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kanamoriさん
平均点: 5.88点 書評数: 2474件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2234 6点 絶望的 寄生クラブ- 鳥飼否宇 2015/03/19 18:37
綾鹿市にある大学の准教授・増田米尊は、最近だれかに監視されている気配を感じていたが、ある日パソコンに保存していた研究発表用資料が、変な短編小説にすり替わっていることに気付く。研究室の5人の学生のだれかの仕業とふんだ増田は、犯人探しに乗り出すが--------。

変態フィールドワーカー・増田准教授を主人公とするバカミス・シリーズの最新作(で、最終作?)。
作中作というか、入れ子構成で挿入されている4つの”読者への挑戦”付き短編小説が、(それぞれのジャンルは異なるものの)いずれもバカミス要素が濃厚で楽しめる。
最初の「処女作」は、処女受胎を巡るフー&ハウダニット・パズラー。処女を一種の密室に見立て、ノックスの十戒をネタにしながら、最後に”意外な犯人”が現れる。犯罪小説風の「問題作」は、監禁立て篭もり事件を起こした男を巡る”ホワイダニット”で、歪んだ動機が異様な印象を残す作品。官能小説風の「出世作」は、登場人物の男の名前を当てるクイズのような趣向の作品だが、仕掛けの原理は、昨年読んだ某作に通じるところがあるような。最後の「失敗作」も、仕掛けの部分が某バカミス大家のアイデアとカブるが、外枠の物語につながるメタな展開が面白い。
ちなみに、今作も副題はチェスタトンですが、内容のほうは「奇商クラブ」と全く関連はありませんw

No.2233 6点 にぎやかな落葉たち 21世紀はじめての密室- 辻真先 2015/03/17 18:38
今世紀になって初めての大雪に見舞われた日、グループホーム「若葉荘」の密室状況の部屋で、銛に射抜かれた女性市議の死体が見つかる。「若葉荘」の女性オーナー野末寥や入居者たちが被害者と過去に何らかの因縁を持つことが分かってくるなか、ホームの最年少スタッフ・綾乃は全員の前で口を開く--------。

北関東の小さな町にあるグループホーム「若葉荘」を舞台にした”雪の山荘”モノ本格ミステリ。
殺人事件がなかなか起こらない。山間の狭い町で昔からの人間関係が綿々と続いているという設定が重要なファクターとなっているので、ほぼ前半の半分が過去の因縁や事件の背景説明に費やされています。それでも、個性的な入居老人たちのユーモラスな言動やコージー風に近い語りで、重いエピソードも軽く読ませます。そういうところは作者の持ち味が出ていると言えるのかもしれない。
犯行の動機がやや弱く、少々納得いかないところがあるものの、”すべての条件が偶然そろってしまう”という横溝正史の某名作を思わせる”犯行スイッチ”の趣向がなかなか面白く、2つの殺人の手段がともに過去のエピソードを伏線にしている点も上手いと思えた。

No.2232 6点 13の判決- アンソロジー(海外編集者) 2015/03/15 18:10
英国推理作家協会編のアンソロジー。法廷ミステリだけを収録したようなタイトルですが、実際は事件関係者内の私的な”評決”だったり、法廷場面が全く出てこない”判定”も多く、テーマはかなりユルい縛りになっています。

そんな中では、大昔の毒殺事件の洗い直しを依頼されたダルグリッシュ警視の私的捜査を描いた、PDジェイムズ「大叔母さんの蠅取り紙」が編中の白眉といえる。60年以上前の公判記録や当時の関係者などをあたる骨太な内容に加え、炙り出された皮肉な真相と”無〇〇な犯人”という設定が非常に印象に残る傑作。
ディック・フランシス「ローパーと二十一人の仲間」は、競馬の”写真判定”結果の賭け事で連戦連勝をする男の話で、ハウダニットの仕掛けが盲点を突きオチが鮮やか。
そのほか、飼い猫が咥えてきた指を巡って隠れた事件を集団で推理するパトリシア・ハイスミス「猫の獲物」、評決直前に陪審員が突然死した事件に警視総監のアプルビイが関わるマイケル・イネス「ペリーとカリス」、キャンプ場で野鳥観測者が変死した事件を私的裁判で真相を暴くナイオ・マーシュ「ホッホウ」、渋いスパイ・スリラー風のマイケル・ギルバート「三人の評決」がまずまずの出来栄え。
天国で三人の悪女が過去の事件を掘り起こすクリスチアナ・ブランド「至上の幸福」や、架空の惑星が舞台のピーター・ディキンスン「猫殺しの下手人は?」など残りの作品はいまいち面白さがわからなかった。

