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メルカトルさん
平均点: 6.02点 書評数: 1759件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.19 7点 合唱 岬洋介の帰還- 中山七里 2023/06/10 22:49
幼稚園で幼児らを惨殺した直後、自らに覚醒剤を注射した“平成最悪の凶悪犯”仙街不比等。彼の担当検事になった天生は、刑法第39条によって仙街に無罪判決が下ることを恐れ、検事調べで仙街の殺意が立証できないかと苦慮する。しかし、取り調べ中に突如意識を失ってしまい、目を覚ましたとき、目の前には仙街の銃殺死体があった。指紋や硝煙反応が検出され、身に覚えのない殺害容疑で逮捕されてしまう天生。そんな彼を救うため、あの男が帰還する―!!
『BOOK』データベースより。

こういうのを読まされると、やっぱり中山七里とは離れられないなあと思いますね。サブタイトルとなっている岬洋介始め、各シリーズの主役が次々に登場。御子柴礼司、犬養隼人、古手川和也・・・。まるでオールスターの様です。ストーリーは勿論よく練られていて、堅実な文体で読者を魅了します。

ミステリとしては法廷劇がメインとなりますが、それまでのプロセスが見逃せません。やや急ぎ足な感は否めません、それでもこれだけのキャストを揃え乍ら纏まりよく、必要最低限の情報を開示し、それらのピースを巧みに組み立てて事件の真相を白日の下に晒す手腕は大したものでしょう。その見せ方も堂に入っており流石だと思いました。
特に最終章は一気に読めます。誰が探偵役となるのかは伏せますが、とにかく圧巻の一言に尽きます。

No.18 7点 秋山善吉工務店- 中山七里 2021/01/22 22:35
父・秋山史親を火災で失った雅彦と太一、母・景子。止むを得ず史親の実家の工務店に身を寄せるが、彼らは昔気質の祖父・善吉が苦手。それでも新生活を始めた三人は、数々の思いがけない問題に直面する。しかも、刑事・宮藤は火災事故の真相を探るべく秋山家に接近中。だが、どんな困難が迫ろうと、善吉が敢然と立ちはだかる!家族愛と人情味溢れるミステリー。
『BOOK』データベースより。

イジメ、反社会的勢力、モンスタークレーマーに悩む母子を、まるで『スカッとジャパン』のように一刀両断で解決する祖父善吉の活躍を描く爽快な作品。第三章までは火災で父を失った息子の太一、雅彦、妻の景子の一人称で描かれ、それぞれの心情が痛いほど伝わってきます。善吉の出番は専ら終盤で、一体この老人は何者?と誰もが目を疑うような超人ぶりを発揮し、何事にも微動だにしない信念を見せつけます。又第三章では善吉に成り代わってその妻の春江がその老獪さで、クレーマーをやっつけます。しかし、それもまた善吉の助言によるものなのです。

第四章、最終章では刑事の宮藤が火災事故の真相を暴くミステリに変貌し、まるで万華鏡のように章ごとの色や模様を変え、様々な変容を見せます。その手際は見事の一言に尽き、流石に中山七里、その剛腕はまだまだ衰えを見せません。最終盤では思わず落涙してしまったのは私だけではないはずです。

No.17 7点 作家刑事毒島- 中山七里 2020/11/01 22:39
新人賞の選考に関わる編集者の刺殺死体が発見された。三人の作家志望者が容疑者に浮上するも捜査は難航。警視庁捜査一課の新人刑事・高千穂明日香の前に現れた助っ人は、人気ミステリ作家刑事技能指導員の毒島真理。冴え渡る推理と鋭い舌鋒で犯人を追い詰めていくが…。人間の業と出版業界の闇が暴かれる、痛快・ノンストップミステリ!
『BOOK』データベースより。

