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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2186 7点 その女アレックス- ピエール・ルメートル 2014/12/10 22:59
非常勤の看護師アレックスは、パリ市内の路上である男に拉致され、倉庫の天井から吊るされた檻の中という過酷な状態で監禁される。一方、カミール・ヴェルーヴェン警部ら捜査班は、目撃者の通報を受け必死の捜索を行うも、所在はおろか被害者女性の身元さえ掴めなかった----------。

今年の主要ミステリ・ランキング全て1位、史上初の4冠を達成した話題のフランス・ミステリ。ですが、個人的には4冠よりも「本ミス」にもランクインしたことが驚きです。本書は、本格ミステリ読みにはあまり好まれないと思われるタイプの、残虐なシーンや重い題材を含んだクライム・ノヴェル+警察小説なのですから。
”あなたの予想はすべて裏切られる!”とキャッチコピーに謳うように、あらすじ紹介の監禁事件はほんの発端で、第2部、第3部と移る度に物語の様相が180度変転、読者の先入観を利用したサプライズ展開が本書の最大の読ませどころです。
また、人称代名詞の「彼女」をまったく使用せず、全て「アレックスは~」「アレックスの~」とした文章も特徴的で、(作者の正確な意図は分からないが)何度も変転するヒロイン像に対する感情を、読む者に強く惹きつけ続けさせることに成功していると思う。

No.2185 6点 六花の勇者 5- 山形石雄 2014/12/08 20:44
〈運命〉の神殿に辿り着いたアドレットたちは、そこで”勇者の紋章”の創造主”一輪の聖者”に出合う。そして、凶魔の統率者テグネウが仕掛けた〈黒の徒花〉の内容を知り、対策を議論する矢先に、フレミーが衝撃的なひと言を放つ---------。

選ばれし6人の勇者が魔神と凶魔たちに戦いを挑む冒険ファンタジー、シリーズの第5弾。
神殿の迷宮内を舞台にして、〈黒の徒花〉というテグネウが放った一手により勇者たちが疑心暗鬼に陥り仲間が分裂する事態となる本編。ストーリーそのものは動きに乏しく、同じところをグルグル回っている印象を受けますが、物語の終盤で、遂にシリーズを通した謎の核心、「7人目」の正体が明らかになる。
これまでの流れだと、いったいどのように収拾をつけるのか全く想像がつかなかったのだけど、なるほど!これは考えましたね。〈黒の徒花〉というファクターが加わってからストーリーが混沌としてきた感がありましたが、ようやくスッキリしましたw
エピローグの描写から、次回はハンスとチャモを主軸とした物語になるのだろうか。

No.2184 7点 闇に香る嘘- 下村敦史 2014/12/06 23:19
人工透析を受けている孫娘のために、「私」村上和久は中国残留孤児だった兄・竜彦に腎臓移植のドナー検査を依頼するも、何故か拒絶される。和久は”兄”が血縁のない偽者ではないかと疑い、真相を突き止めようとするが---------。

第60回江戸川乱歩賞受賞作品。各選考委員絶賛で、今週の週刊文春ミステリーベスト10総括でも、千街晶之氏が「乱歩賞六十年の歴史に残るであろう傑作」と最上級の評価をしていたので期待して読んだ。
「私」は、戦時下満州の劣悪環境が原因で41歳のときに失明している。つまり、盲目の主人公による一人称視点という困難な設定に挑戦している点が素晴らしい。
当然ながら情景描写はなく、触覚、聴覚、臭覚で得た情報だけで謎解きが展開されるのだけど、この設定がミステリの仕掛けの部分に巧く活かされ、終盤の驚愕の反転図につながっています。中盤までは、戦時中の満洲でのエピソードや視覚障碍者の実情が事細かく語られ”じれったい”展開ですが、それらのなかに張られた伏線が最後にきれいに回収され、まさに人間ドラマと謎解きが見事に融合していると思います。
なおネットの感想などで、ロバート・ゴダードの「闇に浮かぶ絵」からのパクリ疑惑を見受けますが、”正統を名乗る二人”の真贋テーマは昔からある題材(=たとえば、カーの「曲がった蝶番」)ですし、プロットも作風も全く異なっていると思います。

No.2183 5点 フライプレイ! 監棺館殺人事件- 霞流一 2014/12/04 21:59
売れないミステリ作家の神岡と担当編集者の里子は、別荘を訪ずれたマリーを誤って殺してしまう。いっそのこと、この平凡すぎる殺人を本格ミステリのガシェットで派手に飾って小説にしようと企てるが--------。

