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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1828件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1348 6点 狂乱家族日記 四さつめ- 日日日 2021/08/24 22:50
凶華が遊園地で大騒動を繰り広げる少し前のこと、雹霞はパチンコ屋の娘さんに「恋」をした。そして、そんなこととは少しも関係なく凶華は母親?に目覚め、千花は転校した学園で番長?となった。乱崎家のそんな平和?な日々の中、死んだはずのDr.ゲボックが現れ、周辺にはしだいに不穏な空気が漂ってくる―。千花の学校が麻薬汚染!?現象対策局に新局長就任!?新展開だった前巻を超える予測不能の『四さつめ』!怒涛のボリュームで登場。
『BOOK』データベースより。

今回の主役は殺人を目的に造られた生物兵器の雹霞であり、準主役が最後に乱崎家に参入した千花です。それぞれ独立したストーリーが微妙に関連を持ってきて、相乗効果を生み大いに盛り上がります。更に新キャラが続々登場し、物語の根幹に関わる案件が勃発します。そんな中凶華だけは相変わらずのマイペースで己を貫き、何事にも動じることはありません。

他にも遂に宇宙クラゲの月香の変身後の姿もさりげなく明かされたり、最も影の薄い感のある銀夏がやはりあまり活躍しなかったり、とにかく内容盛り沢山の乱れぶりであります。
新たな展開を迎えようとしている本シリーズ、次は何をやらかしてくれるのか楽しみでもあり不安でもあります。おそらく次作ではまた違った物語が始まるのだと思われます。

No.1347 5点 アンドロイドは電気羊の夢を見るか?- フィリップ・K・ディック 2021/08/21 22:57
第三次大戦後、放射能灰に汚された地球では生きた動物を持っているかどうかが地位の象徴になっていた。人工の電気羊しかもっていないリックは、本物の動物を手に入れるため、火星から逃亡してきた〈奴隷〉アンドロイド8人の首にかけられた莫大な懸賞金を狙って、決死の狩りをはじめた! 現代SFの旗手ディックが、斬新な着想と華麗な筆致をもちいて描きあげためくるめく白昼夢の世界!
リドリー・スコット監督の名作映画『ブレードランナー』原作。
35年の年を経て描かれる正統続篇『ブレードランナー2049』キャラクター原案。
Amazon内容紹介より。

正直100頁位まで私の心は1ミリも動きませんでした。それ以降漸く脈動し始めたはずの心も激しく興奮することはありませんでした。Amazonでも本サイトでも高評価で名作の名高い本作ですが、それ程までとは思えませんねえ。
色々説明不足な点が多いのがまず気になります。例えば如何に何故アンドロイドが造られたのか、動物を飼う事に何ゆえ人間は夢中になるのか、マーサー教とは何か、特殊者とは?など。そうしたバックボーンが作者の頭の中に存在しているにも拘らず、読者には十全に開示されていない様に思われて仕方ありません。いささか不親切ではないでしょうか。
で、派手な賞金稼ぎの主人公とアンドロイドの戦闘なども見られず、ストーリーに抑揚もあまりなく、何だか読み進める事に対して私の気持ちは拒否反応を示す始末。

まあ私がマイノリティなのは分かっています。そして読解力がないのだという自覚もあります。どうにもハードSFというやつと相性が悪くていけません。この名作を楽しめなかった自分が情けないです。

No.1346 7点 特別編集版 魔法少女育成計画- 遠藤浅蜊 2021/08/17 22:44
奇跡のソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』によって魔法の力を与えられた十六人の少女たち。ある日、彼女たちに「増えすぎた魔法少女を半分に減らす」という一方的な通告が届き、無慈悲な生き残りレースが幕を開けた……。話題沸騰中の作品が特別編集版となって登場! シリーズ第一作『魔法少女育成計画』に加え、書籍未収録だった中編『スノーホワイト育成計画』を収録。さらに描き下ろしミニポスター、イラストギャラリーなど、お楽しみ要素満載でお届けします!
Amazon内容紹介より。

