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臣さん
平均点: 5.90点 書評数: 655件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.615 5点 シバ 謀略の神殿- ジャック・ヒギンズ 2020/06/19 10:08
第二次大戦前夜、アラビア半島を舞台にした冒険大活劇。
冒頭、ヒトラーが登場し、どんな話になるのかと期待は膨らんだが、ミステリー的な捻りがほとんどなくシンプルでお手軽なストーリーだった。
逃走、追跡場面は結構楽しめたが、お宝さがしみたいなのがないのは残念だった。シバの女王の神殿なんだから、そのぐらいあってもよさそうなのに。
映像化しても、インディージョーンズみたいにはならないだろうなぁ。

でも、軽く読めるのは本当にすばらしい。
それと、考古学者が主人公であるのもいい。学者がスーパーヒーローという、いかにも欧米の冒険モノという感じがして個人的には好き。

No.614 6点 深夜プラス1- ギャビン・ライアル 2020/05/30 19:43
名作といわれる作品なのでぜひ読んでおきたいと手にとったが・・・

筋が単純という評が多く、シンプルすぎるロードノベルを想像していたが、予想以上にプロットに変化があった。
単純なストーリーにも飽きさせない工夫が凝らしてある。
でも真相は読まなくてもわかるレベルかもしれない。

それと、主人公たち2人の男、ケインとハーヴェイの生きざまにファンは魅かれるのだろうと想像できる。たしかにケインの戦いが終わって吐く言葉は重みがある。
ただ彼ら以外の人物たちが、あまりにもパッとしない。

冒険小説なのに株の話が出てくるのもちょっと意外だった。
社会派冒険小説。いや「会社派」といったほうがいいか。
このアンマッチな感覚が読みづらくさせ停滞しがちであった。でも、何度も読めばだんだん気に入ってくるような気もする。噛めば噛むほどといった感じか。
とりあえず初読では後半の銃撃戦がいちばん楽しめた。


在宅が多くなって、ひそかな楽しみである移動時間での読書が減ってしまった。

No.613 7点 鬼畜 松本清張映画化作品集2- 松本清張 2020/04/25 18:54
双葉文庫版の清張短編集。映画化作品を集めたらしい。
目次を見たら、新潮文庫の短編集「黒い画集」「張込み」「共犯者」からピックアップした寄せ集め集だった。
『潜在光景』『共犯者』は「共犯者」に所収。
『顔』『鬼畜』は「張込み」に所収。
『寒流』は「黒い画集」に所収。
『潜在光景』『共犯者』は未読だった。『寒流』は内容を覚えていなかったので再読。『顔』『鬼畜』は記憶がしっかりと残っているので再読せず。

潜在光景・・・最後のオチは、タイトルや途中の回想で想像できそう。でもページを繰る手は止まらなかった。
顔・・・なんでそんな行動をとるの、とハラハラドキドキ。なぜか主人公の肩を持ってしまう。それだけ夢中になれる作品。
鬼畜・・・おそろしいとしか言いようがない。ふつうの小市民なんだけどなぁ。貧しさゆえか?
寒流・・・気の毒すぎる。なんでそこまで主人公をいじめるの、清張さん。最後の一発逆転はあるのか?
共犯者・・・犯罪者は繊細さが必要だが、すぎるのはダメ。もっと堂々としてなきゃ。それと、そもそも共犯は絶対ダメ。馬鹿げてはいるけどおもしろい。

本短編集にかぎらず、多くの清張短編の根底には、人の心の奥底に潜む欲望や悪意がある。
小市民だろうが善人だろうが、清張にかかればみな、狡くて気が小さいコメディリリーフ(それでいて主人公)を演じさせられる。
さらに本短編集作品の主人公たちは、悲惨な末路が待ち受けている。

No.612 7点 張込み- 松本清張 2020/04/20 14:08
清張の短編には、犯罪ものや、主人公の転落を描いたものが多く、本短編集では『顔』や『鬼畜』、『カルネアデスの舟板』などはそれに当たる。
ただ本短編集には、『張込み』や『声』のように刑事が活躍するものもあれば、社会派の『投影』も含まれている。
前者(犯罪ものなど)のほうが清張らしさがあって面白さも格別だが、立て続けに読むと辟易としてくるから、本短編集はちょうどいい塩梅である。

