皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
臣さん |
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平均点: 5.91点 | 書評数: 666件 |
No.506 | 5点 | 紫雲の怪- ロバート・ファン・ヒューリック | 2016/07/13 09:49 |
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「首なし死体事件」が当然ながら主たる謎なのでしょうが、その事件と、「黄金盗難事件」や「謎めいた女の伝言」と、どう絡まっていくのか、そこがポイントです。
nukkamさんが書かれているように、読みやすいけど複雑という表現はまさにそのとおりでしょう。 ただ、さらっと読めば、あれっ、どうつながるの、というふうに思えてきます。「首なし」がメインだと思っていたら、次第に「黄金盗難」のことばかりになり・・・、う~ん、わからん、という感じにもなります。 作者が渾身の力をこめて書いたことは想像できますが、わかりにくくしすぎたという気がしないでもありません。 副官マーロンの活躍には目を引かれ、怪奇色にぞくぞくしましたが、自身で謎解きするには手に負えなくて、中途で思考が散漫になりました。 |
No.505 | 6点 | アナザーフェイス- 堂場瞬一 | 2016/07/04 10:37 |
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主人公は警視庁、刑事総務課の大友鉄。2年前に妻を亡くし、小2の息子と二人暮らし。子育てのために現職に異動を申し出た経緯がある。
その彼が元上司に呼び出され、少年誘拐事件の捜査を応援することとなる。 主人公にクセはほとんどない。みなが安心するタイプだが、すべてが地ではなく、半分ぐらいは芝居で培った演技による。人たらしのような能力だが、ずるさはない。根っからの善人というわけでもないが、正義感はもちろんある。 ハンサムという点をのぞけば、主人公としては中途半端なタイプだった。 こんなふつうの人物を主人公にしてシリーズ化するのはむつかしいはず。それに挑戦したシリーズというか。自信があったのだろう。 ミステリーとしては、トリックらしきものはなく最後のどんでん返しだけが楽しめる要素だが、それも中盤でなんとなく読めてしまう。伏線が多すぎるのでは? まあ、大友のキャラと捜査の過程を味わえば十分という内容だった。経験したことがないほどの読みやすさにも拍手。 100冊執筆ということで、最近書店でにぎわっていた作家だが、デビュー20年にもならずこの著作数だから、何でもさらっと書ける作家なのだろう。読み手もそれにおうじて、かるく読めばいい。 |
No.504 | 5点 | ビッグデータ・コネクト- 藤井太洋 | 2016/06/28 13:44 |
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SF作家だそうなので、空想科学要素を取り入れた推理小説を予想していたが、そうではなかった。システム開発の最前線はこんなものか、と元SEの作者によるリアリズムが感じられる、ちょっと変わった警察ミステリーだった。八次請けとか、2万人月とかはウソっぽいw
現代社会や法制度に踏み込んで描いてあるので、社会派物とも言える。それとも蘊蓄を語りたかっただけなのか。 かつてウィルス事件の容疑を着せられ犯罪者扱いされたハッカーの武岱が2年後、官民施設のシステム開発を担当するエンジニア、月岡の誘拐事件で警察に協力することとなる。武岱は何者なのか、どんな策謀があるのか。それとも、刑事の万田が彼と協働して謎を解くのか? 劇画的な人物が登場するわりに、中途までは平板な展開となっているのが意外である。とはいえ終盤に予想外の流れになる。もっと現代風な技を使えばいいのにとも思うが、好ましい感じもする。 じつは作者のSF作、「オービタル・クラウド」を読むのがねらいだった。手始めに本書を読破した。中盤がちょっと退屈だし、推理が雑な感もある。でも「オービタル」を含めもう少し読みたい気もする。今後に期待か。 |
No.503 | 6点 | 消えた少女- 五十嵐貴久 | 2016/06/19 12:00 |
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吉祥寺探偵物語シリーズ第1作。