やや拙い文章を除けば、文句の付け様がないだけに惜しいなと思います。ラノベかくあるべきという見本のような作品と言っても良いでしょう。只管リアル魔法少女達がバトルロワイアルを繰り広げる物語ですが、構成力やそれぞれの個性を生かしたストーリー性は見るべきものがあります。
意外過ぎる展開やその後に訪れる驚きを十分に堪能出来ました。仲間同士の結束、裏切り、反転、必殺技の炸裂など見どころは満載で、単なる戦闘ものに留まらず、ファンタジー要素も有り、決して単調になることなく楽しめます。
文庫本で収録されていなかった2短編はおまけ程度ですが、『スノーホワイト育成計画』はスノーホワイトが武闘派に成長した過程が描かれており、その意味では貴重な作品らしいです、ファンによると。

又、3頭身で描かれたイラストが滅茶可愛くて萌え要素もたっぷり備えています。十六人もの魔法少女達が登場する本作で混乱せずに済む一因ともなっています。楽しみなシリーズがまた一つ増えました。

No.1345 6点 卵をめぐる祖父の戦争- デイヴィッド・ベニオフ 2021/08/14 23:17
「ナイフの使い手だった私の祖父は十八歳になるまえにドイツ人をふたり殺している」作家のデイヴィッドは、祖父レフの戦時中の体験を取材していた。ナチス包囲下のレニングラードに暮らしていた十七歳のレフは、軍の大佐の娘の結婚式のために卵の調達を命令された。饒舌な青年兵コーリャを相棒に探索を始めることになるが、飢餓のさなか、一体どこに卵が?逆境に抗って逞しく生きる若者達の友情と冒険を描く、傑作長篇。
『BOOK』データベースより。

タイトルがあざといです。読者の目を嫌でも惹きつける、第二次世界大戦中のロシアを舞台に卵1ダースを数日中に持ち帰らなければ、二人の青年が処刑されるという奇妙な物語。そりゃ誰でも興味を惹かれるでしょうよ。しかし、残念ながらこれは戦争の悲惨さを訴えた青春小説であり、決して卵を如何に入手するかというものがメインテーマではありません。又戦争を扱った小説としては残酷なシーンや、生活の為ドイツ兵に身を捧げる少女たちの実態も描かれていますが、そこに生々しさは存在しません。あくまで客観的に物事を捉えつつ冷静に淡々とした筆致で描写されています。ですから、過激さや派手さは持ち合わせていませんね。

一方で主人公レフの女性に対する揺れ動く心情を描いたみたり、下ネタをかなり多用したり、レフとコ―リャの掛け合いがまるで漫才のようであったりと、明るいトーンで物語を進行させています。それでいて、いかに戦争が馬鹿気たものであるかという、訴えるべきツボはきっちり押さえています。
まあどちらかと言えば若者向けで、もう少し早く読めばもっと共感することが出来たかもしれません。とは言え、高々十一年前の作品だから若い頃に読む事は不可能でしたけど。

No.1344 6点 他人の顔- 安部公房 2021/08/10 23:03
液体空気の爆発で受けた顔一面の蛭のようなケロイド瘢痕によって自分の顔を喪失してしまった男…失われた妻の愛をとりもどすために“他人の顔”をプラスチック製の仮面に仕立てて、妻を誘惑する男の自己回復のあがき…。特異な着想の中に執拗なまでに精緻な科学的記載をも交えて、“顔”というものに関わって生きている人間という存在の不安定さ、あいまいさを描く長編。  
『BOOK』データベースより。

事故で顔を失った男の欝々とした一人語り。文章が回りくどい、そして文学を気取ったラノベの様に比喩表現が如何にも多いです。登場人物が少なく、ストーリー性も殆ど無し、読めば読むほど気分が落ち込みます。最初、「おまえ」とは読者に向けて書かれたものかと思っていましたが、途中でその相手が誰かが分かります。
これだけ自分の顔に固執するのならば、もう少しケロイド状の顔の描写があっても良いのではと思います。矢鱈と蛭の巣という表現が出てきますが、想像力が足りないのかイマイチその顔貌が頭に浮かんできませんでした。仮面がいくら精巧に仕上がっていたとしても、何もかもがそう上手く思い通りになるはずがないと突っ込みたくなる部分が大いにあります。

