皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
kanamoriさん |
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平均点: 5.89点 | 書評数: 2426件 |
No.2006 | 6点 | お熱い殺人- ロバート・L・フィッシュ | 2013/11/19 20:30 |
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前回の事件で思いがけない大金が転がり込んだ老作家三人組は、念願の豪華客船での遊覧に旅立つ。ところが、詐欺師夫婦とのいかさまカード・ゲームの揉め事から、メンバーの一人は強姦未遂で、もう一人は殺人容疑で拘禁されるはめに-----。
”殺人同盟”シリーズの2作目は全編船上ミステリになっている。 2作目ということもあって、老ミステリ作家三人それぞれの個性も明確になっていると思う。三人組と因縁浅からぬパーシヴァル弁護士も相変わらずのくせ者ぶりを発揮していて、機知とユーモアも快調、前作以上に楽しめる。とくに終盤の、仮設法廷の審問の場面で、即席の速記役を割り振りされた女性の振る舞いは爆笑もの。 ミステリ的には、容疑者候補が少ないこともあって謎解きの部分はやや弱い感じがする。 |
No.2005 | 5点 | シュークリーム・パニック 生チョコレート- 倉知淳 | 2013/11/18 18:48 |
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中短編3作を収録した作品集。それぞれテイストが異なりバラエティに富んでいて楽しめましたが、いずれも結末にもう少しインパクトがあればと思わなくもありません。
「現金強奪作戦!(但し現地集合)」は、借金苦の”僕”が競馬場で知り合った男から銀行強盗の計画に誘われる話。泡坂妻夫の”亜流”のようなロジックと、タイトルにある”現地集合”にニヤリ。 「強運の男」は、バーで隣り合わせた男から賭けゲームを持ちかけられ、段々それがエスカレートする話。よくある設定ながら、結末までの展開がなかなかスリリング。 中編の「夏の終わりと僕らの影と」は、高校生男女5人が夏休みに自主映画を製作中にヒロイン役が消失する話。人物消失のトリックは真相がミエミエでアレですが、どのキャラクターも活き活きと描かれており青春ミステリとしては秀逸。これが個人的ベスト。 |
No.2004 | 6点 | 薔薇の環- ジョン・ブラックバーン | 2013/11/16 21:24 |
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東ドイツを通過中の夜行列車からイギリス陸軍少佐の息子が消えた。英国の機密情報を得んがための東側の拉致工作だと疑ったイギリス情報局のカーク将軍は、ソ連内務省のペトロフ部長に接触を図るが------。
幕開けは東西冷戦を背景としたスパイ小説の様相ですが、そこはブラックバーンのこと、ナチスの遺物やオカルト風民間伝承、バイオホラーなど色々な要素を絡めながら、事態はどんどん意外な方向に進展していきます。 今回カーク将軍は脇役で(緊急事態時なのにソ連の部長とチェスを指してますw)、以降のシリーズでタッグを組むことになる細菌学者レヴィン卿が主役ですが、”国家規模の脅威”に対するためソ連側と手を組む設定などがいかにもB級で面白いです。ただ、他の作品を読んでいると、脅威の正体や後半の展開がどれも似ておりマンネリ感も否めませんが。 なお、タイトルは少年の体に浮き出たバラ模様の発疹を表しているようです。 |
No.2003 | 6点 | 星籠の海- 島田荘司 | 2013/11/14 18:50 |
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四国松山沖の島湾に複数の死体が流れ着く謎めいた事件の依頼を受けた御手洗と石岡は、古来からの瀬戸内海航路の要衝である福山・鞆の浦に事件の核心があることを突き止める--------。
”時計仕掛けの海”こと瀬戸内海を舞台にした、歴史ロマンと冒険スリラーを併せたような大作です。全盛期の完成度には遠く及ばないですが、謎の水死体から始まり、信長の鉄板船や黒船対策にも関係したとみられる村上水軍の秘密兵器「星籠」の謎、新興宗教団体の暗躍、赤子誘拐事件など、ネタが次々繰り出される島荘節が楽しめた。ただ、地元青年を巡る男女のサブストーリー的な物語が長々と語られることでリーダビリティを損なう構成上のバランスの悪さが気になりました。 御手洗シリーズ国内編の最終章ということもあってか、主舞台が作者の出身地福山に近い港町・鞆に設定されていますが、個人的にも思い出のある地なので、風景描写に懐かしさを覚え読後感は良好。(よって+1点加算しましたw) |
