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miniさん
平均点: 5.97点 書評数: 728件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.10 6点 観月の宴- ロバート・ファン・ヒューリック 2013/09/19 09:55
中秋節に隣県の羅(ルオ)知事から高名な詩人等を招待しての観月会に招かれた狄(ディー)判事、しかしその前に市井の殺人事件に立ち会うことになった
今回は羅知事の管轄地なので友人として協力捜査という形になった狄判事だったが、羅知事が苦しい立場に立たされることに…

* 本日は十五夜だからね
元々十五夜は中国の中秋節という行事がが由来である
不思議なのは日本では”七夕”は新暦の日付そのままで行なわれる地方が多い、もちろん有名な”仙台の七夕”は旧暦に合わせた8月に行なわれるが、まぁ東北地方だと7月7日じゃ梅雨が明けてねえもんな、賢明だよな
でも東北地方以外だって7月7日ってなかなか天気の良い年は少ないんだよな、七夕こそ真夏向きの行事だから旧暦に合わせりゃいいのにと思うのであった
その点”十五夜”は珍しく旧暦に合わせているんだよな、本来の中秋節はそれこそ8月の行事だったらしい
これなんか旧暦に合わせた9月だと秋雨と重なりやすく、月見が出来ない年などもよくある、もっとも日本では8月も夜空が澄んではいないからなぁ、今宵は月見に向いた天気となりますかどうか

今回は「江南の鐘」「紅楼の悪夢」でもチョイ役で登場したあの憎めないお調子者の羅判事が準主役級の出番となる
ネット上ではシリーズ中でも謎解き的に評価が低めなこの「観月の宴」だが、たしかに「紅楼の悪夢」のような複雑な真相ではなく中盤で動機など事件の背景はかなり見えてしまっていて少々物足りなさはある
しかしフーダニットな意味では、ミスディレクション的に工夫が感じられ惑わされる
むしろ例えば「白夫人の幻」あたりの方が狙い過ぎて真犯人の正体はやはりそれかよ(笑)みたいに見当付き易くなってるもんなぁ、比較すれば私は「観月の宴」の方を上に採りたい
全体に詩がテーマになっていて文学的な上品さが感じられる点など、代表作とは言えないかも知れないが私はシリーズ中でも特に低く評価される作でもないんじゃないかと擁護したい

No.9 6点 五色の雲- ロバート・ファン・ヒューリック 2011/02/04 09:35
本日4日にヒューリックの「寅申の刻」が発売される
唯一未訳で残っていた中編集で、これで和邇桃子訳の早川書房刊行ディー判事シリーズは全作翻訳された事になる
そこでもう1冊の既刊の短篇集「五色の雲」を書評しよう
今回刊行された「寅申の刻」は中編を2編だけ収めた完全なる中編集で短編は載っていないが、「五色の雲」は普通に短篇集である
ディー判事シリーズは前期長編5部作などを見るように、モデュラー型による謎を重層的に織り込んだプロットが魅力なんだけど、流石に短編ではプロットを単純化せざるを得ない
しかしながらそれでも、シリーズの雰囲気が損なわれていないのは素晴らしい
いきなりディー判事シリーズに入門するのをためらっている方などは、まずこの短篇集で独特の雰囲気に慣れてから長編に進むのも一つの手ではないかと思う
かく言う私も最初に読んだのはは古本屋で見付けた講談社文庫版の「中国迷宮殺人事件」だったが、次からは新訳の早川版で読もうと思っていたので慣れる意味で2冊目に読んだのがこの短篇集だったのだ

No.8 6点 北雪の釘- ロバート・ファン・ヒューリック 2011/01/10 10:27
寒さ厳しい冬の北辺国境の町、第5番目の赴任地”北州”に赴いたディー判事
当初は娘の失踪事件以外にはこれといった大事も無かったが、別の娘の首無し殺人事件が発生し、さらに起こった毒殺事件に絡み、過去の殺人疑惑まで浮上する

前期5部作の掉尾を飾る舞台は、最後の地方赴任地となった北辺の町で国境警備の軍隊も駐留している
この事件の後、判事は都に召還されて都の要職に就く
後期作には都に戻ってからの事件を扱う巻もあるが、一応前期の一区切りとなる作である
北部国境の町だけに異民族との交易など殺伐した雰囲気なのかと想像していたら案外とのんびりムード
当時の唐は国際的大帝国であり、周辺民族との関係が上手くいっていたのと地方軍隊が強力だったという事なのだろう
唐王朝は結局はこの強大な地方組織による反乱で内部崩壊するのだが、これに懲りたのか後の宋王朝では中央集権の元、近衛軍など内政重視に偏り過ぎて国境軍隊の弱体化を招き周辺異民族によって滅ぼされるのである
したがって唐代だけに異民族の侵入などの緊迫感は無くて、事件の方も極めて民間的な事件である
むしろ国家的大陰謀と言うなら、前期5部作だと「水底の妖」や「江南の鐘」あたりの方が一大事だ
「北雪の釘」は首無し事件という事で興味を引かれる人も居るかも知れないが、こっちは有りがちなパターンであり大多数の読者には真相が見えてしまうだろう
やはりメインは過去の殺人疑惑なのだろうが、これによって判事は窮地に追い込まれるのだが、事件そのものは小粒な感じで、前期5部作の掉尾を飾るにしては大団円ではない
どちらかと言えば悲しい出来事などで余韻の中、判事の地方赴任も幕が降ろされる事になるのである