一読後中山七里やるなと思いました。なかなかここまで突っ込んだ内容の作品は書けませんよ。出版業界の闇と影の部分を鋭く抉っている訳ですが、誰にも忖度せず誰にも迎合せず、アンチが増えることを想定しながらも、読者や作家志望者を揶揄するような皮肉を多分に有し挑発する姿勢には感心しました。ここまでやればむしろブラックと言うより清々しさすら覚えます。それでいてミステリとしても中身がしっかりとしていて、凄く充実しています。最終話ではおそらく氏自身もジレンマに陥ったであろうと想像される、原作と映像化との乖離にも言及していますし、本作でかなり重要人物と目される人間でさえ、容赦なく天誅を下している辺り、並みの作家でないことを自ら証明しているとも言えます。

辛口オトメとか図書館ヤクザとか、どんな人権侵害をしているのだろうかと思いましたが、ちゃんとフォローしているではありませんか。図書館で借りられる境遇にいる人は図書館を利用すればいいし、借りた本に対してどれほどの書評をしようと構わないと言明しています。これは作者の最低限の配慮と良心だと思いますが。

No.16 7点 総理にされた男- 中山七里 2020/04/20 22:53
「しばらく総理の替え玉をやってくれ」―総理そっくりの容姿に目をつけられ、俺は官房長官に引っさらわれた。意識不明の総理の代理だというが、政治知識なんて俺はかけらも持ってない。突如総理にされた売れない役者・加納へ次々に課される、野党や官僚との対決に、海外で起こる史上最悪の事件!?怒涛の展開で政治経済外交に至る日本の論点が一挙にわかる、痛快エンタメ小説!
『BOOK』データベースより。

そもそもミステリではないので社会派に分類するのはどうかと思います。だったら何なのだと問われても答えようがない訳ですが。敢えて言えば政治エンタメ小説ですかね。
いくら総理大臣に瓜二つだからと言って、代理が務まるわけがない、早々に側近や国民に暴かれるだろう、という疑問には目を瞑るしかないでしょう。荒唐無稽ではありますが、そこを無視しなければ成立しない物語ですので。

政治素人の役者加納が、与党の官僚たちとの対面や、国会答弁、野党党首との会談などを演じていくうちに、次第に本気で日本の為にその身を捧げようとするその姿に読者は共感を覚えてくことでしょう。
そして訪れる対テロのクライマックス。ここまで小難しい政治経済や党内の各大臣の人間性や、憲法が抱える矛盾などを極力分かりやすく描かれており、それ故にここぞとばかり盛り上がります。
私のような政治経済にあまり興味のない者でも楽しめるのですから、やはり作者の技量は確かなものと思いますね。
何故この小説がNHK出版より単行本として刊行されたのか、読めば分かります。

No.15 6点 連続殺人鬼カエル男ふたたび- 中山七里 2019/04/11 22:27
凄惨な殺害方法と幼児が書いたような稚拙な犯行声明文、五十音順に行われる凶行から、街中を震撼させた“カエル男連続猟奇殺人事件”。それから十ヵ月後、事件を担当した精神科医、御前崎教授の自宅が爆破され、その跡からは粉砕・炭化した死体が出てきた。そしてあの犯行声明文が見つかる。カエル男・当真勝雄の報復に、協力要請がかかった埼玉県警の渡瀬&古手川コンビは現場に向かう。さらに医療刑務所から勝雄の保護司だった有働さゆりもアクションを起こし…。破裂・溶解・粉砕。ふたたび起こる悪夢の先にあるものは―。
『BOOK』データベースより。

必ず前作から読みましょう。でないと本作でも人間関係がよく理解できなかったりして、多分イライラすると思います。更には前作のネタバレをしていますので、その意味でも望ましくないでしょう。
残虐な事件の数々は雰囲気的に前作を踏襲しています(グロさも健在です)。それに加えて刑法第39条、ネット社会の問題点などを盛り込み、更に御子柴まで登場させて作品に厚みを加えていますが、構造は意外と単純ではあります。警察機構全体の動きが緩慢な嫌いがありますが、渡瀬と古手川のコンビがその分活躍して真相を追い、テンポは悪くありません。特に個人的に渡瀬の人間性が好みですね。ただ、中山が作家として成熟してしまって、前作と比較すると逆に荒々しさのようなものが薄れてしまっている気がします。続編としては成功の部類だと思いますが、やはり少々物足りなさを感じますし、前作と肩を並べる、或いは凌駕しているとは思いません。

