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メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1829件 |
No.889 | 7点 | 女が死んでいる- 貫井徳郎 | 2018/09/19 22:24 |
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二日酔いで目覚めた朝、寝室の床に見覚えのない女の死体があった。玄関には鍵がかかっている。まさか、俺が!?手帳に書かれた住所と名前を頼りに、女の正体と犯人の手掛かりを探すが―。(「女が死んでいる」)恋人に振られた日、声をかけられた男と愛人契約を結んだ麻紗美。偽名で接する彼の正体を暴いたが、逆に「義理の息子に殺される」と相談され―。(「憎悪」)表題作他7篇を収録した、どんでん返しの鮮やかな短篇集。
『BOOK』デーベースより。 同名の初版はお笑いコンビ『ライセンス』の藤原をモデルに、グラビアと小説を合体させた単行本。 私が読んだのは同じ角川から8月に出版された文庫本で、『女が死んでいる』以外内容は全くの別物の短編集になっています。 貫井徳郎、流石だなあと思いました。一々面白く、切れ味鋭く、いずれ甲乙つけがたい秀作短編がズラリと並びます。本格度が高くなる程、トリックに関しては腑に落ちるというか、着地すべきところに着地している感じです。逆に本格から遠ざかるにつれ、意外性を発揮します。どちらが良いとも言えません、つまりはどれを取っても一級品なのではないかと。 本作のウリであるどんでん返しについては、これは凄いというのもあれば、まあそうなるだろうなというものもありますが、フェアプレイを貫いている姿勢は立派だと思います。 ミステリファンだけでなく一般読者にも広く読まれることを祈ります。 |
No.888 | 5点 | ナナフシの恋- 黒田研二 | 2018/09/12 22:29 |
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一学期の終業式、彼女は教室から飛び降り自殺を図った。夏休みが終わろうとするある日、親友の沙耶は一通のメールを受け取る。それは意識不明のはずの彼女から届いたメッセージだった。「明日の昼1時、私たちの新しい教室で待ってます」。集められたのは6人のクラスメイト。誰があたしたちを呼びだした?―。
『BOOK』データベースより。 それなりに面白いんだけど、場面設定が一貫して教室内だけなので、ちょっと飽きてしまうしダレます。もう少し変化が欲しかったところですね。プロットと言うか構成の問題でしょう。他の作家なら意識不明のクラスメイトの現在のシーンを挿入するなり、工夫を施したのではないかと思います。 青春小説としての一面も持ち合わせていますが、誰にも感情移入できず、中途半端な印象を受けます。それぞれ個性的に描かれているのは良いとしても、心の深奥までは程遠く、結果駒のように扱われているのがどうにも首肯できかねます。 それと、延々意識不明の少女の過去を詮索していますが、第一に問題となるのは果たして誰が6人を呼び出したかじゃないですかね。そこが端折られているのは読者として納得がいきません。 最終章の仕掛けというかトリックには驚きました、と言いたいところですが、予想通りでした。結局、このアイディアを生かしたいがために長々と物語は綴られているのだと思いますが、こういうのは短編で十分ですね。 |
No.887 | 7点 | 死と砂時計- 鳥飼否宇 | 2018/09/09 21:39 |
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死刑執行前夜に密室で殺された囚人、満月の夜を選んで脱獄を決行した囚人、自ら埋めた死体を掘り返して解体する囚人―世界各国から集められた死刑囚を収容する特殊な監獄で次々に起きる不可思議な犯罪。外界から隔絶された監獄内の事件を、老囚シュルツと助手の青年アランが解き明かす。終末監獄を舞台に奇想と逆説が横溢する渾身の連作長編。第16回本格ミステリ大賞受賞作。
『BOOK』データベースより。 登場人物が多国籍であり、どことなく異国情緒を漂わせる本作はしかし、死刑囚ばかりが収容された監獄が舞台となっています。この閉ざされた異空間で様々な事件が起こります。その謎はとても魅力的なものばかりで興味が尽きませんが、トリックや殺害方法等にはいささか無理があるように思います。現実的にとても不可能であったり、細かい瑕疵がいくつか見られます。ですが、犯罪心理的或いは整合性という点でなるほどと思わせるだけの説得力は有しています。 どれも甲乙つけがたい佳作が並んでいますが、やはり最終話は掉尾を飾るに相応しい、読み応えのある納得の出来に仕上がっているように思います。途中から何となく先が読めてきますが、あの幕切れの衝撃は思わず心の中で叫ばずにはいられませんね。そんなバカな!と。 |
No.886 | 5点 | 夜鳥夏彦の骨董喫茶- 硝子町玻璃 | 2018/09/03 22:15 |
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女性客でにぎわう小さな骨董品カフェ『彼方』。そこには物腰が柔らかくて黒尽くめ、自らを「人間ではない」と称するあやしげな店主、夜鳥夏彦がいる。幸か不幸かそんな夜鳥に気に入られたアルバイトの大学生、深山頼政は、昔から「物」に触れるとかおしな映像が見えてしまう困った体質。そのために、曰く付きの骨董品や依頼人がくるたび、厄介なトラブルに巻き込まれてしまい…!?日常に潜む奇怪な現象に挑む、アンティーク・オカルトミステリ!
