皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2865件 |
No.245 | 7点 | 水琴館の惨劇- 岩崎るりは | 2011/09/04 14:48 |
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(ネタバレなしです) 猫のブリーダー出身という女性作家の岩崎るりはの2002年発表のミステリーデビュー作です。耽美ミステリーと紹介されていますが、美の演出という点では綾辻行人の「霧越邸殺人事件」(1990年)や佐々木丸美の「崖の館」(1977年)の方が個人的には上回るように感じました。むしろエキセントリックな登場人物たちの間で繰り広げられるとんちんかんなやりとりが醸し出すユーモアの方が印象的でした。時に相手を侮辱していますが不思議と後味は悪くありません。プロットが錯綜気味になってしまうところもありますが、終盤のたたみかけるような謎解きはなかなか読ませる力を持っており、本格派推理小説として十分楽しめました。 |
No.244 | 6点 | 死への夜行フェリー- パトリシア・モイーズ | 2011/09/04 14:33 |
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(ネタバレなしです) 1985年のヘンリ・ティベットシリーズ第17作です。犯罪組織がらみの宝石盗難事件をテーマにしたスリラー小説風なプロットですが、しっかりした謎解きの本格派推理小説として楽しむこともできるジャンルミックス型ミステリーとして成功作だと思います。派手な演出はありませんが大胆などんでん返しが印象的な謎解きでした。 |
No.243 | 6点 | 悪意- 東野圭吾 | 2011/08/23 22:31 |
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(ネタバレなしです) 1996年発表の加賀恭一郎シリーズ第4作です。犯人当て本格派推理小説としては物語の3分の1ぐらいで完了しています。本書の真価が発揮されるのはむしろここからで、犯人がかたくなに明かそうとしない秘密に加賀刑事がじわじわと迫っていきます。単なる犯行動機だけでなく犯人の人間性までもが明かされるプロットは、地味ながらぐいぐいと読者を引きつけます。なお講談社文庫版の巻末解説では犯人の正体を明かしているので事前には読まないよう注意下さい。 |
No.242 | 5点 | フレンチ警視最初の事件- F・W・クロフツ | 2011/08/23 22:07 |
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(ネタバレなしです) 1948年発表のフレンチシリーズ第27作で、フレンチが警視に昇進して最初の事件という位置づけです(英語原題は「Silence for the Murderer」)。驚いたことに全18章の物語の第9章を終えた時点で、「手掛かりは全て読者に提示されている」という「読者への挑戦状」が挿入されています。とはいえそこから解決に至るまで物語の半分がまだ残っているというのは、プロット構成としては冗長になってしまった感は否めません。犯人当てとしてはやや容易な展開ですが、ぎりぎり土壇場でどんでん返しを用意したのが一工夫になっています。 |
No.241 | 5点 | 獄門島- 横溝正史 | 2011/08/23 21:50 |
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(ネタバレなしです) 金田一耕助シリーズ第2長編にして最高傑作と評価する人も多い、1947年発表の本格派推理小説です。作中時代は1946年、自分が帰らないと3人の妹たちが殺されると言い残して復員船の中で死んだ獄門島出身の戦友のことを伝えるために金田一が島へ渡ったのをきっかけになったかのように連続殺人が起きるプロットです。なるほど優れた部分も数多く、舞台描写や死体演出は際立っているし、第一の殺人事件の金田一の説明は戦慄を覚えるほどの凄みがあります。動機も私の想像できる範囲を越えていました。もっともそのためか一般読者には真相を当てようがないアンフェアな謎解きに感じてしまったのですが。 |
No.240 | 7点 | 白夫人の幻- ロバート・ファン・ヒューリック | 2011/08/23 18:18 |
