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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2460件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2200 6点 「禍いの荷を負う男」亭の殺人- マーサ・グライムズ 2015/01/06 18:36
クリスマスを数日後に控えたイングランド中部の小村で、宿泊客が連続して猟奇的状況で死体となって発見される。一人目はビヤ樽に首を突っ込んで、二人目はパブの人形の看板の代わりにさらしものにされて。ロンドン警視庁から派遣されたジュリー警部の捜査に加え、地元に住む元貴族のメルローズとアガサ叔母が素人探偵を買って出るが---------。

各タイトルに珍妙なパブの名前を冠した、リチャード・ジュリー警部(のちに警視)シリーズの第1作。
新装版の解説で杉江松恋氏が書いているように、本書はセント・メアリ・ミード村を舞台に、貴族探偵ピーター・ウィムジー卿を登場させたような図式と言えなくもなく、クリスティとセイヤーズの”いいとこ取り”のような味わいのあるヴィレッジ・ミステリに仕上がっています。シリーズの特徴としては、個性的な村の住民たちの造形描写が秀でていて、なかでも穿鑿好きで俗物的なアガサ叔母のキャラクターがなかなか強烈です。”元祖コージー・ミステリ”という裏表紙の呼称には素直に肯けませんが、本書に関しては彼女の”活躍”でコージー色が濃くなっていますね。
謎解き部分では、定番の”過去の秘密を抱える人物”を過剰に用意したため、徒に捜査を錯綜させすぎているのと、ダイイング・メッセージが日本の読者にはピンとこないという難点がありますが、2作目以降に非常に期待が持てる出来栄えです。

No.2199 6点 藤村正太探偵小説選 Ⅰ- 藤村正太 2015/01/04 11:52
作者が昭和38年に「孤独なアスファルト」で乱歩賞を受賞し”再デビュー”するさらに10年以上前に、川島郁夫名義で発表した初期の作品集。1巻目の本書には、デビュー短編「黄色の輪」をはじめ、昭和24年~27年に雑誌掲載された15編と評論・随筆が収録されています。

密室やアリバイ工作を主軸としたトリッキィな探偵小説が多かったのですが、なかには歴史・時代小説や戦争小説、ユーモラスなコンゲーム的なものなどもあり、意外と作風は幅広いなという印象です。ただ、作品毎のクオリティにはかなりバラツキがあり、アンソロジーに採られている下記の既読作品はアイデアに光るものがあるものの、他の初読の作品にそれほど良質なものが見当たらなかったのは少々残念です。
個人的ベストは、密室とアリバイ・トリックともに工夫されたガチ本格の中編「盛装」。とくに首切断死体の大胆なミスリードの趣向には驚かされる。このトリックは後に作者の某長編にも再利用されている。
準ベストは、事件の構図を複数回反転させたスマートで完成度が高い「接吻物語」か、アリバイ工作が警察の捜査によって完結してしまうという皮肉な趣向の「或る自白」あたり。
総体的に、本格編はプロットがごちゃごちゃしたものが多くて読みずらく、アイデアがストレートに伝わってこない感じがした。

No.2198 6点 霧に包まれた骸- ミルワード・ケネディ 2014/12/31 20:34
霧深い深夜、ロンドンのパレード広場でパジャマ姿の変死体が見つかる。状況から被害者はブラジルから帰国したばかりのヘンリー・ディル老人と見做されたが、死体は付け髭をしており、指紋などの物証から別人だという疑惑が浮かぶ。コーンフォード警部の捜査は矛盾する多くの手掛かりに振り回され、事件の真相はまさに五里霧中に--------。

