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空さん
平均点: 6.12点 書評数: 1490件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.33 4点 アメリカ銃の秘密- エラリイ・クイーン 2009/08/05 21:59
犯人の正体は意外でした。クイーンは以前にも同じような手を使っているのですが、それでもこのヴァリエーションには気づきませんでした。
ただし、問題はなぜ気づかなかったかというところで、現実にはあり得ないことが前提になっているのです。アクション映画や音楽映画などでよく使われるある映画技法がキー・ワードです。この技法はミステリ・ファンにはたぶんおなじみの古典名画『スティング』の中の鮮やかなシーンでも利用されています。そのシーンがどう撮影されているかをDVDででも確認し、その技法が使われた理由を考えれば、クイーンの設定がいかにあり得ないものか理解できるでしょう。さらに状況からすれば、周りにいる人々に気づかれないように発砲できるとはとうてい思えないのも問題です。
また、動機があいまいなままであるのも気になりました。

No.32 5点 フォックス家の殺人- エラリイ・クイーン 2009/07/15 21:34
クイーンは『ドラゴンの歯』発表後考えていたプロットを『そして誰もいなくなった』に先取りされてショックを受けたそうですが、本作も10年以上も前の殺人事件の再調査ということでは、本作の2年前に書かれたクリスティーの『五匹の子豚』と共通する作品です。しかし、クリスティーほど多彩な容疑者たちは登場しませんし、解決のひねりもありません。非常に地味でストレートな作品です。
『災厄の町』系統のテーマ性重視作品ということで、再びライツヴィルを舞台に選んだのでしょうか。
ただし、本作でのエラリーの推理の後の「解決」選択には疑問を感じました。ある意味ごまかしてしまったことになると思うので、それで本当の問題解決になるのか、そこに疑問を感じてしまったのです。点数が低めなのはこの部分のマイナス1点。

No.31 7点 Zの悲劇- エラリイ・クイーン 2009/06/17 20:47
論理派クイーンの中でも、消去法推理を徹底させた作品です。ラストのレーンのたたみかけるような推理には、そのシーンの状況設定ともあいまって、息詰まるような緊迫感が感じられます。ただし、犯人が日を変更した理由については、確かにそれだと言いきれない点が(後で読み返してみて)気になりました。
また、被害者の人物設定や検事の態度、死刑問題など初期作品の中では社会派リアリズム傾向がかなりあるというのも興味深い点です。ワトソン役ではなく脇役探偵の一人称形式であるということからしても、ひょっとしたらハメット等からの微妙な影響があるのではないかとも思ってしまいます。

No.30 5点 恐怖の研究- エラリイ・クイーン 2009/05/26 21:29
ドイルの存在を無視し、ホームズとワトソンを実在の人物とした設定の話です。
エラリーがワトソンの未発表原稿を持ち込まれ、読み進んでいく部分は、ホームズ対ジャック・ザ・リパーの冒険部分に比べて、少なくとも翻訳ではかなり軽いタッチで描かれています。エラリー登場部分がホームズ物語の途中に所々はさまれる構成には否定的な意見が多いようですが、このCM挿入的な発想は個人的にはかなり新しい感覚でおもしろいと思います。
ホームズ映画のノヴェライゼーションが元になっているそうですが、その映画を見ていない(日本未公開らしい)ので、ホームズ部分のストーリーがエラリー登場部分とのかねあいでどうアレンジされているかまではわかりません。
ホームズのパスティーシュとしては、それらしい雰囲気もあってなかなか楽しめたのですが、最後のエラリーの推理はこの時期の作品としても、もう少し論理的な厳密さ、鮮やかさが欲しかったな(特に動機の掘り下げについて)という気がします。

No.29 5点 悪魔の報酬- エラリイ・クイーン 2009/05/07 21:28
直前の過渡期2作がむしろ渋い味わいのある作品だったのに対し、突然やけに軽い印象があるものを書いてくれたクイーンですが、解決がいまひとつすっきりしないところが不満でした。真相は単純明快なのですが、犯人の計画そのものが、目的を達成するための最適な方法とは思えないのです。エラリー以外の視点から書かれた部分の扱いも『ドラゴンの歯』ほどには成功していないと思います。
犯人が他人に罪を着せようと考えた経緯は納得できますし、論理的に穴があるとかいうほどの欠点はないのですが、特におもしろかったところと言えばエラリーのふざけた変貌ぶりぐらいでしょうか。

