皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
|
---|---|
平均点: 5.44点 | 書評数: 2865件 |
No.1725 | 6点 | 偽証するおうむ- E・S・ガードナー | 2016/09/15 17:48 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 法廷で自説を絶対に曲げないような頑固証人をいかにして正しい方向へ誘導するのか、この難題を1939年発表のペリイ・メイスンシリーズ第14作である本書でメイスンが実に見事な手腕で処理します。最後のメロドラマが唐突でご都合主義的な感じもしますが謎解きとしてはよくできていると思います。 |
No.1724 | 8点 | ささやく真実- ヘレン・マクロイ | 2016/09/14 15:26 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) ヘレン・マクロイは1950年代後半から1960年代前半にかけて何作か翻訳紹介されているので日本で不遇だったとは言い切れないかもしれませんが21世紀になって初紹介された作品の中にもなぜこれが今まで紹介されなかったのか不思議で仕方のない傑作がいくつもあり、やはり実力に見合った待遇を受けていなかったのかなと思ったりもしています。1941年発表のベイジル・ウィリングシリーズ第3作の本書もそんな本格派推理小説の傑作です。被害者と容疑者たちとの間のただならぬ緊張感に満ちた序盤から心理的手掛かりと物的手掛かりをバランスよく配合した推理による謎解きまで充実の内容です。互いにかばい合っていた容疑者たちがついに互いを告発し合うというクリスチアナ・ブランド顔負けの展開も凄いです。 |
No.1723 | 6点 | ロイストン事件- D・M・ディヴァイン | 2016/09/14 13:57 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1964年発表の第3作で、本書の教養文庫版の巻末解説には謎解き小説としての欠点が紹介されており、なるほどと納得できる指摘ではありますがそれでも十分に読む価値のある本格派推理小説だと思います。複雑な人間関係でありながら読みにくくなく、しかもその中に謎解きの伏線を巧妙に配しています。難癖つけるなら主人公の最後の一行のせりふがカッコつけ過ぎで共感できなかったことか(笑)。 |
No.1722 | 6点 | ペンギンは知っていた- スチュアート・パーマー | 2016/09/14 13:26 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) スチュアート・パーマー(1905-1968)は米国の本格派推理小説家で、ヒルデガード・ウィザーズのシリーズが大変な人気を獲得し、あのクレイグ・ライスと合作でマローン弁護士とヒルデガードが共演する作品を書いたりもしています。1931年発表のデビュー作である本書を読む限りではライスの作品ほどのどたばた劇はないもののユーモアが豊かな作品です。第1作だからでしょうかヒルデガードは意外と名探偵らしくなく、法廷場面ではかなりしどろもどろになったりもしてますが最後には見事な逆転劇を見せてくれます。なお本書は新樹社版で「エラリー・クイーンのライヴァルたち」として紹介されましたが、クイーン風のガチガチのパズル・ストーリーというよりはむしろコージー派を彷彿させるような軽いタッチのミステリーです。 |
No.1721 | 6点 | ABC殺人事件- アガサ・クリスティー | 2016/09/14 13:21 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1935年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第11作の本書は無差別連続殺人という本格派推理小説では珍しいテーマを扱った意欲作です。ポアロ宛てに殺人予告状が送られたり物語の合間合間で怪人物を登場させるなどサスペンスの盛り上げ方に力を入れた作品です。といっても単なるスリラーに終わることなく謎解きの伏線を細かく配してフーダニットとホワイダニットを実現している手腕はさすがにクリスティーです。犯人の計画がかなり粗くてあそこまで捜査陣が振り回されることに不自然感を感じもしますが、とにかく派手な状況設定を楽しめる作品ではあります。 |
