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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2879件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.919 6点 「不要」の刻印- 本岡類 2015/12/29 17:54
(ネタバレなしです) 2001年発表の水無瀬翔シリーズ第4作の本格派推理小説です。「意外性、派手さ、論理性などが過度なほどに重視される新本格ミステリーに疲れを感じている」読者向けと作者がコメントしているように、誘拐を扱いながらもサスペンスは控え目だし、中盤では「重量物に潰されて圧死」という珍しい謎が登場しますが「飛び鐘伝説殺人事件」(1986年)と比べると演出は随分と抑制されています。作者は「テーマからプロット、トリックまで全てが上手くいきました」と相当な自信をもって送り出していますが、本格派推理小説としては本書が最後と思われ、小説家としても非ミステリーの「愛の挨拶」(2007年)を最後に断筆して、再び小説作品が発表されるまで2023年まで待たなくてはなりませんでした。

No.918 4点 デス・コレクターズ- ジャック・カーリイ 2015/12/28 22:19
(ネタバレなしです) 米国のジャック・カーリイはジェフリー・ディーヴァーの後継者のように紹介されていたし、デビュー作のカーソン・ライダーシリーズ第1作である「百番目の男」(2004年)(私は未読です)もサイコスリラーと警察小説のジャンルミックスらしかったので本格派推理小説ばかり偏愛している私には関心外の作家だったのですが、2005年発表のカーソン・ライダーシリーズ第2作は本格ミステリとして評価、それも傑作として評価されているようなので読んでみました。文春文庫版の登場人物リストには3人もの「連続殺人犯」が載っていますが既に1人は死亡、2人は拘束されていて、本書で起きた連続殺人の犯人は終盤まで素性を隠しています。巻末解説では周到な伏線のことを誉めていますが、犯人が緻密に計画していることは丁寧に説明してはいても犯人を特定する手がかりについては説明不十分です。正体を現した犯人の異常な本性の描写など読ませどころはたっぷりあるのですが、私が期待していた「本格」とは異なる作品でした。これは私の読み方がいけなかったようです。

No.917 7点 ミス・エリオット事件- バロネス・オルツィ 2015/12/27 06:19
(ネタバレなしです) バロネス・オルツィ(1865-1947)はハンガリーの貴族出身ですが使用人の暴動によって一家は祖国を離れて英国に帰化したという数奇な経歴の持ち主です。なおバロネスは名前ではなく「男爵夫人」または「女男爵」という肩書きのことで、オルツィの場合は夫が民間出身者なので女男爵と訳すのが正しいです。英国では歴史小説家として名高く、特に「紅はこべ」(1905年)は後に映画化もされ次々に続編が書かれたほどヒットしました。日本では隅の老人シリーズを書いたミステリー作家として有名で、何度も日本独自の短編集が出版されていますが作品社版は3つの短編集全てと単行本未収録だった「グラスゴーの謎」(1901年)のシリーズ全38作を収めたまさに完全全集版です。値段は短編集3冊分どころか6冊分ぐらいしてしまうのですが(笑)、資料的価値は非常に高いです。第一短編集である「ミス・エリオット事件」(1905年)は第二短編集である「隅の老人」(1909年)に収められた1901年から1902年の作品よりも後年の、1904年から1905年にかけて発表された12作が収められています。「隅の老人」の作品と比べると若干ながら登場人物が増えてプロットも複雑になり謎解き小説としての進化が確実に見られます。「<ノヴェルティ劇場>事件」で4人の容疑者から犯人当て推理を試みているのはその一例です。「トレマーン事件」や「<バーンスデール>屋敷の悲劇」もお勧めです。

No.916 6点 悪夢の優勝カップ- アーロン&シャーロット・エルキンズ 2015/12/27 05:45
(ネタバレなしです) 1995年発表のリー・オフステッドシリーズ第2作です。前作と比べるとミステリーとしての面白さは格段に向上しており、凄いトリックではないものの雷による感電死のような殺人という謎が非常に珍しいです。リーの探偵ぶりも進歩しており、警察をリードして謎解きしているわけではありませんがとっさの閃きで犯人を指摘する場面は鮮やかな印象を残します。ゴルフ場面やロマンス場面もほどほどに楽しめました。この「ほどほどに」というのが個人的には重要でして、ミステリーを押しのけてはいないのがいいですね。

