皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2813件 |
No.2533 | 6点 | 砂の城- 鮎川哲也 | 2022/07/17 17:48 |
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(ネタバレなしです) 1963年発表の鬼貫警部シリーズ第6作の本格派推理小説です。このシリーズらしく鬼貫以外の警察官による地道な捜査と犯人絞り込み、そして犯人のアリバイ崩しがとん挫した後半に探偵役が鬼貫に交代してアリバイトリックを見破って解決というプロットパターンです。本書の個性は2つの事件で異なるアリバイが用意されていることでしょう。片方は鉄道アリバイですがもう片方がちょっと変わっており、鍵付き鞄の中の雑誌トリックとでも言うのでしょうか。時刻表を見るのが苦手な私としては鉄道トリックばかりではありませんよという作者の主張は褒めてあげたい気持ちもありますけど、何というか最初から小手先トリックの雰囲気がぷんぷんしていているところが微妙でした(トリックは結構コロンブスの卵的で意表を突かれましたけど)。あと鉄道トリックについては光文社文庫版の巻末解説で、作者が用意した正解以外のトリックもあることを指摘されて(慌てた?)作者が他のトリックが使えないような仕掛けを追加して改訂したというのが面白いです。測量ボーイさんのご講評での指摘の通り、現代だったら警察が時刻表検索アプリを使って一発解明して鬼貫の出番なしに終わっちゃうんでしょうけど(笑)。 |
No.2532 | 7点 | 消えた目撃者- E・S・ガードナー | 2022/07/11 06:56 |
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(ネタバレなしです) E・S・ガードナー(1889-1970)のペリー・メイスンシリーズは長編が82作も書かれた割には中短編は非常に少ないです。本書は1970年に日本独自編集でシリーズ中編を3作収めた本格派推理小説の中編集で、私は角川文庫版(1976年)を読みましたが1949年に発表されたと紹介されている「消えた目撃者」が弾十六さんのご講評でガードナー作かどうか疑わしいと指摘されているのに驚きました。慧眼の弾十六さんは英語版の原書情報が見つからないだけでなく文体がガードナーらしくないことまで見抜かれておりますが、恥ずかしながら私は全くそんな疑問を抱かず法廷での見事な逆転劇を堪能しました(偽作なら日本で誰かが創作したのでしょうけどなぜでしょう?)。「叫ぶ燕」(1948年)と「緋の接吻」(1948年)はどちらもシリーズ第34作長編の「用心深い浮気女」(1949年)に一緒に収められて本国で単行本化されており、さすがに真作でしょう。前者のメイスンは弁護士というより私立探偵みたいで、法廷場面もないですし殺人犯の正体は警察が突き止めているのが異色ですが、メイスンもしっかり裏でいい仕事しています。後者は事後従犯者による工作が読者にあらかじめ知らされる倒叙風な展開が印象的で、これでどうやって真犯人にたどり着けるのだろうと思わせますが劇的な法廷場面で鮮やかに決着します。「消えた目撃者」が偽作だとしても良作揃いの中編集だと思います。 |
No.2531 | 5点 | 泣けば、花嫁人形- 斎藤澪 | 2022/07/10 22:22 |
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(ネタバレなしです) 1986年に雑誌掲載され1987年に単行本出版された本書はサスペンス小説か本格派推理小説か微妙な作品です。C★NOVELS版の著者のことばを読むと、(地上げによって)やがて消えるというニュースがしきりだった新宿のゴールデン街の思い出として書かれたようです。風景描写はそれほどありませんが、そこに住む人々を描いてどこか怪しく退廃的な雰囲気はそれなりに表現されているように思います。母親を探す24歳の西尾えりか、母親の行方を知るらしいが教えようとしないゲイバーのママのハリー、そして刑事の岩田の3人が主人公で、ある時は対立しある時は協力し、追い払ったかと思うと探し求めたりしています。3人がそれぞれ抱える秘密や苦い思い出が思惑ありげに示唆され、それが殺人事件の謎解きとも有機的にからみます。人間ドラマを充実させた代わりに捜査や推理がややもすると添え物的に感じられてしまうのはミステリーとしては賛否両論かもしれません。 |
