皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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kanamoriさん |
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平均点: 5.89点 | 書評数: 2426件 |
No.2166 | 6点 | 偽りの殺意- 中町信 | 2014/10/31 23:27 |
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光文社文庫オリジナルの本格ミステリ作品集、第2弾。前作とは趣が若干違って、アリバイ崩しがメイン、それも時刻表トリックを主軸にした最初期の中短編が3編収録されている。
どの作品も教科書出版会社がからむという設定が似ており、内容も地味ですが、しっかりと構築されたプロットが評価できる。 刑事たちが靴底をすり減らして聞き込み捜査を繰返す展開は、現在ではあまり人気がないのではと思いますが、作者が強く影響を受けたという鮎川哲也の鬼貫警部シリーズを髣髴とさせる作風が個人的には非常に好ましい。 収録作のなかでは、今回初めて書籍化となった中編の「愛と死の映像」が読み応えのある力作で、これが読めただけで満足。仮説とトライアル&エラーを何度も繰り返し、読者をとことん翻弄するアリバイ崩しの過程にはゾクゾクさせられた。 再読の「偽りの群像」と「急行しろやま」は、トリックが今では新味がないかもしれませんが、後者は鮎哲の某作を思い起こさせる誤導の趣向がうれしい。 |
No.2165 | 6点 | 純喫茶「一服堂」の四季- 東川篤哉 | 2014/10/30 18:53 |
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古都・鎌倉の路地裏でひっそりと営む古民家風の喫茶店「一服堂」。その女性店主は、極度の人見知りながら、常連客が持ち込む4つの事件の謎を抜群の推理力で解いていく---------もし作者が近くにいたら、迷わず跳び膝げりを食らわしてしまいそうな、開き直りのまんまビブリア風設定の連作ミステリ。
とは言っても、中身の方は日常の謎ではなく、十字架に磔にされた死体や、首なし死体、密室のバラバラ死体などが出てくる、猟奇的な殺人ばかりで、”文字どおり”安楽椅子探偵モノのガチ本格で揃えています。 ただしパロディ要素の強いギャグは若干スベリぎみですが。 個別に見ていくと、真相の絵柄がシュールでバカミス風トリックの第2話も面白いですが、やはり最終話「バラバラ死体と密室の冬」が本書の白眉でしょう。連作を通して仕掛けられたある趣向が、密室トリック解明のカギとなるという構成の妙を評価したいと思います。伏線が不足ぎみも、表紙絵やタイトルの「四季」が上手い(あざとい?)ミスディレクションになっています。 |
No.2164 | 7点 | もう年はとれない- ダニエル・フリードマン | 2014/10/28 22:35 |
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戦時中の捕虜収容所でお前さんを虐待した元ナチス将校が、金塊を持ち逃げして今でも生きているかもしれない.........戦友の臨終の床での告白を契機に、87歳の元殺人課刑事「わたし」の周りが騒がしくなり、やがて連続殺人が--------。
元メンフィス警察の”伝説の刑事”で、齢87歳という超・後期高齢者探偵バック・シャッツの初登場作品。 これは主人公のユニークなキャラクターの魅力だけで楽しめる。シャッツの武器は357マグナム拳銃と強烈な皮肉。たびたび飛び出す”喫煙”をネタにしたシニカルなジョークがツボにはまって笑ってしまう。弱点は肉体の衰えとアルツハイマー性認知症に対する恐れw なにせ老齢探偵の先輩LAモースの「オールド・ディック」より10歳も年上ですから。 元ナチス将校と金塊の所在追及に力点が置かれず、別の方向にずれていくプロットは好みが分かれそうですが、アイゼンハワー将軍の戦時エピソードなどの伏線を活かした終盤の逆転展開はお見事です。 老妻のローズや孫の大学生テキーラなど、脇を固めるサブキャラクターもいい味を出しているので、シリーズ2作目も期待したい。 |
No.2163 | 8点 | ずっとあなたが好きでした- 歌野晶午 | 2014/10/26 18:31 |
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「葉桜~」に比肩し得る、歌野晶午の新たな代表作!--------というような、ミステリ系のブログやその筋の方々のTwitterの感想をよく見かけたので、目いっぱいハードルを上げて読みましたw
