皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2814件 |
No.1314 | 4点 | コンピュータから出た死体- サリー・チャップマン | 2016/06/16 15:16 |
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(ネタバレなしです) 米国の女性作家サリー・チャップマンはIBMやシリコンバレーのソフトウェア会社勤務のキャリアを持つためか、1991年発表されたデビュー作の本書はコンピュータやプログラムに関わる会話が大変多く、またハウダニットの謎解きにもその知識が活かされているところに特色があります(コンピュータ用語に疎い私にはちょっと難解)。丁寧なハウダニットに比べてフーダニットの謎解きがかなり荒削りなのが気になります。また研究や開発に携わる人間が仕事に入れ込むというのは(私もサラリーマンなので)わからなくもないのですが、仮にも部長職であるヒロイン(ジュリー・ブレイク)がプロジェクトのためなら周囲の迷惑お構いなしというのは少々やり過ぎで共感できません。会社のためならどんなひどいことも平気でする人間がよく登場する森村誠一の企業ミステリーを思い出しました。 |
No.1313 | 6点 | QED 式の密室- 高田崇史 | 2016/06/15 11:54 |
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(ネタバレなしです) 2002年発表の桑原崇シリーズ第5作の本書は講談社文庫版で250ページにも満たない短い作品で、シリーズ入門編として本書から手にとる読者もいるでしょう。密室という古典的かつ魅力的な謎があり容疑者数も多くないなど謎解きプロットはシンプルで読みやすいです。一方、作者が得意とする日本史や日本文学史に関する知識はどうかというと、この領域だけはしっかりとページを費やしており私にとっては頭痛のタネ以外の何物でもありませんでした(笑)。本書を読んで拒否反応を起こすなら他のシリーズ作品には手を出さない方が無難かも。 |
No.1312 | 6点 | 灰色の砦- 篠田真由美 | 2016/06/15 11:37 |
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(ネタバレなしです) 19歳の桜井京介と栗山深春が輝額荘という木造下宿で初めて出会い、そこで起こった謎の死亡事件に巻き込まれる1996年発表の桜井京介シリーズ第4作の本格派推理小説です。建築探偵ものとしていまひとつに感じられたのは、作中で紹介される著名な建築家フランク・ロイドにまつわるエピソードと輝額荘(ロイドが建築に関わったわけではない)との結びつきが弱く感じられたからです。とはいえそれがあまり問題に思えないのは人間ドラマとしての充実ぶりが際立っているからで、安直なハッピーエンドに収まらない真相は印象に残ります。 |
No.1311 | 5点 | ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利- ロバート・バー | 2016/06/15 11:20 |
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(ネタバレなしです) あのコナン・ドイルと親交があったイギリスのロバート・バー(1849-1912)が創作したフランス人探偵ヴァルモンの活躍を描いた8作の短編を収めて1906年に出版された短編集です。かつてフランス政府の刑事局長を七年間務め、ある理由でフランス政府に首にされたがロンドンで私立探偵として開業して以来パリにいた時よりも商売は繁盛しているというヴァルモンは、アガサ・クリスティーのベルギー人探偵エルキュール・ポアロの先駆者的評価を受けることもあるようですが名探偵らしからぬ失敗もしているところはアントニイ・バークリーのロジャー・シェリンガムの先駆者とも言えそうです。。「チゼルリッグ卿の失われた財産」などはストレートな探偵物語で一般受けしやすいと思いますが、当初の目的とは全く違う空騒ぎに終わったような結末を迎える作品もあり、時に意外と難解な印象を与えます。 |
No.1310 | 7点 | 日記の手がかり- キャロリン・キーン | 2016/06/15 10:19 |
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(ネタバレなしです) 1932年発表のナンシー・ドルーシリーズ第7作で、ナンシーのボーイフレンドとなるネッド・ニッカーソン初登場となる作品です。このシリーズとしては謎解きにひねりが効いており、不幸な人を助ける喜びの描写などこれまで書かれた作品中でも充実した内容だと思います。 |
