皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
臣さん |
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平均点: 5.91点 | 書評数: 666件 |
No.606 | 5点 | ピーター卿の事件簿- ドロシー・L・セイヤーズ | 2020/02/03 11:24 |
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ピーター卿シリーズの7中短編が収録してある。
いずれも奇想な流れで後半まで引っ張り、最後に一気に本格ミステリー化する。 これは短編ミステリーとしてうまい手である。 でも奇想なわりに話が種々変化しながら進むわけではないし、凄いと感心するほどの結末であるとも感じられない。悪くはなかったが・・・ セイヤーズは、正真正銘のお初。 短編好きなので、まず短編から試したいと思い手を出したが、これを機にいざ長編へ、とはいかないのかな。 とはいえ、みなさんの熱のこもった書評を前にすると、長編も読みたくはなる。 でも、評者の方々の間で、作品ごとに評価が分かれているのを見ると、好みの問題とはいえ、それはそれで気にはなる。 それに、人気作『学寮祭の夜』が分厚すぎる。これがいちばん気になる(笑)。 |
No.605 | 6点 | エンジェル家の殺人- ロジャー・スカーレット | 2020/01/27 10:18 |
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江戸川乱歩が絶賛し翻案までした作品。
館も、密室も、遺言も、登場人物の構成や人間関係もよい。 雰囲気は、もっとおどろおどろしくしてもよかったのではとも思うが、まずまず良好である。 乱歩はよほど気に入ったのだろう。 個人的にも嗜好のど真ん中である。 図面がたっぷりあるのもよい。 推理小説を文学と捉えたいためか、図面を嫌うミステリーファンはいるが、この種の本格ミステリーには図面は必須である。 文章と図面とで読者に謎解きさせるようにしたことは、推理作家として好ましいかぎりである。 トリックは、当時としては、かなりすぐれたものではなかったのだろうかと思う。 動機は普通に見えて意外性があり、これもよい。 それに、馬鹿げた遺言が本格ミステリーにマッチしすぎているのがよかった。 とにかくアイデア的には抜群である。 物語性も悪くはない。 ただ、ミステリーとして不備なくまとめ上げたかというと、力出し切れず感があり、そこが残念なところ。 |
No.604 | 7点 | 二人のウィリング- ヘレン・マクロイ | 2020/01/14 10:43 |
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ベイジル・ウィリングシリーズ第9作。
適度に芝居じみた派手さはあるも、派手さだけではなく、大人好みのスマートな作品でもある。 そして読みやすくもある。 最初に多くの人物を集めて登場させておいて、普通ならわかりにくくなるところを、その後数人ずつ小出しにていねいに描写してくれるので、とても読みやすい。翻訳物を読み慣れない国内ミステリーファンに親切な海外ミステリーといったところだろう。 作者自身のセンスと特徴によるものなのだろうが、当然に訳者も一役買っているはず。 最後に明かされる真相は衝撃的、というよりも、そんなのでいいの?と、呆れるレベルなのかもしれない。 ということで、ラストにより評価を下げてしまいそうだが、導入部や中途の展開、それに伏線の回収が巧いので、文句の付けようなし、といったところか。 『幽霊の2/3』とくらべれば、ミステリー面では本作のほうがやや落ちるかもしれないが、どれだけ記憶に残るかという点をかんがみれば、本作が上だろう。 ということで総合的には互角か。 |
No.603 | 4点 | 絞首台の謎- ジョン・ディクスン・カー | 2019/12/27 13:18 |
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霧の中の絞首台の影や、喉をかき切られた死者が運転するリムジン、と怪奇趣味は映像的で、至極よい。