個人的には、前者では『カルネアデス』、後者では『声』が好みだ。とはいえ他が悪いわけではない。『張込み』、『投影』もかなりいい。
その他『地方紙を買う女』、『一年半待て』(これらも捨てがたい)を含み、全8編。

長編では社会派ミステリーが目立つが、長編でも上記傾向は変わらない。
刑事ものの『点と線』は2回読んでも好きにはなれなかったが、短編では『声』や『張込み』などの刑事ものが好みなのは我ながら意外な感じがする。
『点と線』は、社会派であり本格物でもあるので、本来好みのはず。もう一度読めば好きになるのかもしれない。

No.611 7点 野望のラビリンス- 藤田宜永 2020/04/07 13:53
のちに恋愛小説家に転向した直木賞作家、藤田宜永氏のデビュー作です。
この鈴切信吾シリーズは残念ながら、本作と次作の『標的の向こう側』の2作で終わっています。彼の作品にはフランスでの経験を生かしたものが多く、本シリーズ作品もその代表的な作品といえるでしょう。

「フランス国籍を持ち、パリに住む邦人探偵・鈴切信吾。ある日、彼のもとへ奇妙な依頼が舞いこんだ―「猫を探して頂きたいのです」。だが彼を待っていたのは、猫を預かったまま失踪した男の死体であった。一体誰が、何のために。男の過去を手繰る他はなかった。男娼がいた。画廊の経営者夫妻がいた。淫売とヒモがいた。やがて鈴切は第二の殺人事件の渦中に巻きこまれ、そしてパリの裏街に潜む深遠なる情念の迷宮の只中にいるのを知った―。爛熟の都を舞台に綴る本格ハードボイルド。」(BOOKデータベースより)

ハードボイルド小説として雰囲気や語りを楽しむといった感じはあまりなく、フランスらしさもそれほどではないが、エンターテインメント作品としての価値は高いように思う。
事件にはいろいろな背景があり、やや駆け足気味に話しは進むが、その分場面に変化とスピード感があり、読者を飽きさせることはない。

読者が謎解きに参加できる本格ミステリーとはいえないものの、多くの謎があり、ミステリーとしてのオチに工夫もあり、個人的にはお気に入りの作品です。
ただ、久しぶりの再読では、先日読んだ『さもなくば友を』よりも、お気に入り度はやや落ちるかもしれません。

No.610 5点 愛ある追跡- 藤田宜永 2020/03/27 13:07
獣医の岩佐一郎が殺人の容疑をかけられた我が娘を追う追跡ミステリー。
娘は国内を転々とし逃避行を続ける。父親は娘のうわさを聞き出没先に出向く。さらにその父親を刑事が執拗に追う。
娘の出没先ごとにその地方の人物が登場し、そこで彼らと一郎とのドラマが生まれる。そこには刑事も絡んでくる。まるで、連続ドラマの『逃亡者』のような連作短編ストーリーだった。

章ごとの登場人物たちは、事件にどのように関係してくるのだろうか、それとも単なるゲスト的な登場なのだろうか。各章(地方)の物語はスリルもあって期待は膨らんでいくが・・・

章ごとに動物がらみの場面があり、一郎が職業を生かして活躍する。そこはおもしろかったが・・・
でもミステリーとは言いがたい。終わり方は異常。
父と娘の親子愛の物語だったのか・・・
解説には、探偵・竹花シリーズにつながる人探し小説とあるが、シリーズ的につながっているわけではないだろう。

ストーリーはミステリーという語句とはアンマッチ、タイトルともアンマッチ。
旅情なんてほとんどないが、ジャンル的にはトラベルミステリーか。これもアンマッチかな。

No.609 5点 影の探偵- 藤田宜永 2020/03/19 09:47
女探偵、唐渡美知子と、謎の探偵、影乃とが、美知子自身に対する狙撃をきっかけに、その事件や殺人事件を追う。
唐渡が主人公で、影乃が準主人公で主人公を支える片腕なのかと思っていたが、読み進むうちに、じつは違うことがわかってきた。タイトルをまともに見ていなかったようだ。

最初のうちは本格ミステリーかと思っていた。
謎が深まるにつれ登場人物が増え、本格性が薄れ、アクション場面が増え、ふつうのハードボイルド・ミステリーになってくる。
序盤に名前だけが登場する怪しき人物が、どんなに待ってもなかなか出てこない。このあたりは謎めいてうまいが、中盤ごろから、ワルらしき人物が多く登場し、宝探し的な要素も出てきて、ドタバタしてくる。
事件の背景が意外に凄いのには驚かされる反面、期待外れな面もあった。

