皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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miniさん |
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平均点: 5.97点 | 書評数: 728件 |
No.348 | 6点 | エドウィン・ドルードの謎- チャールズ・ディケンズ | 2012/03/16 09:58 |
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今年はディケンズ生誕200周年である、今年中にミスマガで特集組む予定が有るのかどうか甚だ疑問なのでこの際書評してしまおう
チャールズ・ディケンズは、国籍上の英米の違いは有るがポーと同時代であり、ミステリー史的に見ると多くの作品が犯罪が絡んだり怪奇幻想文学だったりと、さながらもう1人のポーみたいな作家である ディケンズには「バーナビーラッジ」「荒涼館」といったミステリー風味な長編も有るらしいが、風味では無くはっきりミステリー趣向を打ち出した作品として知られるのがこの「エドウィン・ドルードの謎」なのだ もう一つこの作品が有名なのは、未完に終わった遺作なのである 歴史的名作リスト表にコリンズ「月長石」と並んでこの作品を入れる評論家と、「月長石」は入れてもこっちは入れない評論家とでバラツキがあるのは、多分に”未完”だという事情が有るからだろう 私はつい最近知ったのだが、ウィルキー・コリンズとディケンズとは生前に親交が有り、互いの作品をよく知っていたとの事だ 「月長石」が1868年、「エドウィン・ドルード」が1870年 つまり「エドウィン・ドルード」は「月長石」の影響下に書かれたらしいのだ 一方でコリンズは「エドウィン・ドルード」を未完の段階で読んで批判していたとの事で、晩年は不仲説もあったようだ こうした裏事情は訳者の小池滋が70ページにも渡って解説している 500ページの文庫本中で何と70ページが解説に費やされているのを見ても、謎の多いこの作品の特徴が知れる 私が感じたのは、もし未完で終わらなかったらちゃんと謎解きミステリーとして成立していたかも知れないという事 終盤にさ地下墓地のあたりで、ある薬剤がうず高く積まれているという描写が有るんだけど、あれ死体消失トリックの伏線ではないかと勘繰ったのだが私の考え過ぎかもな 何たって”解決部分”が存在しないのだから想像するしかないのだが キーティングはこの作品を犯罪小説の先駆と位置付けて評価しているが、たしかに未完ではそいういう風に捉えるしかない 犯罪小説と考えるなら未完であっても歴史的存在意義は揺るがないだろう |
No.347 | 4点 | シャーロック・ホームズの秘密ファイル- ジューン・トムスン | 2012/03/09 09:57 |
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明日10日、映画「シャーロック・ホームズ シャドウゲーム」が全国封切りとなる、数年前制作された映画の続編でホームズとワトスンの配役も1作目と同じ、今回はモリアティー教授が初登場するようだ
ワトスン役の俳優ジュード・ロウはスリムだし冒険スリラー風な映画らしいが、案外原典の解釈はこの方が正しいのかも さて便乗企画として本家を書評するには私はへそ曲がりなのでパスティーシュといこう パロディとパスティーシュは似てるようで若干違いが有り、前者にはリスペクトと同時にいたずら小僧的精神が有るが、後者は真面目に原典の再現を試みたものである 最近書評したR・L・フィッシュ「シュロック・ホームズ」などはパロディの代表格だが、パスティーシュ分野ではアドリアン&カー合作の例のあれと並んで代表的作家なのがジューン・トムスンだ ホームズ短篇の冒頭には、”この年にはA事件やB事件にも関わったがたとえ匿名でも特定される恐れがあるから公表するのは適切を欠くので、ここでは事件関係者が最近亡くなって秘密を守る必要性が薄れたからC事件を語ることにしよう”、みたいな記述がよくある このA事件やB事件の事は通称、”語られざる事件”と呼ばれている この記述の無い短篇も有るが、5~6件も事件名を挙げているのもあり、例えば「五粒のオレンジの種」「金縁の鼻眼鏡」などは多い 「五粒のオレンジ」は『冒険』の中でも推理興味の薄い話として知られるが意外な特徴があったのね 意外と言えば短篇だけでなく長編「バスカヴィル家の犬」にもこの記述が有る ジューン・トムスンのは、この”語られざる事件”を語るシリーズで、このパターンだけをこんなに数多く書いたシリーズは他にあまりないだろう、4冊が創元文庫で翻訳されている それぞれの冒頭には、なぜ今になって”語られなかった秘密ファイル”が公開されるに至ったかの経緯が述べられている、まぁもちろんその部分もフィクションなのだが トムスンのパスティーシュは謎解きミステリーとしての切れ味は今一つなものの良く原典の雰囲気を再現しているとして一般的には定評が有る たしかに感心する面もあって、これをシリーズとして沢山短篇に仕立てた苦労も有ったろうがそれだけでなく、何故その事件は語られずに封印されたままだったのかとの理由も存在しなければならないのも一苦労だ だって封印する理由が全く存在しないのならば、原典で語られてなければおかしいからだ、語るべき価値の無い事件だったからという理由の場合もあるだろうが、そんな事件は後年に発表しても意味が無いわけだし という事はつまり、事件自体は大変興味深いものだったが、当時は国家的機密だったりで取り巻く事情が許さず封印せざるを得なかったという事を読者に納得させなければならないわけで、作者トムスンはそうした事情に良く気を配っていると言えよう とここまで誉めておいて何だが、やはりこのパスティーシュは然程面白くない 謎解き部分がどうだとか理屈で説明できないんだけど、何しろ書いた時代が全く違う訳だから空気感が違うんだよなぁ、雰囲気がほのぼのしていて原典の暗さが無い あとホームズの造形にも違和感が有る、なんか違う 何ていうか女流漫画化が理想化して描いた二枚目キャラみたいなさぁ、原典のエキセントリックな感じが出ていない 矢張りこの辺は女流作家の描く男性って感じだよなぁ 例えば1作目の「消えた給仕長」は、”忘れ物の傘を取りに家に引き返したまま失踪したフィリモア氏”という古来から数多くの作家がパロった有名なエピソードで、「ソア橋」中で言及されている 「消えた給仕長」でトムスンはきれいに処理しているものの、ドイルだったらこんな真相には多分しないだろうなと思うもん |
