皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1809件 |
No.12 | 5点 | 魔神の遊戯- 島田荘司 | 2009/09/19 21:24 |
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普通の作家だったらもっと高い評点でもいいと思いますが、島田氏の作品なのでこの点数です。
読んでいる間ずっと御手洗に違和感を感じてましたが、なるほどそういうラストが用意されてましたか・・・という感想です。 スコットランドの大男伝説については、某加賀美氏も作品の中で引用していましたが、加賀美氏の方がむしろ往年の島田氏を彷彿させるトリックだったような気がします。(あまり成功したとは言えませんが・・・) やっぱり、近年の氏の作品は何か「キレ」が足りないですね。 |
No.11 | 6点 | 光る鶴- 島田荘司 | 2009/09/12 23:29 |
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短編集。何かしみじみした作品。
表題作は、これまで何度もあった「冤罪事件&吉敷刑事」の組み合わせですが、このペアの相性の良さを感じさせます。 「吉敷竹史の肖像」はミステリーというか、青春小説という趣き。吉敷ファンにとっては、若き日の彼の姿を知ることができて良いのではないでしょうか。 「電車最中」はおまけみたいな短編。 |
No.10 | 9点 | 斜め屋敷の犯罪- 島田荘司 | 2009/09/12 23:17 |
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御手洗潔シリーズ初期の名作中の名作。
今回、新装ノベルズの完全改訂版で再読。 オホーツク海を見下ろす宗谷岬に傾斜して建つ奇妙な館・・・通称「斜め屋敷」。雪の降る聖夜に開かれたパーティー、そして翌朝、堅牢無比な密室の中で発見された招待客の死体・・・ 何て魅力的な設定でしょうか! ミステリー作家なら一度は書いてみたいプロットでしょうし、ミステリーファンならばこれこそ一番の「大好物」。 とにかく、初読のときの「衝撃度」がスゴかった。巻頭にある斜め屋敷の「図」・・・ここに作者の企みが凝縮されています。 加えて、なぜ「斜めに傾いているのか?」・・・ラスト、御手洗の解決編を読んだときに、すべてが腑に落ちていきます。 島田氏にしては珍しく、本筋に余計な薀蓄話やサイドストーリーを一切挟まず、たいへんシンプルな構成ですし、そこにも好感が持てます。 真相解明以降に明かされる「動機」については、C.ドイルの名作「緋色の研究」にオーバーラップしてきます。 というわけで、ミステリー中毒ならば是非一度は手にとって読まなければいけない一冊と断言します。 これを「バカミス」と否定的に見る方もいるかもしれませんが、まぁいいじゃありませんか、「バカミス」でも! こんな迫力のある作品を書ける作家は二人といないはずです。 (牛越刑事が戸惑うだけで、全く活躍できなかったのが唯一の不満。もう少し、渋い役どころを与えて欲しかったなぁ・・・) |
No.9 | 10点 | 涙流れるままに- 島田荘司 | 2009/08/27 22:48 |
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吉敷刑事シリーズ。
吉敷&通子の壮大なラブストーリーが決着するファン必読の作品。 ~警視庁捜査1課刑事・吉敷竹史は、夫の冤罪を主張する老婦人に出会う。その「恩田事件」とは、昭和33年に盛岡で起きた一家惨殺事件だった。吉敷は単身、再捜査を開始。ところが、盛岡・釧路で対面した関係者はなぜか別れた妻・通子と関係の深い人ばかりだった・・・日本の冤罪事件に職を賭した1人の刑事と、元妻の壮絶な過去、そして感動のラスト・・・~ 素直に脱帽! ラスト、子供を抱き上げるシーンでは、読んでて涙が止まりませんでした。(まさにタイトルどおり!) 「北の夕鶴」から始まり、「羽衣伝説」、そして「飛鳥のガラスの靴」と続いてきた、吉敷=通子の壮大な物語がこんな形で完結してくれて、作者には本当にありがとうと言いたい気分です。 