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ミステリー三昧さん
平均点: 6.21点 書評数: 112件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.15 6点 日本庭園の秘密- エラリイ・クイーン 2011/08/22 19:15
※ネタばれあり<創元推理文庫>
私的には国名シリーズと比較してみても登場人物や作風、プロットに劇的な変化は特に感じられませんでした。敢えて別な位置付けとして捉えるほどの、大きなテーマがある訳でもなさそうなので、国名シリーズとしてカテゴリ化されてても特別違和感を抱くことはなかったかもしれない。久々にクイーン警視やその従順なる部下達も登場してきて、初期作品のような雰囲気もありましたし。
ただし本作は、初期作品のようなストレートな犯人当てとは異なり、どちらかというと変化球で読者の意表の突くような作品です。私的には、偶然要素を幾つも組み込むことで論理性が薄くなっているなと感じるのが正直なところ。被害者に纏わる驚くべき事実が捜査過程の中で幾つも明るみになる中盤から終盤にかけての展開は面白いと思いました。
最後に創元推理文庫のあらすじ紹介についてですが、最初の2行はネタばれだと思います。幾つか物語を楽しむ上で伏せるべきだったと思われるキーワードが含まれていました。






(ここからネタばれ感想)
あらすじで<①令嬢ふたりが②時を同じくして③不可解な「自殺」をとげた>とありますが、これはかなり終盤になってから明かされる真相です。端から序盤の展開を否定する文章になっているので、マズイと思います。。。
①序盤では、令嬢ひとりの死が話題の中心となります。「ふたり」という言葉と矛盾してしまい、違和感を抱きかねません。②お姉さんは数年前に死んでいるという設定と矛盾してしまうので、これも違和感を抱きかねません。③殺人の可能性を否定している点でネタばれです。

No.14 8点 スペイン岬の秘密- エラリイ・クイーン 2011/06/25 21:00
※ネタばれあり
<創元推理文庫>国名シリーズの最終作(長編)です。
国名シリーズの中では上位に食い込む作品となりました。『オランダ靴』に次ぐ第2位なんですが・・・評価高すぎ?どうやら、他の方の評価はそこまで高くないみたいです。本作は、前作『チャイナ橙』と同じく、説明のつかない奇妙な謎がひとつあって、その謎を足掛かりにロジックを積み重ねていきながら犯人を突き詰めていくというシンプル設計の犯人当て本格ミステリとなっています。提示される謎はあらすじでもあるように「何故、被害者は裸だったのか?」です。この謎自体が評価を悪くした根本原因であることは言うまでもないでしょう。この謎がキレイに解決できていなくて「モヤッ」とした読後感になってしまうのが、残念です。ただフーダニットに関しては、意外性があり後半の消去法推理も満足のいく出来栄えだったので、気になる部分もありますが高評価としました。
余談ですが、以下「エラリー・クイーン国名シリーズ」私的評価ランキングまとめです。
Sランク:①オランダ靴
Aランク:②スペイン岬③フランス白粉
Bランク:④チャイナ橙⑤ギリシア棺⑥エジプト十字架
Cランク:⑦アメリカ銃⑧シャム双子
Dランク:⑨ローマ帽子





<ここからネタばれ感想>
「何故、被害者は裸だったのか?」→「犯人が衣服を剥ぎ取り持ち去ったから」とあり、では「何故、衣服を剥ぎ取り持ち去る必要があったのか?」→「犯人が裸だったから」とありますが他の方の書評でもありましたように、突っ込みがあります。「何故、すべて持ち去ったのか?」と「そもそも水着を着てこればよかったのでは?」です。この二つの謎に対してハッキリとした解決がありません。よって、あとにも続く推理が受け入れられず、評価がイマイチとなってしまう傾向にあるのかもしれません。
私的には、被害者が裸という謎を紐解くと、実は犯人も裸だったというバカっぽい解答に行き着いたことがなんとなくツボで、深く考えずとも受け入れてしまった為に私的評価でそれほどマイナスポイントに繋がらなかったのかなと思いました。作者の思うツボにうまく嵌った訳です。バカっぽさを強調するなら「何故、すべて持ち去ったのか?」の解決として「全裸で1時間も待たされたから、ムカついて仕返ししました」という犯人の自供があっても面白かったな。
フーダニットの意外性に関してですけど「内部の犯行」とみせかけて実は「外部の犯行」だったというのは、よくあるシンプルなプロットではあります。ただ、その意外性を構成する枝葉の部分で、中盤の絶対的とも言えるエラリーの推理が一役買っている点が見逃せません。完全な推理ミスによって、読者をミスリーディングさせ、後の意外性に繋げてくる訳ですね。もちろん犯人が仕掛けた偽装誘拐も素晴らしいアイデアでした。特に誘拐する人間をワザと間違えるというワンクッション添えたズル賢さが良い。犯人はとても頭良かった。なのに何で素っ裸で犯行に及んだのかやはり大きな謎ですね。