No.346 | 7点 | シャーロック・ホームズの帰還- アーサー・コナン・ドイル | 2012/03/05 09:59 |
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おっさんさんの書評拝見して、特に収録作中どの作を評価するかの点について意見の近さを感じたので私も書評したくなってしまいました、『帰還』はずっと後回しにしていたんだけど(苦笑)
おっさんさんお薦めの2作、「六つのナポレオン」「金縁の鼻眼鏡」は私も同感で客観的に見た場合の集中ベストだと思いますね 前者は謎解きもさることながら、評価したいのはプロット構成力がシリーズ初期に比べて進歩している点 この真相だとナポレオン胸像6体の内、どうしても重要な1体だけが主眼となり他の5体が軽く扱われがちなんだけど、この作では狙いが空振りする他の5体にもそれぞれに万遍なく役割が与えられているのが上手い、他の5体が無意味じゃないんだよね 後者「金縁の鼻眼鏡」は昔からシリーズ随一の読者挑戦ものとの評価が有る作で、たしかに読者に手掛りが与えられている 読者が推理出来るかどうかにやたらこだわるタイプの読者もこの作なら文句を付けられないのでは 客観的な集中ベストは上記の2作だが、個人的な好みでの№1は「プライオリ・スクール」、この短篇集収録作だけでなく読んだ第1~第3短篇集までのシリーズ短篇中でもベスト5に入るくらい好き この作も昔から論理の誤謬があるとして有名な作で、自転車の轍の重なり具合に関する推論は明らかに作者の勘違いだろう しかしそんな瑕疵には目を瞑ろう、私は地道に足取りを巡る捜査小説というパターンが好きなのだ シリーズ中でも地味っちゃ地味だが、地味好きな私としてはこの痕跡を追う地道な調査が嗜好に合う 自転車と言えば「美しき自転車乗り」もヒロインの造形のモダンさが良い、ドイルは女性を描くのが紋切り型であまり上手くない印象があるが、この作では珍しく活き活きしている 逆に有名な作で過大評価だと思うのが「ノーウッドの建築業者」と「踊る人形」 「ノーウッド」が名作と言われてきた原因はまたもや乱歩、シリーズ中最もトリッキーな作として乱歩が高く評価したというわけだ 結果的に不思議な謎になるというパターンでなくして、犯人側の方からはっきりトリックらしいトリックを仕掛けるパターンはシリーズ中には案外と他に無いので、トリック好きな乱歩の目に留まったのだろう しかしアメリカっぽい陽気な雰囲気が何となくミスマッチ 「踊る人形」も暗号と人間ドラマとの融合がミスマッチで、これならポーの「黄金虫」の方が雰囲気と合っている いずれにしてもホームズが復活してからの作はレベルが落ちるみたいに言われがちだけど、小説創りの面などはシリーズ初期よりもむしろ上手くなってると思う 年代的に見ると、第2短篇集『回想』から10年間ものブランクが有るのだが、決してそのブランクが無駄ではなかったという事だろうか、個人的には『冒険』に比べてもそれほど劣っているようには感じられなかった |
No.345 | 8点 | Mr.クイン- シェイマス・スミス | 2012/03/02 10:03 |
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* 今年の私的マイブームの1つ、スミス姓の作家を漁る
こいつはぶったまげた犯罪小説だぜ、ヤバいぜ 主人公のクインってのはちょっと滑稽ではあるが血も涙も無いとんでもねえ奴だぜ、読者は絶対に感情移入なんか出来ねえぜ いや、書いた奴もそんな事期待しちゃぁいねえだろうしな 主人公のクインは裏で犯行計画を練る、”犯罪プランナー”って奴だ 犯罪プランナーと言ったら、あのウェストレイクの泥棒ドートマンダーを思い出すぜ しかし泥棒ドートマンダーの場合は明らかに作者が読者の共感を得るように仕向けているだろ しかしシェイマス・スミスに言わせリャ”同情するより読んでくれ”ってなところだろうぜ このミス2001年度のランキングで「Mr.クイン」は2位だったぜ、ちなみにその年度は1位がトンプスン「ポップ1280」、3位がトマス・ハリス「ハンニバル」、と犯罪小説が席巻してるぜ さらに2003年度のランキングでもスミスの第2作「わが名はレッド」が3位にランキングしてるぜ、シェイマス・スミスが上位にランキングされるのは納得だぜ ”このミス”のランキングで上位にくるようなのは、やはりそれなりの内容はあるから馬鹿には出来ないと知るべきだぜ |
No.344 | 5点 | 午後の死- シェリイ・スミス | 2012/03/02 09:46 |
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* 今年の私的マイブームの1つ、スミス姓の作家を漁る