一般受けするとは思えませんが、Amazonの評価は結構高いです。それでも人に薦めるには勇気がいりますね、これは。最後の映画のシーンでプラス1点。主人公の心情は手に取るように分かりますが、あまりに暗くて底が見えず感情移入しようにもとてもではないけれど無理でした。

No.1343 6点 しらみつぶしの時計- 法月綸太郎 2021/08/07 23:01
無数の時計が配置された不思議な回廊。その閉ざされた施設の中の時計はすべて、たった一つの例外もなく異なった時を刻んでいた。すなわち、一分ずつ違った、一日二四時間の時を示す一四四〇個の時計―。正確な時間を示すのは、その中のただ一つ。夜とも昼とも知れぬ異様な空間から脱出する条件は、六時間以内にその“正しい時計”を見つけ出すことだった!?神の下すがごとき命題に挑む唯一の武器は論理。奇跡の解答にはいかにして辿り着けるのか。極限まで磨かれた宝石のような謎、謎、謎、!名手が放つ本格ミステリ・コレクション。
『BOOK』データベースより。

表題作以外はこれと言って特筆すべき作品はありません。特に舞台が海外になると、途端に面白くなくなります。翻訳物に造詣が深くハードボイルドも好きな作者ならではとも思いますが、もっと端正なパズラーを書いて欲しいですね。表題作ですが、大体予想通りの展開でした、しかし最後にやってくれました、これには驚きましたね。そっちかよって感じで。

あと印象に残ったのはショートショートの『イン・メモリアル』で、この短さでこの内容、濃厚さ、心に刺さるものがありました。『猫の巡礼』はオチがなくてちょっとがっかりでしたね。平均的な作品が多いしあまり法月の特徴が出ていなかったのは残念です。期待を上回ることはありませんでした。

No.1342 7点 百鬼夜行 陽- 京極夏彦 2021/08/04 23:05
悪しきものに取り憑かれてしまった人間たちの現実が崩壊していく…。百鬼夜行長編シリーズのサイドストーリーでもある妖しき作品集、十三年目の第二弾。京極夏彦・画、書下ろし特別附録「百鬼図」収録。
『BOOK』データベースより。

京極堂シリーズのサイドストーリー。痛快とか面白いとかの要素はありません。むしろ全般に暗くジメジメしている感じです。それにしても凄まじい程人間が描かれています。それは言動は勿論、細かな仕草や言葉遣いや心理描写によく表れています。特に駄目な人間の心情がこれでもかと描かれていて、ああ、自分も似たようなものだなと思わせられました。それも様々なタイプの人間像を具に描いており、ある意味厭になって来る位京極らしさを前面に押し出しているので、「あの頃」を思い出しながら読めました。駄目人間を描かせたらこの人の右に出る人はいないのではと思います。

シリーズ本編を読んでいなくても楽しめますが、読んでいれば更に楽しめることは間違いないと思います。しかし、出来る事ならもっと早く読むべきでした。
最終話では若き日の京極堂、榎木津、関口が揃ってほのぼのしています。榎木津の「視える」ようになった幼少期の経緯も知れますよ。

No.1341 6点 黒き舞楽- 泡坂妻夫 2021/08/01 22:27
東京郊外の都市で一刀彫りの郷土人形を作る旧家に嫁いだ女性が次々に不審な死を遂げる。最初の妻は交通事故に遭って家に戻ったその晩に、二番目の妻は心臓発作で急死。どちらの場合も夫は不在だったという。その家には江戸時代から伝わる美しい浄瑠璃人形があり、それにはただならぬ因縁が絡んでいるらしい…。謎と官能に彩られた男女の異形の愛を描きだした禁断の恋愛ミステリー。
『BOOK』データベースより。