No.7 6点 江南の鐘- ロバート・ファン・ヒューリック 2010/11/04 10:15
冬近い晩秋、第3の赴任地に赴いた狄(ディー)判事は、公務引継ぎ書類の中からとある強姦殺人事件に目を留める
一方で副官達は町の噂に、地元の名刹である寺で、子宝に恵まれない女性が一夜を過ごすと懐妊するという奇妙な話を聞き込む
これが判事に難題を突きつけることになろうとは・・

前期5部作らしく今回も例によって3つの事件が発生し同時進行で解決するわけだが、今回が前期の他の作と違うのは、3つの事件の関連性が極めて薄い点だ
他の前期5部作では真相は別でも登場人物が微妙に絡んだりと多少なりとも関連性があったのだが、今回は独立性が強い
人間関係も相互に関連せず、3つの事件をそれぞれ個別に順次解いていく感じなので、シリーズの中ではやや多い分量の割には話の展開が分り易い
半面、良い意味での複数の話が複雑に絡み合う面白さには全く欠けているので、この辺は評価が分かれよう
またポケミスの帯で”シリーズ史上最大の難事件”とあるのも大袈裟
事件の解明が難しいのではなくて、寺の妊娠事件を解決するには政治的に難しい側面が有るという意味で、謎解き面での難事件を期待すると方向性が違う
政治的な難題だったら「水底の妖」の方が国家転覆の陰謀だけに余程大事件だ
ここまで書くと欠点だらけみたいだが、個々の解明などは面白く、事件が大袈裟な割には竜頭蛇尾な「水底の妖」よりはこの「江南の鐘」の方が私は好きだ
ただし人間ドラマ的な要素が嫌いな読者には「水底の妖」の方が合うだろう

No.6 7点 紅楼の悪夢- ロバート・ファン・ヒューリック 2010/08/13 10:19
* お盆の時期だからね(^_^;) *
盂蘭盆(うらぼん)の時期だった為、ここ楽園島内の宿屋はどこも満室で、狄(ディー)判事一行がかろうじて泊れた部屋は何やら怪しげな部屋だった
一泊して翌日に隣県のルオ知事に挨拶に行く予定であったが、そのルオ知事が楽園島に来ていて半ば強引にある事件の解決を代理で依頼されてしまう狄判事

江南にある第3の赴任地時代の話で、題名の出典は述べるまでもないだろう
今回の舞台は、酒場・賭博場・娼館が立ち並び、水路に囲まれたその名も”楽園島”、まぁ古代中国のラスベガスと言ったところか
話の展開も真相も珍しい舞台と良く合っている
過去現在含めて全部で3つの密室事件が出てくるのだが、トリックに期待しちゃ駄目よ
密室トリックが主眼ではなくて、なぜ密室事件が3つも起きるかってぇーと、それは自殺か他殺かを読者に混乱させるのが狙いだろーて
登場する副官も酒と女には目が無い馬栄(マーロン)1人なのは必然だ
しかし今回の馬栄、腕っ節を見せる場面もあまり無く、終いにはほろ苦い結果に・・
ほろ苦いのは真相も同様で、3つも密室事件が起こる割には話の展開が分かりやすくトータルバランスに優れ、暗く重い真相が舞台設定と良く調和しており余韻が心に沁みる
前期5部作を除く読んだ中後期作の中では最も出来が良い
それにしても”小蝦どん”の荒業すっげぇぇぇ~!

