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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2912件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1412 5点 暗闇のセレナーデ- 黒川博行 2016/07/07 15:38
(ネタバレなしです) 黒川博行(1949年生まれ)の長編3作目となる1985年発表の本書は、趣向を変えようとしたのか女子大生コンビを登場させています。アマチュア探偵主役の本格派推理小説を意識したようですが警察の捜査描写も全体の半分近くを占めており、謎解きの貢献度もほぼ五分五分ではと思います。女子大生の個性もそれほど印象的には描けておらず、この作家は地味な警察小説の方が合っているように思いました。

No.1411 6点 笑わない数学者- 森博嗣 2016/07/07 15:15
(ネタバレなしです) 1996年発表のS&Mシリーズ第3作の本格派推理小説です。天才(数学者の天王寺博士)が登場する点では「すべてがFになる」(1996年)を連想する人がいるかもしれませんが雰囲気は大きく異なります。シンプルながら魅力的な謎に加えて随所で数学問題が出ますが、それほど理系を意識させないように配慮された展開は私の頭脳レベルでも十分に楽しむことができました。それでいて最終章はやっぱりこれは理系だということを感じさせる締めくくりになっています。

No.1410 5点 空白の殺意- 中町信 2016/07/07 13:23
(ネタバレなしです) 1980年に「高校野球殺人事件」というライト・ミステリーみたいなタイトルで出版された著者5作目の作品です。ジョン・ディクスン・カーの「皇帝のかぎ煙草入れ」(1942年)に触発されて書いた本格派推理小説で、トリックの大胆さでは「模倣の殺意」(1971年)の方に軍配が上がりますが技巧にわざとらしさを感じない分、本書の方を支持する読者もいるでしょう(作者自身、本書を1番高く評価していました)。これといった主人公がいないまま物語が進行するプロットですがそれでも読みやすい作品です。

No.1409 7点 星降り山荘の殺人- 倉知淳 2016/07/07 13:17
(ネタバレなしです) 1996年に発表した本格派推理小説の本書はこの作者らしく軽いタッチの作品ですが「ユーモアと温かみと論理」を重視する作家だけあって軽いだけの作品ではなく、謎解きはしっかり作られています。都筑道夫の「七十五羽の烏」(1972年)を意識して各章の冒頭には作者から読者へのメッセージが織り込まれています。都筑作品では嘘ではないけどちょっとずるいなと思わせる部分もありましたが本書ではそういう不満を感じることもなく、気持ちよく騙されたという快感が残りました。

No.1408 6点 殺人者は長く眠る- 梶龍雄 2016/07/07 09:04
(ネタバレなしです) 1983年発表の本格派推理小説で1989年に「草軽電鉄殺人事件」というトラベル・ミステリー風なタイトルに改題されましたがオリジナルタイトルの方が合っていると思います。現代の探偵役が24年前(1959年)には存在していた草軽電鉄で起こった女優の失踪事件の謎を追求するのがメインプロットで凶悪犯罪性を帯びてくるのは物語のかなり後半です。kanamoriさんやこうさんのご講評の通り失踪トリック自体は某英国作家の作品を連想させるものですが、トリックよりも事件の背景に隠された陰謀性というか悪意の深さに驚かされます。探偵役の男女がそれぞれ秘密を抱えている描写にしているのも謎を深めるのに効果的です。

No.1407 5点 影の告発- 土屋隆夫 2016/07/06 09:50
(ネタバレなしです) 1962年発表の千草検事シリーズ第1作です。社会派推理小説が人気を博していた時代の作品なのでシリーズ探偵といっても非常に地味なキャラクターで、地道な足の捜査の描写を丁寧に描いているところも社会派の影響が見られます(タイトルまで同時代の松本清張みたいです)。本格派志向を失わなかった作家として評価されていますが本書では犯人の正体については早い段階で自然に見当がつき、読者が推理できる要素としてはアリバイ崩しぐらいでしょう(ちゃんと謎解き伏線に配慮しているのはさすがです)。時代が時代なので社会派と本格派の折衷的作品になるのは仕方がなかったのかもしれませんが(本書で日本推理作家協会賞を受賞したので成功作とは言えるでしょう)、ちょっと中途半端という印象も受けました。

