皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
ZAtoさん |
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平均点: 6.55点 | 書評数: 109件 |
No.89 | 5点 | 翳りゆく夏- 赤井三尋 | 2010/10/27 00:34 |
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起伏に富んだ展開はスピーディだし、軽くならずに一定の重量感は保っている。新聞記者の地道な取材から炙りだされる人間模様も過不足ないし、誘拐事件に絡むアクションもサスペンスもふんだんに用意されている。
ところが面白かったのかというとどうだろう。わりと夢中で一気読みしたにもかかわらず、ここまで読後感の手応えが乏しいといのは初めてのの体感だった。 |
No.88 | 7点 | 新参者- 東野圭吾 | 2010/10/17 22:45 |
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加賀の刑事像が闇雲に事件にのめり込んでいくキャラクターではなく、物事を俯瞰で捉えて、冷静にフォーカスを絞っていくタイプであることも、この小説にはよかったのではないか。
下町人情ものという一面を持つこの小説で、あまり深く土着に根ざしていないという匙加減も功を奏したといえるのではないかと思う。 |
No.87 | 6点 | 初陣- 今野敏 | 2010/10/17 22:43 |
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伊丹にとって、竜崎は決してコンプレックスを抱くだけの相手ではない。
この本が巻末に近づく頃、伊丹は竜崎への友情を思い、それをひとり語りのように告白して本書は終る。 やや、情緒過多ではあるが読後感は決して悪くはなかった。 |
No.86 | 5点 | 疑心- 今野敏 | 2010/10/17 22:42 |
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「本当に、俺はどうしてしまったのだろう。こんな自分は認めたくなかった。これまでの人生で大切にしてきたものが何なのか、もう一度考え直すべきだ。」
こんな自問自答を延々と繰り返す。 そして330ページの小説で200ページもこんな状態が続く。長い、あまりにも長すぎた。 |
No.85 | 9点 | 果断- 今野敏 | 2010/10/17 22:38 |
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一層キャラクターに磨きをかけていく竜崎だが、周辺の人物たちも竜崎と絡むことで生命を吹き込まれていく。
まさに今野敏のプロットの巧みさを痛感させられる一編だった。 第一作が「真のエリート官僚とは何ぞや」と読者が理解していく小説だったとすれば、今回のは読者に竜崎伸也という男を追認させていく小説だといえるのではないか。 |
No.84 | 9点 | 隠蔽捜査- 今野敏 | 2010/10/17 22:33 |
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『隠蔽捜査』は、読者が竜崎伸也を理解していく作業に追われる小説だといえる。
そして竜崎伸也を理解するということは、今野敏が考える真のエリートとは何か、あるべき官僚の姿とは何かを理解することでもある。 大胆にも「足立区女子高生コンクリート詰め殺人」と「国松警察庁長官狙撃事件」を俎上にあげている。 現実の事件を物語に取り込むことで小説にリアルな迫真性をもたらすという手法は好きな手ではないが、このふたつの事件を通して『隠蔽捜査』の竜崎と伊丹の思想対決がより臨場感を帯びたことは否定出来ない。 |
No.83 | 6点 | グラスホッパー- 伊坂幸太郎 | 2010/10/17 22:29 |
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私は物語に一定のリアリズムを要求していしまう読者だ。
これはある種、読書を不自由なものにしてしまう枷となっている。 大きな嘘をつくときほど、小さな真実の積み重ねが必要であるというのは小説でも映画でも、 私のエンターティメントに対する要求でもある。 |
No.82 | 8点 | ビート- 今野敏 | 2010/10/17 22:25 |
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今野敏は心理的に追い詰められていく父親をサスペンスドラマとして、タエと一緒にダンスに生き甲斐を見出そうとする次男を青春ドラマとして、ふたつのエスプリを加味しながら世代間のギャップと衝突を表現していくのだが、読者が英次に感情移入してしまうことによって、彼が本当に殺人者になってしまうのかという心理を父親と共有することになり、思わずドキドキしてしまう。
このあたりの読者心理の操作は本当に巧い。 果たしてこの両者の衝突に救済はあるのか。 詳しいことは書かないが、ここでようやく樋口顕の出番が回ってくる。相変わらず妻に罵られたり笑われたり、娘の遊びに同行して氏家にからかわれたりしながらも、敢然とこのシリーズの主人公が樋口顕であるという存在感を発揮して読者の溜飲を下げてくれる。 |
No.81 | 7点 | 朱夏- 今野敏 | 2010/10/17 22:13 |
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犯人は前半部分で簡単に想像がつく。その犯人像がシリーズのモチーフである世代間対立を生む。
「犯人は大人になる機会を与えられなかったのだ」のだと。 もちろん多作家にありがちな御都合主義的な部分もある。 容疑者が浮上するきっかけが「夢に出てきた」ではいくらなんでも噴飯ものだし、 犯行に使用したレンタカーが簡単に割れたのも安易だったと思う。 しかし読後感をすこぶる良いものにしたのは、 『朱夏』という不思議なタイトルの由来を樋口の上司の台詞で語らせたことが大きい。 この台詞を読んだ時が、この小説と出会って良かったと思えた瞬間だった。 |
No.80 | 5点 | リオ- 今野敏 | 2010/10/17 22:09 |
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事件の展開も若者風俗に沿っただけで真新しいものとは言い難く、タイトルになった“飯島理央”という女子高生の描き方も平板なので、樋口も含む被害者や加害者たちが何故そこまで彼女に翻弄されていくのかという説得力にも欠けると思えた。 |
