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皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2814件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.754 4点 霧の塔の殺人- 大村友貴美 2015/08/16 00:10
(ネタバレなしです) 藤田警部補シリーズ三部作の第3作ではありますが藤田警部補、ますます影が薄い!前半と後半でがらりと雰囲気が変わるプロットです。前半は連続首切り殺人の捜査が中心ですが、後半になるとそれまで小物っぽい人物が突如大暴走します。最初は場当たり的な犯罪だったのにいつの間にか警察をきりきり舞いさせるテロリストみたいになってなかなか収拾がつきません。どうにかこうにかそれが一段落してようやく首切り殺人の謎解き、一応手掛かりによる推理もありますが説明者は藤田警部補ではありません。また犯人が判って大団円というわけではなく、どうしてこんな犯罪になったかの背景が長々と解説されます。そこには地方社会ならではの様々な問題が提示されます。私も空さんの講評通り、本書はどちらかと言えば社会派推理小説かなと思います。横溝正史との共通点はほとんどありません。

No.753 4点 蛇遣い座の殺人- 司凍季 2015/08/14 18:13
(ネタバレなしです) 1992年発表の一尺屋遥シリーズ第2作の本格派推理小説です。なかなか大掛かりな仕掛けが用意してあるのですが、仕上げがかなり雑に思えます。謎解き伏線を結構豊富に揃えてはいるにもかかわらず飛躍し過ぎた推理に感じられました。また人物描写が弱いため、事件の背景に結構複雑な人間模様が隠れていてもこれまた唐突な真相という印象しか残りません。島田荘司の某作品を髣髴させる全体着想はなかなかのアイデアとは思いますが。

No.752 5点 戌神はなにを見たか- 鮎川哲也 2015/08/14 17:58
(ネタバレなしです) 1976年発表の鬼貫警部シリーズ第14作です。得意のアリバイ崩し本格派推理小説で、犯人の正体は中盤でわかります。個人的にはアリバイ崩しより動機探しの方が面白かった作品です。また本書ではプロットの中に推理小説論のようなものが垣間見えるのも特長で、推理小説家になろうとする人は1度は本書を読んでおいても損はないと思います。

No.751 6点 瀬戸内海の惨劇- 蒼井雄 2015/08/14 17:48
(ネタバレなしです) 戦前の国内本格派推理小説を代表する「船富家の惨劇」(1936年)に続く南波喜市郎シリーズ第2作(1936年発表)です。姿の見えない犯人を追いかけるという、本格派推理小説としては結構風変わりなプロットで、地味な展開と次々に起こる事件のアンバランスな組み合わせが不思議な魅力を生んでいます。丹念なアリバイ捜査描写で評価の高い「船富家の惨劇」と比べるとスリラー要素が強いのがあだとなったのか一般的評価が低いのも理解できます。しかしクロフツやフィルポッツの影響があからさまなあちらよりも本書の方が私には個性的に感じられ、これはこれで面白い作品でした。定年までサラリーマンを全うした蒼井雄(1909-1975)にとって作家業はあくまでも副業に留まったようで、本書以降は目立った活躍もなく、残念ながら国内ミステリー界をリードする存在にはなれませんでした。

No.750 6点 幻惑の死と使途- 森博嗣 2015/08/14 17:36
(ネタバレなしです) 1997年発表のS&Mシリーズ第6作の本格派推理小説です。奇術の世界での不可能犯罪という、とびきり派手な設定なのですがこの作者の文章はどこか抑制が効いており意外と地味です(退屈ではありません)。これまでの作品でも萌絵は密室トリックを見破ったりと、単なるワトソン役からの脱却を見せていましたが本書においてはほとんどの謎を自力で解いており、本書の主役は彼女といってもいいのではと思います。出番の少ない犀川にも彼ならではの重要な役割が与えられており、謎は全て解けたと思われた時の彼の発言によって物語の世界が一変したかのような読後感が与えられます。これが「幻想」効果なのでしょうか。