『BOOK』データベースより。 こうした作品は内容云々よりもまずキャラが大切です。頼政はともかく夜鳥夏彦の個性が変人ではあるものの、あまり魅力的な感じがしないのがどうも。怪しげな物語や悲惨な境遇に置かれた人間などが描かれている割りに、文体が軽いためどうしても薄っぺらな印象が拭えません。昨今流行のライトなミステリの範疇に入り、しかもシリーズ化されることを前提に書かれているので、今時の読者には幅広く受け入れられると思われます。当然、骨董に関する薀蓄などは語られません。 独創的な世界観は買えるものの、もう少しどうにかならなかったものかと強く感じますね。決して悪くはないんですが、すぐに忘れてしまいそうな、そんな作品です。 ちなみに、誤字脱字が非常に多いのも残念。 |
No.885 | 6点 | 症例A- 多島斗志之 | 2018/08/30 22:26 |
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精神医療に対する傾倒と情熱は、その夥しい参考文献を見るまでもなく十分に伝わってきます。作者はこの作品を執筆する前にさぞかし勉強されたことと思います。それは実際にカウンセラーの仕事をしている解説者の談からも分かります。
物語としては、ある精神病院と博物館のパートが交互に描かれていますが、正直後者はサイドストーリーであり余分だと個人的には感じます。それを思い切って省いてもう少しスリムにしたほうが、構成としてはすっきりして良かったのではないかと思わないでもありません。 この長い長い、実に丹念に描かれた作品の事実上のクライマックスは、なんと言っても岐戸医師の登場する件で、このシーンは特に引き込まれます。 ここで姿を現す症例は俄かに信じがたいものがあります(実際、映画や小説にはよく出てくるものの、本当に病気として存在しているのかどうか半信半疑な部分がおおいにある)が、それを実にリアルで本当かもしれないと思わせる筆力は流石です。 ミステリではないと思いますが、真正面から精神分裂病や臨床心理学、解離性同一性障害などと向き合う作者の真摯な姿勢は素晴らしいと思います。 |
No.884 | 7点 | 去年の冬、きみと別れ- 中村文則 | 2018/08/24 22:05 |
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芥川賞作家はどんなミステリを書くのかな、という興味本位で読み始めましたが、下手なラノベなどより余程読みやすく、クセのない文章で安心しました。最初はサスペンスを想起させる出だしでしたが、意外なほどしっかりとしたミステリに仕上がっていると思いました。ただ、プロットが少々入り組んでいてスッキリ爽快という訳には行きません。それは作品の性質上仕方ないですが、トーンが全般的に暗いですね。
確かにどこからが解決編なのか、やや判然としない印象もあります、というかいきなり真相が語られるため突如緊張感を強いられたりします。 トリック自体は少々無理がありそうな気もします。その程度の工作で果たして警察の目が誤魔化せるのか、その意味では現実味が薄いのではないかと思います。ですが、解説で作者自身が語っているように、総ての伏線が回収されているのはお見事ですね。 最後の一文が問題になっているようですが、被害者が仮名なので分かりづらいのかもしれませんが、そこをクリアすれば考えるまでもないでしょう。 面白いとかの物差しで計るべき作品ではない、それだけでは語り切れない、まさに異色作だと思います。地味なのにこれだけヒットした理由が分かる気がします。 |
No.883 | 7点 | 刑事のまなざし- 薬丸岳 | 2018/08/22 22:16 |
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良作が並ぶ刑事・夏目信人シリーズ第一弾の連作短編集。