プロットは凝っているともいえるが、ごちゃごちゃしすぎの感もあり、評価は、中の中ぐらいか。

No.608 7点 さもなくば友を- 藤田宜永 2020/03/09 10:20
これぞ、本場フランスを舞台にした本物のノワール物。
本場といっても著者は日本人だが。

主人公は外人部隊出身で、インドシナ戦争経験者。物語にはそんな歴史的背景も関係する。
前半はギャングの仲間集めと、黄金の仏像の強奪。
ここまででも十分に楽しめるが、強奪後の後半こそノワールまっしぐら。
男の友情、裏切り、そして復讐。
わずかに色恋も絡む。

仲間集めの場面は七人の侍や荒野の七人を連想し、強奪のためのカジノ侵入の場面ではミッションインポッシブルが思い浮かぶ。黄金の仏像はマルタの鷹っぽくもある。
そして復讐場面は、健さんの唐獅子牡丹(昭和残侠伝)のラストの殴り込みって感じか。
小説や映画なんてその多くが、古典や名作からヒントを得ていることを想像できる。
本当にヒントにしたかどうかはわからない。藤田氏にたずねてみたいがもう聞けない。残念です。

かつては、ハードボイルド・鈴切信吾シリーズが好みだったが、歳のせいか、いまでは、本作のほうが合っているような気がする。
犯罪モノやノワール物は今まであまり読まなかったが、今回はかなり楽しめた。

No.607 6点 帽子屋の休暇- ピーター・ラヴゼイ 2020/02/19 11:13
クリッブ部長刑事&サッカレイ巡査シリーズ第4作。
彼らが捜査するのは、海水浴場ブライトンで起こる、とある家族に関連した殺人事件。
といっても、殺人事件も彼らの登場も中盤あたりの2部からで、それまでの1部は、モスクロップという変わったおじさんによるリゾート地での人間ウォッチング(ようするに覗き)の描写に終始している。
なにか起きるか、だれが殺されるのかを1部でミステリー的に惹きつけておいて、じつは人間観察のみ、という作りはなかなかうまいやり方です。しかも、避暑地の描写にも引きこまれてしまいます。この1部はちょっと長すぎますが、退屈することはありません。もちろん1部にも、いろいろな要素が含まれていることは言うまでもありません。

そして2部からが本番。
じつは、事件も捜査・謎解きも2段階あり、そこが二度おいしいところです。
特に2つ目の事件は、やや不明感があるも、度肝を抜かれる展開に驚かされます。クリップの迫力のある謎解きが読みどころでしょう。専門的ではありましたが・・・

No.606 5点 ピーター卿の事件簿- ドロシー・L・セイヤーズ 2020/02/03 11:24
ピーター卿シリーズの7中短編が収録してある。

いずれも奇想な流れで後半まで引っ張り、最後に一気に本格ミステリー化する。
これは短編ミステリーとしてうまい手である。
でも奇想なわりに話が種々変化しながら進むわけではないし、凄いと感心するほどの結末であるとも感じられない。悪くはなかったが・・・

セイヤーズは、正真正銘のお初。
短編好きなので、まず短編から試したいと思い手を出したが、これを機にいざ長編へ、とはいかないのかな。
とはいえ、みなさんの熱のこもった書評を前にすると、長編も読みたくはなる。
でも、評者の方々の間で、作品ごとに評価が分かれているのを見ると、好みの問題とはいえ、それはそれで気にはなる。
それに、人気作『学寮祭の夜』が分厚すぎる。これがいちばん気になる(笑)。

No.605 6点 エンジェル家の殺人- ロジャー・スカーレット 2020/01/27 10:18
江戸川乱歩が絶賛し翻案までした作品。
館も、密室も、遺言も、登場人物の構成や人間関係もよい。
雰囲気は、もっとおどろおどろしくしてもよかったのではとも思うが、まずまず良好である。

乱歩はよほど気に入ったのだろう。
個人的にも嗜好のど真ん中である。
図面がたっぷりあるのもよい。
推理小説を文学と捉えたいためか、図面を嫌うミステリーファンはいるが、この種の本格ミステリーには図面は必須である。
文章と図面とで読者に謎解きさせるようにしたことは、推理作家として好ましいかぎりである。