No.1720 | 5点 | グッドホープ邸の殺人- ブルース・アレグザンダー | 2016/09/14 10:18 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) サー・ジョン・フィールディングは実在した18世紀英国の治安判事で、警察の前身である「ボウ街の捕り手たち」を組織・整備してロンドンの治安改善に努めた人物です。米国のブルース・アレグザンダー(1932-2003)は彼を探偵役とした歴史ミステリーのシリーズを書いており、1994年発表の本書はその第1作となる本格派推理小説です。プロットは非常にしっかりしていて、語り手であるジェレミー少年の成長物語としても楽しめますし時代風俗小説としてもよくできています。残念なのは本格派としての謎解きの出来映えが良くないことです。まず密室トリックが脱力モノで、これならわざわざ密室殺人事件に仕立てないでほしいと抗議したいです。それから終盤にサー・ジョンが関係者を集めて謎解きする場面。劇的効果に優れているのはよいのですが、それまで提示されていなかった手掛かりや証言が次から次へと紹介されていて自分で謎解きに挑戦したい読者に対してあまりにアンフェアな印象を与えています。読み物としてはとても面白いだけにその点が惜しまれます。 |
No.1719 | 8点 | 魔王の足跡- ノーマン・ベロウ | 2016/09/13 13:20 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) ノーマン・ベロウの代表作と名高い(とまで有名作ではないか)1950年発表のスミス警部シリーズ第5作にあたる本格派推理小説です。特別な演出はありませんがシリーズ最終作となりました。雪の上の謎の足跡という魅力で最後まで退屈させずに引っ張ります。ベロウの文章は難しい方言が散りばめられて読みにくいとのことですが(幸いにも)国書刊行会版は標準語で翻訳されているので大丈夫でした。トリックは結構複雑ですけれどスミス警部のきめ細かい説明でわかりやすく謎が解かれます。動機が後づけ説明になっているとかの問題点はありますがこれだけ面白いプロットだとそういう欠点もほとんど気にならなかったです。 |
No.1718 | 7点 | 緑色の眼の女- E・S・ガードナー | 2016/09/13 13:07 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1953年発表のペリイ・メイスンシリーズ第42作で、ハードボイルド小説に登場しそうな悪党をメイスンがどうやって退治するかが一つの焦点になっています。もちろん腕力や拳銃ではなく知恵と機略でスマートに対処していますので暴力シーンが苦手な読者も安心して読める点では他のシリーズ作品と同じです。本格派推理小説としての謎解きもしっかりしており、印象的なトリックが使われています。他の作家による使用前例のあるトリックですが解決の伏線の張り方がなかなか巧妙です。 |
No.1717 | 5点 | 死者の身代金- エリス・ピーターズ | 2016/09/13 12:12 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1984年に発表された修道士カドフェルシリーズの第9作で、過去の作品にも登場していたシリーズキャラクターの身の上に重大な出来事が起こる、シリーズファン必読の1冊です(教養文庫版も光文社文庫版も裏表紙の粗筋紹介でネタバレしちゃってますけど)。作中時代は1141年2月、北方へ進軍したスティーブン王の元へシュルーズベリからも援軍を派遣していたが戦局は混乱し、思わぬ殺人事件が発生します。戦局の微妙な変化が豊かに描かれている分、謎解きの興味がやや寸断され気味な点はミステリーとしての評価の分かれるところでしょう。一応犯人当ての本格派ではありますがむしろ誰がどのようにこの事件を決着させるのかという点の方にクライマックスを置いている作品です。あと本筋とは関係ありませんがカドフェルの年齢も本書で明かされています。 |
No.1716 | 5点 | ベンスン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2016/09/13 12:04 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 米国の本格派推理小説黄金時代に大きな足跡を残したS・S・ヴァン・ダイン(1888-1939)は心理分析による推理という、当時としては斬新な手法の採用と広範囲に渡る知識教養を作品に散りばめたことが特徴です。現在ではその作品は古臭いと否定的に評価されることが多いようですが、ミステリーを単なる娯楽作品から知識人の読み物へと地位向上させた貢献はもっと高く評価してもよいのではと思います。本書は1926年に発表されて大評判となったデビュー作です。展開が地味な上に難解な用語がうんざりするほど多用されていてとても読みづらかったですが、22章でのファイロ・ヴァンスによる各容疑者の分析場面やその後に続く証拠固めの場面は無駄がなくてとてもわかりやすかったです。犯人の心理分析は(心理学を全く知らない私には)なるほどと思わせる部分もありますが、唯一絶対の解釈とまで皆が納得できるかどうかは微妙なところでしょうけど。 |