フーダニットはまずまず。トリックはいまひとつ。 それに物語の流れもいまひとつで、パッとしない。 結局、雰囲気だけが飛び抜けてよく、その他はイマイチで、総合的評価は低い。 ところで、カーをWikipediaで確認すると、1906年生まれと、クリスティやクイーン(二人)より遅い生まれであることにびっくり。 国内ミステリーのほうが好きなので国内作家と比較するが、生年は横溝(1902年)と松本清張(1909年)の間なのだ。彼らより、10年か20年は上だと思っていた。 とても古くさく感じていたのは、雰囲気によるものだったのか? それに若書きでもあったのだ。 評者自身の認識は誤っていたけど、だからといって本作の評価は変わらない。 やはり、イマイチ(4点)であることにはちがいない。 映像的と評したが、いまの時代なら、映画、テレビに引っ張りだこの作品になってたかも。惜しいなぁ。 そういう意味では、古くさいというより、むしろ現代的なのか? |
No.602 | 7点 | おまえの罪を自白しろ- 真保裕一 | 2019/12/18 10:13 |
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タイムリミット誘拐サスペンス。
衆議院議員の宇田清治郎の孫娘(長女の娘)が誘拐され、犯人より、時限内にタイトルどおりの会見を行うことの要求をつきつけられる。 種々の疑惑(最近国内で似たようなのがあったような?)が俎上に上げられ、宇田やその家族たちは、対応すべく他の政治家たちと対峙し駆け引きが始まる。自分に害が及ぶのを恐れる政治家たちは逃げ腰気味になる。 宇田と政治家たちとの会話は、表面上、いちおうオブラートに包まれているが、地の文では内なる言葉で、本音に翻訳される。これがまず楽しめるところ。 宇田には3人の子供がいる。 次男で宇田の秘書の晧司は宇田とともに動き回るが、後半にいたるまで際立った変化を起こしてくれない。 警察は影が薄いし、犯人側も顔が見えない。 身代金の受け渡しがないから、緊迫したサスペンス感もあまりない。 こんな感じで8割ほどまでは、伏線を盛り込んであるも、宇田一族中心の平板な流れになっている。 そして怒涛の残りの2割へ突入する。最後の最後まで見せてくれる次男の活躍。 全体としてやや粗っぽさはあるも、社会、政治ネタを、時流に遅れないよう、タイムリーにうまくまとめてある。 後半の2割ほどは、うねりがあってほんとうに楽しめた。 実際にこんな事件が起きれば、当事者や周辺の政治家たちはどんな態度をとるのだろうか。 人一人の命が関わりつつも、自分自身の政治家生命が危機にさらされるかもしれないわけだから、簡単には行動も言動もとれないだろう。 政治家には究極の危機管理対策が必要ということかな。 |
No.601 | 6点 | 恋はフェニックス~湘南探偵物語~- 喜多嶋隆 | 2019/12/06 13:54 |
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舞台は湘南。時代は1994年頃か。
主人公は、湘南出身で留学経験がある、万里村桂。 おじいちゃん子、26歳。 特技は柔道。 愛車は、スカイラインGT-R。 既読の喜多嶋作品は2つともハワイが舞台だったが、今作は国内。なので、なぜか少し安心感がある。 でも、駐留米軍の依頼を受けて、事件を捜査するところは、かなり似ている。 シリーズ化されているようだ。 米軍の一人が海でウインドサーフィン中に謎の死を遂げる。 事故死なのか、自殺なのか、殺人なのか。 もしかして犯人当てモノなのか、と期待する面もあったが、果たして・・・・ ミステリーとしてすこしの工夫はあるが、まあ期待どおり?のアクション付きの超軽ハードボイルド、私立探偵もどき作品だった。 でもけっこう楽しめた。 本作にも、ちょっと懐かしいシンガーが登場する。 ダイアナ・ロス、ミニー・リパートン、リチャード・マークス、ドリー・パートン、アトランティック・スター、グレン・キャンベル(恋はフェニックス)。ほかにもいたかも。 じつは4人しか知らない。 それと、推理作家のスー・グラフトンというのを発見。 本サイトでも、わずかながら書評登録があるようだ。 |
No.600 | 9点 | 悪意- 東野圭吾 | 2019/12/02 13:17 |
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最後の「解明」の章は少々駆け足すぎる感がある。
