皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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臣さん |
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平均点: 5.90点 | 書評数: 655件 |
No.435 | 7点 | ほおずき地獄- 近藤史恵 | 2014/12/01 11:56 |
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シリーズ第2弾。
今作も前作同様、場面、視点はころころ変わり、時系列も前後入り乱れていて、構成は複雑。 でも決して悪い意味ではなく、なかなかうまい手法で、決まっています。 短いなかに、旨みがぎっしり。作ったあとに十分に吟味して削り込んだのではないかと思います。 同心・千蔭が追う事件は、吉原のほおずき絡みの幽霊騒ぎと、茶屋の主人夫婦の殺害事件。さらに、不気味な白髪の夜鷹が登場する。この老婆が事件にどうかかわってくるのか。 そして驚きの真相が待ち受けています。この真相は、小説でも、現実の事件でもたまに見かけることがあります。 偏屈な千蔭を支えるのは、女形役者の巴之丞、花魁の梅が枝、千蔭の父・千次郎、小者の八十吉の常連メンバー。キャラも固まってきたようです。 今回はサイド・ストーリーとして千蔭の縁談話があり、これにもサプライズな落ちがつく。 作者のサービス精神でしょう。 とにかく作者の女性らしい文章テクニックが冴えわたった作品でした。 サイド・ストーリーを含めたストーリー・テラーぶりからすれば、女・東野圭吾といってもいいのではないか。 まだ2作しか読んでいないのに、ちょっとほめすぎかもしれませんw |
No.434 | 5点 | 真珠の首飾り- ロバート・ファン・ヒューリック | 2014/12/01 10:37 |
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ディー判事シリーズ第13作。
ディー判事は、真珠の首飾りの盗難事件の捜査依頼を受け、事件に巻き込まれながらも大活躍する。判事による捜査は、潜入捜査のような、医者になりすましてのお忍びの捜査です。 中編ほどの分量ですが、真珠盗難事件だけでなく、殺人事件と失踪事件とが絡ませてあります。個人的にもっとも興味深かったのは、ディー判事が最初に出会う老道士の正体です。これについては最後の最後に明かされます。 といった感じに多くの謎が盛り込んであり、しかも簡潔にまとめてあり、なかなかのものと言いたいところですが、知らないうちに解決にいたってしまうような感じがし、名推理というほどではないのではと思ったりもします。 真珠の隠し場所はお見事ではありましたが。 ということで本格ミステリーとしては、やや物足りませんが、冒険要素や中国の時代感を楽しめたので、時代娯楽小説としては上出来でしょう。 ただ、唐の時代背景が、はたしてこんな感じだったのかというのは疑問です。挿絵でごまかされているような気がしないでもありません。 時代物は国内ものも中国ものも好きなので、今後も楽しく読んでいけそうです。 ちなみに、近くの図書館の書架には数年は楽しめそうな、多数のHPBが並べてありました。 |
No.433 | 6点 | もっと厭な物語- アンソロジー(出版社編) | 2014/11/15 19:31 |
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『厭な物語』が好評だったとのこと。
今回は、国内からも夏目漱石、氷川瑯、草野唯雄、小川未明の4名が参戦。 外国作家は、エドワード・ケアリー、シャーロット・パーキンズ・ギルマン、アルフレッド・ノイズ、スタンリイ・エリン、クライヴ・バーカー、ルイス・バジェットの6名。計10作品です。 前回では後味の悪いものが中心かと感じたが、今編は文芸作品系、ホラー系、世にも奇妙な物語系、グロイ系、童話系など種々雑多で、厭さの質もいろいろだった。 漱石の『第三夜』、エリンの『ロバート』、未明の『赤い蝋燭と人魚』がいい雰囲気で(もちろん怖いが)好み。 草野の『皮を剥ぐ』はタイトルどおりで、『羊たちの沈黙』も真っ青という感じ。腰が引けるが、でも知らない間に夢中になっていた。バーカーの『恐怖の探求』は長めの、かなり厭な感じの一編だが、けっこう読みやすかったりする。これら2編は嫌がる人が多いだろう。 それでも、いろいろあるので、どれかには興味が持てるのではと思います。 それにしても、夏目漱石と草野唯雄が同じアンソロジーで同居するとはね。それが一番の驚きだった。 短期間で2冊読んだが、こういう作品集は、少し時間を空けて忘れたころに読んだほうがよかったようです。 それともうひとつ情報が。 本サイトでも何作か書評を書きましたが、草野氏は2008年に亡くなっていたようです。wikiも本書から情報を得たようです。 |