No.1406 6点 白光- 連城三紀彦 2016/07/06 09:45
(ネタバレなしです) 非ミステリー作品を次々に発表した連城三紀彦はミステリーから離れたことを文学界から賞賛されたりもしましたが、完全にミステリーと決別したわけではないのは2002年発表の本書を読めば明らかです。とはいえ単純な犯人当て本格派推理小説とも異なり、ドライな文体でどろどろした家族関係を描いた文学的な香りが濃厚な作品です。推理要素は希薄ですが多重自白によるどんでん返しで真相が明らかになっていくプロットは個性的です。好き嫌いは分かれるかもしれませんがミステリーと非ミステリーを橋渡しする作品の一つとして貴重だと思います。

No.1405 7点 月の扉- 石持浅海 2016/07/06 09:13
(ネタバレなしです) 2003年発表のミステリー第2作の本書はロマンチックなタイトルとは裏腹にハイジャッカーが子供を人質にとるという汚い犯罪で幕を開けます。犯人と人質、或いは犯人と警察との対決やアクションシーンを描いたハードボイルドではなく、飛行機内で起こった殺人をハイジャッカーの依頼でアマチュア探偵の座間味くんが(なかなかいい味出しています)殺人犯を探すという本格派推理小説です。舞台設定こそ奇抜ですが謎解きプロットは正統派スタイルで、ハイジャックものとしてはサスペンス不足だと思いますが本格派推理小説としてはこのぐらいが丁度いいと思います。登場人物の考え方には賛否両論あるでしょうが、幻想的で切ない締めくくりはタイトルにふさわしい幕切れを演出しています。惜しまれるのは(多くの方のご講評で指摘されているように)重要人物のはずの石嶺がほとんど存在感がないことでしょう。

No.1404 5点 七十五羽の烏- 都筑道夫 2016/07/06 08:44
(ネタバレなしです) 1972年に発表した本書は長編本格派推理小説ジャンルにおける作者の代表作とされています。書くに当たって情感を抑え、解決のプロセスを重視し、フェアプレイを徹底することを条件にしており各章の冒頭で「依頼人は嘘をひとつもついていない」、「重大な手がかりあり要注意」など読者に警告しています。当然のように「読者への挑戦状」的なメッセージもあり、この時代にこれだけ論理的謎解きにこだわった本格派は珍しかったのではと思います。ただ喜怒哀楽をほとんど表さない人物描写は平面的でプロットもメリハリに乏しいです。短編ならまだしも長編小説としてはこの味気なさは(悪い意味で)気になりました。フェアプレイについても(ネタバレになるので詳細を書きませんが)ちょっと気になる点がありました。

No.1403 6点 凍える島- 近藤史恵 2016/07/06 08:38
(ネタバレなしです) 近藤史恵(1969年生まれ)の1993年発表のデビュー作でシリーズ探偵の登場しない本格派推理小説です。孤島を舞台にした連続殺人事件ものというで私は綾辻行人のデビュー作「十角館の殺人」(1987年)を思い出しましたが全く雰囲気の違う作品です。ちゃんと推理で謎解きしているし、さりげないけど巧妙なトリックなども光りますが複雑な人間関係と心理描写が織り成すサスペンスが持ち味です。カタカナ記述が「テエブル」とか「カアテン」とか独特で、私は大昔の外来語表記はこんなだったねとちょっと懐かしいぐらいに思ってあまり気にしませんでしたが若い世代の読者は違和感を覚えるかもしれません。ちなみに作中時期は真夏なんですがこのタイトルは作品内容によく合致していると思います。

