皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1901件 |
No.1421 | 5点 | 文豪のミステリー小説- アンソロジー(国内編集者) | 2022/03/14 22:44 |
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推理小説や探偵小説だけがミステリーではない。人間の心を深くそそる謎、それが本来のミステリーである。ユーモラスな語り口の中に非日常の世界をのぞき見る夏目漱石「琴のそら音」、真相のありかそのものを問う芥川龍之介「藪の中」、理化学トリックの幸田露伴「あやしやな」、思いもよらぬ犯罪を暴き出す大岡昇平「真昼の歩行者」など、名作九篇を厳選。
『BOOK』データベースより。 芥川龍之介の『藪の中』目当てに買いましたが、正直ミステリと呼べるような作品は皆無でした。辛うじてミステリ的趣向の垣間見える大岡昇平の『真昼の歩行者』が捻りが有ってちょっと良かったかなと思いました。あとは大佛次郎の『手首』、岡本綺堂の『白髪鬼』がホラーテイストでまずまずの出来。 夏目漱石は当て字が多いし、訳が分からないし。幸田露伴に至っては文語体というのか、まるで古文を読み易くしたような文体で、最後まで読んだ自分を褒めてやりたいというのが感想ですかね。これも意味不明でした。肝心の芥川に関しては、なるほどと思った程度で、然して感慨は湧きませんでした。 餅は餅屋という言葉があるように、文豪と言ってもミステリに関してはアイディアと言い、構成と言い、意外性と言い、現代のミステリと比べるべくもない凡作が多く、まあこんなのも書いていたんだなという位にしか思えませんでしたね。 |
No.1420 | 7点 | プシュケの涙- 柴村仁 | 2022/03/11 22:46 |
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「こうして言葉にしてみると…すごく陳腐だ。おかしいよね。笑っていいよ」「笑わないよ。笑っていいことじゃないだろう」…あなたがそう言ってくれたから、私はここにいる―あなたのそばは、呼吸がしやすい。ここにいれば、私は安らかだった。だから私は、あなたのために絵を描こう。夏休み、一人の少女が校舎の四階から飛び降りて自殺した。彼女はなぜそんなことをしたのか?その謎を探るため、二人の少年が動き始めた。一人は、飛び降りるまさにその瞬間を目撃した榎戸川。うまくいかないことばかりで鬱々としてる受験生。もう一人は“変人”由良。何を考えているかよく分からない…そんな二人が導き出した真実は、残酷なまでに切なく、身を滅ぼすほどに愛しい。
『BOOK』データベースより。 正直、ミステリとしてもラノベとしても薄味です。しかし、そこにスパイスが加わればこれ程までに輝いた青春小説に成り代わるという見本の様な作品です。そのスパイスとは由良のキャラの魅力であったり、幾つかのサプライズという事になるでしょう。文体ひとつ取ってみても、お世辞にも完成されているとは言い難いですし、ミステリの読者にとってはいささか物足りなさを覚えるかも知れません。ですが、それを補って余りある新味が私には感じられました。 シリーズ化は必然とは言えないと思います。真実は不明ですが、もしかしたら編集者から続編を催促されたのかも知れないし、作者が最初からそのつもりだったかも知れません。其処に関してはこれから追々読んでいって、良し悪しを判断したいところですね。興味がある人は読んでみるのも良いですが、必ずしも私のような高評価を与えるとは思えません。評者は本作に対して不当に甘い評価をしている可能性も否定できませんので。 |
No.1419 | 7点 | 愚者の毒- 宇佐美まこと | 2022/03/09 22:46 |
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一九八五年、上野の職安で出会った葉子と希美。互いに後ろ暗い過去を秘めながら、友情を深めてゆく。しかし、希美の紹介で葉子が家政婦として働き出した旧家の主の不審死をきっかけに、過去の因縁が二人に襲いかかる。全ての始まりは一九六五年、筑豊の廃坑集落で仕組まれた、陰惨な殺しだった…。絶望が招いた罪と転落。そして、裁きの形とは?衝撃の傑作!