No.432 | 6点 | 猿若町捕物帳 巴之丞鹿の子- 近藤史恵 | 2014/11/10 09:24 |
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軽めのミッシング・リンク物。
物語はシンプル、文章は流麗。読み心地は抜群だった。 ミッシング・リンク物なのに、シンプルという語句はほめ言葉にならないだろうが、解説にもあるように、よけいなものを削ぎ落として、透きとおった感が出ているので、いい意味でシンプルにみえてしまう。 まず、登場人物に江戸時代らしいおおらかさ、のびのびさが出ているのが好ましい。 主人公の同心・玉島千蔭は堅物だが、えらそうな物言いはせず、おっとりしている。性格が正反対で、くだけた感じの親父・千次郎もまた良し。人物設定のうまさを感じる。 町娘のお袖と、侍の小吉との関係にも笑える。彼ら二人が登場する最初の数ページで、この話はほんとうにミステリーなのか、と首をかしげた。 千蔭と小吉の二人はキャラが似ているようにも思えたが、その起因するところが大違いなのがおもしろかった。 謎解きよりも、そんな人物描写がいちばんだった。 本格物でもあるが、仰天の真相が待ち受けているというほどでもないので、サプライズを期待する読者には物足らないかもしれない。派手なトリックはもちろんなし。地味で渋めのテクニックに目を凝らしながら読むのもいいだろう。 とにかく、人情物ではないにしても、江戸の人間模様を愉しむぐらいに考えて臨むほうが絶対に楽しめるだろう。 |
No.431 | 6点 | 厭な物語- アンソロジー(出版社編) | 2014/11/04 09:52 |
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クリスティー、ランズデールなど11名の作品を集めたアンソロジー。
基本的には、後味の悪さを狙った作品集だが、中途での厭さを感じられるのもある。 11編もあるので、読み進むうちに厭度は積み重なってくる。 ローレンス・ブロックの「言えないわけ」は、他の作品にくらべ物語自体がおもしろく、個人的にはベスト。なんとなく先を予想しやすいが、最後の最後は想像がつかなかった。この終わり方にはどう反応していいのだろうか、不気味さ、怖さが引き立ててあった。 次点は、カフカの「判決」と、リチャード・クリスチャン・マシスンの「赤」。「赤」は数ページの超短編でなんども読み返した。 ハイスミスの「すっぽん」は、少年視点でさらっと書かれているが、じつはかなり厭な感じがする。ルヴェルの「フェリシテ」は後味の悪さでは抜群の出来。 最悪な読後感を望んでいるという読書人の隠れた実態が、湊かなえの「告白」によって判明した。「告白」のこの効果は大きかった。 「告白」を読んだときはほんとうに驚いた。こんな厭な話でよく売れたな、と。てっきり、さわやかに締めくくるものと思っていただけに、衝撃だった。 本短編集でも満足感が得られたので、自分もごく普通の感性を持ち合わせていることがあらためてわかった。 「もっと厭な物語」という続編もあるので、それにも期待しよう。 |
No.430 | 5点 | 本所深川ふしぎ草紙- 宮部みゆき | 2014/10/27 09:42 |
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江戸人情物ミステリー。
サスペンスフルという感じはせず、あくまでも江戸の人情を楽しめるところが、「かまいたち」とちがう点。 収録作は、「片葉の芦」「送り提灯」「置いてけ堀」「落葉なしの椎」「馬鹿囃子」「足洗い屋敷」「消えずの行灯」の7編。 「片葉の芦」が味わい深くて良い。 ただ、江戸物にミステリーを掛け合わせると、やはり情緒や人情が勝ってしまって、ミステリーとして価値のあるレベルには到達しない。しかも短編なので、いつまでもこころに刻まれるかというと、そこまではいかない。 まあ、そういった不満点もあるが、短編時代小説としてみれば、標準以上の作品集であることにちがいはない。 |
