皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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臣さん |
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平均点: 5.90点 | 書評数: 660件 |
No.12 | 7点 | 鬼畜 松本清張映画化作品集2- 松本清張 | 2020/04/25 18:54 |
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双葉文庫版の清張短編集。映画化作品を集めたらしい。
目次を見たら、新潮文庫の短編集「黒い画集」「張込み」「共犯者」からピックアップした寄せ集め集だった。 『潜在光景』『共犯者』は「共犯者」に所収。 『顔』『鬼畜』は「張込み」に所収。 『寒流』は「黒い画集」に所収。 『潜在光景』『共犯者』は未読だった。『寒流』は内容を覚えていなかったので再読。『顔』『鬼畜』は記憶がしっかりと残っているので再読せず。 潜在光景・・・最後のオチは、タイトルや途中の回想で想像できそう。でもページを繰る手は止まらなかった。 顔・・・なんでそんな行動をとるの、とハラハラドキドキ。なぜか主人公の肩を持ってしまう。それだけ夢中になれる作品。 鬼畜・・・おそろしいとしか言いようがない。ふつうの小市民なんだけどなぁ。貧しさゆえか? 寒流・・・気の毒すぎる。なんでそこまで主人公をいじめるの、清張さん。最後の一発逆転はあるのか? 共犯者・・・犯罪者は繊細さが必要だが、すぎるのはダメ。もっと堂々としてなきゃ。それと、そもそも共犯は絶対ダメ。馬鹿げてはいるけどおもしろい。 本短編集にかぎらず、多くの清張短編の根底には、人の心の奥底に潜む欲望や悪意がある。 小市民だろうが善人だろうが、清張にかかればみな、狡くて気が小さいコメディリリーフ(それでいて主人公)を演じさせられる。 さらに本短編集作品の主人公たちは、悲惨な末路が待ち受けている。 |
No.11 | 7点 | 張込み- 松本清張 | 2020/04/20 14:08 |
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清張の短編には、犯罪ものや、主人公の転落を描いたものが多く、本短編集では『顔』や『鬼畜』、『カルネアデスの舟板』などはそれに当たる。
ただ本短編集には、『張込み』や『声』のように刑事が活躍するものもあれば、社会派の『投影』も含まれている。 前者(犯罪ものなど)のほうが清張らしさがあって面白さも格別だが、立て続けに読むと辟易としてくるから、本短編集はちょうどいい塩梅である。 個人的には、前者では『カルネアデス』、後者では『声』が好みだ。とはいえ他が悪いわけではない。『張込み』、『投影』もかなりいい。 その他『地方紙を買う女』、『一年半待て』(これらも捨てがたい)を含み、全8編。 長編では社会派ミステリーが目立つが、長編でも上記傾向は変わらない。 刑事ものの『点と線』は2回読んでも好きにはなれなかったが、短編では『声』や『張込み』などの刑事ものが好みなのは我ながら意外な感じがする。 『点と線』は、社会派であり本格物でもあるので、本来好みのはず。もう一度読めば好きになるのかもしれない。 |
No.10 | 6点 | 高校殺人事件- 松本清張 | 2016/02/15 13:25 |
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清張であって清張ではない、というふうに見せながらも、やはり清張なんですよね。そんな感じの、社会派青春ミステリー超大作?でした。武蔵野の描写あり、ポーやボードレール風の詩ありの芸術性ゆたかな推理小説でもあります。
個人的には、他の清張作品よりもさらに読みやすく、軽く読めたことがよかったかな。 みなさんがおっしゃるように、清張節あり、萌え少女あり、そしていちおう本格要素ありです。 これだけの分量で、事件は盛り沢山、真相もご立派、という点を勘案すればすばらしい作品なのでは? まあだからこそ本格としては標準以下ということはいえるのですが(笑)。 |
No.9 | 6点 | 疑惑- 松本清張 | 2012/11/14 10:20 |
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「疑惑」と「不運な名前」の2編を所収。
