皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
|
---|---|
平均点: 5.44点 | 書評数: 2814件 |
No.1254 | 4点 | 病める狐- ミネット・ウォルターズ | 2016/05/30 21:44 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 2002年発表のミステリー第9作で、「鉄の枷」(1994年)に続く2度目のCWA(英国推理作家協会)のゴールド・ダガー賞受賞作となりました。私の好きな本格派推理小説でなくサスペンス小説の系列だったのが個人的には残念ですが、それはともかく犯人にしろ主人公にしろこれまでの作品に比べると鋭く強烈な心理描写は随分と抑えられているように思えます。そのためか本書は上下巻にまたがる大作にもかかわらずウォルターズとしては平明な印象を受けました。ただ犯人当てミステリーではないとはいえ、いくつかの謎を謎のままで終わらせてしまっているのは不満ですが。 |
No.1253 | 7点 | 幼き子らよ、我がもとへ- ピーター・トレメイン | 2016/05/30 21:40 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1995年発表の修道女フィデルマシリーズ第3作の本格派推理小説ですが、過去2作はアイルランド国外でのフィデルマの活躍を描いており本書が彼女のアイルランドデビューということになります。モアン王国の修道院で隣国ラーハンの著名な神学者が殺され、その代償としてモアン王国はラーハンから領土割譲の圧力を掛けられます。単なる犯人当て謎解きだけでなく国家間の紛争という大きな課題をどう解決するのかも見所の一つで、白熱の法廷シーンまで用意されています。語り口は明快で歯切れ良く、人物もきっちり描き分けられていて創元推理文庫版で上下巻の大作ながらよどみなく読めました。問題があるとすれば第16章から第17章にかけての衝撃的な出来事で、読者によってはここまで過激にやらなくてもと感じるかもしれません。 |
No.1252 | 5点 | 真実の問題- C・W・グラフトン | 2016/05/30 21:33 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) C・W・グラフトン(1909-1982)は中国生まれの米国人作家で、女性探偵キンジー・ミルホーンシリーズで有名なハードボイルド作家スー・グラフトンの父親としても知られます。もっとも彼自身のミステリー作品はわずか3冊で(他に非ミステリー作品が1冊)、作家よりも弁護士が本業だったため知名度ではスー・グラフトンには遠く及びません。1950年発表の本書は彼の最後のミステリー作品ですが、過去の2作品が本格派推理小説らしいのに対して本書は犯罪小説に属する作品です。通常の犯罪小説は犯罪に至るまでを長々と描くか、逮捕されるかうまく逃げ切るかの警察や探偵とのかけひきをスリリングに描くか、この2つのパターンが多いと思います。ところが本書の場合は逮捕されてから以降をメインにしているのがユニークです。この種の作品を楽しめるかは犯人である主人公に共感できるかどうかが重要だと思うのですが、微妙に心理描写をぼかしたようなところがあって好き嫌いが分かれそうです。なお国書刊行会版の巻末解説は非常に充実していますが、「いかにして無実を勝ち得るかというハウダニット」と謎解き要素をアピールしているのはかなりの拡大解釈で、読者として謎解きに参加できたという実感は湧きませんでした。 |
No.1251 | 4点 | 死者との対話- レジナルド・ヒル | 2016/05/30 21:20 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 2001年発表のダルジール警視シリーズ第17作で、ハヤカワポケットブック版の巻末に作者のコメントが寄せられていますがかなりの自信作であることが伺えます。スリラー小説だったシリーズ前作「武器と女たち」(2000年)から犯人当て本格派推理小説路線に戻ったのはいいのですが、前作の容疑者を本書でまた容疑者として再登場させているやり方には感心しません。本格派といっても結末は相当型破りな手法が採られており、また最後の一行を疑問文で締めくくっているなどもやもや感を残す幕切れになっています。これはこれで強力な効果を上げているのですが、今までの作品中でも特に重厚長大なボリュームと相まってヒル初心者には勧められない作品です。 |