No.1309 | 4点 | アマチュア手品師失踪事件- イアン・サンソム | 2016/06/15 10:13 |
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(ネタバレなしです) 2006年発表のイスラエル・アームストロングシリーズ第2作は、しゃべればしゃべるほど窮地に陥ってしまうイスラエルが面白くユーモアは快調です。しかし謎解きという点では薄味な上に、イスラエルよりもテッドの方が解決に貢献しているように思えるのは私の気のせいでしょうか? |
No.1308 | 5点 | エヴァ・ライカーの記憶- ドナルド・A・スタンウッド | 2016/06/14 18:42 |
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(ネタバレなしです) 米国のドナルド・A・スタンウッド(1950年生まれ)は完成に8年もの歳月をかけた本書を1978年に発表してデビューしました。謎解き小説、サスペンス小説、冒険小説といったさまざまなジャンル要素を全て併せ持った傑作と評価されています(基本的には冒険スリラーと言っていいでしょう)。私は本格派ばかり偏執的に求めている読者なのでどうしても謎解き部分にばかり目が行きやすいのですが、推理がないわけではありませんけど犯行場面が回想風に再現されて謎が解けるパターンが圧倒的に多く、探偵役による推理を期待するとあてが外れます。しかしながら1912年のタイタニック号沈没、1941年の殺人事件、1962年の冒険に謎解きと長い年月をまたぐスケール豊かな物語は読み応えたっぷりで、本の厚さを感じさせないストーリーテリングとしっかりしたプロット構成はなるほど幅広い読者にアピールするものがあると納得できました。なお作者は本書の後にさらに9年の歳月をかけて2作目の「七台目のブガッティ」を1987年に発表しますがこちらはどうも失敗作と評価されてしまったらしく、以降は沈黙してしまったようです。 |
No.1307 | 5点 | ハゲタカは舞い降りた- ドナ・アンドリューズ | 2016/06/14 13:05 |
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(ネタバレなしです) 2003年出版のメグ・ラングスローシリーズ第4作は舞台がオフィス(しかも理系の)とがらりと趣向を変えました。本書の前に人工知能チューリング・ホッパーを主人公にした新シリーズの「恋するA・I探偵」(2002年)を発表したことも影響しているかもしれません。SF仕立てではありませんが自動メールカートのような、どこにでもあるとは言えない小道具に重要な役割を与えているのでちょっと謎解きがわかりにくく感じました。途中までの展開はやや地味ですが、犯人の正体が判明してからはまさにスラプスティック(どたばた劇)でした。 |
No.1306 | 6点 | チャーリー・チャンの追跡- E・D・ビガーズ | 2016/06/14 12:29 |
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(ネタバレなしです) 1928年発表のチャーリー・チャンシリーズ第3作の本格派推理小説で、「チャーリー・チャンの活躍」(1930年)と並ぶ代表作とされています。犯人を特定する決定的手掛かりが十分ではないことから謎解きパズルとしては「チャーリー・チャンの活躍」に劣ると評価されることもあるようですが、小説としてのプロットでは本書の方が数段上でしょう。前作「シナの鸚鵡」(1926年)に比べてチャンの個性が発揮されていますし、若い男女のロマンスが面白さに彩りを添えています。歳月というカーテンの向こうにある謎が醸し出す神秘性も魅力的です(英語原題は「Behind the Curtain」です)。 |
No.1305 | 6点 | 図書館長の休暇- ジェフ・アボット | 2016/06/14 12:21 |
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(ネタバレなしです) 1996年発表のジョーダン・ポティートシリーズ第4作でシリーズ最終作です。もともと人間ドラマ要素が強いシリーズですが本書も大変濃厚な家族ドラマとなっています。家族ドラマといっても暖かい雰囲気などほとんど無く、皮肉とあてこすり、そして対立のオンパレードです。明快で歯切れのいい文章だけど書かれているのはどろどろした世界というミスマッチが印象的です。犯人当てミステリーでもありますが、これだけ家族ドラマのウェイトが高いとミステリーらしくないようにさえ感じます。苦味を含むエンディングも好き嫌いが分かれそうです。それにしても会ったことのない親族との顔合わせ、「来るな」という脅迫状、そして主人公に向けられる冷たい視線という序盤の展開ってなんだか横溝正史の「八つ墓村」(1949年)みたいですね(笑)。 |