『BOOK』データベースより。 暗くて重いです。そういうのが嫌いな方にはお薦めしません。ジャンルはサスペンスとして登録されていますが、個人的見解は本格ミステリです。トリックとしては中盤に明らかにされるものが、山田風太郎や竹本健治みたいな感じで結構面白いと思いました。それ程派手ではありませんけどね。それよりも本作にはもっと大胆な・・・が。おっとこれ以上は書くのは無粋というものでしょう。 誰が誰を殺したのかを含めて、なかなか複雑な物語で三部構成になっています。第二章を読み始めた時は、いきなり場面が切り替わり、物凄く違和感を覚えましたが、最後まで読んでそれが計算されつくしたものだと悟りました。まあ何はともあれ日本推理作家協会賞受賞作ですから、それだけのものは備えた作品とは言えましょう。結局私は作者にしてやられた一人です。詳細は伏せますが、そういうのもミステリの醍醐味のひとつですから、作者の勝利でしたね。 |
No.1418 | 7点 | 古畑任三郎1- 三谷幸喜 | 2022/03/05 22:58 |
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田村正和主演・大人気ドラマのノベライズがついに文庫化。事件が起こると忽然と姿を現わし、犯人を逮捕すると忽然と消えてしまう、バカ丁寧だが捕らえどころのない変わった男―警部補・古畑任三郎が大活躍。今回、古畑に挑戦するのは精神科医の笹山アリ、歌舞伎役者の中村右近、ミステリー作家の幡随院大、ピアニストの井口薫、超能力少年の黒田聖の五人。それぞれクセのある殺人事件だが、首尾よく古畑をだませるのか。それとも…。
『BOOK』データベースより。 人に貰ったのでも拾った訳でもないのに、何故か0円で手に入れた本。その理由は秘密。 底本は単行本『古畑任三郎ー殺人事件ファイル』、これを分冊文庫化した前編の方です。一応2の方も手元にあるので双方を個別に書評するため登録しました。 さて、本作只で入手した物であるためではなく、本当の意味での拾い物でした。実に面白い、ああこれは別のドラマでしたね。ドラマの方は興味はあったけれど最初は観ていなくて、どれも初めましてでした。端的に良く纏まっていて一篇50ページくらいでどれも気の利いた、こなれた作品ばかりです。三谷本人はあとがきで小説よりも脚本家に向いていると仰っているけれど、どうしてどうして素晴らしいリーダビリティではありませんか。 『徹子の部屋』で故田村正和氏が言っていたように、「古畑という男は訳の分からない男」なので、その言動が常人とは異なるのが本作でも良く分かります。残念なのはいつも古畑にコバンザメの様にくっ付いている情けない男、今泉が出ていない事ですね。その理由もあとがきに書かれています。 例えば第一話で鑑識があまりにも杜撰であることなど、細かい事を気にしなければこれ程面白い小説には滅多に出会えませんよ。取り敢えず個性豊かな犯人と古畑の対決を存分に楽しめるのは保証します。 |
No.1417 | 6点 | いま、殺りにゆきます- 平山夢明 | 2022/03/04 22:52 |
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深夜の路上で凶徒に遭遇したカップルの恐怖を描く「峠で壊れて」。愛犬の足が何者かにより一本ずつ折られていく「だんだん少なくなっていく」。常軌を逸したイタズラ電話が母子を追いつめる「謎電」。電車内で理由もなく乗客を殴り続ける男、「おら男」。日本ホラー界の第一人者が、徹底した取材を元に日常に潜む恐怖を描いた36話を収録。狂気が支配する、逃げ場のない世界が展開する実話恐怖集。
『BOOK』データベースより。 タイトルからしていかにもヤバそうですねえ。長編かと思っていたらショートショート怪談集でした。現実の出来事かどうかは不透明ですが、本当だったらかなり嫌ですね。私に耐性があるせいか怖くはなかったです、只胸糞の悪い話ばかりで、人間の狂気が描かれています。淡々とした、中学生が書いたような文章で如何に故意だとしても、初めてこの作者の小説を読む人は、こんなのしか書けないのかと勘違いしそうです。念のため言っておきますが、勿論ちゃんとした文章も書ける人です。 好みというか面白かった(不謹慎か)のは『ヒール』『レンタル家族』『一生瓶』『だんだん少なくなっていく』『串打ち』『閉店パーティー』辺りかな。 多くの話が、彼又は彼女(酷い目に遭った人々)が引っ越すか、犯人はまだ捕まっていないという結末で終わっています。結局一番怖いのは生きている人間だという、まあありがちで都市伝説的な話が多かったように思います。 |
No.1416 | 7点 | 密閉山脈- 森村誠一 | 2022/03/03 23:18 |
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“K岳山頂から灯火を愛の信号にして送る”山麓で待つ恋人・湯浅貴久子にそう約束して山頂を目指した影山隼人だったが、送られてきたのは遭難信号だった!翌朝、山仲間の真柄慎二と救援隊により影山の遺体が発見された。事故か、他殺か?遺されたヘルメットは何を物語る!?北アルプスの高峰に構築された密室で起きたこととは―。山岳ミステリーの白眉!