No.2231 5点 叛徒- 下村敦史 2015/03/13 21:26
”通訳捜査官”七崎は、歌舞伎町で起きた中国人殺害事件を通報した中国人男性の取調べに同席するも、その証言から、現場から逃走した若い男が自分の息子である可能性に慄き、虚偽の通訳をしてしまう--------。

管内で発生する事件の関係者に在日中国人が多いことから新宿警察署に配属されている”通訳捜査官”を主人公にした、江戸川乱歩賞受賞第1作。
警察組織内でもあまり知られていない特殊な職務の主人公という点では、横山秀夫の一連の警察小説を思わせますが、主たる題材が外国人労働者の過酷な実態や、中学生のいじめであり、警察小説というより社会派の要素が強い作品です。また、先輩通訳捜査官でもあった義父を自死に追いやった”正義”と、息子を守るため職務に背く”叛徒”という相反する2つの立場で苦悩する七崎とその家族のヒューマンドラマでもあります。小さな構図の反転はあるものの、ある程度予想の範囲内であり、前作「闇に香る嘘」と比べると謎解きミステリの成分は薄めと言わざるを得ません。また、ご都合主義的で、予定調和で終わるストーリー展開に共感しずらいところもありました。同じ横山秀夫でも「半落ち」タイプを好む人には合うかもしれません。

No.2230 5点 小人たちがこわいので- ジョン・ブラックバーン 2015/03/10 22:00
北ウェールズ山地の別荘小屋で休暇を過ごす細菌学者マーカス・レヴィン卿と妻のタニアは、不気味な民間伝承がある岩山〈騎士の丘〉で航空機会社社長の墜死体に遭遇する。そして、最近その会社絡みでロンドンで続発する奇怪な事故が、どこかで結びついているのではと調査に乗り出すが----------。

英国情報局カーク将軍&レヴィン卿コンビが地球規模の危機に対峙するB級ホラー、シリーズ最終作。
とにかく次々と繰り出されるネタの数がハンパない。絶滅した古代人伝承が主軸となるが、予知夢と不滅の霊魂、廃水汚染による謎の病原菌、ナチス残党のマッドサイエンス、ソ連技術者の亡命、カトリックとプロテスタントの宗教対立などなど。スティーヴン・キングなら上下巻1000ページを超えるぐらいの超大作に仕上げるところを、文庫の240ページに収めるのだからやはり無理があります。これらのネタは全てラストに明らかになる壮大なバカ真相に繋がる伏線ではあるけれど、あまりに詰め込みすぎて整理しきれておらず、物語にのめりこむという風にはならなかった。

No.2229 5点 千葉淳平探偵小説選- 千葉淳平 2015/03/08 23:08
昭和38年、雑誌「宝石」短編賞の第一席入選作「或る老後」「ユダの窓はどれだ」の2作でデビューした千葉淳平の”短編全集”。解説にもありますが、雑誌「幻影城」世代には、ちょっと複雑で因縁めいたものを感じる作家名ではありますね。

「宝石」などの推理雑誌を中心に発表された13編は、密室や毒殺トリックを多用した本格色が強いものが揃っていて、東大物理工学科卒、発明協会勤務という経歴を活かしたような理化学トリックの使用が特徴と言えます。また、単にトリック小説ではなく、奇妙な味タイプでもある「或る老後」や、ユーモア風味の「ユダの窓はどれだ」など、意外と作風は幅広く、最後にツイストを効かせプロットに工夫があるものは、宝石短編賞同時受賞の天藤真に似た味わいがあります。ただ、後半の作品は通俗的なクライム小説に流れてしまっていますが。
その他、遊民の独身男・沢井が女性を巡る事件に巻き込まれる軽ミステリ連作”女”シリーズは、第1話は面白いが、連作が進むにつれ尻すぼみになった。
収録作でとくに印象に残ったのは、上記2作品と「女三人」「13/18・8」「静かなる復讐」あたりかな。

No.2228 6点 消え失せた密画- エーリヒ・ケストナー 2015/03/06 21:57
ベルリンの肉屋の親方キュルツは、旅先のコペンハーゲンで美術品蒐集家の秘書と称するイレーネと知り合う。イレーネから高価な密画をベルリンまで運んでほしいと頼まれたキュルツは、彼女とともに列車に乗るが、彼らの周りには怪しげな男たちが次々と出没し、やがて巧妙な手口で密画が盗まれてしまう--------。