どれも甲乙つけがたい作品ばかりですが、これといって突出したものはない印象です。しかし、なかなかの高水準を保っていると思います。 ヒーローではない、刑事らしくない優しさを持った主人公の夏目は、その心情が描かれていないためどこか謎めいていますが、人間の良心の象徴としての存在を表しているのではないでしょうか。 薬丸岳という人は、被害者が加害者に様変わりする構図を得意としているようですね。そこには理不尽とも言える現実に抗おうとして苦悩する生身の人間が描かれており、総ての作品において何が正義なのかを読者に問おうとしているように思われて仕方ありません。 ミステリとしては、それほど複雑な構造ではありませんが、程好い意外性が読んでいてなるほどと思わせ、そして静かに訴えかけてくるような短編集と言えると思います。 また、個人的に気になるのは夏目の娘で、彼女の未来には一体どんな境遇が待っているのか、どうかそれが幸福であることを祈るばかりです。 |
No.882 | 7点 | 闇の底- 薬丸岳 | 2018/08/17 22:10 |
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幼女に対する性犯罪、司法の在り方、被害者の遺族の憤りと深い憎しみ、「社会派」として色々考えさせられる作品でした。その割にはリーダビリティに優れているためか、すんなり読めます。重いテーマを巧妙にエンターテインメントに昇華しているとは思いますが、深く掘り下げられているかというと、そうでもない気がします。まあ、これ以上ディープに過ぎるとそれはそれで胃がもたれそうですが。
ミステリとしては一貫してフーダニットに拘っています。果たしてサンソンは誰なのか、最後の最後まで予測がつきません。見事にやられた感じですね。本格ではないので伏線や手がかりなどで犯人を推理できる仕組みにはなっていませんが、意外性は買えます。 ラストは意見の別れるところだと思いますが、個人的にはそうあって欲しくなかったなというのが正直な感想です。 しかし、どこまでも破綻することなくよく考えられたストーリーだと思います。テンポもいいですしね、時間があれば一気読みするのが理想じゃないでしょうか。私のようにいちいち立ち止って無駄に時間を掛けるのがもったいないような作品です。 |
No.881 | 5点 | 言壺- 神林長平 | 2018/08/12 22:07 |
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万能著述支援用マシン“ワーカム”に『言語空間が揺らぐような』文章の支援を拒否された小説家・解良翔。友人の古屋は解良の文章の危険性を指摘する。その文章は,通常の言語空間で理解しようとすると,世界が崩壊していく異次元を内包しているのだ。ニューロネットワークが全世界を繋ぐ今,崩壊は拡大されていく…第16回日本SF大賞受賞作品。
「BOOK」データベースより。 言葉を様々な角度から鋭く抉る本格SF小説。テーマがテーマだけに文章が非常に硬質ですね。もう少し柔らかくユーモアを交えても良かったのではないかと思います。 『私を生んだのは姉だった』この矛盾した文章をワーカムは当然のごとく受け付けません。小説家解良はいかにしてこの問題を解決に導くのかが読みどころの『綺文』など、奇想が連打される連作短編集となっています。 SFファンには堪らない内容となっているように思いますが、句点を排除した『乱文』などは私には全く理解不能でした。と言うか、途中で放棄したくなります。まあ短いのが救いでしたが。全体的に鮮やかなオチや収束を期待すると裏切られるかもしれません。 |
No.880 | 7点 | 死者のための音楽- 山白朝子 | 2018/08/05 22:12 |
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教わってもいない経を唱え、行ったこともない土地を語る幼い息子。逃げ込んだ井戸の底で出会った美しい女。生き物を黄金に変えてしまう廃液をたれ流す工場。仏師に弟子入りした身元不明の少女。人々を食い荒らす巨大な鬼と、村に暮らす姉弟。父を亡くした少女と巨鳥の奇妙な生活。耳の悪い母が魅せられた、死の間際に聞こえてくる美しい音楽。人との絆を描いた、怪しくも切ない7篇を収録。怪談作家、山白朝子が描く愛の物語。
