皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1505件 |
No.11 | 10点 | 三つの棺- ジョン・ディクスン・カー | 2008/12/23 10:26 |
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本書を勧めた相手から、マニアックすぎると言われたこともあります。
確かに凝っています。雪道での事件のとんでもない偶然がなかったら、かえってわけのわからない状況を生み出していたかもしれません。その偶然のため、殺人者の行動経緯が表面上明確になり、不可能状況を際立たせることになっています。天気予報どおり雪が降らなかったら、行方の全くわからない殺人者という謎だけになっていたでしょう。 犯行が偶然うまくいったというのではなく、普通に目立たない完全犯罪をもくろんだはずが、予想外の積雪などの偶然が重なって不可能殺人になってしまったということなのですが、元の計画に偶然を組み合わせてよくもここまで複雑な状況を組み立てたものだと、あっけにとられます。 冒頭で目撃者は嘘をついていないと断言する、作者にとっても自信満々のプロットです。自信があるからこそ、密室講義もしているのでしょう。個人的には、機械的な分類など別にどうでもいいのですが。 |
No.10 | 6点 | 死が二人をわかつまで- ジョン・ディクスン・カー | 2008/12/21 11:14 |
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密室を構成するのにあるものを使っていたという点が、不可能犯罪の巨匠らしくないと不満を言う人もいるかもしれません。しかし、今回の密室の最大のポイントは、そんなものを使える余地がなかったと錯覚させる工夫でしょう。「毒殺魔」(創元推理文庫版のタイトル)疑念に対する解決も、きれいに決まっていますし、その疑念と密室殺人とを結びつける手際が巧妙です。
ただ、第2の事件はサスペンスを盛り上げるために無理に付け足したような印象がありました。 |
No.9 | 5点 | 月明かりの闇- ジョン・ディクスン・カー | 2008/12/15 22:23 |
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冒頭部分に出てくる謎の人物の正体が、結局事件を解き明かす鍵なのですが、これがなかなかわからないようになっています。人間関係が事件を複雑にして読者を惑わせておいて、最後にうまく説明をつけるあたりはさすがですが、最後までカーがこだわっていた不可能殺人トリックの方は、さっぱり冴えません。
それにしても、章の切れ目で毎回劇的なことを起こして、何が何でも話を盛り上げようとするサービス精神には、笑ってしまいますね。 |
No.8 | 5点 | アラビアンナイトの殺人- ジョン・ディクスン・カー | 2008/12/13 12:21 |
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カーの作品中たぶん最長のミステリは、奇妙なユーモアを漂わせながら、うんざりするという人がいるのももっともなくらいゆったりと進んで行きます。
殺人の不可解な状況に合理的な説明をつけていく第3の語り手ハドリー警視の捜査と推理は緻密で、説得力がありました。すべてが説明し尽くされたように思えますが、それで終わってしまってはフェル博士の出番がありません。そこで、作者はメタ・ミステリ的な構造をとって、別の犯人を指摘させています。ただ、その推理は安易な手がかりを基にしていますし、どんでん返しというほどでもなく、少々がっかりでした。 |
No.7 | 8点 | 猫と鼠の殺人- ジョン・ディクスン・カー | 2008/12/11 20:57 |
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不可能犯罪の巨匠が今回挑んでくれたのは、密室などの「不可能」性ではなく、嫌疑がかかった冷酷な判事の証言をめぐり、心理的にはどう考えても矛盾が出てきてしまうという「不可解」な状況です。個人的にはこういう謎の方にむしろ魅力を感じます。
1回偽の解決を示した後で明かされる真相は、フェル博士自身も言うように突拍子もないものです。 これはいくらなんでも信じられない、と言う人もいるとは思いますが、矛盾点がさらりと解消されるこの結末はとんでもない意外性とあいまって鮮やかです。 |
No.6 | 7点 | 曲った蝶番- ジョン・ディクスン・カー | 2008/12/08 22:34 |
