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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1901件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1181 6点 “文学少女”と慟哭の巡礼者(パルミエーレ)- 野村美月 2020/09/21 22:12
もうすぐ遠子は卒業する。それを寂しく思う一方で、ななせとは初詣に行ったりと、ほんの少し距離を縮める心葉。だが、突然ななせが入院したと聞き、見舞いに行った心葉は、片時も忘れたことのなかったひとりの少女と再会する!過去と変わらず微笑む少女。しかし彼女を中心として、心葉と周囲の人達との絆は大きく軋み始める。一体何が真実なのか。彼女は何を願っているのか―。“文学少女”が“想像”する、少女の本当の想いとは!?待望の第5弾。
『BOOK』データベースより。

今回は宮沢賢治『銀河鉄道の夜』。これを読んでいないとやや不利だと思われます。ジョバンニとカムパネルラの関係性を理解していないと、分かりづらい点がありそうです。『銀河鉄道の夜』と作中の心葉の書いた小説と、実際の心葉と美羽の関係が最終章でちょっとごちゃごちゃした感じで語られるのが、感動に水を差している気がしてなりません。

第一作からここまで引っ張ってきた、美羽の自殺未遂の謎。そして何故心葉は小説を書いたのかというホワイダニットは予定調和と言うか、あまりに呆気なさ過ぎて拍子抜けの感が否めません。まあ美羽の揺れ動く気持ちには心が痛みますし、心葉の抜き差しならない状況にも同情は禁じ得ませんけど。
ただ、全ての登場人物にしっかりとした役割が与えられており、単なるキャラの魅力だけでは終わらない物語が紡がれている辺りは流石だと思います。
それにしても、いきなり心葉くんと琴吹さんがいつのまにこんな雰囲気になっていたのか、ちょっと解せません。まあ、それを書く枚数が足りなかったと思いたいですね。

No.1180 7点 GOTH モリノヨル- 乙一 2020/09/20 22:52
第3回本格ミステリ大賞受賞のほか「このミステリーがすごい!」第2位など話題をさらい、合計100万部を誇る乙一の代表作「GOTH」。2008年12月20日から全国公開される映画「GOTH」の試写を観てインスピレーションを受けた乙一が、急遽、「GOTH」の後日談と言える新作小説を書き下ろした。
単行本刊行から6年、執筆時から7年ぶりのことであり、旧作を振り返らないことで知られる乙一にとって、今回の書き下ろしは非常に稀有なことといえる。

―12月のある土曜日、森野夜は人気のない森に入っていく。そこは7年前に少女の死体が遺棄された現場だった。「死体をふりをして記念写真を撮る」つもりだった彼女は、誰もいないはずのそこで、ある男に出会う―。
Amazon 商品紹介、内容紹介より。

再読です。前回は文庫本でしたが、今回は単行本です。何が違うのかと言うと、文庫本にない写真が掲載されている点です。ちょっとした写真集が半分を占めており、装丁としては珍しい部類だと思います。

読み始めた段階であれ?という感覚がありましたが、やはり読み進めるうちに内容を完全に思い出しました。新鮮さという点に於いては初読の際に感じた衝撃は薄れていたものの、じっくり噛み締めるように読ませていただきました。一つ一つの言葉のチョイス、情感、浮かび上がる情景、独特の雰囲気など確かに胸に迫るものがありましたね。ホラーと思わせておいて、紛れもない本格ミステリだということだけは断言しておきます。

後半の写真は、おそらく森野夜という少女を想定したものと思われます。
モデルの女性(高梨臨)は、少女と言うには大人びており、本来黒髪のはずがやや濃いめの茶髪で、前髪あり、目力に満ちて、鼻筋は通って鼻梁は大きからず小さからず絵にかいたような美麗さで、唇は若干ぽってりとして肉感に溢れている、可愛いというより綺麗な印象です。森野を意識して無表情で様々な角度で撮られています。身長は高めと感じました。黒いセーラー服が似合っていると言えなくもないです。ただ、モノクロ写真でどうでもいいような、ネクタイを弄るアップが連写されていたりするのは余分だと思いますね。