No.2530 | 4点 | ケンカ鶏の秘密- フランク・グルーバー | 2022/07/09 09:02 |
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(ネタバレなしです) 1948年発表のジョニー・フレッチャー&サム・クラッグシリーズ第11作のユーモア・ハードボイルドです。今回は死体発見現場にはいましたけど発見者ではないし他にも大勢の人がいたので事件への巻き込まれ度合いはこのシリーズとしては低い方だと思いますが、第6章でジョニーが「面白半分にあちこち歩いて、人に話を聞いているだけです」ととぼけている内にどんどん深みにはまっていきます。話のテンポがよくてスラスラと読めるし闘鶏までもが入り乱れての終盤のアクションシーンはなかなか盛り上がりますが、解決は度を越して強引に感じます。謎解き伏線は十分でなく推理説明の整理もできておらず、たとえ本格派推理小説を意識していないで書いたとしても真相がわかりにくくて疑問点も残るのは読者として困ります。 |
No.2529 | 5点 | オホーツク流氷殺人事件- 葵瞬一郎 | 2022/07/07 07:22 |
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(ネタバレなしです) 2018年発表の朝倉聡太シリーズ第2作の本格派推理小説です。冬の北海道を舞台にして旧家の一族が次々に殺される事件を扱っているのですが、文章が読みやすいのはいいのですけど贅沢を書かせてもらえるならもう少し寒さとか暗さとかを感じさせる雰囲気描写が欲しかったですね。内田康夫の「小樽殺人事件」(1986年)と比べるとそこは物足りなく感じました。事件関係者を一堂に集めて(よく警察が協力しましたね)朝倉が推理説明を披露する場面はさすがに盛り上がるものの、謎の魅力とトリックの創意では前作の「東海道新幹線殺人事件」(2017年)に劣っているように感じました。 |
No.2528 | 6点 | ウィンストン・フラッグの幽霊- アメリア・レイノルズ・ロング | 2022/07/05 01:02 |
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(ネタバレなしです) 1941年発表の本格派推理小説です。犯罪心理学者トリローニーとミステリ作家キャサリン・パイパーのコンビ登場作としては「<羽根ペン>倶楽部の奇妙な事件」(1940年)に次ぐ作品で、前作の登場人物の何人かが再登場しています。論創社版の巻末解説で説明されているようにメインの事件が起きるのはかなり遅いのですが、遺言状を巡る謎(ちょっと複雑すぎかも)や死体の素性を巡る3人の異なる証言などで中盤までの展開も読者が退屈しないように工夫しています。そしてメインの事件は誰も手を触れていないはずの銃から弾丸が発射されての射殺という、同年に発表されたジョン・ディクスン・カーの「震えない男」(別題「幽霊屋敷」)を連想させる不可能犯罪です(トリックの独創性ではカーが上回ります。もっともカーのトリックが素晴らしいかというとかなり微妙な気がしますが)。十分に楽しめた作品でしたが、巻末解説でこの作者を連続殺人の波状攻撃(四重殺人に五重殺人、何と七重殺人の作品まであるようです)とカー風の怪奇演出を得意とするように紹介しており、(本書はその特徴が弱いので)微妙に欲求不満になってしまいました(笑)。 |
No.2527 | 6点 | 皆殺しパーティ- 天藤真 | 2022/07/02 23:03 |
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(ネタバレなしです) 1972年発表の第4長編である本書の「あとがき」で「この作品は本格であり、あらゆる事件についてデータ(詳細な事実)を提供してあるつもりである。この作品に用いた2つのメイントリックは(中略)、私なりに、かなり苦心したものである」と作者は記述していますが、正統派の本格派推理小説というよりは異形のプロットの破格の本格派の印象を受けました。プロローグで半端ない人数の死者と行方不明者が予告され、主人公(語り手)の命を男女の2人組が殺そうとしていることが第1章で示唆されます。事件が起きるたびに容疑者が減っていくのですが、真犯人に殺されて容疑者リストから消去されるという通常パターンではありません。犯人が2人組らしいことを最初から明らかにしている本格派というとイェジイ・エディゲイの「顔に傷のある男」(1970年)を連想する読者がいるかもしれませんが、正統派プロットの枠から外れないエディゲイ作品とも異なります。非常に個性的な作品なので高く評価する読者も多いでしょうけど、あまりといえばあまりな人間模様にうんざりしてしまう読者も少なくないかも。 |