「疑惑」・・・自動車転落事故は鬼塚球磨子(鬼クマ)による保険金殺人なのか、それとも事故か、あるいは他の真相が隠されているのか? 前半は秋谷記者と原山弁護士とによる鬼クマの描写が面白く、後半は後任の国選弁護人・佐原による真相究明までの流れがよい。けっこう読み応えがあります。 トリックは比較的簡易に暴かれます。そのあたりは100ページ程度の中編だから仕方がないでしょう。 この小説の注目すべき点はやはり最後の章、最後の数行です。恐怖小説と云っていいでしょう。 たびたび映像化され、直近では先日、常盤貴子主演のテレビドラマが放映されましたが、ラストを含め、かなり脚色されていました(でもドラマも楽しめました)。 おそらく、その他の映像ものもラストが変えてあると思います。 「不運な名前」・・・獄中で死を遂げた熊坂長庵が起こしたとされる、明治時代に起きた実際の事件・藤田組贋札事件の謎を解くという歴史ミステリーです。 資料館で偶然出会った、ルポライターの安田と、元学校校長の伊田と、謎の女性・神尾とがそれぞれの知識を開示しながら真相を解き明かそうとしていくのが物語のスタイルです。 推理する時代も対象も地味、ミステリーとしてももちろん地味。でも、地味は地味ながらも歴史的事実の精緻な描写には、わずかに心躍らされました。 こちらも中編ながら、読み応えがありました。 ジャンルとしては、表題作は本格、ホラー、サスペンスなどの要素あり、「不運な名前」は歴史ミステリー。 平均すると社会派(笑)。いやぁ、全くちがうな。 2編とも個性があるから、安易に本格にはしたくない。表題作を対象とするか? それぞれは分類できるし、そもそも中編だから、短編集(分類不能)というのもおかしい。 こういうのはジャンル設定がむつかしい! |
No.8 | 6点 | 聞かなかった場所- 松本清張 | 2011/12/29 14:53 |
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浅井が出張先で妻の突然の死の報せを受ける。死因は心臓発作だが、死んだ場所が妻には縁のないはずの「聞かなかった場所」だった。疑惑を抱いた浅井は独自で調査を行う。そして真相を突き止めた浅井は・・・・・。
清張ならではの、どこにでもいそうな小心者の転落を描いた小説です。 全体的に暗く、じめじめしていて、後味もイマイチ良くない。それでも、ほどほどに感情移入できるのは、さすがです。誰でもこんな状況に陥るかもしれないということが暗示してあります。 清張ミステリは、犯罪者や悪意あるひとたちの心理描写は抜群なんだけど、捜査者がわがもうひとつ印象に残らない。『時間の習俗』に再登場させた刑事が登場する『点と線』でさえも、テレビドラマを鑑賞したからこそ人物像が記憶に残っているが、小説の中の刑事の記憶はおぼろげでしかない。だから清張ミステリーはエンタテイメント小説として万人には推薦できない。これはシリーズ探偵(刑事)をつくらなかったことの功罪なのでしょう。 |
No.7 | 4点 | 神と野獣の日- 松本清張 | 2010/07/07 13:56 |
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タイムリミット・SFパニック物です。映画でいえば「ディープ・インパクト」(地球最後の日)みたいなものでしょうか。
個人の視点では描かれておらず社会小説的な描き方をしているので、感情移入することはなく、しかも性悪説に立って描かれているので心から楽しめるということもなく、読後の爽快な満足感なぞ全く得られません。オチは清張らしいとはいえ、想像を超えるものではありませんでした。 こんな内容でも猛烈な勢いで読めてしまうので、もしかして名作ではと勘違いしてしまいそうですが、他の名作にくらべながら冷静に考えると、やはり、清張の想像力に感心できただけの作品だったように思います。 |
No.6 | 5点 | 彩霧- 松本清張 | 2010/04/01 15:01 |
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主人公の知念が友情のため、正義感に燃えて組織悪に立ち向かうというストーリーです。企業と人間の暗部がうまく描かれていて楽しく読めました。
主人公を除けば登場人物のほとんどが、横領、逃亡、強請りなどをやる悪人なので、悪漢小説的なところがあるし、銀行が舞台なので企業小説的なところもある。他の清張社会派作品とはちょっと雰囲気が違うような...でも、物語の発端からぐいぐいと引っ張ってくれる展開は、いかにも清張らしい。 |