英国ディテクションクラブの初期メンバーで、バークリイやセイヤーズとともに中心的役割を務めたミルワード・ケネディの(単独では)第2長編です。コーンフォード警部と好奇心旺盛な素人探偵ジョン・メリマンは前作(未訳)に続き再登場らしい。
多くの手がかりが提示されるが、被害者の身元が終盤近くになるまではっきりしないため、警部と同様に読む側もモヤモヤ感を抱えたまま読み進めることになります。容疑対象者が少ないため、真犯人を直感で当てることは比較的簡単だと思いますが、その人物の行動は合理的とは言えず一貫性に欠けるところがあり、数々の謎の真相をロジカルに推理するのは難しい面があります。
それでも、コーンフォード警部の繰り出す妄想的推理や、メリマン夫妻とのやり取りなど、主要キャラクターは立っており面白かったので、ぜひ前作も訳出してもらいたいですね。

No.2197 6点 赤い糸の呻き- 西澤保彦 2014/12/31 20:32
それぞれ異なる探偵キャラを配した5編から成るノンシリーズの中短編集。(その後にシリーズ化されたものもあるようです)
ほとんどが探偵役二人の妄想的推理による仮説を、会話文を主体に展開してゆく構成になっているため、スラスラ読めるのが良いですね。

収録作のなかでは、閉じ込められたエレベータの暗闇の中での殺人を扱った表題作の中篇「赤い糸の呻き」が編中の個人的ベスト作品。重層的な推理の果てに明らかになる意外な動機と犯人像、ラストの二段オチでタイトルの意味が分かる構成が巧みです。
「お弁当ぐるぐる」は、読者への挑戦つきで犯人当てミステリとして書かれた作品。証拠が絶対的なものとはいえないため、作者の用意したこの真相が唯一無二と言えるのか、ちょっと疑問に思えてしまうところがあります。
「墓標の庭」は、都筑道夫の”物部太郎シリーズ”のパスティーシュ。謎解きは平凡ですが、贋作としてはかなり上手い出来です。
「対の住処」は動機の異常性がすべてですが、途中で判ってしまいました。

No.2196 4点 九月の滑走路- ドミニ・ワイルズ 2014/12/30 11:58
脱獄囚モーガンはカトリック神父に成りすまし、ロサンジェルス空港から国外逃亡を企てていた。しかし、まさに今ジャンボ機が離陸しようとする直前、謎の武装集団が突然乗り込んで来て、一瞬のうちに機内は血の海と化した----------。

作者ドミニ・ワイルズは英国の女性作家で本書がデビュー作。光文社の、”海外の新進女性作家の作品を日本の女性作家の翻訳で”というシリーズの一冊で、今回は小泉喜美子訳です(もっとも彼女はもとから翻訳も本職なんですが)。
物語は、発端から過激な殺戮シーンが続き、女性作家の作品とは思えない骨太のスリラーに仕上がってはいるのですが、元々原文がこなれていないのか、翻訳に問題があるのかは分かりませんが、描写がスッと頭に入ってこないところがありました。
”ハイジャックもの”といっても旅客機は飛ばずに、全編にわたり空港での極限状況下で展開され、犯行グループや乗客たちの人間模様が中心になっているのがユニークなところですが、そのドラマ部分がいかにも類型的なのが残念です。また、こんなに死体の山を築く必要があったのか疑問に思ってしまうところがありました。。最後は女性作家らしくロマンスで締めているのですが。

No.2195 5点 蠅男- 海野十三 2014/12/24 22:38
富豪・玉屋総一郎宅に”蠅男”と名乗る人物から殺人予告状が届く。大阪府警の厳重な警備を嘲笑うかのごとく、富豪は完全な密室のなかで天井から吊るされた死体で発見される。たまたま大阪に来ていた名探偵・帆村荘六は、連続する不可能犯罪トリックと怪人の正体に迫るが---------。

名探偵・帆村荘六シリーズを代表する長編。
乱歩の通俗スリラーを思わせる典型的な”怪人対名探偵”という図式になっていて、猟奇的でレトロな探偵小説です。しかしながら、海野十三の作風を知らずに読み進めると、後半の展開に唖然となること必至の怪作です。
これはまさに奇想を超越した大バカミス。真面目に密室トリックを解明しようとしてきた読者にとっては”壁本”間違いなしですが、個人的には、戦前のレトロな探偵小説の味わいはちょっと捨てがたいものがあります。大阪が舞台ということで関西弁が溢れていて、富豪の令嬢までが「はあ、そうでっか」を連発するのには苦笑してしまいますが。