No.1179 7点 AX- 伊坂幸太郎 2020/09/19 22:41
「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。一人息子の克巳もあきれるほどだ。兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。引退に必要な金を稼ぐために仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。物語の新たな可能性を切り拓いた、エンタテインメント小説の最高峰!
『BOOK』データベースより。

第一話、第二話を読み終えた時点で、殺し屋が主人公なのになんだかアットホームな話だなーと思い、第三話でおっ?となり、次でおおっ!ラストでうーむとなりました。そう、要するに一話二話は助走であり布石なのであります。ですから、そこでがっかりする必要ありません。その後に期待に違わぬ感動が待っているのですから。
私も一人の友達もいなくても自分は幸せだと、言ってみたいものだと思いますね。登場人物は少ないものの、それぞれ個性的でどこに殺し屋が転がっていてもおかしくない世界なのに、境遇はともかく人間は人間なんだと思わせる説得力があります。ただ一人、謎の医師は静かな迫力を持っていて異彩を放っている以外は。

まあ世間では伊坂を何かと過大評価しがちな、勝手な印象を私は持っていますが、本書はさすが人気作家の面目躍如していると思いました。本サイトでも高評価なのも納得の出来ですね。いろんな要素が詰まった、バランスの取れた良作です。

No.1178 5点 人柱はミイラと出会う- 石持浅海 2020/09/17 22:25
留学生リリー・メイスは、日本で不思議な風習を目にした。建築物を造る際、安全を祈念して人間を生きたまま閉じ込めるというのだ。彼ら「人柱」は、工事が終わるまで中でじっと過ごし、終われば出てきてまた別の場所にこもる。ところが、工事が終わって中に入ってみると、そこにはミイラが横たわっていた。黒衣、お歯黒、参勤交代―。パラレルワールドの日本で展開する、奇っ怪な風習と事件の真相とは。
『BOOK』データベースより。

SFファンタジーで登録されていますが、やはり本格ミステリに分類されるべき作品集だと思います。
日本古来からの習わしというか慣習を事件や殺人に絡めるという、新たな試みに挑んだ異色作ではないでしょうか。未だに残る人柱やお歯黒、参勤交代といった日本独特の文化が残る社会で起こる殺人。凄く違和感があります。何のために今さらそんな風習を?と思いますが、その異様な設定こそが作者の狙いであります。おそらくはシリーズの第一弾のトリックを活かすために、そのような無謀な戦略に出たのではないかと思います。もし設定が先にありきだとすれば、それはそれで凄いですが。

それにしても、やや強引な面は否めません。特に『ミョウガは心に効くクスリ』などはかなり無理がありますね。ある行為の動機があまりにも不自然です、そんな意味不明な行動で犯人の目的が達成できるとは到底思えません。それに一種の暗号の様なそれは、誰もが気付かなければ意味がないのではないかと。たまたま頭の切れる探偵役がいたから謎が解けましたが、普通は見過ごされて然るべきでしょうね。

No.1177 6点 聴き屋の芸術学部祭- 市井豊 2020/09/15 22:36
生まれついての聴き屋体質の大学生、柏木君が遭遇する四つの難事件。芸術学部祭の最中に作動したスプリンクラーと黒焦げ死体の謎を軽快に描いた表題作、結末のない戯曲の謎の解明を演劇部の主演女優から柏木君が強要される「からくりツィスカの余命」などを収録する。文芸サークル第三部“ザ・フール”の愉快な面々が謎を解き明かす快作、ユーモア・ミステリ界に注目の新鋭登場。
『BOOK』データベースより。

もっとユーモア色の強い作品かと思っていましたが、殊の他ロジカルな本格物でした。特に最初の表題作が出色の出来で、他も期待しましたがこれを超えるような作品は見られずその意味では残念でした。それでも派手なトリックや殺人事件よりも論理優先型の読者には持って来いの作品集だと思います。