短い中で色々詰め込み過ぎて、途中方向性を見失いかけました。確かな謎が中心に据えられているのに、直接触れようとはせず周りから徐々に埋めていく手法は、好悪が分かれそうなところだと思います。作者らしい浄瑠璃人形に対する執着ぶりにはなるほどと思わせますが、事件との繋がりに尤もらしさが感じられません。トリックらしきものはあるものの、付け足しの様なものです。

普段からホラーもそれなりに読んでいる私には、残念ながら真相に対する驚きはありませんでした。世の中には様々な愛の形が存在している訳で、決して本作の様な愛が歪んだものだとは思いません。古来からこういった人間のさがは結構描かれており、これもかなり古いですが、今更取り立てて称賛する程の作品とは言えないと思います。

No.1340 6点 錬金術師の密室- 紺野天龍 2021/07/30 23:01
舞台は架空の国のある都市、時代はおそらく近未来でしょう。世界に7人しかいない様々な神業としか思えない能力を持つ錬金術師の一人が、三重密室内で彼自身が創造したホムンクルスと共に殺害される事件の謎を、探偵役である別の錬金術師とその助手で軍務省情報局の少尉が追う物語。彼らに残された時間は僅かに一日だけ。

密室のトリックは所謂バカミスの様なものです。最近よくある特異設定での事件なので、現実的な常識は通用しません。しかし、探偵の推理は至極真っ当なもので、特に違和感は覚えません。驚愕度はそれ程ではありませんが、そんな馬鹿なというか、それじゃ何でもアリじゃないか的なアンフェアな感は否めません。其処で終わっていたらおそらく5点だったと思います。しかし、ラストは見事に・・・これ以上は書けません。

作者はもともとファンタジーなライトノベルでデビューしたそうですが、真面な本格ミステリも書けるという力量を見せつけてくれました。予想していたより文章も確りしていますし、シリーズ化もされて今後が楽しみな作家だと思います。

No.1339 7点 鬼物語- 西尾維新 2021/07/27 23:10
誤解を解く努力をしないというのは、嘘をついているのと同じなんだよ”
阿良々木暦(あららぎこよみ)の影に棲む吸血鬼・忍野忍(おしのしのぶ)。彼女の記憶から呼び覚まされた、“怪異を超越する脅威”とは……!?
美しき鬼の一人語りは、時空を超えて今を呑みこむ――!!
<物語>シリーズ第12巻
Amazon内容紹介より。

久しぶりに物語シリーズらしい作品に出会えた気分です。今回は忍野忍が主役と思わせておいて実は・・・という寸法であります。八九寺真宵と共に突如「非怪異」とも言える『くらやみ』に襲われる阿良々木暦。訳の分からない相手だけにどう戦うかも闇の中で、新たな人物を登場させ、今後の展開の重要なターニングポイントになりそうな予感がします。
個人的にお気に入りだった忍野メメが退場し、ちょっぴり淋しい思いをしていただけに、増々本シリーズの先々が楽しみになりました。

派手なバトルこそありませんが、ミステリ的な手法を取り入れて伏線を回収させ、感情を揺さぶられるような解決法を選択しており、シリーズファンにとってはやや悲しいラストを迎えます。そして最終章ではメメの親類が登場、良い感じのシーンで締めくくりました。余韻に浸れました。

No.1338 6点 ブラッド・ブラザー- ジャック・カーリイ 2021/07/24 22:50
きわめて知的で魅力的な青年ジェレミー。僕の兄にして連続殺人犯。彼が施設を脱走してニューヨークに潜伏、殺人を犯したという。連続する惨殺事件。ジェレミーがひそかに進行させる犯罪計画の真の目的とは?強烈なサスペンスに巧妙な騙しと細密な伏線を仕込んだ才人カーリイの最高傑作。
『BOOK』データベースより。

