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臣さん
平均点: 5.90点 書評数: 652件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.592 6点 メグレ警視- ジョルジュ・シムノン 2019/08/19 10:20
世界の名探偵コレクション10
20ページ前後の短編が4作と、60ページ弱の短編が3作収録されている。

『月曜日の男』はハウ物、『街中の男』は尾行物、『首吊り船』は船内での死の真相物、『蝋のしずく』は姉妹登場の本格もどき。

『メグレと溺死人の宿』は交通事故が発端の推理モノ。『ホテル≪北極星≫』は背景となる人間関係が面白い。これら2作は、メグレの強烈な推理、というか容疑者たちとの対峙の仕方が見どころ。『ホテル≪北極星≫』は、メグレが定年直前の事件という点にも注目できる。

『メグレとグラン・カフェの常連』は、メグレの退職後に発生した事件に関する番外編のような短編。引退後の話なのでメグレ夫人の登場機会も多い。話はメグレのカードゲーム仲間たちの間で起きた事件に関するもので、情愛系、人情噺系という感じがして、なんとも味わい深い。

No.591 6点 メグレと殺人者たち- ジョルジュ・シムノン 2019/07/29 09:59
このストレートすぎる邦題よりも、「メグレと彼の死人」のほうがしっくりきます。
前半部分で、この字句を連発していたこともあり、著者の意図が伝わってきます。
結局、この原題は、その死体本人へこだわりがあることを示唆しているのでしょう。
こういうところは上手い。

かなり評判のいいメグレ物で、しかもパターンがいつもと違う。
そもそもメグレ物は、種々雑多なスタイルとは言えますが。

男からの電話と、その男の死が、メグレにとってはなぜか重要なのです。
そこから重大な事件の真相につながっていくなんて、思いもよりません。
聞き込みも多く、メグレの推理も多い。
国際的ということもあって、サスペンス性は豊富。
と、ここまでは絶賛。

ただそのわりに、平坦に感じるのはなぜ?
変な言い方ですが、サスペンスがあるわりに緊張感に乏しく、意外にゆったりとしている印象も受けます。
せっかく200ページぐらいに収めるのだから、もっとすっ飛ばしながら、ビシッ、バシッと変化をつけて決めてほしいような気もします。
ということで、ベスト・オブ・メグレとまではいきませんでした。

No.590 7点 春から夏、やがて冬- 歌野晶午 2019/07/16 10:40
きっと何かあるのでは、と常に気にしながらの読書でした。
しかし、気にかかっても大抵の場合、少し読み進めば著者からの回答が得られ、な~んだ考えすぎかと、少し安心したり、少し残念に思ったりもします。
娘をひき逃げで亡くした平田と、その娘と同年代のますみとの交流が中心に描いてあり、それを読むだけでも十分に楽しめます。

読み終えてみればミステリーとしては物足りなさを感じる反面、全編をただようミステリーの雰囲気にはおおいに楽しめました。
それに、二人はいったい何を考えていたのだろうと、いろいろ想像を巡らすことができ、藪の中的な読後感が得られたのにも満足しました。
語り合うのに最適な小説かもしれません。

No.589 5点 ST警視庁科学特捜班- 今野敏 2019/07/11 09:51
特殊技能を持つ科学捜査員たちの捜査物語。

といっても、特殊技能所有者は5人もいるので、それぞれはそれほど目立たない。
脇役であるはずの、昔ながらの刑事、菊池や、気の弱いキャリア警部のほうが負けじと目立っている。

ミステリーとしては、殺人が3件発生して、派手さはある。謎も多い。
でも、むりやり収めた感があり、謎解きやサプライズを求めると物足らない。
やはり、みなさんのご指摘のように、濃いキャラの集団ヒーロー物を楽しむつもりで読むのがいちばんでしょう。
しかも、シリーズ第1作では、全員のキャラを生かすのはむずかしいから、その後のシリーズを読みながら全員のキャラを楽しむという姿勢が理想的な読み方でしょう。