No.2526 | 5点 | 節約は災いのもと- エミリー・ブライトウェル | 2022/07/01 08:06 |
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(ネタバレなしです) 1994年発表のジェフリーズ夫人シリーズ第4作です。創元推理文庫版の巻末解説でこれまでのシリーズ作品中最も本格派推理小説の謎解き要素が充実しているように評価していますが手掛かりが後出し気味で、推理よりも幸運での解決に感じられてしまうのが残念です。使用人メンバーたちの捜査がなかなか思うような成果を挙げられずジェフリーズ夫人も焦りの色を隠せず、一方で相変わらず自信なさげながらもウィザースプーン警部補が意外とまともに捜査を進めているなどこれまでのシリーズ作品とは異なる雰囲気です。ウィギンズの脳天気ぶりは変わってませんけど(笑)。 |
No.2525 | 4点 | 蒼い鳩殺人事件- 馬場信浩 | 2022/06/29 09:26 |
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(ネタバレなしです) カッパノベルス版の「著者のことば」で「私の精魂を傾けた一編です」とアピールしている1994年発表の本格派推理小説です。鳩の寺として知られる鎌倉の禅寺で密室状態の庵(いおり)で般若の面をかぶった女性の全裸死体と一羽の鳩(こちらは生きてます)が発見されます。庵がラブホテル代わりに使われていたり、幻のブルーフィルムが脚光を浴びたりと通俗的な要素が強いです。どちらかといえばハードボイルドか官能サスペンス向きの題材に思えますが、警察の捜査が暗礁に乗り上げてラグビーライターの浅川の捜査が中心となる後半からは複雑な人間模様の描写に力が入ります。弱者が虐げられる過去の悲劇も容赦なく描かれており、これはこれでありだと思いますが謎解きの面白さは犠牲になっていて、読者を選びそうな作品です。密室の謎解きも長らく放置された挙句に駆け込み式に解明されますが、そもそも密室にする必要性があったんでしょうか? |
No.2524 | 6点 | 閉ざされぬ墓場- フレデリック・デーヴィス | 2022/06/24 00:24 |
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(ネタバレなしです) 人並由真さんのご講評を読んで自分も読んでみたくなった米国のフレデリック・デーヴィス(Frederick C. Davis)(1902-1977)(英国にFrederick H. Davies(1916-1990)という作家もいるらしく紛らわしい)。ネットで調べると複数のペンネームで40作以上の作品を書いています。1920年代からパルプ作家として雑誌に投稿していたようですが、1938年に発表した大学教授(助教授?)で犯罪学の専門家のサイラス・ハッチシリーズ第1作が出世作です。本書は1940年発表のハッチシリーズ第4作で、亡くなった伯父が社主だった新聞社の新たな社主となるべくハッチが田舎町ペンズウイックを訪れます。町の有力者一族から新聞社が名誉棄損で訴えられる事件にハッチが代表として巻き込まれる前半はミステリーらしくありませんがハッチが第三者的立場でないことが丁寧に説明されており、殺人事件が起きてからも犯人探しよりは親しい関係者を窮地から救うことを優先させている個性的な本格派推理小説です。そこが回りくどいと思う読者もいるでしょうが、終盤は畳みかけるような展開で謎解きのスリルをたっぷり味わうことができます。 |
No.2523 | 5点 | トラブル・ハニムーン- 海渡英祐 | 2022/06/19 02:53 |