流行りの言い回しだと、”恋愛小説集に擬態した〇〇ミステリ”で、600ページに近い分量に13編の様々な形の恋愛話が収められています。すっきりした文章なので、長尺のわりには読みやすく、また一気に読んだほうが良いように思います。 内容は、美少女転校生に初恋する小学5年生、年齢を偽りバイトに励む中学生、ラジオの告白番組を利用しようとする高校生、演劇サークルの先輩女性に惑わされる大学生、パリでヌードダンサーと同棲する新米会社員、ネット掲示版で知り合った女性に恋する中堅会社員、集団自殺寸前にメンバーの女性に惚れる中年男、ビラ配りの仕事中に美魔女に魅せられる落ちぶれた初老の男などなど、主人公の年齢はバラバラですが、やはり何歳になっても男は男、どいつもこいつも皆いっしょですねw 純粋な恋愛小説もありますが、ミステリ趣向やオチが施された作品のなかでは、第1話の表題作と、「舞姫」、そして最終話の「散る花、咲く花」の3編がとくに印象に残りました。 |
No.2162 | 6点 | 深き森は悪魔のにおい- キリル・ボンフィリオリ | 2014/10/24 22:05 |
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ジャージー島で妻ジョアンナと暮らす「ぼく」チャーリー・モルデカイの家の近隣で、連続して女性がレイプされる事件が起きる。夫人がともに被害に遭った二人の友人、ジョージとサムとともに、モルデカイは謎の強姦魔探しに乗り出すが--------。
男爵家の次男で怪しげな美術商を営む、”閣下”ことチャーリー・モルデカイを主人公とするシリーズの一冊。 あらすじ紹介だとサイコサスペンス風ですが、モルデカイの語りが猥雑・下品かつブラックなジョークまみれで、終盤まではサスペンス性は全くといっていいほどありません。ジャンルでいうと、パロディ&ユーモア小説であり、グルメと酒の薀蓄が溢れる教養小説でもあり、また悪魔狩りテーマのホラー小説風なところもあり、なんと最後は謎解きミステリになっています。サンリオSF文庫なのにSF要素だけはありませんがw ぶっちゃけ、横道に逸れるパートが多いのが非常に鬱陶しく、どちらかというとトンデモ本なんですが、最終章の急転直下な意外な展開を評価してこの点数にしておきます。 なお、このシリーズはジョニー・デップ主演で映画化され、来春には日本でも公開される予定とのことです。 |
No.2161 | 6点 | 岡田鯱彦探偵小説選 Ⅰ- 岡田鯱彦 | 2014/10/22 20:48 |
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国文学者で、平安朝を背景にした時代ミステリ「薫大将と匂宮」(源氏物語殺人事件)で知られる岡田鯱彦の、昭和20年代に発表された作品集。この1巻目には、長編の「紅い頸巻(マフラー)」、怪盗”鯱先生”ものの連作短編集と、ほかに最初期の短編3編が収録されています。
「紅い頸巻」は、探偵小説作家の「私」が、かつて家庭教師をした元公爵家令嬢・紅子からの不穏な内容の手紙を受け取るところから物語が始まる。本格もの長編としてはトリック中心ではなく、終盤の惨劇が起きるまでの緊迫感や人間ドラマ的な要素を重視した内容となっていて、代表短編の「噴火口上の殺人」と雰囲気が似ている。 「鯱先生物盗り帳」は、怪盗”鯱先生”を主人公にしたユーモア連作で10編から成る、捕物帳ではなく物盗り帳なのですw 収録作のなかでは、第1話の「クレオパトラの眼」が衆人環視状況下の宝石奪取トリックもので、初登場ゆえのトリックが効いている佳作。第2話、第3話と密室殺人などの不可能犯罪ものが続きますが、総じてトリックやアイデアの原理が海外古典からの借用が多い。「光頭連盟」なぞタイトルだけでネタが半分割れているw なかには鯱先生が普通に名探偵で、怪盗というキャラクターがどこかへ行ってしまっているのもありますが、いずれにしても昭和20年代の古い作品ということを念頭に置いて読めば、それなりに面白いです。 第2巻は、より本格パズラー色が強い作品が多く入っているらしい。またそのうち読んでみよう。 |
No.2160 | 6点 | ミンコット荘に死す- レオ・ブルース | 2014/10/20 20:25 |
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キャロラス・ディーンは深夜に、女傑で知られる旧知のレディ・マーガレットから、娘婿のダリルが銃で自殺したという電話を受ける。早速ミンコット荘に駆けつけたキャロラスだったが、いくつかの不可解な点に疑問を抱く。そして二人目の死体が--------。