確かに面白かったですよ。しかし、刑事の兄が連続殺人犯という設定を除けば、ごく普通のサイコサスペンスだと思うんですが。物語を複雑にするのは大変結構な事、むしろ翻訳物は大味という先入観を持っている私にとっては、大歓迎です。ただし、話が色んな方向に分散し過ぎて、諸々説明不足になっている感が否めません。特にホワイの部分がいま一つ納得行かないですね。何故あのような猟奇的な装飾が施されたのかとか、真犯人の心理状態とか、殺害予告の意味など。これ見よがしにあれこれ盛り込めばそれらしく見える、見栄えが良くなると単純に考えた故としか思えません。

誤解を恐れず書けば、この程度のサイコサスペンスであれば、国内、巷に溢れていますよ。本作はカーリイの最高傑作と言われていますが、どうなんだろうなーと首を傾げてしまいます。しかし、一作だけで評価するのはやはり片手落ちだと思いますので、あと何作かは読んでみますけどね。

No.1337 5点 隻手の声- 椹野道流 2021/07/21 22:52
伊月が法医学教室に入って、もう半年。ミチルと都筑教授の親心(!)により、兵庫県監察医の龍村のもとで「武者修行」をすることになった。見た目を裏切らない龍村の解剖マシーンぶりに目を見張り、悪戦苦闘する伊月だったが、ある赤ん坊の遺体に微かな痣を見つけてしまう。果たして伊月の祈りは届くのか……!?
Amazon内容紹介より。

これまでのミステリ要素をホラーで解決するという作品とは異なり、謎解きもオカルトも存在しません。主題は義理の父親とその子供ですが、小ネタの寄せ集めに終始しており、どこに軸を置いているのかはっきりしません。よって、シリーズを通して読んできたファンには、一体どうしたんだって事になりますね。一寸裏切られた感が払拭できません。

親子鑑定に始まり、猫のししゃもと戯れる伊月、ネトゲにハマる伊月、龍村の下でしごかれる伊月、ちょっぴり刑事の筧と作者得意のBL風になってしまう伊月など、今回は伊月のあらゆる内面を見せられ、何となく感情移入してしまう仕掛けです。ジャンルは迷いましたが社会派としました。その他でも良かったんですけどね、どこに一番重点が置かれているかで判断しました。

No.1336 6点 赤の女王の名の下に- 汀こるもの 2021/07/18 23:10
情報漏洩、そして少年犯射殺の責任を問われ閑職に回された警察官僚・湊俊介。エリート街道復帰めざし、警察トップにも影響力ある財閥の、婿選びパーティに高校生探偵・立花真樹と参加するも、館で令嬢が殺害される。家名に傷がつくことを厭う遺族、自己保身に走る湊、大人の事情で事件はあらぬ方向に処理されるが惨劇は続く!湊たちは恐怖の館から生還できるか。
『BOOK』データベースより。

終始一貫これまで脇役に徹していた湊警視正の過去と現在の物語。で、今回は湊俊介の一人称なのか、三人称なのか判然としない(自身が語っているのは間違いないが「私」という個称が一切使われていない為)。其処の所どうなんでしょうねえ、一応一人称としておきますが。兎に角探偵役の双子の片割れである真樹すら脇に追い遣られており、ミステリ色が一層薄くなっている感じがします。
そんな中密室殺人事件は起こり、その後も事件は続きます。しかし、それらを捜査するでもなく推理する訳でもない湊と真樹。双子の兄の美樹は登場すらしません?結局解決に導くのは湊で真樹は何もしません。ただ相変わらず魚や奇妙な生態を見せる生物たちの蘊蓄を語るのみ。実は既に第一段階で真相を見抜いていたにも拘らず・・・。だったらもっと早く探偵役らしいところを見せろよと思ったりもします。その黙して語らない動機が何とも言えません。

結論として、この作者にしては十分楽しめたとは言えます。合わない人は拒絶反応を示すかも知れませんけど。ミステリとして破綻しているかと問われれば、私は否と答えるでしょう。動機に関しては弱いと言うか、そんな馬鹿なって感じです。本格ミステリと云うより、総合的に評価してこの点数に落ち着きました。