No.13 6点 チャイナ蜜柑の秘密- エラリイ・クイーン 2011/05/11 23:58
<創元推理文庫>国名シリーズの8作目(長編)です。
舞台の設定が、面白いですね。ドアが二つあって、片方は閉まっていて密室かと思いきや、もう片方は開いているから密室殺人に成り得ず、また殺害現場から立ち去る方法が二つあって、一方はどうしても人に目撃されてしまうのですが、もう一方から立ち去れば誰にもみつかることもないから準密室にも成り得ない。いわゆる「あべこべ」設定ですね。片方はクローズなのに、もう片方はオープン。死体も、部屋の様相もすべて「あべこべ」というメインの謎があって、捜査上でも、さまざまな「あべこべ」要素が小出しされ、事件に展開をもたらすだけあって「どうしてあべこべにしたのか」に対する真相は気になるところで「あべこべ」設定を強調していることもあり、どうしても密室という概念が目立たなくなっている仕様なんですが、それは作者が仕掛けたミスディレクションなのかと思わずにはいられないほど、ガチな密室トリックが用意されていて、フーダニットに一役を買っている点は驚きました。図があったらイメージしやすかったのでょうが、トリック単品でみると、全く理解できなかった点で評価はイマイチですが、フーダニットとの合わせ技でビシッと決めてくれたので、モヤッとすることもなかったです。まぁ、とにかく「あべこべ」要素が強調される訳ですが、本作はその点だけで評価するとモヤッとくるかもしれませんので、ご注意を。「あべこべ」に注目するよりも「密室」ミステリとして読んだ方が面白いと思います。ディクスン・カーの作品を読む感じで。「あべこべ」書き過ぎた。

No.12 6点 エラリー・クイーンの冒険- エラリイ・クイーン 2011/04/10 01:51
<創元推理文庫>エラリー・クイーンの短編集です。
どれも1つの「なぜ」「どうして」に対してロジックの積み重ねていきながら犯人を導き出すといったシンプルな構成になっています。バラエティに富んだ短篇集とは言い難いですが、あくまでフーダニットに拘ったエラリー・クイーンらしい作品と言えます。私的には傑作と呼べる作品はなくて、どれも並みの範疇ですが『双頭の犬の冒険』と『七匹の黒猫の冒険』は頭1つ分、評価が高いです。『双頭の犬』は普段とは違うオカルトめいた雰囲気とフーダニットの意外性、『七匹の黒猫』は「なぜ1匹ずつ黒猫を買うのか」という問いから導き出されるロジックが優れていました。ロジックの飛躍度は10篇中で最も高く、また長編の『フランス白粉の謎』と同じプロットでありながら、結論が綺麗に決まっていました。

No.11 6点 シャム双子の秘密- エラリイ・クイーン 2011/04/10 01:50
<創元推理文庫>国名シリーズの7作目(長編)です。
本作の特徴として、舞台設定がクローズドサークルとなっていることが挙げられますが、それほど設定を生かし切れていません。逃げ出すこともできず、また外部との連絡も遮断され状態で、なおかつ身近に殺人鬼がいるといった状況下であるなら、もう少し緊迫した雰囲気があっても良かったはずです。私的には「つぎは私が殺されるかもしれない」といった脅える姿がいっさいなかったのに違和感を感じましたし、また第二の殺人が発生したとき、エラリーはみんなの寝室を訪ねに行きますが、殆どの人間がドアに鍵を閉めていなかったことに驚きました。まるで、もう殺人は起きないことを知っているかのような振る舞いです。もう少し舞台設定に沿った展開、ストーリー運びが必要だなと思いました。
フーダニットに関しては、詰めが甘く評価は低めです。〇〇に対するロジックの積み重ねが薄く、そこから犯人の癖を導き出すのは難しい。犯人を当てるのは読者にとっては不可能に近いでしょう。ただトランプカードを手掛かりとした推理の二転三転は読みごたえがありました。ダイイングメッセージは、大したことありませんが、利き手に関する気付き1点からからのロジックが素晴らしい。トランプカードに対する最終的な解答に至るまでの過程は、高く評価したいです。