No.2002 | 6点 | 消しゴム- アラン・ロブ=グリエ | 2013/11/12 18:05 |
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特別捜査局のヴァラスは、殺人事件の報せを受け運河と跳ね橋のある街にやってきた。しかし犯人も被害者の遺体も見当たらず、関係者たちの曖昧な証言に迷宮のような街を右往左往するのみ-----。
戦後フランスにおきた文学革命”ヌーヴォー・ロマン”の旗手、アラン・ロブ=グリエの処女作です。解説を読んでもボンクラ頭にはそれまでの文学とどう違うのかいまいち分かりません。捜査の合間にヴァラス刑事が文房具屋で消しゴムを買い求める場面が何度か挿入されるなど意味不明で、こういった何を象徴する描写なのか読者に委ねる試みは前衛的なのかもしれません。ただ、実験的・前衛的といっても、文章自体は平明で、新訳ということもあって非常に読みやすいです。 本書はミステリ(のパロディ)のある趣向を取り入れた文学となっていて、解説では「黄色い部屋」や「アクロイド」を引き合いに出していますが、この仕掛けで一番に連想したのはピーター・アントニイの「衣裳戸棚の女」でした。 |
No.2001 | 5点 | 連続殺人枯木灘- 梶龍雄 | 2013/11/10 18:39 |
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和歌山県に新種の虫を採取に来た昆虫マニアが何者かに狙撃され死亡する。友人の宇月は犯行に使用された特殊な銃弾に不審を抱き、事件の背後関係を捜査するが、事態は思わぬ方向に発展していく-------。
序盤は連続殺人を主題とした本格ミステリの様相で物語が進みますが、終戦直前の憲兵将校による新型銃器強奪計画という陰謀話が出てきたり、多数の少年たちを人質に謎の武装グループが南紀・枯木灘に浮かぶ島を乗っ取る事件が発生するなど、かなり大風呂敷を広げた展開で、まるで伴野朗の冒険小説を読むような謀略モノに変調する異色作です。その割にサスペンス性はそれほどありませんがw そんな動機で?と思わなくはないものの、本格ミステリ作家らしく、最後は意外な犯人の正体で締めています。 |
No.2000 | 6点 | セイレーンは死の歌をうたう- サラ・コードウェル | 2013/11/08 20:31 |
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テイマー教授は、チャネル諸島のジャージー島に出張中の教え子カントリップからのテレックスを読んで驚く。巨額の信託財産を巡る管財人会議にアドバイザーとして出席していたカントリップだが、またひとり管財人が不審死したという内容だった-------。
オックスフォード大学の法学教授(性別不明の)ヒラリー・テイマー教授が探偵役を務めるシリーズの第3作。 テイマー教授や、教え子で若手弁護士の面々の会話が醸し出す英国式知的ユーモアが本書の魅力です。能天気なカントリップと同僚の粗忽娘ジュリアとのやり取りに加え、今作ではカントリップの叔父のドタバタ騒動が抱腹ものです。 ミステリ的には、大掛かりなミスディレクションがあざとい(あれだけ筆を費やしておいて...)ながらも、伏線・手掛かりもちゃんとしており、端正な犯人当てパズラーに仕上がっていると思います。再読ながら完全に真相を忘れており、前回も同じところ(モナコ公国のホテルでのある場面)で欺されたことを読後に思い出しました。 |
No.1999 | 4点 | 名探偵の証明- 市川哲也 | 2013/11/06 22:57 |
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そのめざましい活躍から80年代には”新本格ブーム”まで巻き起こした「おれ」こと名探偵・屋敷啓次郎。時は過ぎ、老いて引退を考える名探偵のもとにかつての相棒が訪ねてくる-------。
今年の鮎川哲也賞受賞作品。(先日の授賞式でのスピーチ冒頭が「こんな名前ですみません」だったが”市川哲也”は本名)。で、タイトルのとおり名探偵の存在意義と再生の物語ですが、率直に言うとやや期待外れでした。 紹介文には受賞作品の枕詞の如く”選考委員絶賛の〜”とありますが、巻末の選評を読んでも各氏条件付きの推挙で、とても絶賛とは受け取れないです。 プロローグの事件と謎解きが新本格第一世代の某2大名作を合体したようなパロディ風なのが面白く、続く本編に期待を抱かせるものでしたが、読み進めて明らかになる作品のテーマは新味に欠け、密室などのトリックも工夫がないように思いました。真犯人の動機の点でも説得力に欠けるように思います。 |