No.79 | 6点 | 告白- 湊かなえ | 2010/10/17 22:05 |
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ある種の爽快感がある。
それは対象をとことん痛めつけ、完膚なきまで叩き潰すことによって、読者の内に秘められたサディズムが解放される快感とでもいおうか、スキャンダルを眼前にして隠された自己の暗部が引き出される愉悦とでもいおうか、湊かなえがそこまで狙ってこの物語を綴ったのだとしたら、相当なタマではないか。 |
No.78 | 7点 | 白夜行- 東野圭吾 | 2010/10/17 22:01 |
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主人公たちに共感するしないは読者の感覚に委ねられている。
雪穂と亮司によって、ある者は命を奪われ、尊厳を失い踏みつけられていくのだが、 困ったことに周囲の人間がバタバタと落とされていく様を楽しむ悪意を喚起されたような気もする。 なるほど読者の立場は常に正義の側に身を置く必要はない。 ときには悪に身を染めてみるのも自由なのかもしれない。 |
No.77 | 5点 | 双頭の悪魔- 有栖川有栖 | 2010/10/17 21:00 |
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この小説には前二作にはあったような余韻が感じられない。
どこか物語を分断してまでも論理に特化してしまったことで、豊穣さを失っているようにも思えるのだ。 最後に明かされる犯行の手口には驚きもしたし、その動機にも納得したのだが、犯人が殺人に至るまでの深層が十分に描きこまれていないのではないか。 やはり真犯人の懐述があって然るべきで、江神がドライな推理マシーンになってしまったようで残念でもある。 私は物語の論理は好きだが、論理の物語にはあまり興味が湧かないということかもしれない。 |
No.76 | 8点 | 孤島パズル- 有栖川有栖 | 2010/10/17 20:58 |
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江神とアリスのやり取りの中で真相が浮き彫りにしていく筆致はなかなかのものだ。
名探偵と殺人者との間に流れるの空気は、やがてあまりにも広大な大海原に哀しくのみ込まれてしまうのか。 少々、褒めすぎてしまった感がなきにしもあらずだが、欲望、嫉妬、復讐といった人間の原罪を太陽と海と月が静かに見つめていたような読後感はしばらく尾を引いていくような気がする。 |
No.75 | 6点 | 月光ゲーム- 有栖川有栖 | 2010/10/17 20:43 |
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学生時代に集団で生活をともにしたのは運転免許合宿くらいのものだったが、あの束の間の連帯感には今でも不思議な甘酸っぱさがあり、この小説はそのときの気分を思い出させてくれた。キャンプファイヤーにもマーダーゲームにも願わくは参加したかった。もちろん、それは今ではなく二十歳の気分の頃に。 |
No.74 | 6点 | 人狼城の恐怖- 二階堂黎人 | 2010/10/17 20:40 |
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小説家に対して大変失礼な話だが、解答編は口頭で聞かされても『人狼城の恐怖』という小説の印象はそれほど変わらなかった気がする。
むしろ、その方が二階堂蘭子というキャラクターへの嫌悪感や、義兄という設定の叙述者である二階堂黎人の鼻につく大袈裟なリアクションにフラストレーションを溜めることなく純粋に人狼城のトリック、プロットに感心できたのではないかと思う。 |
No.73 | 8点 | 容疑者Xの献身- 東野圭吾 | 2010/10/17 20:36 |
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この人は表現者として情動の発露の中で物語を紡いでいるのではなく、冷徹に厳選されたピースを用いて「情動」そのものを構築しているのではないだろうかとも思った。
情動などとまったく抽象的な言葉で誤魔化すことを許してほしいのだが、パズルを構築し、物語そのものを支配してた“X”が、最後の2ページに情動を昂ぶらせて一気に破綻することで読者が得るであろう解放感までも計算していたとすれば、トリックや仕掛けとと同列に情動をも組み込んでしまった作者には恐れ入るしかない。 |
No.72 | 7点 | ブラック・ダリア- ジェイムズ・エルロイ | 2009/11/02 23:22 |
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エルロイ自身の過去の出来事が投影された作品というファクターは見過ごせないことではあるのだが、
そういう表層の先入観に囚われてしまっていいものかどうかという疑問に無為な時間を費やしてしまった。 全編に渡って繰り返される暴力とサディズム、流血の沙汰はあまりにも強烈。 バイオレンスがカタルシスに昇華することもなく、最終的には直截的な狂気ではなく冷めた理性の中で深化していく恐怖こそがノワールの到達点なのではないかと思った。 |
No.71 | 7点 | 青の炎- 貴志祐介 | 2009/11/02 23:15 |
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面白かったのが、夏目漱石『こころ』が引用されていたこと。
「先生」と「K」の心理について秀一は考察し、殺人から、いずれは自滅していく自分を想像していく。 ついこの間『こころ』を読み終えたばかりだったので、 この偶然の符合にはドキリとさせられた。 |
No.70 | 8点 | テロルの決算- 沢木耕太郎 | 2009/11/02 23:13 |
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ミステリのサイトにルポルタージュをアップする大反則を敢えて冒したのは、戦前、戦後と時代の洗礼を浴び続けた社会主義の旗頭と、無垢で一途に生き急ぐ愛国少年という、立場も人生の経験もまるで違う両者が錆びついた短刀で瞬間的に交差する運命的な力学があって、そこに見え隠れする通俗的に出来過ぎたエピソードが十分にミステリのカタルシスだと思ったからだ。 |