トリックは、当時としては、かなりすぐれたものではなかったのだろうかと思う。
動機は普通に見えて意外性があり、これもよい。
それに、馬鹿げた遺言が本格ミステリーにマッチしすぎているのがよかった。
とにかくアイデア的には抜群である。
物語性も悪くはない。
ただ、ミステリーとして不備なくまとめ上げたかというと、力出し切れず感があり、そこが残念なところ。

No.604 7点 二人のウィリング- ヘレン・マクロイ 2020/01/14 10:43
ベイジル・ウィリングシリーズ第9作。

適度に芝居じみた派手さはあるも、派手さだけではなく、大人好みのスマートな作品でもある。
そして読みやすくもある。
最初に多くの人物を集めて登場させておいて、普通ならわかりにくくなるところを、その後数人ずつ小出しにていねいに描写してくれるので、とても読みやすい。翻訳物を読み慣れない国内ミステリーファンに親切な海外ミステリーといったところだろう。
作者自身のセンスと特徴によるものなのだろうが、当然に訳者も一役買っているはず。

最後に明かされる真相は衝撃的、というよりも、そんなのでいいの?と、呆れるレベルなのかもしれない。
ということで、ラストにより評価を下げてしまいそうだが、導入部や中途の展開、それに伏線の回収が巧いので、文句の付けようなし、といったところか。

『幽霊の2/3』とくらべれば、ミステリー面では本作のほうがやや落ちるかもしれないが、どれだけ記憶に残るかという点をかんがみれば、本作が上だろう。
ということで総合的には互角か。

No.603 4点 絞首台の謎- ジョン・ディクスン・カー 2019/12/27 13:18
霧の中の絞首台の影や、喉をかき切られた死者が運転するリムジン、と怪奇趣味は映像的で、至極よい。
フーダニットはまずまず。トリックはいまひとつ。
それに物語の流れもいまひとつで、パッとしない。
結局、雰囲気だけが飛び抜けてよく、その他はイマイチで、総合的評価は低い。

ところで、カーをWikipediaで確認すると、1906年生まれと、クリスティやクイーン(二人)より遅い生まれであることにびっくり。
国内ミステリーのほうが好きなので国内作家と比較するが、生年は横溝(1902年)と松本清張(1909年)の間なのだ。彼らより、10年か20年は上だと思っていた。
とても古くさく感じていたのは、雰囲気によるものだったのか?
それに若書きでもあったのだ。

評者自身の認識は誤っていたけど、だからといって本作の評価は変わらない。
やはり、イマイチ(4点)であることにはちがいない。

映像的と評したが、いまの時代なら、映画、テレビに引っ張りだこの作品になってたかも。惜しいなぁ。
そういう意味では、古くさいというより、むしろ現代的なのか?

No.602 7点 おまえの罪を自白しろ- 真保裕一 2019/12/18 10:13
タイムリミット誘拐サスペンス。

衆議院議員の宇田清治郎の孫娘(長女の娘)が誘拐され、犯人より、時限内にタイトルどおりの会見を行うことの要求をつきつけられる。
種々の疑惑(最近国内で似たようなのがあったような?)が俎上に上げられ、宇田やその家族たちは、対応すべく他の政治家たちと対峙し駆け引きが始まる。自分に害が及ぶのを恐れる政治家たちは逃げ腰気味になる。
宇田と政治家たちとの会話は、表面上、いちおうオブラートに包まれているが、地の文では内なる言葉で、本音に翻訳される。これがまず楽しめるところ。

宇田には3人の子供がいる。
次男で宇田の秘書の晧司は宇田とともに動き回るが、後半にいたるまで際立った変化を起こしてくれない。
警察は影が薄いし、犯人側も顔が見えない。
身代金の受け渡しがないから、緊迫したサスペンス感もあまりない。
こんな感じで8割ほどまでは、伏線を盛り込んであるも、宇田一族中心の平板な流れになっている。
そして怒涛の残りの2割へ突入する。最後の最後まで見せてくれる次男の活躍。

全体としてやや粗っぽさはあるも、社会、政治ネタを、時流に遅れないよう、タイムリーにうまくまとめてある。
後半の2割ほどは、うねりがあってほんとうに楽しめた。

実際にこんな事件が起きれば、当事者や周辺の政治家たちはどんな態度をとるのだろうか。
人一人の命が関わりつつも、自分自身の政治家生命が危機にさらされるかもしれないわけだから、簡単には行動も言動もとれないだろう。
政治家には究極の危機管理対策が必要ということかな。