No.1998 | 7点 | シャドウ・ストーカー- ジェフリー・ディーヴァー | 2013/11/04 17:58 |
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人気女性歌手ケイリーは男性ファンのストーカー行為に悩まされていた。故郷の街でのコンサートの準備を進めるなか、スタッフの一人が惨殺され、さらにケイリーのヒット曲の歌詞をなぞるように第2の殺人が発生する-------。
カリフォルニア州捜査局の”人間嘘発見器”キャサリン・ダンスを主人公とするシリーズの第3弾。地元モンテレーを離れ、休暇中に、友人ケイリーのために捜査に協力するという設定。 次々と事件が起こるものの、正直なところ、中盤過ぎまではやや緊張感に欠け、それほどリーダビリティが高いとは言えない。 どうせ怪しげなストーカー男が実は....というような展開だろうと予想もつく。しかしながら、リンカーン・ライムとアメリアが”友情出演”で登場するあたりから、予想を裏切る展開の連続でぐいぐい読まされる。何度もひっくり返る犯人像が楽しめたし、ラストもなかなか感動的ないいシーンだった。 |
No.1997 | 5点 | 名探偵乱歩氏- 黒木曜之助 | 2013/11/01 20:32 |
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休筆宣言をして日本各地を放浪していた江戸川乱歩は、ひょんなことから前の年の昭和6年に千駄ヶ谷で発生した”高利貸し殺し”事件に首を突っ込むことになる。元新聞記者の青年を助手に調査を進めるが、この市井の事件が国際的な陰謀を孕む意外な様相を見せ始め、関係者が次々と殺されていく--------。
黒木曜之助は乱歩賞の候補になったこともある推理作家ですが、「津山三十人殺し」など別名義のノンフィクション・ライターとして有名です。本書も昭和6年に実際に起きた事件を端緒に、乱歩のエッセイ風半自叙伝「探偵小説四十年」に書かれたエピソードを巧く挿入しながら語られるので、実録小説を思わせるところがありました。 ところが読み進めるにつれて、共産党の暗躍やロシア・ロマノフ朝の金塊が絡む陰謀など、とんでもない方向に話が進展していきます。登場人物間のつながりや犯人の工作が、偶然に頼ったご都合主義的な側面がかなり目立ち、謎解きミステリとしての出来でいえば不満点が多い作品です。ただ、乱歩の友人で探偵作家&弁護士の浜尾四郎や海野十三、阿部定など、登場する実在人物も多彩で物語自体はそれほど退屈ではなかった。プロローグの黄金仮面をかぶった二人の女性によるレスビアンショーなど、煽情的シーンが多いのは乱歩作品へのオマージュだろうか。 |
No.1996 | 6点 | イン・ザ・ブラッド- ジャック・カーリイ | 2013/10/29 20:15 |
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「僕」こと、カーソンと相棒のハリーは偶然に漂流するボートの中に赤ん坊を発見し救出するが、その収容先の病院が怪しい男に襲撃される。一方、極右主義者で有名なキリスト教系説教師が倒錯プレイの最中に変死する事件が発生、刑事コンビは両方の事件の背景を捜査することになるが--------。
”百番目の男”カーソン・ライダー刑事シリーズの第5弾。前作で兄ジェレミーの問題に一区切りつけたこともあってか、今回は原点回帰したような、カーソンと黒人刑事ハリーのバディもの警察小説風の趣がありました。 2つの並列する事件を同時に捜査する展開のため、プロットがややごちゃごちゃしている感があるものの、最後は複数の伏線を回収し巧くまとめ上げていると思います。ただ、ジャック・カーリイの得意技である関係者の”裏の顔”によるサプライズ演出が、今回はちょっと過剰かなと思わなくもありません。 |
No.1995 | 7点 | アリス殺し- 小林泰三 | 2013/10/27 21:30 |
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女子大学院生の栗栖川亜理は、不思議の国に迷い込んだアリスの夢を続けて見る。その幻想世界で、ハンプティ・ダンプティの墜落死を発端に住民たちの不審死が続発するが、現実世界の大学においてもリンクするように同様の事件が起きていることに気が付く--------。