パブリック・スクールの歴史教師で素人探偵のキャロラス・ディーンが登場するシリーズ3作目。 事件当時のミンコット荘には、女主人マーガレットとダリルの2人住いだが、別に暮らす息子と娘、使用人たち、村の近隣住民など、かなり多くの関係者が登場する。でも、女中のホッピーをはじめ端役の一人ひとりが個性豊かで、本来間延びしそうな聴き取り調査のパートも退屈はしません。悪ガキのルーパートらレギュラー陣との絡みもシリーズを読み進めるにつれ楽しくなってきます。とはいっても、さすがにレッドヘリングのための人物が多すぎる気がしますが。 先例がある大胆な仕掛けに関しては、(キャロラス同様に直感で)わりと早い段階で真相に気付いてしまった。そのために、よけいに演出過剰なレッドヘリングが気になったのかもしれません。 (なお、本サイト常連のかたは解説にも要注目です) |
No.2159 | 6点 | 祟り- トニイ・ヒラーマン | 2014/10/18 15:04 |
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人類学者バーゲン・マキーは、旧知のリープホーン警部補から、魔法使い”ナバホ狼”の目撃情報を知らされ、同僚の教授とインディアン保留地に赴く。渓谷地帯でキャンプを張るマキー教授だったが、そこで怪しげな男たちの襲撃をうける--------。
インディアン保留地のナヴァホ族警察リープホーン警部補が登場するシリーズの1作目で、ヒラーマンのデビュー作。ですが、本作ではリープホーンは狂言回し的な脇役で、人類学者マキーを主人公とする冒険スリラー的な内容になっている。 マキーと、彼と同行することになった若い女性エレンが、閉ざされた渓谷や洞窟で男たちと対峙するサバイバル戦のような山岳冒険行がスリリングで、アンドリュウ・ガーヴやディック・フランシスの作品を思わせるところがありました。 (ネタバレぎみですが)当然リープホーンが最後に彼らと合流するわけですが、「危機一髪の瞬間に駆けつけてくるのは昔から騎兵隊なんだ。インディアンじゃないぜ」というマキーの台詞がちょっと粋ですねw ところで、本書をジュニア向けにリライトした本のタイトルが「名探偵はインディアン」なんですが、これだと読む子供が、西部劇に出てくる姿のインディアンを想像しそうで可笑しい。 |
No.2158 | 6点 | 悪意の糸- マーガレット・ミラー | 2014/10/16 20:22 |
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医師シャーロットの診療所に不義の子を妊娠したという若い女ヴァイオレットがやってきた。堕胎の依頼を断ったシャーロットだったが、混乱した様子が気になって、その夜アパートを訪ねるも彼女は行方不明で、後に水死体で発見される--------。
マーガレット・ミラー久々の本邦初訳作品。 主人公の女医シャーロットは自立心が強い聡明な女性ながら、弁護士のルイスと不倫の関係にあり、その妻グウェンは心気症ぎみでシャーロットの患者という人間関係が徐々に明らかになる。 登場人物が少なめなので、なんとなく先の展開が予想がつき、事件の隠された構図も9割方読めてしまう。彼女の探偵行に絡んでくるのが陽性の刑事ということもあって、途中まではライトな心理サスペンスという感じで、「鉄の門」や「狙った獣」などの傑作群と比べると軽量級という感は否めない。 しかし、その思いは終章で一変、ミラー節が炸裂する。犯人の日常的な会話が徐々に歪んでいき、怪物領域に入った人物の隠された貌が剥き出しになる終局のシーンは圧巻のひとこと。 この真相を読むと、やはり60年代のロス・マクはミラーの影響を受けていたに違いないという思いを強くした。 |
No.2157 | 5点 | 謎の野獣事件- 西東登 | 2014/10/14 20:13 |
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動物業者の松崎のもとにアメリカ人船員が密輸入した灰色クマの子供のような動物が持ち込まれる。ところが、山梨の動物園に移送途中に事故に巻き込まれ、「彼」は奥多摩の山中に逃げ込んでしまう-------。