No.601 6点 恋はフェニックス~湘南探偵物語~- 喜多嶋隆 2019/12/06 13:54
舞台は湘南。時代は1994年頃か。
主人公は、湘南出身で留学経験がある、万里村桂。
おじいちゃん子、26歳。
特技は柔道。
愛車は、スカイラインGT-R。
既読の喜多嶋作品は2つともハワイが舞台だったが、今作は国内。なので、なぜか少し安心感がある。
でも、駐留米軍の依頼を受けて、事件を捜査するところは、かなり似ている。
シリーズ化されているようだ。

米軍の一人が海でウインドサーフィン中に謎の死を遂げる。
事故死なのか、自殺なのか、殺人なのか。
もしかして犯人当てモノなのか、と期待する面もあったが、果たして・・・・
ミステリーとしてすこしの工夫はあるが、まあ期待どおり?のアクション付きの超軽ハードボイルド、私立探偵もどき作品だった。
でもけっこう楽しめた。

本作にも、ちょっと懐かしいシンガーが登場する。
ダイアナ・ロス、ミニー・リパートン、リチャード・マークス、ドリー・パートン、アトランティック・スター、グレン・キャンベル(恋はフェニックス)。ほかにもいたかも。
じつは4人しか知らない。
それと、推理作家のスー・グラフトンというのを発見。
本サイトでも、わずかながら書評登録があるようだ。

No.600 9点 悪意- 東野圭吾 2019/12/02 13:17
最後の「解明」の章は少々駆け足すぎる感がある。
この種の構成からすれば、解明はどんなふうにでも作れる。
伏線も軽く書くか、適当であってもよい。
とにかく、こういう手法だと、どんな真相も、どんな動機も話の中に作り込める。それに、なんどでもひっくり返すこともできる。
ずるいような気もするなぁ。
といった種々の欠点はあるが、とはいえ、こういう構成で真相をヴェールで包み込む方法を考え出した東野氏は天才的といえる(ただ、すべてが新規創出とはいえないが)。

それと、加賀恭一郎の教師時代と、わずかだがリンクさせた点もよかった。そこが加賀モノらしさなのか?こういうところは上手い。

とにもかくにも東野作品のなかでは、出来はピカイチだろう。
「容疑者Xの献身」や「白夜行」があまりにも騒がれすぎなので、本書は隠れた名作的なところもあるが、個人的には堂々たる名作と評価したい。

No.599 5点 ハワイアン・ジゴロは眠らない- 喜多嶋隆 2019/11/25 12:34
ハワイに住む、日系三世のエリーこと比嘉絵理子の軽ハードボイルド連作短編集。
エリーは日系の女子大生だが、休学してホノルル市警のアンダー・カバー(秘密捜査員)に就いている。捜査対象は、現地に住む日本人か、日本人観光客に関する。

全作、男女絡みのミステリー(といえるのかな?)。エリーは自ら推理しながら捜査し、あっという間に真相にたどりつく。いちおう手がかり的なものはあるが、推理はほぼ直感といってもいいだろう。
被害者(といっても殺人はなくレイプや強盗の被害者)は、全作、若い日本女性。彼女らは観光客だったり、現地人だったりするが、考えが浅はかなため事件に巻き込まれてしまい、それをエリーが救い出し解決する。みんな、このパターンだ。
安直なスタイルだが、テンポがよく、アクションもあって、飽きずに、ほどほどに楽しめた。

ハワイの風俗は、行ったことがないので知らないが、不良サーファーや現地のチンピラ、海兵隊くずれなどが登場し、なんとなくそれっぽい感じが出ていたような気がする。
時代は1990年代で、以前に読んだ、ハワイの秘密捜査員、鹿野沢ケイの「フィリップ・マーロウの娘」よりちょっとだけ新しい。「フィリップ」ほど、古き良き時代への郷愁は感じられなかったが、当時人気のあった、ホイットニー・ヒューストンやフィル・コリンズの名前が出てきて、懐かしく感じられた。