No.915 5点 木曜日ラビは外出した- ハリイ・ケメルマン 2015/12/27 05:34
(ネタバレなしです) 1978年発表のラビ・スモールシリーズ第7作の本格派推理小説で、これで曜日をタイトルに使った作品は勢ぞろいです。なお本書以降もケメルマンはタイトルに「Day」を使ったシリーズ作品をさらに4作書き上げました。「金曜日ラビは寝坊した」(1964年)と同じく、謎解き伏線が見え見えで人物関係が複雑な割には犯人が当てやすい作品だと思います(私が当てられたかは内緒)。

No.914 5点 間にあった殺人- エリザベス・フェラーズ 2015/12/27 05:16
(ネタバレなしです) 1953年発表の本格派推理小説です。フランスのニースでのパーティへ招待された男女が何かの企みがあるのではないかと疑いつつもサリイにある招待者の家へ集合したところへ殺人事件が起きるという展開です(ニースへ出発とはなりません)。特定の探偵役をおかず(警察は登場しますが直接描写は少ない)、登場人物の疑心暗鬼ぶりが丁寧に描かれてはいるのですが謎解きがいまひとつ盛り上がりません。ハヤカワポケットブック版の翻訳が半世紀以上前の古い翻訳であることも読者にとっては厳しいでしょう。新訳ならじわじわとサスペンスが増していったかもしれませんが。

No.913 5点 七面鳥殺人事件- クレイグ・ライス 2015/12/27 01:24
(ネタバレなしです) 1943年発表のビンゴ・リグスとハンサム・クザックのコンビシリーズ第2作の本格派推理小説です。この作者は登場人物が多くても描き分けが上手いので読者にあまり難解さを感じさせないのですが、本書の場合は素性の知れない人物が多いためか人物整理が大変で結構読みにくかったです(私の読んだハヤカワポケット版の翻訳が半世紀以上も前の古い訳であることも理由の一つですが)。場当たり的なプロットのようですが最後はしっかり謎解きして締めているところはさすがです。

No.912 4点 バレンタインは雪あそび- レスリー・メイヤー 2015/12/27 01:12
(ネタバレなしです) 1999年発表のルーシー・ストーンシリーズ第5作のコージー派ミステリーです。残念ながら推理要素はほとんどないまま行き当たりばったりで解決されてしまいます。しかし語り口は安定しており、派手な内容ではありませんが安心してすらすら楽しく読める作品です(これが次作の「史上最悪のクリスマスクッキー交換会」(1999年)になると意外とダークな描写があるのですが)。

No.911 6点 青の殺人- エラリイ・クイーン 2015/12/27 00:49
(ネタバレなしです) エラリー・クイーン名義で1972年に発表されたマイカ・マッコールシリーズ第3作です。真正のクイーンであるフレデリック・ダネイとマンフレッド・リーのコンビではなくゴーストライターによる作品ですが、本書のライターは短編ミステリーの名手として名高いエドワード・D・ホックであることが注目に値します(ちなみに他のマイカ・マッコールシリーズは別の作家による代作です)。ホックらしくないのは(クイーンらしくもありませんが)ハードボイルド要素が強いことです。濃厚な描写ではありませんが暴力シーンやベッドシーンもあります。とはいえ最後は本格派推理小説としてきちんと推理で犯人を見つけており(巧妙に張られた伏線があります)、「謎解き」ハードボイルドと分類できそうな出来栄えです。

No.910 4点 夏のレプリカ- 森博嗣 2015/12/26 16:47
(ネタバレなしです) 1998年発表のS&Mシリーズ第7作ですがこれまでのシリーズのお約束事(というよりこちらの勝手な期待ですが)からの脱却を試みたようなところがあります。例えば初めて不可能犯罪を扱わなかったこと、犀川でも萌絵でもない人物を主人公にしたこと、もやもやを残す幕切れにしたことなどです。個人的にはちょっと変化させ過ぎかなという気がします。せめて本格派推理小説として謎解きは明快な結末にしてほしかったです。