『BOOK』データベースより。 森村誠一を最後に読んだのは数十年前の事、作品は『分水嶺』でした。今となっては内容など全く覚えていませんが、読後の余韻は今でも忘れません。それ以来の森村です、これはかなりの完成度と言って良いと思います。ただ、ケチを付ける訳ではありませんが、若干引っ掛かる点もあります。例えば、ヒロイン湯浅貴久子の心の変遷、女心とはかくも繊細で微妙なものなのでしょうか。或いは事件の謎を追う熊耳のヘルメットに対する扱い方などは、とても警察官のそれとは思えないです。あとはメイントリックですかね、壮大な山岳の密室やアリバイの謎と比較して余りにもショボかったですね。 それでも皆さんの評価の高さを見れば一目瞭然、十分良作の範疇に収まるものと思います。兎に角語り口が素晴らしい、まさに一流の作家ならではの筆運びでしょう。又、一つのドラマとしても映える出来栄えですね。意外な動機にも注目されるところですし、悲しい結末が何とも言えない感慨を齎します。 |
No.1415 | 6点 | ドウエル教授の首- アレクサンドル・ロマノヴィチ・ ベリャーエフ | 2022/02/28 22:55 |
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パリのケルン教授の助手に雇われたマリイは、実験室内の恐ろしい秘密を目の当たりにする。人間の首──それも胴体から切り離された生首が、瞬きしながらじっとこちらを見つめているではないか! それはつい最近死亡した、高名な外科医ドウエル教授の首だった。おりしもパリ市内では不可解な事件が続発していた……。“ロシアのジュール・ヴェルヌ"と呼ばれる著者の傑作長編。訳者あとがき=原卓也
Amazon内容紹介より。 SF、ホラー、スリラー、冒険小説等色んな要素が入り混じってジャンル分けが難しい作品です。思っていたよりも怪奇色が薄く、全く怖くはありません。だからこそジュブナイルとしても翻訳されている訳で、それでも子供の頃に読んだらちょっとしたトラウマになったかも知れません。しかし、本作は1926年に発表されたもの、やはりその時代に書かれた作品としては相当センセーショナルなものだったと言わざるを得ません。その後のソ連の実験を鑑みるに付け、先見の明があったのは間違いないでしょう。その辺りは訳者あとがきに詳しいです。 意外にもストーリー性が豊かで、医学の最先端の技術を基に物語は様々な色を見せます。まあ荒唐無稽というか無茶苦茶な面も多い気がしますが、書かれている事柄はあながち法螺話と決めつける事が出来ない可能性を秘めているのも確かだと思います。一旦死んだ人間の首から上だけを生かし続けるという、神をも恐れぬ行為をどう捉えるかで評価が分かれそうな気がしますね。 |
No.1414 | 6点 | 跫音- 山田風太郎 | 2022/02/26 23:30 |
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10篇の短編からなるホラー作品集。とは言え、色んなタイプの小説が並び一口にホラーとは決めつけられません。
個人的には『双頭の人』『黒檜姉妹』がツートップですね。それに続くのが『最後の晩餐』『呪恋の女』辺り。こうして見るとやはり自分は異形の物語が好きなんだとつくづく思い知らされます。他もまずまずの出来で、一定の水準はクリアしていると思います。トップ2作品はまさかの展開に驚愕を覚えます。オチが凄いですよ。 菊地秀行の解説にあるように、1995年時点で他の作品集と重複はないとの事で安心して楽しめます。風太郎はどれに何が入っているのか把握しづらいですから、これは嬉しいですね。流石に文体は古さを感じさせますが、それが又一つの味わいになっていて良い意味でその時代の風合いに浸れます。 |
No.1413 | 7点 | 閉ざされた城の中で語る英吉利人- ピエール・モリオン | 2022/02/23 23:26 |