どれも緻密なロジックで、流石に創元社推理文庫と感じました。ミステリマニアで変人の川瀬が探偵役と思いきや、実は真の探偵は柏木君だったという趣向も楽しませてもらいました。
世間的にはあまり注目されていないようですが、この作者はやれば出来る人だと思いますので、今後の活躍に期待したですね。

No.1176 7点 百舌鳥魔先生のアトリエ- 小林泰三 2020/09/13 22:33
「あなた、百舌鳥魔先生は本当に凄いのよ!」妻が始めた習い事は、前例のない芸術らしい。言葉では説明できないので、とにかく見てほしいという。翌日、家に帰ると、妻がペットの熱帯魚を刺身にしてしまっていた。だが、魚は身を削がれたまま水槽の中を泳ぎ続けていたのだ!妻が崇める異様な“芸術”は、さらに過激になり…(表題作)。他に初期の名作と名高い「兆」も収録。生と死の境界をグロテスクに描き出す極彩色の7編!
『BOOK』データベースより。

いきなり小林の異様な世界観に引きずり込まれます。起承転結など無視しての急展開に読者は否応無しにその異世界に持っていかれること間違いなし。そして第二話『首なし』にはやられました。これこそは氏を代表する作品ではないかと思います。物凄く好みです。そして最後の表題作『百舌鳥魔先生のアトリエ』はグロ全開で、しばらく食欲をなくすような嫌らしさを持っています。これぞ作者の真骨頂ですね。

初期の名作らしい『兆』はちょっと冗長で、個人的にはどうかなと思いましたが、その他全般的には水準以上の作品が並んでいます。マニアックな読者にしかお薦めはできませんし、勿論ミステリではないので本サイトではあまり大っぴらに誇れるものでものでもないですが、グロテスクに芸術性を求める人には読んでいただきたいですね。

No.1175 7点 炎に絵を- 陳舜臣 2020/09/12 22:23
神戸支店に転勤することになった葉村省吾は、兄夫婦にある調査を依頼された。彼らの父は、辛亥革命の際に革命資金を拐帯したとされているが、その汚名をはらしてほしいというのである。父の記憶がほとんどない省吾は、あまり気乗りがしなかったが、病床の兄のたっての頼みとあって事件の調査を開始する。怪しい影に命を狙われながら、二転、三転、ようやくたどりついた驚愕の真相とは?風光明媚なみなと町を舞台に展開する、謎また謎の本格推理。
『BOOK』データベースより。

ミステリ作家が書いたこなれた感じは受けなかったものの、そのプロットの秀逸さは目を瞠るものがあります。無駄な前置きがなく、すんなり本題に入っていくのは好印象。しかし、犯人の目論見通りそう簡単に事が運ぶとは正直思えませんでした。結局犯人の狙い通り上手く話がレールに乗っていますが、ちょっとご都合主義な感は否めません。

最終盤に至って、真犯人像が見えてきます。まあこれは誰でも想定の範囲内ではないかと思います。でも、省吾の辿った道と事件の錯綜する真相は意外性に満ちており、それまでの伏線も相まって、こんな事になっていたとはと驚きを隠せませんでした。ただ、それが解き解されていく過程がそれほど外連味なく描かれているのは残念です。もう少しドラマティックに盛り上げられたのではないかとの思いが過るのは確かです。
それでも前評判通りの面白さであったのは間違いありませんね。

No.1174 6点 忠臣蔵元禄十五年の反逆- 井沢元彦 2020/09/09 22:30
あまりにも巧妙なドラマ構造をもつ日本人の劇『忠臣蔵』。史実と虚構の狭間で熟成された情念の物語には見落とされていた事実がありすぎた。若き劇作家が『忠臣蔵』の〈そもそもの形〉を探り始めた時、見えてきた不吉な文脈とは?物語の謎の核心に迫るにつれ、彼の身にも危険が…。討ち入りのプロットに巧みに仕組まれた〈将軍誅伐〉の符牒を明かす、最も明晰な忠臣蔵ミステリー。
『BOOK』データベースより。