No.2194 6点 ゴースト・スナイパー- ジェフリー・ディーヴァー 2014/12/24 22:36
ライムのもとに女性検事補ローレルが訪れた。反米活動家モレノをバハマで暗殺した黒幕はアメリカ政府の諜報機関で、その首謀者を法廷で裁くべく、彼女はライムに捜査協力を依頼する。だが現場は遠く証拠が収拾できないなか、暗殺者によって目撃証人が次々と抹殺されてゆく事態に-----------。

リンカーン・ライム、シリーズもいつの間にか本書で10作目。
本書の目玉は、車椅子のライムが初めて米国を離れ、カリブ海に浮かぶバハマまで出っ張ることでしょうか。諜報機関の最新兵器やスナイパーが相手ということもあって、いつもよりアクション・スリラーの様相が強い仕上がりです。
中盤に何度か仕込まれているどんでん返しは、もう”期待通りのどんでん返し”で、サプライズ感はあまりないのですが、ダミーの犯人像を次々と繰り出してくる終盤の展開でだいぶ盛り返していますね。
ただ、このところ対峙する”敵”に初期作と比べていまいち歯応えを感じないことも事実。
次作の「スキン・コレクター」に期待しよう。

No.2193 4点 九連宝燈殺人事件- 藤村正太 2014/12/22 20:16
”麻雀推理”と銘打たれたミステリ短編集(6編収録)。
作者の麻雀推理(役満)シリーズは、70年代に長編「大三元殺人事件」のほか4冊の短編集があり、本書は第1短編集のようです。乱歩賞を獲る前に、賭けマージャンで生活費を稼いでいたという作者だけに、その経験を活かした内容となっていて、阿佐田哲也の麻雀小説のように随所に手牌を図示しているところなど面白く読めるのですが----------。

残念ながら謎解きミステリとしては、”本格ミステリ冬の時代”を実感できるような内容となっていますw
”推理モノ”というだけでは売れないため加えたプラスアルファ部分(麻雀)のほうに重点が置かれてしまい、結果的に推理部分がお座成りになっているように思います。
そんな収録作の中でも、最初の「国士無双殺人事件」がまずまずの出来で、アリバイ・トリックや手掛かりは麻雀の特殊ルールに拠るものですが、麻雀に興味ない人が本書を読むとは思えないのでこれは許容範囲でしょう。
表題作は、ゲン担ぎに凝る主人公が不吉なジンクスがある大役満”九連宝燈”をアガってしまったことから巻き込まれる殺人事件の話ですが、ありがちな真相で先の展開が読めてしまうのが残念です。
それにしても、普通の会社員や公務員が雀荘で初めて会った素性の分からない人物と平気で賭けマージャンの卓を囲むという設定が、ちょっと理解できないですね。

No.2192 6点 ○○○○○○○○殺人事件- 早坂吝 2014/12/20 16:32
アウトドア派の”僕(⇒俺)”は、ブログで知り合った同じ趣味をもつ仲間たちと毎年恒例のオフ会を行うため、小笠原諸島の孤島へ赴いた。ところが翌朝、参加者のうち男女2人が行方不明に、続いて洞窟で変死体が見つかる----------。

いかにもメフィスト賞受賞作といった趣向の作品。
ネタバレになってしまうが、読者に隠された”特殊設定”が明らかになると謎がスルスルと解けるという点で、倉阪センセの一連のバカミスと同種の臭いがする。
島に着いた途端に主人公の人格が変わってしまったり、終盤の下ネタの連発には笑ってしまうが、それらがキッチリ伏線や手掛かりになっているのには感心させられた。手術直後だとその部位の皮膚の色が違って目立つだろ!といったようなツッコミは野暮に思えてしまう。ただ、タイトル当ての趣向はウリにするほどのものではなかった気がしますが。
また一人、京大推理研出身の楽しみな作家が現れた(かな?)。