No.1250 | 5点 | 他言は無用- リチャード・ハル | 2016/05/30 21:04 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1935年発表のミステリー第2作ですがジャンル特定に悩む作品です。一応本格派風なところもありますが、中盤に犯人自身の視点で描かれた章が挿入されて犯人の正体は読者に判るので犯人当てを楽しむ作品ではありません。作中人物が推理で犯人に到達する、倒叙推理小説的な要素もありますが推理や探偵活動よりも犯人も含めた様々な人物の思惑と、その思惑通りにいかない皮肉な事態に多くのページを割いている作品で、そもそもミステリーらしくないと感じる読者もいるかもしれません。 |
No.1249 | 5点 | シュガークッキーが凍えている- ジョアン・フルーク | 2016/05/29 17:31 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) クリスマス・パーティーでハンナの母ドロレスがパーティー用に提供してくれたアンティークのケーキナイフが会場から消えてしまい、ナイフを探すハンナが死体を発見する2004年発表のハンナ・スウェンセンシリーズ第6作です。本書のヴィレッジブック版は400ページ程度ですが小説部分は300ページほどで残りの100ページはというとみんな料理レシピです。レシピを見たら作ってみたくなる料理好き読者にはたまらない作品でしょう。コージー派ミステリーのシリーズなので軽い内容なのは承知してますが本書はその中でも軽く、短編ミステリー的な謎解きが推理もほとんどしないで場当たり的に解決されてしまいます。まあクリスマス用の特別編として読む分にはOK?(笑) |
No.1248 | 4点 | シナの鸚鵡- E・D・ビガーズ | 2016/05/29 17:21 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) なぜかチャーリー・チャンが宝石をニューヨークへ(後に目的地は変わります)運ぶことになるという不思議なプロットの、1926年発表のチャーリー・チャンシリーズ第2作ですが推理もあるとはいえこれは本格派推理小説というよりスリラー小説ではないでしょうか。スリラー小説といっても次々に事件が起きるのではなく、むしろその反対。おうむ事件以外に明確な形で事件らしきものがなかなか起きず、事件が既に発生しているのかそれともこれから発生するのかさえはっきりしない、もやもやした状態が続きます。チャンも身分を隠しての行動なので描写がとても地味です。書きようによっては意外な真相を演出できたかもしれませんが、読者が謎解きに参加しにくいストーリーのためか唐突感の方が強いです。またE・S・ガードナーの「偽証するおうむ」(1939年)を読んだ読者なら本書でのおうむの能力には不自然さを感じると思います。 |
No.1247 | 4点 | クッキング・ママの検屍書- ダイアン・デヴィッドソン | 2016/05/29 17:10 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1996年発表のゴルディシリーズ第6作です。このシリーズはゴルディが自分自身や家族のために事件に首を突っ込んでいくパターンが多いのですが、本書の前半はやや他人事の雰囲気でいまひとつ盛り上がりません。しかし11章あたりからえらいことになります。今回は親友マーラを助けようとするのですが、「彼女が犯人であるはずがない」という思い込みだけであそこまでやるとは、ゴルディ恐るべし(笑)。というわけで冒険スリラー的に読むなら本書はなかなかの出来です。しかし犯人当て本格派推理小説と読むとあまりに説明不足の解決で物足りません。 |
No.1246 | 5点 | のどを切られた死体- クリストファー・ブッシュ | 2016/05/29 16:56 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 不可解なメッセージと共に送られたバスケットを開けると中から死体が出てくる、1932年発表のルドヴィック・トラヴァースシリーズ第7作の本格派推理小説です。得意のアリバイ・トリックはシンプルゆえに印象に残るし、第10章終わりでトラヴァースに起こったハプニングは非常に面白く読めたのですが、それ以外の部分は進展しない捜査描写が延々と続いて記憶に残っていません。いつものブッシュらしい地味さといえばらしいのですが。 |
No.1245 | 6点 | ライノクス殺人事件- フィリップ・マクドナルド | 2016/05/29 16:12 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1930年に発表された本書はシリーズ探偵の登場しないミステリーで、本格派推理小説としてはかなり実験的な作品です。序盤に「結末」を、最後に「発端」を置く構成、途中8回に渡って挿入される作者の「解説」、(創元推理文庫版の巻末解説でも触れていますが)横溝正史の某作品に先駆けたような珍しい真相など大胆なアイデアが光ります。厳密な意味での探偵役が不在で読者が犯人当てに参加する要素は少ないですが、1度は読んでおいて損はありません。ページボリュームが少なくて読みやすいです。 |