勉強にはなるが物語としては面白くはないといった歴史ミステリ。中盤までは仮名手本忠臣蔵の考察に終始し、肝心の赤穂浪士の話がほとんど出てきません。テーマはひたすら浅野内匠頭が何故松の廊下で刃傷に及んだのかで、ここでいったん結論が出ます。巧妙に仕掛けられたトリックにより、不可能犯罪を成し遂げたがごとく作者は過大評価をしていますが、一応納得は行くものの世間をざわつかせるほどの新説とは思えません。

後半はやっと実際の史実に基づいて様々な文献を用い、推理を始めますが、結局は浅野が乱心だったのか正気だったのかの一点に集約されています。大石内蔵助がどのような経緯で仇討ちを決行したかについては、おまけ程度に留まっています。ですから、この小説に赤穂浪士の物語を語ったものを期待すると必ず裏切られます。登場するのは大石、江戸急進派の三人と片岡源五右衛門、大野九郎兵衛くらいで、後は刃傷事件に関わる人々や浅野の弟の大学長広、そして当時の将軍綱吉。
どう考えても本作は『忠臣蔵』を名乗るべきではないと思いますね。敢えて名付けるなら『浅野内匠頭、刃傷の謎』でしょうか。一方、主人公の道家和弘が何者かに付け狙われる事件に関しては、あまりにも偶然の要素が強く、ご都合主義と言われても仕方ないのではないでしょうか。

No.1173 6点 転生!太宰治 転生して、すみません- 佐藤友哉 2020/09/06 22:28
あの太宰治がよりによって現代日本に転生!今を生きる太宰治が現代社会と人間への痛烈な皮肉と賛歌を謳い上げる傑作、ここに開幕!!
『BOOK』データベースより。

心中したはずの太宰治が2017年の東京に転生し、現代の様々な変容にオロオロしながら、ある野望を決意する物語。ストーリーらしいストーリーは存在せず、登場人物も少なく、ひたすら太宰が現代の文化に触れ、時に楽しみ時に動揺する姿を描いています。ことあるごとに死にたくなる太宰ですが、何だかんだ言いながら得意のお道化を発揮し、文壇に復讐するため生きる決心をします。メイドカフェで萌えを体験したり、インターネットで自身のエゴサーチをしたり、芥川賞授賞式に乱入したりやりたい放題です。

太宰治を一冊も読んだことのない私でもそれなりに楽しめたので、ファンであればより楽しめたのではないかと想像します。勿論当時の文豪たちの名前も出てきます。
これからというところで終わっており、続編を予感させる締めくくりとなっており、実際に2が出ておりシリーズ化も期待されているようです。

No.1172 7点 希望が死んだ夜に- 天祢涼 2020/09/04 22:46
神奈川県川崎市で、14歳の女子中学生・冬野ネガが、同級生の春日井のぞみを殺害した容疑で逮捕された。少女は犯行を認めたが、その動機は一切語らない。何故、のぞみは殺されたのか?二人の刑事が捜査を開始すると、意外な事実が浮かび上がって―。現代社会が抱える闇を描いた、社会派青春ミステリー。
『BOOK』データベースより。

青春ミステリなのか社会派なのか、はたまた本格なのか意見の別れるところだと思います。私としてはメッセージ性が強いので社会派の色が最も濃いのではないかという気がします。貧困や社会格差の問題提議がストーリーの中でさりげなく施されており、決して押し付けではなく自然と心に沁み込んでくる感じでしょうか。

ホワイダニットだけで最後まで引っ張るのは、流石に無理があるなと思いながら読みましたが、後から読み返してみるとそこここに伏線が張られており、ぼんやり読んでいると後悔するかもしれません。ラストの真相は正に読者の想像の遥か上を行き、驚愕しました。まさかこんなに複雑な仕掛けが用意されていようとは夢にも思いませんでした。そして切ない読後感、何とも言えません。あまり知られていない本作だと思いますが、多くの読者にお薦めしたいですね。