No.14 6点 恩讐の鎮魂曲- 中山七里 2018/06/18 22:26
弁護士御子柴礼司シリーズ第三弾。本格ミステリというより、本格法廷小説ですね。
前二作に比べるとやや小粒の感は否めませんが、その分御子柴の内面がよく描かれていて人間臭さを感じさせます。
隅から隅まで良く出来た作品ではありますが、逆に言うと綺麗にまとまり過ぎており、サプライズ的にはやや物足りません。今回は意外な人間関係に驚きを覚えますが、どんでん返しとまでは言えないですね。そこに期待すると裏切られるかもしれません。

私の期待が高かったためにこの点数ですが、リーダビリティ、優れたプロット、冒頭の海難事故が物語にどう絡んでくるのかへの興味、介護施設での虐待問題、刑法第三十七条<緊急避難>の解釈など見るべき点も多く、さすがに人気作家中山七里と思わせるに十分な魅力を持っていると思います。
文庫化されたことで多くの方が読まれることを願っております。ただし、前二作を未読の方はそちらを優先させることをお勧めします。

No.13 7点 テミスの剣- 中山七里 2017/06/22 22:06
冤罪を扱った本作は、本格というより社会派の色合いが強いような気がします。それにプラス警察小説でしょうかね。
死刑の是非や司法から見た冤罪、旧態依然とした警察の体質の問題など、様々な問題提起に色々考えさせられる作品だと思います。中山氏の作品は一本筋が通ったものが多いですが、これもまた通底する問題意識は他に劣らず根深いものと感じます。
ストーリーも最初は単純な冤罪かと思いきや、のちのち意外な人物が浮かび上がってきたりして、予想を超えた展開を迎えます。
派手さはありません、むしろ地味な捜査の描写が続きます。しかし、この作者の筆致は退屈さとは無縁で、何を書かせてもついのめり込んでしまいます。それはもはや天性のもので、まさにミステリを書くために生まれてきたのではないかと思えるほど、その才能をいかんなく発揮しています。
メイントリックは確かに盲点を突いているものの、あまりに大胆すぎると思います。普通は敢えてそのような犯行手口を使うのはやはり無理があるのではないかと。
尚、『静おばあちゃんにおまかせ」の高遠寺静が裁判官として登場します。チョイ役とかではなく、かなり重要な役どころですので、こちらもファンとしては見逃せませんね。

No.12 7点 いつまでもショパン- 中山七里 2017/06/10 22:12
全体の何分の一かはショパン・コンクールのピアノ演奏の描写に終始します。私にはおそらくその一割程度しか理解できていないと思いますが、表現力豊かで迫力ある描写には凄みがあります。ただショパンに詳しくない読者にはちょっと退屈かもしれません。
しかし各国の代表が参加するコンクールは、最後まで誰が優勝するかわからないため、その意味でも興味深く読めます。とてもインターナショナルな空気感が漂いますし、参加者の一人である岬洋介は果たしてどうなるのかにも心情が持っていかれます。
ミステリとしての焦点はやはり「ピアニスト」と呼ばれるテロリストの正体に尽きます。それと殺害された刑事の指が切り取られていた理由も一応謎として残りますが、これはいたって単純なもので、あまり期待しないほうがよろしいかと思います。ですから、ミステリ・パートは短いしいささか弱いため、本格物としてはやはり薄味でしょう。しかしその代わりと言っては何ですが、エンターテインメントとしてはかなり出来の良い作品だと私は思います。
ピアノ・コンクールという大きな柱に細かなエピソードの数々を枝葉のように添え、出来上がったのはクラシック音楽とミステリを巧妙に組み合わせた、寄せ木細工のような佳作でした。