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(ネタバレなしです) 7作を収めて1985年に発表されたユーモア本格派推理小説の短編集で、恋人同士の男女(第2話では早くも結婚していますけど)がどこにも相談を持ち込みにくい悩みごとを解決するトラブル・コンサルトの事務所を立ち上げて事件に巻き込まれるというものです。主人公(男)が熱烈なヒッチコック映画ファンで事件解決後に映画にちなんだタイトルを付けるのが特徴ですが第1話の「引き裂かれた写真」こそ映画シーンを意識してのパロディー要素が強いものの、映画を読者が知らなくても大きな問題になりません。推理が正しいのか証明されないままに終わって(犯人も罰せられず)微妙にすっきりしない作品もありますが、明るくて軽くて読みやすい作品ばかりなのでまあいいかという読後感になります。伝奇本格派を意識した(でもあまり怖くない)「赤い恐怖」はヒッチコックよりもコナン・ドイルの某作品を連想しますね。 |
No.2522 | 6点 | おうむの復讐- アン・オースチン | 2022/06/17 23:33 |
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(ネタバレなしです) 250人もの海外本格派推理小説の書き手を紹介している森英俊編の「世界ミステリ作家事典『本格派篇』」(1998年)にも載っていない米国のアン・オースチン(1895-1975)。人並由真さんが本サイトにご講評を投稿されていなかったら私は存在に気づくことさえなかったでしょう。ミステリー作家としての活躍期間は約10年と短い上に10作にも満たない本格派推理小説が残されたのみのようです。本書は1930年発表のジミー・ダンディーシリーズ第1作です。ダンディーは第13章で「人の感情を傷つけることの決してできない性質」と紹介されているように好青年の刑事として感情豊かに描かれており、「サード・ディグリー」(厳しい尋問の意味)には頼らず、同僚との会話にはユーモアさえ滲ませます。ダンディーの考えていることを読者に対してオープンにしているところはクロフツのフレンチ警部シリーズに通じますが、中盤の第14章で「犯人の名前がわかりましたよ!」とダンディーに語らせながらなお終盤まで犯人の正体を隠すことに成功しています。世界推理小説全集版の巻末解説ではおうむの役割に失望していますが、(ダンディーは期待してたけど)ワトソン役を演じさせたらさすがに非現実的に過ぎるでしょう。 |
No.2521 | 5点 | 幻狼殺人事件- 梶龍雄 | 2022/06/13 02:17 |
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(ネタバレなしです) 1984年発表の本格派推理小説です。kanamoriさんのご講評で指摘されているように横溝正史の名作「八つ墓村」(1949年)を意識したかのような作品ですがスリル感では「八つ墓村」が、本格派推理小説としては本書の方が充実していると思います。もっともプロローグの暴力的描写の連続は好き嫌いが大きく分かれそうですね。戦前に起きた事件の謎解きと、現代に起きた事件の謎解きが複雑に絡み合います。前者については犯人は最初からわかっていてなぜ事件が起きたのかの動機の謎解きなのですが、連続女性暴行事件の理由なんか知りたくもないという読者もいるかもしれませんけど。終盤には鍾乳洞での冒険シーンが織り込まれ、サスペンス濃厚な舞台での謎解きが圧巻です。図解入りでの大トリック説明まであります。 |
No.2520 | 4点 | クロームハウスの殺人- G・D・H&M・I・コール | 2022/06/11 21:06 |
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(ネタバレなしです) 1927年発表の本格派推理小説でシリーズ探偵は登場しません。アマチュア探偵(大学講師)が謎解きに挑むプロットですが、彼1人だけでなく弁護士や犯人と疑われた容疑者の婚約者や怪しい人物を見たという証言者などが捜査に参加します(警察はほとんど登場しません)。被害者が銃を突きつけられている2種類の写真(銃を持つ人物が異なっています)など面白そうなネタもあるのですが捜査が進展しているという雰囲気もなく、かといって謎が深まるという感じでもなく、探偵役を複数揃えたわりには謎解き議論も盛り上がらずとメリハリに乏しい謎解きプロットです。解決も推理より自白に頼っている印象を受けました。コール夫妻の代表作と評価されているそうですが、個人的にはぴんときませんでした(あまりこの作者の作品を読んでいないのですけど)。突然始まり突然終わった締め括りのロマンスも何のために挿入されたのか理解できませんでした。余談ですが論創社版の巻末解説で夫婦コンビ作家について「国内では折原一と新津きよみのほかに例がない」と紹介されてますけど松木警察署長シリーズの警察小説を書いた石井竜生と井原まなみは確か夫婦のコンビ作家だったように記憶しています(折原一と新津きよみのコンビを知らなかったので私もエラそうにできませんけど)。 |