No.598 7点 ある男- 平野啓一郎 2019/11/05 09:59
内容紹介などを事前に目にすることなく読み始めたので、最初の40ページほどのところでまず、衝撃を受けました。
Who & Why系文芸ミステリーなのか?
まあ、芥川賞作家が書いたハイブリッド小説にはちがいありません。

読み進めると、主たる登場人物の内面が独白的に描かれることが多くなります。この内面描写には社会に対する著者の主張のようにも思われ、少し納得しつつ、少し敬遠しつつ、さらに読み続けると、社会派要素のある重厚なミステリーに戻ってきます。

評者の既読の作品でたとえると、宮部さんの『火車』と、ドストエフスキーの『罪と罰』(もしくは島崎藤村の『破戒』)とを、7対3ぐらいに混ぜ合わせて、さらに読みやすくした感じです。しかも、スマホとかSNSが登場するので、かなり現代風でもあります。
ただし、しつこいほどの重さを感じたところもありましたが・・・
なお、些細な日常を、文章を巧みに操りながら描いた、スケールの小さな私小説風な純文学でなかったところは、大いに気に入っています。

この著者はデビューして20年のベテラン作家なので、おそらくいつかの時点で、純文学を追求していくよりは、エンタメ、ミステリー要素を採り入れることで売れる道を選んだのでしょう。
それとも初めからこんな感じだったのかな?

本書はミステリーとしても、一般小説としてもお気に入り度は高めです。
初読の作家さんでしたが、今回の読書で、今後はミステリー的なものをチョイスしながら読み続けたいという気にさせてくれました。

No.597 7点 闇夜の底で踊れ- 増島拓哉 2019/10/18 12:31
第31回小説すばる新人賞受賞作。

ざまあみさらせ、あほんだら!
パチンコ好きでチンピラ風の伊達と、ヤクザの山本との掛け合いは、黒川博行氏の疫病神風で、テンポがよすぎて読みだしたら止まらない。ページが進みすぎてもったいないぐらいだ。
お笑いものかと勘違いしそうだが、じつは大阪ノワールと呼ばれているぐらいで、後半は凄みが出てくる。

ノワール物はあまり読まないので比較できる小説はないが、映画でたとえるなら、哀愁要素を含んだ香港ノワールといったところだろう。『インファナル・アフェア』みたいな感じかな、ちょっと褒めすぎかな。
本作はさらにお笑い要素が加味されている。
だからこそストーリーに変化があって楽しめたのだろう。
その変転のための仕掛けもあるが、これはまったく読めなかった。
ラストは物悲しいが、もっともっと切なくして、余韻にひたらせてほしいとも思った。

著者が19歳というのには驚いた。
伊達が36歳だから、19歳では描ききれないだろう。24,5歳ぐらいに見えてしまう。
でも、少し幼稚な性格に設定して誤魔化しているところは、テクニック抜群ということなのか。

No.596 3点 ファミリー・レストラン- 東山彰良 2019/09/28 19:50
見知らぬ人たちがスペイン料理レストランに集められ、早いうちに、客たちの前で、店の主人が自分の首を切る。
そしてその後、さらにさらに異常な状態に・・・
客たちには、あやしい過去がある。
この店に客たちを招いたのはいったい誰なのか。

とくれば、クリスティの「そして誰もいなくなった」がまず思い浮かぶ。
しかし似ているわけではない。いや、似ているほうがどんなによかったか。
すっきりしないし、複雑だし、読みにくい。
理解不能。支離滅裂。いい加減にしてくれ、と叫びたくなる。

直木賞受賞作の青春ミステリー「流」がたいそう気に入ったので、なんでもいいから本著者の2作目を読んでやろうと思っていたら、このありさま。
東山氏の他の作品のタイトルをながめてみても、やはり支離滅裂感にあふれている。独特の世界観があるのか。タイトルを見ただけでも、心ときめくような作品はない。
とはいえ、二匹目のどじょうを探して、懲りずにあと2,3作は読んでみようとは思う。

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臣さん
ひとこと
あいかわらず読書のペースが遅い。かといってじっくり読んでいるわけではない。
好きな作家
採点傾向
平均点: 5.90点   採点数: 655件
採点の多い作家(TOP10)
ジョルジュ・シムノン(14)
松本清張(12)
東野圭吾(12)
アガサ・クリスティー(12)
今野敏(11)
アーサー・コナン・ドイル(11)
横溝正史(11)
連城三紀彦(10)
内田康夫(9)
評論・エッセイ(9)