No.5 | 6点 | 火と汐- 松本清張 | 2009/10/11 09:57 |
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表題作と、『証言の森』『種族同盟』『山』の4篇からなる短編集です。
表題作は、刑事二人がアリバイ崩しに挑む、「点と線」の簡易版といった謎解き本格モノです。ただ、かなり確実性の低いアリバイトリックなので、感動はありません。 その他の作品はアリバイ崩しモノではなく本格性は低いのですが、謎をうまく積み重ねて読者を引き込んでくれます。『証言の森』は時代設定が戦前で古めかしすぎて抵抗がありましたが、実はその古さにもわけがありました。これと他2作は、それなりに楽しめました。 4作の共通点は女性が被害者であること、それから雰囲気がみな陰鬱なことです。すこし陰鬱すぎるとも思いましたが(だいたい清張作品は暗いですね)、結果的には、いつものようにぐいぐいと引き込まれていきました。 |
No.4 | 8点 | ゼロの焦点- 松本清張 | 2009/05/15 12:44 |
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makomakoさんと同様、30年前に読み、数年前再読しました。なんど読み返しても受ける印象は同じです。
戦後の悲しさが全編を通して出ていて、その雰囲気は私の好みにピッタリです。 今年は生誕100年ということなので、清張をもう少し読んでみようかなと思います。 |
No.3 | 6点 | 点と線- 松本清張 | 2009/05/15 12:35 |
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実は本作は、空白の4分間という名トリックがあり、アリバイ崩しがメインとなっているから立派な本格物です。
しかし、汚職などを絡めて動機を強調させた内容となっているので、清張の社会派長編第1作として有名になったようです。 本作は東西ミステリベスト100の上位にも食い込み、かなり評価が高いようですが、社会派好きの私は、なぜかそれほど好きではありません。あまりにも泥臭いせいでしょうか。とにかくリアリティがありすぎます。 |
No.2 | 9点 | 黒い画集- 松本清張 | 2009/04/15 09:50 |
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清張の中短編を所収。もちろん全てがミステリだが、サスペンスの色合いが濃い。いや、そんなカタカナ表現は似合わない。心理恐怖小説のほうがピッタリだ。
おそらく阿刀田高は影響を受けたのだろうが、清張の作品がとにかくリアリティの点で数段上、というか私の好みである。 『遭難』は、山岳ミステリで、登山者の一人が遭難して死亡する話。犯行までの展開、その後の犯人を追い詰めるまでの展開がともに良い。緊張感の連続である。そして結末がまた凄い。中編だが、内容は長編なみにずっしりと重い。完成度はきわめて高い。 少ない登場人物の役割分担もよくできていて、プロット、ストーリーについても申し分のない作品であった。 その他『天城越え』『凶器』も負けず劣らず、よかった。なんどでも読み返したい作品群である。 なお、遭難は映画化もされています。なんと若かりし日の児玉清が準主演で出ていますよ。 (空さんの書評を見てひとこと)2012年3月 終わり方について、ちょっと思い出したのですが(実ははっきりとは思い出せないのですが)、原作と映画では終わり方が反対だったように記憶しています(記憶違いだったらごめんなさい)。 でも、どちらのラストでも、怖いんですよね。 記憶が間違っていたら、ほんとうにごめんなさい。 |
No.1 | 7点 | 時間の習俗- 松本清張 | 2009/03/22 17:11 |
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30数年前に読み、数年前にまた読んだ作品。
清張以後という言葉も生まれたほど、清張は社会派推理の原点の人だが、本作品は写真トリックも秀逸で、謎解きに関して本格派作家と十分に肩を並べているように思う。 個人的には、点と線よりも好きですね。 ただ、再読のとき、初読のときほどの感動がなかったのが残念。 |