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miniさん
平均点: 5.97点 書評数: 728件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.48 5点 善意の殺人- リチャード・ハル 2008/11/08 12:42
一作のみのイメージだけで語られてしまいがちな作家の一人
「伯母」しか知られていないが、ハルはもちろん倒叙専門作家ではないし、そもそも「伯母」自体が倒叙かどうかさえ微妙だ
と言ってハルがごく普通の本格かというとそれも微妙で、今読める三作を読んだ限りでは、変なものを書く得体の知れない作家という印象だ
「善意の殺人」はハルの最高傑作と言われているが、鳴り物入りで訳されたわりには、なんだか得体の知れぬ作品だなあというのが正直な感想
叙述ではなくて技巧を凝らしたという表現が適当だろうと思うが、あまり狙いが成功しているとも言い難い
個人的にはハルの邦訳三作の中では、「他言は無用」が一番面白かった気がする

No.47 7点 絞首人の一ダース- デイヴィッド・アリグザンダー 2008/11/03 11:56
今では数も増えた論創社ミステリーの中で、論創限定でベスト10を選ぶとしたら、是非入れたい一冊がある
それがアリグザンダーの短編集「絞首人の一ダース」だ
このミスでもランキング入りしたように、今さら私ごときが擁護しなくても充分に評価が高いが、やはり推しておきたい
各短編に統一感はなくヴァラエティに富んでいるが、全体に人生の哀愁といったものが良く表現されていると思う
むしろ逆に、技巧に走ったものほど出来が悪く面白くない
とにかくスタンリー・エりン絶賛なのも肯ける

No.46 5点 同窓会にて死す- クリフォード・ウィッティング 2008/11/03 11:44
埋もれた黄金時代の英国本格作家の1人クリフォード・ウィッティングだが、その代表作と言われるのが「同窓会にて死す」である
論創社でなければ多分翻訳される事は無かったかも知れない、というか創元文庫あたりが手を出さなかったのは何となく分かる
いかにもな英国風正統本格ではあるが、伏線の張り方隠し方があまり上手くないという弱点があって、どこが手掛かりなのか慣れた読者だとバレバレなのだ
でも終盤には二段構えの解決が用意されており、それなりに評価されるべき作ではあるだろう

No.45 6点 謀殺の火- S・H・コーティア 2008/11/03 11:33
今では数も増えた論創社ミステリーの中で、論創限定でベスト10を選ぶとしたら、どうしても入れたい一冊がある
それがS・H・コーティアの「謀殺の火」で、オーストラリアの大自然を背景にしたオージー・ミステリーの中でも本格派と言えるだろう
「謀殺の火」はものすごく個性的な話で、なんと終盤を除く物語全体の九割方において、登場人物が一人しかいないのだ
もちろん登場人物一覧表には総計20名もの名前が載っている
しかしそれらのほとんどは、過去回想や伝聞推定、あるいは手紙書簡日記の類や記録簿の中でしか出てこない
つまり具体的に現実の眼前の舞台に出てくる実体のある人間がほとんど一人しか登場しないという意味なのだ
本格でこんなパターンの作品は初めて見た

No.44 8点 死のバースデイ- ラング・ルイス 2008/11/03 11:19
今では数も増えた論創社ミステリーの中で、論創限定でベスト10を選ぶとしたら、絶対入れたい一冊がある
それがラング・ルイスの「死のバースデイ」で、まさに華やかな雰囲気に満ちた小粋な正統派本格なのだ
誤解されないように言うと、”派手”なのではなくて”カラフルで華やか”なのである
展開は地味だが人物描写の冴えが見事で、これほど色彩感に溢れたミステリーはそうはない
こんなのが読みたかったんだよなあ、と思わせるミステリーなのだ

No.43 7点 フォックス家の殺人- エラリイ・クイーン 2008/11/02 11:48
後期クイーンと言うとライツヴィルものが一つの柱だが、ライツヴィルものとしては順番で「災厄の町」と「十日間の不思議」の間に挟まれた第2弾が「フォックス家の殺人」である
「災厄の町」が題名に”町”と入っているように地方都市の季節の移ろいや情緒は感じられるが基本的には館ものなのに対して、「フォックス家」は何々家という題名の割にはいわゆる館ものでは無くて家族の絆がテーマである
事件は過去に起こった一件だけと地味な展開に終始するので、ケレン味ばかりを求める読者向きでは無いが、ミステリーにケレンが絶対必要とは私は思わないし、地味には地味なりの良さがある
私は”地味”という語句を悪い意味として使用したくない
一般にライツヴィルものの代表作とも云われる「災厄の町」は真相も見え見えで後期クイーンの狙いが必ずしも成功していないが、「フォックス家」の方が人間ドラマと謎解きの融合が上手くいってる気がする
多分クイーン好きな人には評価低いだろうね、クイーンとか好むような人はこういうの求めてないんだろうしね
しかし私には、「災厄の町」よりも「フォックス家」の方が後期ならではの良さが出ている気がするんだよなぁ