No.11 7点 ヒポクラテスの誓い- 中山七里 2016/07/07 22:25
法医学教室での人間模様と、一見事件性がないように見える遺体を司法解剖し、そこから見えてくる真実を緻密なタッチで描いた連作短編集。佳作である。
主役は単位不足のため法医学教室に送り込まれた真琴、傲慢で我が道を行く解剖の天才光崎教授、外国人なのに日本語が堪能なキャシー准教授の三人。そこにおなじみの古手川刑事が絡んでくる。
どの短編もレベルが高く、単純に思える事件が司法解剖を行うことにより意外な事実が浮かび上がってくるところは共通している。専門用語が散見されるが、医学に詳しくない一般の読者にも比較的理解しやすいように書かれており、しかもその結末は様々な意味でのカタルシスを生み出すのだ。さらに、解剖に反対する遺族をいかに説得するかも、読みどころであり、サスペンスフルな展開となっている。
中には涙を誘うシーンなどもあり、物語は意外に起伏に富んだものが多く、読者を惹きつけて離さない魅力に溢れている。この辺りはさすがに中山氏の本領を発揮していると思われる。

No.10 8点 追憶の夜想曲- 中山七里 2016/04/15 22:13
うーむ、これは7点以下は付けられないな。
法廷ミステリでありながら、根幹はまごうことなき本格ミステリだ。主人公、悪辣弁護士御子柴と検事岬(岬洋介の父親)の対決は読み応え十分だが、それよりも逆転裁判が現実のものとなったのちの結末が素晴らしい。
単純に思えた事件の顛末は意外性に満ちており、これほどまでにドラマチックな物語に昇華してしまう手腕はさすが中山氏といったところであろう。すべての登場人物にしっかりとした役割が与えられており、その意味でも大変密度の高いミステリに仕上がっているように思う。
探偵役は御子柴だが、彼はなんと○○○でもあるのが新しい。
とにかく完成度の高い本格ミステリであり、一気読みがお勧めだ。文庫化されたこの機会にぜひみなさんに読んでいただきたいものだ。

No.9 4点 スタート!- 中山七里 2015/04/14 22:00
自らの第三長編『災厄の季節』(のちに『連続殺人鬼カエル男』に改題し刊行)を原作として映画化、そのクランクインから一般公開までの、映画製作に賭ける男たちの真摯な格闘を描いたミステリ。
ミステリの要素は刺身のツマのようなものであり、おまけ程度で、ほぼ全編映画に携わる人々の姿を描いた娯楽作品と言える。したがって、あくまで映画マニアのための小説であり、ミステリファンが読むものではない。一応殺人も起こるが、若干意外な犯人以外はこれといったトリックもなく、ミステリとしてはとるに足らないものとなっているのは残念な限りであった。
かと言って、映画に関する薀蓄が披瀝されるわけでもなく、その意味でもいかにも物足りなさを感じる。
Amazonの評価はやはりあてにならないことを、改めて思い知らされた一作であった。

No.8 6点 七色の毒- 中山七里 2015/02/07 22:14
異なる社会問題をテーマやテイストにした、中山氏らしい本格ミステリの連作短編集。主役となる刑事は犬養隼人で、前作『切り裂きジャックの告白』でも活躍している。シリーズ第二弾ということになる。
それぞれの短編が標準を超えており、お得意のどんでん返しが味わえるが、世界が反転するような派手なものではなく、ちょっと気の利いた切り返しと言えるだろう。中でも驚かされるのは『白い原稿』で、これはなんとあの出来レースと噂されたポ○○社が有名俳優に新人賞を与えて話題となった、あの作品をモチーフにしている。しかも、鋭く出版業界の内幕を暴いて、相当な問題作と思われる。
他の作品も、色合いがすべて異なっており、読者に飽きさせない努力が認められ、好印象である。
それにしても、この人の刊行ペースは驚くべきものがあるが、その割には質が落ちないのが素晴らしいところだと思う。すでに独自のワールドと呼んでも差し支えないような、登場人物の系図を展開しているのも、ポイントが高い。

