皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
臣さん |
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平均点: 5.91点 | 書評数: 666件 |
No.566 | 6点 | 七色の毒- 中山七里 | 2018/08/29 14:58 |
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社会派本格短編・犬養編。
いつもなら各編の記憶は、次編を読み始めてすぐにぶっ飛ぶのに、おもいのほか長持ちしたのには驚いた。全編読了した後でも、おおむね記憶に残っていた。これはめったにないこと。 出来としてはとびきり上等というのはないが、けなすような作品もない。 みな、そつなくうまくまとめながらも記憶に残すような色が施してある、という印象。 それほど差はないが、いちおうマイベストは、第4話の「青い魚」。ただし本格ミステリーとして、描写において気になる点はあった。 それと、第7話の「紫の供花」を、第1話の「赤い水」に絡ませていることも気に入っている。別にどうということはないけど、連作のラストとしてまとめてあるのがいい。 |
No.565 | 6点 | メグレと火曜の朝の訪問者- ジョルジュ・シムノン | 2018/08/17 16:36 |
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ある男がメグレを訪ね、その後、その妻がメグレを訪ねる。
序盤の二人の訪問で、その後、ホームズ物のように、事象や事件が飽きることなく発生し、とんでもない方向へと進んでいく、なんてことを希望的に想像したが、そうはいかないのがメグレ物。 これはどうみても私立探偵の仕事。それをメグレにやらせるのが、メグレ物らしさなのか。 後半になって、マイナス時間から、ゼロ時間(斎藤警部さんの用語を拝借)へと悪い方向に進むのは、メグレにとってはおもしろくないが、もちろん読者にとっては期待どおり。でも遅すぎる。まあそこまでの経過(人間関係の開示)が重要ではあるのだが。 主たる登場人物はメグレを除き3人。 たった3人なので、その人間関係におもしろみはないが、二人の訪問の趣旨と、3人が絡む事件との関係を容易には見抜けないような真相にしてあることと、その謎解きとは、それなりの出来のように感じた。 とはいっても、べた褒めというわけではありませんが。 最後にひとこと。 空さんとtider-tigerさんは、登場人物の女性に対し種々感想をお持ちのようですが、自分は特に何の感情も抱きませんでした。冷血なのか、鈍いのか、鷹揚なのか、それとも読みが浅いのか、シムノン作品を読む資格なしなのか、ちょっと考えてしまいました。 さらにもうひとこと。 最近、シムノン・コーナーは活気がありますね。私が参入したときは評者として二人目だったのに、いまは凄い人数です。うれしいです。 読む資格なしは撤回し、もう少し読んでみます。 |
No.564 | 7点 | 黒いトランク- 鮎川哲也 | 2018/07/20 11:12 |
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1956年初出版、鮎川の代表作です。
謎解き小説としてはかなり手ごわい作品です。そもそも、犯人当てというよりも、アリバイトリック絡みの真相解明を問うたものなので、難易度が高いのはやむを得ません。 ただ、難解ではあっても手がかりは揃っていて、しかも作者による図表などの手助けもあるので、フェアな本格ミステリーとしてはベスト中のベストと言ってもいいしょう。 とはいえ、いまあらためて感じるのは、じつはトリック自体は平易だということです。それを登場人物(おもに鬼貫)の言動や行動による誘導で複雑化しただけ、ということが今回判明しました。まあ、それも推理小説のテクニックにはちがいありません。 アリバイ崩し(をメインに据えたミステリー)といえば、決して似ているわけではありませんが、本書よりも後発の、松本清張の『点と線』(1958年)、森村誠一の『高層の死角』(1969年)と比較したくなります。 東西ミステリーベスト100での順位を見れば、『点と線』はかなりの上位で、なぜか本書はそれよりも下位、『高層の死角』はさらに下です。 結局、好みの問題だとは思いますが、『点と線』がなぜこんなに評判がいいのか、いまだに理解できません。 |
No.563 | 6点 | ジョーカー・ゲーム- 柳広司 | 2018/06/27 09:52 |
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結城中佐をトップとするスパイ養成機関、「D機関」のメンバーたちが活躍するスパイ・ミステリー。