No.5 5点 水底の妖- ロバート・ファン・ヒューリック 2010/07/07 10:40
夏の湖上で町の有力者から舟遊びの宴会に招待された狄(ディー)判事だが、余興で舞った芸妓が船から落ちて溺死する
この湖では溺死者は湖底に沈んで浮かばない伝説があった
同船した容疑者宅の密室で花嫁が死んで花婿は密室から消え失せ、さらに遺体が別の死体と入れ替わり、格子戸の窓から覗く幽霊の姿
前期5部作の一つ「水底の妖」は、序盤からこれでもかと怪奇趣味濃厚で、読んだシリーズの中では最も怪奇色が強い

今回の舞台となる判事の2番目の任地は山間の湖の辺にあり、都からも比較的近くて馬を飛ばせば一昼夜で行ける距離に在る
今の日本で言うなら信州諏訪湖畔の茅野市みたいな所か
唐代の都市は律令制度の理念で作られ周囲を城壁で囲まれている場合が多いが、この町は城壁の無いオープンな構造をしているのが珍しく、シリーズでの判事の任地の中では異色だ
残念ながら怪奇性は前半までで、後半では大規模な陰謀が暴かれるのだが、やや風呂敷を広げ過ぎた感じもあって事件性が大味になってしまい、結末も些か話を纏めきれず尻つぼみだ
また前期作の特徴でもある3つの事件が絡むのではあるが、今回は3つの事件の容疑者達が共通しているなど、最初からいかにも関係がありそうで胡散臭い
つまり最初からあまりに関連が疑わしいので、意外性という意味で一見関係無さそうな3つの事件が後半に結び付いてくるような興趣には乏しい
未読の「釘」を除く、読んだ前期5部作の中では最も劣る
ただ全体に副官の活躍が目覚しいのが救いで、この作で風車の弥七的存在の陶侃(タオガン)が初お目見えする
この作単体なら水準作以上なんだろうけど、前期5部作だからどうしても傑作「黄金」「迷路」と比べちゃうからなぁ
題名も不満で、和邇桃子さんの付ける訳題は他の作も首傾げるのが多いが、今作も原題に”Lake”が入ってるんだから、例えば”湖底の妖”みたいに”湖”という単語を入れなきゃ駄目でしょ

No.4 5点 螺鈿の四季- ロバート・ファン・ヒューリック 2010/01/29 10:15
今年はヒューリック生誕100周年で、案外と今年が生誕100周年のミステリー作家は少ない
前期5部作で言うと「黄金」と同じ狄判事の最初の赴任地時代の事件で、州庁会議に出席した後に赴任地へ戻る途中に立ち寄った県で巻き込まれた事件
そこには当然ながら同等の立場の他県の知事が居るので、判事は副官の喬泰と共に客人として非公式の立場で捜査する
今回は馬栄(マーロン)は登場せず喬泰(チャオタイ)だけがお供、ってことは助さん抜きで格さん単独だな

「螺鈿の四季」で早川書房の和邇桃子訳での中短篇集を除く長編の新訳刊行は全部出揃ったことになる
「螺鈿」は後期の中では早い原著刊行順でしかも最初の赴任地での話なのだから、本来はかなり早い段階で新訳を出すべき作だったと思うが、これが最も後回しにされたのは旧訳があったからなのかな
前期5部作には三省堂版などが過去に存在していたが、後期作で他社の旧訳有りはこれだけだったはず、その旧訳である中公文庫版『四季屏風殺人事件』で既読だった読者も居るんじゃないかな、私も古本屋で見かけたけど、新訳が出るはずだからと思って中公文庫版には手を出さなかった
中公文庫で読んだ人の間では名作との噂があったが、いざこうして後期作まで含めた新訳が全作出揃ってしまうとどうだろう、まあ普通の出来なんじゃないかな
中期作の中では最も早い時期の作なので、前期5部作風の三つの事件が一応絡む体裁になっているが、それが上手く機能しておらず個々の事件が印象的に浮かび上がってこない、読者によっては三つ事件が有る事に気付かないかも
またミステリーに怪奇性が必ずしも必要とは思わないが、「螺鈿」はシリーズの特色の一つでもある怪奇色が弱い
それと犯人の正体も基本的には平凡で、平凡過ぎて逆にミスリードなんじゃね?と疑ってしまったくらい
もっとも「白夫人の幻」のように意外性を狙ったが裏目に出て見え透いてしまっているのもあるから一長一短か
「螺鈿」の肝はやはり最終章でのあるサプライズだろうな
ただし最終章で事件そのものがひっくり返るようなドンデンがあるわけでもないので、その手の期待はしないように
最終章である価値判断の印象ががらりと変わるほろ苦い結末となるのだが、まあこの余韻でかろうじて凡作を免れたというところか

No.3 4点 白夫人の幻- ロバート・ファン・ヒューリック 2009/05/05 09:53
* 5月5日だからね(^_^;) *
端午の節句を祝う恒例の行事である龍船競争で、先頭を争う艇の選手の1人が、大監修の面前で突然死亡する
たまたま招かれて見物中の狄(ディー)判事が役職により調査を開始する

