皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2814件 |
No.854 | 5点 | 孤独なアスファルト- 藤村正太 | 2015/11/04 05:29 |
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(ネタバレなしです) 藤村正太(1924-1977)は川島郁夫名義で1949年から中短編を発表していましたが、最初の長編作品が藤村正太名義で1963年に発表された本書です。病気療養や経済的理由による断筆もあって残された作品は多くないようです。本書は発表当時、「社会派的な味を持たせた本格推理小説」と評価されたそうですが個人的には社会派要素の方が濃いように感じました。地方出身者の田代省吾が東京で味わう孤独感がよく描けています。もっとも田代がハイライトされるのは序盤と終盤で、中盤は来宮警部の足を使った地道な捜査描写で占められています。丁寧でリアリティーのある捜査と推理で作品としての完成度は高いですが、読者が自力で犯人当てにトライできる謎解きにできなかったのは社会派推理小説全盛の時代の作品ゆえやむを得なかったのでしょう。良かれと思ってしたことが苦い結末になってしまう締めくくりが印象的です。 |
No.853 | 6点 | やぶにらみの時計- 都筑道夫 | 2015/11/03 23:59 |
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(ネタバレなしです) 本格派推理小説、ホラー、SF、ハードボイルド、時代小説と様々なジャンルの作品を書き、海外ミステリーの翻訳や評論まで手がけた都筑道夫(1929-2003)は器用さだけでなくモダンなセンスを持っていたと評価されています。1940年代後半から数多くの短編を書いていたそうですが長編作品は1961年発表の本書が第1作となります。国内ミステリーで初めて2人称形式を採用した実験性で知られています。前半は主人公(きみ)の記憶喪失(正確には主人公の記憶が人々から次々に否定される)を扱ったスリラー小説風なプロットですが、中盤での海外ミステリーを引用しながらの推理場面は本格派推理小説らしさを感じさせます。起こった犯罪の謎解きではなく犯罪を阻止できるかに物語の興味は移り、最後はハードボイルド的な虚しさを漂わせる結末を迎えるなど多面的な要素を持った独創性が光ります。作者の才覚を十分に示しています。 |
No.852 | 5点 | ラリーレースの惨劇- ジョン・ロード | 2015/11/03 22:49 |
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(ネタバレなしです) 世界3大ラリーの1つであるウェールズ・ラリーGBの前身であるRACラリーの第1回大会が1932年に開催されたのに触発されて書いたとされる、1933年発表のプリストリー博士シリーズ第15作の本格派推理小説です。地名や車名の一部に架空の名前を使っているのはモータースポーツ業界から苦情を受けないようにする対策でしょうか(笑)。論創社版の巻末解説でコメントされているようにレース描写は序盤のみで、ほとんどが地道な捜査描写に終始するプロットになっているのはこの作者らしいです。犯人の正体は終盤まで伏せられてはいますが犯人当てとして楽しめる内容ではなく、レース中の事故死(と警察は当初判断します)はどのようにして発生したのかというハウダニットの謎解きの方が目立ちます。ただ現代の自動車とは構造の異なる部分の多いクラシックカーですので、このトリックも既に骨董品クラスです。発表当時はどのように受け止められたのでしょうか、気になります。 |
No.851 | 4点 | ウェディングケーキにご用心- ジェン・マッキンリー | 2015/11/03 15:02 |
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(ネタバレなしです) 米国の女性作家ジェン・マッキンリーが2009年に発表したカップケーキ・ベーカリーシリーズの第1作であるコージー派ミステリーです。スイーツが登場するコージー派といえばジョアン・フルークやリヴィア・J・ウォッシュバーンがいますので比べてみるのも一興かと思います。当然のように本書でも巻末にケーキのレシピが載っています。さて肝心の中身の方ですが、プロットはストレートな犯人当てです。コージー派ゆえに謎解きにあまり多くは期待してはいませんでしたが、それにしても重要な人間関係が終盤まで伏せられているなど読者に対するフェアプレーを全く考慮していないのが残念ではあります。主人公のメルが容疑者扱いされて周囲から敬遠され気味になるためかコージー派としてはリラックスした雰囲気はあまりありませんがさりとて暗い作風というほどでもなく、まずまず読みやすいです。 |
No.850 | 5点 | 黒後家蜘蛛の会5- アイザック・アシモフ | 2015/11/02 05:47 |