長岡弘樹氏の『教場』の評で、雰囲気が似ているとの感想がちらほらある。 主人公(風間教官と結城中佐)のキャラクターや雰囲気は似ている。そして物語中の主人公キャラの比重もおおむね同じ。 ミステリーとしては、『教場』は伏線たっぷりで、へぇ~と感心はしても、やや不自然な印象を受けてしまうのに対し、本『結城中佐』シリーズは、プロットで勝負し、結末で、へぇ~となってしまう。そんな感じか。どちらをうまいと評すべきか。 ベストは『魔都』。次点が評価の高い『幽霊』。他も悪くない。 |
No.562 | 4点 | 書斎の死体- アガサ・クリスティー | 2018/05/25 13:03 |
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書斎に見知らぬ女性の死体が・・・
たしかに斬新な冒頭シーンかもしれません。 全体を通してみれば、登場人物が多く、その人間関係もプロットも複雑で、背景もいろいろあります。 でもそのわりに、ミステリー的には平板な感じがします。 むしろマープルとバントリー夫人の会話が楽しめました。 トリックや伏線など見るべき箇所はありますが、個人的には切迫したサスペンスが伝わってこず、平凡な印象を受けました。 どうしても安楽椅子探偵モノには抵抗を感じます。 |
No.561 | 8点 | 高層の死角- 森村誠一 | 2018/04/17 09:40 |
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森村誠一氏の代表的本格ミステリ作品と言えば、乱歩賞受賞作品でもある本作。
密室トリック、アリバイトリック、さらに暗号トリックもある。欲張りすぎで、きっと気負いはあったのかもしれないが、でもみなうまくはまり、どれも上質に仕上がっている。力作です。 特にアリバイトリックには、力が入れてある。 かなりのページ数を割き、一歩進んでもすぐには答えにたどり着けない多段階構成となっている。時刻表はたしかに出てくるが、それだけではなく、組み合わせ技であるところがすごい。 解決のかけらを小出しにしながら読書欲を持続させてくれるこの展開は、ほんとうに堪らない。これこそがすぐれたリーダビリティにつながっているのでしょう。 |
No.560 | 7点 | 幽霊の2/3- ヘレン・マクロイ | 2018/04/04 13:57 |
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人気作家エイモスが、仲間内のパーティーの席上、「幽霊の2/3」というゲームの最中に毒殺される。
ベイジルが刑事さながらに捜査をする、といった典型的な推理小説ではない。 もちろんある程度の聞き込みはする。しかしどちらかといえば少ない関係者の行動や会話などから、読者が謎の世界にはまっていけるところが、この小説のうまいところです。 文庫裏の解説から、エイモスが殺害されることは読む前から知っていましたが、事件が起こるまでも、事件後、彼の過去がわかってきてからも、殺される理由がわかりませんでした。 真相がわかれば、なるほど! こんなことを想像もしなかったとは、まだまだあまい! タイトルは絶賛です。多くの作家さんにも見習ってほしい。 本格派ミステリーを期待すると裏切られ感があります。そこをどう評価するかは読み手次第でしょう。個人的には、中途半端なトリックなら、むしろない方がましなのではとも思います。 また女流作家らしい、柔らかいタッチは読みやすさに貢献していますが、全体的に視点が入り乱れているのには抵抗を感じます。これは外国小説の欠点なのでしょうか? まあでも今作は、そんなところがうまく作用しているのかもしれません。 この作家はまだ3作目ですが、いまのところベストです。 |
No.559 | 7点 | 屍人荘の殺人- 今村昌弘 | 2018/03/08 09:57 |
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2017年鮎川哲也賞受賞作。
有栖川作品やクイーン作品のように本格中の本格と思い込んでいましたが、実はちょっと違っていました。 かといって、「そして誰もいなくなった」「十角館の殺人」のサスペンス風味とも違う。 ジャンルミックスには違いないのですが・・・ すごい手を使ったものです。奇抜です。 内容を全く知らなかったため、読み始めでは、そのホラー要素で期待を裏切られた感がしたのですが、読み終えてみれば、よくぞそれを盛り込んで書いてくれたと大絶賛。 そもそも恐怖要素と謎解き要素と青春要素があるミステリですから、ジャンル的に見て個人的には嗜好のど真ん中で、さもありなんなのですが。 映像化も期待できそうです。間違いなく映えるでしょう。 |
No.558 | 5点 | 宮辻薬東宮- アンソロジー(出版社編) | 2018/03/01 13:07 |