児童文学「エミールと探偵たち」で知られるエーリヒ・ケストナーが1935年に書いたユーモア犯罪小説です。ドイツ人作家とクライム・コメディというのがイメージ的にあまり結びつかない(偏見?)のですが、正直者でお人好しの主人公(というか、狂言回し役)肉屋のキュルツの、とぼけた言動やカンの鈍さが、独特の仄かでまったりとしたユーモアを醸し出しています。
また、スラップスティックな笑いだけではなく、密画を巡るコンゲーム風の争奪戦というプロットも意外としっかりしていて、ある人物の意外な正体やどんでん返しの仕掛けでサプライズを演出しています。物語の冒頭からラストシーンまで牧歌的な雰囲気に包まれているのも好印象です。

No.2227 6点 からくり探偵・百栗柿三郎- 伽古屋圭市 2015/03/04 22:10
”よろず探偵、人探しも承り”--------浅草の町はずれにある百栗(ももくり)庵の主で、キテレツ発明家の柿三郎が探偵稼業にも踏み出した。招き猫型ロボットの”お玉さん”を連れ、女中の千代を助手にして4つの不可解な事件の謎解きに挑む---------。

帝都・東京市を舞台にした大正ロマン×本格ミステリの第2弾。
語り手の千代との出会いの第1話は、科学者の邸宅で博士が殺された事件。標本の人造人間を犯人と見せかけた理由を基点に、柿三郎が真犯人を特定するロジック展開がなかなか秀逸。
第2話では、男と女のバラバラ死体が連続して発見される。事件の裏に隠された秘密はある意味現代的なところもあって、ホワイダニットの真相には驚かされる。
第3話では、幻術師の道場に入ったままの男の捜索を依頼される。これは、ある程度構図が見えやすい。
最終第4話は、二重殺人の惨劇を目撃しながら行方不明になった少女を捜索する話。定番とはいえ、物語当初から張られていた伏線を回収しつつ、連作を貫く”からくり”によって最後にサプライズが炸裂する。
個別的には、ロジカルなフーダニットの第1話と、奇想風トリックの第2話を推すが、全体的には、キャラクターや爽やかなラストなど読み心地がいい作風を一番に評価したい。

No.2226 7点 七人目の陪審員- フランシス・ディドロ 2015/03/02 22:27
薬局の店主グレゴワールは、河べりを散歩中に水浴びをする娘ローラに出くわし、悲鳴をあげられた混乱のなか彼女を殺めてしまう。しかし嫌疑は彼に及ばず、ローラの愛人アランが犯人として逮捕される。グレゴワールはアランの冤罪を雪ごうと策を弄するうちに、事件の陪審員に選任されてしまう---------。

冤罪を扱った法廷ミステリ、とはいっても重厚さやシリアスな感じはあまりなく、軽い語りでブラック・ユーモアもある、いかにもフランス・ミステリらしい作品。(ただ、最後まで読むと、その印象がだいぶ変ってくるのですが)。
夢想家ぎみの中年男グレゴワールという人物の揺れ動く内面描写が終始興味深く、自首はしたくないが無実の青年は救いたいため、あの手この手と策を弄するも、皮肉な展開の連続に翻弄される。このあたりフランス版「試行錯誤」という評も肯ける。
一方で、誰もが顔見知りで噂がすぐに広まってしまう小さな町という舞台背景が重要な要素になっていて、それがバークリー作品とはテイストが異なる、風刺的で不条理な本作の結末に結びついているように思います。

No.2225 6点 虹の歯ブラシ 上木らいち発散- 早坂吝 2015/02/28 22:40
メフィスト賞のデビュー作「○×8殺人事件」で登場したエンコー女子高生・上木らいちを探偵役に据えた連作ミステリ。タイトルの意味は、らいちの高級マンションの部屋に曜日ごとに訪れる”固定客”のために備え置きされている七色の歯ブラシのこと。

全七話で構成されていますが、まるで”虹”のように、編が進むにつれ各話のテイストが徐々に変な方向に変貌していくところは作者の狙いのひとつかもしれない。
下ネタやエロい描写はあるものの、決めるときは比較的まともなロジックが展開された第1話から、第3話「青」のバカミスの王道のようなトリックを経て、最終話では叙述トリックそのものをネタに、どんでん返しを繰り返し、読者をとことん翻弄する手際は確かにバカミスを超越している。
今回も読者を選ぶ内容で、また仕掛けの性質上、前作ほど真相に笑撃度はないものの、ラストの斬新な趣向は評価したい。