No.2191 5点 殺意のわらべ唄- 風見潤 2014/12/20 13:12
消息が不明だった風見潤氏が亡くなっていたことが判明したらしい。(ソースは青学推理研の後輩・北原尚彦氏のTwitter)
風見潤氏といえば”幽霊事件”シリーズなどのジュヴナイル・ミステリの書き手という一般的イメージですが、個人的には海外ミステリ・SFの翻訳&アンソロジストという印象が強い。
主なところでは、エドワード・D・ホック「こちら殺人課!レオポルド警部の事件簿」、ジョン・スラデック「黒い霊気」、ランドル・ギャレット「魔術師を探せ!」、さらには昨年「ビブリア古書堂」で話題になったSFアンソロジー「たんぽぽ娘」など、なぜか現在ではマニアの探求本的なものが多い。

本書は大人向けの本格ミステリーで、大学講師・神堂と恋人の奈々との素人探偵コンビシリーズの第1作。
”てるてる坊主”などの童謡に見立てた製薬会社役員の連続猟奇殺人がテーマとなっていますが、派手な事件の割には解決があっけないというか、コンパクトな分量のため大きく広げた風呂敷を無理やりまとめた感があります。トリックの一部も自身の作品とダブっていたように記憶しています。

No.2190 4点 探偵少女アリサの事件簿 溝ノ口より愛をこめて- 東川篤哉 2014/12/18 18:54
両親ともに名探偵という小学4年生の少女アリサと、彼女の子守り役を依頼される「なんでも屋」の”俺”のコンビによる連作短編集。溝ノ口を中心に南武線沿線で起きた事件を扱った地域限定ミステリになっている。

「平成の赤川次郎」か「日本のエドワード・D・ホック」を目指しているのか、このところ出す新刊ことごとく新しい探偵キャラクターを創造してくる。シチュエーション・コメディのマンネリ防止のためということは分かるが、新しい設定がそれほど活かされているようには思えないのだけど。
前作の「一服堂」のようにミステリの仕掛けの部分で工夫があればまだ評価できるのだけど、今作はミステリ部分も低調に感じた。
第1話のバカミス風トリックはどこかで似たようなものを読んだ気がするし、第2話の南武線のアリバイ崩しを扱った手掛かりは地元の人でないとピンとこないだろう。

No.2189 6点 怪しい店- 有栖川有栖 2014/12/16 18:47
いろいろな”店”を題材にした作家アリス&火村シリーズの連作中短編集。”宿”がテーマだった「暗い宿」の姉妹編のような位置づけの作品集で下記5編を収録。(一部ネタバレあり)

「古物の魔」は骨董屋の店主殺し。火村が言うように、”殺害時刻を誤認させる工作がアリバイ偽装のためではない”という、犯人の動機が非常にユニークです。火村と船曳捜査班との関係が何となく探偵ガリレオっぽいですね。
「燈火堂の奇禍」は、古書店の事件ということで、当然のごとく”日常の謎”を扱ったアームチェア・ディテクティヴになっているw
「ショーウィンドウを砕く」は倒叙もの。全て犯人視点で語られる火村や大阪府警の面々がちょっと新鮮な感じを受ける。
「潮騒理髪店」は、田舎町へ取材で訪れた火村の視点で語られる”日常の謎”もの。ミステリ的には普通ですが全体の雰囲気がよく、編中の個人的ベスト作品。
最後の「怪しい店」は、1話目の「古物の魔」と同様に、大阪府警の船曳班の捜査に火村とアリスが協力するオーソドックスなフーダニット。出来自体は可もなく不可もなくというところ。

No.2188 7点 オルゴーリェンヌ- 北山猛邦 2014/12/14 15:30
将来のミステリ作家を目指し、書物が禁止された異国を旅する英国人少年クリスは、検閲官に追われる少女ユユと出会う。突如現れた少年検閲官エノとともに、オルゴール作り職人が住む海に囲まれた洋館を訪れることになるが、そこで3人を待っていたのは不可解な連続殺人だった---------。