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宮部、辻村、薬丸、東山、宮内、豪華5人によるリレー形式のホラーアンソロジー。
リレーといっても話のつながりは希薄。 ホラーとして楽しめるのは、宮部、辻村の2作品ぐらいかな。薬丸はその次ぐらいか。 最も期待したのが東山氏だったがこれはイマイチ。初ホラーなので気負いがあったのか? 宮内作品は、他と違ってホラーらしさはない。でもそれがよかった。 慣れていないのか、現実感のないホラーにはなかなか入り込めない。それは宮部さんの短編を何作か読んでわかっていたはずだが・・・ 新津きよみ氏みたいな、サイコホラー的な作品のほうが自分には合っていることを再認識した。 |
No.557 | 5点 | 007号の冒険- イアン・フレミング | 2018/02/19 17:08 |
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「薔薇と拳銃」「読後焼却すべし」「危険」「珍魚ヒルデブラント」「ナッソーの夜」の5短編が収録されている。
長編のようなボンドの大活躍はない。わずかにアクションはあるが、大活劇といった感じはしない。オチらしいオチもなく、エンタテイメント・ミステリー短編らしさを求めるファンには、まずダメだろう。 「珍魚ヒルデブラント」は少しミステリー色があるが、ラストがはっきりせず、もやもや感が残る。「ナッソーの夜は」は、ボンドは聞き役でボンドでなくてもいいような作品だが、なんとなく引きこまれる。 これらには、アクション場面は一切ない。 なお、各編の各部が映画に採用されているようだ。 個人的には、「珍魚」と「ナッソー」がベストだが、全5作とも、ミステリーファンにひろくお奨めできるような短編小説ではない。長編を何作か読み、ボンド物をもっと楽しみたいというファン向きだろうか。 |
No.556 | 6点 | 女王はかえらない- 降田天 | 2018/01/23 10:12 |
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第13回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。
前例の有無に関係なく、不自然さが漂っている。第三部のはじめで1つのトリックが明らかにされるが、当たらずといえど遠からず、だった。なんかぎこちないなあ。 第一部と第二部の構成については、とにかく書き方次第でなんとでもなるので、あまり褒められない。とんでもなく乖離したような、していないような2つの話でも、仕掛けをいくつか仕込んでおけば、ミステリーの複数章として成立させることができる、という典型的な手法なのでしょうね。 とはいうものの、最後で明らかにされる真相はすさまじい。その真相開示後、どうやって締めくくるのだろう、とそれを期待(心配)していたら、最後はそれなりに、うまくまとめてあったので、そっちのほうに感心した。 真相や、真相と歌との関係や、子どもどうしの秘めた恋の話のほうが、メイントリックよりもはるかに強烈だった。 |
No.555 | 6点 | 二度のお別れ- 黒川博行 | 2017/12/29 10:17 |
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黒川氏のデビュー作。
サントリーミステリー大賞第1回の佳作賞を受賞しています。 黒マメの大阪弁のやりとりや、黒田(私)の上司村橋に対する心情表現は、本作の軽妙・お笑い要素の根幹をなすものです。 そんなお笑い度が注目されがちですが、本作の最大の特徴はむしろサプライズな真相とトリックです。短くもうまく作り込んでいます。 解説によれば、著者は若いころミステリーにかなりはまっていたとのことで、なるほどと納得。 それにタイトルが良い。だいたいこのシリーズは、洒落たネーミングが多いのも特徴です。 大阪弁モノ、近年映画化された「後妻業」、そして著者の風貌からは泥臭いイメージしか浮かんできませんが、本書を読めばミステリー的な繊細な印象を受けることもたしかです。 個人的には後者のほうが好みですが、前者を前面に出したほうが売れるのでしょうね。 |
No.554 | 6点 | アキラとあきら- 池井戸潤 | 2017/12/25 10:06 |
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タイトルからすぐに想像したのは、ジェフリー・アーチャーの「ケインとアベル」。