No.1171 8点 カマラとアマラの丘- 初野晴 2020/09/02 22:50
花々が咲き乱れる廃園となった遊園地。そこには、謎めいた青年が守る秘密の動物霊園があるという。「自分が一番大切にしているものを差し出せば、ペットを葬ってくれる」との噂を聞いて訪れる人人。せめて最期の言葉を交わせたら…。ひとと動物との切ない愛を紡いだミステリー。
『BOOK』データベースより。

本格精神を貫いたSFファンタジーの傑作。むしろ評者としては本格ミステリにより近いと思います。
五つの物語からなる連作短編集で、いずれも人間と動物の歪んだ愛の形を、感動よりもそれを上回る感銘によって読者にその有り方を問う、ある意味問題作となっています。特に第三話は何物にも代えがたい魅力を持っており、ペットの驚くべき生態が静かなタッチながら、強烈な印象を残す素晴らしい逸品に仕上がっていると思います。これこそ正に異形の本格ミステリと言っても差し支えないでしょう。これこそが作者畢生の作品集と感じます。

本書を迂闊に人とペットの感動物語と思ってはなりません。上辺だけではなく、動物のそして人間の本質を衝く稀有なミステリだと思います。もしかしたら我々が考えているより動物の思考や精神は遥かにその上を行っているのかも知れない、という仮定のもとに描かれいますが、とても絵空事とは片付けられないのではないか。そういった問題を提唱している気がしてなりません。

No.1170 6点 444 ~呪いの数字~- いぬじゅん 2020/08/31 22:07
高2の冬、東京から田舎の高校に転校してきた桜は、クラスで無視され、イジメを受ける。そんな中、この学校で以前イジメを苦に自殺したという生徒・守の1周忌に参列したとき、桜は守の母親から「444には気を付けて」と不気味な話を聞く。やがて、次々に不審な死を遂げていくクラスメイトや教師…。ラストのどんでん返しに驚愕!呪いの震撼ホラー!
『BOOK』データベースより。

イジメられていた男子生徒が自殺に際し呪いを掛けるというベタな内容ですが、テンポよく人が死んでいき、最後まで飽きずに読ませます。特に呪い殺される側の一人称で視点が次々と切り替わる為、なかなか臨場感が感じられストーリーに没入することが出来ます。また、殺され方死に方に工夫の跡が見られ、その時々の過去に守を虐めていた生徒たちの揺れ動く感情が死の間際まで克明に描かれているのには、好感が持てますね。「444」の見せ方にも趣向が凝らされていたりもします。

ラストはそれがどんでん返しと言えるのかどうか、やや疑問に思います。確かに想定外ではありましたが、ちょっと意味合いが違うような気がします。少なくともミステリで言うところのどんでん返しとは異なるような。

No.1169 5点 クサリヘビ殺人事件 蛇のしっぽがつかめない- 越尾圭 2020/08/30 22:45
動物診療所を営む獣医・遠野太一の幼馴染で、ペットショップを経営する小塚恭平が、自宅マンションでラッセルクサリヘビに噛まれて死んだ。ワシントン条約で取引を規制されている毒蛇が、なぜこんなところに?死に際に恭平から電話を受けて現場に駆けつけた太一は、恭平の妹で今は東京税関で働いている利香とともに、その謎を解き明かそうとするが、周囲に不穏な出来事が忍び寄り…。
『BOOK』データベースより。

帯に「これがデビュー作とは思えない」とありますが、逆に言えば新人にしてはよく書けている方とも取れます。よって、過剰な期待はしないほうが無難だと思います。滑り出しは「おっ、なかなかやるな」とは思い、その後の展開が期待できそうだと感じました。しかし、読ませる筆力はあるものの、これと言った新味を感じさせるような突出した個性はありません。そもそもクサリヘビでの殺害と云う、言わばプロバビリティの犯罪という不安定な殺害方法を取った理由が理解できませんね。それを言っちゃお終い、なのかもしれませんが、もう少し何とかならなかったものかと思います。