No.588 4点 最後の逃亡者- 熊谷独 2019/07/01 10:19
第11回サントリーミステリー大賞受賞作。

ソ連時代のモスクワ等が舞台。
綿密に調査をしているのがよくわかります。これを想像では書けないでしょう。
場面の多くが主人公たちの逃亡シーンで、緊迫感が伝わってきます。ストーリー自体もよく練られていると思います。

残念なことが3点。
まず、ラスト。これはいただけない。暗すぎる。
2つめは、なぜ追われるのかという点。いちおうわかるが、もうちょっとくわしく書いてほしい。
そして、文章。視点が多すぎるし、転換も多すぎる。主人公クラスが4,5人いて、感情移入もできない。
唯一の日本人の登場人物、技術者・岡部信吾をもっと深く描き込んでほしいですね。

視点については、本格ミステリーでもないのでどうでもいい、とも思うのですが、いつもクセのように気になり、すぐに文句を言ってしまいます。
でも本作の場合、それが原因でかなり読みにくくなってしまいました。たんに読み方が下手なのかなと思ってしまいます。

No.587 6点 ドルチェ- 誉田哲也 2019/06/10 09:31
所轄勤務のベテラン女性刑事、魚住久江シリーズ。
主人公の魚住は、姫川シリーズの姫川玲子ほど個性的ではないし派手さもない。発生する事件にも強烈さはなく、殺人は一切ない。
魚住はいつも容疑者側に立って、容疑者たちのちょっとした秘密を探るところが全編に通じる特徴。
全体的にたよりなくあっさりはしているが、秘密を探っていく過程は十分に楽しめる。

この作家さん、本シリーズ、姫川シリーズ、ジウシリーズなど、女性刑事モノを得意としている。
誉田氏の他の作品の評でも書いたが、この著者は大衆受けするツボを心得ている。女性を主人公にするのも、そのあたりを考えてのことだろう。

No.586 7点 宝島- 真藤順丈 2019/06/05 13:15
第160回、直木賞受賞作。
復帰前の沖縄が舞台で、突如として消えた、戦果アギヤー(米軍基地からの略奪屋)のリーダーを慕う男女3人(親友、弟、恋人)の、その後の沖縄返還まで(1950,60,70年代)を描いた青春ミステリー超大作。リーダーは、略奪はするも、奪った物をみなに分け与える、コザの義賊のような存在だ。

テーマはリーダー探しなのか?
年月が経つにつれ、三者三様、生き方や考え方が変化していく。3人がその後、あまりにもかけ離れた職業に就くところが面白い。
戦後の沖縄はおそらく荒廃していただろうに、登場人物たちは、なぜか荒々しく、生き生きとしている。こんな状態に置かれた人たちだからこそ、そうなるのだろうか。

読みながら、江戸侠客物や現代やくざ物、スパイ物、戦争物みたいな印象を受けていたが、やはり違う。沖、米、日が絡んだ国際謀略・闘争&青春物、といったところか。

直木賞の審査員評はおおむね絶賛。
個人的には、作風も分野も文体も、嗜好から少しずれていたが、シリアスな内容ながらも陽気な登場人物たちの行動に興奮しながら、楽しい読書ができた。しかも、アノ謎に最後まで引っ張られたのもよかった。
当時の沖縄を知らないだけに、リアリティがあるのか、荒唐無稽なのかもわからないが、スケールのでかい時代小説、冒険小説に臨むつもりで読めば、そのあたりは解消できるし、まずまず楽しめるだろう。

付け足しみたいだけど、ミステリー要素としては、大きな謎が2つあった。
大河小説なのにミステリー的な真相がラストに明かされれば、大河物としての値打ちが減殺したり、安っぽくなったりすることもあるが、本作については全くそんなことはない。
開示された真相は、期待以上のものだった。

No.585 6点 儚い羊たちの祝宴- 米澤穂信 2019/05/20 12:43
ラストに衝撃があると聞いていたが、それほど驚けなかった。
それよりも、ストーリーそのものが味わい深いし、ユーモアを交えた話につい引きこまれてしまう。そんなところが良かった。
時代設定や、その時代の、ちょっと異質な主従関係を軸にした話がなんともいえず、怖さと、わずかな笑いを誘ってくれる。