No.909 6点 ヨギ ガンジーの妖術- 泡坂妻夫 2015/12/26 16:38
(ネタバレなしです) 1980年から1984年にかけて発表されたヨギ・ガンジーシリーズ短編7作品をまとめて1984年に出版された第一短編集です。シリーズ短編はあと数作あるらしいので再版されるならそれも収めてほしいですね。ヨギ・ガンジーは怪しい雰囲気ぷんぷんではありますが、その一方で自ら演じる妖術(?)をすぐに「これはトリックです」と明かすなどどこか憎めない人物で、取り巻きが増えていくのも納得です。迷探偵と紹介されることも多いようですが本書では結構まともな謎解きをしていて普通に名探偵の資格十分です。事件は単純、トリックも単純ながらひっくり返し方の鮮やかさが印象的な「王の恵み」と真相は古典的ながら謎の演出が巧妙な「ヨギ・ガンジーの予言」が個人的には好みです。

No.908 5点 鍵孔のない扉- 鮎川哲也 2015/12/26 16:22
(ネタバレなしです) 1969年発表の鬼貫警部シリーズ第12作のアリバイ崩し本格派推理小説で、文献によると本書から時刻表が載らなくなったそうです。「最終章に至る前に」読者が真相にたどりつけるようフェアプレーで謎解き挑戦しているようですが、犯人当てならまぐれ当たりもあるでしょうがアリバイトリック破りはそうもいかず、難易度は高いと思います(作者側からすればまぐれ当たりなんか認めたくないかもしれませんが)。伏線は丁寧に張ってあり、複雑で緻密なトリックはアリバイ崩し好きの読者にはたまらない魅力でしょうが、そうでない私にはあまり楽しめませんでした。

No.907 6点 コージー作家の秘密の原稿- G・M・マリエット 2015/12/26 15:50
(ネタバレなしです) G・M・マリエットはイギリス出身の米国女性作家で(日本で暮らしたこともあるそうです)、現在もイギリスと米国を行ったり来たりの生活をしているようです。2008年発表の本書(舞台はイギリスです)がミステリーデビュー作です。タイトルから謎解きが薄味のコージー派かと思いましたが(英語原題は「Death of a Cozy Writer」です)、さにあらず。事件が発生するまではやや冗長ですが探偵役のセント・ジャスト警部が登場してからはしっかりした謎解きプロットです。推理はそれほど論理的ではありませんが古典的な本格派推理小説の雰囲気を楽しめました。

No.906 3点 プラムプディングが慌てている- ジョアン・フルーク 2015/12/26 11:53
(ネタバレなしです) 2009年発表のハンナ・スウェンセンシリーズ第12作のコージー派ミステリーです。第1章でハンナが最後の訪問者となるはずのところに殺人者が被害者を訪問する場面が描かれます。第2章からは時間をさかのぼって犯罪に至るまでの色々な出来事が描かれています。しかしその大半はハンナ日常生活がらみのもので、これが中盤まで延々と続くのでミステリー好き読者に訴えるものがほとんどありません。殺人が起きてからも謎解きは盛り上がりを欠いており、ハンナとシリーズキャラの熱心なファン読者以外にはお勧めしにくい内容です。

No.905 5点 祟り火の一族- 小島正樹 2015/12/22 08:51
(ネタバレなしです) 2012年発表の海老原浩一シリーズ第5作です(島田荘司との共著「天に還る舟」(2005年)はカウントしていません)。半端ない謎が詰め込まれていて「やり過ぎの小島」らしさが十分に発揮されています。雰囲気づくりには手が回りきっていないし、感心できない謎解きもあってそういうところを批判することもありだとは思いますが、双葉文庫版で400ページ少々のボリュームにこれだけ謎がてんこ盛りサービスされた作品を読めた喜びの方が勝りました。