* 1912年生まれ、つまり今年が生誕100周年の作家は意外と多い 今年の私的読書テーマ、”生誕100周年の作家を漁る”、第2弾はシェリイ・スミスだ シェリイ・スミスは私にとって不思議な作家である と言うのは作品の内容の事ではない、謎なのは翻訳のされ方なのだ ちょっと海外ミステリーに詳しい方だと、シェリイ・スミスって言ったら、「午後の死」1作のみで知られてるイメージなんじゃないだろうか これが不思議なのだ 実は「午後の死」は海外ではスミスの代表作とはあまり扱われていない いやもちろん「午後の死」が翻訳紹介された事情は分かる 私もうろ覚えなんだが、たしか英国コリンズ社クライム・クラブ叢書の創立50周年記念復刊として、作家兼評論家ジュリアン・シモンズが12作を選んだ内の1冊に選ばれたからだと思う しかしこれで陽の目を見た「午後の死」は、それまでは作者の代表作とは見なされていなかったはずだ シェリイ・スミスはメジャー作家ではないが、決してマイナー作家でもなく、海外の名作里程標リストにも時々名前は載ってくる作家である しかしその代表作として名前が挙がる作品は違う作品だ、そもそもシェリイ・スミスって選者によって選ばれる作品がばらばらなんだよね 実際シモンズだって、有名なサンデー・タイムズ紙ベスト99ではスミス作品としては「The Lord Has Mercy」の方を選んでいるし、キーティング選による海外名作100選では「The Party at No.5」が選ばれている 不思議なのは上記の2作が未訳で残っている事で、たしか論創社はシェリー・スミスには未だ手を出してないはずだからやってみませんか? また早川ポケミスには「午後の死」以外に、初期の代表作の1つと言われる「逃げる男のバラード」が有るんだが、一応これ所持しているんで気が向いたら読んでみるつもり ※ 余談になるが、話に出たクライム・クラブ50周年記念の復刊12作の顔触れだが、邦訳刊行のあるものでは ガーヴ「落ちた仮面」、デイリー・キング「空のオベリスト」、クリスティ「ABC」、クロフツ「ヴォスパー号の遭難」、ブレイク「殺しにいたるメモ」、P・マク「迷路」などがある、意外と現在では読めるものが多い 未訳なものでは E・フェラーズ「Enough to Kill Horse」 N・マーシュ「Spinster in Jeopardy」 L・A・G・ストロング「Which I Never」 などがあるが、フェラーズは初期のトビー&ジョージものだけ読んでおけばいい風潮が有るがそんなことはなく、作者の持ち味が出ているのは中期のサスペンス調のだと思う 中でも「Enough to Kill Horse」は中期の代表作としてよく名前が引き合いに出されるのでどこかが手を出さないかな あと未紹介作家のL・A・G・ストロング、この作家はこの12作の中に選ばれたからというだけでなく、結構海外のベスト表などで名前を見かける作家なので初紹介して欲しいものだ |
No.343 | 6点 | シンデレラの罠- セバスチアン・ジャプリゾ | 2012/02/28 10:02 |
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本日28日に創元文庫から新訳版が刊行される、らしい
旧訳版が訳が古くなったからって~のが理由だったら他に候補なんていくらでも有るだろうによ、何でこれ選んだ? 「シンデレラの罠」は陳腐な手段ながらもちょっと気の利いた謎をフランス風にお洒落に仕立てた、本来ならサスペンス小説のファンにこそ読んで欲しい作だ しかしながら初めて読む読者が先入観を持つ代表的な作品でもある その先入観とは?、そう、もちろんトリッキーな本格を期待する誤ったイメージだ その原因は、読者側と出版社が半々というところだろう まずは読者側の姿勢 ジャプリゾは各種ガイドを見てもサスペンス小説の作家であり、たしか作者自身もミステリー作品として書いたのは「シンデレラ」を含む初期の2~3作だけだと言ってた記憶が有るし、実際に中期の「殺意の夏」なんか読むと狭い意味でのミステリー作品かどうかも微妙だ この作品だって当然サスペンス小説の前提で読み出すべきなのだが、普段は本格しか読まず他ジャンルに偏見を持ってるタイプの読者がより手を出してしまいがちという悪習がある しかし責任の半分は出版社側にも有る 創元文庫の宣伝文句、あれはいかんだろう、やたら1人4役ばかり強調してさ、トリック本格と誤解させてる はっきりこれはサスペンス小説のジャンルであると明記すべきだ、新訳版ではどうなってるんだろ 大体さぁ、見開き扉やカバー裏の紹介文に関してはさ、創元文庫のは拙いものが多い 早川文庫やポケミスのそれは悪く言えば面白味に欠けるが適切と言えば適切だ しかし創元のははっきり言って扇情的で恥ずかしい文面だったりネタバレすれすれだったり、とにかく不適切なものが多い これは私は以前から感じていたことだ 例えば同じフランスのサスペンス小説、ノエル・カレフ「死刑台のエレベーター」の惹句などは、そこに書いてある事が肝心の本文内容の8割くらい占めていて、そこまで書いちゃ駄目だろと、その後で話がさらに続くのかと思ったらそれが殆ど全てじゃねえかよ 「シンデレラの罠」だって本格しか興味ありませんて読者に対しては、これはサスペンス小説だと警告した方が親切ってもんだろ まぁそんな偏った読者側の姿勢にも問題が有るが、その手の読者層は現実にはかなり存在するからねえ ところで! この小説は結論を曖昧なままで終わりにした仕掛けではありません、ちゃんと伏線が有って解決編で結論が出ています こんな簡単な解決編の意味が理解出来ない読者はあまり居ないと思うけど、たまに作者の意図が分かってない読者も居るみたいなので、一応2人の内どちらが残った方つまり”私”なのか教えてあげます * ↓ 注意!はい、ここからネタバレです ↓ * 香水の名前が『シンデレラの罠』である事を知っていたのは、2人の内、一方のみなのです、作者はラスト近くでお洒落に正体を明かしています |
No.342 | 7点 | シュロック・ホームズの冒険- ロバート・L・フィッシュ | 2012/02/24 09:59 |
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明日25日発売予定の早川ミステリマガジン4月号の特集は、”「探偵オペラ ミルキィホームズ」の系譜”