No.749 6点 妖狐伝説殺人事件- 山村正夫 2015/08/14 17:06
(ネタバレなしです) 1989年発表の滝連太郎シリーズ第5作です。作者は「伝奇本格派は非合理性と合理性を結合させることに苦労する」とコメントしていますが、本書は両者のバランスが絶妙に保たれており、狐の仮面をかぶった怪人物が死体(らしきもの)を運ぶ場面などは下手な書き方をすると冗談めいてしまうのですが怪奇的な雰囲気を出すことに成功しています。事件の真相は全て人間的で合理的なものですが、最後は怪奇風に締めくくっているところが印象に残ります。

No.748 5点 寝室に鍵を- ロイ・ウィンザー 2015/08/14 16:49
(ネタバレなしです) 1976年発表のアイラ・コブシリーズ第3作となる本格派推理小説です。遺言書書き換えのタイミングで発生する事件、金持ちを取り巻く容疑者たち、さらには重要な役割を果たす小道具として暖炉の火かき棒と、まるでアガサ・クリスティーが得意とした古典的パターンのプロットです。ただクリスティーと決定的に違うのは探偵が容疑者と直接やり取りする場面が意外と少ないことです。そのため容疑者のキャラクターが把握しにくく、小説としては若干味気なく感じました。推理はそれなりに理詰めですが、謎解き伏線が重箱の隅をつついたようなものばかりであまり印象に残りません。最後のどんでん返しが効果的なだけにもう一工夫あればと惜しまれます。

No.747 5点 ゴルゴタの七- アントニー・バウチャー 2015/08/14 15:48
(ネタバレなしです) 米国のアントニー・バウチャー(1911-1968)はハワード・ヘイクラフトやジュリアン・シモンズと共に20世紀を代表するミステリー評論家として有名ですが、数は多くないながらミステリーやSF小説も書いています。1937年、本格派黄金時代の真っ只中に発表されたデビュー作の本書は「読者への挑戦状」付きというだけでも十分に謎解きファンの意欲をそそりますがそれに加えて「手掛かり索引」付き、しかも通常は解決後に提示されるのに本書では「読者への挑戦状」と同タイミングで提示されているのが大変珍しいです。さらに登場人物リストには謎解きのみなら記号付きの人物だけを覚えればいいと注釈するなど、まさにパズル・ストーリーを突き詰めた作品です。残念ながら小説としてはとても読みにくく、人物が性格描写にしろ行動描写にしろ生彩をほとんど感じれず、中盤の劇上演シーンも盛り上がりません。また第3章での「ゴルゴダの七」に関する薀蓄(うんちく)も宗教的内容で大変難解だったのもつらかったです。作者の意気込みは感じられますが、やはりもう少しストーリーテリングに気配ってほしかったです。

No.746 6点 東方の黄金- ロバート・ファン・ヒューリック 2015/08/14 15:15
(ネタバレなしです) ディー判事シリーズは作品発表順と作中事件の発生順がずれており、本書は1959年出版のシリーズ第3作ですが物語としてはディー判事最初の事件を扱っていて、ディー判事が副官マー・ロンやチャオ・タイと初めて出会う場面が描かれています。シリーズ初期の特長である、複数の事件が絡み合う複雑なプロットになっていて密室の毒殺トリックや(ネタバレになるので詳しく書けませんが)ちょっとした発想の転換など印象的な謎解きを多数含みます。オカルト要素の扱い方も巧妙です。なお本来のタイトルは「中国黄金殺人事件」(英語原題も「The Chinese Gold Mureders」)です。

No.745 5点 死のジョーカー- ニコラス・ブレイク 2015/08/14 15:08
(ネタバレなしです) 1963年に発表された、シリーズ探偵不在のミステリーです。前半は典型的なサスペンス小説で、事件によって人間関係や心理状態に微妙な変化が生じていく様子を丁寧に描いています。大きな事件は後半にならないと起こりませんが退屈しないプロット展開はお見事で、最後は本格派推理小説としてしっかり謎解きして締めくくられています。ハヤカワポケットブック版は裏表紙の粗筋紹介で後半の出来事まで紹介しているのが勇み足だと思いますし、翻訳も半世紀以上前の古いものなので新訳版で再版してほしいです。