「探偵スルース」+「熱海殺人事件」とあるように、一幕モノの推理劇を思わせる構成になっている。
乱歩や横溝、ポーなどの古典探偵小説の見立てと密室殺人を巡って、4人の登場人物が推理を披露し、ロンド形式で犯人を指摘するなど、次から次へと事件の様相が反転していく展開が面白い。真相も結構シニカルです。
しかしながら、本書には根本的な疑問点があるように思える。
推理劇は”観客”がいて初めて成立するはずなのに、”役者”しかいないシーンでも演技をしているとしか思えない場面が散見されるのはどういうことだろう? これは読者向けのミスリードとしか考えられず、結果的にアンフェアな描写になっていると思う。

No.2182 6点 人間の顔は食べづらい- 白井智之 2014/12/02 18:35
人間のクローンを食肉とするため飼育する近未来の日本。クローン生産工場で働く柴田和志は、顧客の国会議員あてに発送した首なしクローン肉のケースの中に切断したはずの生首が混入してたことから、脅迫事件の重要容疑者となるが、それはあくまでも壮大な悪夢の始まりに過ぎなかった----------。

かなりのキワモノ設定でグロい描写もあることから、完全に読者を選ぶタイプの怪作です(Amazonのレビュー評価が総じて低いのも分からなくありません)。
しかし、本格ミステリとして見ると(粗いところもありますが)非常によく練られており、その筋の方々が投票するほうの年末ランキングでは、上位に入るのは間違いないように思われます。
本格ミステリとして評価したい点を挙げるとすれば、中盤の生首の混入方法を巡る容疑者同士の推理合戦や、終盤のクイーンばりに犯人を特定するロジック展開、意外な”名探偵”登場からのどんでん返し等々で、さらに、この設定であれば真っ先に考慮すべきメイントリックにもヤラレタ感がありました。
ただ、この人物はいったい何のために登場させたのだろう?といった細かい疑問点もありましたが。
どちらかといえば、横溝正史賞ではなくメフィスト賞に応募すべきだったかもしれないと思えた作品。

No.2181 6点 化石少女- 麻耶雄嵩 2014/11/30 18:55
京都にある名門私立高校で不可解な殺人事件が次から次へと発生する。古生物部の部長・神舞まりあは、たったひとりの後輩部員・桑島彰に、どの事件も生徒会の幹部6人の仕業だと自信満々で推理を披露するのだが---------。

テストのたびに赤点をもらい成績は学年の最下層という化石オタクの女子高生・神舞まりあを”探偵役”に据えた連作ミステリ。
”全知全能の神様”鈴木太郎シリーズとは対照的に、各話とも”お守り役”の彰に推理を即座に却下されてしまうという構成がユニークです。そのため読者もはっきりした真相を知らされずに読み進めることになるのですが、連作のラストで作者らしい黒いオチが待っていました。(やや小粒感がありますが)
まりあの”赤点推理”を個別の作品で見ていくと、化石採掘のため出かけた地方で不可解な事件に遭遇する第4話「自動車墓場」のバカミス的トリックと、体育用具室の密室殺人を扱った最終話「赤と黒」が面白い。
たまたま今月は、森川智喜、円居挽、麻耶雄嵩と京大推理研出身のミステリ作家を3作読みましたが、示し合せたようにどれもラノベ風の連作短編集になっていてテイストも似てましたね。

No.2180 6点 黒い瞳のブロンド- ベンジャミン・ブラック 2014/11/28 21:45
ある夏の日、私の探偵事務所を訪れた優美な女は、髪はブロンドだが瞳が黒色という珍しい取り合わせだった。その女クレアから、突然姿を消したかつての愛人を捜してほしいと依頼されるが、私の行く先々で死体が転がり、最後に辿り着いたところには意外な人物の姿があった---------。

