皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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nukkamさん |
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| 平均点: 5.44点 | 書評数: 2921件 |
| No.301 | 6点 | 支笏湖殺人事件- 草野唯雄 | 2012/04/23 16:19 |
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| (ネタバレなしです) それまでシリーズ探偵物に重きを置いていなかった草野は1980年に発表した本書で私立探偵の尾高一幸シリーズをスタートさせます(これより前の1970年代にはハラハラ刑事シリーズが先に発表されていますが)。まだ本格派推理小説にとって厳しい時代の作品だからでしょうか。私の読んだ徳間文庫版の裏表紙では「殺人犯の夫の汚名を晴らす長編復讐劇」などと紹介されています。特にお仕置きシーンがあるわけでもなく(笑)、尾高の丹念な捜査と推理を描いた本格派推理小説です。犯人当てとしては通常だと私にとってはアンフェア気味にさえ感じてしまう真相なのですが、本書の場合は尾高が早い段階から可能性として明快に示唆しており、そういう不満を感じさせませんでした。地味ながら退屈させない語り口、叙情性を感じさせる結末など一読の価値は十分にあります。 | |||
| No.300 | 6点 | 土曜日ラビは空腹だった- ハリイ・ケメルマン | 2012/03/11 15:21 |
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| (ネタバレなしです) 1966年発表のラビ・スモールシリーズ第2作です。自殺かもしれない死者をユダヤ教の葬儀で埋葬するかどうかでラビと教会理事会が対立します。これだけなら宗教物語で終わりますが、ちゃんと謎解きプロットと密接な関係を保っており、本格派推理小説の良作に仕上がっています。宗教色が濃いといっても決して神がかったような内容ではなく、どうすればみんなが納得できるのかという問題として扱っており、とてもわかりやすく共感しやすいです。 | |||
| No.299 | 6点 | 深夜の訪問者- 大谷羊太郎 | 2012/03/08 20:17 |
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| (ネタバレなしです) サスペンス小説風なタイトルですが、密室に芸能界描写とこの作者らしさが楽しめる1975年発表の本格派推理小説です。密室トリックは綱渡り的なところもありますがアイデアとしては面白いです。中盤で「自白」(のようなもの)があるのにびっくりしました。その後この自白ははったりではという疑惑が生じたり、別の人物の自白があったりと色々やっていますが犯人当てとして楽しめるかどうかは微妙な出来栄えに感じました。無用な登場人物の多さと通俗的な語り口が気になりますが、締めくくりは人情味があって読後感は悪くありません。 | |||
| No.298 | 5点 | 二流小説家- デイヴィッド・ゴードン | 2012/03/02 21:13 |
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| (ネタバレなしです) 米国のデイヴィド・ゴードンはコピーライター、スクリーンライター、ゴーストライター(!!)など執筆に関わる様々な職業を経験しています。ミステリー作家としては2010年発表の本書でデビューしますが、複雑なプロットながら文章はさすがに手慣れた感があります。ジャンル・ミックス型のミステリーで、この種の作品は大概が2種類かせいぜい3種類のミックスですけど本書は作中作として織り込まれている小説断片も含めれば本格派推理小説、SF小説、ホラー小説、冒険小説、サイコサスペンス、ハードボイルドなど実に様々な要素が楽しめます(案外とSF小説の部分が面白い)。エログロあり、ユーモアあり、悲劇調ありと実に多彩、それでいて詰め込み感はなく意外と読みやすいですし、文章が洗練されているのでエログロが過激でも後味は悪くありません。もっとも特定ジャンルにしばられないことは一方でとらえどころのない作品という印象も残しており、私のように本格派推理小説ばかり選ぶようにしている偏愛型読者だと「読者への挑戦状」的メッセージがあって主人公による推理場面があっても(謎解き以外の要素が非常に多いため)謎解きをたっぷり堪能できたという読後感がありませんでした。 | |||
| No.297 | 6点 | 双月城の惨劇- 加賀美雅之 | 2012/03/02 20:48 |