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(ネタバレなしです) 1985年から1990年にかけて発表された12編のシリーズ短編を収めて1990年に出版されたシリーズ第5短編集です。アシモフ(1920-1992)は本書以降にさらに短編を6作書きあげて世を去りました。このシリーズはまっとうな謎解きよりもとんち話やなぞなぞ的な作品の方がしっくりくるようで、「三重の悪魔」や「水上の夕映え」の方がチェスタトンの劣化コピーみたいな密室トリックにがっかりさせられた「秘伝」より数段楽しめました。 |
No.849 | 6点 | 放浪探偵と七つの殺人- 歌野晶午 | 2015/11/02 05:25 |
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(ネタバレなしです) 社会に背を向け過ぎる信濃譲二の言動を作者が持て余しつつあったのではと思いますがこのシリーズは長編第3作の「動く家の殺人」(1989年)で終了となりました。その後さらに短編が8作書かれたそうで(それで本当に打ち止めらしい)、その中の7編をまとめて1996年に短編集として発表されたのが本書です。本格派推理小説としてしっかり作られた作品が多く(講談社ノベルス版では問題編と解決編に分けて袋綴じしていたらしいです)、特に「有罪としての不在」は講談社文庫版で70ページ超に及ぶ長めの作品で10人以上の登場人物を揃え、「読者への挑戦状」と「読者への確認」まで挿入された長編並みの密度に圧倒されました。犯人の名前を最初に明かしておきながらなお意外性を追求した「水難の夜」も出色の出来映えです。なお「マルムシ」はアイデアに先例があることが判ったため当初は単行本未収録で(だからタイトルは「七つ」になりました)、講談社文庫の増補版でようやく陽の目を見ましたが他作品と比べて見劣りのする凡作にしか感じられませんでした。 |
No.848 | 5点 | 奥多摩殺人3Wの逆転- 水野泰治 | 2015/10/31 15:19 |
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(ネタバレなしです) 1989年発表の本格派推理小説です。鍾乳洞の殺人が起きるということで横溝正史の「八つ墓村」(1949年)を連想する読者もいるかもしれませんが、本書の鍾乳洞は観光客で賑わっている鍾乳洞なので雰囲気はまるで違います。2年がかりで案出したトリックを使っているそうですが小細工が多過ぎで、普通ならどこかで破綻するかもしれないと犯人は考えないのでしょうか。策士策におぼれるどころではありませんよ、これは。 |
No.847 | 6点 | ホテル1222- アンネ・ホルト | 2015/10/29 11:29 |
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(ネタバレなしです) 2007年発表のハンネ・ヴィルヘルムセンシリーズ第8作ですが、それまでのシリーズ作品と比べて色々と新たな試みの見られる意欲作だそうです。ハンネが警察を辞職していること、両足を失った身体障害者となっていること、そしてハンネを語り手にした1人称形式にしていることなどがシリーズ異色作の所以のようです。アガサ・クリスティーの「オリエント急行の殺人」(1934年)と「そして誰もいなくなった」(1939年)を意識した作品ではありますが、吹雪の山荘ならぬ吹雪のホテルに100人を超す遭難者を集め、殺人事件の謎解きのみならず極限状態での緊張感もたっぷりと織り込んだ独特の世界を築き上げることに成功しています。ハンネは正式の捜査官でない上に積極的に動ける状態でないので謎解きがなかなか進展しないもどかしさがありますがそれも作者の計算通りかもしれません。最後は容疑者が一堂に集まってハンネの推理説明で犯人が指摘されるという本格派推理小説ならではの決着が見られます。ただその後の最終章「風力階級12」はどうにもすっきりせず、蛇足のように感じられましたが。 |
No.846 | 5点 | 検事踏みきる- E・S・ガードナー | 2015/10/27 22:42 |
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(ネタバレなしです) 1948年発表のダグラス・セルビイシリーズ第8作です。セルビイの失脚をもくろむ敵方がセルビイの捜査に色々と難癖をつけるのはシリーズのお決まりパターンです。しかし本書の場合、殺人ではと疑うセルビイに対して明らかに自殺なのに殺人と決めつけて捜査するとはとんだ見当違いだという主張も(自殺という証拠だって十分でないので)説得力に乏しく、セルビイが危機に陥っているという切迫感がいまひとつです。それでも宿敵の悪徳弁護士カーの策謀や怪しい証言の数々をどう切り抜けて真相を見破るか最後まで予断を許さない展開はさすがです。犯人自身が指摘したように、推理よりもハッタリ要素の方が強い解決になっていますが。 |
No.845 | 5点 | 水の葬送- アン・クリーヴス | 2015/10/23 15:56 |