No.10 8点 レーン最後の事件- エラリイ・クイーン 2011/03/29 14:16
<創元推理文庫>悲劇シリーズの最終作(長編)です。
本作では、シェークスピアの古書を巡って大騒動が巻き起こるのですが、これがなかなか複雑。奇妙な依頼人に始まり、失踪した者、古書を盗んだ者、住居を襲撃した者、爆弾を仕掛けた者・・・などなど名前も所在も目的も分からないような謎の人物がウヨウヨ出てくるので、頭で事件を整理するのが大変でした。だんだん小出しにしてきた幾つもの要素が繋がってくるのですが、出来上がりの構図があまりハッキリせず、少しプロットにムラがあったように感じました。綺麗にまとまったとは言い難いです。エラリー・クイーンと言ったら犯人当て(フーダニット)というイメージが邪魔して物語に集中できず理解不足という面も多分あるでしょう。殺人事件という主軸がないもんで、いったい物語はどこへ向かっているのやら分からないといった状況は読んでて辛かったです。
でも読み終わりの感想として、なんだかんだでエラリー・クイーンの醍醐味はフーダニット(犯人当て)だなと。この結末は予想していなかったもんで、さすがに衝撃を受けました。私的には『Yの悲劇』以上のインパクトでした。『Zの悲劇』にて突然登場したニューヒロインの存在意義はこの為にあった訳ですね。〇〇=〇〇というフーダニットパターンに高評価。犯人の特徴を伏線としたロジックも申し分なく、プロットはさておき、本格ミステリとしては読んで価値ある作品。ただしシリーズを順番に読む必要がありそう。『X』『Y』を読んでロジックに酔いしれた読者は『Z』も読んでほしい。3作読んだなら、もうどうせなら本作も読みましょう。海外本格ミステリをガチ読みするなら悲劇シリーズを総合しておすすめします。最終私的評価は『X』>>『Z』>『最後』=『Y』です。

No.9 8点 Zの悲劇- エラリイ・クイーン 2011/02/13 16:45
<創元推理文庫>悲劇シリーズの3作目(長編)です。
本書の読みどころは何と言っても、終盤の「消去法推理」によるフーダニット絞り込みです。何故か前2作に比べ有名でないとのことですが、解決部分は『Xの悲劇』『Yの悲劇』に決して引けを取らず、相変わらずの高水準パズラー小説として高評価できました。むしろ私的には『Y』より『Z』です。本書の解決編は、第一に犯人であることの絶対条件としていくつかの定理を導き出すこと、第二にその定理を駆使して、最後の1人になるまで登場人物を除外することで、解決編ラスト行に犯人の名を明かすプロットとなっています。
また語り手となる女性素人探偵(?)の存在も本書の魅力かなと。(なんでこうしたか不明ですが)レーンが老いぼれてしまった設定上、行動があまり取れない状況で彼女の若さが躍動し、事件にいろんな展開をもたらします。彼女の行動力とレーンの頭脳の融合が物語に盛り上がりを与えていたかなと思います。無実の罪で死刑宣告されたひとりの男を救うべく、犯人探しをはじめるというプロットも分かりやすいし、彼女の語りに関して読みにくさも特に感じませんでした。ただ欠点として、中盤の彼女の推理が、さほど納得いく推理でなかったのが残念ではあります。利き腕、利き足を推理の軸とするのは如何なものかと。もっと補強があれば良かったのに終盤のレーンの推理では彼女の推理が前提となっています。囚人の無実に対するロジックが甘い点はなんとかしてほしかったです。とりあえず悲劇シリーズの私的評価は『X』>>『Z』>『Y』です。『Xの悲劇』には遠く及ばないですね。