No.2224 5点 チャーリー・モルデカイ (4) 髭殺人事件- キリル・ボンフィリオリ 2015/02/26 23:13
ジャージー島で暮らすモルデカイのもとにオックスフォード時代の指導教官ドライデン博士が訪ねてくる。大学の女性研究員が不審死した事件を調べてほしいという博士の依頼に応え、ちょうど口髭を生やしかけていたモルデカイは、身元を隠し潜入捜査を始めるが---------。

怪しげな画商の”ぼく”こと、チャーリー・モルデカイ閣下シリーズの第4作。
今回はカレッジ・ミステリの様相で、とくに前半は名探偵モノのパロディと言えそう。文学などの衒学趣味・薀蓄に溢れた脱線は相変わらずで、舞台がオックスフォードということもあって、クリスピンのジャーヴァス・フェン教授シリーズを髣髴とさせるところがあります。しかし、アメリカ大使館の大佐が再登場してからは、またまたモルデカイは過酷な状況に陥るのですが......(これはもうシリーズのお約束の展開か)。
最終作となってしまった本作では、妻のジョハナと用心棒ジョックの登場シーンが少なめなのが残念なところ。そのためスラップスティック的な面白さがやや減退してしまっているように感じた。

No.2223 5点 青銅ドラゴンの密室- 安萬純一 2015/02/24 22:59
ホルツマイアー家の敷地内にある青銅のドラゴンを模した塔を見るため、近代建築研究家で探偵を称するラズボーンが訪れる。調査を進めるさなか、密室状況の塔の内部で、頭をかみ砕かれたような死体が発見される。それは百年前に旅芸人の男女が殺された状況と全く同じだった---------。

ドイツの旧家一族に秘められた過去や、死んだはずの男の復讐に怯える兄弟、陰惨な伝説がある塔で再び起こる密室殺人と、全盛期のディクスン・カーを思わせる王道の本格編です。
物語の全体構成に荒削りなところがあり、登場人物も類型的で(すべて外国人ということもありますが)単なるパズルのピースのように描かれているのが難点ですが、それらも含めてコテコテのパズラーの王道ですw
本書の中核の謎は、ドラゴンの塔を巡る密室殺人の”ハウダニット”で、個人的にあまり好みではないタイプではあったものの、ユニークなトリックは一読に値するのではと思います(現場の見取図がないのが惜しまれますが)。多重解決の”仕掛け”を含め、最後まで目の離せない快作です。

No.2222 5点 放送中の死- ヴァル・ギールグッド&ホルト・マーヴェル 2015/02/22 22:14
英国BBCの放送局スタジオで、ラジオドラマの被害者役の俳優が、まさにオンエア中にドラマと同じタイミングで絞殺される。ロンドン警視庁のスピアーズ警部補は、BBCスタッフらの素人探偵にかき回されながら必死の捜査を続けるが-------。

本格ミステリ黄金期の作品(1934年発表)ですが、お屋敷で殺人が発生し名探偵が登場.....といった型にはまった古典本格とは一味違い、現代的な雰囲気のあるフーダニットです。作者コンビの片割れギールグッドは、作中の主人公格の放送ディレクター・ケアードと同様にBBCで長らくラジオ放送に関わっており、のちにディクスン・カーと組んでラジオドラマを製作した業界人で、この時代では珍しい”業界ミステリ”(=ほかに思いつくのはセイヤーズ「殺人は広告する」ぐらい)をリアルな情報を盛り込み仕上げています。
ただ、ミステリ部分の出来に関してはそれほど高い評価はしずらいかな。動機の情報が後出しですし、犯人の計画したトリックがかなり綱渡り的で、ちょっとした齟齬があればすぐ破綻してしまいそうなのも問題です。
設定は”ハイカラ”なのに、中身はあくまでクラシックという感じでしょうか。

No.2221 6点 スノーホワイト 名探偵三途川理と少女の鏡は千の目を持つ - 森川智喜 2015/02/20 18:09
〈なんでも知ることのできる鏡〉を持つ女子中学生の襟音ママエは、こびとを助手にして探偵事務所を構え、依頼人が持ち込む日常の謎を安楽椅子探偵きどりで”解決”していた。そんなある日、〈あっちの国〉の王位継承を謀る御后ダイナが、悪辣名探偵の三途川理にママエの暗殺を依頼ししてきた---------。