「少年検閲官」シリーズの第2弾。海面上昇による世界の終末感が漂い、”ミステリ”をはじめあらゆる書物が焚書の対象となっているという異世界を舞台にした幻想的な本格ミステリです。
ミステリの諸要素”ガジェット”を宝石状の結晶にして隠すとか、少女の体をオルゴールにする”少女自鳴琴”(オルゴーリェンヌ)といったファンタジー要素が出てきますが、骨格はガチのクローズドサークルもの本格編で、作者お得意のアレ系トリックが連打されます。3つ目の密室殺人のトリックにちょっと疑問点があるものの、「黒死館」や「本陣」を連想させる趣向はなかなか面白かった。
もう一人の少年検閲官や、ある人物を交えた多重推理・多重解決の末に、明かされる真相はかなり意外性があり、哀切感と余韻が残るラストもいい感じで、傑作と評価したい。

No.2187 5点 このミステリーがすごい!2015年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 2014/12/12 18:57
毎年恒例の「このミス」を購読。例年とはちがって今年は真面目に各項目毎にコメントしようかなと思いますw

まずはランキング。国内1位は昨年に続きノンシリーズ短編集で、他誌と合わせて3冠となった。あとひとつ、「本ミス」か裏ドラ(本格ミステリー・ワールドとか)が乗っていれば文字どうり”満願”だったのに、惜しいw 
あとは連城三紀彦の2冊トップ10入りや、従来「このミス」と相性が悪かった乱歩賞作品の上位ランクインが目を引いた。
海外1位はアレw ですが、版元による新しいキャッチコピー”海外ミステリ・ランキング完全制覇、史上初の6冠達成!”は、誤解をあたえそうな内容で思わず苦笑してしまった。原書房が怒りそう。
内外とも上位陣は他誌のランキングと似ており、このミスの独自性が全く見えないのは昨年と同様です。

今年の目玉企画は、”国内短編ミステリー・オールタイム・ベスト10”投票ですが、同様の企画が半年前に個人Twitter上で実施されており、二番煎じといわれても仕方がない。しかもTwitter投票のほうが投票人数など遥かに規模が大きく、ベスト100まで作品に関するコメントが付く充実ぶりだったので、比べるとどうしても見劣りがする。

次に”私の隠し玉”コーナー。過去「このミス」にランクインした作家を対象としているらしいが、興味を持てる作家はごくわずかしかいないので読む気にならない。最近ヒット曲がないのに昔の持ち歌で登場する一昔前の紅白歌合戦を連想させるw

さて、もはや唯一の楽しみは”我が社の隠し玉”コーナー。
個人的注目作品は〈クラシック部門〉では、まずパトQの本邦初訳2作品。ダルース夫妻シリーズの最後の未訳作「死への疾走(仮)」(論創社)もさることながら、ジョナサン・スタッジ名義のウェストレイク医師シリーズ第1作(原書房)が楽しみ。
クリスチアナ・ブランド「猫とねずみ」の続編(東京創元社)は、前作で端役だったチャッキー警部による本格的謎解きモノらしい。
ロジャー・スカーレットは、「白魔」(バック・ベイの殺人)の完訳版(論創社)で、これで5作全部邦訳が揃う。
あと、DMディヴァインの初訳作品、キールグッド&マーヴェル「放送局の殺人(仮)」なども期待したい。

一方〈現代作家部門〉では、巨匠カーの孫娘シェリー・ディクスン・カーのデビュー作(扶桑社)が遂に邦訳される。タイムスリップ&切り裂きジャックを扱ったヴィクトリア朝ミステリらしいが、出来栄えはともかく話題になるのは間違いないだろう。
今年の「このミス」に上位ランクインした「その女アレックス」(ヴェルーヴェン警部シリーズ)と「もう年はとれない」のシリーズ作品が早くも出るのも嬉しい。そのほか、コナリー、ディーヴァーの常連組に、トム・ロブ・スミスの新作も楽しみだ。