あの「長いお別れ(ロング・グッドバイ)」の公認続編を標榜するフィリップ・マーロウの復活譚。チャンドラーが遺した創作ノートにタイトルだけ記された”The Black-eyed Blonde”を元に、ブッカー賞作家ジョン・バンヴィルが別名義で書き下ろした作品です。
信奉者が多い名探偵のパスティーシュを書くと、とかく「ポアロはそんな言い回しをしない」とか「マーロウはもっとストイック」といったクレームがついて回るのは世の常で、これはある程度やむを得ないところでしょう。たしかに、本書のマーロウは度々リンダ・ローリングへの想いが出てくるなど、女性に対するストイックさに欠けるようです。
それでも、プロットは”ネオではない”古典ハードボイルド小説の定型を忠実に再現するなど、割と健闘している方だと思います。ただ、ラストの処理に関しては、ある意味「長いお別れ」をも貶めているといったような否定的な感想が多いのではと思いますが。
なお、本書にはテリー・レノックスの行末などの”前作”のネタバレに触れている箇所があり、またラストの衝撃を味わうためにも「長いお別れ」を先に読んでおくことが必須です。

No.2179 5点 奥秩父狐火殺人事件- 梶龍雄 2014/11/26 21:04
次作映画の取材のため奥秩父の小村を訪れた五城は、山間で何者かに狙撃された江森道代を助ける。狐憑きの家系といわれる江森家と関わるうちに、26年前に道代の母親に起きた悪魔的事件を知り、やがて江森家の人々を標的とする連続殺人事件に対峙することに-------。

若手の映画監督・五城賀津雄を探偵役とするシリーズの一冊。
狐憑き信仰が蔓延る閉鎖的な寒村、過去の残虐な狐落し儀式の因縁、隠された血縁関係などなど、伝奇的舞台設定は(登場人物も言うとおり)横溝正史の作品世界を髣髴とさせるところがありますが、ピチピチの女子大生7人が江森家の離れに夏合宿で住み込んでいるという設定が、ああ、やっぱりカジタツ作品だったなと思い出させますw
冒頭のシーンを始めとして、あんなことが伏線だったのか!というぐらい多く張られた伏線の巧妙さはいつもどおりで、「反転図」と題された最終章での五城の謎解きはなかなかのものです。横溝的世界観そのものがミスディレクションになっているというか.....。
ただ、途中の展開がやや通俗的で、全体的にごちゃごちゃしている感は否めず、評価としてはこれぐらいになってしまう。

No.2178 6点 殺し屋ケラーの帰郷- ローレンス・ブロック 2014/11/24 19:00
殺し屋稼業を引退し名前を変え、妻娘の三人家族でニューオリンズで良き市民として暮らすケラー。ところがサブプライムローン問題の余波で、新しい仕事のリフォーム事業が傾きだしたところへ、身を潜めていた殺し屋の元締めドットから連絡が入る--------。

殺し屋ケラー・シリーズの第5弾。ハッピーエンドの前作でシリーズ完結、とはならず、今作が本当に”最後の仕事”となるらしい(たぶんw)。本書は、中短編5編を収録した連作短編集の形をとっていますが、主要登場人物一覧があり、時系列的につながりがあるので長編として読める。
本書の特徴の1つは、家庭人の殺し屋ケラーと妻ジュリアのスタンスの変遷。第1話では妻ジュリアに恐る恐る復職を告白するが、かつての本拠地ニューヨークで大修道士を標的にする第2話「ケラーの帰郷」になるとジュリアが仕事の顛末を聴きたがったり、第3話の「海辺のケラー」ではケラーとともに豪華客船での殺しに関わったりで、この辺が妙に面白い。
もう一つの特徴は、ケラーの切手蒐集の趣味がより比重を増し、ほぼ全編で物語に絡んでくることだろう。第4話「ケラーの副業」では、殺しの仕事はむしろサブストーリーで、切手売買の仲介を巡る物語のほうがメイン。それでも面白く読ませるのがブロック。
それにしても、ケラーとドットの洒落ていて息の合ったあの会話がもう読めなくなるのは残念だ。

No.2177 5点 謎の環状列石- 藤村正太 2014/11/22 22:04
青白い怪光が飛んで落ちるのを目撃した中学生の晴彦は、多摩地方の雑木林に向かいストーンサークルと謎の電気部品を見つける。隣に住む高校生・昌史と共に探索するうちに、奥多摩で起きた会社員の墜落死事件と関連があるのではと気付く---------。

昭和51年に学研の学習雑誌に前後編2回に分けて掲載された作品をもとに、新構想を加え全面改稿のうえ朝日ソノラマ文庫で出版されたジュヴナイル・ミステリ。前編の掲載誌が「中3コース3月号」で、後編が「高1コース4月号」というのが、読者の年次が4月で新しくなる学習雑誌ならではで面白い。
UFOや宇宙考古学のウンチクをネタにして興味を惹かせる工夫が感じられますが、今読むと謎解きの部分が中高校生向けとしては安易な内容で、小学生対象レベルに思えてしまう。(それとも30年以上前なら、子供も今ほどスレておらず、もっと素朴だったのか?)
アリバイトリックに使われたアイテムは、たしかに当時は普及しておらず斬新なものですが、こちらも時代を感じてしまいますね。