さて、本作のキーワードは、作者のライフワークともなっている「冤罪事件」。 この高くて厚い壁を破るためには、「吉敷」はまさにうってつけのキャラクターです。 御手洗ほどの明晰な頭脳はありませんが、何事にも怯むことなく、どんな苦難にあっても立ち向かっていくその姿は、まさに現代に甦った「等身大のヒーロー」とさえ呼びたくなる・・・(実際、カッコいいですよ) 真相に関しては、いつもの「大技」が炸裂するわけですが、それはそれで十分読み応えありです。 まぁ、通子の過去がここまで壮絶でありえないほどの不幸に満ちていたなんて、これ最初から構想してたんでしょうか? とにかく、本作は決してこれ単独では読まないでください。 (これ単独で読んじゃうと、「荒唐無稽」のように思えてしまうかもしれませんので・・・) |
No.8 | 6点 | 羽衣伝説の記憶- 島田荘司 | 2009/08/27 22:38 |
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『吉敷-通子の壮大なラブ・ストーリー』第2弾。
本作は文庫書き下ろし作で、本筋の内容は軽めにさらっとしたものになってます。 ~警視庁捜査1課・吉敷刑事はふと入った画廊で作者のない「羽衣伝説」という彫金作品を目にした。これは別れた妻・通子の作品なのではとの思いを掻き立てられた吉敷は、ホステス殺しの真犯人を追いつつ訪れた伝説の地で、意外にも妻の出生の秘密に行き当たることに・・・~ タイトルにある「羽衣伝説」とは、天橋立に伝わる民話のことです。(聞いたことある方も多いでしょう) 吉敷の慧眼により、通子の母親の事件も解決することになり、これで晴れて二人の仲も元通りになるのか? と思いきや、そうならない。 「大人の愛」ですねぇ・・・ケツの青い若造どもには決して理解できない本当の「愛情」というものが吉敷の言動からビンビン伝わってきます。 それにしても「謎の多い女」です。 真相は、「涙流れるままに」そして「龍臥亭事件」など、その後の作品で明らかにされていきますが、この時点では「まさかそこまでの広がりがあるなんて」想像もつきませんでした。 (女性の心理描写も作者の得意とするところ。本作もその辺りがよく伝わってきます。) |
No.7 | 8点 | 北の夕鶴2/3の殺人- 島田荘司 | 2009/08/27 22:31 |
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吉敷刑事の分数シリーズ第3作。
それよりも、『吉敷竹史と加納通子の壮大なラブ・ストーリー第1章』と呼ぶべきかもしれません。 吉敷が、別れた妻通子に久し振りに再会する場面から始まる本作は、その後、通子が住む北海道・釧路へ舞台が移動。吉敷は通子を救うため、長く苦しい戦いに身を投じていくことに・・・と書いていると、何だかハードボイルド作品のような気がしてきますが、実際「ハードボイルド」なんです! 特に、真犯人との最後の対決シーンは、「吉敷!頑張れ!」と心の底から応援したくなるような熱い思いを抱かせてくれる名シーン。 前作までは、クールで二枚目。どこか人間味の薄いキャラクターとして描かれたきた吉敷が、ここまで大変身するとは! そして、本作のもう1つの特徴が、島田的大物理トリック・・・ すごすきて声も出ません。「非現実的」と考える方は当然いらっしゃるでしょうが、そんなの関係ありません。どんなに荒唐無稽と言われようが、ここまでのスゴいトリックを見せつけられれば、十二分に満足できます。(このトリックはその後も形を変えて、「疾走する死者」など氏の作品で何回か登場します。) とにかく、その後の「吉敷-通子物語」の続編を楽しむためにも(特に「涙流れるままに」の感動を味わうためには)、本作は必読と言えます。 (寝台特急「ゆうづる」がタイトルになっていますが、最初の事件の舞台として軽く登場するだけなので、他にもっと適当なタイトルがあるような気がする・・・) |
No.6 | 4点 | 帝都衛星軌道- 島田荘司 | 2009/08/21 22:16 |