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(ネタバレなしです) 地元民が「白夫人」と呼ぶ河の女神の伝説が今なお残る蒲陽で九艘の龍船による渡河(ボートレース)が行われていた。しかし見物しているディー判事らの眼前でトップ争いをしていた龍船の選手が倒れて死んでしまう1963年発表のディー判事シリーズ第9作は、シリーズ全作品でも最も本格派推理小説らしい作品です。サイドストーリーによる回り道が少なく、連続殺人事件の犯人探しに集中しています。ディー判事が容疑者の名前を1人ずつ挙げながら犯人である可能性について吟味している場面は謎解き好き読者には受け入れやすいでしょう。容疑者を一堂に集めての結末のサスペンスも出色です。 |
No.239 | 5点 | 奥能登呪い絵馬- 山村正夫 | 2011/08/23 17:58 |
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(ネタバレなしです) 1988年発表の滝連太郎シリーズ第4作で、当時の作者が力を入れていた伝奇本格派推理小説です。能登の義経伝説が作中で取り上げられていますが伝奇本格派の要素はそれほど強くなく、普通の本格派推理小説の印象を受けました。人間消失や密室といった不可能犯罪を扱っていますが最終章で滝が開設している通り、「推理小説ファンが聞いたらさぞかし怒るに違いないちゃちなトリック」頼みです。全体として展開が遅く、登場人物関係が非常に複雑で読みにくいのも辛かったです(自分で登場人物リストを作ることを勧めます)。それでも安直なハッピーエンドで終わらせず、余韻の残るエンディングにしているところはさすがです。 |
No.238 | 10点 | そして誰もいなくなった- アガサ・クリスティー | 2011/08/23 17:41 |
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(ネタバレなしです) 1939年発表のクリスティーの傑作中の傑作。何度も映画化されています。孤島ミステリーの先駆としてはアントニイ・バークリーの「パニック・パーティ」(1934年)よりも後発ですけどそんなことは本書の評価に影響しません。全員が探偵で、全員が容疑者で、全員が被害者(になるかも)という大胆極まりない設定を見事に描いています。推理物としては伏線が十分でないとか粗(あら)もいくつかありますが完成度を超越した面白さがあります。後世への影響も大きく、まさに古典的名作です。 |
No.237 | 5点 | 学ばない探偵たちの学園- 東川篤哉 | 2011/08/17 19:37 |
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(ネタバレなしです) 2004年発表の鯉ヶ窪学園シリーズ第1作です。強烈な個性の登場人物によるユーモア豊かな展開、それでいて本格派推理小説としては正統派と烏賊川市シリーズとテイストは共通しています。ユーモアという点では時事ネタが多いのが辛いと思います。ミステリー作品を揶揄したギャグはまだしも、プロ野球選手の名前を羅列しているのはそれなりに通の人しか理解できないだろうし、時間が経過すると風化してしまうのではないでしょうか。密室トリックもユニークではありますが、知る人ぞ知る小道具を使っているのがマイナスポイントでは。少なくとも海外のミステリー読者には紹介しづらい作品だと思います。ただ被害者が無抵抗だった理由など、よく考えられた部分もあります。 |
No.236 | 8点 | 黄泉の国へまっしぐら- サラ・コードウェル | 2011/08/17 16:33 |
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(ネタバレなしです) 1984年に発表されたティマー教授シリーズ第2作の本格派推理小説で個人的にはこの作者の最高傑作だと思います。序盤は遺言書の内容把握、遺族の人間関係、どの弁護士が誰の代理人かを頭の中で整理するのに大変でしたがそれをくぐり抜けると俄然読みやすくなります。謎解き伏線の張り方が実に巧妙で、単なるサイドストーリーネタと思わせて実は重要な手掛かりだったという仕掛けは感心するばかりです。どんでん返しも鮮やかだしティマー教授と弁護士たちの会話もユーモアとウイットに富んでいます。 |
No.235 | 3点 | 六月の桜 伊集院大介のレクイエム- 栗本薫 | 2011/06/30 19:52 |
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(ネタバレなしです) 2007年発表の伊集院大介シリーズ第29作で、「伊集院大介のレクイエム」という副題を持っています。犯罪は起きるし、伊集院大介が真相を明かしているのですが、メインプロットは完全に恋愛小説のそれです。11歳の桜子と77歳の津坂の年の差カップル(?)の行く末はどうなるだろうと興味を持って読む分にはなかなかよくできた作品だと思います。しかしミステリーとしてはあまりにも薄味としか評価できません。 |