No.1335 7点 夏の稲妻- キース・ピータースン 2021/07/16 22:52
情報屋のケンドリックから数枚の写真を見せられたのは、八月の暑い盛りのことだった。上院選立候補中の議員がSM行為?ウェルズは慎ましく情報提供の申し出を断ったが、翌日ケンドリックは死体となって発見された。失職の危機に瀕したウェルズは、職業生命を賭けて卑しき街をさ迷うが…。夏の終わりに、彼が到達した真実とは?アメリカ探偵作家クラブ最優秀ペイパーバック賞に輝く第三弾。
『BOOK』データベースより。

ハードボイルドのお手本のような作品。流麗な文体、的確かつ情感溢れる翻訳、適度なドラマ性、人間が描けている事、そして何と言っても主人公が魅力的な事。これだけの条件が揃えば必然的に傑作が生まれるというものです。ジョン・ウェルズは46歳の新聞記者。深酒も頻繁にするし、煙草は一日三箱吸う、どちらかと言えば破滅型のアンチヒーローでしょう。しかし、離婚した後に一人娘はが自殺するという苦い過去を引き摺りながら、その身を危険に晒さざるを得ない危なっかしさと、身に沁みる様な悲哀は裏を返せばカッコいい、文句なしのヒーローと言えそうです。

そして彼を廻る女性たち三人がまた、それぞれ個性的で内面が非常によく描き込まれていると思います。特にウェルズに想いを寄せる同僚ランシングの揺れ動く女心がいじらしく、過去に何があったのかとやきもきします。シリーズ一作目から読んでいない為、その辺りよく分かりませんが、いずれ読む機会があれば特に注目したいですね。こういった男女間の愛情の機微を見るにつけ、翻訳者が女性で本当に良かったなと思います。

No.1334 6点 背徳のぐるりよざ セーラー服と黙示録- 古野まほろ 2021/07/13 22:47
ミッション・スクールの名門「聖アリスガワ女学校」の生徒たちが、春期合宿に出発してゆく。ところが今日子の属する班は、目的地とはまるで異なる隠れ里に迷いこんでしまった。その村の名は「鬱墓村」。終戦を知らない不思議な人々。厳しい戒律と落ち武者の呪い。そして発生する、連続聖歌見立て殺人―犯人を推理する今日子、手口を推理するみづき、動機を推理する茉莉衣が解き放った、見立てと呪いの恐るべき真実とは―!?
『BOOK』データベースより。

すぐに明かされネタバレにはならないと思いますので、敢えて書きます。本作は横溝正史の『八つ墓村』へのオマージュであり、一種のパロディでもあります。外界から完全に閉ざされた八つ墓村ならぬ鬱墓村。双子の老婆、底の知れぬ鍾乳洞、落ち武者伝説、「たたりじゃー」の婆様。あ、それと「よーし、解った」もあります。これは角川映画ですけどね。その村とミスマッチなのが村人全員がキリシタンであり、正直族であるという事実。何となく雰囲気にそぐわない訳ですが、それ無しでは成立しない物語なのでやむを得ませんね。

別段読み難くはありませんが、それにしても長い。もうお腹一杯です。連続見立て殺人をホワイ、ハウ、フーに分けて、三人の女子高生が見事に解き明かします。それならもっと早い段階で解決しろよ、と思わないでもないですが、それすらも横溝を模倣しているのでしょうか。私的には探偵役の彼女たちにはあまり魅力を感じません、それは作者の筆致があまりにも情感に欠けている為にも思えます。それと、何故そんな事まで知っているのかと云うシーンが解決編に於いて幾つも見られます。そんな伏線あったかな?と思ってしまいました。

No.1333 6点 もののけ本所深川事件帖 オサキ鰻大食い合戦へ- 高橋由太 2021/07/07 22:54
江戸・本所深川で、献上品の売買を行う、献残屋の手代・周吉。彼は妖狐に憑かれたオサキモチ。もののけがとり憑いた献上品をせっせと磨いていると懐から“オサキ”が顔を出し、町を騒がせている放火魔の噂話を始めた。ある晩、預かり物の高級掛け軸が燃やされて、店は倒産の危機に。周吉とオサキは百両の賞金を目当てに“鰻の大食い合戦”への出場を決意するが…。妖怪時代劇第二弾、開幕。
『BOOK』データベースより。