そういえば池井戸作品は、長編、短編、連作短編などスタイルも雑多で、ミステリー、クライム・ノヴェル、サスペンスなどジャンルもいろいろ。もしかしてアーチャーを目指しているのだろうか? 実際に読んでみると・・・ 二人の生まれ育ちに差がありすぎること、接点が少ないことはたしかに似ている。でも対決という姿勢はほとんどない。やはり違うかな。 勝手に想像しすぎたか。それでも楽しい読書だった。 700ページの大長編ということもあってか、作者得意の連作短編技術をうまく生かし、クライマックスを数多く提供してくれている。章ごとに見せ場があるといってもよいぐらい。 中でも、新人社員研修や追加融資、遺言、M&Aには、特に夢中になれた。 ただ読み終えてみれば、二人以外の出来が悪すぎるんじゃないのと首をかしげたくなる。 追加融資の際のあきら(階堂彬)の提案なんて、銀行員でなくても気づくレベル。 M&Aで見せるアキラ(山崎瑛)の一発逆転の稟議だって、私自身はダメだったけど、想像できる読者は多くいるだろう。でもこの提案、普通はやらないだろう。 結局のところ、やはり、主人公だけを際立たせて活躍させた、スーパー・ヒーロー物ということでしょうか。 ただ楽しむだけの読書。これを求めたいときには最適の作品です。 |
No.553 | 6点 | さよならドビュッシー- 中山七里 | 2017/11/26 19:45 |
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今を時めく、大どんでん返し推理作家。
といっても、初めてなので、よくは知らない。 クラシックやピアノの蘊蓄が多いのは本書の大きな特徴。でもしつこく感じることはない。 それよりも気になる点がいくつかある。 (以下、ネタバレ) 途中、長科白が気になった。登場人物の主張、意見なのだが、結果的に謎解きには関係なかった。作者が登場人物の言葉を借りて何かを訴えたいだけなのか? とにかくこういうのは好きにはなれない。 それと肝心なことが一つ。 この人物設定だと、ミステリー慣れした読者なら、真相にはピンとくるだろう。 それに一人称視点だから限界もあれば無理もある。だから岬洋介の謎解きは無理やり感がある。 と、問題ばかりを指摘したが、じつはこの種の青春ミステリーは好きな分野。雰囲気もいいし、締め方もいい。 だから、総評としては絶賛とまではいかないが、新人ながらよく頑張ったなあとも思うし、これからも読み続けたいとも思わせてくれたことには違いない。 |
No.552 | 6点 | 猿の惑星- ピエール・ブール | 2017/11/08 09:35 |
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映画にくらべればかなり落ちるが、発想やオチを考慮して冷静に判断すれば、まずまずの出来かと思う。
足りないのは起伏が少ないこと。この薄さだから仕方ないが、最後のサプライズだけにたよらず、テーマをもっと生かして、多くのクライマックスを作ればよかったのに。 古いほうの映画シリーズ第1作は、ラストを含めほんとうに素晴らしい。 とくにあのオチには度肝を抜かれた。 <<以下すこしネタバレ>> ただあの映画のオチも原作があったればこそ。 ティム・バートン版のラストは原作に倣ったものだが、あれを先に観ていれば、あるいは原作を先に読んでいれば、おそらく絶賛していただろう。 |
No.551 | 2点 | QJKJQ- 佐藤究 | 2017/10/19 12:43 |
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直近(2016年度。ちなみに2017年度は受賞作なし)の乱歩賞作品なのに、図書館であまり待たずに借りられたので喜び勇んで読んでみたが・・・
正直、良さがわからない。たしかに文章は読みやすい。が、ただそれだけ。 文章についても、倒置や、体言止めが多すぎる点は気に入らない。 家族全員が殺人鬼という設定を明かした導入部を含む100ページぐらいまでは、これはいけると感じたが、そこまでだった。そのあとは全然ダメ。こうなると続かず、字面を追うだけの読書になってしまった。 審査員が評価するのはわからないでもないが、世間でも評価が高いのには驚く。好き嫌いは分かれるはずと思うのだがなあ。 「平成のドグラ・マグラ」と言われているらしい。もしそうなら、これも楽しめないだろうなあ。いつかは読もうと楽しみにしていたのに。 ミステリー的には、悪くはないが使い古された技じゃないのかなあ。こんなところが評価されるはずはないしなあ。 文章もミステリー性もまずまず、猟奇殺人のオンパレードも悪くはない、なのになぜこんなにひどく感じるのか? 結局、物語性がひどいってことなのだろう。文芸作品じゃないのだから、もう少し読ませるストーリーにしないとね。 以上、嗜好だけで評したが、もしかしたら読解力に問題があったのかも。何年か後に、もういちど読んでみよう。 なお、同著者の次作「Ank」のほうが面白いという噂はある。 |