グロテスクなホラーやSFも書く作者の持ち味がうまく盛り込まれた本格ミステリという印象。 帽子屋や三月兎など”不思議の国”という異世界の住民たちのかみ合わない会話のやり取りや、グロテスクな殺人手段の再現描写など、ちょっと勘弁してと思うところもありましたが、異世界と現実世界をリンクさせるルールが明らかになった後の、途方もない構図の反転には驚いた。〇〇トリックの複数活用や名前によるミスディレクションもうまく効いていると思います。 ある人物に対する最後の処遇については、かなりブラックで残虐でありながらも、笑えてしまう自分が恐ろしいw |
No.1994 | 6点 | 火の玉イモジェーヌ- シャルル・エクスブライヤ | 2013/10/25 22:14 |
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イギリス海軍省情報局の古株タイピスト・イモジェーヌは、ある日突然、局長から臨時の諜報部員に抜擢され、故郷スコットランドのハイランド地方へ重要書類を運ぶ任務を命じられる---------。
気性も思い込みも烈しい赤毛の女情報部員・イモジェーヌ・マッカーサリーを主人公としたユーモア・スパイ小説の第1作。 読者には敵側のスパイだと明白な三人の男たちに次々と騙され、逆に味方側を疑うという見当違いの行動を繰り返しながら、収まるところに収まるドタバタ振りが面白い。とくに村の駐在巡査部長とのやり取りには笑いのツボにはまった。 ジャンルはどうみても「ユーモア小説」に分類すべきだと思っていたら、最終章でスパイ小説らしいドンデン返しが待っていた。 エクスブライヤはフランス人作家ながら、訳出されている作品を見る限り、本書の英国をはじめスペイン、イタリアなど、本国フランス以外を舞台に、その国の人物を主人公にしたミステリばかりを書いている。ちょっと不思議な作家だ。 |
No.1993 | 4点 | 白戸修の逃亡- 大倉崇裕 | 2013/10/24 22:55 |
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中野駅界隈に近寄ると必ずトラブルに巻き込まれる体質?の白戸修を主人公としたシリーズの第3弾。
今回はシリーズ初の長編ということで、短編での軽本格モノとは若干違って、何者かの策略によって、お台場のイベント会場を標的とする爆弾男に擬せられた主人公の逃亡劇がメインとなっている。 謎解きの要素はさらに薄めに感じられ、途中までは作者の嗜好が前面に出ていた「無法地帯」や「警官倶楽部」に似たテイストを感じた。最後にはちょっとした仕掛けが暴かれるのだけど。 前の2作で登場したキャラクターたちが次から次へと”助っ人”として現れるのだが、これがいまいち記憶にない。本書から読んだ人には、なおさら何が何やら訳が分からないのではなかろうか。 |
No.1992 | 6点 | 拷問- ロバート・バーナード | 2013/10/21 22:59 |
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ペリー・トリンワン警部は、タイムズ紙の死亡欄で、不仲で絶縁状態にあった父親の死を知る。しかも父親は趣味の吊り刑具という中世の拷問具にかかって変死していた------。
先月訃報が伝えられたロバート・バーナードのトリンワン警部(のちに警視)シリーズの第1作。 地方の旧家トリンワン一族が暮らす館を舞台にしたフーダニット・ミステリで、芸術家肌で変人ぞろいの伯父や伯母、従兄たちを相手に捜査を行うという、警部の微妙な立ち位置が効いています。警部の一人称で語られる彼らのキャラクターだけでも面白いですが、最終章で関係者を一堂に集めて犯人を指摘する警部のロジックもなかなかのものです。 また、一件落着のあとに警部が陥る”窮地”がシニカルで笑えます。 |
No.1991 | 6点 | 松谷警部と目黒の雨- 平石貴樹 | 2013/10/19 21:57 |
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目黒のマンションで殺された女性の身辺を探っていくと、大学時代のアメフト部OBがからむ過去の2つの変死事件との関連が浮上する。松谷警部は、所轄の女性巡査とともに過去の事件の再捜査に乗り出すが------。
容疑者候補である元アメフト部の関係者が多くて、現在と過去の事件それぞれのアリバイを頭の中で整理するのが大変だった。フーダニットが主眼なので多少やむを得ない側面もあるが、もう少し単純化できそうな気もする。 「動機は後回し」の更科ニッキ風の女性巡査・白石のキャラクターがいまいち分かりずらいが、現場の状況からアリバイ工作を解き明かし、犯人を絞り込むロジックはまずまずかなと思います。 創元推理文庫は国内ミステリでも翻訳モノに倣って、英語版タイトルを表示しているが、「目黒の雨」という”邦題”も味があるけれど、アメフト用語でもある”Unnecessary Roughness"という英語版タイトルが秀逸。 |