No.1402 5点 鬼流殺生祭- 貫井徳郎 2016/07/05 18:43
(ネタバレなしです) 舞台を明治時代(但し作中では「明詞」という仮想の時代)にして1998年に発表された本書は作者が本格派推理小説の「定型」を意識して書かれたためか謎解きに重点が置かれているところが私好みです。しかし読後の印象として残ったのはトリックや推理の冴えではなく、事件が引き起こした悲劇性でした。そういう点ではこの作者の「慟哭」(1993年)と共通しているように思います。

No.1401 5点 安達ヶ原の鬼密室- 歌野晶午 2016/07/05 18:40
(ネタバレなしです) 2000年に発表された本書はタイトルから古風で和風な作品を予想するとこれが見事に裏切られます。まずひらがなのみで書かれた児童小説「ナノレンジャー」が冒頭に置かれ、次にアメリカを舞台にして切り裂き魔事件を描いたサスペンス小説タッチの「The Ripper」が続きます。「鬼密室」編は講談社文庫版で150ページを過ぎてからようやく始まります。シーマスターさんやE-BANKERさんがご講評されている通り、時代も舞台も違う3つの物語(鬼密室に関しては過去と現代の事件があるので2つの物語と考えてもよいかも)から構成された連作形式の本格派推理小説です。島田荘司が好みそうな大トリックが使われているのが印象的です。

No.1400 6点 時の密室- 芦辺拓 2016/07/05 18:30
(ネタバレなしです) 2001年発表の森江春策シリーズ第9作の本格派推理小説で、「時の誘拐」(1996年)の姉妹作とされますが「時の誘拐」を先に読んでいなくても鑑賞に支障はありません(とはいえ「時の誘拐」の事件関係者がちょっとだけ本書で顔見せしています)。講談社文庫版で500ページを越す分量がありますが「時の」というタイトルにふさわしく1876年、1903年、1970年、そして現代とまたがる展開に加えて実に6つの密室が登場するのですから退屈するわけもありません。中にはどう拡大解釈しても密室には思えないものもありますけど、それでも魅力的な謎と謎解きが楽しめることは間違いありません。

No.1399 5点 3000年の密室- 柄刀一 2016/07/05 17:13
(ネタバレなしです) 柄刀一(つかとうはじめ)(1959年生まれ)の1998年発表の長編デビュー作である本格派推理小説です。前半は長野県の洞窟で発見されたミイラの素性をめぐっての考古学的分析が大半を占め、密室の謎(ミイラに殺された形跡があった上に洞窟が密室状態だった)についてはほんのわずかしか言及されず、考古学に興味のない読者にはやや冗長に感じるかもしれません(私のレベルではハードルが高過ぎました)。考古学論議、3000年前の事件と現代の事件のそれぞれ凝ったトリック、犯人の異様な告白、主人公のトラウマなど実に色々な要素を詰め込んでいますがちょっと手を広げすぎのような感もします。

No.1398 6点 46番目の密室- 有栖川有栖 2016/07/05 16:29
(ネタバレなしです) 1992年発表の火村英夫シリーズ第1作となる本格派推理小説です。ワトソン役にアリス(男です、念のため)を配しているのは江神二郎シリーズと同じですがこちらのアリスは推理作家という設定です。シリーズ第1作といっても火村の特別な紹介場面もなく、スムーズに物語が進行します。とはいえ第2章での火村の告白には仰天しましたが。もったいぶった言い回しで読者(とアリス)をいらいらさせることのない火村の説明には好感を抱きました。容疑者とのやり取りよりも現場調査(フィールドワーク)の方に力を入れているのが新鮮でした。タイトルは魅力的に過ぎます。45の密室トリックが紹介されるものと勝手に期待してしまいました。