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(ネタバレましです) ジミー・ペレス警部の活躍するシリーズは「大鴉の啼く冬」(2006年)から「青雷の光る秋」(2010年」に至るシェトランド四重奏で終わりませんでした。2013年にシリーズ第5作となる本書が発表されています。舞台も引き続きシェトランドです。「青雷の光る秋」の後日談的要素があり、できればそちらを先に読んでおくことを勧めます。やる気をなくしたペレスがやる気を取り戻していく、謎解きよりも物語性を重視したプロットですがその変化は劇的なものではありません(もともと感情の起伏の激しい性格ではありませんし)。第46章でどうして犯人の正体がわかったかについてペレスが説明していることろは本格派推理小説ならではですがその推理は物的証拠に乏しく、犯人の心理分析が中心となっていますので謎解きとしては説得力が弱いように感じます。 |
No.844 | 5点 | 四捨五入殺人事件- 井上ひさし | 2015/10/23 12:17 |
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(ネタバレなしです) 小説、戯曲、放送用脚本など多方面に活躍した井上ひさし(1934-2010)が1984年に発表した本格派推理小説で、新潮文庫版で250ページほどの短い長編です。かなり風変わりな真相が用意されており(似たようなアイデアはエラリー・クイーンの短編にもありますが)、ミステリー初心者が読むとこの型破りぶりに拒絶反応が出るかもしれません。文章は読みやすいですが通俗色が強く、下品な言動も少々見られます。それでいてある社会問題が提起されているなど、軽く書かれたようでいて意外と手の込んだことをしています。 |
No.843 | 4点 | メールオーダーはできません- レスリー・メイヤー | 2015/10/22 19:56 |
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(ネタバレなしです) 米国の女性作家レスリー・メイヤー(1948年生まれ)の1991年発表のルーシー・ストーンシリーズ第1作であるコージー派ミステリ-です。犯人当て謎解きとしてはかなり粗く、ルーシーが犯人の正体に気づく手掛かりはこれで犯人を特定とは強引過ぎに感じます。それ以上に不満だったのがネコ殺しを未解決にしてしまっているプロットです。コージー派ミステリーのお決まり的の、主人公の日常生活描写はさすがに丁寧で、特にクリスマスの家族団らんシーンはほのぼの感にあふれてます。ジル・チャーチルのユーモラスの作風とダイアン・デヴィッドソンのシリアスな作風の中間を目指しているような印象を受けました。 |
No.842 | 5点 | 氷の眠り- アーロン・エルキンズ | 2015/10/22 19:46 |
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(ネタバレなしです) 1990年発表のギデオン・オリヴァーシリーズ第6作の本格派推理小説で、「暗い森」(1983年)以来久しぶりの米国が舞台ですが今回はアラスカなのでトラベルミステリー要素は十分にあります。相変わらず骨がらみでギデオンが活躍していますが今回はちょっとひねってあるところが新趣向です。ただ23章の最後で説明されていますがギデオンは今回部分的にしか役に立っておらず、そこが微妙に物足りません。また骨以外の手掛かりが十分とはいえない謎解きであることもちょっと不満を感じました。 |
No.841 | 10点 | 災厄の町- エラリイ・クイーン | 2015/10/17 10:01 |
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(ネタバレなしです) 「ドラゴンの歯」(1939年)から久しぶりの1942年に発表されたエラリー・クイーンシリーズ第15作です。国名シリーズともハリウッドシリーズとも違う作風となっています。様々な伏線や手掛かりを論理的に考証して犯人を指摘するクイーン得意の本格派推理小説ではありますが、登場人物の人間性を丁寧に描写して物語としての深みを増しています。その効果は見事なもので、全体としては地味なのですが全く退屈しません。地味と言っても中盤の法廷シーンは十分に劇的で、これまた出色の出来栄えです。エラリー自身も単なる謎解き探偵でなく、ごく限られた人物にだけ真相を説明するなど人情を感じさせます。文句なく中期の傑作でしょう。 |
No.840 | 6点 | 終りなき夜に生れつく- アガサ・クリスティー | 2015/10/17 08:48 |