No.550 | 7点 | ヴァン・ショーをあなたに- 近藤史恵 | 2017/10/10 13:47 |
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「ビストロ・パ・マル」シリーズ第2集。
前半は第1集と同様、ビストロでの高築の語りによる話。一方、後半3作は三船シェフのフランス修業時代の話です。どちらも推理担当は変わり者シェフの三船。 彼の推理は、ホームズが初対面でワトソンの手を見てその職業を当てるような、鋭い観察力、洞察力によるものの組み合わせ技で現実味は乏しいが、あっという間に解決するので読んでいて気持ちがいい。 しかも温かみのある内容ばかりで、読後、ほんわかとする。 過去の話を含めても三船の正体は謎だらけ。こういう設定にするのが短編連作推理物を継続させるためのテクニックなのか。 過去の話を織り込んで変化をもたせたのも、もちろん料理もグッドでした。 |
No.549 | 7点 | 体育館の殺人- 青崎有吾 | 2017/10/02 10:26 |
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鮎川賞作品。
作者は好きなだけでなく、クイーン作品をかなり読み込んでいると思われる。若いのに、ようやるなぁ。 小道具がたくさん登場し、みなうまく使ってある。 読み終わればわかりやすいのだが、ほとんど解けなかった。 密室も結果的にはたいしたことないのに、やられてしまった。ショボすぎるわりに密室、密室と騒ぎすぎる感があったからかな。 傘は重要なキーであることはわかったが、作中でこれほど議論されるとはね。これには驚いたし、ようがんばってると感心もした。 エピローグはどんでん返しというほどではなく、ちょっとした味付けのオマケ。いま風でこれも悪くはない。 とにもかくにも総合的にみれば、デビュー作品として上出来すぎる謎解きミステリーだった。 キャラクタ的には高校生たちのユーモアのある会話がおもしろいが、物語性については楽しめる要素はほとんどない。まあ本格重視だからこんなものだろうか。 こういうのが今の時代、喜ばれるかどうかは甚だ疑問ではあるが、今後ぜひともがんばってほしい。 |
No.548 | 6点 | 東京ダモイ- 鏑木蓮 | 2017/09/16 17:03 |
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謎解き対象とされる事件は、シベリア抑留中での殺人と、その60年後に国内で起こるロシア人女性殺人の2つ。
先の戦争が背景にあり、話の大部分に、ある関係者の句集(俳句に随筆、手記を組み入れたようたもの)が開示されるから、ミステリーとしては重くて地味なものとなっている。 いわゆる社会派推理小説だから、地味なテーマに合うようサプライズもなく、トリックも期待するほどではないだろうと想像する反面、この著者の他作品「時限」からすれば、かならず何かあるだろうという期待を抱きながらの読書だった。 結果的には、中途は十分にわくわくしながら読めたが、ラストはそれほどでもなかった。 でもまちがいなく力作です。 鮎川哲也賞でもなく、『このミステリーがすごい!』大賞でもなく、メフィスト賞でもなく、なんといっても天下の江戸川乱歩賞だから、こんな優等生的力作なのも当然といえば当然。 すごいと思うのは多視点描写。公募の新人ミステリー賞でこんなにむつかしく書いて、よく賞が取れたなぁと。さすが乱歩賞。でも選考委員はいやがるだろうなw (このサイトではあまり読まれていないので、応援するつもりで一言)ネタバレか?? 俳句が鍵になっているが、面倒くさがらず、ゆっくりとじっくりと句を解釈しながら読めば(自分はやっていないが)、かならず楽しめるはず。 |
No.547 | 6点 | 寅申の刻- ロバート・ファン・ヒューリック | 2017/08/31 10:10 |
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「通臂猿の朝」
猿が残していった指輪に血が付いていた。その後、指を切り落とされた死体が見つかる。 と、事件の発端はなかなか魅力的です。 ディー判事の部下、陶侃が推理に参加して厚みのあるストーリーにしているところが好印象の作品でした。 「飛虎の夜」 緊迫感の演出が抜群の作。 ディー判事は現場にいながら、一人で屋敷を賊から守り、そして謎解きもする、部下を使わずいつも以上に自ら動き回る、サスペンスフルな館モノでした。 ただ真相は予想の範囲内。登場人物の少ない中編なので仕方ないか。 2編とも、いつもどおり伏線がさりげなく、うまい。 短編集「五色の雲」が印象的だったので、他を探してみたところ、中短編集は本書しかなかった。もうないのか、と残念な思いはあるが、今後は長編で我慢しよう。 |