扱い構成にも仕掛けがある「怖がらせの鈴」、前半冗長なところがあるも読みごたえ十分のフーダニットもの中編「炙り殺された男の復讐」、顔のない死体テーマにヒネリがある「海から戻ってきたミイラ」の3作品です。
まだまだ未訳作品があるも本書でサイモン・アークものは終了らしい。つぎはレオポルド警部シリーズの訳出を期待したい。

No.2057 6点 ビブリア古書堂の事件手帖5- 三上延 2014/03/02 20:43
人気ビブリオ・ミステリの第5弾。古書店主・篠川栞子と大輔の関係進展に、裏で古書の謎を演出する母・篠川智恵子の暗躍を絡ませた、3つの”日常の謎”の物語が収録されています。

第1話「彷書月刊」は、古書に関する専門誌を売却のため持ち込んでは買い戻す不思議な老婦人の謎。意外な人物との関係が明らかになるが、それまでのミスディレクションが巧み。
第2話「手塚治虫『ブラック・ジャック』」は、コミック本の稀覯巻を巡るある男性の理不尽な行動の謎。新刊書店でも古書店でもない”書房”はたしかに現代では盲点かも。真相には涙腺を刺激された。
第3話「寺山修司『われに五月を』」は、謎解きとしてはやや平凡ですが、タイトルを本書の主題にリンクさせている点で秀逸。
個々の話は、ミステリ趣向的にマンネリを感じなくもありませんが、プロローグに(中町信もどきのw)ちょっとした仕掛けがあったりで楽しめました。

No.2056 6点 猫とねずみ- クリスチアナ・ブランド 2014/02/28 20:26
雑誌社「乙女の友」で人生相談コーナーを受け持つ女性記者カティンカは、常連投稿者アミスタからの結婚を知らせる手紙を見て喜ぶ。ところが、休暇で故郷の村に帰ったカティンカが、アミスタが暮らす山深い館を訪ねると、「そんな女はいない」と誰もが口をそろえて告げるのだった-------。

発売中の「ミステリマガジン」4月号の特集は”乙女ミステリのススメ”で、小泉喜美子の短編やクレイグ・ライスのエッセイに並んで、「猫とねずみ」をテキストにした解説が掲載されている。”乙女ミステリ”とは、サスペンスにしろコージーにしろ、ゴシック小説にしろ、女性を主人公にしロマンスを重要な要素としたミステリということだろうと思う。
本書の基本構成は”ゴシック&ロマンス”ですが、「アミスタという女性はいったい誰で、どこにいるのか?」という謎が終始物語を引っ張ります。ゴシック・ミステリとしての隠された構図は割とありがちですが、アミスタの正体を巡って四転五転する多重推理的な展開はよく出来ていて、読者を引きずり回す技巧はやはりブランドらしいです。
また、ラストで明らかになるある女性の想いと行動は胸を打ちます。なるほど、だから”乙女ミステリ”かと思い至る真相です。

No.2055 5点 暗闇の殺意- 中町信 2014/02/26 18:45
トリッキーな本格ミステリ7編収録の短編集。まさか光文社文庫から出るとは思わなかったが、創元推理文庫の「~の殺意」シリーズのプチ・ブームに便乗した企画なのか。

プロローグでの騙りによるミスリード、ダイイングメッセージ、密室状況の殺人など、短編にもかかわらず、どの作品も長編とまったく同じスタイルを貫いているのは好感が持てる。ただ、青樹社版短編集「Sの悲劇」の収録作との重複が7作中3作も含まれているのは残念なところ(よって、編成に1点減点)。
個別に見ていくと、既読の「裸の密室」「動く密室」を超えるものが見当たらなかったが、ラストに構図を反転させた安楽死テーマの「濁った殺意」と、小品ながら騙りがスマートなアリバイもの「手を振る女」がとくに印象に残った。
作者の短編はそう多くないが、もう1冊分ぐらいは残っているはず。ぜひ第2弾も出してもらいたい。

No.2054 7点 ヘッドハンターズ- ジョー・ネスボ 2014/02/24 21:16
やり手のヘッドハンターとして人材紹介会社に勤めるロジャーは、美しい妻の画廊経営などで多額の赤字を抱えていたため、裏で絵画の窃盗という副業に手を染めていた。そこに現れたのが、完ぺきな転職条件を備えたエリート男で、しかも彼はルーベンスの幻の名画を所持しているという-------。

オスロ警察のハリー・ホーレ警部シリーズで知られるノルウェーの人気作家、ジョー・ネスボの(現在のところ)唯一の単発作品。
名画を巡るクライム・ノヴェル風の序盤から、エリート男の正体が明らかになってからは、予想外の展開が怒涛のごとく続く「巻き込まれ型のサスペンス」になっている。主人公が最初は自信家のイヤな男として描かれているので、感情移入は難しく、逆にロジャーが”ドツボにはまる”場面は、ブラック・ユーモアさえ漂っている。
窮地を脱するためのロジャーの数々のアイデアが面白いし、最後にはディーヴァーもどきのどんでん返しまで仕掛けられていたのには驚いた。ただ、確かにその部分を読み直してみても虚偽の記述はないように思えるものの、ちょっとあざとい感じを受けます。