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| (ネタバレなしです) 急死が惜しまれる加賀美雅之(1959-2013)が2002年に発表したデビュー作で、細部までよく考えられた本格派推理小説です。探偵役の名前がシャルル・ベルトラン予審判事ということからも予測しやすいでしょうが、あのジョン・ディクスン・カーのアンリ・バンコランシリーズを強く意識した作品です。もっともヴァン・ダインの二十則をいくつか破っているので、読者に対してフェアプレーかというと微妙な気もします(二十則が絶対的なものではないとはいえ)。しかしながら大小さまざまなトリックと縦横無尽に張り巡らされた手掛かりに基づく推理は圧巻です。物語性とか登場人物描写とかはほとんど無視されていますので、本格派嫌いの読者には絶対受けない作品でしょうけど、ここまで謎解きに徹していると個人的には天晴れと褒めてあげたいです。 | |||
| No.296 | 5点 | 裏返しの男- フレッド・ヴァルガス | 2012/03/02 20:39 |
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| (ネテバレなしです) ヴァルガスの書くプロットは非常に個性的ですが、1999年発表のアダムスベルグシリーズ第2作もまた独特の味わいがあります。本格派推理小説としては欠点の方が目立ちます。犯人はまあこの人しかいないだろうというものだし動機に関しては完全に後付け説明で、しかもアダムスベルグだけが前もって知っていたというのでは謎解き派の読者に対してアンフェアと批判されても仕方ないでしょう。一方通行的な会話が多くて読みにくい部分も多いです。とはいえ不思議な因縁で結成されたトリオ(後で人数は増えます)による狼(または狼人間)の追跡劇は読者を退屈させません。全編不気味な雰囲気で覆われていますが読後感は意外と爽やかです。 | |||
| No.295 | 5点 | 原子炉の蟹- 長井彬 | 2012/02/27 16:24 |
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| (ネタバレなしです) ジャーナリスト出身の長井彬(1924-2002)は定年退職後にミステリー作家になった遅咲き型で、デビュー作である本書は1981年の発表です。社会派推理小説と本格派推理小説、両方の要素を持っていますが謎の魅力よりも原発開発にからむ社会事情描写の方が目立つプロットであることから個人的には社会派に分類される作品だと思います。(広義の意味での)密室、(拡大解釈気味ですが)見立て殺人、謎めいたメッセージなど本格派好きにアピールするネタも揃ってはいますが扱い方はかなり地味だし、探偵役の曾我の推理で全ての謎が解明されるわけではなく犯人の自白で解明される謎があるのも謎解き好き読者の評価は分かれそうです。前半はややドライに過ぎる物語ですが、事件関係者の諸事情が明らかになる後半は感情に訴える場面も増えます。 | |||
| No.294 | 5点 | 死者を起こせ- フレッド・ヴァルガス | 2012/02/16 18:40 |
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| (ネタバレなしです) 1995年に発表されたミステリー第4作の本書では探偵役として3人の歴史学者(マルク、マティアス、リュカ)と元刑事でマルクのおじであるアルマンの4人が事件を調べます。本格派推理小説ではあるのですが直球勝負のポール・アルテと比べるとヴァルガスはプロットがかなりひねってある印象を受けます。この「ひねり」とは容疑が転々とするとか大胆などんでん返しとかのことではありません。サスペンス小説調になったりユーモア小説調(それもかなりひねくれた)になったり、挙句には謎解きを放棄しているように感じられたりと本格派推理小説のプロットから何度も脇道にそれています。結末はそれなりに意外性があると思うし謎解き伏線も張ってはあるのですが、この「ひねり」にどこまで読者が付いていけるかで評価が分かれそうです。 | |||
| No.293 | 6点 | 虹列車の悲劇- 阿井渉介 | 2012/02/03 21:34 |
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| (ネタバレなしです)1992年発表の列車シリーズ第9作ですが、シリーズの中で異彩を放つ作品となりました。短時間で白骨化した死体に妖しげな虹の出現と魅力的な謎もありますが、本書で最も力を入れたのが人間ドラマの部分でしょう。これがなかなかよくできています。確かに登場人物の行動には身勝手なところが多いのですが共感できる部分もあって奥行きのあるストーリーになっています。 | |||
| No.292 | 6点 | 絃の聖域- 栗本薫 | 2012/01/26 20:17 |