No.429 | 7点 | シャーロック・ホームズの帰還- アーサー・コナン・ドイル | 2014/10/20 09:49 |
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ミステリー的な意味合いでいえば不足点も多いが、どれだけ印象に残るかという観点でみれば、秀作ぞろい。「冒険」に匹敵するかもしれない。
「空き家の冒険」。ワトスンとの再会シーンは堪らない。歴史に残る作品。ついに復活ののろしがあがった。 「踊る人形」。工夫があっていいのだが、こういうのは他の作家に任せておけばよいのに。 「美しき自転車乗り」。ドラマ版の記憶が頭に焼き付いているということもあるが、映像的な一面があってはずせない逸品。ただ、本格ファンには受けはイマイチかも。 「プライオリ学校」。しっかりと記憶に刻まれた作品。図面が載せてあったせいだろうか。ホームズもワトスンもよく頑張った、という印象。 「黒ピーター」。じつは思い出せない。典型作品との声もあるが、もしかして飛ばしてしまったのか(笑)。 「犯人は二人」。ちょっと意外な展開にびっくり。物語性は抜群。タイトルも良し。 「六つのナポレオン」。タイトルのみの記憶はあったが、数ページ読めば簡単にオチを思い出す。そこが残念。でも出来は良い。 「金縁の鼻眼鏡」。イチオシ作品。鼻眼鏡を見つけてすぐに自身の推理をスラスラと開示する。そこがホームズらしい。 「アベ農園」。依頼をいったん断った後、引き返すところがおもしろい。なんとなく雰囲気が好き。 「第二の汚点」。現代のミステリーにも通じる。タイトルもすこし今風。ホームズ物にはたまにたいそうな背景話(たとえばボヘミアの醜聞)がある。社会派絡み本格物とでもいうべきか。 新潮版なので以上の計10編。 やっぱりホームズ物は長編より短編だな、とつくづく感じた作品集だった。 |
No.428 | 8点 | 火車- 宮部みゆき | 2014/10/06 09:45 |
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失踪人の捜索といえば私立探偵の仕事。ただし、国内の推理小説で、現実感を重視すれば、『ゼロの焦点』のように当事者や一般人を捜索者に当てるのが自然です。本作ではその役回りを休職中の刑事にさせています。いいアイデアです。
警察組織を頼らずに捜索するので、その捜査は地道な聞き取りが中心です。読者は少しずつ解き明かされていく捜査過程を楽しむことができます。進展はゆっくりですが、それに合わせるようにじわじわとミステリー読書の興奮が湧き上がってきます。 これがいちばんの楽しみ方でしょう。盛り上がりなんて無くていい。あのラストも好みです。 本作についてはその他色々と感じるところはありますが、些細なことを1点だけ。 本間刑事の同僚の碇の初登場シーン。この場面は事件には関係ありませんが、この作家のうまさを象徴しているように思います。 宮部みゆき氏は社会派、時代物などなんでも書きますが、ひとことで言えばどういう作家なのでしょう。 ラストは大抵あっさり。謎解き解説はなし。だから本格派推理作家にはほど遠い。結局、ラストよりも中盤を重視したサスペンス作家なのでは、と思います。とはいえ本作は、主人公や読み手が感じるようなスリルはないので、狭い意味でのサスペンス作品とはいいがたいです。 と評価しましたが、じつは宮部長編は今回が初めて(映像ではけっこう観ているが)。本作のような力作を読むと短編をたよりなく感じます。むかし読んだ短編集は、内容はおろか表題すら忘れています。 久々の9点かと思ったが、それに及ばない何かを感じたので8点。 (追記) 本間の行動に執念が感じられたわりに、小説自体は社会派ミステリーとしての迫力に欠け、たんたんとしている。でもそれは、この小説の魅力でもあるようにも思う。 |
No.427 | 5点 | かまいたち- 宮部みゆき | 2014/09/26 09:31 |
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「かまいたち」「師走の客」「迷い鳩」「騒ぐ刀」の時代物サスペンス全4編。