どこかで見たような表紙のイラストだなと考えていたら、パーカーのスペンサーシリーズが浮かんできた。似ている。 意識しているのだろう。スペンサーファンからすれば、とんでもないと言われそうだが、個人的には本シリーズのほうがいい。 主人公のおれ、川庄は妻に逃げられた元銀行マン。小5の息子を養っている。職業はコンビニのバイト。もちろん家事もこなす。夜家事を終えれば、夜の街へ繰り出し、おかまバーなど転々と飲み歩く。 最初は猫探しから始まる。意外に簡単に見つけ出す。探偵の素質ありなのか。 おかまの京子ちゃんから依頼を受け、1年前に行方不明になった少女の捜索へと乗り出す。 息子から心配されるほどのダメ男かと思いきや、探偵業はとことんやる一本筋の通った男でもある。そんなところはハードボイルドのようだ。このギャップが本家のスペンサーシリーズより好ましいところ。ユーモアから始まりシリアスに向かっていくストーリーも好み。 都合よく進みすぎなのは欠点だが、流れるように軽く読めるので、長所でもある。その点は本家に似ている。 それにしてもこの犯人、ちょっと身勝手すぎる。 |
No.502 | 6点 | 意識の下の映像- リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク | 2016/06/13 10:19 |
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犯人は複数のトリックを組み合わせて殺人を実行している。そのうちのメイントリックはいまでは有名なもの。当時でも研究が進んでいて、話題にもなり、禁止されている分野もある。
ただ個人的にはあまり信用していない。あんなもので刺激できるのだろうか。 とはいえ本書では、犯人がそのトリックを上手に使うとともに、それだけにたよらず、他のいろんな技を使って、完璧に仕上げようとしている。 それに対してコロンボは、犯人のちょっとしたミスから出たほころびを見つけ出そうとする。 コロンボが犯人より一枚上手なのはいつものことだが、この風采の上がらないコロンボ対頭脳明晰な犯人の対決構図はほんとうに面白い。あのしつこさは犯人にとって堪らん。 なぜあんなに早く目をつけられるのかという疑問は感じるが、それも毎度のことで、気にせず読むのが正しい読み方だろう。 コロンボ入門にふさわしい典型的な作品だと思う。 コロンボだけではなく登場人物のほぼ全員の心情が地の文に書かれていて、とにかく読みやすすぎる。ということで、登場人物の心の中を探りたいという高度な読み手にはもちろん不向きな作品だろう(笑)。 |
No.501 | 5点 | クランⅠ 警視庁捜査一課・晴山旭の密命- 沢村鐵 | 2016/06/08 11:49 |
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文庫書き下ろしの新シリーズらしい。
警察組織内の悪に立ち向かう警察官を描いた作品らしい。 主人公は、警視庁・捜査1課の警部補、主任刑事の晴山旭らしい。 検視官・綾織女史の恋人で、元捜査2課の刑事だった北森の死が始まりだった。その綾織は、渋谷で起こった警察OB変死事件で、とんでもない検視を行う。 晴山は綾織の内偵を命じられ動き出すが・・・ 二人の刑事の視点による交互の描写がうまく決まったという感じ。 スピード感もあって興奮しながら読めるから、警察エンタテイメント好きには堪らないだろう。 しかし、しかし・・・ 最終ページの最終行で、(Ⅱへつづく)となっていた。 ラストがあまりにもあっけなかったからな。 それなりの決着をみた、ということでクランⅠは「完」でいいのだろうか。最終章はエピローグとなっていたしなぁ・・・ ちなみに、クランⅡのサブタイトルが、「岩沢誠次郎の激昂」となっている。 この人物は本巻の二人目の視点人物である。晴山にくわえ、岩沢がクラン一派として大活躍するのだろうか? 全3巻(あるいは4巻以上)を読んでからまとめて書評をと思ったが、いつになるかわからないので、とりあえずアップした。 |
No.500 | 7点 | 灰色の北壁- 真保裕一 | 2016/05/31 09:39 |
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書評数、500件記念。