私はRPG系のゲームは殆どやらず、ドラクエですら一度もプレイしたことが無い しかもメディアミックスと言ったってさ、私は漫画もアニメも全く鑑賞しないんだよなぁ ミルキィホームズは知らねえが、シュロック・ホームズなら既読だから書評しようかな 1912年生まれ、つまり今年が生誕100周年の作家は意外と多い 今年の私的読書テーマ、”生誕100周年の作家を漁る”、第1弾はロバート・L・フィッシュだ しかし当サイトでシュロック・ホームズの書評するの私が初めてとは意外だ そう気が付いてamazonで確認したら、なんだ絶版なのか、戦後のホームズ・パロディの中でも最も有名な部類なのに こんなの絶版のまま放置している早川も反省せい ホームズのパロディはそれこそ星の数ほど有るが、パロディ度が濃厚という観点でなら他にいくつもある中で、読んで面白いホームズパロディと言うとある程度候補は絞られる シュロック・ホームズは面白く読めるという意味では歴代のパロディの中でも五指に入ると思う このシリーズの特徴はホームズが単に的外れな推理をするという事ではない、それだけなら他に良いパロディはいくつもある またパロディじゃないがジョイス・ポーターのドーヴァー警部のように、推理は的外れだが結果的に事件を解決するっていう話のもって行き方もある しかしシュロック・ホームズの場合は、推理がトンチンカンなだけでなく、事件も未然に防げないのである ホームズの推理に関係無く、裏で悪漢たちの犯行計画は着々と進行し見事に成功するのだ ところが見かけ上はホームズの推理によって目出度く一件落着となって話は締め括られる 読者からしてみれば真の真相が分かるだけに、この辺のズレが飄々と語られるのが面白い 惜しいのは、英単語の解釈での見解の相違を利用したパターンが全体的に多いので、日本人にはちょっとニュアンスが分り難いものも散見されるのが玉に瑕 |
No.341 | 6点 | 世界短編傑作集1- アンソロジー(国内編集者) | 2012/02/20 09:57 |
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作家としてだけでなくミステリー研究家としての存在も無視出来ない乱歩が編んだことになっている
まぁそうなんだろうけど、乱歩は海外の里程標や名作リストを知らなかったはずは無く、おそらくはそれら資料を参考にして再構成したに違いない オリジナリティという観点では弱点だが、結果的に長所として収録作品の質が優れていてセレクトに妥当性があるのは認めざるを得ない 編年体の配列順なので全5巻を通して見事に短篇ミステリーの歴史の流れを俯瞰出来る様になっていて、初心者が海外短篇の古典を学ぶのには最も適したアンソロジーだろう 欲を言えば、ミード&ハリファックスのハリファックス博士もの、マクドネル・ボドキンの親指探偵ポール・ベック、ホーナングのラッフルズなどのシリーズからも採用して欲しかったな この第1巻ではミステリー創生時代の作品が並びいかにもな古典、古さは仕方が無い 探偵小説の創成期という時代を研究する巻という位置付けだろう 収録作中で好きなのは断然ロバート・バー「放心家組合」 謎は解明しても事件は解決しないっていう一見消化不良な感じが様式美嫌いな私に合う 多分合わない人には合わないんだろうけどね 締めは出版社創元に対するイチャモン 創元はアンソロジーに対して理解出来ない性癖を持っていて、他の個人短篇集の収録作品を平気で省く、当巻だとポーとドイルがそう ポーとドイルを省いた理由は分かるよ、要するにこのアンソロジー読む人なら既に読んでるだろうし、重複を避けたと しかしこのアンソロジーは短篇の基本図書みたいな意義位置付けだろ、だったら省いちゃ駄目だろ 逆パターンもあって、例えばH・C・ベイリーの『フォーチュン氏の事件簿』には「黄色いなめくじ」が入って無いが、このアンソロジーの第5巻に入っているからなのが理由だ 第1巻だとモリスンやフットレルもそう しかしだ創元よ、何で”重複”をそこまで気にする、いいじゃないかダブったって、早川ならその点では大らかだぞ 収録作品がダブると読者からクレームが来るとでも思っているのか?創元は考えすぎだよ |
No.340 | 5点 | チョコチップ・クッキーは見ていた- ジョアン・フルーク | 2012/02/14 09:58 |
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* チョコの季節だからね(^_^;) *
グルメ系コージー派を代表する作家の1人、現在ではコージー派ファンに最も人気の有る作家だろう グルメ系には一般的な料理、デザート、コーヒーなどのドリンク類など様々なタイプが有るが、このシリーズはスイーツ お菓子探偵ハンナシリーズ第1作 お菓子探偵ハンナは初めて読んでみたが、もう典型的なコージー派の王道って感じ、とにかくコージー派を読んだ事の無い読者が先入観でイメージする通りだ 私は今まで初心者がコージー派に入門するのに最も適した作家はジル・チャーチルと思っていたが、いや気が変わった、コージー派入門への最適テキストはジョアン・フルークだな 悪く言えばそこが弱点 シリーズ化を見越して計算されつくしたレギュラー登場人物達の配置、話の展開から事件の真相まで綺麗に無難に纏まったプロット 尖った要素を嫌う人が多そうなコージー派ファンにはこの異色性を排除したいかにもな無難さ王道感が受けるのだろう、日本のコージー派ファンに人気シリーズなのも納得 裏返して言えば私には正攻法過ぎて面白くない これだったらコージー派にしては暗い雰囲気が異色のダイアン・デヴィッドソンとか、ちょっぴり社会派スパイスを効かせたレスリー・メイヤーとかの方が私には魅力的だな 一応誉めるところは誉めておくと、事件に対する主人公ハンナの捜査方法は割と地道な警察小説風なところが有って、地味な捜査小説好きな私としてはそういう面は好きだ それとネタバレになるから詳しくは言い難いのだが、この登場人物一覧表ってこれでいいの? だって、この真相だと・・・ |