もう少し本格物に近い作風かと思いきや、「社会派」として登録されていたのね。これはやっちまったな、想定外の事態と言えそうです。私の期待を裏切って、なんとなく進行していくストーリーももどかしく、今一つ抑揚が感じられなかったのは残念な限り。やはりこれでは隠し玉止まりと言われても仕方ないでしょう。まあしかし、後味は爽やかさを残します、それだけは評価に値すると思います。

No.1168 3点 ただし少女はレベル99- 汀こるもの 2020/08/27 22:38
葛葉芹香は、ラッキーつづき。抜き打ち試験はうまくいくし、四つ葉のクローバーを見つけたし、シークレットライブのチケットまで当たった。でも、そんな幸運には限りがあった。まさか本当に出屋敷市子の写真にそんな力があったなんて。「消せ」と言われたけど、消し忘れていた携帯電話の中の写真。まさかそのせいでこんなことになるなんて。(「幸運には限度額がある」)ほか、純和風美少女・市子と護法である妖怪たちのシリーズ作品4編を収録!
『BOOK』データベースより。

これは一種の惨劇です、私は惨劇に襲われたのです。言わば西尾維新の物語シリーズの出来損ないの様な駄作でした。これを最後まで読み切った自分を褒めてやりたい、そしてシリーズ次作以降を購入しなかったことに心底安堵しています。
ラノベを意識したせいか稚拙で読みづらい文章、この手の小説に必要最低限のキャラの魅力のなさ、一向に盛り上がらない物語、読み進めば進むほど訳が分からなくなっていく内容、いずれを取ってももううんざりです。

長々と読まされて、結局何がしたかったのか私にはさっぱり理解できませんでした。Amazonの高評価は一体何なのでしょうか。こるものフリークなのですか。何故本作が何作もシリーズ化されているのか不思議で仕方ありません。どこにそんな魅力や読みどころがあるのか。正直タナトスシリーズとは大違いです。

No.1167 6点 宇宙探偵ノーグレイ- 田中啓文 2020/08/24 22:26
怪獣惑星で発生した人気怪獣の密室殺人。罪を犯すことが不可能な天国惑星で起きた連続殺人。全住民が脚本どおりの生活をおくる演劇惑星で生じた劇中殺人…極秘に事件を解決するために招かれるは、宇宙探偵ノーグレイ!名探偵は五度死ぬ?奇想天外な結末が待つ、宇宙ミステリ作品集。
『BOOK』データベースより。

これぞまさに荒唐無稽。怪作と呼んで差し支えないでしょう。
SFミステリと言うべきかかも知れませんが、最終話など完全にSFですね。一応探偵ノーグレイが色々な惑星で起こる事件を依頼され、解決したりしなかったりします。五話からなる短編集で、一話ごとに探偵が死に、また次には何でもなかったように甦り活躍します。その内情も様々で、大抵は莫大な借金の為命を張った仕事に否応なしに就かざるを得ない状況に追い込まれています。

謎の設定そのものは申し分ないのですが、その真相が謎に追いついていないのが実情でしょうか。毎度お馴染みのグロやダジャレは控えめで、SFファン、ミステリファンの両者に歓迎されるべき作品であろうと思います。でも多くの読者は何だこれは、と感じるかもしれませんね。

No.1166 6点 リアル怪談 寄せられた「体験」- アンソロジー(国内編集者) 2020/08/22 22:13
真夜中のマンションのエレベーター、観客が独りきりの映画館、さびれた京都のホテル、ある有名な幽霊トンネル…。世にも不思議な体験をした人から編集部に寄せられた「奇妙にこわい話」。
『BOOK』データベースより。