No.2176 7点 ゴーストマン 時限紙幣- ロジャー・ホッブズ 2014/11/20 23:04
カジノの現金輸送車から強奪された120万ドルの札束には、48時間後に爆発するインク爆弾が仕込まれていた。犯罪立案者マーカスに過去の借りを返すため、ゴーストマンこと「私」はその”時限紙幣”の奪還命令に応じるが--------。

ロジャー・ホッブズのデビュー作となるクライム・ノヴェル。
刊行前から話題になり日本での評判も上々とは聞いていましたが、実際、とても弱冠23歳のときに書いた作品とは思えない出来栄えに驚きました。
麻薬マフィアのボスが絡むタイムリミット・サスペンスの”現在”パートと、マレーシアを舞台にした5年前の銀行襲撃計画の顛末が語られる襲撃(ケイパー)小説の”過去”パートが交互に描かれ、一冊で異なるタイプの2つの小説を味わえる。各章のラストでサスペンスを繫ぐ構成上のテクニックが上手いと感じた。
解説でも述べているが、主人公ゴーストマンは変装を武器とする犯罪者ながら、ハードボイルド風の語りもあり、現在パートでは事件の真相を追う私立探偵を思わせるところがある。FBIの女性捜査官との絡みではワイズラックも飛び出し、後半になるにつれ人物的魅力が増してきたように思う。
「私」の師匠アンジェラや犯罪プランナーのマーカスとの関係など、今後の展開が楽しみであり是非とも続編も読んでみたい。

No.2175 6点 ダンデライオン- 河合莞爾 2014/11/18 19:10
東京郊外の廃牧場にあるサイロでミイラ化した女性死体が見つかる。密閉されたサイロ内のその死体は、あたかも空中浮遊中に鉄パイプで串刺しされた状態。しかも被害者は、姫野刑事が幼いころ同じアパートに住み、「空を飛ぶ娘」の民話を語って遊んでくれた女子大生・日向咲(えみ)だった-------。

警視庁の鏑木警部補率いる特捜班4人が活躍するシリーズの3作目。
サイロ密室の浮遊死体に続いて、高層ホテルの施錠された屋上の焼死体と、今回も不可思議な事件を担当しますが、若い姫野刑事の過去や、左翼組織グループが関係することで公安警察が絡むという、やや複雑なプロットになっています。
現在の捜査状況の合間に、双子の女性の片割れ・日向咲の16年前のエピソードが挿入される構成が効果的で、事件の隠された構図を徐々に明らかにしていくとともに、巧妙なミスディレクションになっています。「双子」ということで当然いだくアノ疑いの斜め上をいく真相には見事に騙されました。アンフェアぎりぎりの描写もありますが、貧困家庭という事実で、そういう作為もあり得るかなと思います。トリックのためのトリックにならず、きっちりと人間ドラマに寄与している点を評価したいです。
しかし、たんぽぽ(ダンデライオン)の花言葉のひとつが「解き難い謎」とは......。

No.2174 7点 女王- 連城三紀彦 2014/11/16 18:08
十二歳以前の記憶を喪失しながら、生まれる前の戦時中の東京大空襲や関東大震災を経験したという記憶に憑りつかれた「私」荻葉史郎は、ある精神科医のもとを訪ねる。そして17年後に再会した老医師は、戦時中に史郎に会ったことがあると驚くべき発言をする。「私」はいったい何者なのか---------。

作者の一周忌に合わせて刊行された遺作の第2弾。
500ページを超える大作で、序章の不可解な謎だけで惹きつけられますが、この辺はまだ文字どおりのプロローグです。このあと、若狭湾で変死した古代史研究家の祖父の行動の謎や、”亡父”春生が遺した中世南北朝時代と邪馬台国を舞台にした日記など、トンデモ系の謎が次から次へと呈示され、もう中盤まででお腹一杯w
現代の「私」とその家系の謎がメインのはずが、いつの間にか邪馬台国テーマの古代史ミステリにトリップし、読者を幻惑させるという構成は連城ミステリの真骨頂と言えるでしょう。魏志倭人伝の”水行十日、陸行一月”の珍解釈はちょっとアレですけど。
いくつかの強引すぎる奇想はアクが強すぎ、読者によっては評価が分かれる気がしますが、連城ミステリの集大成的なところがあり、マニアにはマストリードな作品かと思います。
雑誌掲載終了後未刊行の連城の長編は、まだ3作品も残っているらしいので、来年以降の早期刊行を期待したい。