山岳物3連発。 「黒部の羆」 大学の山岳部の二人が冬山で遭難。そのうちの一人が怪我で動けず、救助を呼び、山小屋管理の山男が一人救援に向かう。学生二人の間には確執があった。 ミステリー的な仕掛けよりも、中途の情景描写と彼らの心境描写で読ませる筆力に唸らされる。 「灰色の北壁」 書体を3種使い分けているのは少し抵抗がある。こんなヒントがなくたって解けるぞと言いたい。もちろん真相はわからなかったが(笑)。 本作もあっと驚く真相が控えている。囚人のジレンマみたいなところがあって、かなり好み。 「雪の慰霊碑」 遭難死した息子の命日に合わせて、息子が死んだ山に挑む父親。 その理由当てだってことは、すぐにわかった。真相もピタリと当てた。 本作もシリアス物だけど滑稽にも見える。最後まで描かなかったのが救いか。 ミステリーというよりは・・・ 山での描写が作者のハードボイルド文体に合っていた。 1,2作目は大絶賛したい。3作目もまずまずの出来だった。 |
No.499 | 4点 | ヒトイチ 警視庁人事一課監察係- 濱嘉之 | 2016/05/21 21:48 |
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警視庁出身の作家が書いた、人事一課監察係の係長・榎本を主人公とする警察もの連作短編集。
人事、内部捜査と聞いて、すぐに横山秀夫のD県警ものを想像したが、まったく違う。 作者が内部のことを知りすぎているからか、警務、公安、総務、組対などたくさん出すぎで、それがあだとなって、あまり理解が進まなかった。 謎解きみたいなものはもちろんなく、ストーリーの捻りもあまりない。 やくざや政治家、警視庁のトップなども多く登場するような内容だから、そもそも肌には合わない。 好みではないといえばそれまでだが、プロットも、サスペンスも、ボリュームもみな中途半端すぎるという印象が強い。 リアリティはありそうには見えるが、実際を知らないので、よくわからん。 警察小説ならなんでも来いと胸を張っていたが、ちょっとつまづいたかな。 |
No.498 | 7点 | 樽- F・W・クロフツ | 2016/05/17 10:12 |
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ビヤ樽風のビールサーバを見ることはあっても、木板製の樽を見る機会は今ではほとんどありませんし、樽に何かを詰めて送ることなど想像もできません。
そんな古めかしい樽が小説の道具に使ってあっても、今でも十分に理解でき楽しめる推理小説だと思います。筋がよくできているからなのでしょう。 ロンドンとパリの二人の警部や弁護士、探偵を登場させて、彼らに個別の捜査をさせることで多重的な流れにして読者を飽きさせないようにしています。この時代の小説としては出来すぎの構成です。多重的というよりは、話がリレーのようにスムーズに受け継がれていくので、読みにくさはありません。 謎、トリック、真相を構成する行動は原始的です。でも、そんな細かな事象を積み重ねれば事件がこれほど複雑化することに驚かされます。犯人の凄さに脱帽です。いや、作者を褒めるべきです。終盤は迫力さえも感じました。 ただし、アリバイ崩しということを念頭におき、中盤から終盤にかけて、聞き込み情報をもとに推理に参加しようとすれば、頭の中は混乱します。こういう読み方はするべきではないということなのですね。 |
No.497 | 6点 | 戦場のコックたち- 深緑野分 | 2016/04/25 11:54 |
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日常の謎の連作短編集。
日常といっても舞台は戦場なので、特殊な日常です。作者は日本の女性作家です。 登場人物は、語り手の新米コック・ティムや探偵役のリーダー・エドたちコックグループを含む若手兵士たちです。 料理場が舞台というわけではなく、コックたちは他の兵士と同様、パラシュートで戦地へ赴いたり、銃撃戦に遭遇したりと始終危険と隣り合わせです。 戦闘シーンのページも多く割かれていて、死者は続出します。 謎解き対象が戦闘の合間に発生する日常の謎というところは面白い。戦争物らしくなく、描写が明るく、いきいきとしているのは特徴です。アイデア勝ちですが、ただそれだけではなさそうです。 兵士どうしの友情も綴ってあり、青春小説として楽しめるという点で高評価できます。というよりも、これがメインです。 でも、欲張りすぎかな。 青春戦争小説として読めば、物語に入りこみすぎて自身の謎解きがおろそかになるし、推理に夢中になれば、物語の面白さが消えてしまいそうだし、できれば別々の小説として書いてほしかったなあ。歳のせいで、同時並行処理は無理なのかw |
No.496 | 8点 | 第三の時効- 横山秀夫 | 2016/03/31 10:26 |
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強行犯係の刑事だからといって、正義感だけで仕事をするのではない。面倒なヤマが回ってきた、貧乏くじを引いた、というような感じに、刑事をその辺にいる会社員みたいに描写してあるところが面白い。