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文学的ポルノの傑作としてつとに名高い、匿名のフランス人作家が発表した地下出版物の完全無削除版。閉ざされた城という密閉された実験空間の中で、性の絶対君主が繰り広げる酒池肉林の諸場景を通してエロスの「黒い」本質に迫る。
『BOOK』データベースより。 「エロスは黒い神だ」とは帯の惹句。まさにその通りだと思いました。事細かに性描写をしている上に放送禁止用語の連発、なのに文学的であるのは作者の力量でしょうね。ただ後半城の主が語る自身の過去の談になると、一文が長いのに加えてややこしい言い回しが多いため、非常に読み難いです。主人と客以外の登場人物の個性など無視して、色々なタイプの女達を手を変え品を変え様々な方法で凌辱していく様は圧巻で、奇書と呼ぶに相応しい作品だと思います。 尚、本作は1953年に発刊された地下出版物であり、ピエール・モリオンと云う作家自体も正体不明だったようです。それが実はアンドレ・ピエール・ド・マンディアルグの仮名で、後に『城の中のイギリス人』のタイトルで正式に発表される事になった訳です。 いずれにしても、個人で楽しむのは良いですが決して他人に薦めてはいけません。友達を失うことになりますからね。そして、エロ耐性のある人は面白く読めるかもしれませんが、そうでない人はご遠慮願いたい代物です。とは言え、私が思っていた程刺激が強いとは言い難く、気分を害するようなことはありませんでしたねえ。やはり『ソドムの百二十日』や『家畜人ヤプー』には遠く及ばないってことですか。勿論両作とも積読状態です、いつか読みますよ。 |
No.1412 | 7点 | 魔眼の匣の殺人- 今村昌弘 | 2022/02/22 23:32 |
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その日、“魔眼の匣"を九人が訪れた。人里離れた施設の孤独な主は予言者と恐れられる老女だ。彼女は葉村譲と剣崎比留子をはじめとする来訪者に「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」と告げた。外界と唯一繋がる橋が燃え落ちた直後、予言が成就するがごとく一人が死に、閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。さらに客の一人である女子高生も予知能力を持つと告白し――。ミステリ界を席巻した『屍人荘の殺人』シリーズ第二弾。
Amazon内容紹介より。 流石に前作と比べるとワンランク落ちる印象は拭えません。今回は予言と言うか千里眼が背景にあり、それ程突飛な設定ではありません。過去に何度も使い古されたテーマなので新鮮味はないですね。それをどう料理するか、例えば普通の作家なら二つくらいプロローグを用いたりするのではないでしょうか。その方がオカルトチックになり得ますしね。しかし敢えてそうしなかったのは本格の旗手としての自負があったからかも知れません。 真相は若干後出しな面もありますが、一応筋の通った理路整然とした推理が見られます、特に行動心理学的見地から納得の行く解決を導き出していると思います。様々な要素を取り込んでいる割りには全体的に地味な気もしますが、なかなかの力作ではないでしょうか。後半へ進むほど面白くなってきます。動機も確りとした下地がありなるほどと思いました。 まあでも、あの人がいないのはやはり寂しいものがありますね。 |
No.1411 | 7点 | 卵の中の刺殺体 世界最小の密室- 門前典之 | 2022/02/18 22:43 |
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龍神の卵の中身は白骨死体!