No.2053 6点 殺人リハーサル- 梶龍雄 2014/02/22 18:28
雑誌記者で人気芸能レポーターの栗田は、演歌歌手の川村鳥江から、過去に捏造記事でネタにした因縁のある前科者の男から脅迫されていると相談を受ける。そして、鳥江は自宅とナイトクラブの楽屋で二度にわたって不可解な状況で襲撃され、三度目はついに死体で発見される-------。

最初期の青春ミステリとはガラリと趣を変えた、芸能界を背景とした本格ミステリで、やや通俗的な雰囲気はあるものの、そこは梶龍雄のこと、細かに張られた伏線と二段構えの解決で、最後には見事に構図の逆転を見せてくれる。
確かに、いくつかのトリックは実行可能性という点で疑問符がつくものの、それを逆手にとって、想定外の偶発的事由が事件をより複雑化・混迷させているところが巧妙で、皮肉な真相につながっています。
傑作とはいえないですが、作者の現代もののなかでは佳作と言えるのではと思います。

No.2052 5点 友情ある殺人- ロバート・L・フィッシュ 2014/02/20 20:33
人類愛財団から高額の賞金を受け取った老ミステリ作家三人組が楽しい船旅を終えイギリスに帰ってくる-----そんな新聞記事を読んだ小悪党コンビは、その一人を誘拐する計画を立てる。老作家たちが株の暴落で一文無しになっていることを知らずに。

”殺人同盟”シリーズの3作目。法廷ミステリ、船上ミステリに続いて、今回は誘拐をテーマにしたクライム・コメディになっている。
誘拐された側が逆に主導権を握ったり、立場を逆転させることでスラップスティックな笑いを誘うのが、このタイプの定番の趣向で、誘拐犯の片割れでお人好しのハロルドを利用した他愛無い策略が可笑しい。例によって弁護士のパーシヴァル卿が絡んでくる後半は一種のコンゲーム的な面白さが加わる。ただ、言葉のパロディ部分など非英語圏の読者にはいまいち面白さが伝わりにくい側面もありますが(この難点は、シュロック・ホームズものと共通する)。
なお解説に、同趣向の誘拐コメディ作品として、「リリアンと悪党ども」「ジミー・ザ・キッド」「赤ちゃんはプロフェッショナル」「ドーヴァー⑧人質」「大誘拐」が挙げられているが、本書を含め出版がほとんど70年代後半に集中しているのが興味深かった。

No.2051 6点 贖罪の奏鳴曲- 中山七里 2014/02/18 22:56
多額の報酬を要求することで悪名高い弁護士・御子柴は、ある保険金殺人事件の上告審を引き継いだが、過去を知られたフリーライターに強請られ、深夜にライターの死体を入間川に遺棄する-------。

中学生の時に理由なく幼女を惨殺し、医療少年院に収監されていた過去を持つ、御子柴の特異な人物造形が一つの読ませどころ。名前を変え弁護士となり、保険金殺人を巡る法廷劇では主人公として事件の隠された構図を暴くという構成がユニークで、いわばダーク・ヒーローもののリーガル・サスペンスとなっている。
また、強請屋のライター殺しを担当し、御子柴に容疑をかけるのが、「カエル男」事件以来の再登場である埼玉県警の渡瀬&小手川の刑事コンビで、切れ者の渡瀬警部と御子柴の対決もスリリングです。
ただ、贖罪というテーマは明確に伝わってくるものの、二つの事件を並行して描きつつ、かなり色々な要素を詰め込み過ぎている感があるので、焦点がややボヤケてしまっているようにも思う。

No.2050 9点 裏切りの街- ポール・ケイン 2014/02/16 22:33
東部からロサンジェルスにやってきた流れ者のジェリー・ケルズは、ある組織のボスから賭博船の用心棒にと頼まれる。しかし一匹狼を貫くケルズは断り、やがて政界とつながる組織間の陰謀と抗争劇に巻き込まれることになる-------。

レイモンド・チャンドラーが”超ハードボイルド”と評した幻の古典クライム・ノヴェル。ダシール・ハメットのブレイクに少し遅れて同じ「ブラックマスク」誌に掲載された作者のデヴュー作品で、唯一の長編でもある。
”ギャング・エイジ”と呼ばれる不況と混乱の’30年代のロスを舞台に、主人公ケルズが複数のシンジケートを相手に、ハードかつしたたかに戦い、翻弄する様を描く。
本書でまず一番に感心したのはプロットの完成度の高さ。物語が進むにつれ次々と新しい人物が登場するが、混乱せずストーリーを楽しめる。賭博船やボクシングの試合会場、離島にある大組織のボスの隠れ家など、印象に残るシーンも多く、ストーリーが起伏に富んで面白く読めた。ラストも冷徹ながら感動的。
書かれた時代を考慮にいれれば、ハードボイルド小説の隠れた名作といえるのではないかと思う。

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