作品全体には陰鬱感が漂っている。刑事たちは会話が刺々しく、みな柄が悪い。そもそも横山作品には清涼感のある人物が登場しないのかも。 でも、だからこそ、涙を誘うような場面がなくても、ときおり些細な優しさが描写されるとオアシスのように感じられ、効果抜群となる。 最近読み始めた誉田哲也の警察ミステリーとは真逆の位置づけだが、エンタメ作品として甲乙つけがたい。 6編の中では、ラストがお気に入りの『囚人のジレンマ』、反転が見事に決まる『密室の抜け穴』が好み。他作品もみな技巧的で、ミステリーとしてハイレベル。もれがないので代表短編集として人に薦めることは多い。 一般的にベスト短編集として本書を押すファンは多い。好みだけでは『動機』、『臨場』が上位だが、総合的には本書がベストか。未読の短編が数冊、長編は多く残っているので、これからも楽しめそうだ。 (これだけ褒めながら、変な話ですが・・・) 横山短編全般にいえることだが、いま読むと、かならずしもベストではない。横山作品が再読に向かないのか、作風に新鮮味を感じられなくなったのか、自身の嗜好が変わってきたのか。 |
No.495 | 6点 | 二度死んだ少女- ウィリアム・ケント・クルーガー | 2016/03/22 09:53 |
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シリーズ第4作。舞台はミネソタ州のオジブワ族の住む地域。
行方不明の少女が遺体で発見される。以前つきあっていた少年に容疑がかかる。 証拠もあって少年にとってはかなり不利な状況だが、無実を信じる元保安官コークは妻の弁護士ジョーとともに真相究明のために奔走する。 日本語タイトルの意味は何か。比喩なのか、それとも語句どおりなのか、気にしながら読み進みましたが、判明したのは中盤以降。そうだったのか! 地域の情景描写、オカルティックな場面、聞き込み捜査など楽しめる要素が盛り沢山。もちろん全体をとおしての謎も魅力的です。 解説では児玉清がコークの男らしさをベタ褒めしています。 たしかにハードボイルドの一面はありますが、コークは行動派であっても、アクションらしきものはなく、あくまでも内面の男らしさということでしょう。 個人的には、むしろコークの捜査を警察本格ミステリーの刑事のように感じました。とはいえ、一本筋のとおった男が主人公ということにちがいなく、ハードボイルドらしい骨太さはあります。 コークが悩める主人公だった第1作の『凍りつく心臓』のほうが好みですが、シリーズ物なので変化があることに問題なし。ただ第2、第3作を飛ばしてしまったのは失敗だったか? とにかく、同シリーズの他の作品も読み続けたいと思わせてくれる作品でした。 |
No.494 | 7点 | 生還者- 下村敦史 | 2016/03/04 09:45 |
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ヒマラヤの高峰カンチェンジュンガを舞台とした山岳ミステリー。
主人公・増田の兄は雪崩により死んだのか、それとも殺されたのか。 同じ登山で遭難した加賀谷に関する、二人の生還者の証言が正反対という点が、まず面白い。山は開かれた密室だし、生存者が二人だけなので、ウソを見破ることは至難の業です。 この難問と兄の死の謎を解くのは、主人公たち素人探偵です。 プロットはよくできていますが、主人公と、彼を取り巻く女性たちがわかりやすく描写してあり、人物造詣についてもいい印象を受けます。 息もつかせぬストーリー、抜群のリーダビリティでもって一気読みできること必定です。 読者への手がかり伏線の開示も十分にあり、読者が謎解きに参加することもできます。 そして真相は? なるほどそうだったのか! 背景がいろいろあって読ませるのだが、真相はきれいにまとめすぎ、という感じがしないでもない。 この著者、デビュー作もさることながら、3作目(2作目は未読)もこの出来の良さ、ただ者ではないようです。乱歩賞受賞者ですから、日本推理作家協会賞、直木賞と、推理賞三冠を狙えるのではないでしょうか。 直近書評の『黒いヒマラヤ』の読書中に、図書館から本書の通知がありました。まったくの偶然ですが、カンチェンジュンガ物が2作続きました。 知人によれば、身の回りで起こる事象に偶然はないということですw こういうことが起こればメモっておくべき、という人もいましたw |
No.493 | 6点 | 黒いヒマラヤ- 陳舜臣 | 2016/02/29 10:18 |