『山荘秘聞』と『玉野五十鈴の誉れ』が、個人的にはまずまずの出来だった。
「バベルの会」でミステリー的にもっと強くつないでほしい気もしたが、作品群のイメージからは、この程度がよかったのかも。

妙味な雰囲気のある短編群だったが、評としては並みの上で、ごくごく普通のレベル。

No.584 7点 予告された殺人の記録- ガブリエル・ガルシア=マルケス 2019/05/08 13:28
南米のとある村社会で起きた殺人に関するルポルタージュ小説。
(以下、ややネタバレ気味)

花嫁となるアンヘラ・ビカリオに関する、ある理由で、アンヘラの過去の相手だったとされるサンティアゴ・ナサールがどのような経緯で殺されたのかが主題で、さらに当事者たちのその後のことも語られている。

釈然としない点はある。
こんな理由で、こんな経緯で、惨殺といってもいいほどのやり方で殺されることが、あまりにも不条理すぎる。
アンヘラの家族・ビカリオ一家(殺害者側)や、バヤルド・サン・ロマン(アンヘラの結婚相手)にとっては、いまの日本とはかけ離れた南米の村社会においては、不名誉で屈辱的なことなのだろうと、理解するしかない。

でも釈然としなくても面白い。いや釈然としないからこそ惹きこまれるのでしょう。
それに、なんといっても、時間軸を行ったり来たりしながら語られる手法が、興奮が持続して、いいのかもしれません。時系列にせずに、静と動が入り乱れるように、最後にクライマックスをもってくるあたりに、著者のエンタテインメント作家としての力量を感じられます。

数年前に本書を初読し、このたび評をアップするために、あらすじを必死で思い出そうとしましたが、細部を思い出せず、結局再読しました。
映画化作品もあるので、110分でおさらいするのもいいでしょう。ただ、原作が140ページ程度なので、集中して一気読みすれば時間的な差はほとんどないはず。と思って再読を選びましたが、やはり思いのほか時間がかかりました。

(余談ですが)
本サイトでタイトル検索をすると、同名の国内作品(高原伸安氏の作品)が出てくるのには驚かされます。
ガルシア・マルケスという作家は、1982年のノーベル賞作家で、国内外で人気が高く、影響を受けた作家も多いようです。高原氏もそんな作家のひとりなのでしょうか。

No.583 4点 夕暮れをすぎて- スティーヴン・キング 2019/04/23 13:04
長短全7編の短編集。

「ジンジャーブレッド・ガール」はワクワクしながら読めた。でも、それ以外の6作は、どれもこれもイマイチ。
短編なのに長く感じるのは、1作のネタが単位量当たりで見て小さすぎるからだろうか。
「ウィラ」や「エアロバイク」は魅かれるところもあってまだましだが、他4作は、はっきりいってよくわからんまま終わってしまうような感じだ。
それとも自分に、本当の意味での短編読みのセンスがないのだろうか?
個人的には、短編でも、長めに関係なく、しっかりとしたプロットのあるものがいいのだがなぁ。

ただ、文章的には悪くない。いつものような細かな描写には引きこまれる。
でも、本書の場合、それが災いしたのかなぁ。

No.582 6点 死の接吻- アイラ・レヴィン 2019/04/03 10:13
三部構成のミステリー。
第1部は犯罪者視点によるクライム・サスペンス、第2部は素人探偵1による捜査ミステリー&サスペンス、第3部は素人探偵2による真相解明推理&サプライズ・エンディング。
総称すれば、恋愛要素ありの半倒叙・半謎解き・全サスペンス作品といったところでしょうか。
いまなら、複数視点による章立て、カットバックなどのテクニックや、それらの複合ワザは、あたりまえのように使われますが、当時としては、メリハリをきかせた画期的なアイデア作品だったのではないかと想像します。
種々のテクニックを使って読者を楽しませてくれる。本当にすばらしい作品です。