オサキって狐の妖怪だったのね。てっきり江戸の可愛い町娘か何かだと思っていたので、ちょっとがっかりしました。やはりシリーズ物の第一話は先に読まなければダメですね。本作は第二弾です、読み進めるのに不都合はありませんが、オサキと周吉の出会いとか色々気になって、早く一作目を読まねばと今にして思います。
さてこの作品、ストーリーは至ってシンプルですが、なかなかよく練られているとの印象です。特に賞金の百両を目当てに、各挑戦者が如何なる理由で大食い合戦に挑んでいくのかという経緯が克明に描写されて、又その陰では放火騒ぎが起きており、それらがどう収束していくのかを面白く読ませます。

本戦で大本命の謎の人物が逸早く脱落してしまうのはやや興醒めでした。その理由としては江戸時代ならではのものですが、それにしてもそんな事で?と思ってしまいました。しかし本命が不在となり、合戦は嫌が上でも盛り上がり、大接戦となり白熱します。戦いが終わってもう一山ありますが、何となく蛇足のように感じてしまい、そこは残念でした。

No.1332 6点 陽だまりの彼女- 越谷オサム 2021/07/05 22:13
幼馴染みと十年ぶりに再会した俺。かつて「学年有数のバカ」と呼ばれ冴えないイジメられっ子だった彼女は、モテ系の出来る女へと驚異の大変身を遂げていた。でも彼女、俺には計り知れない過去を抱えているようで―その秘密を知ったとき、恋は前代未聞のハッピーエンドへと走りはじめる!誰かを好きになる素敵な瞬間と、同じくらいの切なさもすべてつまった完全無欠の恋愛小説。
『BOOK』データベースより。

何だよ、コテコテの恋愛小説かよと途中まで思いました。しかし私がそんなもの読むはずないじゃないですか。当然ただの甘ったるいだけの恋愛小説ではありません。勿論、そう云うのが好きな若い男女なんかにとっては持って来いの、待ってましたと言わんばかりのあまーい作品ではありますよ。でもね、そんな純愛ものと思わせて、実は密かに伏線をこれでもかと張り巡らせた立派なミステリなんです。そこにファンタジー要素が加わっていて、得も言われぬムードを醸し出しています。

まあ途中から展開がミエミエになってしまっている欠点はありますが、全体として万人受けしそうな作品に仕上がっていると思います。ネタバレになるまでは、そんな事が伏線だったのかと、あれもこれも、そういう事だったのかと半ば呆れてしまいました。
ただ私は涙の一滴も出ませんでした。映画の方は多分上手く演出されていれば泣ける映画になっていることでしょう。ラストはハッピーエンドともそうでないとも言えない微妙な締めくくりで、独特の余韻を残しています。タイトルも内容にマッチしていて良いと思います。

No.1331 7点 戦場のコックたち- 深緑野分 2021/07/03 22:41
合衆国陸軍の特技兵、19歳のティムはノルマンディー降下作戦で初陣を果たす。軍隊では軽んじられがちなコックの仕事は、戦闘に参加しながら炊事をこなすというハードなものだった。個性豊かな仲間たちと支え合いながら、ティムは戦地で見つけたささやかな謎を解き明かすことを心の慰めとするが。戦場という非日常における「日常の謎」を描き読書人の絶賛を浴びた著者の初長編。
『BOOK』データベースより。

第二次世界大戦に於ける連合軍のノルマンディー上陸作戦、マーケット・ガーデン作戦に空挺師団として参加した合衆国のコックたちの活躍を描いた戦争小説。読後確かな達成感みたいなものはありましたが、日常の謎を扱ったミステリとしては弱いかなと思いました。謎はそれなりに魅力的ですが、真相は呆気ないもので意外性に欠けます。ただ一兵士から見た戦況や戦争の真実の姿にはリアリティがあり、よく描かれていると思います。目の前で人が死んでいく現実を当たり前の様に描写して、それが却って絵空事ではないリアルさを醸し出しています。決して反戦を訴える訳でもなく、あくまで当事者として一つ一つの戦時下ならではの出来事を淡々とした筆致で当たり前の日常として捉えます。