No.1397 6点 ミステリ・オペラ- 山田正紀 2016/07/04 13:19
(ネタバレなしです) 執筆中に生命を落としかねないほどの大病を患いながら書き上げ、2001年に発表した本書はハヤカワ文庫版で上下巻合わせて1100ページを越す大作の本格派推理小説です。導入部がややごちゃごちゃして読みにくいですが、途中からはすらすら読めました。謎も沢山提供され、空中浮遊、暗号、密室殺人、貨車消失、首なし死体など「豪華幕の内弁当」的な楽しさがあります。1つ1つの描写はややあっさりしている感もあり、これがメインの謎と感じるものがないのがちょっと惜しいのですが、細部よりも壮大な絵巻を楽しむべき作品です。平行世界(パラレル・ワールド)に関する記述が私には難解過ぎましたがSFミステリーではありません(ちょっとSF風な場面がありますけど)。なおハヤカワ文庫版の巻末解説はネタバレがあるので事前には目を通さないことを勧めます。

No.1396 6点 長い家の殺人- 歌野晶午 2016/07/04 13:07
(ネタバレなしです) 歌野晶午(1961年生まれ)のデビュー作が1988年発表の本書です。謎解き一本槍の本格派推理小説で小説としての面白さを追求する余裕はまだありませんが謎の盛り上げ方やフェアな手掛かりの配置には既に確かな技術を示しています。それにしても探偵役の信濃譲二は「人を小馬鹿にしたような態度、気まぐれな性格、詭弁家のような語り口」と(嫌われ者の戸越に言わせるぐらい)癖のあるキャラクターを採用したものですね。シリーズ探偵としては短命に終わったのも仕方ないと思います。

No.1395 6点 求婚の密室- 笹沢左保 2016/07/04 12:12
(ネタバレなしです) 笹沢左保は多作家ゆえに簡単にアイデアが浮かぶと思われているようですが創作力が落ちて壁にぶち当たった時期もあったそうです。一世を風靡した木枯し紋次郎シリーズに代表される時代小説家として復活するのですがミステリーへの意欲も再び湧いてきたらしく、1978年発表の天知晶二郎シリーズ第2作の本書は堂々たる本格派推理小説で密室に推理合戦と謎解き好き読者にはたまらない趣向が用意されています。密室トリックは解くのも実行するのも難易度が高いと思いますがタイトルにわざわざ使うだけあってよく考えられています。作者が目指した「ロマンとムード・サスペンスの味つけ」も(好き嫌いは分かれるかもしれませんが)効果的です。

No.1394 8点 十角館の殺人- 綾辻行人 2016/07/04 08:58
(ネタバレなしです) 綾辻行人(1960年生まれ)は時代遅れとされていた本格派推理小説を復活させた「新本格派」の代表的作家として日本ミステリーの歴史を語る時にその名を外すことは考えられないほどの存在です。綾辻以前にも島田荘司や笠井潔などが本格派の力作を書いていたことも事実ですが、ムーヴメントを起こしたと評価されるほど1987年発表のデビュー作である本書の歴史的意義は大きいです。謎解きの面白さを再認識してくれ、という作者の熱い思いがひしひしと伝わってくるのに本格派好きの私としては大いに共感でき、アガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」(1939年)を連想させるプロットも大歓迎です。惜しまれるのは存在感ある名探偵を描けなかったことで、おかげでこのシリーズは探偵の名前ではなく「館シリーズ」と呼ばれるようになってしまいました(笑)。

No.1393 5点 なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?- アガサ・クリスティー 2016/07/04 08:38
(ネタバレなしです) 1934年発表の本書(シリーズ探偵は登場しません)は推理もあるし犯人を終盤まで伏せているプロットではありますが冒険スリラーに属する作品です。特にエヴァンズの正体に本格派推理小説の謎解きを期待するとがっかりするでしょう。江守森江さんのご講評の通り、そこについては読者が推理する余地がありませんので。とはいえアマチュア探偵コンビの活躍は楽しく、難しく考えずに気軽に楽しめる作品としてはよくできています。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー、D・M・ディヴ...
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2912件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(83)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(43)
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A・A・フェア(28)
ローラ・チャイルズ(26)
カーター・ディクスン(24)
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