No.1304 | 5点 | カイコの紡ぐ嘘- ロバート・ガルブレイス | 2016/06/14 10:12 |
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(ネタバレなしです) 2014年発表のコーモラン・ストライクシリーズ第2作の本格派推理小説です。発端は小説家の失踪事件ですが、この小説家が周囲の人間を変態描写で作品に織り込むとんでもない人間であることがわかります。物語の1/4ぐらいの段階で事件が凶悪犯罪になり、コーモランが動機を求めて問題の小説のエログロ描写に踏み込む場面が何回かあります。(私は読んでいませんけど)J・K・ローリング名義のハリー・ポッターシリーズとは違い、読者の好き嫌いが分かれそうな作品です(少なくとも子供にお勧めはできません)。サイドストーリーであるコーモランとロビン(探偵活動への参加願望とマーシュとの結婚願望の両立に苦労します)の関係も読ませどころです。余談ですがコーモランという名前が童話の「ジャックと豆の木」の巨人に由来することを本書で初めて知りました(何で親はそんな名づけしたんだろう?)。 |
No.1303 | 6点 | まちがいだらけのハネムーン- コニス・リトル | 2016/06/13 02:37 |
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(ネタバレなしです) 1944年発表の本書は、「夜ふかし屋敷のしのび足」(1941年)や「記憶をなくして汽車の旅」(1944年)と比べると主人公が常識人のためか、創元推理文庫版で「コミカル・ミステリ」というほどユーモアは濃厚ではありません。といっても堅苦しい作品ではなく、ケリー(何と私立探偵でした)のダメ執事ぶり描写などは十分に面白いです。本格派推理小説らしさはこれまでに読んだ3作品中では1番で、唐突感はあるのもののどんでん返しがなかなか効果的な謎解きになっています。 |
No.1302 | 6点 | 鏡は横にひび割れて- アガサ・クリスティー | 2016/06/13 02:30 |
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(ネタバレなしです) 1962年発表のミス・マープルシリーズ第8作で、1960年代のクリスティーを代表する作品とされています。ホワイダニットを重視した本格派推理小説と評価されることも多いですが、犯人の正体を最後まで隠したフーダニットでもあります。ただ被害者がなぜ殺されたのかが謎解きの中心となっているので、犯人当てを期待する読者は動機に比べて機会や手段についての探求が少ないと感じるかもしれません。また謎解きプロットとしては中盤まで盛り上りを欠き、ミス・マープルも日常生活描写の方が目立ってしまうほどです。しかし締めくくりはなかなか印象深いものがあり、事件の悲劇性の演出が見事です。推理物として弱くてもちゃんとアピールポイントがあるところはさすがに巨匠といったところでしょうか。 |
No.1301 | 4点 | 学校の殺人- ジェームズ・ヒルトン | 2016/06/13 01:52 |
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(ネタバレなしです) 英国のジェームズ・ヒルトン(1900-1954)は純文学畑の作家ですが作家人生の最初の10年間は鳴かず飛ばず状態が続いていて、その時期の1931年に収入を得るために書いた唯一のミステリーが本書です。手っ取り早く成功する手段がミステリーを書くことというのはいかに当時のミステリーの需要が大きかったか、なぜ第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の時期がミステリー黄金時代と呼ばれるかを示すエピソードの一つですね。ただ同時代のミステリー作家の本格派推理小説と比べると犯人の正体を隠すテクニックが未熟で犯人当てとしては容易過ぎると思います。A・A・ミルンの「赤い館の秘密」(1923年)も同様の弱点を抱えていますが発表時期を考えると本書は厳しく評価せざるを得ません。 |
No.1300 | 6点 | つかみそこねた幸運- E・S・ガードナー | 2016/06/13 01:37 |
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(ネタバレなしです) 1964年発表のペリイ・メイスンシリーズ第73作です。これまでにも手強い敵対者が登場する作品はいくつかありましたが、本書に登場する相手はしたたかさも行動力も持ち合わせており、どうやってメイスンがやっつけるのか興味深く読めました。その決着がちょっと宙に浮いてしまったようなところがあるのが心残りではありますけどメイスンが勝勢であることは確かだと思います(何かミステリーの感想らしくないですね)。 |