「白夫人の幻」は、前回読んだ典型的な嵐の山荘テーマだった「雷鳴の夜」とは違って、容疑者達は皆各々の自宅に住んでいる
狄(ディー)判事も今回は公的立場から正攻法な捜査が中心となり強引な裏捜査的な部分が少ないので、腕力のある副官は必要ないから御馴染みの喬泰(チャオタイ)や馬栄(マーロン)は登場せず、助手は事務官的な存在である洪(ホン)警部1人だ
今回の話ではアクションシーンが殆ど無く、容疑者も一般の民間人だけだから洪警部には合っている
読んだシリーズの中では最も普通の犯人当て本格といった趣で、活劇要素が苦手で本格派しか読みませんってタイプの読者向きで、終盤で3人に絞られた容疑者達を一堂に集めて判事が罠を仕掛けるなど、派手さはなくても本格としてすっきり纏まってはいる
逆に言えば喬泰と馬栄のファンには物足りないし、シリーズらしさを求める読者には魅力に欠け大して面白くない
このシリーズとしては普通のありきたりな本格過ぎてつまらないんだよね
この作品の最大の見せ場は、やはり登場時に何か役に立つのかと思っていたあのアイテムが、あういう使い途があったとはいう犯人指摘シーン
ただ不満を言えば、真犯人の正体があまりに見え透いているのが減点材料だ
それと”白夫人”という怪奇なモチーフが、怪奇性という意味ではあまり怖さが感じられず、もう1つ活かされてないのも不満

No.2 4点 雷鳴の夜- ロバート・ファン・ヒューリック 2009/03/28 10:17
任地に帰る途中で嵐に遭遇した狄(ディー)判事一行は、道教の寺院に一夜の宿を求めた
寺院なら仏教と思われようが、唐代の中国は国際国家であり仏教は外国輸入の宗教という認識が強く、辺境ではイスラム教徒も居住していた
政治的には儒教でも、宗教的には道教の存在も大きく神秘主義的な怪しさに満ちていた
西洋史で言うとカトリックやプロテスタントに対する第三の宗派、東ローマ(ビザンチン)帝国由来のギリシア正教のような存在だろうか
狄判事は儒教派なので事ある毎に道教を批判している

狄判事シリーズの中で最初にこれを読む人が多いのを以前から不思議に思っていた
たしかに前期五部作の旧訳を除く現行のハヤカワ版の中では翻訳時期が早かったのはあるが、某サイトで理由を発見した
ヒューリック初心者が他者に薦められて「東方の黄金」と「雷鳴の夜」の二冊を買ってきて、まず「黄金」から読み始めたら序盤が肌に合わず中断、「雷鳴の夜」に切り替えたら嵐の山荘テーマというのが好みに合ったので最後まで読んだのだという
そうかそれかよ!典型的な嵐の山荘テーマだもんな
私という人間は、嵐の山荘などのCCものに全く興味が無く、「雷鳴の夜」の舞台設定面には特に魅かれない
狄判事シリーズは前期五部作と後期作では内容にかなり違いがあるのは知られた事だが、やはり本領は前期五部作だろう
初心者の方はぜひ「黄金」「迷路」のどちらかから読み始めることをお薦めする
登場する副官は陶侃(タオガン)一人だけで、おなじみの馬栄も喬泰も洪警部も今回は登場せず
これは水戸黄門に例えると、助さん格さんも由美かおるも登場せず、年老いた風車の矢七だけが同行したようなものだぜ
まあ陶侃だけは必要だったのは、今回は錠前を開ける場面が多かったからな

No.1 8点 東方の黄金- ロバート・ファン・ヒューリック 2008/10/26 10:40
狄(ディー)判事シリーズはとても面白いのでもっと読んで欲しいシリーズだ
「東方の黄金」は発表順は第3作目だが、作中時系列では判事の最初の赴任地の話なので、赴任するいきさつや、後の作品でも判事の手足となって働く二人の部下、馬栄(マーロン)と喬泰(チャオタイ)との出合いなどが描かれ、順番的にはこれから読むのが適当との意見もあるようだ
私は原書刊行順に第1作「沙蘭の迷路」から入門でもいい気もするが、でも「東方の黄金」は屈指の傑作である
巧妙な密室トリックも出てくるが、密室トリックに関しては私は「迷路」での密室トリックの方が不気味で好きだ
やはり「黄金」の良さは見事なプロットに尽きる
意外過ぎる黒幕真犯人には賛否両論あろうが、それ以上に意外なのが運河に葬られた人物の超意外な正体で、これには慣れた読者でも驚くだろう
さらにメインのネタでは無いが、序盤で登場する幽霊の正体が最後の最後で明かされる粋な演出など、全編に亘って素晴らしい
物語の面白さ、謎解きといい、これを読んだらシリーズの虜になってしまうこと請け合いだ

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