No.42 2点 予告殺人- アガサ・クリスティー 2008/11/02 11:10
戦後のクリスティ長編はマープルものがポアロものと互角以上の評価をされているが「予告殺人」はつまらなかった
マープルもの長編の代表作みたいに言われるが過大評価だろう
序盤の殺人予告のセンセーションだが、実は全国紙ではなくて限られた範囲の地方ミニローカル新聞なので大して盛り上がるような話ではない
犯人の設定も真相の切れ味も、いつものクリスティの平均レベルで、なぜ評価が高いのか首を傾げてしまう
一番陳腐なのが、終盤にマープルが犯人に罠を仕掛ける場面があるが、昔ながらの手法をそのまま使ったような感じで、新味も工夫も無い
江戸川乱歩が褒めたのがへんな過大評価の理由なんだろうか?
マープルもの長編としては「鏡は横にひび割れて」の方が断然上だと思う

No.41 8点 鏡は横にひび割れて- アガサ・クリスティー 2008/11/02 10:51
「火曜クラブ」は短編集だから別格とすると、ミス・マープルものの長編代表作は一般に「予告殺人」と言われているが賛成できない
マープルもの長編の代表作の1つと思うのが「鏡は横にひび割れて」なのである
「鏡」は動機が謎の中心で、動機と犯人が不可分なので動機が分かれば即犯人も分かる
読者によってはこうしたホワイダニットだけに特化したを好まないかもしれないが、好みの問題と動機の真相が優れているかどうかは全く別の問題であって、ホワイダニット型だから好きじゃないと言うのは個々の嗜好だから仕方が無いが、動機の真相が優れているのなら積極的に評価したい
「鏡」の動機は謎解きとしても素晴らしいもので、人間心理の洞察とも言える余韻と深みがあり、ホワイダニット型の最高峰と言ってもいい

No.40 8点 死体をどうぞ- ドロシー・L・セイヤーズ 2008/10/30 10:47
「ナイン・テイラーズ」だけしか読まれていない感じだが、そもそも「ナイン」はセイヤーズを初めて読むのに適していないのは明らかだ
ではセイヤーズ入門にはどれが向いているか、私のお薦めは「死体をどうぞ」である
「死体をどうぞ」は「ナイン」のような重厚感がないので物語展開が分り易く、ハリエットの登場もうざくなく読み易さに貢献している
しかもそれでいてセイヤーズの特徴が十二分に発揮されているという稀有な傑作なのである
頁数は多いほうだが長さを全く感じさせないのは、作者の驚異的な筆力のなせる技だろう

No.39 8点 殺人は広告する- ドロシー・L・セイヤーズ 2008/10/30 10:29
「ナイン・テイラーズ」だけが読まれてる風潮だが、「ナイン」の重厚さはセイヤーズの片方の側面でしかなく、軽妙さという側面も合わせてこそ両輪と言えるのである
重厚さの最右翼が「ナイン」なら、軽妙さの最左翼とでも言うべき作が「殺人は広告する」だろう
セイヤーズの作品を挙げろと言われて一番に「広告」の名前を出すと、おっ!こいつセイヤーズ通だなと思われるような、「広告」はそんな作品なのである
作者の傑作群の中では特異な作品だから、「ナイン」同様にセイヤーズ入門には適してはいないので、他作品を二~三作は読んでからの方が良いだろう
謎解きネタは小粒だが、そんな事はどうでいいと思わせてしまうような話で、これほど業界内部の風俗描写が活き活きと描かれたミステリーはセイヤーズでなければ書き得ないだろう
強いて弱点を言えば、あまりにカリカチュアされたピーター卿の言動に読んでて気恥ずかしくなるが、それもご愛嬌か