No.2519 | 5点 | 能面殺人事件- 高木彬光 | 2022/06/06 22:35 |
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(ネタバレなしです) 1949年に発表されたミステリー第2作の本格派推理小説です。作中で「世界探偵小説史上に前例のない形式」と豪語するほどの意欲作ではあるのですが、読者の評価は大きく分かれそうな気がします。というのは海外ミステリーの数々が引用され、現代ではマナー違反とされるネタバレもあります。ネタバレ自体が目的なのではなく、それらとは違うアイデアの作品ということを強調したかったのでしょうけどアイデアの根幹部には既視感があります。色々な枝葉を付けて確かに「前例のない形式」に仕立ててはいるのですが、独創ではなくアレンジに過ぎないと評価する読者もいるかもしれません。古典ミステリーを研究し尽くした作者だからこそ書けた作品だとは思いますが。なお作中でネタバレされた作品はヴァン・ダインの「カナリヤ殺人事件」(1927年)、「グリーン家殺人事件」(1928年)、「僧正殺人事件」(1929年)、アガサ・クリスティーの「アクロイド殺害事件」(1926年)でこれらは先に読んでおいた方がいいでしょう。あと殺人方法は某作品の有名トリックを丸パクリしていますが、私の読んだ角川文庫版では巻末解説でその某作品名をばらしているのに笑いました。 |
No.2518 | 6点 | 時計は三時に止まる- クレイグ・ライス | 2022/06/04 21:25 |
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(ネタバレなしです) 米国の女性作家クレイグ・ライス(1908-1957)が1939年に発表したミステリーデビュー作です。作風がユーモア本格派推理小説と認識されていることが多い作者ですが、本書の死体発見場面はまるでゴシック・ホラー風な雰囲気なのに驚かされます。もしも死体発見者で最有力容疑者となったヒロイン視点のまま物語を展開させていたら1級のサスペンス小説に仕上がったかもしれませんが、本書は酔いどれ弁護士マローンシリーズ第1作であります。とんでもない行動でとんでもない展開となるところは早くもライスの個性が発揮されており、ハリウッドを舞台にして派手などたばた要素を織り込んだエラリー・クイーンの「悪魔の報復」(1938年)や「ハートの4」(1938年)を意識したのかもしれません。もっともヘレンを事件関係者に設定したためか、これでも後年作と比べるとユーモアはまだ抑え目ですが。随所で酒の勢いを借りる場面が描かれていますが、下品な方向に走らないのもこの作者ならではです。殺人現場の時計が全て三時で止まっていたという風変わりで魅力的な謎の真相はそれほど印象に残りませんが、犯人を特定するマローンの推理はなかなかの切れ味です。余談になりますが私の読んだ光文社文庫版は5章が尻切れトンボ状態で、文章が終わらないまま次ページへ進むといきなり6章が始まってショックでした。 |
No.2517 | 5点 | 影の鎖- 夏樹静子 | 2022/05/31 07:44 |
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(ネタバレなしです) 夏樹静子(1938-2016)はデビュー長編の「天使が消えていく」(1970年)以降の活躍が読者層の記憶に残っていると思いますが、1977年出版の短編集である本書に収められている、文春文庫版で100ページ近い中編の「影の鎖」は1962年の作品です(解説の宮部みゆきによると活字化された最初の作品らしいです)。第1章で愛する夫と子供を轢き逃げで殺されて生活のために車のセールスマンとなった久子の物語、第2章では不倫恋愛中に夫が毒殺された菅夫人の物語と続く本格派推理小説です。轢き逃げ犯は唐突な自白で明らかになってしまって推理要素など全くありませんが、それが作品の弱点にはならないプロットが巧妙です。文春文庫版の裏表紙では「五篇の本格推理を収録」と紹介されていますが、トリッキーな「ハプニング殺人事件」はまあ本格派らしさを感じますが、真相自体は印象的ながら読者が推理するための情報が十分に与えられず自白による解決が謎解きとして物足りない作品が多いです。 |