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カーの作品中、読んでいて最も怖かったのがこの作品です。訳文の問題もあるでしょうが、途中の謎めいた不気味な雰囲気は『火刑法廷』以上だと思いました。ただ、トリックについては、隠されていた秘密は非常に意外なのですが、それ以外にありえないという論理的な詰めがないのが、不満ではあります。
なお、この作品の後に『ガストン・ルルーの恐怖夜話』を読めば、たぶん驚くのではないでしょうか。あの元祖密室長編『黄色い部屋の謎』を書いたルルーの傑作短編集です。 |
No.5 | 6点 | 絞首台の謎- ジョン・ディクスン・カー | 2008/12/07 17:47 |
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フェル博士もののような大トリックや論理性は最初から期待しない方がいいです。
むしろ、はったりをきかせた不気味な謎を次々に繰り出しておきながら、その解明に意外性や鮮やかな論理性がほとんどない(一応説明はつけているのですが)ところなど、江戸川乱歩や横溝正史の通俗長編に近いものがあると言えるでしょう。 特にカーの場合は、ビジュアルな効果を出すのがうまく、雰囲気は楽しめましたし、意表をつく皮肉なラストも鮮やかでした。 |
No.4 | 6点 | 連続殺人事件- ジョン・ディクスン・カー | 2008/12/06 19:18 |
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第1の事件におけるトリックの問題については、私が中学生の時に、カーと同じ勘違いをしていた人が、クラスに1/3ぐらいはいたことを思い出します。別の効果を指摘する人もいますが、普通の部屋では、この方法で殺人を行おうとしても全く不可能です。
実は別の作家が、この別の効果をある特殊な状況の下で利用して、殺人をたぶん可能にしています。しかしカーの場合勘違いをしていたことは、p.208~211のトリック説明部分を読めば明らかです。(「たんと××んでよかったなあ!」なんてね) もう一方の密室構成方法もたいしたことはないのですが、ストーリーはなかなかよくできています。カー名義では、久々に笑いをふんだんに取り入れた作品で、なかなか楽しめます。 |
No.3 | 8点 | 皇帝のかぎ煙草入れ- ジョン・ディクスン・カー | 2008/12/01 19:47 |
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クリスティーを脱帽させたというこのアイディアは推理パズルでもよく借用されているようですが、実は短いパズルには全く向いていないトリックだと思います。
いいかげんな扱いを見ると、最初から説明されている登場人物の性格設定と、問題の箇所前後20ページぐらいをもう1度じっくり味わってみてください、と言いたくなります。カーがいかに細心の注意をはらって問題の箇所を書いているか、それがわからない無神経な人には、カーには珍しくすっきりとまとまりすぎた本作は、つまらない小説かもしれません。 |
No.2 | 8点 | 帽子収集狂事件- ジョン・ディクスン・カー | 2008/12/01 19:39 |
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ポーの未発表原稿がからんだ殺人事件という、マニア向けの趣向を凝らした作品です。
怪奇趣味も笑いもほどよい程度に抑えられたカーにしてはむしろ地味な展開ですが、不思議な雰囲気があり、ラストもシリアスに決めてくれます。最後の台詞を言うハドリー警視の表情が目に浮かぶようです。 原題は『不思議の国のアリス』(1865年)で一般的になった(バートン監督の映画ではジョニー・デップが演じた帽子屋)と言われるmad as a hatter(とても気の狂った)という英語の慣用句を基にしています。『Yの悲劇』の設定も出所は同じですね。 |
No.1 | 7点 | 死者はよみがえる- ジョン・ディクスン・カー | 2008/11/30 19:35 |
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カーのバカミスといえば『魔女が笑う夜』が有名ですが、個人的にはなんといってもこの作品。
真相のとんでもない掟破りには、もう笑って拍手するしかありません。出方のいんちきは当然ですが、入り方もたまたま痕跡を残さずに済んだだけですし、フェル博士の推理は循環論法に陥ってしまってるし、もうムチャクチャです。 乱歩先生が『皇帝のかぎ煙草入れ』や『帽子収集狂事件』と並べてベストの1つに挙げていたというのが信じられない珍品です。 なお、この創元版タイトルはゾンビをも連想させますが、原題の "To Wake the Dead" は「死人を目覚めさせるほど大きな音」のような場合に使う表現であり、ホラー・テイストはありません。 |