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ヒマラヤの高峰カンチェンジュンガの架空の麓町・カムドンで、主人公の毛利は友人のカメラマン・長谷川と会う予定だったが、そのとき彼はすでに車の転落事故で死んでいた。
『第三の男』か、と思わせるようなドラマチックな冒頭。それはちょっと大げさだが、それでも、これはと期待を抱かせる出だしである。 インドの活仏が遺した宝石を巡る連続殺人の謎解きが主題となっている。 だから本格派ミステリーにはちがいないのだが、巻き込まれ探偵の毛利も狙われるし、そもそも秘宝が絡んでいるから、冒険サスペンス小説風でもある。 ということで楽しみどころは満載のはずなのだが、ちょっと違う。 まず、宝石の争奪戦ということで、『マルタの鷹』を連想し、決してドタバタ劇ではないのに、そう見えてしまうこと。裏の解説に詩的文体とあるが、物語の内容にあまりにもかけ離れた感があること。 しかも視点が多すぎて、違和感があるなぁ。 という理由で、よかったのはアリバイ崩しぐらいか。それだけあれば十分ではある。異国情緒を楽しめたのもよかったかな。 ラストは、こういう小説なら、これは有りかなという感があり、気にならなかった。 大昔に読んだことがあるが、記憶に残っているのは冒険物語ということだけ。今回再読してみて、中途があまりにも本格風なのにびっくり。でも読み終えるとやはり、冒険風味が勝ちすぎな気がした。 |
No.492 | 6点 | 紺碧海岸のメグレ- ジョルジュ・シムノン | 2016/02/19 10:21 |
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実業家で、かつては軍情報部の仕事をしていたウィリアム・ブラウンが南仏で殺される。
本人は自由にのんびりと女性たちと隠れ家で二重生活を楽しんでいたのに、死んでしまうと、ましてや殺されてしまうと、これは大ごと。周りには利害のある人物たちが大勢いる。 メグレはこの殺人をどう解決するのか。 なんとなく文学的で雰囲気はあるが、結局、色恋や人情を描いた小庶民の大衆文学だった。国内で言えば捕物帳みたいなものか。 紺碧海岸らしさが描いてあったのは冒頭だけで、ストーリーからは原題『自由酒場』がしっくりくる。 タイトルを明るく表現し、表紙をコート・ダジュールの澄んだ青空風にしたのは、ミスリードならずミスじゃないのか。 と文句も多いが、いかにもフランス小説らしい(と個人的には思う)作品で、けっこう気に入っている。 『捕物帳』なんて表現したけど、捕物帳ファンには申し訳ないが、そんな野暮ったさは微塵もない。小説を読んでも映画を観ても、フランス物はやはり雰囲気がひと味ちがうなぁ。 フランス人が読めばどうってことないのかもしれないがw |
No.491 | 6点 | 高校殺人事件- 松本清張 | 2016/02/15 13:25 |
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清張であって清張ではない、というふうに見せながらも、やはり清張なんですよね。そんな感じの、社会派青春ミステリー超大作?でした。武蔵野の描写あり、ポーやボードレール風の詩ありの芸術性ゆたかな推理小説でもあります。
個人的には、他の清張作品よりもさらに読みやすく、軽く読めたことがよかったかな。 みなさんがおっしゃるように、清張節あり、萌え少女あり、そしていちおう本格要素ありです。 これだけの分量で、事件は盛り沢山、真相もご立派、という点を勘案すればすばらしい作品なのでは? まあだからこそ本格としては標準以下ということはいえるのですが(笑)。 |
No.490 | 6点 | リターン- 五十嵐貴久 | 2016/02/05 10:27 |
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今回の続編は、女刑事、尚美と、その同僚の孝子が登場する、警察サイコサスペンス。
彼女らは二人でリカと対決する。 あいかわらずリカの登場は後半までない。リカの行動による痕跡と彼女からのメール文により人物像を想像するしかない。それはそれで怖い。 でももっとも恐ろしいのはリカの登場からだろう。 そして、いよいよ対決へ。 二人の女刑事は考えが浅い。こんな手がうまくいくはずがない。相手は異常者であっても馬鹿ではないから、こんなのは通じないだろう。 とにかくさんざんな目にあう。著者からすれば、ホラーなのだから、主人公でも女性でも容赦なく痛めつけてやれ、ということなのか。 後半はページを繰る手が止まらなかった。ラストはなんとなく見えてくるが、もしや続々編もあるのでは、という思いもあった。 でもやはり完結編なら、このように解決するしかないのだろうなぁ。 それよりもオチがじつは凄い、上手い。 感動の結末に見せかけて、結局リカと変わらなかったりして?? |