No.2516 | 5点 | 細工は流々- エリザベス・フェラーズ | 2022/05/29 23:21 |
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(ネタバレなしです) 1940年発表のトビー・ダイク&ジョージシリーズ第2作の本格派推理小説です。英語原題は「Remove the Bodies」で、これはおそらく終盤の第13章の手記の中で語られていることを指しているように思われます。しかしそこに至るまで読み進めるのが結構辛かったです。質問に対してまともに答えないシーンが多過ぎて回りくどく、物語のテンポがぎくしゃくして読書への集中力が削がれます。明確に毒殺である事件と(日本語タイトルの元ネタである)数々の殺人装置の組み合わせも焦点の定まってない謎に感じられて謎解き意欲が高まりません。推理は動機と心理分析が多くを占めていますが、(私の読み込みが浅いのも間違いありませんが)犯人はこの人しかありえないという説得力をもった証拠が不足しているように思います。 |
No.2515 | 5点 | 密室館殺人事件- 市川哲也 | 2022/05/29 10:02 |
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(ネタバレなしです) 2014年発表の「名探偵の証明」三部作の第2作である本格派推理小説です。本書では名探偵(蜜柑花子)のせいで家族を殺されたと逆恨みする人物を登場させて名探偵の役割と責任を考えさせる趣向があるのが「名探偵の証明」である所以でしょうけど、それ以上に「推理小説の犯罪と現実の犯罪の違い」についてを蜜柑に語らせているのが印象的です。とはいえデス・ゲーム要素を織り込んでいるところからして非現実的な作品世界なのは避けようもなく、ごく一部の要素だけ「現実的」にこだわってもあまり意味がないように思います(極端すぎな非現実も困りますけど)。これでは名探偵ジャパンさんのご講評で指摘されているように面白い謎解きを創作できなかった言い訳に感じられてしまうのではないでしょうか。本書のタイトルでリアリティー重視の社会派推理小説を期待する読者はそうはいないと思いますので、もっと羽目を外した謎解き(少なくとも密室には何かこだわりの工夫)に挑戦してほしかったです。 |
No.2514 | 5点 | アデスタを吹く冷たい風- トマス・フラナガン | 2022/05/27 10:28 |
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(ネタバレなしです) 大学の教員が本職だった米国のトマス・フラナガン(1923-2002)のミステリー作品は「玉を懐いて罪あり」(「北イタリア物語」という邦題もあります)(1949年)から「もし君が陪審員なら」(1958年)までの7作の短編のみです。きちんと確認したわけではありませんが本国では雑誌掲載されたのみのようで、日本で1961年に出版されたハヤカワポケットブック版が世界初の短編集ではないでしょうか。架空の『共和国』を舞台にした4作のテナント少佐シリーズでは密輸トリックの謎解きの「アデスタを吹く冷たい風」(1952年)が有名ですがテナント少佐が自慢するほど「論理的な証明」とは思えず、トリックも平凡に感じました。密輸トリックとしては「国のしきたり」(1956年)の方が巧妙に感じます。非シリーズ作品の「玉を懐いて罪あり」はどんでん返しが印象的で、最後の一文はジョン・ディクスン・カーの某短編を連想させます。「もし君が陪審員なら」は謎解き議論(但し容疑者は1人だけ)がありますが最後は不気味な結末が用意されているところはクリスチアナ・ブランドの某作品に通じますね。推理説明があまり上手くないのが惜しいですが、意外性(犯人の正体とは限らない)の演出が効いた本格派推理小説が多いです。 |