No.7 6点 静おばあちゃんにおまかせ- 中山七里 2015/01/30 22:13
孫娘円(まどか)が持ち込んでくる日常の謎を、静おばあちゃんが安楽椅子探偵よろしく解明していく物語、ではない。
基本的には真っ当な本格ミステリで、れっきとした殺人事件を扱った短編集である。しかも、不可能趣味が加味されており、トリックなどに新味はないものの、どことなく引き込まれる筆力はさすがだと思う。
流れとしては全話を通して共通しており、刑事の葛城が奇妙な殺人事件を担当する→円に協力を求める→円が静おばあちゃんに事件の概要を伝える→静おばあちゃんがあっという間に真相を暴く→円が葛城にそれを教え、事件解決というもの。
最終話では意外すぎる真実が明らかになり、口あんぐりとなること間違いなし。続編を期待するも・・・な感じに。
個人的には第一話が特に印象深い。最終話では涙を誘うシーンもあり、粒揃いの短編集と言えるだろう。

No.6 6点 切り裂きジャックの告白- 中山七里 2015/01/04 22:52
事前に予想していたが、本家切り裂きジャックとはあまり深い関わりはない。序盤で明らかになるが、それよりも臓器移植の問題に真正面から取り組んでいるところから、社会派ミステリとも取れるような作風である。私見ではどちらかと言うと本格寄りだと思うが、いろいろ考えさせられる辺りは、単なる本格ミステリではない。
主役は犬養警部補だが、登場人物が多く、誰に感情移入するかは人それぞれだろう。私の場合は涼子の気持ちが最も心に響いてきた。自分の息子の各臓器が、レシピエントの体の一部としてその機能を果たしているというのは、ある意味息子が生きているとも解釈できるわけで、それがストーリーの一部分を支えてもいるし、エピローグで生きてくるのである。
また、犬養とコンビを組むのは『カエル男』の古手川で、彼は以前に比べてずいぶん成長しているように感じられる。ややぶっきらぼうな態度は相変わらずだが、刑事としての資質がうまい具合に開花しているのが、本作に花を添えていると思う。
まあとにかく、ミステリとしては勿論だが、臓器移植問題を考える上でも一読の価値があるだろう。

No.5 8点 贖罪の奏鳴曲- 中山七里 2013/12/03 22:29
一部を除いて重苦しい雰囲気に覆われている。それもテーマがテーマだけに仕方ないのかもしれないが。
途中まではどこに重点を置いて読み進めればいいのかが判然とせず戸惑ったが(その辺りは解説を参照されたい)、終盤、一気に加速し俄かに焦点が鮮明に合いはじめ、全体像が明らかになる。その過程は『カエル男』に酷似している。まさに中山氏の本領発揮と言っていいだろう。
作者お得意の畳みかけるようなラストの逆転劇は、読者を酔わせること請け合い。
蛇足だが、個人的に第三章を頭に持ってきた方が読みやすく、スッキリするのではないかと思った。まあしかし、そんなことはどうでもよくて、これは相当な傑作だと言えるのではないだろうか。
やや読み難い部分もある気がするが、色々な意味で勉強にもなるし、なかなか強烈な余韻を残す作品であるのは間違いない。