No.744 6点 料理上手は殺しの名人- バージニア・リッチ 2015/08/14 14:44
(ネタバレなしです) 米国のバージニア・リッチ(1914-1985)は雑誌の料理欄担当や編集者としてのキャリア以外には執筆経験がなく、本格的に小説を書いた第1号が1982年の本書という大変遅咲きの女性作家です。短い作家期間にミセス・ポッターシリーズを3作しか書けませんでしたが、未完の第4作をあのナンシー・ピカード(リッチのファンだったそうです)が完成させ、その後このシリーズを引き継いで書き続けています。本書はコージー派の本格派推理小説で、巻末には料理レシピがおまけとして付いています。予想以上に謎解きプロットがしっかりしており、特に中盤以降でミセス・ポッターが各容疑者を犯人に想定してシナリオを書くシーンがなかなか面白いです。意外性を出すために(個人的には)あまり感心できないトリックを使っているのが惜しまれます。

No.743 6点 異端の徒弟- エリス・ピーターズ 2015/08/14 14:32
(ネタバレなしです) 1989年発表の修道士カドフェルシリーズ第16作です。序盤や終盤での宗教議論はキリスト教徒でない私には少々なじみにくい面がありますが(難解過ぎるほどではありませんけど)、それを差し引いても物語としては起伏豊かで面白い作品です。謎解きは手掛かりがあまりにもわかりやすくかつ整然と提示されていくのでほとんどなし崩し的に犯人がわかってしまうのがちょっと残念ですが(やりようによっては意外性を出せたと思います)、苦難を乗り越える若い男女のストーリーを書かせてはこの作者は本当に上手いと思います。カドフェルも十分に活躍していますが、ラドルファス院長の頼もしさも印象的でした。

No.742 5点 チョールフォント荘の恐怖- F・W・クロフツ 2015/08/14 14:26
(ネタバレなしです) 1942年発表のフレンチシリーズ第23作となる本格派推理小説で、クロフツとしては平均点的な作品だと思います。地道な捜査が描かれているところは相変わらずですが、初登場となるロロ部長刑事に対するフレンチの指導者ぶりが読めるのが本書の特徴です。もっともこれはある程度シリーズ作品を読んだ読者でないと気づきにくい特徴かもしれません。手堅すぎて盛り上がりに乏しいストーリー展開ですが、最終章だけ妙に芝居がかっているのが良くも悪くも印象的でした。

No.741 6点 死は海風に乗って- パトリシア・モイーズ 2015/08/14 12:26
(ネタバレなしです) パトリシア・モイーズ(1923-2000)は夫の引退を機に英国領ヴァージン諸島へ移住し、そこで生涯を全うしていますがその影響かミステリーでもカリブ諸国を舞台にした作品を4作発表しています。1975年発表のヘンリ・ティベットシリーズ第12作となる本書はその最初の作品です。もっともメインの舞台は米国のワシントンDC北西部のジョージタウンで、タンピカ(架空の国)の描写はそれほど多くありません。また魅力的な邦題ですが、海の描写に期待すると肩透かしをくらいます(英語原題は「Black Widower」)。とはいえ作品の出来は水準以上で、政治色も少しありますが伝統的な本格派推理小説として安心して読むことができます。クライマックスシーンではジョン・ディクスン・カー好みの迷路が効果的に使われていたのに驚きました。

No.740 6点 黄金の蜘蛛- レックス・スタウト 2015/08/14 10:36
(ネタバレなしです)  1953年発表のネロ・ウルフシリーズ第16作です。日本で初めて翻訳紹介されたスタウト作品らしく、ハヤカワポケットブック版は半世紀以上前の古い翻訳で誤字脱字もいくつか見られますが、その割には意外と読みやすい作品でした。サスペンス豊かな序盤、手掛かりを求めての駆け引きにも似た容疑者調査が面白い中盤と読み応え十分です。後半のアクションシーンはハードボイルドが苦手な私はそれほど楽しめませんでしたが相手がならず者系なのでまあ許容範囲です(笑)。最後はご都合主義的な証人が登場して解決しますが、その前に犯人に結びつく手掛かりと推理をウルフがちゃんと説明していますので本格派推理小説として合格点を付けられます。