「BOOK」データベースより。 乙一が山白朝子名義で怪談専門誌『幽』に寄稿した作品を纏めた短編集。 ジャパニーズ・ホラーというか怪談、いいですねえ。表題作はあまりピンと来ませんでした、『鬼物語』はただただ怖いだけであまり感心しませんが、その他はどれも佳作揃いと言っていいんじゃないでしょうか。いかにも乙一らしい、怖くておぞましいけれど、どこか切なく優しい面を覗かせる逸品が並びます。 経験がないのに懐胎してしまう女の物語『長い旅のはじまり』、最後にエッジを効かせた『黄金工場』も良いですが、個人的には『鳥とファフロッキーズ現象について』がイチオシですね。大型の名前も知れぬ鳥と、父娘との温かい交流と残酷な最後、これは泣けます。 しかし、最も氏の本領を発揮しているのは『井戸を下りる』でしょうか。この怪しげな世界観は最早誰にも真似できないといっても過言ではないと思います。 |
No.879 | 6点 | 黒百合- 多島斗志之 | 2018/08/01 22:27 |
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細かすぎて伝わらないモノマネ選手権じゃないけど、伏線とミスリードが細かすぎて伝わらないミステリって感じの作品。
探偵役がいない為、結局犯人の名前さえ明示されないとは。それくらい推理せよということだと思いますが、ちょっと不親切ではないでしょうかね。あまりにも説明不足です。ラストでえっ?とはなりましたが、一瞬それが何なのと。そしてよくよく考えてみれば・・・あれがああなって、あの人があの人でと、色々思い返してみて漸くなるほどと思えるみたいなね、もう頭が混乱して一度整理してみないとよく理解できない小説です。 一見青春小説としか思えないですが、一皮剥けば作者のずる賢い企みと欺瞞に満ちたミステリが徐に姿を現します。その意味ではなかなか稀有な小説だと思いますが、上手く融合されているとは言い難く、二種類の物語に分離されていると思われても仕方ないでしょう。 それにしても、この手の小説はせめて解説で断りを入れてネタばらしをしないといけないんじゃないですか。解説者も関係ない話に終始して肝心なところを省いてしまっちゃダメでしょうよ。 明快な解決編を楽しみたい本格ミステリファンにはお勧めできませんが、二度読み覚悟で自力で読み解き、達成感を得たい方は楽しめると思います。 |
No.878 | 6点 | 絞首台の黙示録- 神林長平 | 2018/07/27 21:53 |
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一読後、奇妙な小説だと思いました。面白いかどうかという観点に立てば、面白くはないです。しかし、これまで体験したことのないような不確かな、不安定な気分にさせられる作品であることは間違いありません。
信仰、宗教、意識、死、憑依、クローンなどのガジェットが入り乱れ、混沌とした世界を繰り広げ、何度も何度も繰り返し同じテーマが議論される様は、まさに堂々巡りの様相を呈しています。作者はそれを否定していますが、普通の作家が10ページで書くことを、この人はその何倍ものページ数を割いて、執拗に読者を追い詰めようとします。というか、自分で自分の首を絞めているような気さえします。 結局何がどうなったのか、誰が誰なのか、どのような世界観を体現しようとしているのか、細心の注意を払って読まなければ最後の最後まで分かりません。じっくり読んでも、おそらく作者の意図していることを十全に理解できる読者はほとんどいないかもしれません。 ジャンルとしてはSFだとは思いますが、幻想小説の色も濃く、何とも言いようのない怪作ということになるでしょうか。 断っておきますが、本作は万人受けする作品ではありません。多少頭が痛くなっても未体験ゾーンを味わってみたい人のみ読まれるのがよろしいかと思います。 |