No.234 | 6点 | 紳士と月夜の晒し台- ジョージェット・ヘイヤー | 2011/06/10 08:20 |
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(ネタバレなしです) 10代の若さでデビューした英国の女性作家ジョージェット・ヘイヤー(1902-1974)は歴史ロマンスの祖として名を残しましたが、56冊の長編作品の中には12のミステリーが含まれています。1935年発表の本書はハナサイド警視シリーズ第1作の本格派推理小説です。第16章でのハナサイド警視のせりふにあるように、「容疑者たちはみな動機があるうえにアリバイはない」状態が延々と続き、強力な証拠もなかなか出てこないというやや単調なプロットの本格派推理小説です。ユーモアを適度に交えた会話の連続で何とか退屈ぎりぎりの線で踏みとどまったという感じです。せっかくの晒し台をもう少し活かすような演出でもあればと思いますが。 |
No.233 | 7点 | 桜闇- 篠田真由美 | 2011/05/29 15:45 |
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(ネタバレなしです) 1999年発表の建築探偵・桜井京介シリーズ唯一の短編集です(番外編の短編集は他にありますが)。繊細で多彩なキャラクター描写と彼らが織り成す人間ドラマをじっくりと構築していく作者なので、ページ制限のある短編ではどうだろうかと読む前には不安がありましたが、これはこれでよくできています。変則的二人称形式という大胆な小説技巧が光る作品、桜井京介の名前を1度も使わない不思議な作品、ほのぼのした家庭ドラマみたいな作品、虚しさと哀しさしか残らない作品、ミスディレクションが巧妙な謎解きの作品などバラエティーに富んでいます。 |
No.232 | 6点 | 首なし騎士と五月祭- ケイト・キングズバリー | 2011/05/26 20:28 |
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(ネタバレなしです) 1994年発表のペニーフット・ホテルシリーズ第4作です。首なし騎士にリボンで柱にくくり付けられた死体と非常に魅力的な謎が提示されますがプロットは地道なアリバイ崩しがメインで、せっかくの謎が活かしきれていないのがもったいなく思えます。特に首なし騎士登場の理由が曖昧なままなのは不満にさえ感じます。とはいえ犯人当てとしてはちょっとした証言の矛盾に基づくセシリーの推理はそれなりの説得力をもっていますし、ホテルの使用人たちが織り成す人間ドラマがなかなか充実したサイドストーリーを築き上げています。セシリーのブレーキ役をほとんど放棄しているバクスターの存在感がいまひとつだったのがちょっと気になりましたが。 |
No.231 | 5点 | i(アイ)―鏡に消えた殺人者- 今邑彩 | 2011/05/22 12:57 |
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(ネタバレなしです) この作者は本格派推理小説とホラー小説を書き分けているようですが、1990年発表の貴島柊志刑事シリーズ第1作である本書は両者のジャンルミックス型です。ジャンルミックス型としては両方の特色を出すことに成功したと言えると思います。だた自分自身は本格派謎解きが大好き、ホラー・サスペンス系が苦手な読者なので、好きな作品かと問われるとこの点数評価に留まります。トリック自体は凄いとは思いませんが不可思議な謎を合理的に謎解きしているし、どんでん返しも上手いと思いますが、最後のホラー風雰囲気はやはり自分の好みに合いませんでした。私が好みの激しいかなり特異な読者なのであって、おそらくはもっと高く評価する読者が多いとは思います。 |
No.230 | 6点 | 最上階の殺人- アントニイ・バークリー | 2011/05/06 13:56 |
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(ネタバレなしです) 1931年発表のロジャー・シェリンガムシリーズ第7作です。「毒入りチョコレート事件」(1929年)や「第二の銃声」(1930年)と比べるとロジャー・シェリンガムのひたすら地道な捜査を描いた本書はバークリーにしては普通過ぎる本格派推理小説にしか感じられないかもしれません(第10章ではロジャーがちょっと暴走していますが)。しかし最終章での強烈極まりない結末はやはりバークリーにしか書けないものでしょう。新樹社版の翻訳はそのインパクトを見事に再現しており、これは名訳です。 |