1998年から2002年までに読者から寄せられた投稿を集めた、『奇妙に怖い話』シリーズの中から優秀作30編を収録した短編集。ショートショートに近く、2ページから8ページくらいのボリューム。「体験」とありますが、ほぼ創作であろうことは想像に難くありません。ですから、生々しい怖さよりも人工的な作り物っぽさが強いです。しかし、素人とは言え、なかなか筆達者が集まっており、一篇残さず読ませてくれます。偶然とは思えないのでおそらく本人だと思いますが、長岡弘樹の名前が連なっています。他は知らない名前ばかりで、ペンネームを使っていない限りプロの作家は見当たりません。実は名前を変えて活躍している作家が居たりするかもしれませんが。

今の季節には、特に猛暑が続いている日本列島では持って来いの作品集ですが、ゾッとする程の怖さがないので、怪談としてはやや物足りなさを覚えます。奇妙に怖い話だから、不条理な感じとかやや捻り足りないとかが多いですかね。ミステリとして面白い短編に仕上げられそうなものもあったり、楽しませてもらいました。

No.1165 5点 名探偵はどこにいる- 霧舎巧 2020/08/20 22:16
「わたしたちがやろうとしているのは…殺人なのよ」双子の姉妹は決意とともに終ノ島へ向かう。そして島で死体となって発見されたのは、彼女たちの通う高校の教師だった。さらに二人はそれをネタに脅迫を受け…。後動の“遺志”を継いだ今寺に課せられたのは、「双子の殺人の“無実”を証明する」こと。『名探偵はもういない』に続く「あかずの扉」研究会シリーズ外伝。
『BOOK』データベースより。

何かこう華がないんですよ。事件自体も地味で殺人なのか事故なのかはっきりせず、ストレートに描写がされていない分、面白みがないというか。事件の背後関係ばかりに拘泥されて、方向性が本格じゃないですよ。それよりも、冒頭で語られる主人公で刑事の今寺の青春時代の淡い恋物語の方に興味が持っていかれます。それが最後の最後で結実し、ある意味で満足感は覚えますね。
それにしても、後動の名前が出てきた時はドキッとしましたが、『あかずの扉』の外伝だったんですね。知らずに読んで驚きましたけど、別にそうである必然性はなかったと思います。

正直もう少し歯応えがある作品だと信じていました、その意味では裏切られました。物語の芯がしっかりせず、登場人物が多く紆余曲折し過ぎじゃないでしょうか。真相が明かされてもスッキリしないし、途中の煩雑さが拭い去れない恨みが残りました。

No.1164 5点 天井裏の散歩者 幸福荘殺人日記- 折原一 2020/08/18 22:11
日本推理文壇の重鎮、小宮山泰三が住む2階建てモルタル造りの幸福荘。そこには古くから小宮山を慕う数多の作家志望の若者たちが集っていた―。幸運にも私はそんな幸福荘に入居することになったが、部屋に残されていた1枚のフロッピーが私を戦慄させた。創作なのか、現実なのか。〈文書1〉から〈文書6〉まで、6つの不思議な連作短編小説を読み終えた私は思わず天井を見上げて…。叙述トリックの名手が、九転十転のドンデン返しであなたに挑む、究極の叙述ミステリー。
『BOOK』データベースより。

叙述トリックの第一人者という事で、身構えながら読み進めましたが、入れ子構造の妙は認められるものの、段々飽きてきます。舞台が固定されて、文書6までの物語自体が意表を突くものではなく、似たような話が続くのにはちょっと辟易してしまいました。叙述トリックもかなりショボく、驚くようなものではありません。
結局フロッピーに記録された文書の作者は誰なのか、最後まではっきりせず煙に巻かれたような感じがしました。まあ私だけかもしれませんけど。

ユーモアを多分に含んだ読みやすい文体は好みです。しかし、それだけで評価を下す訳にはいきません。折原一ならば、もっと驚愕のミステリを書けるはず、それを期待した分裏切られた感が漂います。残念です。