No.8 6点 アメリカ銃の秘密- エラリイ・クイーン 2011/01/06 18:34
<創元推理文庫>国名シリーズの6作目(長編)です。
国名シリーズではあまり評判のよろしくない本書ですが、読んでみてそれほど憎い作品とは思わなかったです。しかし「ギリシア棺」「エジプト十字架」さらには「Xの悲劇」「Yの悲劇」と傑作群が数々と発表された時期と比べたら、明らかに品質が落ちていることは確かです。
本書の読み所は2点あるでしょう。1点目に容疑者2万人の中から、如何にして犯人を1人に絞り込むのか。2点目に凶器を如何にして消失させたのか。2点目はなかなか盲点を突いた真相だったから、まぁ良いとして、1点目のフーダニットは問題ありでしょう。容疑者2万人の中からの絞り込みとして、犯人は内部の人間(劇場関係者)or外部の人間(観客)の推理が語られている点は良かった。この点は「ローマ帽子」「フランス白粉」「オランダ靴」など現場が限られた設定においては、必ず推理すべき項目となっているので、エラリー・クイーンらしいロジックと言ってよいでしょう。読者からすれば、登場人物リストを見れば犯人は劇場関係者とすぐ分かるのですが、リアルな現場では断定しようがなく、2万人を対象に物凄く途方もない捜査が繰り広げられます。ちなみにエラリーは、ある1点の手がかりによって見事に犯人は劇場関係者であることを述べています。その点が一番グッときた点でした。
しかし、それでも問題ありとした理由として、意外性の演出がある故に推理が難しくなっていること。〇〇トリックがキモとなっていますが、誰も気づかないご都合主義な状況が許し難い。物凄い捜査のなかに、実施すべき検証が1つ抜け落ちていること、そして、警察、劇場関係者の誰もが気づかないことに違和感を感じました。

No.7 8点 Yの悲劇- エラリイ・クイーン 2011/01/06 18:34
<創元推理文庫>悲劇シリーズの2作目(長編)です。
「Xの悲劇」or「Yの悲劇」どちらが良いかと聞かれたら、前者を本格推理小説の最高峰として、挙げさせて頂きたいです。その理由として、まず「きちがいハッター家」が本書の舞台となるのですが、私にはあまり「きちがい振り」が伝わってこなかったことが挙げられます。きちがい、きちがいと連呼していますが登場人物からは特異性は感じられなかったです。本書のテーマが「〇〇家の殺人」ということもあり、そこに住む人物の造形が中途半端な点は肩透かしでした。途中で横溝作品『犬神家の一族』に匹敵するぐらい狂気じみた遺言状が発表されるのですが、そこからハッター家で大波乱が巻き起こるということもなく、動機にも結びついていない点で遺言状の発表は意味を成していない。
日本人であるが故にロジックにピンとこなかった点があったことも残念でした。本書は「数字」が非常に重要なキーワードになっていて、何フィートだの何インチだからどうだのと推理が繰り広げられるのですが、全くピンと来なかった(これは私の教養がないだけです)。また凶器として、何故マンドリンが使われたのかという推理に対してもモヤモヤとした感じです。
総合的な感想として、犯人がこの人でしかありえないことを徹底的に指し示したいばかりに、あれもこれも無理に引き出し過ぎてロジックにムラができてしまっているような感じを受けました。身長からのフーダニット絞り込み以降の推理は私的には蛇足でした。8点なのにネガティブな感想ですいません。

No.6 9点 Xの悲劇- エラリイ・クイーン 2010/11/06 14:23
<創元推理文庫>悲劇シリーズの1作目(長編)です。
これぞまさしく傑作パズラー小説といったところ。期待以上に素晴らしかったです。私が本書で一番素晴らしいと感じた点は、第一の殺人の段階でほとんど犯人の正体が限定できる状況においてもなお、その名を明かそうとしなかったのは何故かという部分です。それにはちゃんと理由がありました。第一の殺人の段階で、読者がある小さな気付きによってそれなりの推理が披露できたとしても作者は痛くも痒くもなかったでしょうね。第一の殺人の解決編では結論に至れなかった些細な部分を、第二の殺人の解決編ではこれでもかと、じっくり分析。このこだわりには恐れ入りました。より結論へと導く確かなロジックです。そして、第三の殺人の解決編もただただ唸るばかり。小さな手掛かりで、飛躍しまくりのロジック。それでも乱れず、鮮やかに犯人像をあぶり出す。すべての解決編が素晴らしかったです。第一、第二、第三それぞれに一つの解決があって(もちろん読者も言い当てることが可能)、さらに全体を通してロジックの整合性がとれている。その他「こいつは怪しいぞ」と匂わせる人物に対しても、手抜かりなく決して犯人ではないと断言できるほどに、ちゃんと論理武装している辺りもエラリー・クイーンらしい徹底ぶり。物語に起伏がないのは残念ですが、現場を章ごとに変化させながら、細かい区切りで物語が展開されるので、割とテンポよく読み進められましたし、総合的に大満足です。ただ一点だけ。ダイイングメッセージはうーん・・・。でも「死の直前の比類のない神々しいような瞬間」かぁ。。。響きの良いナイスな訳ですね。たしか日本のエラリー・クイーンこと有栖川有栖の作品を読んでいた時期にこのフレーズに出会った覚えがあるんですけど。