No.339 | 6点 | 地下室の殺人- アントニイ・バークリー | 2012/02/10 09:59 |
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とにかく古書市場で現在では法外な高値が付いているのにびっくり
昔、その当時は安価な中古で見付けて、他にも欲しい本は有ったし特にこの本が欲しかった訳じゃなかったけど、何となく買っておいた身としては仰天、今の値段見て嘘だろ?という感想しか出てこない ずっと前に読んだ事すら忘れてたし(苦笑) 元々国書刊行会が世界探偵小説全集を部数限定ハードカバーで刊行した理由の1つはニッチを狙ったんだろうから、需要と供給のバランスは取れているものと思っていた この全集、大部分は供給は充分で今では文庫化されたものなんか値崩れしているし、いくらこの作だけ絶版になるのが早かったと言ってもこんな高値になるとは当時誰が予想したろう 他社含めたハードカバー刊行作品中で、この作品と論創社のスカーレット「ローリング邸の殺人」の2作の中古市場での高値は異常だと思う 「ローリング邸」も既読だけれど、私がロジャー・スカーレットという作家が嫌いなんで、と言うかあの二階堂がやけに「ローリング邸」に入れ込んでいたので反発の意味で早々に手放しちゃったよ、今は論創社の全集中で唯一品不足を起こしているんじゃないか、増刷するか未定のようだし(また苦笑) 「地下室の殺人」が内容的に意外だったのは、この作者にしては普通の本格だった事、バークリーってこんな正攻法な本格も書くのかと思った ただ前半の話の持って行き方などは作者らしさが出てはいるが 野球の投球に例えるなら、変化球が2~3球続いたので、そろそろ直球来るかと普通は思うが、待てよこのバッテリーなら裏かいてもう1級変化球続けるかもと打者が読んだら、裏の裏をかいて内角低めにストレート決められました、って感じか |
No.338 | 5点 | 義眼殺人事件- E・S・ガードナー | 2012/02/06 09:59 |
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発売中の早川ミステリマガジン3月号の特集は、”逆転裁判/逆転検事に異議なし!”
裁判てえ~っと、やはりガードナーも採り上げないとね 「どもりの主教」とかあまり裁判シーンが重要な要素を占めてない作品も有るんだけど、「義眼」なんかはシリーズの中では比較的に裁判シーンの重要性が高い方じゃないかな、裁判シーンの分量比率ではなく役割という意味でね ところで当サイトで空さんも指摘しておられますが、何ですかこの題名 ガードナーは大部分は早川が刊行しているが、メイスンシリーズ中には創元が出しているものも数作あって、「吠える犬」などは珍しく創元版は有るが早川版が存在しない 両社揃って刊行したものも数作有るが、例えば「怒りっぽい女(すねた娘}」「門番の飼猫(管理人の飼猫)」のように微妙に題名が違うものもある そんな中、「義眼殺人事件」は両社仲良く?題名が共通である でもこれ不思議だ メイスンシリーズの題名って、”(形容詞・形容動詞・修飾語句A)+(名詞B)”という形式を採るパターンが殆どで、このAとBとの組み合わせが妙だ、というのが1つの特色になっている だとすればだ、原題も例外でなくパターンを踏襲しているし、普通に考えて邦訳題名は”模造の眼球”とかにすべきなんじゃないだろうか それが何で「義眼殺人事件」??? 数点しかない創元はともかく早川なんて他の数多いシリーズ作品の題名は全て原題を活かした「~の~」「~した~」というパターンなのに、なぜ「義眼」だけ”殺人事件”が付いているのか??? ガードナー作品で題名中に”殺人事件”が付く作品は他には殆ど無かったはずで、内容よりも題名の方がはるかに謎である |
No.337 | 6点 | 三十九階段- ジョン・バカン | 2012/02/03 09:59 |
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本日は節分、昨今は恵方巻なる怪しげな?食べ物が巷で流行っている
この恵方巻、関東人には昔は馴染みの無い風習だった 関西では昔からの伝統的行事だったのかなと思っていたが、疑問もある 一説では大昔には全国的に有った風習だが、昭和になって大阪鮨業者組合が復活させた意図的なものだとの話もある だとするとこの埋もれていた風習に目を付けたのは大阪の手柄なのは否定しないが、関西の人の中には古い伝統という意味では関西でもそんなにメジャーな風習でもないと言っていたのも肯ける うわ~話が道草だぁ、で、今年の恵方は北北西だそうだ 北北西? そう聞くといやでもあの映画の題名を思わせるではないか ヒッチコック自身ではないらしいが某脚本家によるオリジナル脚本で、直接の原作なるものは存在しない しかし、影響を受けたと思しき作が無いわけでは無い バカンの「三十九階段」なんてその1つなんじゃないかな、考え過ぎか? 敵のある認識間違いによって追われる立場となった主人公 敵以外にも警察に駆け込んで一切正直に話すわけにもいかない事情を抱えている為、警察からも追われる主人公 途中で飛行機による上空探索を試みる敵 ヒッチコック映画側が何の影響も受けてないと考える方が無理があるだろ 「三十九階段」はスパイ小説の元祖的に言う評論もあり、たしかに背後に政治絡みの意図は働いているんだけど、話の展開自体はかなり冒険小説寄りだ やはり冒険小説とスパイ小説とは根は1つ 昨今は冒険小説とハードボイルドとを同系統に考える悪しき風潮が有るようだが、この思想は完全に間違ってる 冒険小説とハードボイルドとは全く起源発祥が別物であって、ごちゃ混ぜに考えるのなら冒険小説とスパイ小説の関係の方がはるかに近い あ~また道草だ~、で「三十九階段」は面白いのかって?、そりゃ書かれ年代を考慮すれば古臭いのは仕方ないよ、でも古さ考えたらまぁまぁじゃないの |
