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[ 短編集(分類不能) ]
平成兜割り
森雅裕 出版月: 1991年11月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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新潮社
1991年11月

No.1 7点 2020/09/25 10:06
 1991年11月刊行。『ベートーヴェンな憂鬱症』に続く著者三冊目の作品集で、連作短編集としては『さよならは2Bの鉛筆』の次作にあたる。同年4月には鮎村尋深シリーズ最終作にして第11長編の『蝶々夫人に赤い靴(エナメル)』も上梓されている。
 第16長編『鉄の花を挿す者』で頂点に達する刀剣趣味の嚆矢となった短編集で、巻末付記によれば、当初から商業ベースでの連作になるとは思っていなかったらしい。「これならなんとかしらばっくれて潜り込ませることができるだろうと書いた」"雨の会"アンソロジー初出の第一作「虎徹という名の剣」以外の四編は、全て本書のための書き下ろし作品である。「好きなものについて書きたくなるのは当然のこと」「高校時代と同じ思い入れをこめた」と後記にある通り、敷居は高めだが各種刀剣関連のネタに絡む良作が揃っている。
 各編の語り手を務めるのは横浜元町に店を構える若き骨董屋・六鹿義巳。確かな鑑定眼を持ち古物業の裏にも通じているが、父親が起こした喧嘩沙汰と母方から特製ホットドッグ店を継いだ影響で、業界の重鎮たちからは半ばイロモノ扱いされる存在である。人呼んで〈刀剣界の落ちこぼれ〉。また馬車道のカラオケ・バーで好みのアイドルの全曲メドレーを熱唱するなど、ミーハー気質な所もある。
 本人の認識は〈刀屋〉だが、それでは商売にならないのも事実。二作目の「はてなの兼定」で知り合った口の減らない日野市在住の女子高生・畑小路晶子に、たまに店番をさせている。こちらの方は六鹿と異なりセールストークは優秀なようだ。
 表題作以外は刀剣の来歴や真贋、悪徳業者による詐欺紛いの仕掛けや業界のウラ話に纏わるものが殆ど。ただしこれも第四話「現代刀工物語」を読むと、半ば必要悪という側面もあって単純ではない。作る側も赤貧かつ過酷で、売る側の儲けも知れたもの。とにかく金にならない世界なのである。まあ刀鍛冶って、溶接工プラスアルファみたいなもんだもんねえ。それでもこれを生業として選ぶのは結局〈好きだから〉としか言いようがないであろう。
 それもあってか著者独特の反骨具合は少なめ。キャラ作りの上手さに加えてアクが取れ、その分良い方向に行っている。既読の内でもサラリとした感触で最も読み易かった。主人公の六鹿も森雅裕作品の登場人物としては異例なほど物腰が低く、人当たりがいいそうだ(なんとか商売人の範疇に収まっている、とした方が適切だろうが)。
 連作中のピカイチは第二話「はてなの兼定」。腐れ縁の老人二人のお笑い混じりの角突き合いに、孫娘とヤンキーの兄ちゃんが絡んで微笑ましい。ミステリとしても結構良く出来ていておすすめ。これに続くのは「現代刀工物語」か「虎徹という名の剣」のいずれかだろうか。表題作は最も犯罪臭が強く、集中ではやや異色。ただしそちらがメインではなく、明治の剣客・榊原鍵吉の偉業に日仏ハーフの女子大生が挑む、コトの経緯が興味の中心となる。なお兜割りを行う心形刀流・飛明館道場の師範代、舞門都美波は、第10長編『100℃クリスマス』で主役を張っている。


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