サスペンスフルな「かまいたち」がいちばんの出来。町娘おようは勇気をもって、でもかなり危なかしく立ち回る。そこが惹かれるところ。想像どおりに予定調和な結末を迎えるが、それでも中盤があまりにもおもしろいので文句のつけようがない。 「師走の客」は最も短く、20ページ程度。いくら短くても、もっとうまく作れるはず、というのが読後すぐの感想だが、しばらく経つと気分よく場面がよみがえってくる。どうも映像的に記憶にきざまれてしまったようだ。絵本にすればまちがいなく売れるだろう。 残りの2編は、町娘お初のシリーズ物。超能力ジュブナイル作品といったらいいだろう。「迷い鳩」にはタイトルどおり鳩が登場し、「騒ぐ刀」には犬が登場する。動物系でもあり楽しく読める。 考えてみたら本書は動物シリーズなのか。「師走の客」は十二支(とくにヘビ)と犬、「かまいたち」はイタチ。う~ん、ちと苦しいか。 やはり、ごった煮かな。だから、ミステリーを期待しても、童話を期待しても、ファンタジーを期待しても、みな適度な裏切られ感がある。そこが残念なところだが、個々の出来としては標準といえる。 |
No.426 | 6点 | すべてがFになる- 森博嗣 | 2014/09/19 09:57 |
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理系ミステリーの走りだそうですが、このジャンル名が、すべての理系人を満足させる呼び方だとは思いません。コンピュータ・テクノロジーの分野は論理の世界なので、理系、文系で分けられないジャンルだと思います。
コンピュータ・テクノロジーは比較的好きな分野であるため、すらすらと読めましたが、そういった読みやすさを無視して、ミステリー性、物語性などで総合的に評価すれば、標準よりやや上かなといったところです。 それに前半のあの事象は、大筋ではあっても真相を予想させるもので、これはいかがなものかと思います。もちろん、微細な点は常人が想像できるような単純なものではなく、容易にたどり着けるものではありません。そのへんが狙いだったのでしょう。仕掛けはよく考えられています。 それと、嗜好の問題ですが、犀川のキャラクタがいまだに肌に合いません。 我を通したり、夢中になったりするところはあるのに、やる気満々という感じではない。適度にオタクで、適度にニヒルで、適度に熱意もあれば、適度に頑張りもする、といったキャラは、あまりにも中途半端です。 虚無丸出しで引きこもりな、コンピュータ・オタク探偵ぐらいに極端なほうがよかったのではとも思いましたが、それも読みたくないですね(笑)。 それと、細かいことですが気になっったので。 エネルギィ、キャラクタ、タイプライタなど、カタカナ語句の最後の長音符をあえて使わない、こだわり表記。でも、「メジャ」はひどい。そのくせ、「ヘリコプター」や「タワー」というのはある。どういう基準なのか? いろいろとけちをつけましたが、いままで読んだ同シリーズではいちおうベストです。 本書を後回しにして正解でした。最初に読んでいたら、その後、ガッカリ、ガックリの連続になっていたかもしれません。 |
No.425 | 6点 | 原始の骨- アーロン・エルキンズ | 2014/09/10 10:10 |
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今作の謎は、ジブラルタル(海峡ではなく土地)で起きた殺人事件や、ギデオン自身に降りかかってきた殺人未遂事件 等々。けっこう盛り沢山です。
でも、謎解きがイマイチです。手も足も出なかったということもありますが、すっきりしません。 推理小説としての際立ったうまさは見出せませんでしたが、提起される謎自体はなかなか魅力的。それに、考古学とうまく噛み合っていることにも満足しました。 ネアンデルタール人と現生人類との混血を示唆する骨の謎や、その他開示される薀蓄もなんとも興味深い。事件の背景となるテーマは、いままで読んだなかではいちばんでした。 なお、本作から得た情報ではありませんが、ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスによって滅ぼされたという説があるようです。絶滅理由にはいろいろと説があって、いまだ謎です。辺境の地に今も生息しているという小説もありましたが、共存していたらどうなっていたでしょう。 本シリーズは安心して読めます。 本を前にしてのワクワク感は超本格物にくらべれば落ちますが、読みやすい点は一級品です。旅先でのジュリーを交えての軽めの(軽すぎはしない)会話によるものなのでしょうか。 個人的には海外版トラベル・ミステリーという位置づけです。 |
No.424 | 6点 | 探偵ガリレオ- 東野圭吾 | 2014/09/01 13:27 |