No.336 | 6点 | 結末のない事件- レオ・ブルース | 2012/01/30 09:56 |
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先日27日に創元文庫から「死の扉」が復刊された
戦後のキャロラス・ディーンものの第1作で、後期になって作風を変えた出発点のような作品らしい 私は未読で特に要望もしてなかったんだけど、「死の扉」を復刊要望してた人は多かったらしいね 本当は前期のビーフものを先に読んでおくべきなんだろうけど、ビーフものを未読のまま「死の扉」だけ要望してた人も居たみたいだね 邦訳されたビーフもの4作が全部ハードカバーで文庫版が1冊も無いのも原因なんだろうか 「結末のない事件」は邦訳されたビーフもの4作の中では一見すると最も地味で探偵役ビーフの描写も変人ぶりが控えめだ しかし「結末のない事件」は油断出来ない曲者なんである 謎解き的には題名の由来でもあるブルースらしい大きな仕掛けと、それに付随する小さな隠蔽が用意されている 大きな方の仕掛けは「死体のない事件」「ロープとリングの事件」に比べていささか小粒で、正直あまり面白いとは思わない しかしもう一つの小さな仕掛け、読者を巧みにミスリード、と言うか読者に悟らせないある隠蔽が実に巧妙 言い訳めくが作中のある箇所で私も何となく違和感有ったんだけど、最後でネタ明かされて、そうだよな真相はこれしかないよなと脱帽した 頭の悪い私では完璧には見抜けなかったが、勘の良い読者なら気付く人はいると思う 後期作の紹介も重要だけど戦前の前期ビーフものにも未だ未訳作が残っているのを各出版者様、忘れて欲しくないですね |
No.335 | 8点 | 依頼なき弁護- スティーヴ・マルティニ | 2012/01/26 10:07 |
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昨日25日発売の早川ミステリマガジン3月号の特集は、”逆転裁判/逆転検事に異議なし!”
やはり裁判って言ったらリーガル・サスペンス分野の書評しないとね リーガル・サスペンスには大きく分けて2つのタイプが有ると思う 1つは、トゥロー、フィリップ・フリードマン、R・N・パタースン等のようなシリアス派 もう1つは、グリシャム、フィリップ・マーゴリンなどのエンタメ派だろう スティーヴ・マルティニは明らかに後者のタイプで、謎解き派と呼ぶ評論家も居るように謎解き色はたしかに強い しかしマルティニという作家、前作「重要証人」を読んでの感想は私はあまり感心しなかった 二転三転するハラハラな展開とどんでん返し、読者によっては好きかも知れないが、あざとい真犯人の正体、二転三転し過ぎが結果的に裏目になって単調になってるプロット そして何よりわざとらしい比喩を多用する文体が好きになれなかったのだ しかしこの「依頼なき弁護」は前半はマルティニらしい文体が気になるが全体的にはわざとらしい比喩も控え目だ そして何より感心したのが、今回の事件は主役マドリアニ弁護士の身内の事件なせいもあって、どんでん返しにあざとさが無く、まさに感動を呼ぶ話なのだ 逆に言えば、感動とかが嫌いで、ただただ二転三転のスリルとどんでん返しだけを求めるような読者には前作「重要証人」の方が合うと思う 中盤での二転三転、終盤でのあざやかな裁判での逆転劇、さらにスリリングなアクションシーン、そしてオーラスの感動的で意外な真相、全編に渡って素晴らしく、「依頼なき弁護」は作者の初期代表作との評判に嘘は無いリーガルサスペンス分野でも屈指の傑作である、作者マルティニを見直した 1つだけ、これは欠点と言うより一種の弱点なんだろうが、 この作品、実はどう見てもS・トゥローの絶対的名作「推定無罪」の影響がありありである しかし単純にその模倣ではなく、マルティニ流の捻りが加えられてるので、まぁ許せる範囲なんじゃないだろうか とにかくリーガル分野に興味を持ったなら、必読の傑作である事は私が保証します |
No.334 | 7点 | 魔の淵- ヘイク・タルボット | 2012/01/19 09:56 |
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* 雪の季節だからね(^_^;) *
雪と言えば数年前に読んだこの作品を忘れてた 「魔の淵」は足跡とかみたいに雪が特別に謎に関わってくるわけじゃないが、雪が雰囲気の盛り上げに貢献している点では外す事は出来ない 当サイト以外の他サイトでの評判はあまり芳しくないようで、その理由は不可能犯罪系中心の読者が求める方向性とあまり合わないからだろうと思われる しかし私は割と好きな作品なんである 当サイトで空さんも御指摘の様に密室が重要な要素ではないし、そもそも”雪の山荘テーマ”ですらない いや、もちろん舞台は雪の山荘ではある しかしその山荘に閉じ込められたサスペンスが主眼ではないのだ 外部とは雪原を歩いて行き来出来るし、実際に登場人物達はもう1箇所の小屋まで往復したりしている こういう点がクローズドサークル・マニアには期待外れなんだろうけどね ”雪の山荘テーマ”と言うより屋外空間ものに近いので、この点に於いてクローズドサークル嫌いな私には合っているのだ プロットがごちゃついてるのが難だが、そのごちゃごちゃした展開がまた持ち味でもある 「魔の淵」はトリックがどうのロジック云々ではなくて、ずばり言って雰囲気を愉しむ性格の話だと思う 例えばMr.マリックやセロの超魔術を見て、あれはどんな仕掛けなんだと推論を巡らせる事はよくあるだろう しかし数人の助手が同舞台に存在する引田天功のイリュージョンを見て、いちいち仕掛けを見抜こうとするだろうか? 天功のイリュージョンは奇術ではあるがショーの一種でもあり、見て雰囲気を楽しめればそれでいいのだろう 「魔の淵」もそんな作品で、伏線の回収がどうだトリックがどうだとか重箱の隅を突くような読み方をしても意味のない作品という気がしてしまうのだよな |
