皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 本格 ] 死は熱いのがお好き ピーター・カトラ・サージェントシリーズ |
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エドガー・ボックス | 出版月: 1960年01月 | 平均: 5.50点 | 書評数: 2件 |
早川書房 1960年01月 |
早川書房 1976年10月 |
No.2 | 6点 | クリスティ再読 | 2020/09/13 22:20 |
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少し前に映画「マイラ」を見て凄く面白かったこともあって、その原作者のミステリはいかに?なんて興味を持って読んだ。作者のゴア・ヴィダルというと、ゲイ小説のパイオニアだし、ワイラーの「ベン・ハー」のゲイ要素を監修したライターだし、「マイラ」と言えば性転換を扱って「アメリカで一番憎まれた映画」とまで言われた映画である。そりゃあ「ゲイ・ミステリ?」と期待するんだけど....いや、このシリーズ、ヴィダルの性解放が世間の忌憚に触れて干されていた間に「金のために書いた」らしくて、さすがにゲイミスじゃあ時代に先駆けすぎ。評判よくて儲かったようだけど、絶版にして、やっと最近ゴア・ヴィダル名義で再刊したのだそうだ。まあだから、このシリーズの「面白味」はちょっと別なあたりである。
一応、スタイル的にはハードボイルドみたいな一人称私立探偵小説(主人公は探偵で宣伝マンで雑誌ライターで、要するに何でも屋)。でもなんせゴア・ヴィダルみたいな名門出身のインテリの手にかかると、金持ちの未亡人にPR顧問みたいな恰好で雇われて、夏のバカンスをロングアイランドの海岸別荘で過ごすことになる...バカンス地でパーティ三昧の日々を過ごす主人公は、遊び人以外の何物でもない。けどこれに、これがホントに作者の地なんだよね、と思わせるようなリアリティがある。で、この主人公、知り合いの女性記者が同じバカンス地に行くのに列車の中で出くわして、殺人や何やらある雇い主の別荘を抜け出して、この女性記者とお楽しみ! クラブにつく前に彼女を砂丘の方へうまく連れ出した。(略)それはアイダホの山に似ていなかったが、まあ強いて言えばつんと立った女の乳房のように並んでいて、われわれの姿を人の眼から隠してくれている。最初彼女はいやだと駄々をこねてたが、しばらくすると目を閉じた。白く暑い砂のゆりかごの中で抱きあうと、頭の上の空はぬけるように青かった。 とソフトだけどエッチのシーンがある「ハードボイルド」。1954年だもんね、あのマイク・ハマーでも秘書のヴェルダは難攻不落な時代で、アメリカのエンタメがピューリタン主義のために性描写に厳しかった時代に、率先して性描写を持ち込んだミステリ、という歴史的な意義があるようだ。 でもね、ヴィダルはゲイだし、そのせいか性描写はシニカルにしてユーモラス。わいせつ感は全然、なし。 「私あなたに図をかいて女の体ってものが男とどんなに違っているか教えてあげたいくらいだわ。男性はごく簡単で見ばえもよくない鉛管式ですけど、女は―」「女はちょっと洒落た形だと思うね」 「叔母様はどうせ、セックスを駆けっこぐらいに考えているのよ」 とかね、こんな軽妙な会話の面白味で引っ張る小説である。ここらへんのキャラクター性がハードボイルドと言えば軽ハードボイルド調なんだけども、ギャングもヤクザもまったく登場せず、一度背後から殴られて気絶して、最後に真犯人に拳銃で脅されるくらいのもの。上流階級のバカンスが舞台だから、一見「古き良きパズラー風」の事件と背景、しかもトリック風の動きを真犯人が見せたりするから、「本格」という評価をしたくなるも、まあ不思議じゃない。 美しさってあえないものよ。性格だって年とると意地悪くなるわ。だけどお金はうまく投資していればいつでも愛されるわ こりゃ本当の金持ちじゃないと、吐けないセリフだと思う。そういう小説。 |
No.1 | 5点 | nukkam | 2014/12/13 23:23 |
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(ネタバレなしです) 小説家、脚本家、評論家、エッセイストなど多面的に活躍した米国のゴア・ヴィダル(1925-2012)が1950年代に3作だけエドガー・ボックス名義で発表したミステリーの第3作です(1954年発表)。作者プロフィールを読むと豊かな才能と型破りな性格が同居していたようで、その作品は時に前衛的、時に反社会的、時に背徳的と、何度も物議を醸しているそうですが本書はそれほど「過激な」内容ではありません(通俗的な文体ではありますが)。ハヤカワポケットブック版ではハードボイルドと本格派推理小説のジャンルミックス型と紹介していますがハードボイルド雰囲気はあるもののアクションよりも推理にウエイトを置いており、意外としっかりした謎解きプロットです。後出し的な手掛かり提示があったのはちょっと惜しまれますが。 |