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読者が謎解きに挑戦することを前提とした作品ではないし、種明かしされた後でも、そうだったのかと唸るような作品でもない、ということを知って臨めば、マイナス点も少なく、理系、文系に関係なく楽しめるはずだが。
実は本書のような理系トリックはそれほど好きではない。理系のくせにわからないから、というのが本音だが。 でも、この短編集は、理系トリックに徹底的にこだわってチャレンジしたことに意義がある。作者の自己満足も多少はあるかもしれないが、個人的には、東野さん、よくやった、と賞賛している。 それに、捜査の過程を十分に描写して、犯人当てをする余地を残してくれているのはうれしい。伏線を見つけて楽しむ方法もあれば、キャラを楽しむ方法だってある。理系短編でこれだけの楽しみ方ができるなんてすごいこと。だから、理系ミステリーだからという理由だけで評価を下げるつもりはない。 ということで、評価は標準超え。 もしかして、トリックは理解できないながらも、潜在的な理系の血が騒いだのかもしれない(笑)。 出来は多少の差がある。『離脱る』はミステリーとしてはいまひとつなのだが、けっこう好みだ。トリック(とはいえないが)もわかりやすくていい。 最後に 理系ミステリー、理系トリックという用語が一般化しているが、個人的には、自然科学(系)ミステリー、自然科学(系)トリックと呼びたい。ただ、「自然科学ミステリー」だと、「〇〇の科学の謎を探る」みたいな、NHKのドキュメンタリー番組と勘違いされそう。 |
No.423 | 4点 | 汝の名- 明野照葉 | 2014/08/28 09:47 |
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主たる登場人物は、陶子と久恵の二人。
陶子は人材派遣会社の経営者。見た目が派手で、やや気分屋のところがある。久恵は精神的に弱く、人間関係のもつれで会社を辞め、陶子のマンションに居候し、陶子に仕え、家事全般をこなす。そんな二人だから、家の中でも上下関係ができ、いわばサド、マゾの間柄になっている。そして、その関係が徐々に変化していく・・・。 途中までは読みやすいも退屈な感もある。中ほどからは、読み手が感じられる恐怖感はほどほどとしても、サスペンスでうまく引っ張りながら読ませてくれる。 本サイトでは好まれないタイプの小説なのだろうが、個人的には守備範囲に入るし、夢中にもなった。 ただ不満も多い。 陶子が経営する人材派遣会社は、依頼人を見栄えよくするための恋人役や、老人が家族旅行を装うための孫娘役などの演技者を派遣する、かなり胡散臭い派遣業。この設定に意味があるのだろうか。演技者と依頼人との間でやがて心が通じ合うようになるラヴ・コメディの類だったらいいのだが。 中途に明かされるサプライズ(というほどでもないが)は、ほとんど意味がなく、なくてもいい。でもこれが売りのようでもある。最後のオチも読みやすい。 女性二人は見かけも性格も対照的でわかりやすく、そこが読者を惹きつけてくれるが、男性たちは、誰が誰だか記憶にとどめるのも困難。男はどうでもいいと思って描いたのか。 で、結論は。 読んでいてその場は楽しめるが、ただそれだけ。中短編で十分。 別々の事象を強引に結びつけ、さらに枝葉をつけて長編のプロットを構築したという感じがした。 |
No.422 | 5点 | ローマ帽子の秘密- エラリイ・クイーン | 2014/08/20 13:29 |
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殺人は1件のみ、ポイントは帽子のみ。これだけのことに、この長さと登場人物の多さには辟易します。
作者は、読者に、純粋に、フェアな謎解きロジックだけを楽しんでもらおうと考えたのでしょう。万人に楽しんでもらおうとは一切考えなかったのでは、と思います。本作は、エンターテイメント小説としての、読者を喜ばせるためのプロットづくりができていないようです。 変な見方かもしれませんが、プロットが不十分なまま自己満足的に書き上げた純文学との共通性を感じます。 本格推理小説を目指して書いたデビュー作なんて、こんなものなのでしょうか。有栖川氏の「月光ゲーム」を読んだときも同じような印象を受けました。 もちろん、謎解きだけを目的に、地道にじっくりと読むファンには好まれることにはちがいありません。それに本作には、劇場という衆人環視の中での殺人という、題材の魅力があることもたしかです。 エラリー・クイーンといえども、全作が名作というわけにはいかないようですが、本作も魅力がゼロなわけではないし、謎解きはそれなりの出来だし、なんといっても歴史的意義があるから、エンターテイメント小説(ミステリー)の評価としては、「標準作品」と位置づけていいでしょう。 |