No.904 5点 狂い壁狂い窓- 竹本健治 2015/12/21 17:48
(ネタバレなしです) 1983年発表の長編ミステリー第5作で、「将棋殺人事件」(1981年)、「トランプ殺人事件」(1981年)と共に狂気三部作を構成しています。ホラー小説と本格派推理小説のジャンルミックス型ですがどちらかと言えば後者寄りでしょうか。作中人物が述べているように「じめじめした薄暗さ」が全編を覆っています。前半は怪現象のグロテスク描写が多いですが、やはり作中人物が「この家は狂気を招き寄せる」と述べるとおり、進行していく狂気描写が後半は増えていきます。最後は探偵役が推理で犯人を指摘する本格派推理小説として着地するのですが、巻末の作者コメントにあるように「相当濃い作品に仕上がっている」ので好き嫌いはかなり分かれそうです。

No.903 4点 寝台特急「あさかぜ」殺人事件- 草川隆 2015/12/21 17:25
(ネタバレなしです) 1988年に発表された本書は地味で特徴のないトラベルミステリーに強引に密室の謎を加えたような印象の作品でした。「個室寝台殺人事件」(1986年)と探偵役が共通していますが個性の乏しさは改善されておらず、しかも女性奇術師を捜査に参加させる経緯が不自然です。専門家の意見を求めるにしてももっとそれなりの名声や地位を築きあげている人を探すべきではないでしょうか。これでは公私混同でしょう。また密室の謎解きも手掛かりに基づく推理ではなく、こうすれば密室でなくなるという可能性の一つを示唆しているにしか感じられません。これで解決では本格派推理小説の謎解きとしては物足りないです。

No.902 4点 プーアール茶で謎解きを- オヴィディア・ユウ 2015/12/20 16:45
(ネタバレなしです) シンガポール女性作家のミステリー作品が日本で翻訳紹介されるとは驚きました。舞台劇の脚本を30作以上書いているそうですがミステリーは2013年発表の本書がデビュー作になります。米国のコージー派的なところもありますがそれほど回り道をせずに謎解きを重点に置いたプロットになっているのは好印象です。とはいえどのような推理で犯人にたどりついたのかが説明不十分なのが残念です。それにしてもアンティ・リーと犯人との最後の対決は、拷問風なところがあってちょっと不気味でしたね。

No.901 2点 パスカルの鼻は長かった- 小峰元 2015/12/17 09:47
(ネタバレなしです) 1975年発表の長編第4作で高校生向けの雑誌に掲載されています。主人公が小峰元ですが別に作者の分身というわけではなく、高校3年生の設定です。エキセントリックな人物個性が読み手の心にしみじみと伝わるかは微妙ですけれど、勢いのある言動は確かに若さを感じます。しかしプロットが謎解きメインでない上に、何度もパスカルの原理が謎解きに役立ちそうなことが示唆されるのですが結局十分な説明もされずに終わってしまい、推理小説としては出来が悪いとしか言えません。青春推理小説でなく青春小説と割り切って読んだ方がいいかも。

No.900 5点 消えた修道士- ピーター・トレメイン 2015/12/12 22:27
(ネタバレなしです) 1999年発表の修道女フィデルマシリーズ第7長編です。このシリーズは本格派推理小説と冒険スリラーのジャンルミックス型であることが多いのですが本書の場合は後者の要素の方が多いように思います。2人の国王の会見で起こった同時暗殺未遂事件で幕を開け、その黒幕(実行犯はその場で殺されます)探しにフィデルマが乗りだすというプロットです。ストーリーテリングの見事さは相変わらずで、手掛かりを求めての旅先で起きる様々な出来事から最後は暗殺未遂事件の起きたキャシェルに戻り、関係者のほとんどが集まった法廷でのフィデルマによる謎解きまで、創元推理文庫版で上下巻合わせて650ページを越す分量も気にならずすらすらと読めました。この法廷場面がフィデルマのほとんど独壇場となっていて法廷論争としては物足りないのが(相手方がやや小物でした)ちょっと惜しいところです。また第12章で起こった殺人事件(被害者の名前は最後までわかりません)の真相が全体の謎解きの中で蛇足的な扱いだったのも本格派の謎解きを期待していた自分にとってはやはり残念でした。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー、D・M・ディヴ...
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2879件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(83)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(43)
F・W・クロフツ(32)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(27)
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