No.1244 | 5点 | 弱った蚊- E・S・ガードナー | 2016/05/29 16:02 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1943年発表のペリイ・メイスンシリーズ第23作はそこそこ意外な真相ですが謎解きは強引な感があります。しかしメイスンとデラが思わぬ事件に巻き込まれるし、いつもこき使われているポール・ドレイクが珍しくおいしい仕事をしているしとプロットは抜群に面白いです。また謎解きに直接関係はありませんが、ガードナー自身の野外生活好きを反映しての第17章の砂漠の描写が実にロマンチックで素晴らしいです。ガードナーの文体はハードボイルド風の簡潔でドライなタッチが特徴ですがその気になれば詩的で叙情的な表現もできることをよく示しており、この多面性が高い人気の秘訣なのでしょう。 |
No.1243 | 5点 | 死はわが隣人- コリン・デクスター | 2016/05/29 15:30 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1996年発表のモース主任警部第12作で、もともとは本書がシリーズ最終作の予定だったとか。初期作ほど面白く感じられないのはモースがきっちり説明しないで事件が片ついているからでしょうか(謎解き伏線はほのめかされてはいますけど)。もっともモースのファンなら前作「カインの娘たち」(1994年)に引き続き体調不良のモースを心配したり、ついに明らかになるモースのファーストネームですっきりすればいいのかもしれませんが(笑)。それにしても断片的な会話が多くて読みにくかったです。 |
No.1242 | 5点 | 手掛りはここにあり- デニス・ホイートリー | 2016/05/29 15:27 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) ジョー・リンクス(創案)とデニス・ホイートリー(執筆)のコンビによる捜査ファイル・ミステリーシリーズの第4作(1939年出版)です。シュワッブ警部補は登場しませんがもともとキャラクターで読ませる作品でないので特に影響はないでしょう。主な証拠として容疑者の写真、現場遺留品、容疑者プロフィールなどから犯行不能な容疑者を消去法的に取り除いて最後に残った1人が犯人という謎解きです。捜査レポートも非常に少なく、読むというよりは見て判断するところが大部を占めており、その単純性のためか15人という多めの容疑者数もそれほど苦にはなりません。ただ写真は当然ながら白黒で不鮮明な部分があり、真相説明を読んでも納得しきれないかもしれません。単細胞な私にはこのシリーズの第3作や第4作が読みやすくて合っていますが、じっくり証拠を吟味して捜査に参加している気分を味わいたい読者は凝りに凝った第1作や第2作の方が楽しめると思います。 |
No.1241 | 5点 | フレンチ警部とチェインの謎- F・W・クロフツ | 2016/05/29 09:57 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1926年発表のフレンチシリーズ第2作ですがフレンチ警部が登場するのは物語が3分の2ぐらい進んでからです。そこまでは事件に巻き込まれたチェインを主役にした冒険スリラーで、チェインが何度も危機を迎える展開は読み応えたっぷりです。チェインが麻酔剤を飲まされるトリックが図解入りで説明されていますが、これは犯人の解説で判明していて推理要素は皆無です。フレンチが登場して主役交代となり、犯人追跡や暗号解読などが加わりますが典型的な棚ぼた式の解決で、本書のフレンチは名探偵の役割を果たしたとは言えません。 |
No.1240 | 5点 | 死のとがめ- ニコラス・ブレイク | 2016/05/29 09:44 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1961年発表のナイジェル・ストレンジウェイズシリーズ第14作の本格派推理小説ですが、死体の傷の詳細な描写が私は苦手でした(首なし死体の登場する「旅人の首」(1949年)は平気だったのですが)。ナイジェルと恋人クレアの関係説明があってシリーズファン読者には外せない作品ですが、肝心のナイジェルがやや精彩を欠いているように思います。犯人との対決場面なんか完全に後手を踏んでいます。対照的にクレアは推理にはほとんど役立っていないものの「闇のささやき」(1954年)以上の立ち回りが目立ちます。おかげで謎解きが霞んでしまった感があります。でも女性にアクション担当させていいのかなあ(笑)。 |