No.1163 6点 京極夏彦の世界- 評論・エッセイ 2020/08/16 22:10
幾重にも張りめぐらされた蜘蛛の糸のように、複雑にからみ合った要素が織り成す京極夏彦の世界…。ペダンチックとも称されるその世界をより精緻に浮かび上がらせるために、気鋭の論者が多角的な視点から縦糸・横糸を解きほぐし、京極作品に迫る。ミステリ論、陰陽師小説論、怪談小説論、宗教性、心理学、ジェンダー論、サイバーパンクなどの視点から見えてきた「匣の意味」「みどりなす長き黒髪の女たちの意味」「京極堂と探偵榎木津の関係性」とは…。京極夏彦の世界を読み解き、ほの暗い深奥に足を踏み入れるための道しるべ。
『BOOK』データベースより。

野崎六助、鷹城宏ら評論家を始め、精神科医、大学教授、短大講師ら八名による京極夏彦論。アンチミステリ、陰陽師の軌跡、ジェンダー論、妖怪の考察、宗教など様々な角度から京極夏彦の小説を弄り回します。まさにカオスの様相を呈し、評論というより学術書並に難解です。
『姑獲鳥の夏』から『塗仏の宴』までの京極堂シリーズが俎上に上げられていますが、『狂骨の夢』の矛盾を抉るケースが多いのが目立ちます。また、三作目まではある意味習作で『絡新婦の理』で頂点を迎えるとの意見もなるほどと思えなくもありません。個人的に最高傑作と考えている『魍魎の匣』にはあまり触れられていないのは、逆に完成度が高いせいなのかも知れないとも考えられます。

まあ各人好き勝手なことを書いているので、とても十全に理解することなど不可能です。京極堂シリーズのガイドブックと軽く考えるのは大間違いで、いずれ劣らぬ一家言を持った論客たちには舌を巻く思いです。それだけの材料が揃った題材だという証左でもあるようです。

No.1162 6点 ジョーカー・ゲーム- 柳広司 2020/08/14 22:13
結城中佐の発案で陸軍内に設立されたスパイ養成学校“D機関”。「スパイとは“見えない存在”であること」「殺人及び自死は最悪の選択肢」。これが、結城が訓練生に叩き込んだ戒律だった。軍隊組織の信条を真っ向から否定する“D機関”の存在は、当然、猛反発を招いた。だが、頭脳明晰、実行力でも群を抜く「魔王」―結城中佐は、魔術師の如き手さばきで諜報戦の成果を挙げ、陸軍内の敵をも出し抜いてゆく。東京、横浜、上海、ロンドンで繰り広げられる最高にスタイリッシュなスパイ・ミステリー。
『BOOK』データベースより。

スパイ養成学校D機関の面々の活躍を描く連作短編集。
何と言っても表題作『ジョーカー・ゲーム』が最高ですね。ハードなスパイの世界を描き切り、ミステリの要素もふんだんに取り入れていて、その意味でも楽しめます。しかし、次第にテンションが下がっていくのは私だけでしょうか。様々なシチュエーションに置かれ、各話ごとに主人公が入れ替わっていく様子は読んでいて飽きが来ません。ですが、やはり結城中佐が出てこないと話が締まりませんね。本作は結城中佐の魅力に負うところが大きいのかなと思います。まあ主役ではないのが却ってその人間性を浮き彫りにし、存在感を示しているのかも知れませんけどね。

第一話の『ジョーカー・ゲーム』を読んだ時点では7点は堅いかなと思いましたが、残念ながらそのレベルを最後まで維持できないまま終わってしまい、即座に続編に手を伸ばそうとまではいきませんでした。しかし、ある意味でいい勉強にはなった一冊だったと思います。超人に近い人間の集まりなので、我々凡人の窺い知れない世界を覗き見た感じが強いですね。

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ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 1901件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(29)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
綾辻行人(22)
京極夏彦(22)
中山七里(19)
折原一(19)
日日日(19)
清涼院流水(18)