No.2186 7点 その女アレックス- ピエール・ルメートル 2014/12/10 22:59
非常勤の看護師アレックスは、パリ市内の路上である男に拉致され、倉庫の天井から吊るされた檻の中という過酷な状態で監禁される。一方、カミール・ヴェルーヴェン警部ら捜査班は、目撃者の通報を受け必死の捜索を行うも、所在はおろか被害者女性の身元さえ掴めなかった----------。

今年の主要ミステリ・ランキング全て1位、史上初の4冠を達成した話題のフランス・ミステリ。ですが、個人的には4冠よりも「本ミス」にもランクインしたことが驚きです。本書は、本格ミステリ読みにはあまり好まれないと思われるタイプの、残虐なシーンや重い題材を含んだクライム・ノヴェル+警察小説なのですから。
”あなたの予想はすべて裏切られる!”とキャッチコピーに謳うように、あらすじ紹介の監禁事件はほんの発端で、第2部、第3部と移る度に物語の様相が180度変転、読者の先入観を利用したサプライズ展開が本書の最大の読ませどころです。
また、人称代名詞の「彼女」をまったく使用せず、全て「アレックスは~」「アレックスの~」とした文章も特徴的で、(作者の正確な意図は分からないが)何度も変転するヒロイン像に対する感情を、読む者に強く惹きつけ続けさせることに成功していると思う。

No.2185 6点 六花の勇者 5- 山形石雄 2014/12/08 20:44
〈運命〉の神殿に辿り着いたアドレットたちは、そこで”勇者の紋章”の創造主”一輪の聖者”に出合う。そして、凶魔の統率者テグネウが仕掛けた〈黒の徒花〉の内容を知り、対策を議論する矢先に、フレミーが衝撃的なひと言を放つ---------。

選ばれし6人の勇者が魔神と凶魔たちに戦いを挑む冒険ファンタジー、シリーズの第5弾。
神殿の迷宮内を舞台にして、〈黒の徒花〉というテグネウが放った一手により勇者たちが疑心暗鬼に陥り仲間が分裂する事態となる本編。ストーリーそのものは動きに乏しく、同じところをグルグル回っている印象を受けますが、物語の終盤で、遂にシリーズを通した謎の核心、「7人目」の正体が明らかになる。
これまでの流れだと、いったいどのように収拾をつけるのか全く想像がつかなかったのだけど、なるほど!これは考えましたね。〈黒の徒花〉というファクターが加わってからストーリーが混沌としてきた感がありましたが、ようやくスッキリしましたw
エピローグの描写から、次回はハンスとチャモを主軸とした物語になるのだろうか。

No.2184 7点 闇に香る嘘- 下村敦史 2014/12/06 23:19
人工透析を受けている孫娘のために、「私」村上和久は中国残留孤児だった兄・竜彦に腎臓移植のドナー検査を依頼するも、何故か拒絶される。和久は”兄”が血縁のない偽者ではないかと疑い、真相を突き止めようとするが---------。

第60回江戸川乱歩賞受賞作品。各選考委員絶賛で、今週の週刊文春ミステリーベスト10総括でも、千街晶之氏が「乱歩賞六十年の歴史に残るであろう傑作」と最上級の評価をしていたので期待して読んだ。
「私」は、戦時下満州の劣悪環境が原因で41歳のときに失明している。つまり、盲目の主人公による一人称視点という困難な設定に挑戦している点が素晴らしい。
当然ながら情景描写はなく、触覚、聴覚、臭覚で得た情報だけで謎解きが展開されるのだけど、この設定がミステリの仕掛けの部分に巧く活かされ、終盤の驚愕の反転図につながっています。中盤までは、戦時中の満洲でのエピソードや視覚障碍者の実情が事細かく語られ”じれったい”展開ですが、それらのなかに張られた伏線が最後にきれいに回収され、まさに人間ドラマと謎解きが見事に融合していると思います。
なおネットの感想などで、ロバート・ゴダードの「闇に浮かぶ絵」からのパクリ疑惑を見受けますが、”正統を名乗る二人”の真贋テーマは昔からある題材(=たとえば、カーの「曲がった蝶番」)ですし、プロットも作風も全く異なっていると思います。