解体され人間テーブルにされた若者! 奇抜な現象連発の“B級本格ミステリー" 宮村は店舗設計を任されているコルバカフェのオーナー神谷から龍神池近くの別荘にコルバカフェの社員たちと共に招待される。しかし、道路に繋がる吊り橋が斜面の崩落によって落ちてしまう。山道を迂回すれば戻ることが出来ることから落ち着いていた一同だが、深夜密室状態の部屋で神谷が殺されていた。 Amazon内容紹介より。 作者はB級本格ミステリを標榜しているという。奇怪な殺人事件、交錯するプロット、繰り返される推理と想像を超える真相等、確かに氏の目指すガジェットが詰め込まれた作品に仕上がっています。まず冒頭に提示される世界最小の卵の密室は意表を突くもので、明らかに『屍の命題』を意識している様に思われます。そしてドリルキラーによる猟奇殺人と本筋となるコルバ館が錯綜し、物語全体を織り成します。これらの独立する三つの事件は果たしてどう関わっているのか、いないのか?それを想像するだけでも楽しめますね。 名探偵蜘蛛手不在の中、建築事務所の共同経営者宮村が一人奮闘する姿が健気で、思わず応援したくなります。更に本作から探偵事務所に勤めることになった公佳も、蜘蛛手とタメ口を聞くなど無謀なところありつつも、なかなか鋭い面も見せる頼もしい仲間が加わり、次作も楽しみです。ただ、『屍の命題』のような衝撃がなかったのだけは残念ではありましたが。 |
No.1410 | 5点 | 私と悪魔の100の問答- 上遠野浩平 | 2022/02/16 23:02 |
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「いや吾輩は君には全然興味がないけど、世の中の正義にはもっと興味がないから」どん底だった私に、あいつはそう言った。親の事業が失敗して、マスコミに叩かれ、世界のすべてが敵に回っていたときに。助けてもらう代わりに、私はそいつと契約することになった。それは100の質問に答えろっていう意味のわからないもので―追い詰められた少女と、尻尾の掴めない男が出逢うときに生まれる、奇妙で不思議な対話の先に待つものは…。
『BOOK』データベースより。 腹話術の人形?が雑学から心理学、普遍的な物まで色々質問し、主人公の女子高生紅葉がそれに答える、そして更に人形が突っ込むみたいなものの繰り返し。しかし、厳密に答える訳でもなく、スルーと云うか、「分からない」「知らない」で終わったりもします。もっと哲学的な感じかと思いきや、そうでもなく何となく流れで済まされてしまい、あまり深堀されていないのが大いに不満です。 文章が故意にいい加減に書かれているのかと疑いたくなるくらいで、平明なのに逆に読みづらい印象を受けました。真面に書けるのは地の文で明らかなのに、なぜ態々そっちの方向に持って行くかなという気持ちになります。 一応ストーリーらしきものはあります。私としてはそんなものなくても良いから、真面目に討論して欲しかったし、そう云う小説だと信じていたのに裏切られた感を強くしました。 終盤で何やら謎の組織が関係しているのがぼんやりと見えてきますが、それも曖昧なまま終わってしまい、結局何がしたかったのかさっぱり分かりませんでした。 Amazonでは結構な高評価で、それも俄かには信じがたいものであり、何かの間違いであってほしいと願っていたりします。この現実をどう受け止めたら良いのやら、世の中不思議に満ちているなと言うしかありません。 |
No.1409 | 7点 | 墓頭- 真藤順丈 | 2022/02/14 22:51 |
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双子の兄弟のなきがらが埋まったこぶを頭に持つ彼を、人々は“墓頭”と呼んだ。数奇な運命に導かれて異能の子どもが集まる施設に入ったボズは、改革運動の吹き荒れる中国、混迷を極める香港九龍城、インド洋孤島の無差別殺人事件に現われ、戦後アジアの暗黒史で語られる存在になっていく。自分に関わった者はかならず命を落とす、そんな宿命を背負った男の有為転変の冒険譚。唯一無二のピカレスクロマンがいま開幕する―。