No.1990 | 7点 | 刑事たちの三日間- アレックス・グレシアン | 2013/10/17 21:38 |
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駅構内でトランク詰めにされた刑事の死体が発見される。地方警察から、創設されたばかりのロンドン警視庁・殺人捜査課に赴任した新米警部補のウォルター・ディは、警視総監からこの同僚刑事惨殺事件の捜査を命じられるが--------。
前年に起きた切り裂きジャック事件の恐怖が残るヴィクトリア朝ロンドンを舞台にした警察小説。 新参者の警部補、若手巡査、法医学検査官という三人の主人公の視点だけでなく、異常殺人者の内面描写を含めた多くの視点を採用しているうえに、複数の事件が絡むモジュラー形式という錯綜した物語になっていますが、語り口がライトなこともあって意外と読み易かった。 猟奇的連続殺人や幼児連れ去り虐待など事件の様相は陰惨ながら、登場人物が脇役にいたるまで活き活きとしていて魅力的、ヒューマニズムに溢れた内容になっている。シリーズ第1作ということもあって前半の展開にモタモタしたところもあるが、最後はうまくまとめていると思います。 |
No.1989 | 6点 | 転迷- 今野敏 | 2013/10/12 18:40 |
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まるで前作「疑心 隠蔽捜査3」のアノ事がなかったかのごとく、原理原則を貫く男、大森署のスーパー警察署長・竜崎が帰ってきた。
今回は、国の縦割り行政なんのその、外務省や厚労省、公安までが絡む複数の事件を、粛々とハンコ押し作業を続けながら一纏めに解決に導く。刑事部長・伊丹の竜崎への対応をはじめ、組織として「ありえねぇ〜」とツッコミを入れながら読むのが楽しい。 また、ラストの竜崎の決意がカッコイイ。 しかし、シリーズ・タイトル”隠蔽捜査”というのは、ほとんど内容に合致しなくなってきている気もするが。 |
No.1988 | 7点 | エラリー・クイーンの騎士たち- 評論・エッセイ | 2013/10/10 23:06 |
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日本の作家がエラリー・クイーンの”クイーン的要素”のどの部分をどのように取り込み発展させたかを考察した評論集。数年前に出た同じ著者の「エラリー・クイーン論」がかなり面白かったのでこちらも読んでみました。
クイーン的要素とは、フェアプレー精神と読者への挑戦、ミステリ作家の名探偵が事件を小説化する構成、トリックよりロジックの重視、ダイイングメッセージの多用、偽の手掛かりと後期クイーン的問題などになるが、取り上げた各作家毎に異なった要素を補助線にして、その小説技法を分析している点に感心した。それぞれ切り口が違う。 横溝正史、鮎川哲也や新本格以降の作家(〜青崎有吾まで)を取り上げているのは想定していたが、「ローマ帽子」と「砂の器」の動機をネタに、松本清張に一章を割いているのには驚いた。多分に我田引水的なところがあるように思いますが。 とはいえ、それぞれの作家の小説技法の分析は斬新でロジカル、読んでいて非常にスリリングです。とくに後期クイーン的問題などをネタに「隻眼の少女」をテキストにした麻耶雄嵩編は刺激的な内容でした。 取り上げられた日本作家の作品だけでなく、(新訳版が次々出ている)クイーン作品も再読したくなる反作用効果もある。 |
No.1987 | 5点 | 刑事コロンボ13の事件簿- ウィリアム・リンク | 2013/10/09 20:37 |
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TV版「刑事コロンボ」や「エラリー・クイーン」「ジェシカおばさんの事件簿」など、数々のミステリ・ドラマの脚本をリチャード・レビンソン(1987年死去)とのコンビで手掛けてきた作者の、刑事コロンボ・オリジナル作品集。
ジャンル投票は”倒叙”としましたが、7編の倒叙と6編の非倒叙作品が交互に収録されています。ただ、捜査側から描写される非倒叙もののコロンボ警部はごく普通の刑事で、ピーター・フォーク演じるドラマのイメージとは違う感じを受けます。やはり、犯人視点で描写されるコロンボのほうがしっくりきます。 収録作の中では、ロイ・ヴィガーズの迷宮課モノを連想させるプロットの「写真の告発」がよかった。 あとは「黒衣のリハーサル」「暗殺のレクイエム」がまずまずの出来かなと思いますが、全体的にコロンボが犯人を落とす”詰め手”にキレや意外性がないのが物足りないです。 |