No.877 | 7点 | MM9- 山本弘 | 2018/07/22 22:00 |
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地震、台風などと同じく自然災害の一種として“怪獣災害”が存在する現代。有数の怪獣大国である日本では、怪獣対策のスペシャリスト集団「気象庁特異生物対策部」、略して「気特対」が日夜を問わず日本の防衛に駆け回っていた。多種多様な怪獣たちの出現予測に正体の特定、そして自衛隊と連携するべく直接現場で作戦行動を執る。世論の非難を浴びることも度々で、誰かがやらなければならないこととはいえ、苛酷で割に合わない任務だ。それぞれの職能を活かして、相次ぐ難局に立ち向かう気特対部員たちの活躍を描く、本格SF+怪獣小説。
「BOOK」データベースより。 本格怪獣小説かつSF作品。充実した内容で特撮ファンは必須アイテムと思われます。 多重人間原理、神話宇宙などの多少小難しい理論が出てきますが、理解できなくても全く問題ありません。ただただ、気特対の活躍と、個性溢れる怪獣たちの暴れっぷりを堪能して楽しむ娯楽作と割り切ればいいのです。そうすれば必ず誰が読んでも満足できると私は信じます。 中でも気特対の部員で主役級のさくらと少女怪獣のヒメには思わず感情移入してしまいます。映画『キングコング』を彷彿とさせるシーンなど、一脈通じる部分があるようにも思えます。 ちなみに気特対はそう、科学特捜隊、略して科特隊をもじったものと推測できますね。忘れていましたが、MMとはモンスター・マグニチュードの略で、怪獣のスケール、被害の度合い(推定)を測る尺度です。 |
No.876 | 5点 | レスト・イン・ピース 6番目の殺人鬼- 雪富千晶紀 | 2018/07/16 22:20 |
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大学生の越智友哉は、中学の同窓会に参加することに。しかし集まったメンバー達は、一様に何かに怯えていた。そんな中、1人が突如変死する。実は既に元級友が6人も、謎の死を遂げているという。更に続く旧友の死に、友哉は元彼女のリカらと共に調査を開始。近現代の連続殺人犯たちをモチーフにした、テーマパークのホラーハウス、“殺人館”の呪いではと推測するが…。このどんでん返し、予測不可能!究極のホラーミステリ、登場!!
「BOOK」データベースより。 そりゃあ予測不可能ですよ。確かにどんでん返しですよ。でもねえ、そこに至るまでが。文章や構成が下手、もしこれを手慣れた作家が手掛けていればそれなりの傑作に化けたかもしれませんね。 例えば「息を吐いた」という文言が十回以上出てきます。表現力不足なのか、くどいのか分かりませんが、正直またかと何度も思いました。その度にやるせない気持ちにもなりましたよ。もう少し読ませてくれないと、若干飽きが来ます。人間も描けてません、全く無個性の学生たちがどんな言動をしようと、少しも心が動きませんよね。 内容的にはホラー半分ミステリ半分って感じです。 あるトリックが効果的に使用されていますが、多くの読者は最後まで騙されると思います。その意味ではまあ作者の狙いは成功なのでしょう。決してアンフェアという訳ではありませんが、やられた感やカタルシスは生まれません。何故ですかね。 |
No.875 | 7点 | 蟻地獄- 板倉俊之 | 2018/07/11 22:22 |
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二村孝次郎は、親友の修平と共に一攫千金を目論み、裏カジノに乗り込む。大金を手に入れたかと思いきや、イカサマは見破られていた。5日後までに300万円を差し出さなければ、人質にとられた修平は殺される。金をつくるため、孝次郎が向かった先は、青木ケ原樹海。19歳の青年は奔る!地獄から生還するために―。圧倒的筆力で読む者を欺く、超弩級ノンストップ・エンタテインメント!