No.229 | 6点 | 奇蹟のボレロ- 角田喜久雄 | 2011/05/06 11:25 |
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(ネタバレなしです) 1948年発表の加賀美捜査課長シリーズ第2作で、同じシリーズ作品でも「高木家の惨劇」(1948年)とは趣きが異なる作品でした。アリバイトリックものという点では共通していますが、容疑者全員が椅子に縛り付けられていて動けなかったというアリバイは古今東西例を見ないのではないでしょうか。前半は音楽界を舞台にしたプロットですが、中盤以降は奇術色が濃くなるのも特徴です(ある奇術の図解入り解説まであります)。トリック自体はそれほど優れたものとは思いませんが、複雑な人間関係が絡むどんでん返しはスリリングな謎解きを生み出しています。角田喜久雄(1906-1994)はミステリーよりも時代小説の方が多く、この魅力的なシリーズも長編2作と短編7作のみで終わってしまい、ミステリー作家としては同時代の横溝正史や高木彬光ほどの名声を得られませんでした。 |
No.228 | 6点 | 死が二人を別つまで- ルース・レンデル | 2011/05/06 09:36 |
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(ネタバレなしです) 1967年に出版された本書はウェクスフォードシリーズ第2作目にして異色作ともいうべき作品。解決済みの事件を再度調べ直す本格派推理小説は、アガサ・クリスティーの「五匹の子豚」(1942年)や「マギンティ夫人は死んだ」(1952年)、エラリー・クイーンの「フォックス家の殺人」(1945年)、レジナルド・ヒルの「甦った女」(1992年)などいくつもありますが、最初に解決していたのが名探偵(ウェクスフォード)という設定が非常に珍しいです。17章の最後で明かされた真相には肩透かしと感じる読者もいるかもしれませんが、ウェクスフォードを第三者の視点から描写したり、アマチュア探偵の何とも心もとない行動を描いたりと本書ならではの読みどころが沢山あります。 |
No.227 | 5点 | マスグレイヴ館の島- 柄刀一 | 2011/05/06 09:12 |
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(ネタバレなしです) 2000年発表の第6長編にあたる本格派推理小説で、光文社文庫版の(乾くるみの)巻末解説によれば重厚でとっつき難いというイメージを打破する作品とのことですが、確かにそれまでの作品に比べれば読みやすいです。とはいえ文章が平明過ぎるというのか、物語としてのメリハリがなくて盛り上がりを欠いています。密室内の墜落死とか食料に囲まれた餓死者とか謎の魅力は十分以上で、更には「読者からの挑戦状」(「読者への挑戦状」ではありません)に大胆なトリックなど本格派推理小説の傑作となり得る要素は持ち合わせているのですが小説として味気ないのが大変惜しまれます。人称切り替えの導入も実験精神は評価されてもいいかもしれませんけど、それほど効果的ではなかったように思います。 |
No.226 | 7点 | サンタクロース殺人事件- ピエール・ヴェリー | 2011/05/06 08:35 |
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(ネタバレなしです) 1934年発表の本書は7つの長編に登場する弁護士プロスペール・ルビックを探偵役にした代表作で、1941年には映画化もされています。犯人当て本格派推理小説としてはアンフェアな部分があり、自力で謎解きをしたい読者は少なからず不満を覚えるかもしれません。しかしその欠点を補って余りあるほどの魅力があり、ファンタジーとミステリーの融合という点ではかなりの成功を収めた作品と言えるのではないでしょうか。舞台が田舎町なので大都会のような派手なイルミネーションや巨大なツリーこそありませんが、昔風のクリスマスの雰囲気が豊かです。子供たちが遊びまわり、城館での舞踏会があり、当然サンタクロースも登場します。お約束事の雪もちゃんと降っています。謎解きとしても凝っていて、シンプルなプロットの裏に豊富なトリックと思わぬどんでん返しが仕掛けてあります。子供が読んでも大人が読んでも楽しめます。 |