No.4 6点 おやすみラフマニノフ- 中山七里 2013/10/15 22:15
ミステリとしてはかなり弱い、と言うより体裁はミステリに近い形をとっているが、その中身はクラシック音楽に身を預けた若者たちの青春群像劇であろうか。
だから、クラシックの演奏シーンになると俄然生き生きとしてくるのも良いのやら悪いのやら。確かに訳も分からず読んでいても、知らぬ間に感動している辺りは、さすがに描写が優れている故だろうと思う。
しかし完璧な密室からのチェロの消失と言う、魅力的な謎のトリックはいかにもチャチでとても褒められたものではない。
おそらく高得点を付けた方はミステリの部分以外の、小説としての魅力に対して評価されているものと思われる。それはそれで文句はないが、やはりミステリとして評価するとなれば、この程度の点数が妥当ではないだろうか。
ところで、舞台が名古屋だから須垣谷教授と言うのはちょっと安易な気もするが。まあ蛇足だけど。

No.3 6点 魔女は甦る- 中山七里 2013/08/18 22:26
80個以上の肉片と化した細切れ死体、謎の薬品会社、何匹もの飼い猫の失踪、嬰児の誘拐と、序盤の掴みは完全にOK。
ダークな雰囲気も好みの範疇にあるので、読んでいて何ともやるせない気持ちにさせられるのは事実だが、苦痛とは感じなかった。
ただ残念なのは、真相の説明があまりにもあっけないこと。それまでの捜査で色々な事実が詳らかにされているので、それで十分納得はできるわけだが、それにしても何ともあっさりしすぎている。
それと犯人像、これにはいささかがっかりである。
我々読者はこういうのを求めているのではない、とだけ言わせていただこう。
本作は、実質的なデビュー作のようなものなので、やや荒削りな面があるのと、『ドビュッシー』や『カエル男』のようなどんでん返しを期待すると裏切られるので、これから読もうとする人は気を付けたほうが良い。
そして、事件を捜査する刑事達や被害者を含めて、多くの登場人物がそれぞれ暗い過去を背負っていること、事件の解決があまりに救いのないものになってるので、後味はかなり悪い。
それでも、続編の『ヒートアップ』は文庫化されたら読みたいとは思っている。

No.2 8点 さよならドビュッシー- 中山七里 2013/03/15 22:22
『カエル男』も良かったが、本作も負けていない。
私のようなクラシック音楽の素養がない者でもそれなりに楽しめたのだから、そちら方面、特にピアノ協奏曲や練習曲に詳しい人なら更に面白く読めるに違いない。
ただ、専門用語などはそれほど出てこないが、やはり本作に登場する曲を知っていたら、と思うと少し残念な気もする。
火災で大やけどを負った少女が、ピアノ・コンクールを目指して猛特訓をこなし、いかにハンディを克服していくのかが主題の、いわば音楽スポ根ものかと思いきや、本格ミステリの部分もしっかりしており、その二つが実に上手く絡んで、見事な音楽ミステリに仕上がっている。
そして想像もしていなかった衝撃の真実には、誰しもが目を疑うだろう。
探偵役の岬も爽やかで、好感が持てる。

No.1 8点 連続殺人鬼 カエル男- 中山七里 2011/03/19 23:44
本作は、『このミス大賞』に同作家の『さよならドビュッシー』とともにダブルエントリーされた作品で、こちらのほうを読みたいとの読者の声が多く、刊行されたいわくつきの作品である。
マスコミによって「カエル男」と名付けられた連続殺人鬼を追う刑事達を描いた、サイコ・サスペンスといえるであろう。
いささかエグい描写があるので、特に女性読者は要注意だが、意外と骨格はしっかりしている印象だ。
果たして「カエル男」の目的は何なのか、単なる無差別殺人なのか、それとも殺人快楽症なのか、その辺りが本作の一つの眼目といってよいと思う。
主人公の刑事、古手川がボンクラであることや、少なからず疑問を抱かざるを得ない箇所があること、やや冗長なシーンなど、細かい欠点はいくつもある。
しかし、それらを補って余りある面白さであり、後半の畳み掛けるようなどんでん返しの連続は見事といってよいと思う。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 他多数
採点傾向
平均点: 6.02点   採点数: 1759件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
アンソロジー(出版社編)(23)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
折原一(19)
中山七里(19)
日日日(18)
森博嗣(17)