毒入りリンゴや七人の小人など、童話「白雪姫」をモチーフにし、なんでも知ることができる魔法の鏡という、謎解きミステリにとっては掟破りのアイテムが重要な役割をする異世界風の特殊設定ミステリ。
謎解き以前に真相が分かってしまう装置という点では、「さよなら神様」とコンセプトが似ている(=魔法の鏡が、神様・鈴木太郎の役割)が、結論だけでなく推理の過程まで質問すれば何でも答えてくれるという設定がなんとも異端。これでどうやって謎解きミステリを展開していくんだろうと思っていたら、第2部では鏡の機能を最大限に利用した謀略戦の様相になってしまった。(これはこれで面白いですが.......)
法月綸太郎氏の文庫解説で気が付いたが、全知全能の神様の麻耶雄嵩、魔法の鏡の本書、Yahoo!知恵袋を悪用したカンニング事件と、似た発想がみんな京都大学つながりなんだなw

No.2220 6点 そして医師も死す- D・M・ディヴァイン 2015/02/19 22:01
診療所の共同経営者ギルバート・ヘンダーソンの不慮の死は実は計画殺人だったのではないか。市長からそう示唆された「ぼく」アランは、事件を洗い直そうとするが、現場の状況から、ギルバートの後妻エリザベスとの不倫関係を噂されるアラン自身が、彼女と共に周囲から疑惑の目を向けられることに---------。

小さな地方都市を舞台に、狭いコミュニティー内の複雑な人間関係が醸し出す緊迫感と、その中に巧妙に張られた伏線やミスリードがクリスティばりで読ませる。主人公アランの内面描写を中心に展開される物語は、やや起伏に欠けるきらいはあるけれど、渋い英国本格ミステリ好きには申し分のない内容と言えるでしょう。
被害者ヘンダーソンがアランの同僚医師であるとともに、市議会議員、少年クラブの理事、エリザベスの夫という複数の顔(側面)を持っていたことで、殺害動機を絞らせず、ミスディレクション(=マンロー警部補の言う「論理の穴」)に繫げる手法がもう巧妙というしかない。
ディヴァインの2作目にも拘わらず邦訳が後回しになっていたので内容を危ぶんでいましたが、最良作とまでは言えないまでも、十分満足できる出来栄えと評価したい。

No.2219 6点 ラスト・ワルツ- 柳広司 2015/02/16 18:01
”魔王”こと、結城中佐率いるスパイ組織”D機関”の暗躍を描くシリーズの第4弾。
収録3編ともに太平洋戦争前夜の時局を象徴するような舞台設定が魅力的で、敵側を騙すとともに読者も同様に騙すというシリーズの面白さが健在です。

「アジア・エクスプレス」は、満州鉄道を疾走する”あじあ号”を舞台に、ソ連の諜報機関”スメルシュ”の暗殺者とD機関との頭脳戦を描く。収録作の中ではもっともオーソドックスな騙し合いが楽しめる。
「舞踏会の夜」は、駐日アメリカ大使館で開かれた仮面舞踏会を背景に、華族出身の陸軍中将夫人の視点で謀略工作を描く。メロドラマっぽい回想が巧妙なミスディレクションになっていて、”ラストワルツ”というキーワードも利いている。
「ワルキューレ」は、ゲッベルス宣伝相の肝入りの、ナチスドイツ映画撮影所で繰り広げられるスパイ工作を描く中編。ちょっと主題がわかりずらいが、D機関が陸軍所属ということがポイントかな。映画と実際のスパイ活動との違いが皮肉的に描かれている。

No.2218 6点 死のドレスを花婿に- ピエール・ルメートル 2015/02/14 10:59
ベビーシッターのソフィーは、1年前から記憶の欠落に悩み精神科医にかかっていた。ある日、雇われ先の家のベットで、ソフィーの靴紐で絞殺された6歳児レオの死体を発見したことから、ソフィーは逃亡者として過酷な生き方を選ばざるを得なくなる----------。