No.739 5点 老女の深情け - ロイ・ヴィカーズ 2015/08/14 10:06
(ネタバレなしです) 1954年に出版された迷宮課シリーズ第3短編集で8作品が収められていますが、その内2作品はシリーズ外の作品です。(ハヤカワ文庫版の巻末解説で詳しく書かれていますが)屈折した動機を扱った作品が多くなっています。ただページ数の制限がある短編のせいか複雑な犯行背景がどうもすっきりしないこともしばしばで、「いつも嘲笑う男の事件」では犯人が最後に錯乱してしまいましたが犯人自身も実はよくわかっていなかったのではという気がします(笑)。個人的には「ある男とその姑」と「ヘアシャツ」(昔は「髪の毛シャツ」という珍妙な邦題で出版されたそうです。ヘアには動物の毛の意味もあるのを当時の訳者は知らなかったのでしょうか?)がお勧めです。余談ですが「老女の深情け」に登場する女性は年齢30代なのに「老女」扱いはあんまりではないでしょうか(英語原題は「A Fool and Her Money」です)。

No.738 6点 水底の骨- アーロン・エルキンズ 2015/08/14 09:50
(ネタバレなしです) 2005年発表のギデオン・オリヴァー教授シリーズ第12作です。巻末の「謝辞」を読むと法医学以外にも実に様々な情報を仕入れていることがわかりますが、それらを作品の中に上手く活用しているだけでなく、読者に専門知識を難解と感じさせない説明手腕はもはや名人芸の域に達しているといってもいいと思います。謎解きとしては誰が犯人でもおかしくないようなプロットでありながら、唯一人しか犯人でありえない伏線をきちんと張っています(そのためにはあるトリックを見破る必要がありますが)。

No.737 6点 アリシア故郷に帰る- ドロシー・シンプソン 2015/08/14 09:37
(ネタバレなしです) 英国のドロシー・シンプソン(1933年生まれ)はクリスティーの伝統を継ぐ本格派推理小説の書き手のようです。1985年発表のサニット警部シリーズ第5作の本書を読むと、なるほど強い個性は感じられませんが英国の本格派らしい作品でした。事件の悲劇性描写はクリスティー作品にはほとんど見られないものですが、最後にはサニット警部の家庭団欒シーンを挿入してあまり陰鬱にならないようにしています。人によっては悲劇は最後まで悲劇らしくすべしという意見もあるでしょうが救いのない結末でも明るさを失わないこの作風は個人的に結構好きです。もっとこの人の作品を読みたいのですが、あの森英俊編著の「世界ミステリ作家事典[本格派編]」(1988年)の250人の作家にも選ばれなかったぐらいなので今後翻訳される可能性は限りなく低いんでしょうね。ああ、英語原書を読める力のない自分が恨めしい。

No.736 4点 ハロウィーンに完璧なカボチャ- レスリー・メイヤー 2015/08/14 09:16
(ネタバレなしです) 1996年発表のルーシー・ストーンシリーズ第3作です。miniさんの講評に私も賛成で、ジル・チャーチルのジェーン・ジェフリイシリーズは回を重ねるにしたがって主婦業の描写が減っていきますが、本書は生まれたばかりの赤ん坊から11歳の息子まで抱えているだけあってルーシーのお母さん奮闘記がたっぷりと楽しめます。謎解きはあまり出来映えが良くなく、ルーシーの推理は犯人の仮説を設けるのはいいのですがそれほど裏づけを取るわけでもなく、それでいてあの人が怪しいと周囲にもらしているのですから見方によっては単なる噂好きです(笑)。当然解決も棚ぼた式、謎解き伏線も動機がらみのものばかりで機会や犯行手段を証明するものは皆無に近かったです。

No.735 7点 林の中の家- 仁木悦子 2015/08/12 17:36
(ネタバレなしです) 1959年発表の仁木兄妹シリーズ第2長編です。「猫は知っていた」(1957年)と比べると地味な作品で、登場人物も多いです(第17章で雄太郎が作成した捜査リストには16人の容疑者が!)。しかし謎解きは大変充実しており、決定力不足気味ながらもあちこちに伏線が張ってあって推理を堪能することができました。クレイグ・ライスの某作品を髣髴させるような家族ドラマ描写も素晴らしく、謎解き一辺倒にしていないのは同時代の本格派推理小説の中で明確な個性を確立していると思います。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2814件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)