No.1299 | 5点 | 救いの死- ミルワード・ケネディ | 2016/06/13 01:32 |
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(ネタバレなしです) 1931年発表の本書(共作を除くと長編第6作)はケネディの前衛的作品の代表作とされ、友人(かどうか一部で疑問視されていますが)のアントニイ・バークリイに献呈されています。探偵役のエイマーが仮説を構築してはそれが崩れ、また新たな仮説を構築するという展開はコリン・デクスターのモース主任警部シリーズを髣髴させるところもあり、その限りでは確かに本格派推理小説以外の何物でもないのですが結末はあまりにも斬新というか型破り過ぎで謎解きとしては破綻してしまったように思えます。 |
No.1298 | 5点 | 殺人犯はわが子なり- レックス・スタウト | 2016/06/12 05:54 |
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(ネタバレなしです) 1956年発表のネロ・ウルフシリーズ第19作は、ウルフたちが事件に巻き込まれる出だしから快調で中盤まで文句なく楽しめる本格派推理小説でした。残念なのは重要証拠がどこにあるかという推理はあるものの、それがどういう証拠なのかはウルフが関係者を集めて真相を説明するまでヒントさえ与えられていないこと。読者が自力で謎解きするには手掛かり不足なのが惜しまれます。 |
No.1297 | 5点 | 薔薇は死を夢見る- レジナルド・ヒル | 2016/06/12 05:40 |
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(ネタバレなしです) 1983年発表のダルジールシリーズ第7作は一応は本格派推理小説のようですが、頭の回転が鈍い私は本書のプロットはどこに解くべき謎があるのかよくわかりませんでした。過去に何人もの人間が謎の死を遂げていてその影には常にある人物が存在するという設定は、レックス・スタウトの「腰抜け連盟」(1935年)という先例もあります。しかし殺人と実証されていないためパスコーたちが何を追い求めているのか曖昧なまま物語が進むので読みにくいことこの上ありません(第三部第ニ章でやっと状況整理されますが)。ダルジールが第四部第五章でコメントしているように、「ないことずくめ」の変なミステリーです。何だか最後になってようやく謎が提示されてそこで終わってしまったような不思議な読後感が残りました。 |
No.1296 | 3点 | スープ鍋につかった死体- キャサリン・ホール・ペイジ | 2016/06/12 05:35 |
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(ネタバレなしです) フェイスが伯母のチャットに頼まれて介護施設の怪死事件を調べることになる、1991年発表のフェイス・フェアチャイルドシリーズ第3作ですが意外だったのは警察がフェイスに(限定的とはいえ)捜査への協力を依頼しています。過去の2作品でフェイスの推理が事件解決に貢献している部分は少なかったと思いますけど。推理が弱くて自白でほとんどの真相が明らかになる、というのはこのシリーズでは珍しくないのですが、作品の中で起こっていない事件まで解決しているのはどういうこと(動機の伏線は張ってありますが)?問題が出てないのに答え合わせが始まったみたいな奇妙な体験でした。 |
No.1295 | 7点 | リチャード三世「殺人」事件- エリザベス・ピーターズ | 2016/06/12 05:25 |
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(ネタバレなしです) 別名義での作品を含めると70作を超す女性作家でエジプト考古学者でもある米国のエリザベス・ピーターズ(1927-2013)は4作のジャクリーン・カービーシリーズを書いていて私はその内3作を読みましたが、1974年発表の第2作である本書は最も本格派推理小説の要素が濃い作品だと思います。ジョセフィン・テイの「時の娘」(1952年)でも取り上げられている英国王リチャード3世がらみのミステリーです。登場人物以外に歴史上の人物の名前が入り乱れますが文章が読みやすくて混乱せずに読むことができました(ユーモアも豊かです)。ジャクリーンに言わせれば「犯人は一目瞭然」だけど犯人のねらいがわかないという、ホワイダニット色の強いプロットです(もちろん犯人の名前も最後に明かされるので、犯人当てにも挑戦できます)。テイの「時の娘」を読んでいなくても問題はありませんが、作品中でリチャード・ハルの「伯母殺人事件」(1934年)のネタばらしがありますのでそちらを未読の人は注意して下さい。 |