No.2173 6点 マスカレード・イブ- 東野圭吾 2014/11/14 20:35
「マスカレード・ホテル」のダブル主人公、ホテルウーマン山岸尚美と、警視庁捜査一課の刑事・新田浩介が登場する連作中短編集。タイトルの”イブ”は”前夜”ということで、二人が「マスカレード・ホテル」で出合う前のエピソードが4編収録されている。

「それぞれの仮面」と「仮面と覆面」は、山岸を主役にホテルを舞台にしたトラブルを描く。
プロのフロントクラークならではの山岸の機転や推理が鮮やか。登場する元プロ野球選手や覆面作家・玉村薫のモデルが誰なのか、容易に想像できるのが可笑しい。
新田刑事編では、彼の人物像が浮き彫りになっている点はいいが、警察小説としてそれほど新味がある内容とはいえない。
最終話の中編「マスカレード・イブ」がプロットにヒネリがあり、まずまずの出来。ただ、サプライズの演出のために、もう片方側の情報が後出しになっていて、メイントリックも手垢のついたものですが。
ストーリーテラーぶりは相変わらずで非常に読みやすく、東野のファンであれば十分に楽しめるという評価。

No.2172 5点 密室の神話- 柄刀一 2014/11/12 21:01
北海道の裏幌市にある美術専門学校の別棟アトリエで、T型定規に架けられ異様な装飾された学生の変死体が発見される。現場は三重に施錠された密室で、しかも建物の周りが雪で覆われた難攻不落の”四重密室”になっていた----------。

これぞ柄刀ミステリという設定で、フリーカメラマン・南美希風に打って付けの不可能犯罪モノですが、(登場人物の口から名前は出てくるものの)そのシリーズ探偵は登場しません。それでは探偵役は誰かというと、刑事やサークル仲間をはじめ、多くの登場人物が探偵役になっており、しかも集団探偵ものではなく、それぞれの立場で別々の角度から事件に対峙する構成になっているのがユニークなところです。
最終的に謎を解くのは誰か?というのも作者のやりたかった趣向の一つではないかと思いますが、そのため多くの人物の視点で語られるので、物語がなかなか進展しないという難点があります。
また、メインの密室トリックの仕掛けの部分が(北海道という土地柄を活かしたところだけは良ですが)、個人的にはあまり面白く感じるタイプの密室トリックではありませんでした。”犯人”の動機の面でも色々と納得がいかないところがあります。

No.2171 5点 クローバー・リーフをもう一杯- 円居挽 2014/11/10 20:45
京都大学キャンパス内のどこかで、密かに営業する神出鬼没のカクテル・バー「三番館」。日常の謎をお代がわりに、俺はそのバーの女性マスター蒼馬美希のもとに足を運ぶ--------。

大学1回生の”俺”が、”賀茂川乱歩”と称する京都観光地巡りのサークル活動中に遭遇した謎を、不思議なバー「三番館」に持ち込み、マスターの作るカクテルを飲むと答えがヒラメく......といった内容の連作ミステリ。
このパターンが繰り返される最初の3編は、手堅くまとめているもののまあ普通の日常の謎モノで、あまり独自性を感じないが、4話目のバーを舞台にしたコンゲーム風のものと、「三番館」とマスターの秘密が絡む最終話が作者らしい作品。最終話は、大掛かりなトリックはともかく、放火犯とマスターという2つの謎に関する伏線のバラマキ具合が絶妙だと思う。
ただ、連作の内容が途中から軌道修正されたためか、主人公の恋の行方という青春ミステリの要素が中途半端で終わってしまったのは残念。

No.2170 6点 窓辺の老人- マージェリー・アリンガム 2014/11/08 10:40
アマチュア探偵アルバート・キャンピオンが登場する日本で編まれたオリジナル短編集。英国四大女流ミステリ作家の一人といわれたアリンガムだが、創元推理文庫から出るのは「反逆者の財布」以来、なんと半世紀ぶりらしいw