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表題作の前編・後編の間に「ジャングルの虫たち」という別の短編を挟み込んだ珍しい構成になっています。この2編は広い意味ではつながっていますが、直接の関連はありません。
「東京という都市論」と「冤罪事件」という、島田氏の2つのライフワークが融合された作品ですが、ミステリーという面では今一歩としか言いようがありません。何か消化不良といった感触が残る作品です。 |
No.5 | 5点 | 展望塔の殺人- 島田荘司 | 2009/08/18 21:46 |
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短編集。久しぶりに再読しました。初読のときは「とても良質な短編集」だったという覚えがあるのですが、今回はなにか食い足りないような感覚でした。
中では表題作が一番良いと思うのですが、動機については「どうかなぁ」という気がします。他の作品も初読時感じたほどの面白さは味わえませんでした。時代が変わったからですかねぇ・・・ |
No.4 | 9点 | 火刑都市- 島田荘司 | 2009/08/15 12:34 |
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吉敷刑事の上司、中村警部が活躍する珍しい初期作品。
「社会派」と称されることも多い作品ですが・・・ ~東京・四谷の雑居ビルの放火事件で若い警備員が焼死する。不審な死に警察の捜査が始まった。若者の日常生活に僅かに存在した女の影・・・。女の行方を追ううちに次の放火事件が発生した。今度は赤坂。そして、現場には「東京」という謎のメッセージが残される~ 今回の本筋は、東京の中心部で起こった連続放火事件と、ある1つの殺人事件。特に、放火事件の方は、まるで何かを象徴するように、地図上で「円」を描きながら続発していきます。 そして、現場に残された犯人のメッセージ「東京」(※本当は「京」の字が違うんですよねぇ・・・ただし、この字は変換できない!)。 島田氏のライフワークとも言える「都市論」、特に「江戸」と「東京」という2つの都市の歴史、相違点に気付いたとき、真犯人が浮かび上がります。 本作は、いわゆる「社会派的作品」と称されることが多いわけですが、確かに島田氏の明確な主張や考え方が読み手にもよく理解できるような気がします。 中村警部は、本作の主役としてまさに適役。 御手洗シリーズのような派手なトリックやプロットは全くありませんが、初期島田作品で共通する、何ともいえない味わい深い作品に仕上がっています。 (本作を読了後は、是非古地図を片手に外堀通り辺りをブラブラ散歩することをお勧めします。まさに「ブラタモリ」か「地井さんぽ」・・・) 因みに、中村警部は御手洗シリーズの短編「疾走する死者」にも登場。そこで御手洗のスゴさを実感したことで、その後「斜め屋敷」事件で困惑する牛越刑事に対して御手洗を推薦する・・・という展開につながっていきます。 |
No.3 | 8点 | 死者が飲む水- 島田荘司 | 2009/08/09 22:51 |
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御手洗シリーズ、吉敷シリーズの双方に登場する名脇役、北海道警の牛越刑事が唯一主役を張る作品。
個人的には、初めて読んだ島田作品になります。(珍しいかも) ~札幌の実業家・赤渡雄造の自宅に届いた2つのトランク。その中に入っていたのは、バラバラ死体となった赤渡本人だった。鑑識の結果、死因は溺死と判明する。だが、札幌署・牛越刑事の必死の捜査にも関わらず、関係者全員に鉄壁のアリバイが! 死者の飲んだ水に秘められた悲しき事件の真相とは?~ 2つの大型トランクの中に詰め込まれた男のバラバラ死体が、被害者の自宅に届けられるところから事件の幕が開き、やがて、札幌~水戸~東京の3地点を運ばれた「トランク」の動きが「鍵」に・・・ ここまで書くと、本作が鮎川哲也の名作「黒いトランク」へのオマージュ作品なのがよく分かります。