じつは、文庫裏の解説と登場人物表だけで瞬間的に犯人を当てちゃいました。というか倒叙モノかと勘違いしたぐらいです。
第2部で犯人は明かされますが、個人的には上記の理由からもちろんOKですし、第2部につづく、すさまじき場面転換のある第3部があるので問題はないように思います。
この第3部では、著者がヤケクソになったか、と思えるぐらい唐突感ありの劇的な幕引きが待ち受けています。これには少しだけ絶賛するも、多大なる呆れも感じられました。

No.581 7点 ゴールデンボーイ―恐怖の四季 春夏編- スティーヴン・キング 2019/03/12 09:42
「刑務所のリタ・ヘイワース」
映画「ショーシャンクの空に」の原作といったほうが、わかりやすいだろうか。
映画は痛快、感動ものである一方、原作はそのあたりは控えめで、しかもボリュームが170ページなのであっさりとした感じがする。
でも決して悪いわけではない。エピソードが要所、要所に披露されるのがよいし、レッドとアンディーの友情物語という骨格ももちろんよい。そして、ラストも言わずもがな。
副題のとおり、希望に満ちた春らしい作品だった。

「ゴールデンボーイ」
強烈な300ページ超の長編だから、乗れば満足すること間違いなし。
話は静かに始まるが、少年トッドと、老人ドゥサンダーの交流は徐々に凄絶さが増していく。
悲劇の主原因はトッドにあるが、ドゥサンダーもかなりのくせ者で手ごわい存在。この二人がぶつかり合ったり、協力し合ったりする中盤までも楽しめるが、後半の場面転換後から結末までがまたすさまじく読み応えがある。
副題のとおり、まさに転落の夏物語だった。
少ない登場人物でサスペンス感を表出した、ジェームス・ケインの「郵便配達は二度ベルを鳴らす」や、ルース・レンデルの「ロウフィールド館の惨劇」などが好みの方なら、間違いなく楽しめるはず。

キングの文章や表現方法は、他人行儀なところがなく、身近に感じるところがいい。特に「刑務所のリタ・ヘイワース」のレッドの語り口には魅かれる。
なかなかこういう作家にはめぐりあえない。ほんとうに素晴らしい。

No.580 4点 2分間ミステリ- ドナルド・J・ソボル 2019/03/04 12:53
解けるか、解けないかは別にして、推理クイズとしては、まずまずの出来だろう。
というか、文章だけで推理クイズを成立させ、それを本にするのには、この程度の短さ、この程度の内容が精一杯なのだろう。
ちなみに、私も正答率は3割程度だった。

でも、やはりミステリと呼ぶにはあまりにも短すぎる。小説として成立していない。
ウェバーの「5分間」シリーズというのがあるようなので、つぎはこれに挑戦しよう。

No.579 6点 悪魔の降誕祭- 横溝正史 2019/02/19 09:30
「悪魔の降誕祭」 6点
絵に描いたような本格ミステリー中編作品。ドラマでいえば、60分に収まりそうな内容です。でも、160ページだけど2つの殺人があって、それだけで楽しめる要素は十分です。しかもコンパクトなのでわかりやすい。
犯人に意外性があり、金田一の謎解きは筋が通っているのだが、なんとなく釈然としない。動機なのかなぁ?

「女怪」 7点
金田一の恋心がベースとなっている、というのが特徴の短編小説。ミステリー的にみればたいしたことはありませんが、個人的にはお気に入りのベスト短編です。

「霧の山荘」 6点
CC館モノか、いや、一族モノか?実際はどちらの要素もかなり薄めで、あっさりしている。
でも本格要素はすくなからず詰め込んであり、イイ感じに仕上がっています。
真相は中編ならではといった感じ。かる~く楽しめます。