No.5 6点 エジプト十字架の秘密- エラリイ・クイーン 2010/10/30 01:03
<創元推理文庫>国名シリーズの5作目(長編)です。
この作品の特徴は、首なし死体の晒し上げという猟奇的な連続殺人とエラリーの一人舞台ですね。お父さんが開始早々フェードアウトすることもあり、本格的に息子エラリー・クイーンをメインとした探偵小説となってきました。小説の舞台も「劇場」「デパート」「病院」のように限定することなく、各地を駆け巡る派手な展開がウリ。さすがに前作には劣りますが、リーダビリティーは高いと思います。ただ読み終わりの感想として、欠点が一つ。この猟奇的な連続殺人を解決するに至っての手掛かりが少なすぎるし、提示するタイミングも遅いかなと。私的にはタイトルが『エジプト十字架』ということもあって、「T」を象徴とした見立ての意味に犯人に直結する何かがあると思っていました。しかし、意外にも「読者の挑戦状」の一歩手前で提示された、ある小さな手掛かりがフーダニットを看破する上で9割近くのウェイトを占めていたことに驚きました。言われてみれば「なるほど」です。シンプルで無駄のないロジックです。ですが、小説の長さの割にこれだけだと「読者の挑戦状」を添えている割に不親切だし、フーダニットに面白みも厚みもありません。これだけで勝負させるなら、わざわざ長編で読ませなくても「短編」で十分だったかと思います。まぁ、でも「首なし死体の晒し上げ」がフーダニットに意外性をプラスしているので、これはこれで推理小説としてはまとまったかなと。
余談ですが、国名シリーズの半分を読了したので、少し整理すると『オランダ靴』>『フランス白粉』>『ギリシア棺』>『エジプト十字架』>>『ローマ帽子』といった私的評価になりますね。ここで主張したいのは『フランス白粉』のクオリティの高さです。傑作と言われる『ギリシア棺』『エジプト十字架』にはないロジックの派手さを改めて評価するべく、このような結果としました。とりあえず国名シリーズの私的ベストは『オランダ靴』に決定。国名シリーズには、これ以上の作品はないと判断しました。ですが、これからの国名シリーズにも期待はなくしていませんので、引き続き楽しく読ませていただきます。

No.4 6点 ギリシャ棺の秘密- エラリイ・クイーン 2010/10/30 00:50
<創元推理文庫>国名シリーズの4作目(長編)です。
特筆すべき点は、前作『ローマ帽子』『フランス白粉』『オランダ靴』に比べて格段に小説として面白くなったことです。以下の3点が前作の相違点(改善点)となり評価すべきポイントとなるでしょう。①一点、二転、三転するプロット②どんでん返しの演出③フーダニットの意外性。これまでの地味な作風に反して、本作はかなり派手な仕上がりになっているので、いよいよピークに差し掛かってきたのかなと感じました。①の末に②があってかなり③だったという贅沢な作りではありますが、それでも「6点」にするに至った最大の要因として「読者への挑戦状」以降のロジックが大変苦しかった点が挙げられます。確かにノックス邸での出来事によって、思いもよらぬ犯人像が浮き彫りになり、それが「たった一人」を指し示しているロジックには唸りましたが、殺人事件を含め全体を通して考えた場合のロジックが緩くなってしまっている嫌いがあります。フーダニットが相当意外なので、緻密なロジックで説得力を与えることが困難で、犯人当てとしては難易度が高い。私的には『オランダ靴』のシンプルイズベストの美しさが際立つ読後感になってしまったことが残念でした。
ただ、本作の若かりし頃のエラリーの奮闘振りは表現おかしいけど、可愛かった。遺言状の有無に対する推理によって導かれる劇的な死体発見シーンを始めとして悪戦苦闘しましたが、良くも悪くも大活躍でした。以前にも増して主人公らしく、そして名探偵としても十分な働きをしたと思います。合計4度にも渡る演繹帰納法推理?による〇〇犯人説の畳み掛けのプロットも大変貴重でしょう。特に15章の〇〇犯人説のロジックは4つの中で一番素晴らしかったです。エラリーの行動は、謎の儀式と皮肉られ全員を困惑させるモノでしたが、エラリーの推理には欠かせない実験だったことが後々分かり、登場人物と同様に私も面食らいました。さらに輝かしいロジックが新たな証言によって粉砕されるというエラリーの初々しさを浮き彫りにする展開も素晴らしいです。注釈によると、エラリーはこの推理ミスがトラウマとなったらしく、基本むやみに推理を披露しないスタイルを後の作品にて確立させたらしい。