この種の構成からすれば、解明はどんなふうにでも作れる。 伏線も軽く書くか、適当であってもよい。 とにかく、こういう手法だと、どんな真相も、どんな動機も話の中に作り込める。それに、なんどでもひっくり返すこともできる。 ずるいような気もするなぁ。 といった種々の欠点はあるが、とはいえ、こういう構成で真相をヴェールで包み込む方法を考え出した東野氏は天才的といえる(ただ、すべてが新規創出とはいえないが)。 それと、加賀恭一郎の教師時代と、わずかだがリンクさせた点もよかった。そこが加賀モノらしさなのか?こういうところは上手い。 とにもかくにも東野作品のなかでは、出来はピカイチだろう。 「容疑者Xの献身」や「白夜行」があまりにも騒がれすぎなので、本書は隠れた名作的なところもあるが、個人的には堂々たる名作と評価したい。 |
No.599 | 5点 | ハワイアン・ジゴロは眠らない- 喜多嶋隆 | 2019/11/25 12:34 |
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ハワイに住む、日系三世のエリーこと比嘉絵理子の軽ハードボイルド連作短編集。
エリーは日系の女子大生だが、休学してホノルル市警のアンダー・カバー(秘密捜査員)に就いている。捜査対象は、現地に住む日本人か、日本人観光客に関する。 全作、男女絡みのミステリー(といえるのかな?)。エリーは自ら推理しながら捜査し、あっという間に真相にたどりつく。いちおう手がかり的なものはあるが、推理はほぼ直感といってもいいだろう。 被害者(といっても殺人はなくレイプや強盗の被害者)は、全作、若い日本女性。彼女らは観光客だったり、現地人だったりするが、考えが浅はかなため事件に巻き込まれてしまい、それをエリーが救い出し解決する。みんな、このパターンだ。 安直なスタイルだが、テンポがよく、アクションもあって、飽きずに、ほどほどに楽しめた。 ハワイの風俗は、行ったことがないので知らないが、不良サーファーや現地のチンピラ、海兵隊くずれなどが登場し、なんとなくそれっぽい感じが出ていたような気がする。 時代は1990年代で、以前に読んだ、ハワイの秘密捜査員、鹿野沢ケイの「フィリップ・マーロウの娘」よりちょっとだけ新しい。「フィリップ」ほど、古き良き時代への郷愁は感じられなかったが、当時人気のあった、ホイットニー・ヒューストンやフィル・コリンズの名前が出てきて、懐かしく感じられた。 |
No.598 | 7点 | ある男- 平野啓一郎 | 2019/11/05 09:59 |
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内容紹介などを事前に目にすることなく読み始めたので、最初の40ページほどのところでまず、衝撃を受けました。
Who & Why系文芸ミステリーなのか? まあ、芥川賞作家が書いたハイブリッド小説にはちがいありません。 読み進めると、主たる登場人物の内面が独白的に描かれることが多くなります。この内面描写には社会に対する著者の主張のようにも思われ、少し納得しつつ、少し敬遠しつつ、さらに読み続けると、社会派要素のある重厚なミステリーに戻ってきます。 評者の既読の作品でたとえると、宮部さんの『火車』と、ドストエフスキーの『罪と罰』(もしくは島崎藤村の『破戒』)とを、7対3ぐらいに混ぜ合わせて、さらに読みやすくした感じです。しかも、スマホとかSNSが登場するので、かなり現代風でもあります。 ただし、しつこいほどの重さを感じたところもありましたが・・・ なお、些細な日常を、文章を巧みに操りながら描いた、スケールの小さな私小説風な純文学でなかったところは、大いに気に入っています。 この著者はデビューして20年のベテラン作家なので、おそらくいつかの時点で、純文学を追求していくよりは、エンタメ、ミステリー要素を採り入れることで売れる道を選んだのでしょう。 それとも初めからこんな感じだったのかな? 本書はミステリーとしても、一般小説としてもお気に入り度は高めです。 初読の作家さんでしたが、今回の読書で、今後はミステリー的なものをチョイスしながら読み続けたいという気にさせてくれました。 |
No.597 | 7点 | 闇夜の底で踊れ- 増島拓哉 | 2019/10/18 12:31 |
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第31回小説すばる新人賞受賞作。