”動物推理シリーズ”と銘打たれた長編ミステリ。だいぶ前に読んでそこそこ面白かった覚えがあったのだけど、中盤過ぎまで読んでもストーリーに覚えがない、ラストに明らかになる”野獣の正体”も思っていたものと違う。おかしいなと思い調べてみると、なんと似たタイトルの「幻の獣事件」と混同しておりましたw 山中に逃げた夜行性の肉食獣「彼」の壮絶な生きざまを描いたパートはドラマチックで、非常に読み応えがあります。しかし、その部分は本書のサブストーリーで、本筋は、恋人のエリート会社員に裏切られたタイピスト・夏子の復讐の物語ですが、この倒叙形式で語られる人間ドラマ部分がかなり陳腐な内容なのが残念。 野獣のパートと夏子がどう繋がっていくのかも予測できてしまうので、ミステリとしてはあまり高い評価はできませんでした。 |
No.2156 | 6点 | 黒いアリス- トム・デミジョン | 2014/10/12 22:39 |
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聡明で天真爛漫な11才の少女アリスは、祖父から遺贈された信託財産に目を付けたグループに誘拐され、南部ヴァージニア州の売春宿に軟禁される。おまけに、メラニン色素を増やす薬によって黒人に変えられてしまう--------。
作者トム・デミジョンは、SF作家のトマス・M・ディッシュと、(「見えないグリーン」などのミステリを書く前の)ジョン・スラデックの合作ペンネーム。 「わたしはユーカイされるところなんだ!とってもスリル!」という、発端のアリスの呑気なつぶやきからは、ルイス・キャロル風の軽い風刺小説か、クライム・コメディを思わせるのですが、実際は想像を超えるタブーまみれの過激な展開の連続で、この内容でよく公民権運動で揺れる60年代に出版できたな、というのが率直な感想です。 人種差別的表現や過激な暴力描写に加えて、アリスの信託財産を奪うために実の父親が精神的虐待を加えるエピソードなど、かなりエグイ。長らく絶版で「復刊はまずありえない」というコメントをよく目にしたけれども、確かに肯ける。 |
No.2155 | 6点 | ザ・バット 神話の殺人- ジョー・ネスボ | 2014/10/10 21:00 |
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オスロ警察のハリー・ホーレ刑事は、シドニーでノルウェー人女性が絞殺された事件の捜査協力のため、遠路オーストラリアにやってきた。現地捜査班の刑事で先住民の血を継ぐアンドリューとコンビを組むことになったハリー刑事は、やがて過去のブロンド女性連続絞殺事件との関連に気付く-------。
本書は「スノーマン」のハリー・ホーレ警部の若い頃の事件を扱ったシリーズの第1作で、ネスボのデビュー作でもある。 南半球の異郷の地が舞台ということもあり、北欧ミステリの雰囲気はない。 途中まではシドニー警察の刑事との相棒小説という様相で、異文化・現地風俗のガイダンス風。相棒アンドリュー刑事による先住民の伝承・神話の説明も挿入されつつ、淡々と捜査状況が描かれているのだけど、中盤過ぎに一気にストーリーが転調し、それまでのエピソードが全て伏線だったことに気付かされる。この構成はなかなか巧みです。 ただ、ハリー刑事がアルコール依存症になった原因である”過去”が語られることで、物語や人物造形に深みを与えていて、デビュー作としては完成度も高いとは思うものの、謎解きサスペンス物としては後半の展開が(衝撃的ではあるけれど)あまり新味を感じなかった。 |
No.2154 | 6点 | 俳優強盗と嘘つき娘- リチャード・スターク | 2014/10/08 22:11 |
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強盗仲間のパーカーと組んだ大仕事でドジを踏み、背中に銃弾を受けたグロフィールドは、メキシコシティのホテルで療養していた。そこへ、彼の部屋に窓から若い娘が忍び込んで来くるや、続いて拳銃を持った三人組が乗り込んできた---------。
悪党パーカー・シリーズの名脇役・アラン・グロフィールドを主役にしたスピン・オフ作品、俳優強盗シリーズの1作目。 本書は「悪党パーカー/カジノ島壊滅作戦」の後日談となっており、その「カジノ島」のラストがそのまま今作のオープニングにつながっている。といっても2つのシリーズはかなり雰囲気が異なり、陰性のパーカーによるノワールなケイパーものの犯罪小説に対して、こちらは陽性で軽妙な巻き込まれ型冒険スリラーといえるでしょう。毎回女性との絡みがあり、グロフィールドはアルセーヌ・ルパンの現代版といったところ。 今回は、南米某国の独裁者暗殺計画に巻き込まれるというプロットで、監禁からの脱出や銃撃・活劇シーンがスリリングではあるものの、テーマの割にはコンパクトにまとまりすぎているのが少々物足りない感じがする。そのスマートさがウェストレイクのスタイルでもあるのですが。 |