No.333 | 6点 | 魔王の足跡- ノーマン・ベロウ | 2012/01/10 09:57 |
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* 雪の季節だからね(^_^;) *
雪とミステリーとの関連で言うと、まず発想するのが”雪の足跡” この作品は”雪の足跡テーマ”を極限まで追求したトリック本格である 実は数年前に読了した時の正直な評価は4点くらいだった だって物語的魅力に欠ける単なるトリック小説そのものなんだもん しかし最近この作品を見直しているんだ、何故かってえ~と そもそも本格で”雪の足跡”って言ったら、雪に閉ざされた館の周囲に点々と続く足跡みたいなイメージでさ、館ものが苦手の私にとって最も嫌いなパターンなんだよな しかしベロウ「魔王の足跡」は、まず館ものじゃねえし、一応不可能トリック系ではあるが狭い意味での密室ものでもねえし 要するに、”閉塞空間”というのが舞台じゃなくて、もっと広範囲にわたる屋外空間なんだよね クローズドサークルが嫌いで屋外空間派の私としては、まぁまぁ嫌いではないな トリックもどのようにして”雪の足跡”は付けられたのか、という一点勝負だ 他の各種ネット書評など見ると、こうした要素が期待した方向性と違うんでがっかりした読者も居たみたいだが、クローズドサークル嫌いな私としては逆に好ましかったんだよね |
No.332 | 7点 | シャイニング- スティーヴン・キング | 2012/01/06 09:45 |
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* 雪の季節だからね(^_^;) *
コロラド山中にあるそのリゾート・ホテルは冬季は雪に閉ざされ交通が遮断されるので、営業は休止し翌年春の雪融けの季節まで管理人だけが施設保持の為過ごすのだった 不可解な死を遂げた前管理人の後任として新たに管理人として赴任したジャック一家だったが、このホテルなんか変・・ キング・オブ・ホラーことスティーヴン・キング 前回「呪われた町」を読んだ時には、何でキングってこんな評価高いのかと納得できなかったが、今回「シャイニング」を読んで納得、たしかにキングはすげ~作家だ 題名のシャイニング(かがやき)とは一種の霊感能力の事 内容は単なる”幽霊屋敷”ものなんだが、やはり現代に幽霊屋敷を持ち込もうと思えばこういう形に成らざるを得ないよなぁ この作品が本格だったとしたら典型的な”雪の山荘テーマ”そのもので私の嗜好ではないのだが、これはホラーだから許せる(苦笑) ホラーの金字塔という一般的評価に違わぬ名作だろう ただ終盤がほとんどホラーと言うより純然たるスリラー小説と化しているのは読者によって好みが分かれるかも まぁ、そのスリラー小説の部分も読ませる筆力が有るのだが 映画人だったら思わず映画化したくなろような話だ |
No.331 | 4点 | 有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー- アンソロジー(国内編集者) | 2011/12/29 10:17 |
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発売中の早川ミステリマガジン2月号の特集は、”アジア・ミステリへの招待、特別寄稿=島田荘司”
残念ながら長編でアジア作家の作品は1作も読んで無いが、短篇なら1つ思い出したよ、このアンソロジーに入ってたんだ 角川文庫から4冊出ているアンソロジーのシリーズ 収録作品の質では法月編のが一番だと思うが、のりりんらしく重いと言うか遊び心にも丁寧さが出過ぎな印象 この種のアンソロジーには北村編くらいで丁度良いような 山口編は後発だけに先行する3者に目ぼしいのを使われちゃって気の毒な気がした どうも他の書評者には北村編のが一番評価が低めだけど、私は有栖川編が一番つまらなかったな 第1部の”読者への挑戦”てのがつまらない、大体ねえ私は”読者への挑戦”なんて嫌いなんだよ、”推理パズル本”の類なんか読んだ事も無い 誤解されないように一応言っておくと、私はクイズは好きでTVのクイズ番組なんかは良く見る、だってあれは知識クイズだから クイズによって新たな知識が得られるのなら歓迎だが、”犯人当てパズル”なんて時間の無駄にしか思えないし、こんな事に頭を使いたくない ミステリー小説と”推理パズル”とは全くの別物と思っている、推理パズルを楽しめる人なんて私には理解出来ねえよ 特につまらないのが”つのだじろう”の漫画 私が普段から漫画を読まないせいもあるだろうけど、私が嫌いな典型的コード型の館ものだしね 漫画なら山口編収録の方のが良かった、文章ではなく漫画でしか表現出来ない芸当の漫画を選んでるのが冴えてる ありゃ話が脱線しちゃった、脱線するわけじゃないのが収録の台湾人の作家が書いた鉄道ミステリー中編「生死線上」 作者の余心楽という作家は初耳だが、有栖川氏が香港旅行の折に雑誌連載されてたのを偶然見付け後に作者に了解を取ったとのことだ 台湾人だが実は欧州在住で、現地では欧州華人作家組合みたいなのに所属しているらしく、収録中篇も台湾ではなくスイスの鉄道が舞台である 内容は日本のトラベルミステリーの影響を大きく受けていて、なるほど真相のアリバイトリックはこれしかないよなって感じで、私はアリバイにアレルギーが無い読者なので、丹念に事件前後の時間の経過を追っていったら何となくトリックは読めた 不満なのは探偵役の造形で私が最も嫌いなタイプの探偵役なので、こういう部分は日本の悪しき影響を受けずに独自性を追求して欲しかった 収録作の資料的価値で言うと、ロバート・アーサー「五十一番目の密室」とW・ハイデンフェルト「〈引立て役倶楽部〉の不快な事件」 「五十一番目の密室」は現在では早川が伝説のアンソロジーを復刊しちゃったから希少価値は薄れたが、トリックは超有名な短篇だ、まぁトリックで言うなら北村編収録の同じアーサー「ガラスの橋」の方が優れていると思うが 「五十一番目の密室」のトリックは昔から有名だったので、さらに別の作品がよく引き合いに出される それがハイデンフェルトの「〈引立て役倶楽部〉の不快な事件」で、「五十一番目の密室」の極端なトリックをさらに推し進めた究極密室トリックだ このトリックも昔から有名だったが、何と言う作品なのか長い間謎だったのだが、作品名が判明したわけだ 題名の元ネタは言うまでも無かろう この作品、実は講談社の別のアンソロジーでも読めるんだよね、案外と知られていないが、こちらのアンソロジーも所持はしているのでいずれ機会が有ったら書評しようかな |