No.28 7点 九尾の猫- エラリイ・クイーン 2009/04/25 13:00
クイーンの全作品中、最も殺された人数が多い本作では、早々に「ABCの殺人理論」を持ち出してきて、クイーン警視にあっさり否定させることで、そのタイプではないことを示しています。被害者たちの隠された共通点は何か? これこそがミッシング・リンクということです(その意味では『ABC殺人事件』はミッシング・リンクではありません)。
大都会ニューヨーク全体を舞台にした恐怖の連続殺人が描かれる本作は、前作『十日間の不思議』以上にサスペンスが重視される一方パズラーからは遠ざかり、また名探偵エラリーの悩みも大きくなるという、重厚長大な読みごたえのある小説になっています。

No.27 4点 帝王死す- エラリイ・クイーン 2009/04/11 11:31
風変わりな設定と奇妙な事件。聖書とのアナロジーはクイーンらしいテーマだと思うのですが、やはり不可能性を前面に出したプロットが得意な作家ではないな、という認識を新たにさせられるできばえだと思います。途中で、トリックはそのうちわかるだろうとエラリーが言っているのでは、不可能興味は盛り上がりませんし、実際のトリックの出来もいまひとつです。しかもその事件では殺人が不成功に終わり、最終的には犯人がクイーン親子を利用した意味がない結末を迎えてしまうという、どうも釈然としない作品でした。

No.26 5点 第八の日- エラリイ・クイーン 2009/04/01 22:31
ダネイ自身が後期の中で気に入っている作品として挙げていたのがこれですが、謎解きミステリとしてだけなら、後期のエラリー登場作の中でも特にあっけないものです。
しかし、『十日間の不思議』以来クイーンが何度か取り上げてきた宗教的なテーマということでは、最も充実した作品と言えるでしょう。完全に外界から隔絶されたコミュニティーの中で進むストーリーは、SF的な感じさえします。実際の執筆を担当したのはSF作家のエイヴラム・デイヴィッドスンだということですが、この作品なら納得できます。誰でも指摘することでしょうが、最後の「聖典」が何だったかという点は、殺人事件の真相よりはるかに意外でした。

No.25 7点 エジプト十字架の秘密- エラリイ・クイーン 2009/03/23 22:59
少なくとも昔は、国名シリーズ中のベストと一般的に言われていた作品です。乱歩をはじめとする当時の日本ミステリ界では、猟奇的な連続殺人事件というクイーンにしては珍しい「怪奇性」と「中盤のサスペンス」が、好まれたのでしょう。事件の進展が長期間にわたるため、実は個人的には少々退屈なところもあったのですが。
現代において、直感で犯人を当てることは難しくないでしょうが、「結末の意外性」というより推理はやはり見事です。最後の事件現場での手がかりについてはかなりの行数を費やして目立つように書かれていますが、その意味するところを見破るのは至難の業でしょう。そこから連続殺人全体の構図が一気に見通せる気持ちのよさ。
ただ、最後に犯人を追跡していくアクション・サスペンスには、それで逮捕できるのだったら、あの有名な手がかりは結局必要なかったのではないか、とも思ってしまいました。

No.24 7点 エラリー・クイーンの冒険- エラリイ・クイーン 2009/03/14 12:52
短い中に推理の競い合いの趣向を取り入れた最初の『アフリカ旅商人の冒険』が、解決もきれいにまとまっていて、続く作品の期待を高めますが、次の凶器になり得る物が現場にいくつもあったという謎の『首つりアクロバットの冒険』はいまひとつです。ドイルの『六つのナポレオン胸像』パターンをひねった『1ペニー黒切手の冒険』もおもしろいですが、切手の隠し場所は無茶に思えます。まあ、M.B.リーが切手収集を趣味にしているだけに、あり得ることを確認して書いたのかもしれません。『見えない恋人の冒険』が犯人のトリックも手がかりもよくできた傑作。『双頭の犬の冒険』も謎解きは単純ですが、雰囲気はあります。