「BOOK」データベースより。 お笑いコンビ『インパルス』の板倉俊之による長編第二作。 板倉氏は好きでも嫌いでもないですが、多分頭の良い人なんだろうなという印象は持っていました。しかし、これ程の才能の持ち主とは思いもよりませんでした。 予測不能なストーリー展開、すんなり頭に入ってくる、流れるような筆運び、個性的な人物造形、どれを取っても玄人はだしです。世間的には「所詮お笑い芸人が片手間に書いた小説もどき」と捉えられている風潮もあるようですが、この人は本物だと私は思います。何より、この世界観にのめり込めます、時を忘れて読み耽られます。それだけで十分じゃないでしょうか。 サスペンスとして登録しましたが、様々なジャンルが混在していますので、一言で言えばやはりエンターテインメントですね。冒頭の蟻地獄のエピソードからして、これは間違いなく面白いはずだと感じました。 あらゆるシーンに伏線が張り巡らされており、そこだけなら本格ミステリのようでもあります。小気味良いアクション、手に汗握るスリル、トラップの仕掛け合い、そしてヒューマンストーリーなどが存分に堪能できます。 また、命の大切さを教えてくれます。 |
No.874 | 6点 | 新鮮 THE どんでん返し- アンソロジー(出版社編) | 2018/07/06 22:42 |
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気鋭による「どんでん返し」がウリの短編集。
『密室竜宮城』 青柳碧人 お伽噺の『浦島太郎』そのままの設定。助けた亀に連れられて竜宮城に来てみれば、謎の密室殺人事件が。 『居場所』 天祢涼 前科持ちの八木は、過失致死で殺してしまった少女を想起させる女子高生マナを執拗に追い回すが、それを知った若者にある取引を持ち込まれる。 『事件をめぐる三つの対話』 大山誠一郎 一見普通の殺人事件だが、なぜ死体を移動させたかが焦点に。説明文を排除し、全編会話文で構成されたホワイダニット。 『夜半のちぎり』 岡崎琢磨 奇妙な成り行きで遭遇した、新婚旅行中の二組のカップル。その中の一人茜が殺害される。入り組んだ人間関係が悲惨なラストを呼ぶ。 『筋肉事件/四人目の』 似鳥鶏 これは作品の性質上、内容には触れないほうが無難と判断し、割愛します。 『使い勝手のいい女』 水生大海 私七尾葉月は使い勝手のいい女。昔の男に金を用立てるように泣きつかれ、抱き着いてきた。それを過剰防衛と知りながら凶器を握り・・・。 ミステリ的に最も優れていると思われるのは『事件をめぐる三つの対話』で、前例はあるものの、どんでん返しと言うに最も相応しい作品でしょう。 構成が凝っている『筋肉事件/四人目の』は、これまた過去に似たトリックが存在していますが、二度読み必死の力作かと思います。 他はどんでん返しというよりごく普通のミステリです。若干のエッジや捻りを効かせた程度で、中には拍子抜けなものも混じっており、上記二作以外はこれと言って見るべきものはありません。 |
No.873 | 6点 | きみとぼくが壊した世界- 西尾維新 | 2018/07/02 22:18 |
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(若干のネタバレがあります)
これはアレですね、あのパターンです。私は好きです、まあ作中作がお好みの方にはお勧めできると思います。勿論、構成が酷似しているあの名作には遠く及ばないですが、それくらいの遊び心があってもいいじゃないという、広い心で許してしまえる作品ではあります。でも、なぜかしら章を重ねるごとにネタ割れして、耐性が出来上がって来て、作者の目論見がショボく感じられてしまうのも確か。 ミステリ的には小技を地味に積み重ねて一篇の長編に仕上げました、という体裁になっています。特筆すべきは最初の不可能犯罪ですよ。実に魅力的な謎を提示していて、とても好感が持てます。これをどう合理的に解決するのか非常に興味深く、掴みは有り余るほどグッドですね。ただ、真相はまあこんなものかなという程度にとどまります。他にもそこそこのトリックを駆使しての本格ミステリに仕上がっていると思います。 全体を通してのイメージはイギリスへの卒業旅行へ行ったような行かなかったような、事件も解決したようなしなかったような、そして最後のオチはそれかいって感じでしょうか。 それにしても、弔士君に比べて様刻君も黒猫もごく普通の人間なのかなと思えてきます。蛇足ですが、これらの名前が一々変だと以前書きましたが、それは当方の考え違いというか、認識不足だったのをここに明記しておきます。ファンの皆さまにはお詫びのしようもございません。 |
No.872 | 6点 | 月見月理解の探偵殺人- 明月千里 | 2018/06/28 22:32 |
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とにかく探偵役の理解のキャラが濃すぎて若干付いて行けないなと感じるのは私だけでしょうか。それに比べてワトソン役の都築初の平凡さが際立って、逆に感情移入してしまう、これは作者の計算なのだろうか。とは言え、彼こそが超人理解の頭脳のキャパを超えてしまうほどの人格の持ち主だという事実は皮肉とも取れます。