『BOOK』データベースより。 まずは作者の語彙力の高さに圧倒されました。ボキャブラリーが豊富であるだけではなく、使い処が的確なのです。トーンは飽くまで暗く、その重さはとてつもなくへヴィです。 ストーリーとしては比喩ではなく頭の中にバラバラ死体を宿した墓頭と呼ばれた男の一代記であり、壮大な大河小説でもあります。謎の探偵が探し出した養蚕家が語る異様過ぎる物語。その中で墓頭に関わる脇役達を含め、それぞれのキャラが立っており、ある種の群像劇を繰り広げます。 その中には毛沢東らも含まれていて、アジアの裏歴史とも言える壮大な法螺話がとても魅力的に思えました。ただ、私が最も注目していた案件が最後まで果たされることなく暈かされたのは残念でした。又、いくつかのミステリ的手法を駆使して読者を惑乱する技も披露されており、真藤順丈の底力を見せつけます。これぞ氏の本領発揮と言えましょう。『宝島』の直木賞受賞は伊達ではないという事ですね。 |
No.1408 | 6点 | 隣の家の少女- ジャック・ケッチャム | 2022/02/09 23:03 |
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1958年の夏。当時、12歳のわたし(デイヴィッド)は、隣の家に引っ越して来た美しい少女メグと出会い、一瞬にして、心を奪われる。メグと妹のスーザンは両親を交通事故で亡くし、隣のルース・チャンドラーに引き取られて来たのだった。隣家の少女に心躍らせるわたしはある日、ルースが姉妹を折檻している場面に出会いショックを受けるが、ただ傍観しているだけだった。ルースの虐待は日に日にひどくなり、やがてメグは地下室に監禁されさらに残酷な暴行を―。キングが絶賛する伝説の名作。
『BOOK』データベースより。 非常に繊細に筆致で描かれるボーイミーツガールの物語。そのともすれば壊れそうな世界に、私は思春期独特の心の揺らぎを見ました。美しいとさえ思える文章に引き込まれ、これからどんな冒険が始まるのかと密かに期待しながら読みました、途中までは。そしてそこからは地獄でした。デイヴィッドの隣の家の中年の離婚した女性ルースが、何故メグとスーザンに過酷な運命を課すのか理解に苦しみますが、兎に角残酷の一言に尽きます。読者の一部はここで本を置くかも知れませんし、そうでなくても多大な嫌悪感を持つ人が多いと思います。 正直私も、この4人の親子や粗暴なエディ全員が立ち上がれなくなるまでこの拳を顔面に叩き込んでやりたいと、本気で思ったほどです。怒りと吐き気や苛立ちを抑えることは困難でした。それだけ作品ののめり込んでしまったのは、やはり作者の手腕でしょうね。 最後の最後でやっとスッキリ出来ましたが、デイヴッドがもっと早く勇気を持って事を起こせばと思わずにはいられませんでした。それにしても、主人公の心情は非常に丹念に描かれており、物の善悪すら区別が付かなくなる程心が揺れる過程は、本作の一番の読みどころではないかと思います。 |
No.1407 | 5点 | 空を飛ぶための三つの動機- 汀こるもの | 2022/02/06 22:48 |
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“死神”と呼ばれる少年・立花美樹が双子の弟・真樹や御守り役の刑事とともに紀伊山中で遭難した。森を彷徨い、辿りついた先は10人の子供と4人の大人が暮らす謎の施設。だがそこは安寧の地に非ず。次々に周りで人が死ぬ“死神”体質少年の出現は、案の定、不可解な死の連鎖を呼び起こす。デスゲームを操るのは誰?閉ざされた館での推理と攻防!そして凄絶な結末。
『BOOK』データベースより。 結局最後まで何がやりたいのか理解できませんでした。文章にキレと抑揚がないため、一向に盛り上がりません。クローズドサークルの事件とそれをテキストとして、二人の刑事が真相を解明していく二層構造になっていますが、どちらも同じような文体で、何処で場面変換が行われたのかと思うこともしばしばあったりして、何となく小手先だけで書いたような印象を受けました。「これはバトルロワイアルだからまだまだ死者が出る」とか湊が言っているのに、大して殺人が起こりません。しかも殺人事件の謎もなおざりにされた感があり、あれ?いつの間にか解決したことになっているのか、と思わざるを得ない面もありましたね。 そして面白かったのは、ミステリ以外の相変わらずの魚に関する薀蓄だったのは皮肉と言うしかありません。施設に預けられている子供達がニックネームで書かれているので、余計にややこしくなっていて、話が拗れてしまっています。何故もっと事件をクローズアップしなかったのか、これがこの人の限界なのかと感じられて仕方ありません。 |
No.1406 | 6点 | 狂乱家族日記 六さつめ- 日日日 | 2022/02/03 22:42 |