No.1239 | 5点 | プラム・ティーは偽りの乾杯- ローラ・チャイルズ | 2016/05/29 09:31 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 2014年発表の「お茶と探偵」シリーズ第15作はワイナリーのワイン試飲会で死体が見つかる事件を扱い、ワインに関する描写があるのが特長ですがやはりこのシリーズならではのお茶に関する描写の方に力が入っているように思います。今回は依頼人と親しい関係にあるためドレイトンもセオドシアと一緒に(少しだけですが)探偵活動に参加してますが、質問が露骨過ぎて容疑者を怒らせたりと空回りしています(笑)。24章で真の動機と真犯人に気がついたセオドシア、あまりに強引な証拠の確認(失敗したら大問題です)から逃げる犯人の追跡まで怒涛の勢いです。ここ数作での派手な追跡シーンは作者のお気に入りパターンになったんでしょうか? |
No.1238 | 3点 | 聖女の塔- 篠田真由美 | 2016/05/29 03:08 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 2006年発表の桜井京介シリーズ第12作ですが本書は本格派推理小説ではなく(講談社文庫版の巻末解説で加納朋子もコメントしていますが)サスペンス小説です。蒼が巻き込まれる失踪人探しと京介が巻きこまれる長崎の小島での集団焼死事件、両方とも新興宗教団体が関わっています。そして物語が進むにつれて京介に対して向けられる悪意の存在がどんどん大きくなっていきます。あのシャーロック・ホームズに対する仇敵モリアーティー教授の再現を狙ったのでしょうか。全15作のシリーズ終焉が近づきつつあることを感じさせますが、個人的には悪との対決と決着という方向の物語はこのシリーズで期待してはいないのですが。 |
No.1237 | 4点 | 鼻かけ三重殺人事件- ヒュー・オースチン | 2016/05/28 23:19 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 米国のヒュー・オースチン(生没年不詳)は本格派黄金時代の1930年代から1940年代に活躍した作家です。1935年発表のピーター・キント(Quintと綴るようです)シリーズ第2作で英語原題がずばり「Murder in Triplicate」の本書は、鼻をそぎ落とされて殺される事件が起き(残虐描写はありません)、警察が出動したにもかかわらず大胆に第二、第三の殺人が続くというプロットです(「鼻かけ」の「かけ」は「欠け」のことですか!)。第2章の「原作者の言葉」で「全ての事実証拠を読者に明示する」、「専門的知識を必要としない」、「共犯を使用しない」など五つの誓言が述べられ、さらに第36章の終わりには「読者への挑戦状」が挿入されるなど同時代のエラリー・クイーンを意識したパズル・ストーリーです。容疑者数は多くはありませんが動機、機会、手段の全ての要件で犯行可能な人物が絞り込めずキント係長は苦悩します。人物の個性が描かれず物語性もほとんどない全38章ですが、各章は非常に短くクイーンの国名シリーズよりは読みやすいと思います。しかしフェアプレーを強調してるがゆえにこの真相では釈然としない読者も多いのではないでしょうか。 |
No.1236 | 5点 | 猫は糊をなめる- リリアン・J・ブラウン | 2016/05/28 08:45 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1988年発表のシャム猫ココシリーズ第8作です。シリーズ作品としてのトピックスとして、クィラランがついに新しい新聞の創刊にこぎつけます。「ムース郡なんとか」という変わったセンスの名前になってしまった背景も本書で描かれています。謎解きはあるトリックを使ってどんでん返しを試みているのが特徴です。もっとも同じようなトリックを使ったルース・レンデルが簡単に見破られないようにきめ細かく工夫を凝らしたのに比べると、本書はトリックの使い方が粗くて普通なら警察の初動捜査で発覚してしまうと思います。まあそれでもこの作者としては謎解きに力を入れた部類だと思いますが。 |
No.1235 | 6点 | 三冠馬- ジョン・L・ブリーン | 2016/05/28 08:38 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1985年発表のジェリー・ブローガンシリーズ第2作の本格派推理小説です。「落馬」(1983年)で大活躍した愛すべきオリビア叔母さんは残念ながら登場しないし、マニア読者を意識したような趣向もありませんが本書は本書で面白い作品です。前作でもレースシーンはありましたが本書ではそれが三回も描かれ、いかにも競馬ミステリーという雰囲気がとても濃厚です。謎解きは前作よりやや淡白になりましたが物語のスピード感とサスペンスでは上回っています。 |