No.2183 5点 フライプレイ! 監棺館殺人事件- 霞流一 2014/12/04 21:59
売れないミステリ作家の神岡と担当編集者の里子は、別荘を訪ずれたマリーを誤って殺してしまう。いっそのこと、この平凡すぎる殺人を本格ミステリのガシェットで派手に飾って小説にしようと企てるが--------。

「探偵スルース」+「熱海殺人事件」とあるように、一幕モノの推理劇を思わせる構成になっている。
乱歩や横溝、ポーなどの古典探偵小説の見立てと密室殺人を巡って、4人の登場人物が推理を披露し、ロンド形式で犯人を指摘するなど、次から次へと事件の様相が反転していく展開が面白い。真相も結構シニカルです。
しかしながら、本書には根本的な疑問点があるように思える。
推理劇は”観客”がいて初めて成立するはずなのに、”役者”しかいないシーンでも演技をしているとしか思えない場面が散見されるのはどういうことだろう? これは読者向けのミスリードとしか考えられず、結果的にアンフェアな描写になっていると思う。

No.2182 6点 人間の顔は食べづらい- 白井智之 2014/12/02 18:35
人間のクローンを食肉とするため飼育する近未来の日本。クローン生産工場で働く柴田和志は、顧客の国会議員あてに発送した首なしクローン肉のケースの中に切断したはずの生首が混入してたことから、脅迫事件の重要容疑者となるが、それはあくまでも壮大な悪夢の始まりに過ぎなかった----------。

かなりのキワモノ設定でグロい描写もあることから、完全に読者を選ぶタイプの怪作です(Amazonのレビュー評価が総じて低いのも分からなくありません)。
しかし、本格ミステリとして見ると(粗いところもありますが)非常によく練られており、その筋の方々が投票するほうの年末ランキングでは、上位に入るのは間違いないように思われます。
本格ミステリとして評価したい点を挙げるとすれば、中盤の生首の混入方法を巡る容疑者同士の推理合戦や、終盤のクイーンばりに犯人を特定するロジック展開、意外な”名探偵”登場からのどんでん返し等々で、さらに、この設定であれば真っ先に考慮すべきメイントリックにもヤラレタ感がありました。
ただ、この人物はいったい何のために登場させたのだろう?といった細かい疑問点もありましたが。
どちらかといえば、横溝正史賞ではなくメフィスト賞に応募すべきだったかもしれないと思えた作品。

No.2181 6点 化石少女- 麻耶雄嵩 2014/11/30 18:55
京都にある名門私立高校で不可解な殺人事件が次から次へと発生する。古生物部の部長・神舞まりあは、たったひとりの後輩部員・桑島彰に、どの事件も生徒会の幹部6人の仕業だと自信満々で推理を披露するのだが---------。

テストのたびに赤点をもらい成績は学年の最下層という化石オタクの女子高生・神舞まりあを”探偵役”に据えた連作ミステリ。
”全知全能の神様”鈴木太郎シリーズとは対照的に、各話とも”お守り役”の彰に推理を即座に却下されてしまうという構成がユニークです。そのため読者もはっきりした真相を知らされずに読み進めることになるのですが、連作のラストで作者らしい黒いオチが待っていました。(やや小粒感がありますが)
まりあの”赤点推理”を個別の作品で見ていくと、化石採掘のため出かけた地方で不可解な事件に遭遇する第4話「自動車墓場」のバカミス的トリックと、体育用具室の密室殺人を扱った最終話「赤と黒」が面白い。
たまたま今月は、森川智喜、円居挽、麻耶雄嵩と京大推理研出身のミステリ作家を3作読みましたが、示し合せたようにどれもラノベ風の連作短編集になっていてテイストも似てましたね。

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