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| (ネタバレなしです) 1980年発表の伊集院大介シリーズ第1作の本格派推理小説です。このシリーズはミステリーに対する作者の関心が下がった時期もあって作品レベルのばらつきが大きいのですが、本書はかなりの力作だと思います。1970年代にリバイバルブームを巻き起こした横溝正史の影響を感じさせる作品で、和風を意識した舞台が印象的です。登場人物が意外と多く関係も複雑で、中盤までは地味でゆったりとした展開ですが終盤は劇的で、特に最終章では内田康夫の「天河伝説殺人事件」(1988年)の幕切れに匹敵するような深遠な世界が描かれています。ただ謎解きは事件の真相が横溝正史の某作品を連想させるもので、好き嫌いは分かれるかもしれません。男同士のキスシーンを入れているのもさらに好き嫌いが分かれそうです。 | |||
| No.291 | 10点 | Yの悲劇- エラリイ・クイーン | 2012/01/26 17:49 |
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| (ネタバレなしです) 1932年発表のドルリー・レーン4部作の第2作で「Xの悲劇」(1932年)と常に最高傑作の座を争っている本格派推理小説です。純粋な謎解き作品としてなら「Xの悲劇」がお勧めでしょう。一方本書も謎解きレベルでは遜色ない上に、事件の悲劇性の演出が見事です。とはいえこの結末をどう評価するかで意見が分かれそうです。「Xの悲劇」は最も万人受けして平均的に高得点を稼ぐ傑作、本書は気に入らない読者もいるかもしれませんが最高評価を多く集める傑作と言えるのでは。 | |||
| No.290 | 5点 | 小麦で殺人- エマ・レイサン | 2012/01/17 19:04 |
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| (ネタバレなしです) 1967年発表のジョン・サッチャーシリーズ第6作で、CWA(米国推理作家協会)のゴールド・ダガー賞を獲得したことから代表作のように紹介されていますが、個人的には微妙な作品でした。一応は本格派推理小説としての謎解きもありますが、政治色が濃厚なのは評価が分かれそうです。米ソ間の「雪どけ」時代に発表されたからでしょうか、ソ連人が登場していますが結構気配りしたような描写になっていますね(笑)。 | |||
| No.289 | 7点 | 硝子のハンマー- 貴志祐介 | 2012/01/17 18:52 |
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| (ネタバレなしです) 新本格派の作家たちがホラー作品に手を染めているぐらいだからホラー作家の貴志祐介(1959年生まれ)が本格派推理小説に手を伸ばしても驚くことではないのかもしれませんが、2004年発表の本書ではあっぱれなまでにホラー要素が排されており、特に前半の謎解きは密室の謎を巡って次から次へとトリックが検討されて圧巻です。これだけトリック仮説が飛び交うのはクレイトン・ロースンの名作「帽子から飛び出した死」(1938年)ぐらいしか私は思いつきません。真相トリックもなかなかユニークで面白いです。評価が分かれそうなのは後半がある登場人物の半生記みたいなプロットに様変わりすることで、これはガボリオの「ルコック探偵」(1869年)やドイルの「緋色の研究」(1887年)に前例がある手法ですが、個人的には謎解きの面白さにブレーキをかけられたような気がします。 | |||
| No.288 | 4点 | グレイシー・アレン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2012/01/13 18:47 |
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| (ネタバレなしです) 前作の「誘拐殺人事件」(1936年)がセールス的に失敗し、出版社からの要求を丸呑み(?)して実在の喜劇女優グレイシー・アレン(1902-1964)とその夫のジョージ・バーンズまでも作品に登場させた1938年発表のファイロ・ヴァンスシリーズ第11作の本格派推理小説です。ユーモア・ミステリーを狙ったのであったらやはりヴァン・ダインの作風にはミスマッチだったとしか言いようがありません(映画化もされてますがこれも失敗だったそうです)。どたばた展開もぎごちなく、第16章から第17章の展開ではここで笑うべきなのかシリアスに読むべきなのか私は途方にくれました。むしろ暗く重苦しい雰囲気のカフェ描写などの方が印象に残りました。 | |||
| No.287 | 8点 | 三本の緑の小壜- D・M・ディヴァイン | 2011/11/14 14:38 |
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| (ネタバレなしです) 1972年に発表された本格派推理小説の傑作です。少女が全裸死体で発見されるという猟奇的犯罪を扱っていますがエログロ雰囲気は全くなく、(性犯罪の可能性は検討されますけど)誰にでも勧められる作品として仕上がっています。コリン・デクスターの傑作「ウッドストック行最終バス」(1975年)に影響を与えたのではと思わせる印象的な出だしから、悲劇的な事件を扱いながら(やや強引だけど)救いを暗示する幕切れに至るまでよく考えられたプロットです。謎解きの巧妙さも読者の期待を裏切りません。 | |||