No.489 | 5点 | 百番目の男- ジャック・カーリイ | 2016/01/21 14:46 |
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カーソン・ライダーシリーズの第1作、デビュー作です。
他の書評を見ると、ジェフリー・ディーヴァーの後継者の位置づけとのこと。残念ながら「ボーン・コレクター」を映画で観ただけで小説は未読なので、どちらかというと思い浮かぶのは「羊たちの沈黙」。まあ、あんな感じの、あんなジャンルのミステリーです。 まさかの真相と動機。それだけがミステリーとしてすぐれたところ。それで十分なのだが。 主人公の過去の話や恋物語、警察内の敵役との関係などのサイドストーリーが盛り込んであり、そっちのほうも楽しめたが、もっともっと手厚くしてほしい気もする。 全体としていちおう合格点ではある。が、心酔するほどではなく、本作よりも、誉田哲也氏の警察猟奇物「ストロベリーナイト」のほうが楽しめました。。 本書は2006年の国内の各賞で上位だった作品です。 この評価自体に特段の感想はありません。それよりも、そのころ自分がいかにミステリーを読んでいなかったということをあらためて認識させてくれます。 そのころは、15年はつづいただろうミステリーの休止状態で、1年に数冊読む程度だったし、翻訳物なら数年に1冊程度だったからなあ~。 あの状態がつづいていたら、本書を読むことは100%なかった。 復活してよかったし、本サイトに出会えてほんとうによかった!! 2008年にミステリー読書を再開し、ミステリーサイトをネットで探して、2009年3月に本サイトを見つけた。そして今にいたる。う~ん、感慨深い。 以上、マイプロフィールでしたw |
No.488 | 6点 | 降りかかる追憶- 五十嵐貴久 | 2016/01/11 13:55 |
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シリーズ第3弾。
新人探偵・雅也の今回の仕事はストーカー被害を受けている女性の身辺警護と犯人の捜索。 雅也は憧れの先輩美人探偵・玲子と組むことになる。 中編程度の長さだが、玲子が社長の金城の下で働くことになる因縁が明らかになる、というサイドストーリーまで盛り込んである。 そのかわりストーカー事件は、中途に少しの変転があるものの、ラストのわずかの間で駆け足のごとく解決にいたってしまう。ちょっとあっけないなとも思うし、ある程度想像したとおりでもあった。 あの短さでうまくまとめていると褒めるべきか。 このシリーズ、なぜかしら楽しくて堪らない。郷愁みたいなものを感じるからだろうか。読前、読後のウキウキ感は尋常ではない。 ついに今後も読み続けたいシリーズになってしまった。 シリーズ物を、文庫書き下ろしの短期間サイクルで、お手軽価格で読めるという理由によるものなのかもしれないが(笑)。 |
No.487 | 6点 | 十一番目の戒律- ジェフリー・アーチャー | 2016/01/08 13:12 |
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2015年の締め書評にするつもりだったが、2016年の初書評になってしまった。それはそれでめでたいが・・・
主人公のコナーはCIAの天才的暗殺者。そのコナーは、冒頭で大仕事を終えたのち、ロシアの大統領候補の命を狙う役目を担うことになる。 冷戦終結後のアメリカとロシアの関係をこんな風に描くとは、さすがアーチャーだ。謀略戦の様相なのになぜか明るいのもアーチャーらしい。 コナーは終始出ずっぱりではなく、場面転換が多く、多くの視点で描かれながら物語は展開する。前半は特に出番が少なく、コナー視点でのスリルはあまりない。 周辺人物の視点描写によって主人公の人物像を浮き彫りにしているところは面白い。家族と過ごすよき夫、よき父親という側面が描いてあるのも特徴的である。これこそがミステリーとしてのポイントなのかなと予想した。 周辺の人物により踊らされながら運命が定まっていく流れも面白い。 後半(第3部)では一転、狙撃物らしい緊迫感のある描写が続く。これがこの種の小説の本来の姿だろう。 そして、凄まじさのあとにやってくるラストは・・・。 登場人物としては、女性CIA長官も凄いがロシア新大統領がさらに強烈。 でも心に残るのは、裏方に徹したジャクソンかな。 |