「本格」にジャンル投票している人もいらっしゃるが、唯一20年代に発表された有名な不可能犯罪もの「ボーダーライン事件」と、表題作「窓辺の老人」が黄金期らしいトリッキイな本格編で、他はコンゲーム風味の冒険スリラーが中心になっている。
「ボーダーライン事件」は、アリンガム短編のマスターピースということに異存はないけれど、今回再読して、記号化された端役をひとりの人間として見ることで謎が解けるのだから、オーツ警部のラストの台詞はどうなんだろう?とは思った。
「怪盗”疑問符”」「懐かしの我が家」「行動の意味」といった怪盗や詐欺師、スパイなどの悪漢が登場する冒険スリラーもなかなか面白い。キャンピオンの女友達(とくにクロエ嬢が最高w)など、登場する脇役までが生き生きしていて読んでいて楽しい。
巻末の作者によるエッセイでシリーズの輪郭が掴めるのも良い。ただ、従僕ラッグやキャンピオンの妻となるアマンダなどのレギュラー陣はこの短編集には登場しない。そのうち論創社の未読の冒険スリラーも読んでみようと思う。

No.2169 6点 人影花- 今邑彩 2014/11/06 18:35
昨年亡くなった作者の、個人短編集に未収録だった作品を集めた文庫オリジナル短編集。
ホラーっぽい謎解きミステリから、サイコサスペンス風のもの、サプライズ系のホラー、しゃれたオチのあるショートショートまで、充実した良質な作品が揃っており、落穂ひろい的なものではない。

収録作のなかでは、間違い電話の相手との通話が予想外の展開を見せる「私に似た人」と、婚約者が変死した札幌のホテルを訪れた女性が知る意外な真相の「疵」、山中湖の保養所で女性が遭遇する悪夢「鳥の巣」の3編が特に印象に残る。
また「神の目」は、謎のストーカーの意外性と不可能興味で読ませるが、長編『大蛇伝説殺人事件』の男女私立探偵コンビが再登場、このコンビのやり取りも楽しい。
謎解きミステリがどんでん返しで着地するのは当然ですが、ホラーやサスペンスものでも最後にサプライズを仕掛けてくる今邑作品の面白さを再認識できるハイレベルな短編集になっていると思う。

No.2168 6点 処刑までの十章- 連城三紀彦 2014/11/04 18:23
いつもどおり会社へ出勤したはずの兄の靖彦が失踪した。弟の直行は、残された義姉の純子とともに兄の行方を追ううちに、土佐清水市で起きた放火殺人が関連するのではと睨み高知へ向かう。やがて、送られてきた絵はがきに呼応するように、四国の寺で次々とバラバラ死体が見つかる--------。

作者の一周忌に合わせて刊行された遺作大作の一冊。
多摩湖畔や、高知、奈良などと舞台を移しながら、真相を探る度に、義姉・純子の意味ありげな言動や嘘に翻弄される直行。彼といっしょに、読者も多くの謎に彩られた迷宮に引き込まれてしまう。まさに終盤近くの第八章までは、細かな反転を織り込んだいつもの連城ミステリという感じだったのですが........。
本書は一昨年の春まで「小説宝石」に連載されたものの書籍化で、恐らく闘病中の執筆ということが影響しているのでしょう。終章はかなり駆け足気味に語られ、唐突に明かされる真相もすっきりしない。直行と純子を中心に展開されてきた物語だけに、このような結末だと、登場人物や全体構成のバランスの悪さが目立ってしまう。
もはや、作者による加筆・改稿が叶わないのが残念だ。

No.2167 5点 なぜなら雨が降ったから- 森川智喜 2014/11/02 18:36
大学に入学した野崎圭人は、引っ越し先のアパートに住む女性・揺木茶々子と知り合う。彼女はアパートの一室で探偵事務所を開いていて、なぜか雨の日になると事件に遭遇する”雨女探偵”だった----------。

作者のミステリは初めて読みます。他の作品の内容紹介や書評を見るかぎり、特殊設定をベースに特異な探偵が登場する一風変わった本格ミステリの書き手という印象だったのですが、そういう意味では、本書はこの作者にしては割と”普通の”連作ミステリになっているように思います。
内容は、謎解きのロジック展開を主軸とするもので、警察が関与する事件もあれば、日常の謎もあり、よく言えばバラエティ豊かです。ただ、提示される謎がいずれも小粒なため、謎解きにそれほど魅力を感じなかったというのが率直な感想。
5話ともに、”雨降り”が事件の性質や謎解きに関係するという作者による共通の”縛り”を設けている点は評価できるかな。

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