No.23 6点 悪の起源- エラリイ・クイーン 2009/03/08 09:34
久々にハリウッドを舞台にした本作は、しかし以前のハリウッド2作とはまた感じが変わり、やはり直前の『ダブル・ダブル』との共通点が感じられるミッシング・リンク系のプロットになっています。途中に手紙が原文のままが出てくるので、当然手がかりが隠されているはずだとはわかるのですが、英語に堪能でないと、どこがおかしいかには気づかないでしょうね。逆に手紙が英語で書かれているのが当然な英語圏の読者との違いです。
ラストのやりとりは、やはり妙に記憶に残ります。人によってこの部分に対する感じ方はかなり変わってくると思いますが、個人的には意外にすんなり受け入れられました。

No.22 7点 エラリー・クイーンの新冒険- エラリイ・クイーン 2009/03/02 22:40
中編『神の灯』は傑作として知られていますが、方法論だけで言えば、約7年も前に別の作家が同じアイディアで長編を書いています。ただし、その長編では本作のような魔術的な効果を演出しているわけではありませんし、策略がうまくいくかどうかも疑問なところがあります。クイーンにしては珍しいことではないかと思うのですが、方法よりも効果の奇抜さが際立つ作品だと思います。
後の作品は全体的に前の『冒険』より短編小説らしい仕上がりになっているものが多いと思いますが、中でも『暗黒の家の冒険』がクイーンらしい論理を見せてくれます。『ハートの4』のポーラ・パリスが出てくるスポーツ物の中では、『人間が犬をかむ』が長編『アメリカ銃の謎』よりすっきりとまとまった解決で、おもしろいと思いました。『正気にかえる』はクイーン自身の某長編と同じ発想。

No.21 7点 シャム双子の秘密- エラリイ・クイーン 2009/02/25 21:35
前作が、少なくとも共犯者になり得る人間が2万人もいるというシチュエーションだったのに対して、今回は容疑者の数が最初からきわめて限定されています。迫りくる山火事や二転三転する事件の流れなど、サスペンスに重点を置いた、国名シリーズ中の異色作ぶりは、かなり気に入っています。シャム双子に対する作者の視線が横溝正史などと全く違うのにも、好感が持てます。
次作『チャイナ橙』では、前回は読者への挑戦を入れ忘れていた等ととぼけていますが、そうではないでしょう。真犯人を指摘する論理は、クイーンには珍しく弱いものです。もちろん、その答ですべてのつじつまが合ってくることは確かなのですが、いつもと違い、他の可能性を否定しきっていないのです。
ただし、ダイイング・メッセージと、それから導き出される推理については、初めて中心に据えた長編だけに、凝りまくっていながら最終的に不自然でない形にまとめていて、そこはさすがだと思います。

No.20 5点 - エラリイ・クイーン 2009/02/20 21:43
クイーンと言えばダイイング・メッセージというイメージが強いですが、ほとんどはショート・ショートであり、長編で使っているのはたぶん5冊だけです。さらにメッセージの重要度が高いものとなると、数はさらに少なくなります。
本作はその少数のうちの1冊なのですが、書き残された"face"という文字の謎は途中で解決されてしまい、それでも犯人を特定することができないという展開になります。真相は大したことはないのですが、すっきりとまとまっていて悪くありません。ただ、メッセージは死に際のとっさの思い付きではなかったとは言え、ちょっと凝りすぎかな。

No.19 6点 クイーン検察局- エラリイ・クイーン 2009/02/16 00:04
収録18編中ほとんどが10ページ程度のショート・ショート集ですが、1つだけ長い『ライツヴィルの盗賊』が、小説としてのおもしろさではやはり一番ですし、推理も鮮やかです。
本当に単なる言葉遊びパズルでしかないようなものもありますが、一般的評価の高い『三人の寡婦』(トリックは様々な推理パズルで借用されているくらい有名)、『七月の雪つぶて』(ごく一時的に奇跡を起こして見せればよい設定と見せ方がうまい)の他、『あなたのお金を倍に』(最近も似た大事件がありました)、『賭博クラブ』(人数計算には納得)、『消えた子供』(例の名作と似た論理で、ラストはほのぼの)なども好きな作品です。