No.1715 | 7点 | 招かれざる客たちのビュッフェ- クリスチアナ・ブランド | 2016/09/13 11:20 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1950年代後半から1970年代までに発表された短編を16作品収めた1983年発表の第3短編集で、本書を読めばブランドが短編ミステリーも抜群に巧い作家だというのが十分納得できます。作風も本格派あり、サスペンス小説あり、犯罪小説あり、ジャンルミックス型ありと多彩かつ逸品揃いです。16作品中6作品は第1短編集と重複収録、4作品は第2短編集と重複収録、6作品は初収録とベストセレクション的に編集されており、これまでのファンにも新規ファンにもアピールできる内容になっています。犯人当て本格派としては何といってもコックリル警部の登場する「婚前飛翔」がため息が出るほど素晴らしいです。短編なのに次から次へとどんでん返しがあって圧倒されました。現時点での短編本格派マイベスト3です。ジャンルミックス型では密室殺人事件の謎解きの醍醐味と狂気じみた結末の組み合わせが凄い「ジェミニー・クリケット事件」はやっぱり外せません。他の作品もみなそれぞれに持ち味があって駄作凡作が一つもないのは驚異的です。なお創元推理文庫版の巻末解説は「婚前飛翔」の犯人名などがネタバレされているので先には読まない方がよいです。 |
No.1714 | 6点 | 第三の銃弾<完全版>- カーター・ディクスン | 2016/09/12 01:40 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 探偵役に本書のみ登場のマーキス大佐を配した1937年発表の本格派推理小説です。もともとはEQMM(エラリー・クイーンズ・ミステリー・マガジン)に投稿されましたがその際には約20%がカットされたそうです(原作者の了解済みです)。ハヤカワ文庫版はカットされる前の完全版でこれから読む人にはこちらがお勧めです。完全版でもかなり短めの長編ですが謎解きの密度は大変濃く、新事実が発見されるたびにかえって謎が深まっていく展開はさすがこの作者ならではです。ただ読者の謎解き参加意欲をかきたてる作品だけに登場人物リストから事件の鍵を握る重要人物(犯人ではありません)の名前が欠落していたのはちょっと残念な気がしました。 |
No.1713 | 9点 | ブラウン神父の童心- G・K・チェスタトン | 2016/09/12 01:26 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 英国のG・K・チェスタトン(1874-1936)は推理小説家としてだけでなくジャーナリストや文芸評論家としても大活躍した人物で、ミステリー作家の親睦団体「ディテクション・クラブ」の初代会長も務めました。彼のミステリーは読者が推理に参加できるように謎解きの伏線が張られているわけではありませんが(それはもっと後年の作家の登場を待たねばなりません)、この時代の作家としては屈指のトリックメーカーとして今なお尊敬を集めています。1911年発表の本書は最も有名なブラウン神父シリーズの12作品を収めた第1短編集です。おぞましささえ感じさせるトリックの「秘密の庭」、大胆極まる犯行の「折れた剣」、何とも変わったブラウン神父の探偵ぶりの「奇妙な足音」など個性豊かな作品が並びます。「神の鉄槌」のようにどう考えても成功率の低いトリックもありますがそれもご愛嬌です。ただ抽象的表現の文章、唐突な場面変換、回りくどい会話があって結構読みにくい一面があります。 |
No.1712 | 4点 | 王宮劇場の惨劇- チャールズ・オブライアン | 2016/09/12 01:02 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 米国のチャールズ・オブライアンは教職を引退してから作家業に転じたという、英国のエリザベス・ルマーチャンドと似たキャリアの持ち主です。2001年発表のデビュー作の本書はフランス革命前のパリを舞台にした歴史ミステリーです。1786年のロンドンで舞台芸人を引退して聾学校の教師の道を目指すアン・カルティエに届けられたのはかつて芸を仕込んでくれた義父アントワーヌがパリで愛人関係の女優を殺害して自殺したというショッキングな知らせ。アントワーヌがそんなことをするとは信じられないアンはパリへ行き、街道巡邏隊隊長のサン=マルタン大佐の助けを借りながら真相を探ろうとするというのが本書のプロットです。推理による謎解きはなく冒険スリラー小説に分類される作品ですがこの人の文章はちょっと抑制が効きすぎてスリルに乏しい感があります。お決まりのヒロイン危機一髪の場面さえももうひとつどきどきしません。文章が下手というわけではないのですが(むしろ読みやすいです)、作風と題材が合っていないような気がします。 |
No.1711 | 5点 | 死のさだめ- ケイト・チャールズ | 2016/09/12 00:29 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1993年発表のディヴィッド・ミドルトンブラウンシリーズ第3作の本格派推理小説です。謎解きとしては過去2作と変わらず大したことありません(笑)。でもこの作者のストーリーテリングはやはり秀逸で、人間ドラマとしてはとても良く出来ています。本書ではルーシーの父親(この人も聖職者です)が登場していますが、変な聖職者ばかりが登場している中でバランスの取れた常識人ぶりが好印象を与えます。そしてディヴィッド、謎解きはするけど微妙な女心には気づいていません!この不器用ぶりが微笑ましいというかもどかしいというか...(笑)。 |