ざまあみさらせ、あほんだら! パチンコ好きでチンピラ風の伊達と、ヤクザの山本との掛け合いは、黒川博行氏の疫病神風で、テンポがよすぎて読みだしたら止まらない。ページが進みすぎてもったいないぐらいだ。 お笑いものかと勘違いしそうだが、じつは大阪ノワールと呼ばれているぐらいで、後半は凄みが出てくる。 ノワール物はあまり読まないので比較できる小説はないが、映画でたとえるなら、哀愁要素を含んだ香港ノワールといったところだろう。『インファナル・アフェア』みたいな感じかな、ちょっと褒めすぎかな。 本作はさらにお笑い要素が加味されている。 だからこそストーリーに変化があって楽しめたのだろう。 その変転のための仕掛けもあるが、これはまったく読めなかった。 ラストは物悲しいが、もっともっと切なくして、余韻にひたらせてほしいとも思った。 著者が19歳というのには驚いた。 伊達が36歳だから、19歳では描ききれないだろう。24,5歳ぐらいに見えてしまう。 でも、少し幼稚な性格に設定して誤魔化しているところは、テクニック抜群ということなのか。 |
No.596 | 3点 | ファミリー・レストラン- 東山彰良 | 2019/09/28 19:50 |
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見知らぬ人たちがスペイン料理レストランに集められ、早いうちに、客たちの前で、店の主人が自分の首を切る。
そしてその後、さらにさらに異常な状態に・・・ 客たちには、あやしい過去がある。 この店に客たちを招いたのはいったい誰なのか。 とくれば、クリスティの「そして誰もいなくなった」がまず思い浮かぶ。 しかし似ているわけではない。いや、似ているほうがどんなによかったか。 すっきりしないし、複雑だし、読みにくい。 理解不能。支離滅裂。いい加減にしてくれ、と叫びたくなる。 直木賞受賞作の青春ミステリー「流」がたいそう気に入ったので、なんでもいいから本著者の2作目を読んでやろうと思っていたら、このありさま。 東山氏の他の作品のタイトルをながめてみても、やはり支離滅裂感にあふれている。独特の世界観があるのか。タイトルを見ただけでも、心ときめくような作品はない。 とはいえ、二匹目のどじょうを探して、懲りずにあと2,3作は読んでみようとは思う。 |
No.595 | 7点 | 夜明けの街で- 東野圭吾 | 2019/09/18 10:48 |
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不倫話とミステリーの組み合わせ。
だいじょうぶかな、奥さんにばれないかな、とけっこうドキドキした(笑)。 恋愛・不倫モノはミステリー(サスペンス)に通じるところがあって楽しめた。 中盤ごろのある段階で、○○が探偵役で、不倫関係はこういう結末を迎えるのでは、と予測したが、まさにそのとおりだった。 ただ、真相そのものや、事件において○○や△△、××がどういう立場の人物なのかまでは想像できなかった。 トリックがあるわけでもなく、不手際なところも多々あり、ミステリー的にみればイマイチかもしれないが、面白くするためのプロット作りの巧さは抜群だと思う。 かなり上出来の作品ではないだろうか。 東野さんも素晴らしい恋愛モノが書けるのですね。 女性を描くのが下手だとか、女性の心理がわかっていないとかの声も聞かれるが、これだけ面白ければ問題なし。 クリスティーの男女モノの『ナイルに死す』や『検察側の証人』には及ばないが、こんな風に楽しませてもらえれば、個人的には大満足。 それに復讐物の要素があったのもよかった。 恋愛がベースになっている『容疑者Xの献身』は、マイナス面がどうしても気になって7点にしたが、本作はプラス面だけを見て7点にした。 |
No.594 | 6点 | 007/黄金の銃をもつ男- イアン・フレミング | 2019/09/18 10:39 |
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1964年、最後の長編。