No.38 7点 閘門の足跡- ロナルド・A・ノックス 2008/10/29 11:33
新樹社で出た為か不当に無視されているノックスの名作
ノックスの最高傑作は国書刊行会の「サイロの死体」というのが現在の一般的評価のようだが、発表順で「閘門の足跡」の方を先に読んでみた
「閘門」は題名通り英国の田園水郷風景の中で展開されるが、ミステリーとしては過剰なほどロジックの洪水で溢れている
もっともロジックだらけと言っても、いかにもノックスらしいくどいロジックなので、意外性だけを求めるような読者には向かないかもしれないが

No.37 7点 最上階の殺人- アントニイ・バークリー 2008/10/29 11:16
新樹社でしか読めないバークリーの名作の一つ
バークリーは他にも名作がいくつもあるので、「最上階」が最高作とは一概に言えないかもしれない
しかし曲者作家バークリーの特徴が最も露骨ストレートに出ているのは間違いなく「最上階」だろう
一番の出来という意味ではなく、一番バークリーという作家を理解するのに適した作品という意味だ
まだ「第二の銃声」とかが刊行されてなかった頃、今では信じられない話だが、「毒チョコ」で初めてバークリーを読んだ読者には作者の意図が分からなかったらしい
「毒チョコ」は傑作ではあるんだけど、名探偵のはずのシェリンガムが推理合戦の順番が最後じゃないというのが理解されなかったんだろうね
多分普通の本格のつもりで読んだら、なんじゃこりゃ?だったのだろう
「最上階」を「毒チョコ」より先に読んでいれば、この作家を理解出来ないという事はなかったろう

野球の投球に例えるなら、打者の直前まで直球と思わせておいてストンと落ちる魔球フォークボールといったところか
まぁ内容的にはスクリューボール・コメディの趣だが

No.36 7点 クロエへの挽歌- マージェリー・アリンガム 2008/10/29 10:57
新樹社からはアリンガムが二冊出ているが、「クロエ」は代表作とも言える出来だ
アリンガムの中期作品には業界に関連した社会風俗と謎解きとの融合を意図した作品が三作あり、特に国書刊行会の「屍衣の流行」は最高傑作とも言われている
「屍衣の流行」が代表作でも異論はないのだが、「屍衣の流行」は無駄に長く感じる冗長な面もあり、もう一作推したいのが新樹社の「クロエへの挽歌」なのだ
邦訳題名にはもう一工夫欲しかったが、「クロエ」は「屍衣の流行」よりも文章構成ともすっきりしており、謎解き色も「クロエ」の方が強くアリンガム中期の名作だろう

No.35 5点 マッターホルンの殺人- グリン・カー 2008/10/29 10:28
新樹社から単発的に出た幻の本格派作家
ディクスン以外のカーと言うと短編の名手A・H・Z・カーやハードボイルド作家フィリップ・カーがいるが、もう一人山岳ミステリーのグリン・カーがいる
グリン・カー自身も登山家だが、探偵役リューカーは作者の分身に違いない
山岳ものらしいスケールの大きな豪快なトリックが使われているが、大味なトリック過ぎて小学生でも分かるレベルだろう
その代わり小学生ではまだ早い大人な雰囲気があり、リゾート・ホテルの魅力や人物描写は素晴らしいもので、こうした面は小学生には分からんだろうな

No.34 5点 死体のない事件- レオ・ブルース 2008/10/29 10:07
新樹社はレオ・ブルースを三冊も出しているが、小さな書店では並ばない新樹社だった為に日本で人気になり損ねた面もあると思う
レオ・ブルースという作家は新本格しか読まないような本格オタクにも受けそうな作家だけに惜しい
ブルースの代表作とよく言われるのは「三人の名探偵のための事件」だが賛成できない
「三人の名探偵」は悪く言えば単なる物真似ミステリーであり、ブルースらしいヘソ曲がりな特徴が充分に発揮されているとは言えないからだ
特徴がストレートに発揮されているのはこの「死体のない事件」だろう
真相はちょっと勘の働く読者なら見抜いてしまうだろうが、書かれた時代を考えると、よくこんな仕掛けを思い付いたものだ