No.2153 | 5点 | ガラスの檻- 飛鳥高 | 2014/10/06 22:09 |
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独自のノウハウで成長を続ける中堅サッシ会社の専務・岩井は、大手企業との合併話を進めていたが、その独自技術の特許を持つ取締役工場長の安原を取り込むため、ヤクザ者を使ってある謀略を図る。しかしながら、その男が撲殺死体で発見され、続いて第2の殺人が------。
”産業推理”と銘打たれた長編ミステリ。 作者の飛鳥高は大手ゼネコンの技術部門に勤務する兼業作家だったので、企業合併を背景にした重役や下請会社社長、組合幹部などの動向描写は堂に入っており、これまでの作品と比べて筆の運びも滑らかな印象を受けた。 ただ、謎解きミステリとしてみると特に取り上げるほどのトリックが施されておらず、確執というか人間関係の絡みのみで処理されているだけなのが辛いところ。いちおうフーダニットの興味は終盤まで持たせているものの、社会派風の動機を含めて真相は平凡なものと言わざるを得ません。 |
No.2152 | 6点 | 罪なき者を捜せ- ロイ・ヴィカーズ | 2014/10/04 23:29 |
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”迷宮課”の捜査員が登場しないノン・シリーズの5編が収められた中短編集。倒叙形式となっているものは1編だけですが、事件関係者の心理状況を細心かつ重厚に描く作風は”迷宮課”シリーズとあまり変わらない。フーダニットにしろ倒叙型であっても、いずれも犯人のささいな失策や偶然の手掛かりで決着するところも”迷宮課”と共通している。
冒頭の「二重像」は、EQMM短編コンテストの第一席入選作品。ヴィカーズの代表作のひとつで、クイーン編のアンソロジー「黄金の13/現代編」にも収録されている。いわゆる”ダブル”ネタということで、この数年前に出版されたヘレン・マクロイ某作を連想させるものの、ネタの使い方はある意味真逆になっている。予想できる真相ながら緊張感を最後まで途切れさせないところはさすが。 表題作の中編「罪なき者を捜せ」は、容疑者三人の中から無実の一人を特定させるというユニークな設定は買うものの、ややアイデア倒れな感じを受ける。 「女神の台座」は、編中唯一の倒叙ミステリで、プロット的には男女の三角関係に起因する殺人ということで新味がないですが、人間ドラマの部分では最も印象に残った作品。やはりヴィカーズは倒叙形式があっているのかもしれない。 |
No.2151 | 4点 | 大癋見警部の事件簿- 深水黎一郎 | 2014/10/01 20:18 |
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「エコール・ド・パリ殺人事件」以降の芸術探偵シリーズでは脇役だった大べし見警部と、捜査一課の面々を探偵役にしたバカミス連作短編集。
ドーヴァー警部を思わせるやる気のない大べし見警部と、部下の刑事たちとのドタバタが楽しいが、ミステリ的には使われているトリックやアイデアがくだらなさすぎる。普通のミステリでは使えないネタを、この際だから投下しておこう、という感じかな。まあこの短編集は、気軽に読めばいいのかもしれませんが。 ノックスの十戒、密室、叙述トリック、ダイイング・メッセージ、レッドヘリング、後期クイーン問題、見立て殺人など、本格ミステリのガシェットやお約束をネタにしているところは「名探偵の掟」を連想させますが、東野作品と違って、作者の本格ミステリへの想いやメッセージのようなものはあまり覗えない。ひたすらハチャメチャに徹しているけれども、ユーモア・センスも「言霊たちの夜」の作者とは思えない低調ぶりでした。 ただ、「ちなみに瞬一郎本人は、このシリーズへの登場を頑なに拒んでいる.....」という一文は笑えた。 |
No.2150 | 6点 | アリントン邸の怪事件- マイケル・イネス | 2014/09/29 23:31 |
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警視総監の職を退き、田舎で暮らすアプルビイは、ご近所の元科学者・アリントンの邸の夕食に招かれた。その深夜、由緒ある屋敷や城跡を夜間照明で飾る電気仕掛けの余興に立ち会ったとき、管制室の片隅に変死体を見つける-------。