フレミングの遺作ということで感慨深く読めたのはよかった。 ボンドの復活作品でもある。復活登場のシーンがなかなか面白い。 シリーズ最初の映画作品「ドクターノオ」が1962年なので、映像化を見据えたのか、派手なキャラクタが登場する作品となっている。 映画版を観ていないので、頭の中に映像は浮かんでこないはずなのだが、自分なりの想像にもとづく映像が浮かんできたのには驚いた。 本作の敵役であるスカラマンガは、ユニークでなかなか魅力的なワル。象のエピソードは印象的だった。本シリーズは、だいだいにおいてワルでもこんな扱いだし、そこが人気なのかもしれない。 一方のボンドは、冒頭でもラストでもけっしてカッコよくない。でもうまく描いてある。欠点を見せるのも人気の秘密なのだろう。 そのボンドとスカラマンガとの間で、もしかしたら友情が芽生えるんじゃないかと、ひやひやした。 と、キャラばかりを褒めたが、キャラのみの一点豪華主義で、ストーリーはスリルも変転もすくなく物足らない。「ゴールドフィンガー」ほどの変化のある話ならいいのだが、それには全くおよばない。 遺作なので評点はすこしオマケした。「ゴールド」の評点を6点にしていたので、本作とのバランスをみてプラスした。 |
No.593 | 6点 | コールドゲーム- 荻原浩 | 2019/08/27 10:12 |
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○○○系社会派青春ミステリー。
(○○○は、裏表紙にも書いてないことなので、出版社や著者の意図をくみとって伏せ字にした。もしかしたらジャンルとして表示されるかもしれませんがw) 初めからそうと知っていたら読み方が変わっていたかも。 青春モノらしいユーモアを交えながら、いじめを取り上げ、ほどほどに社会性を出したところはグッド。 真相を含め、終盤は十分に楽しめた。ラストの1行はどっちでもいいとも思えるが、これもまた良し。 ただ、中盤かそれ以降に、起承転結の転にあたる、うねりが欲しかった。中途で真相が透けて見えるという読者も多くいるようなので、ラストだけにたよらないほうがよかったのでは。 それと、青春ミステリー要素を際立たせるために、主人公の光也や亮太に、目に見えるような大きな変化と成長が欲しかった。光也は、語り手+α程度ではもったいないし、亮太にはもっと活躍してもらいたかった。でも、いじめが背景にあるから仕方ないのかなぁ。 <ということで採点は> 真相、どんでん返し、サプライズ、サスペンスなど、ミステリー要素全体としては、6.5点。 青春のほろ苦さを超えてしまっているし、登場人物の成長が少なめだから、キャラクタ性を含め、青春モノとしては、5.0点。 上記のように「転」が弱いので、全体の物語性としては、5.5点。 文章的には、7.2点。 以上 |
No.592 | 6点 | メグレ警視- ジョルジュ・シムノン | 2019/08/19 10:20 |
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世界の名探偵コレクション10
20ページ前後の短編が4作と、60ページ弱の短編が3作収録されている。 『月曜日の男』はハウ物、『街中の男』は尾行物、『首吊り船』は船内での死の真相物、『蝋のしずく』は姉妹登場の本格もどき。 『メグレと溺死人の宿』は交通事故が発端の推理モノ。『ホテル≪北極星≫』は背景となる人間関係が面白い。これら2作は、メグレの強烈な推理、というか容疑者たちとの対峙の仕方が見どころ。『ホテル≪北極星≫』は、メグレが定年直前の事件という点にも注目できる。 『メグレとグラン・カフェの常連』は、メグレの退職後に発生した事件に関する番外編のような短編。引退後の話なのでメグレ夫人の登場機会も多い。話はメグレのカードゲーム仲間たちの間で起きた事件に関するもので、情愛系、人情噺系という感じがして、なんとも味わい深い。 |
No.591 | 6点 | メグレと殺人者たち- ジョルジュ・シムノン | 2019/07/29 09:59 |
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このストレートすぎる邦題よりも、「メグレと彼の死人」のほうがしっくりきます。
前半部分で、この字句を連発していたこともあり、著者の意図が伝わってきます。 結局、この原題は、その死体本人へこだわりがあることを示唆しているのでしょう。 こういうところは上手い。 かなり評判のいいメグレ物で、しかもパターンがいつもと違う。 そもそもメグレ物は、種々雑多なスタイルとは言えますが。 男からの電話と、その男の死が、メグレにとってはなぜか重要なのです。 そこから重大な事件の真相につながっていくなんて、思いもよりません。 聞き込みも多く、メグレの推理も多い。 国際的ということもあって、サスペンス性は豊富。 と、ここまでは絶賛。 ただそのわりに、平坦に感じるのはなぜ? 変な言い方ですが、サスペンスがあるわりに緊張感に乏しく、意外にゆったりとしている印象も受けます。 せっかく200ページぐらいに収めるのだから、もっとすっ飛ばしながら、ビシッ、バシッと変化をつけて決めてほしいような気もします。 ということで、ベスト・オブ・メグレとまではいきませんでした。 |