初以外のあらゆる登場人物を敵に回しての、理解の見事というか破天荒な立ち居振る舞いが一つの読みどころとなっています。まあそれ以外、この風変わりな物語の推進力足り得るものは見当たらないわけで、そこはやむを得ないところですが。 つまり、事件そのものは特筆すべき点はなく、謎らしきものが見当たらないため、そこにトリックめいた仕掛けがあるとはとても思えないのです。道中、理解と初の容疑者への尾行を中心とするアプローチに終始します。またサブストーリーとして理解対その他の生徒という図式が描かれ歪んだ青春模様を織り成します。それとともに探偵と助手の微妙な関係も綴られ、心理戦の一面をも見せます。 この段階で残念ながら、私は本作がいかにも平凡なラノベで終わってしまうのを予感しました。 ところが、残りページも僅かとなりいよいよ解決編へと突入したのちは、予想もしえなかった怒涛の展開へともつれ込みます。正直舐めてました。 一応伏線は回収され、本格ミステリとしての体裁を保ちますが、理解の能力をもってすれば途中経過など茶番劇に過ぎず、早々に真相を見破ってしまえたのだろうと思われてなりません。その意味で初の一人称で描かれたのは正解だったでしょうね。 |
No.871 | 6点 | 人間に向いてない- 黒澤いづみ | 2018/06/24 22:38 |
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ある日突然発症し、一夜のうちに人間を異形の姿へと変貌させる病「異形性変異症候群」。政府はこの病に罹患した者を法的に死亡したものとして扱い、人権の一切を適用外とすることを決めた。不可解な病が蔓延する日本で、異形の「虫」に変わり果てた引きこもりの息子を持つ一人の母親がいた。あなたの子どもが虫になったら。それでも子どもを愛せますか?
「BOOK」データベースより。 第57回メフィスト賞受賞作。正直、単行本で刊行されるほどの作品ではない気がします。しかも、ジャンル的にミステリとは言い難い、寓意小説のような作品であり、メフィスト賞らしい先鋭的な作風には感じられません。また、ストーリー的にパニック小説になりそうなところですが、そこまでのスケールの大きさはありません。 物語はあくまでマクロではなくミクロの視点から描かれており、例えば政府側の「異形性変異症候群」に関する対策などはマス・メディアでしか知ることができません。その分虫に変異した息子に対する、主人公である母親の美晴の心情は細部にいたるまで非常によく描き切られています。 反面、その他に限ってはどれも中途半端としか言いようがありません。病を発症した子供を持つ親の集まる「みずたまの会」にしても、そこで知り合った津森や会長の山崎、夫の勲夫など主要登場人物の人間性にも今一歩踏み込むことができていないのを感じます。その辺りがまだまだ新人と思わざるを得ないところですね。ラストは予想通りでしたが、更にオチが用意されていて、なかなかやるなと内心ニヤリとさせられます。 作者はこの先どのようなジャンルに挑戦するのか不透明ですが、いずれにしても本格ミステリを書くようなことはないと思います。文芸の道に進むんでしょうかねえ。ただ、未知数ではありますが可能性を感じさせる人には違いありません。 |
No.870 | 7点 | エムブリヲ奇譚- 山白朝子 | 2018/06/21 22:24 |
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「わすれたほうがいいことも、この世には、あるのだ」無名の温泉地を求める旅本作家の和泉蝋庵。荷物持ちとして旅に同行する耳彦は、蝋庵の悪癖ともいえる迷い癖のせいで常に災厄に見舞われている。幾度も輪廻を巡る少女や、湯煙のむこうに佇む死に別れた幼馴染み。そして“エムブリヲ”と呼ばれる哀しき胎児。出会いと別れを繰り返し、辿りついた先にあるものは、極楽かこの世の地獄か。哀しくも切ない道中記、ここに開幕。
「BOOK」データベースより。 乙一が山白朝子名義で2012年に発表した時代ホラーの連作短編集。時代の明記は避けていますが、おそらく江戸時代と思われます。 詩的で美しいけれど生々しく残酷という相反する要素を持ち合わせる、奇跡的な作品集だと個人的には思います。これはやはり乙一にしか書けないのではないかという気がしますね。特に表題作は何とも言いようのない、『奇譚』と呼ぶに相応しい素晴らしい一篇です。 和泉蠟庵の付き人として旅に同行する耳彦が様々な怪異に見舞われるのですが、この耳彦が博打にのめり込む弱くだらしない人間として描かれているところがミソです。それにより自然と物語が進行していくケースもありますし、決してよくありがちな善人ではないが為に、その現実がストーリーに意外性を生み出す結果となっている場合もあります。 こういうのを隠れた名作と呼ぶんでしょうねえ。 |