No.578 5点 白い僧院の殺人- カーター・ディクスン 2019/02/06 12:37
読みにくさが、まず気になりました。
前の方もご指摘されているように、場面転換がわかりにくく平板に見えること、見取り図がないこと、翻訳の問題など、ちょっと不手際に感じます。
3ページ進むごとに前に戻ったり、人物表を見返したり、とけっこう苦労しました。人物表を見ても、職業は書いてあるも性格はわからず(当たり前か)、少し書き込みしした程度ではほとんど役に立たず、といったところでしょうか。
ストーリーテラーと呼ぶには程遠い気がしました。
今まで読んだカーとは違うなぁ、せめて怪奇色があればなぁ、という印象です。
作者は人間関係を色濃く描くことで、推理ゲームではない、高尚なミステリー小説を書くぞ、と意気込んでいたのかもしれません。ところが意に反して、それほどうまくいかず、トリックだけが目立ってしまった。そんな感じでしょうか。

最後のHM卿の謎解きには熱くなりました。そこだけが高ポイントです。

No.577 9点 七つの会議- 池井戸潤 2019/01/23 10:15
「シャイロックの子供たち」と同様の連作短編スタイルであるが、本書はさらに進化させた、まぎれもない長編ミステリーである。著者にとって、短編ごとの謎解きなんてどうでもよかったのだろう。短編をつないでどうやって大きな真相にもっていくのか。一話まるごとが伏線で、しかも一話ごとにも楽しめる。
どんな事件が待ち受けているのだろうか?何が謎なのか?中盤になってもわからない。そこがこのミステリーの面白いところ。

(以下、ネタバレ風)

じつは、本書のストーリーは、5,6年前にNHK版の「七つの会議」を観て知っていた。原作とは主人公が変えてある。というか原作には、短編ごとに主人公がいても全体としては、くせ者ぞろいの群像劇スタイルなのではっきりしない。「東京建電」という企業が主人公といってもいい。しかし、最終的には、ある人物が主人公で、他のある人物が最大の悪者であると判明する。だからこそ、晴れ晴れとした120%の満足感は得られたが、犯罪小説に徹してみるのもよかったのかも。
その点だけが個人的にはマイナス要素だった。なおテレビ版では悪側で苦悩する主人公がよかった。
まもなく公開される映画版は、原作に近いのか、テレビ版に近いのか、それともさらにガラッと変えてあるのか。配役を見てある程度想像できたが・・・

東京建電の親会社である企業の会社名がすごい。これは、映画ではもちろん、スポンサーのないNHKでも使わなかった。
この親会社の社長だけはまともかと思いきや、この人物も出来がよくない。内部告発の可能性を考えれば最後の判断はダメ。あんな状況だから判断も鈍るのか。

No.576 5点 騙し絵の牙- 塩田武士 2019/01/17 09:32
俳優の大泉洋さんを当て書きした作品です。
表紙、裏表紙は大泉氏のカラー写真で構成され、章ごとにも白黒写真が挿入されている。
出版業界の内部が描いてある。
主人公の速水は、小説好きの雑誌編集長で、仕事はでき、社交術に長け、浮気もする、この業界ではありがちな(よくは知らないが)、スーパー編集長、スーパーサラリーマンである。

タイトルにときめき図書館で借りてしまったが、これがミステリーなのか?
タイトルと表紙写真があまりにもアンマッチだったので、初めから不安ではあったが、そこだけがミステリーなのだろうとあきらめ気分で、期待せずに読んだ。

一気読みできるほど楽しい読書ではあった。
後半になって小さな事件が種々勃発するが、事件発生が遅すぎるし、その事件もミステリー的には些末すぎる。
やはり業界の裏話的な物語を楽しく読めただけ、という感じがする。
とはいえ、どんでん返し(らしきもの)はいちおうある!(かな?)