No.590 | 7点 | 春から夏、やがて冬- 歌野晶午 | 2019/07/16 10:40 |
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きっと何かあるのでは、と常に気にしながらの読書でした。
しかし、気にかかっても大抵の場合、少し読み進めば著者からの回答が得られ、な~んだ考えすぎかと、少し安心したり、少し残念に思ったりもします。 娘をひき逃げで亡くした平田と、その娘と同年代のますみとの交流が中心に描いてあり、それを読むだけでも十分に楽しめます。 読み終えてみればミステリーとしては物足りなさを感じる反面、全編をただようミステリーの雰囲気にはおおいに楽しめました。 それに、二人はいったい何を考えていたのだろうと、いろいろ想像を巡らすことができ、藪の中的な読後感が得られたのにも満足しました。 語り合うのに最適な小説かもしれません。 |
No.589 | 5点 | ST警視庁科学特捜班- 今野敏 | 2019/07/11 09:51 |
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特殊技能を持つ科学捜査員たちの捜査物語。
といっても、特殊技能所有者は5人もいるので、それぞれはそれほど目立たない。 脇役であるはずの、昔ながらの刑事、菊池や、気の弱いキャリア警部のほうが負けじと目立っている。 ミステリーとしては、殺人が3件発生して、派手さはある。謎も多い。 でも、むりやり収めた感があり、謎解きやサプライズを求めると物足らない。 やはり、みなさんのご指摘のように、濃いキャラの集団ヒーロー物を楽しむつもりで読むのがいちばんでしょう。 しかも、シリーズ第1作では、全員のキャラを生かすのはむずかしいから、その後のシリーズを読みながら全員のキャラを楽しむという姿勢が理想的な読み方でしょう。 |
No.588 | 4点 | 最後の逃亡者- 熊谷独 | 2019/07/01 10:19 |
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第11回サントリーミステリー大賞受賞作。
ソ連時代のモスクワ等が舞台。 綿密に調査をしているのがよくわかります。これを想像では書けないでしょう。 場面の多くが主人公たちの逃亡シーンで、緊迫感が伝わってきます。ストーリー自体もよく練られていると思います。 残念なことが3点。 まず、ラスト。これはいただけない。暗すぎる。 2つめは、なぜ追われるのかという点。いちおうわかるが、もうちょっとくわしく書いてほしい。 そして、文章。視点が多すぎるし、転換も多すぎる。主人公クラスが4,5人いて、感情移入もできない。 唯一の日本人の登場人物、技術者・岡部信吾をもっと深く描き込んでほしいですね。 視点については、本格ミステリーでもないのでどうでもいい、とも思うのですが、いつもクセのように気になり、すぐに文句を言ってしまいます。 でも本作の場合、それが原因でかなり読みにくくなってしまいました。たんに読み方が下手なのかなと思ってしまいます。 |
No.587 | 6点 | ドルチェ- 誉田哲也 | 2019/06/10 09:31 |
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所轄勤務のベテラン女性刑事、魚住久江シリーズ。
主人公の魚住は、姫川シリーズの姫川玲子ほど個性的ではないし派手さもない。発生する事件にも強烈さはなく、殺人は一切ない。 魚住はいつも容疑者側に立って、容疑者たちのちょっとした秘密を探るところが全編に通じる特徴。 全体的にたよりなくあっさりはしているが、秘密を探っていく過程は十分に楽しめる。 この作家さん、本シリーズ、姫川シリーズ、ジウシリーズなど、女性刑事モノを得意としている。 誉田氏の他の作品の評でも書いたが、この著者は大衆受けするツボを心得ている。女性を主人公にするのも、そのあたりを考えてのことだろう。 |