ピエール・ルメートルの邦訳第1作。ロマサスのようなチープ感のあるタイトルと、メジャーとは言えない版元ということもあってか、数年前に出版されたときは、ほとんど話題にもならなかった本書ですが、「その女アレックス」の大ヒットで俄然注目されるようになりました。
4部構成になっており、ソフィーの視点で逃避行が語られる第1部は、彼女の過去など状況設定が不詳なため、多少モヤモヤ感がありましたが、ある男の視点に切り替わる第2部から俄然面白くなった。このあたり章が変わる毎に、ヒロイン像や構図を反転させるサプライズ展開のテクニックは「その女アレックス」と共通するものを感じます。
タイトルが結末を示唆しており、また登場人物一覧表で一部ネタを割ってしまっているのがもったいないのですが、面白さは「アレックス」に勝るとも劣らないと思います。(ちょっと誉めすぎかなw)

No.2217 5点 揺れる視界- 笹沢左保 2015/02/12 19:00
示談屋の池上が、東国銀行の岡本課長の交通事故死に不審を抱いて、真相究明に乗り出したのは金のためではなく、かつて岡本の愛娘を不慮の死に追いやった忌まわしい過去に決着をつけるためだった。そして関係者を訪ね歩くうちに、池上は被害者の勤め先の銀行で奇妙な出来事が相次いでいることに気付く--------。

発端の交通事故死にはトリッキィな仕掛けがあり、また銀行内部で何が起きているのかという謎を主軸にして物語が展開されるところは本格ミステリ風といえますが、池上が巡礼形式で関係者を訪ね歩き、それを契機にあらたに殺人が起きるプロットは私立探偵小説を思わせるところがあり、翳のある医大生くずれの示談屋という池上はまさにハードボイルドの主人公と言えそうです。
ただ、いかにも笹沢左保らしい虚無的な主人公の造形には惹きつけられるものがあるものの、暴かれる銀行の秘密がかなり肩すかしなものだったのが残念。なんだこんなことで.....と思ってしまう。そのため抒情性のあるラストが浮いてしまっているように感じた。

No.2216 5点 藤村正太探偵小説選 Ⅱ- 藤村正太 2015/02/11 10:51
川島郁夫名義の短編全集。2巻目の本書は昭和28年~33年にかけて雑誌・新聞に掲載された24編が収録されています。本格モノや幻想・怪奇風のもの数編に、男女の愛欲を絡めた通俗的なサスペンスが大半を占めています。

本格的な謎解きミステリでは、「残雪」「妻恋岬の密室事件」「乳房に猫はなぜ眠る」の3編が(いずれもアンソロジーで既読ながら)トリッキィな密室モノでまずまず楽しめる。とくに、懸賞付き犯人当てとして書かれた「乳房に猫は~」は、最後のページにミスディレクションの狙いなどの作者による”解説”がついているのが珍しい。また密室トリックを類別しながらの謎解きが効果的です。
アリバイ・トリックを扱った「暁の決闘」は力作ではあるものの、犯人のチグハグな内面が理解できないところがある。
トルコのイスタンブールを舞台にした幻想的な3編は、顔を隠すイスラム女性の慣習を利用したトリックをはじめ、いずれも構成が似ているのが気になった。
その他、男女の愛欲をテーマにした作品でも、謎めいた女性の誘惑に惹かれた主人公が最後には.....といった同じパターンが何度も出てくるのには参った。

No.2215 6点 ビブリア古書堂の事件手帖6- 三上延 2015/02/08 17:16
太宰治の稀覯本「晩年」を奪うため栞子に危害を加えて逮捕され、現在は保釈中の青年が、再び二人の前に現れる。青年の祖父が持っていた別の「晩年」を探してほしいという依頼に半ば疑念を抱きつつ、俺・五浦と栞子は、もうひとつの稀覯本の行方を追い、ある和本の盗難事件に辿り着く。そして奇遇にも、その太宰の稀覯本を巡る50年前の事件には二人の祖父母も関わっていた----------。

人気ビブリオ・ミステリの第6弾。前々作の江戸川乱歩につづいて、今回は全編が”太宰治づくし”の長編となっている。
太宰に纏わる様々な薀蓄も興味深いが、シリーズ第1作第1話のエピソードも伏線とした、複雑な人間関係が絡む謎と、本の行方、青年の陰にひそむ謎の人物の正体、密室状況の書庫から和本が消えた謎の不可能興味など、多くの謎が重層的に提示され、謎解きモノとしても読み応えがあった。ただ、犯人が仕掛けた小道具にはやや安直な印象がありますが。それにしても、特定の稀覯本に魅せられたマニアの業は凄まじい。長編になると益々そういった狂気じみた面が強調されているように思う。
ふたりの関係進展とともに、遂にシリーズも大詰めを迎えているらしい。次作を楽しみに待ちたい。

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