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(ネタバレなしです) 1967年に発表された、シリーズ探偵の登場しない本格派推理小説でマイケル・ロジャースの1人称形式で物語が語られます。クリスティー作品の1人称形式といえばエルキュール・ポアロシリーズのワトソン役のヘイスティグス大尉が登場する初期作品が有名だと思いますが、それと比べると何と人物描写の奥行きが深くなったことか。謎解きとしては過去作品に類似していて(二番煎じと言われても仕方ないと思います)、それを読んだ読者には真相が予想しやすいのが弱点ではありますけど、全体を覆う暗い雰囲気(ゴシック・ロマン風?)がこの作品を独特なものに仕上げています。余談ですが私の読んだハヤカワ文庫版の裏表紙解説では誰が死ぬのかを紹介していましたが、事件が発生するのは物語が半分以上進んでからなのでこれはフライングではないかとちょっと不満に思いました。 |
No.839 | 6点 | ボニーと風の絞殺魔- アーサー・アップフィールド | 2015/10/16 17:52 |
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(ネタバレなしです) 1937年発表のボニー警部シリーズ第5作です。このシリーズはクロフツのフレンチシリーズやジョセフィン・テイのグラント警部シリーズと同じく、ボニーによる丹念な捜査と推理を描いていますが都市犯罪の捜査方法が通用しない事件を扱っているのが特徴であり、本書でも雄大な自然を背景にボニーならではの捜査が十分に活かされています。犯人の心理分析も読みどころの一つです。ちなみにハヤカワ文庫版の巻末解説は物語より先に読まない方がいいと思います。 |
No.838 | 6点 | 殺しの演出教えます- サイモン・ブレット | 2015/10/16 17:33 |
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(ネタバレなしです) 1978年発表のチャールズ・パリスシリーズ第4作です。本書の英語原題の「An Amateur Corpse」がなかなか意味深で、アマチュア劇団を意味する「An Amateur Corps」に死体を意味する「Corpse」を引っ掛けています。そして更なる仕掛けがあってこれが幕切れで効果を上げています。もっともちゃんと作中に伏線を張ってあるとはいえ一般の読者に馴染めるかは微妙かもしれません。犯人当て本格派推理小説としてはやや容易な部類で、決め手となる手掛かりがあまりにも偶然頼みで入手されているところはちょっと不満です。しかし読みやすいプロットに加えて、プロの探偵でないチャールズが探偵活動をする理由がしっかり設定されていて納得しやすくなっているのは本書の長所です。 |
No.837 | 5点 | 闇のささやき- ニコラス・ブレイク | 2015/10/16 17:04 |
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(ネタバレなしです) 1954年発表のナイジェル・ストレンジウェイズシリーズ第11作で、本格派推理小説でなくスパイ・スリラーです。ハヤカワポケットブック版で「三十九階段」(1915年)で有名なジョン・バカンの伝統を踏襲する作品と紹介されていますが、私はそちらのジャンルに疎くてそれについてはコメントできません。とはいえいかにもな「巻き込まれ型」のストーリー展開はサスペンスたっぷりで、古い翻訳もそれほどハンデにはなりませんでした。得意とする子供たちの描写は本書でも安定しており、ナイジェルの新しい恋人クレアの活躍も光ります。ある意味、ナイジェルより頼もしいような気もします(笑)。後年発表の「悪の断面」(1964年)のような深みのあるドラマではありませんが、その分気楽に楽しめます。 |
No.836 | 6点 | 赤き死の訪れ- ポール・ドハティ | 2015/10/16 14:03 |
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(ネタバレなしです) 1992年発表の修道士アセルスタンシリーズ第2作の本格派推理小説です。不可能犯罪の謎解きかと思わせて実は、という展開になってあれれとちょっと拍子抜けでしたがそれでも内容は充実しており、第13章でアセルスタンが整理した謎は最終章で全てきっちり解かれます。ある事件で犯人のとった行動が別の事件の解決につながるというプロットが巧妙です。きれいごとばかりでない時代描写は好き嫌いが分かれるかもしれませんが。あと序章の使い方が内田康夫の浅見光彦シリーズ風でしたね。 |
No.835 | 6点 | 庭に孔雀、裏には死体- ドナ・アンドリューズ | 2015/10/16 13:50 |
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(ネタバレなしです) 米国の女性作家ドナ・アンドリューズによる1999年発表のメグ・ランスローシリーズ第1作のコージー派の本格派推理小説です。個性的な登場人物たちの巻き起こすどたばたぶりが滅法楽しく、本の厚さが気になりません。謎解きの弱さをサイドストーリーでカバーするのは通常は好きではありませんが、本書のようにしっちゃかめっちゃかやられてしまうとついニヤニヤしながら読んでしまいます。 |