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人類完全獣化現象から逃れて、雷蝶と共に鳥哭島に避難した凶華たち乱崎家一行は、連行したDr.ゲボックと共に中和剤の製造にとりかかった。一方、獣化現象で混沌とする帝都では、狂気にかられて人間を襲い始めた動物たちを抑えるため、マダラが褐色皇帝の血族の「力」を発動させる。「従え!俺が王だ!」マダラの悲痛な叫びが帝都に響きわたる―。「来るべき災厄」を目前に、馬鹿馬鹿しくも温かい愛と絆と狂乱の物語は佳境を迎えますますヒートアップ。
『BOOK』データベースより。 ちょっと間が空くとすぐ忘れるなあ、ダメですね。まあ本作、助走が長い分、その間に徐々に前作(前篇に当たる)を思い出せたので良しとしますか。ほぼ半分程が帝架とマダラの物語に重点を置き、それに乱崎一家の各キャラ達を絡めるという、本シリーズ全般に準ずる構成になっています。物語が動き出すのが鳴りを潜めていた凶華の一言。やはり個性豊かなキャラの中でも主役級の言動は一味違います、良い意味でどうかしています。 そこからは俄然面白くなり、漸く本領を発揮してきたなと思いました。その凶華のアイディアにより、物語がヒートアップするだけではなく、二頭のライオン帝架とマダラの間に新たな関係性が生まれ、本筋に変容が出てきます。そして本件が落着したかと思いきや、又しても次巻に繋がる不穏な前兆が・・・。 良くもまあ次から次へと色んな事件、変節が思い付くなと感心しますね。しかし、これくらい変化に富んだストーリーなくしては、このような長いシリーズを保たせるのは難しいかも知れませんね。 |
No.1405 | 8点 | 四元館の殺人―探偵AIのリアル・ディープラーニング- 早坂吝 | 2022/02/02 22:34 |
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今度の舞台は雪山の館。驚天動地の犯人、爆誕⁉
「犯罪オークションへようこそ! 」 犯人のAI・以相(いあ)が電脳空間で開催した闇オークション、落札したのは、従姉を何者かに殺され、復讐のための殺人を叶えたいというひとりの少女だった!?以相による殺意の連鎖を食い止めるべく、探偵のAI・相以(あい)と助手の輔(たすく)がわずかな手がかりを元に辿り着いたのは――雪山に佇む奇怪な館「四元館(よんげんかん)」だった。そこに住まう奇妙な四元(よつもと)一族と、次々巻き起こる不可思議な変死事件……人工知能の推理が解き明かす前代未聞の「犯人」とは!? 本格ミステリの奇才が“館ミステリ"の新たなる地平を鮮烈に切り開く、傑作長編。 Amazon内容紹介より。 雪の密室、奇矯な建築家が設計した、人里離れた山中の館、そこに住まう怪し過ぎる人々、そして連続殺人。如何にもな館ミステリの王道を往くのかと思いきや・・・。 古色蒼然とした本格物でありながら、新しい要素を取り入れることにより、これまでのミステリと一線を画す作品になっていると思います。本シリーズでは勿論お得意のエロは封印されており、真面目なミステリとしての、又新たな試みに挑戦し続ける作者の矜持の様なものがひしひしと感じられます。 そして究極のフーダニットとして私は評価したいと思います。伏線はそこここに張られており、決してアンフェアとは言えないでしょう。一人でも多くの人に読んで欲しいですね。でもくれぐれも壁に叩き付けない様にね。 |
No.1404 | 7点 | 葬列- 小川勝己 | 2022/01/31 22:40 |
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不幸のどん底で喘ぐ中年主婦・明日美としのぶ。気が弱い半端なヤクザ・史郎。そして、現実を感じることのできない孤独な女・渚。社会にもてあそばれ、運命に見放された三人の女と一人の男が、逆転不可能な状況のなかで、とっておきの作戦を実行した―。果てない欲望と本能だけを頼りに、負け犬たちの戦争がはじまる!戦慄と驚愕の超一級品のクライム・アクション!第二十回横溝正史賞正賞受賞作。