物語の比較的早い段階で死体の発見があるものの、その感電死が事故か事件かが判然としないまま展開します。アプルビイと妻ジュディスの諧謔精神がにじみ出たユーモラスなやり取りが救いですが、アリントン・パークと呼ばれる敷地を舞台に、教区牧師をはじめとする村人が集う慈善目的の催しの場面描写が長く続くのが冗長と感じるかもしれません。それは第2の死体が見つかっても同様です。しかし、そういったモヤモヤ感は終章近くで一掃されます。 この仕掛けは確かにすごいです。nukkamさんが書かれているように正に”チェスタトン的”で、個人的には「知恵」のアレと「不信」のアレの合わせ技という感じを受けました。トリックの実現可能性についてもチェスタトン的ではありますがw コンパクトな分量でプロットも比較的すっきりしているので、本書はイネスの文学趣味や薀蓄が苦手な人でも手を出しやすいんじゃないかな。 |
No.2149 | 5点 | 侵入者 自称小説家- 折原一 | 2014/09/28 11:29 |
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プロ作家になれない”自称小説家”の塚田は、ひょんなことから近所の柿谷家で起きた一家4人殺害事件の真相究明を遺族から依頼される。やがて、以前にルポを書いた板橋区の資産家殺害事件と奇妙な共通点があることに気付き、あるアイデアを実行することに-------。
三面記事の事件を元ネタにした「〇〇者」シリーズの最新作。今回は世田谷一家殺害事件をヒントにしている。 自称小説家の塚田視点の語りを中心に、過去の板橋区資産家夫婦殺人事件のノンフィクションのパート、今回の事件を小説化したパートなど、例によって多重構造のプロットが使用されていますが、全体の3分の2を占める第1部は、同じ情報の繰り返しが目立ち冗長に感じた。もう少しスピーディな展開が可能だったのではと思う。 ”遺族をキャストにした再現劇”の第2部も、現実と劇の脚本の内容が交互に描写される構成になっていますが、それが意図したサスペンスを醸成しているかは微妙です。作者の手筋を知っていると、この真相ではそれほどサプライズを感じないのでは。 |
No.2148 | 6点 | 湖畔の殺人- フランセス&リチャード・ロックリッジ | 2014/09/24 22:11 |
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ウェイガンド警部は、旧知のノース夫妻に招かれ、ニューヨーク郊外にある湖畔の保養地に休暇を過ごしにやってきた。ところが、何組かの滞在者を交えた夜のパーティが終わったあと、湖畔の茂みの中に若い女性の殺害死体を発見する。さらに翌朝には、べつの女性が黒焦げの焼死体で見つかり--------。
作者のロックリッジ夫妻をモデルにしたともいわれる素人探偵コンビ、ノース夫妻シリーズの第2長編。 ノース夫妻は、元々はコメディ・タッチのホームドラマの主人公として創造された経歴(?)なので、もっと軽妙なユーモア・ミステリかと思っていましたが、意外や意外、二人の女性の連続殺人を扱った本格的なフーダニット・ミステリでした。終章近くには”読者への挑戦”じみた作者のコメントまで出てきます。また、ウェイガンド警部がニューヨークに帰り、動機を持つ滞在者たちの裏付け捜査をする中盤以降の展開は警察小説としての味わいもあり、終盤のカーチェイスによる盛り上げ方も上手く(50年以上前の出版で訳文が古いのが難点ながら)、まずまずの出来で楽しめました。 なお、のちに別シリーズの主人公となる州警察のヘイムリッチ警部(本書中の表記は「ハイムリッヒ警部」)も登場しますが、終盤は目立たない存在になっています。また、ノース夫妻もほとんど探偵活動をしておらず、本書の主役はウェイガンド警部ですね。 |
No.2147 | 5点 | どこの家にも怖いものはいる- 三津田信三 | 2014/09/22 21:42 |
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ホラーミステリ作家の「僕」三津田は、某出版社の若い編集者・三間坂と知り合う。以前から三津田の小説のファンだったという三間坂と仕事を離れて会ううちに、ある怪異譚が綴られた2冊のテキストを提供され、それらに共通点があることに気付く-------。
初期の”作家三部作”と同じように作家・三津田信三を主人公としたホラーミステリですが、三津田が直接怪異現象に巻き込まれるといった内容ではなく、日記や手記、私家本などの形式で語られる5つの怪異譚を繫ぐ謎を解明する構成となっていて、テイストは「のぞきめ」の系統に近い。 一種のミッシングリンクものと言えなくもありませんが(繋がりにちょっとした意外性があるものの)、さほどその謎解きに力点が置かれているわけではないのが少々物足りないです。 怪異譚も第三者の体験話という構成なので、初期作品のような恐怖の臨場感はさほど味わえませんでした。 |