No.421 | 3点 | カリオストロの復讐- モーリス・ルブラン | 2014/08/08 09:41 |
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有名な『カリオストロ伯爵夫人』と勘違いして手にしました。
ルパンは怪盗ではなく探偵役なのか、と読み始めで思い、さらに読み進むとそうでもなく、巻きこまれ型では、という流れになってきます。なんか変だなぁと思いつつも読み進みますが、ついに不安になり、いろいろ調べてみると・・・ 本作は、『カリオストロ伯爵夫人』を前提とした後日談のような位置づけのようです。しかも、シリーズ後半の作品で、いままでのシリーズ登場人物も絡んでくるようです。 ルパン・シリーズというのは、シリーズの進行とともに、主人公ルパンが年を重ね成長してゆくスタイルをとっているようで、シリーズそのものがルパンのライフ・ストーリーとなっているようです。 といったシリーズなだけに、『怪盗紳士ルパン』『奇岩城』の2作を読んだだけで本書を手にとったのは、馬鹿げた選択だったのかもしれません。 ルパンに深くかかわりのある人物が殺人事件に巻き込まれ、そのためルパン自身も渦中の人となるという設定で、その裏には実は・・・ まあ、単体でも面白そうな気もしますが・・・ とにかく一連の作品を読んでから、もう一度読んでみましょう。 ただ、そうはいっても冷静に考えてみて、本作がそれほど楽しめる代物かというと、そうではなく、ストーリー・ライン自体がイマイチかな・・・ ファンがルパンの後半生の一部を楽しむだけの内容なのでは・・・ いや作品には罪はない!? 評点は本作を選んだ自分自身に対するものです。 |
No.420 | 6点 | 現場に臨め- アンソロジー(国内編集者) | 2014/08/04 09:35 |
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蒼井上鷹、安東能明、池井戸潤、逢坂剛、大沢在昌、今野敏、佐野洋、柴田哲孝、曽根圭介、長岡弘樹、新津きよみ、誉田哲也、薬丸岳、横山秀夫、連城三紀彦。
総勢15名のアンソロジー。うち8名が未読作家だった。 初めての作家では安東、逢坂、柴田、薬丸の作品がよかった。久しく読んでいなかった大沢にはわくわくした。佐野洋の「爪占い」は光っていた。長岡の「文字板」は技巧的。 みな2,30ページという短さがよかったし、多くの作品が警察小説であることにも満足した。 本書は、「小さな異邦人」を図書館に予約しようとした際に操作を誤って予約を入れたもの。キーワードを入力ミスしたためかと思い、とくに奇異には感じなかったが、今回本書を借り目次を見て納得。「小さな・・・」が所収されていたのだ。 予約ミスに気づいた時点でその原因を究明しないなんて、ミステリー読みのくせにまだまだ甘い。 それにしても、数年前の発行なのに5,6人の待ちがあったのには驚いた。連城氏最後の短編集の表題作が収録されていることによるものか、それとも私同様、予約ミスによるものなのだろうか。ちなみに、「小さな・・・」は複数冊の所蔵があり、すぐに回ってきた。 |
No.419 | 7点 | 臨場- 横山秀夫 | 2014/07/27 15:01 |
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横山氏の本格系作品集の中では出色の出来栄えです。どの作品集も軒並み良しと言えますが、とくに本短編集は、いかにも本格という香りがする点がさらに良しです。ただ、この作家の場合、個人的には本格系作家というより、短編小説の名手というほめ言葉がまず思い浮かんできます。
「眼前の密室」は結末が意外すぎるとも言えるが、良作にはちがいない。テレビ版も面白かった。 個人的名作は、「鉢植えの女」。こういう小手先っぽいのは本来好きではないが、トリックがストーリーに溶け込んでいるのが良い。短編にしっかりとしたサブ・ストーリーが盛り込んであるのにも関心した。 「餞」は心温まる作品。こういうのをさりげなく挿入するところが心憎い。 「声」はとても印象に残る作品。この真相(実は藪の中)を現場の状況から判断して結論を出す倉石は、やはり超人。 「真夜中の調書」。倉石は天才か?ちょっとやりすぎなのでは?話はやや湿っぽい。 「黒星」。倉石が人格者でもあることを証明した作品。 最初の「赤い名刺」と、最後の「十七年蝉」。工夫はあるが、出来はごく普通。 映像版も、また良しです。テレビならではの一般受けしそうなキャラクタ作りがされています。原作のほうが抑え気味とはいうものの、倉石は強烈です。全般に短編小説ならではのクールな雰囲気が漂っていますが、ほろっとさせる作品を適度にバランスよく配合するなど、作品ごとに変化がつけてあり、読者の惹きつけ方は絶妙です。 ドラマのほうは回を重ねるごとに、お涙頂戴指数が徐々に度を越してきた感があります。倉石の潤んだ目が臭く感じられてきます。ちょっと芝居がかりすぎていたようです。 |