『BOOK』データベースより。 全体的に途中でダレル事もなく、最後まで楽しめるのは間違いないと思います。主役はラブホテルで働く主婦明日美とやくざの史郎です。二つのストーリーが並行して進行し、何処で如何繋がるのかと興味深く読めます。寄る辺のない人々の描写がややハードに続き、あまり犯罪小説らしい所はなかなか見せないのですが、リーダビリティに優れている為、飽きません。 ふたりの主人公やその関係者たちには、個人的に全く感情移入の余地がないと感じました。それはそれぞれの人物の感情があまりに剥き出しに描かれている故だと思います。良くも悪くも人間の醜さや弱さが克明に晒されているので、嫌悪感を抱く読者も多いかも知れませんね。 横溝正史賞の選考委員の一人、北村薫が選評で書いているように、途中から参戦する渚が最も魅力的なキャラであり、彼女を出し惜しみせずに主役に据えた物語にすればもっと面白い小説が出来上がったかも知れません、そこがやや残念かも。 それでも終盤に何とも言えないミステリっぽい意外性を発揮して、驚かせてくれます。そのサービス精神と言い、細かい枝葉まで神経が行き届いている点と言い、受賞作として相応しいものと思います。 |
No.1403 | 6点 | 消滅世界- 村田沙耶香 | 2022/01/27 22:54 |
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セックスではなく人工授精で、子どもを産むことが定着した世界。そこでは、夫婦間の性行為は「近親相姦」とタブー視され、「両親が愛し合った末」に生まれた雨音は、母親に嫌悪を抱いていた。清潔な結婚生活を送り、夫以外のヒトやキャラクターと恋愛を重ねる雨音。だがその“正常”な日々は、夫と移住した実験都市・楽園で一変する…日本の未来を予言する傑作長篇。
『BOOK』データベースより。 この作者の持ち味が常識の外にあるぶっ飛んだ世界観だとすれば、本作ではそれが存分に発揮されています。夫婦の間での性交渉があり得ない世界、その代わり家の外で恋人を作るのが当たり前、男も妊娠でき女は人工受精によって子孫を残す。つまり人間の本能である性欲を持たない、未来の人間像が描かれている訳です。それでもやはり、性欲は溜まるものであるから、それをクリーンアップするための施設も用意されているという、とんでもない未来の日本社会。 最初は何考えて書いているんだろう、そんなのある訳ないじゃないかと云った、至って常識的な観点から、どうしても話に付いて行けず気持ち悪さが先に立ってしまう部分はありました。平然と異常な世界が描かれて、一体何のための夫婦なのかよく理解できず、凄く居心地の悪さを感じながら読んでいました。それが「子供ちゃん」が登場してから俄かに面白くなり、正常と異常の線引きを超えたところに新たな未来があるんだなと、何となくではありますが思えてきました。作中の人々も何かの宗教に洗脳されたが如く、それを当たり前だとして生きている姿に、違和感と不信感を覚えながらも、それを小説にしてしまう村田紗耶香という人に特殊な才能を垣間見た私なのです。 |
No.1402 | 8点 | 黒牢城- 米澤穂信 | 2022/01/26 23:00 |
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本能寺の変より四年前、天正六年の冬。織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の智将・黒田官兵衛に謎を解くよう求めた。事件の裏には何が潜むのか。戦と推理の果てに村重は、官兵衛は何を企む。デビュー20周年の集大成。『満願』『王とサーカス』の著者が辿り着いた、ミステリの精髄と歴史小説の王道。
Amazon内容紹介より。 昨年の12月初旬の事。本サイトの広告欄でAmazonがしきりに薦めてくるし、評判も良さそうなので購入しようかどうしようか案じていました。そんな時行きつけの書店で単行本の新刊コーナーの隣の棚に、比較的新しい中古本が30%OFFで販売しており、その中に新品同様の本書を見つけ、数瞬ののち購入を決めました。その時はまさか、ミステリランキング4冠制覇を成し遂げるなどとは露とも思わず、又直木賞、山田風太郎賞をダブル受賞するとは夢にも思いませんでした。 初っ端から圧倒的な重厚感と静謐さを兼ね備えた村重と官兵衛の対決に、心を持って行かれそうになりました。終始これが米澤穂信の手になる小説なのかという、一種の畏怖を持ちながら読みました。本作は正に時代小説の手練れが書いたものにしか思えず、その見事なまでの描きっぷりには只管平伏するしかありませんでした。この人は一体どれだけの引き出しをを持っているのか、想像も付きません。 ただ言えるのは、間違いなく本作は『折れた竜骨』と並ぶ米澤の代表作となるであろうということであります。戦国の世に生まれた男たちの生き様と本格ミステリの見事なまでの融合などは、どんな読書の達人をも唸らせるに十分なポテンシャルを持った、堂々たる歴史ミステリの結晶であると言えるでしょう。 畢竟、評判通りの傑作だったと思います。 |