(もちろん、F.Wロフツ「樽」や横溝正史「蝶々殺人事件」とも共通のプロットを含んではいますが・・・) ラスト、牛越と真犯人の対決シーンはなかなか読み応えがあります。 真犯人が仕掛けた「強力なアリバイトリック」が牛越の粘り腰で崩される瞬間が感動的! ただ、「現場」の位置に関する箇所は、土地勘でもない限り、読者が解明できる材料が薄いのがちょっとアンフェアと言えるかもしれません。 とにかく、普段の島田作品とは一味も二味も違うテイストを楽しめる佳作という評価ですし、作者の懐の深さを感じさせてくれます。 (初期作品の名バイプレイヤー・牛越刑事が唯一主役を張るのが本作。フレンチ警部など過去のあまたの凡人探偵を超える「凡人」ぶりが本作のポイント。でも、その凡人さが最後になって生きてくる・・・) |
No.2 | 5点 | 摩天楼の怪人- 島田荘司 | 2009/07/28 22:45 |
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御手洗潔シリーズですが、舞台はNY。
NYに留学中ということで、若き日の御手洗の姿がなかなか凛々しく描かれてます。 ~ニューヨーク・マンハッタン。高層アパートの1室で死の床にある大女優が半世紀近く前の殺人を告白した。事件現場は1階、そのとき彼女は34階の自室にいてアリバイは完璧だったというのに・・・。その不可能犯罪の真相は、彼女のいう「ファントム」とは誰なのか? 建築家の不可解な死、時計塔の凄惨な殺人、相次いだ女たちの自殺、若き御手洗が摩天楼の壮大な謎を鮮やかに解く!~ 今回は、マンハッタンに聳え立つ高層マンションが事件の舞台&主役。 嵐の日に起きた殺人事件、エレベーターが停止したにもかかわらず、50階から1階へテレポーテーションしたとしか思えない、という不可能状況に御手洗が挑む・・・というのが本筋。 トリックについては、読者に解明しろというのはちょっと酷じゃないかというレベルで、「へぇーそんな秘密があったのねぇー」というような読後感になっちゃいます。 この辺り、「荒わざ」とか「荒唐無稽」とか言われても、読者には想像可能な範囲内にあった初期~中期の作品に比べると、どうしても不満感が残る感じなんですよねぇ・・・(作者が進化したということかもしれませんが) あと、本筋とはあまりリンクしてませんが、摩天楼やNYセントラルパークの歴史などの薀蓄はなかなか面白く読ませていただきました。 (本作はタイトルからも分かるように、ルルー「オペラ座の怪人」が下敷きになってます。そういう意味では、自然に真犯人も分かっちゃうんですよねぇ・・・) |
No.1 | 7点 | 出雲伝説7/8の殺人- 島田荘司 | 2009/07/28 22:35 |
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吉敷刑事シリーズの第2作目。
今回の舞台は、山陰地方と寝台特急「出雲」! ~山陰地方を走る6つのローカル線の終点と大阪駅に女性のバラバラ死体が流れ着くという大事件が発生、なぜか頭部だけは発見されず。捜査の結果、被害者の女性は死亡推定時刻に「出雲1号」に乗車していたことが判明するも、容疑者には鉄壁ともいうべきアリバイが・・・~ 寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁に続く、吉敷刑事分数シリーズですが、猟奇的な殺害方法や不可能状況といった、初期島田作品に共通のガジェットが本作品でも多く取り入れられています。 列車を使ったアリバイトリックというと、好き嫌いの分かれる分野かもしれませんが、やはり島田流トラベルミステリーは一味も二味も違うというべきで、バラバラ殺人の必然性とアリバイトリックをうまい具合に処理しています。 ただし、この設定も今は昔。登場した列車やローカル線の大部分は今は消滅しているのが悲しい・・・ 事件の背景として引用される「ヤマタノオロチ」伝説へのなぞらえ方も見事に嵌っていて、水準以上のミステリーに仕上がっています。 (本作までの吉敷はキャラがはっきりしてませんね。その分、次作「北の夕鶴」での吉敷の変身振りに驚くことに!) |