No.330 | 5点 | メールオーダーはできません- レスリー・メイヤー | 2011/12/22 09:45 |
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* 季節だからね(^_^;) *
クリスマスも近づく雪の夜、夜間電話オペレーターとして通販会社に勤めるルーシーは、会社の駐車場の車中で経営者の死体を発見する 自殺する理由が思い当たらない事に疑問を持ったルーシーはクリスマスの準備の合い間に捜査に乗り出すのだが ドメスティック系コージー派、主婦探偵ルーシー・ストーンシリーズ第1作 ドメス系の代表的作家ジル・チャーチルと比較すると、レスリー・メイヤーはチャーチルほどには謎解き要素が弱いが、浮ついた感じが無くリアリティが有ってチャーチルより好感が持てる ただこのシリーズ第1作は、第3作「ハロウィーンに完璧なカボチャ」に比べて謎解き面がやや弱いのが残念 それでも社会的弱者に対する温かい眼差しなど魅力は有る |
No.329 | 4点 | このミステリーがすごい!2012年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 2011/12/12 10:03 |
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昨年に引き続いてランクする作品群の質は豊作と言われるのだが、『このミス』自体は年々ショボくなっていくような、最近は500円でも高く感じるよ
昨年の『このミス』では各社横並びに北欧系旋風かと思ったが、今年のランキング見るとちょっと拍子抜けか ランキングで興味魅かれた作品は2位のフォン・シーラッハ「犯罪」、創元だけど文庫じゃなくて単行本だが文庫化予定あるのかな? ドキュメンタリー風との事だが、何年か前の1位「あなたに不利な証拠として」のノワール版みたいな奴なんだろうか? ウィンズロウ「夜明けのパトロール」は10位以内に入らなかったが、多分「サトリ」と票が割れたのが原因かもな では今年も”我が社の隠し玉”、しかし今回はちょっと魅力に欠けるなぁ、おぉぉぉ!と思ったのは論創社だけだな では恒例により「このミス」での掲載順にて 東京創元社: 今回のランキングで興味魅かれたフォン・シーラッハ「犯罪」の続編短篇集を予定、他は旬の北欧の警察小説など ドイツの作家ノイハウスのは”ナチス台頭下ベルリンを舞台にした三部作”って、どこかで聞いたような・・・ 集英社: 一押しがC・J・サンソムという作家、CWA賞系だからいかにもな英国風なのかな? あとはマクダーミドのCWA賞受賞作にエルキンズ夫妻のゴルフもの第2弾、集英社って質的には悪く無さそうなんだけど、何となく後回しに(苦笑) 新潮社: 毎年それとなく魅力的なんだけど、今回の予定のはなぁ(これも苦笑) 国書刊行会: 今回はE・P・バトラー「通信教育探偵ファイロ・ガッブ」につきる、どこかで出してくれるのを長年待ってたんだよ「ファイロ・ガッブ」 扶桑社: 今年はランキングと無縁だったが時々変な穴馬を出すからなぁここ、でも知られてる作家の時は案外と期待外れなんだよなぁ 武田RHJ: 今年も20位に1冊送り込んでさ、意外とシリアス作品で良い仕事していて、もう”ランダムハウスはコージー専門”との偏見を見直すべきだよなぁ 論創社: 何たってC・ライス&S・パーマー合作のマローンとヒルディの競演短篇集が楽しみ、この調子でパーマー単独の短篇集と未訳長編も頼むよ あとは「クレイ大佐」だが、ツイッターによるリクエストは私は不満、私の欲するものが大抵抜け落ちているんだ 大体さぁ、「クレイ大佐」って悪党キャラだから厳密にはホームズのライヴァルじゃねえだろ、他に違うのあるだろうよ 早川書房: 今年は1位だけでなく20位以内に5冊を送り込むなどポケミスが絶好調の早川、しかも既出の大物作家の名前に頼っていないのだから今の早川はどこも止められない 来年の隠し玉もS・ハミルトン「解錠師」など話題をさらいそうだ ヴィレッジブックス: ・・・・・・・ 講談社; お約束のP・コーンウェルはまぁいいや(苦笑) D・クロンビーにD・ハンドラー、誰それ? 目玉はコナリー「リンカーン弁護士」の第2弾か 原書房: 不可能トリックマニア御用達の原書房、しかし昨年の隠し玉のラインナップはどうした?ボツなのか? 文藝春秋: 早川と並んでランキング20位以内に5冊を送り込んだ絶好調の文春、早川と比較すると既出作家や大御所の名前頼みな感じなのが気になるが、まぁいいだろう、マイケル・コックスみたいな掘り出し物と評判の作家も居るからね 来年はディーヴァー、ライムものとノンシリーズの2冊 隠し玉っぽいのはトゥロー「推定無罪」の続編 小学館: ベリンダ・バウアーの2作目と、あの「20世紀の幽霊たち」のジョー・ヒルの新作が 角川書店: トリは今年も角川、ダニエル・H・ウィルソンのロボットものってSF風サスペンスってとこか? ウィンズロウのは多分サーファー探偵の2作目かな? ところでB級グルメって・・・・・・・ |