こんな書き方をすれば、このサイトではまず読んでもらえない。
だから、抜群のリーダビリティで出版業界の内幕を鋭く描いた社会派ミステリー秀作ということにしておきます。

No.575 7点 蝶々殺人事件- 横溝正史 2018/12/19 13:35
いま読んでも違和感はない。まあ現代風と言えなくもない。
トリックもまずまずの出来、いや多くの読者が感心するレベルだろう。
ただ、犯人はこの人しかいない、というのが欠点かな。でも当時は驚いたんだろうなあ。
ということで、いちおうは上出来レベルの評価である。

でも、そんな評なんてどうでもいい。
それよりもストーリーの記憶がまったくよみがえってこないことに驚嘆した。
映像を観てないせいなのか?
ずっと、なんとなくだが、横溝長編の中で本作は、6,7番目ぐらいの出来だと記憶していたが、これはひどい、ひどすぎる。(自分自身の記憶力のことです。)
金田一長編なら、「悪魔の手毬唄」「夜歩く」「犬神家」「獄門島」「女王蜂」
金田一短編なら、「女怪」
由利長編なら、「真珠郎」「蝶々殺人事件」
由利短編なら、・・・忘れた!    (時代物は読んでいない)
と、自分勝手なランキングを楽しんでいたのに、これもかなりあやしくなってきた。
たしか、数年前、「夜歩く」を再読したときも、もしかして初読かと思ったぐらいだ。
じつは、「真珠郎」「悪魔が来りて笛を吹く」は再読せずに書評したが、これらも2,3%ぐらいしか覚えていない状態だった。「手毬唄」も未再読だがちょっとマシで5,6%ぐらいか。「犬神家」の記憶は、映像版をなんども観たのでかなりマシ。
とにかくひどすぎる。

No.574 7点 赤毛のレドメイン家- イーデン・フィルポッツ 2018/12/10 09:38
あのような事件だと、多くの読者は疑うはずです。
でも、著者がウラをかくこともあるし、ウラのウラ、さらにまたウラをかく場合だってある。
ということで、後半まで疑いをいだきながらも、ずっとワクワク感が持続しました。
ということでトリックは、当時なら上等、いまでも十分に通用するレベルです。

サスペンス要素がたっぷりあるし、人物が面白く描いてあったり、場面を種々変転させたりと、著者は楽しませる要素を熟知しているようです。エンタメ小説としてのプロットは抜群の出来です。
最後の告白の分量が多すぎることだけが、マイナス点です。

情景描写を多く盛り込んで文芸作品に見せながらも、じつは、読者を惹きつけるのが巧みなコテコテの大衆文学作品でした。

No.573 6点 二年半待て- 新津きよみ 2018/11/22 10:13
2018年、徳間文庫大賞を受賞。
松本清張の短編小説に「一年半待て」というのがある。それからの連想でちょっと読んでみた。
就活、婚活、恋活、妊活、保活、離活、終活などがテーマの家庭ミステリー短編集。
このテーマだから当然、社会派ではあるが社会派らしい重さはまったくない。著者お得意の心理ホラーでもない。

作品紹介には大どんでん返しミステリーとある。たしかに最後にどんでん返しのようなものはあるが、なぜか驚けない。想定の範囲というわけではない。ようするに、最後にいきなりきても、「あ、そうなの」という程度にしか感じられないというレベルだ。
保活の「ダブルケア」、離活の「糸を切る」、終活の「お片づけ」は6~7点。他は4,5点というところか。
最後の「お片づけ」だけは、はっきりとした謎が提示される日常の謎モノで、これだけはミステリーと言えるかもしれない。

ということで全体としてミステリーとしては低評価になってしまうが、ストーリーそのものはおもしろく、しかも時事ネタが盛り込んであり、上等の短編集だと思う。
読んで損はないし、かるく読めるし、ひまなときにさっと読むのにはちょうどいい。

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臣さん
ひとこと
あいかわらず読書のペースが遅い。かといってじっくり読んでいるわけではない。
好きな作家
採点傾向
平均点: 5.90点   採点数: 652件
採点の多い作家(TOP10)
ジョルジュ・シムノン(14)
松本清張(12)
東野圭吾(12)
アガサ・クリスティー(12)
アーサー・コナン・ドイル(11)
横溝正史(11)
今野敏(11)
連城三紀彦(10)
評論・エッセイ(9)
雑誌、年間ベスト、定期刊行物(9)