No.1710 | 7点 | 歌う白骨- R・オースティン・フリーマン | 2016/09/12 00:23 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 世界最初の倒叙推理小説「オスカー・ブロズキー事件」をはじめ、ソーンダイク博士の活躍する5作品を収録した1912年発表の第2短編集です。5作品中4作品が倒叙推理小説で、推理小説史上重要というだけでなく内容的にも優れた作品が揃っています。「オスカー・ブロズキー事件」も良く出来ていますが個人的には「計画された事件」がお勧めです。犯人の計画がよく練り上げられているほどソーダイク博士の名探偵ぶりも光ります。他の作品も充実していて当時としては大変緻密な謎解きになっています。犯人の正体が最初から明かされているこのスタイルのミステリーが本格派の主流になれなかったのはもっともだと思いますが(フリーマン自体、普通のフーダニット型作品の方が圧倒的に多いです)、一度は読んでみて損はありません。 |
No.1709 | 5点 | 冷えきった週末- ヒラリー・ウォー | 2016/09/11 03:51 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 本格派推理小説要素の強いフェローズ署長シリーズの中でも1965年に発表されたシリーズ9作目の本書はその極めつけではないでしょうか。丹念な捜査、集められた証拠による推理と検証、そして105項目のデータと29の疑問点を整理したフェローズの捜査メモと実に徹底しており、読者が推理に参加することも可能かもしれません。だが地味なストーリー展開に加えて登場人物があまりにも多いのでじっくり腰を据えて読まないと辛い思いをします(私は辛かったです)。私の記憶に残っているのは最初に事件を担当したラムゼイ署長が何とかフェローズ署長に担当を押しつけようとあれこれ画策している序盤の場面ぐらいでした(この作者には珍しいユーモアを感じました)。 |
No.1708 | 7点 | エラリー・クイーンの新冒険- エラリイ・クイーン | 2016/09/11 03:41 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1940年発表のエラリー・クイーンシリーズ第2短編集で、中編小説「神の灯」に8つの短編の計9作の本格派推理小説を収録した短編集です。本書の顔ともいえる「神の灯」は家屋消失というとびきり魅力的な謎が提示されています。トリック自体は空さんのご講評でも指摘されているように他の作家による前例があるのですが、エラリーが真相を見破るきっかけになった手掛かりが秀逸です。「宝捜しの冒険」では文字通り宝捜しのゲームが描かれ、その手掛かりが文学知識が求められているため私なんぞにはゲームへの参加感はなかったけどちゃんと謎解きにつながっているプロットはなかなか見事です。「血をふく肖像画の冒険」の奇抜な真相も印象的です。それから「ハートの4」(1938年)に登場したポーラ・パリスが再登場する作品が4編あり、それぞれ野球、競馬、ボクシング、アメリカンフットボールといったスポーツをテーマにしています。この中では「トロイアの馬」がトリックは単純ながら競技の緊迫感と謎解きのサスペンスが上手く絡み合った佳品だと思います。 |
No.1707 | 5点 | 殺人はロー・スクールで- ライア・マテラ | 2016/09/11 03:23 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) ライア・マテラ(1952年生まれ)はカナダ出身の米国人女性作家です。本書は1987年発表のデビュー作で、周囲から実力を認めてもらえないウィラ・ジャクソンが殺人事件を解決して見返してやろうと犯人探しをする本格派推理小説です。この時期米国で全盛であったコージー派ミステリーのような申し訳程度の謎解きにせず、しっかりとしたフーダニット型ミステリーになっている点は評価できます。しかしデビュー作故の固さというのでしょうか、登場人物やストーリーがごちゃごちゃし過ぎて読みにくいのはちょっと残念です。 |
No.1706 | 7点 | スターヴェルの悲劇- F・W・クロフツ | 2016/09/11 03:16 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1927年発表のフレンチシリーズ第3作である本書は通常の本格派で見られる、誰が犯人か、どのように殺したか、なぜ殺したのかといった解くべき謎が明確に与えられている事件ではなく一体何が起こったのかという網羅的な謎を扱っているのが特徴です。下手に書くと焦点ぼけの謎解きになりかねない難しいテーマですがクロフツの堅実過ぎるぐらいの作風にはかえってマッチしているように思えます。当時としては思い切ったどんでん返しが用意されているのも印象的で(人によってはこのミスリーディング手法は感心しないかもしれませんが)、初期代表作と評価されているのも納得の一冊でした。 |