No.418 | 5点 | 消えずの行灯 本所七不思議捕物帖- 誉田龍一 | 2014/07/18 10:01 |
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江戸時代物連作短編集。タイトルどおり、7編収録。
主人公はワトスン役の仁杉潤之助と、ホームズ役の榎本釜次郎。二人は御家人の子息で、蘭学を学ぶ学生の身分。 さらに、腕の立つ今井や、噺家の次郎吉たちも素人捜査に加わる。その他、同心や潤之助の姉は謎解きの準レギュラーメンバーとして登場する。 事件はおもに殺しだが、たいした謎解きはない。ただ、科学的なからくりが多く、アイデアとしては評価できる。表題作は小説推理新人賞を受賞している。殺しを扱ってはいるが、江戸物らしいほのぼのさがあり、その事件とのアンマッチ感も魅力である。 潤之助を除く常連メンバーもゲスト陣も、実在の人物であることが途中で明かされ、最後にはその後のことも紹介される。そこは面白いところ。時代物なら実在の人物でも好きなことを書けるので、おそらく時代作家さんたちは、想像をふくらませて楽しみながら書いているのでしょう。 個人的には、こういう連作短編はパターン化されていて飽きがくるので、たまにしか読みたいとは思いませんが、一般的には喜ばれるのではと思います。まずまずの作品集といえるのでは。 |
No.417 | 6点 | リガの犬たち- ヘニング・マンケル | 2014/07/14 09:55 |
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シリーズ第2弾。
スウェーデンの南部の海岸に救命ボートが漂着した。そのボートの中には二人の男の死体が横たわっていた。 この事件を田舎町のイースタ署のヴァランダーたちが捜査する。捜査が進むにつれ、二人が東欧の人間であることが判明する。そしてその後、外務省の役人や、ラトヴィアの刑事がイースタへやってきて、国際犯罪捜査物らしくなるが。 これからが予想もつかぬ展開となる。 それからのヴァランダーは、まるでハードボイルドか、スパイスリラーか、冒険大活劇の主人公のよう。これが警察ミステリーとはとてもいえない。 ボートの謎の死体から始まるわりには謎解き要素は少ないが、ストーリーにいろいろ変転があって楽しめた。 主人公のクルト・ヴァランダーには臆病な面もあれば、勇敢な面もある。勇敢というより無鉄砲という感じだろうか。敵に一人で立ち向かっていく姿はけっこうシリアスなんだけど、気弱な面が顔を出すからか、可笑しくも感じてしまう。とてつもなく恰好の悪い場面もあったりする。 本作での彼の行動は警察官の正義感によるものではなく、プライベートな理由によるもの。滅茶苦茶なんだけど、そんな彼の行動や内面がこの小説、このシリーズの魅力となっているのでしょう。 |
No.416 | 6点 | 小さな異邦人- 連城三紀彦 | 2014/06/26 14:07 |
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『指飾り』『無人駅』『蘭が枯れるまで』『冬薔薇』『風の誤算』『白雨『さい涯てまで』『小さな異邦人』の8作。
人間同士とくに男女間の愛憎を軸にしてミステリー仕立てにした作品群、といったところだろううか。 『蘭が枯れるまで』はシニカルなラストが冴えていた。 『白雨』には、いつも以上の強烈な反転で度肝を抜かれた。ラストの畳みかけには参った。 そして表題作。こんな誘拐もあったのか。あの短さでこの内容、ほんとうに充実している。それにしても、8人の子どもたちを一人で育てるなんて、大変だなぁ。 恋愛小説家に見合った、ミステリー要素のすくない小説のように見せながらも、あのプロット、あのラスト。読み始めでは薄味に感じたが、やっぱりあざやかなミステリーだった。 ただ、総じて〇だが△があるのもたしか。 シュールすぎるのでは、という気もした。この作者なら、言わずもがななのだが。 |