No.18 7点 スペイン岬の秘密- エラリイ・クイーン 2009/02/08 20:49
いかにも不可解な謎の提出ということでは前作『チャイナ橙の謎』と同じパターンですが、こちらの方が小説としてのまとまりがよく、気持ちよく読んでいけました。被害者を素っ裸にまでする必要はないのではないかという考え方もあるとは思いますが、前作と似た隠匿の原理を犯人が考えたとすれば、理由は一応納得できます。ただ、ミステリを読みなれた人なら、論理はさておき、犯人の見当だけなら直感的に早い段階でつくでしょうね。
国名シリーズのまえがき担当者ということになっているJ・J・マックがあとがきで再登場するという構成で、一方クイーン警視が初めて全く登場しない作品でもあります。

No.17 6点 緋文字- エラリイ・クイーン 2009/02/02 22:18
ほとんど最後近くにならないと殺人が起こらない点は、『十日間の不思議』をも思わせますが、作品の雰囲気は全く違います。ホーソーンを引用した、書き方によっては当然深刻になるモチーフであるにもかかわらず、ライツヴィル・シリーズのような重さはむしろわざと避けている感じがします。逆にバーナビー・ロスの名前を出してきたりするような遊び心は、やはりニッキー・ポーターが登場する『靴に棲む老婆』(ニッキーが同一人物かどうか不明ですが)に通じるようにも思えます。さすがにダイイング・メッセージにかけて「XYの悲劇」という遊びはありませんが。
クイーンによるニューヨーク・ガイドといった趣もあり、かなり楽しめました。

No.16 6点 クイーンのフルハウス- エラリイ・クイーン 2009/01/27 23:57
ポーカーにたとえて、3編の中編と2編のショート・ショートを交互に配したフルハウスです。
2編のショート・ショートはどちらもダイイング・メッセージものですが、たいしたことはありません。というより、『Eの殺人』はその形でメッセージを残した理由がわかりません。
中編の『ドン・ファンの死』でもダイイング・メッセージは使われていて、これはかなり後に書かれた『最後の女』とは正反対のパターンですが、こっちの方が自然だと思います。また、凶器のナイフから導き出される推理がすっきりしていて、好ましい印象の佳作です。『ライツヴィルの遺産』は平凡な印象ですが悪くはありません。しかし、なんといっても最後の『キャロル事件』が、ライツヴィルもの最初の3長編にも通じるようなテーマ性を持った作品で、よくできていると思います。

No.15 7点 ローマ帽子の秘密- エラリイ・クイーン 2009/01/24 23:00
アメリカの歴史に新たな1ページが刻まれた今、ミステリ・ファンとしてはこの作品を思い返してみるのもいいのではないでしょうか。1929年、世界大恐慌の年に本作が発表されてから80年後の変化には感慨深いものがあります。
ゆすられていたネタは何でもよかったはずで、それでも議論を呼ぶかもしれないあの理由にしたこと、また、当時の娯楽の中心だったにぎやかな劇場(映画もやっと音声入りが試みられていた時代です)を事件の舞台にしたことを考えても、クイーンには『災厄の町』などよりはるか以前、第1作からすでに社会派(リアリズム)的な志向が多少はあったと見るのは、論理が強引過ぎるでしょうか。

No.14 7点 盤面の敵- エラリイ・クイーン 2009/01/19 21:17
代作者がシオドア・スタージョンだと知った時には、あのSF作家が?と信じられない気持ちでいたのですが、本書出版の3年前、1960年にスタージョンが書いたSF『ヴィーナス・プラスX』を今年になって読んで、驚かされました。言葉遊びが多用されていますし、「エラリー・クイーンの国名シリーズ」なんて言葉まで飛び出してくるのです。そう言えば、スタージョンお得意のテーマも、本書のトリックにどこか通じるものがあります。まあ、基本的なプロットはダネイが考えたのでしょうが。
それはともかく、年代的には、どうしても本作の少し前に公開されたあの有名映画(原作は未読)を思い出さざるを得ません。そのネタをフーダニットに応用すればこうなる、ということなのでしょうか。個人的には、ライツヴィル4作の後では最も好きな作品です。

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空さん
ひとこと
ハンドルネームの読みはとりあえず「くう」です。
好きな作家
E・クイーン、G・シムノン
採点傾向
平均点: 6.12点   採点数: 1490件
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