| No.286 | 7点 | 大いなる救い- エリザベス・ジョージ | 2011/11/07 19:59 |
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| (ネタバレなしです) 生っ粋の米国人ながら英国を舞台にした推理小説を書き、英米両方で高い評価を受けているエリザベス・ジョージ(1949年生まれ)による1988年発表のデビュー作で凄みを感じさせる傑作です。本格派推理小説ですが誰が犯人とかどうやって殺したかとかの王道的な謎解き要素はあまり重視されていないプロットですが、読むのが辛くなるような真相の衝撃が読者を打ちのめします。丹念な人物描写はP・D・ジェイムズに匹敵しますが、こちらは感情をむき出しにする場面も多くて物語にメリハリがついており、重厚さと読みやすさが両立しています。なお本書は新潮文庫版では「そしてボビーは死んだ」というタイトルで発行されていますのでダブって入手しないようご注意を。 | |||
| No.285 | 5点 | 死霊谷の呪い館- 山村正夫 | 2011/10/31 21:18 |
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| (ネタバレなしです) 1990年発表の滝連太郎シリーズ第7作の本格派推理小説です。前半は快調です。この作者ならではの伝奇要素と現代要素のバランスが絶妙で、謎の面白さもたっぷりです。本格派推理小説好き読者としては最後は合理的に解決してもらいたいので、後半になって伝奇性が薄まるのも問題とは感じません。とはいえ必要性が全くないうえにあまりに陳腐なトリックの密室を始め、真相はかなりの残念レベルです。結末が全てだとまでは言いませんけど、本書の場合は前半との落差があまりに大きすぎました。 | |||
| No.284 | 7点 | 拳銃をもつジョニー- ジョン・ボール | 2011/10/31 20:05 |
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| (ネタバレなしです) 有名ミュージカル「アニーよ銃をとれ」(英題「Annie Get Your Gun」)(1946年)のタイトルを流用した1969年発表のヴァージル・ティッブスシリーズ第3作(英題「Johnny Get Your Gun」)です。犯罪を犯して逃亡する少年ジョニーと彼を追跡するヴァージル・ティッブスたち捜査陣を描いた犯罪サスペンスと紹介しても間違いではありませんが、要所ではティッブスの鋭い推理による謎解きも披露され、本格派推理小説好き読者へのアピール力もあります。社会問題描写や子どもへの温かい気配り描写など実に充実した内容で、悲劇に終わるのか救いがあるのか最後まではらはらさせる展開もお見事です。 | |||
| No.283 | 5点 | 死仮面- 横溝正史 | 2011/10/24 17:30 |
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| (ネタバレなしです) 作者絶頂期の1949年に書かれた金田一耕助シリーズ第4作ながら、地方誌に連載されたこともあって完全な原稿が見つからず長らく幻の作品扱いされていたそうです(単行本化されたのは作者の死後となりました)。しかも原稿を全部集約するのに難儀した結果、角川文庫版は一部を評論家の中島河太郎(1917-1999)が補筆しての出版で、後発の春陽文庫版が完全オリジナル版だそうです(私はこちらを読みました)。本書の後には「犬神家の一族」(1950年)や「八つ墓村」(1951年)が続くので本書に期待した読者も多かったのではと思いますが、残念ながらあれほどのスケール感はありません(長編としてはページ数が少ないという制限があるので仕方ないところもありますけど)。前半は複雑な人間関係が重厚かつ地味に描かれています。事件性がはっきりしないこともあって盛り上がりに欠けています。ところが後半になると学園を舞台にした冒険スリラー風に様相が変わってびっくり。推理には不満もありますが、ミスディレクションが効果的な謎解きでした。 | |||
| No.282 | 6点 | ドーヴァー9/楽勝- ジョイス・ポーター | 2011/10/23 13:08 |
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| (ネタバレなしです) 1979年発表のドーヴァーシリーズ第9作はトイレネタが多少目立つ程度で、このシリーズ作品としては羽目をはずす場面が少なく普通の本格派推理小説の印象が強い作品です。良くも悪くも平均点的な内容で、「普通」がいけないわけでは決してありませんが、これといった特色を見出しにくかったです。 | |||