No.3 9点 オランダ靴の秘密- エラリイ・クイーン 2010/08/12 21:30
<創元推理文庫>国名シリーズの3作目(長編)です。
付け入る隙のないガチムチのフーダニット系として高評価しました。ただピンポイントに犯人の名を指し示すのではなく、すべての可能性を考慮しジワジワと犯人像を特定していく過程が「靴」だけ(正確に言うと違いますが、別に良い)で楽しめるとは。もう、さすがとしか言いようがない。前作の『フランス白粉』に比べ手掛かりが少ないにも拘わらず、クオリティーを落とすどころか、またひときわ上昇しました。ロジックの飛躍っぷりが半端ないです。私的にこのクオリティーの高さは有栖川有栖の『スイス時計の謎』以来でした。
登場人物は20人超と大変多いですし、物語に必要とは思えない人物だってチラホラいます。でも、これは数少ない証拠品から、たった1人に絞り込む過程を大げさにやりたいが為だと思えば許せてしまいます。実際、凄いですから。それに、自信を持って読者の挑戦状を添えられるだけのフェアプレイな精神も窺えましたし、エラリー・クイーン代表作であり傑作であることは間違いないでしょう。期待通りで満足、満足。これぞパズラー小説の名に相応しいです。

No.2 8点 フランス白粉の秘密- エラリイ・クイーン 2010/08/12 21:25
<創元推理文庫>国名シリーズの2作目(長編)です。
読んでいる間は、前作と殆どプロットが変わらず退屈でした。変わった点は捜査現場が「劇場」から「デパート」になったことぐらいですかね。物語に起伏がないのは小説としては致命的でさすがはパズラー小説といったところ。ただ「読者への挑戦状」以降のクオリティーが凄まじく変化しました。もう二作目にして、イメージに近いガチムチフーダニットを楽しむことができた点は、物語のつまらなさを相殺してでも評価したいです。関係者全員を一か所に集めて、目の前にあるいくつもの手掛かりを披露しながら犯人像を浮き彫りにしていく。そして、その条件をもとに消去法推理でたった一人までに絞り込む過程は、これ以上何も望むことがなく私的には最良のパフォーマンスだと言えます。贅沢を言えば、もうちょっとコンパクトにまとめてほしいかな。犯人の名をすぐには明かさず、結構引っ張ってくるので少しじれったい。最終的にクイーンのやりたかったことが分かるのですが、ラストの消去法推理でテンポが狂った気がします。この作品のキモである「白い粉」からのロジックに対してモヤモヤとするモノがありました。

No.1 5点 ローマ帽子の秘密- エラリイ・クイーン 2010/08/12 21:13
<創元推理文庫>国名シリーズの1作目(長編)です。
正直な感想として、分量の割に解決編が大したことなかったです。推理しながら読むことはしませんでしたが、それでは読む楽しさも半減しますし、刻々と描かれる事件捜査場面も退屈でモチベーション維持が大変だということが分かりました。シリーズ全作読む予定ですが、こんな調子では継続できる気がしません。読んだ限り小賢しい細工(ミスディレクション等)がなく、また手掛かりは探すまでもなく全部与えられる為、伏線の妙も楽しめません。ひたすら読者に推理ゲーム楽しんでもらいたいというフェアプレイに徹したフーダニットがエラリー・クイーンの醍醐味で、悪く言えばそれ以外に特に評価するポイントがありませんでした。結果的に「読者への挑戦状」以降の良し悪しが、得点やランクを左右する要因となり「5点」を付けるに至りました。このサイトでの得点機能は単なるお遊びだという認識ですが、エラリー・クイーンは得点が全てを物語っているような気がします。国名シリーズ物では『オランダ靴』『ギリシヤ棺』『エジプト十字架』、悲劇シリーズでは『Xの悲劇』『Yの悲劇』あたりが「8点」対象になることは間違いなさそう。まぁ読み始めたばっかりだし、どこかで自分なりに楽しみを見いだせればいいけど。。。

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平均点: 6.21点   採点数: 112件
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