No.33 6点 私が見たと蠅は言う- エリザベス・フェラーズ 2008/10/28 11:14
フェラーズのファンの間でもあまり評判の良くない作だが、私は擁護しておきたい
私は翻訳者の良し悪しについては細かい突っ込みはしたくないのだが、フェラーズに関しては翻訳者について言いたい
「蠅」は古いポケミスで出てはいたが評判が悪かった
英文は苦手なので分からないが、どうも原著独特のユーモアが上手く表現されてなかったようで、早川文庫での長野きよみの新訳で面目一新したという評論家の指摘もあった
私も同感で、旧訳は読んでないので分からないが、新訳を読むとなかなか良い作品だと思う
少なくとも戦後のフェラーズがトビー&ジョージものを捨て去り、サスペンス風本格に転向したのは正しい判断だったと思う
トビー&ジョージものは私が中村有希の訳が苦手なのもあるが、フェラーズの本質自体がサスペンスものの方に合っている気がするんだよな
トビー&ジョージもののトリッキーな部分ばかり褒める人は、「蠅」に関しては概ね評価が低い傾向があるが不当な評価であると言えよう

No.32 7点 殺意- ビル・プロンジーニ 2008/10/28 10:39
今読まれているのは「嘲笑う闇夜」「裁くのは誰か?」といったマルツバーグとの合作作品だけのようだ
新潮文庫がほとんど絶版で、普通に新刊で買えるのが創元の「裁くのは誰か?」だけの状況なので仕方ないのかもしれないが、理由はそれだけじゃないだろう
ハードボイルドが好まれず、サプライズものやバカミス怪作ばかりを追い求める今の読者側の風潮も問題だ
何が言いたいのかと言うと、「裁くのは誰か?」はプロンジーニ作品として読まれていると言うよりも、バカミス系単発作品として読まれているという印象だからだ
これははっきり言って良くない風潮である
プロンジーニは決してバカミス専門作家ではなく、ネオ・ハードボイルド作家であり、名無しのオプシリーズを読まなければプロンジーニを読んだ事にならないだろうに
中でも「殺意」はハードボイルドらしからぬ新鮮な感覚のするハードボイルドだ

No.31 4点 女には向かない職業- P・D・ジェイムズ 2008/10/28 10:21
ジェイムズはこれだけしか読んでないか、もう1冊読んでいたとしても「皮膚の下の頭蓋骨」だけという人が多いようだ
つまりジェイムズはコーデリア登場ものだけ読んでおけばいい的な風潮が蔓延しているが、これは非常に良くない
ノンシリーズを除くとジェイムズは16冊もの長編が訳されているが、その内コーデリアものはたったの2冊だけで、残りは全てダルグリッシュ警視ものである
作者のメインのシリーズなのにダルグリッシュものは不当に無視されている感じだ、どうしても1冊だけ読むのなら中期以降のダルグリッシュ警視ものから選ぶべきだろう、P・D・ジェイムズの中でこの「女には向かない職業」1作だけを読んでも作者の特徴を知るという点で意味が無いと思う
「女に向かない職業」は初期の一部作品を除くと、ある意味最もジェイムズらしくない作品だからだ
どう考えても作者の本領はこれではないだろう
暗くて重くて憂鬱じゃなければジェイムズじゃないよ

No.30 2点 その死者の名は- エリザベス・フェラーズ 2008/10/26 11:36
そもそも私には中村有希の訳が合わないのかもしれないが、訳文だけでなくフェラーズ自身の文章も良くないんじゃあるまいかと推測する
地の文章も読み難い上に、会話文もすっと頭に入ってこないので、事件の概要がよく分からない
物語の方もただゴチャゴチャしてる印象で、正直もう真相なんてどうでもいいよと読んでる間何度も感じた
「猿来たりなば」位の真相の捻りがあればまた別だが、このシリーズ第1作の点数はこんなものだろう
戦後のフェラーズがトビー&ジョージものを捨て去り、サスペンス風本格に転向したのを残念がる人もいるが私は正解だったと思う

No.29 6点 死の贈物- パトリシア・モイーズ 2008/10/26 11:02
モイーズのティベット警部シリーズはとても面白いので読んで欲しいシリーズだ
地味だし本格としての切れ味は鋭い方ではないが、安心して読めるオーソドックスな本格の味わいがあって、一時はミステリーの新女王と言われていたのも肯ける
「死の贈物」の舞台はモイーズにしては平凡で、「死人はスキーをしない」のようなモイーズ得意のリゾート観光地の御当地ミステリーではない
その分謎解きに徹していて、専門知識が必要と言う弱点はあるが、それも作中で解説しており問題は無いだろう
モイーズの中では本格色が強い方だと思う

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