一つ文章に難癖を付けるとすれば、舞台転換が上手く出来ていないように感じたところでしょうか。いつの間にか話が進んでいるのに、あれ?となりました。まあ私だけでしょうけど。
映画『遠すぎた橋』や『フルメタルジャケット』(ベトナム戦争だけど)を思い描きながら読んでいたので、映像的に想像し易かったですね。

No.1330 6点 聯愁殺- 西澤保彦 2021/06/28 22:23
大晦日の夜。連続無差別殺人事件の唯一の生存者、梢絵を囲んで推理集団“恋謎会”の面々が集まった。四年前、彼女はなぜ襲われたのか。犯人は今どこにいるのか。ミステリ作家や元刑事などのメンバーが、さまざまな推理を繰り広げるが…。ロジックの名手がつきつける衝撃の本格ミステリ、初の文庫化。
『BOOK』データベースより。

冒頭に主な登場人物一覧が記載されていますが、何とも読み辛い名前の多い事。一礼比(いちらお)、双侶(なるとも)、凡河(おつかわ)、丁部(よぼろべ)、これは読めないって。他にも舎人(とねり)、口羽(くつわ)、寸八寸(かまつか)等々。嫌がらせかと思うほどで、覚えきれず何度も前に戻って読み直さなければなりませんでした。
まあそれはそれとして、ミステリ作家達の連続殺人事件に対するアプローチが、もう一つ凝ったものであったり、突飛な発想から出たものであったならもっと面白かったと思います。しかし重箱の隅をつついたような些細な事柄から、推理の翼を目一杯広げていく作者の苦心の跡が見られて、そこは認めなければならないでしょうね。

オチはブラック過ぎて、ちょっと引いてしまいました。そこまでするか、という悲惨な結末。この余韻に浸れる人はかなりディープなメタミスファンかも知れません。メタと言っても、誰もが想像するような一種爽快感や酩酊感を伴うものではなく、只管暗く救いのない構成の妙が効いた、他に類を見ない仕掛けが施された作者らしいものです。これは評価が割れるでしょうね、高低の差が激しいですがさもありなんと言った所です、いや気持ちは分かりますよ。

No.1329 7点 ゲッベルスの贈り物- 藤岡真 2021/06/24 22:49
広告代理店に勤めるおれこと藤岡真は、上司の命令で正体不明の人気アイドル・ドミノを探す破目になる。その正体が“真弓”という少女らしいとわかって来たころ、わたしことプロの殺し屋“真弓”が、藤岡を狙って動き出す…。七転八倒、主客転倒の攻防の末、藤岡が辿りついた「ゲッベルスの秘密兵器」の正体とは。脳神経速度の限界に迫る、長編サスペンス。
『BOOK』データベースより。

いきなり歴史的大事件が背景のまさかの展開から始まり、あれやこれやの要素が入り混じり、果たしてこの物語はどのように収斂するのか、まさに地に足が付かない不安定な心地で読み進めました。ですが終わってみれば笑いありアクションあり仕掛けありのテンコ盛りのサービス精神溢れる作品でした。ミステリとしてもちゃんと成立しているし、細かい伏線も張られていて、無駄のない文章で描かれた余人に真似の出来ぬ怪作と言えると思います。

スラスラ読めますが、登場人物の絡み具合やストーリー展開が結構込み入っており、読み流しているとあれ?となることもありそうなので、要注意です。Amazonで相当こき下ろされていますが、決して悪い出来ではないと思います。一読の価値ありと言いたいです。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 1828件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
島田荘司(25)
アンソロジー(出版社編)(25)
西尾維新(25)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
折原一(19)
中山七里(19)
日日日(18)
森博嗣(17)